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ニュースウクライナ後の核軍備管理・軍縮はどうなる? ある日本人の視点

ウクライナ後の核軍備管理・軍縮はどうなる? ある日本人の視点

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

これは、2022年6月24日(金)にウィーン軍縮不拡散センター(VCDNP)で開催された戸田記念国際平和研究所と同センター主催のワークショップで、阿部信泰大使が行ったプレゼンテーションのテキストである。

【Global Outlook=阿部信泰】

1.ロシアによるウクライナへの不法な侵攻

ロシアがウクライナ側からの攻撃や挑発がないにもかかわらず同国に侵攻したことは、紛争の平和的解決、国家主権と領土保全の尊重、内政不干渉という国連憲章の基本原則に反するとして非難された。日本では、ロシアと同じく独裁国家である中国が台湾に軍事行動を起こすことが強く懸念されていたためか、強い反発があった。これは、2014年にロシアがクリミアを併合した際の日本の控えめな反応とは明らかに対照的であった。当時、安倍晋三首相は日本とロシア間の領土問題を解決するための和解の可能性に依然として期待を抱いていた。中国は日本にとって安全保障上の最大の脅威と考えられている。最近日本で行われた世論調査では、回答者の61%が、中国が日本にとって最大の脅威であると答え、15%がロシア、6%が北朝鮮を挙げていた。(原文へ 

2.ロシアの侵攻が核軍縮・不拡散に与える負の影響

ウクライナはソ連崩壊後、核兵器を放棄し、核不拡散条約(NPT)の下で非核兵器国となった。その見返りとして、1994年のブダペスト覚書で、ロシアと欧州の主要国はウクライナに安全を保障した。そのような中で、ウクライナで展開している「特別軍事作戦」と呼ばれるものに欧米が干渉した場合のロシアによる核兵器使用の示唆や、非核兵器国のウクライナが核保有国であるロシアから攻撃を受けた事実から、このホッブズ的世界においては、核兵器保有国の攻撃から国を守るために、核兵器を保有しなければならないという反応が世界各地で起こっている。その結果、現在核兵器を保有している国々は、さらに核保有に固執し、安全保障に不安のある国々は、核兵器保有を考え始めている。東アジアでは、韓国や台湾でそのような意見が出されている。日本では、安倍晋三元首相が北大西洋条約機構(NATO)のように日米の核共有に賛成する考えを示した。このように、ウクライナ戦争は、核軍縮・不拡散に向けた取り組みを大きく後退させている。

3.核軍縮・不拡散を再構築する方法

 核軍縮、軍備管理、核不拡散を再構築する方法を考え始めなければならない。

第1に、米国(及びNATO)とロシアの間では、停滞している新戦略兵器削減条約(新START)の後継条約交渉を、非戦略核兵器も含めた形で再開する必要がある。ロシアがNATOへの加盟を申請しているフィンランドやスウェーデンの近くに核戦力などの配備を強化すると脅しているように、欧州への短・中距離核ミサイルの配備を何らかの形で相互に抑制することが急務となっている。この点については、ロシアは以前からいくつかのアイデアを提案している。ウクライナ戦争が始まって、ロシアとの軍備管理交渉の緊急性は高まった。

第2に、中国問題を緊急課題として取り上げる必要がある。中国は核軍備管理への関与に断固として抵抗している。しかし、中国の核戦力の急速な増強と近代化、そして、台湾を征服するための中国の軍事力行使が核兵器の使用にエスカレートすることへの懸念が高まっていることから、中国の核増強を緩和し、台湾への侵攻を避ける方法を見いださなければならない。台頭する中国にとって、中国を米国やロシアに劣る立場に縛り付けるような核軍備管理協定を受け入れることは困難であろう。1922年のワシントン海軍軍縮条約で、日本は米国に対して保有艦の総排水量比率を3対5に縛られたことを思い出す。一つのアイデアとして、米ロの後継条約に、中国の核兵器保有量が米ロの核兵器保有量の50%を超えた場合、もはやその制限に縛られないという条項を挿入することが考えられる。台湾に関しては、米中両国が台湾のみを対象とした独自の核兵器の先制不使用の約束に合意することが考えられる。これは、台湾が核武装の意図を放棄することを宣言することと組み合わせてもよい。もし中国が台湾を名指しすることを嫌うのであれば、このような相互の先制不使用宣言は、経度と緯度で区切られた地域に限定して行うとすることも可能であろう。また、米中両国は、不用意な核対立へのエスカレーションを避けるため、運搬手段の核・非核の相互識別に合意することも考えられる。

第3に、北朝鮮やイランなどの核拡散懸念国が、NPT再検討会議やTPNW締約国会議などを契機に、核戦力の獲得や強化に向かうことを阻止する努力をすること。また、核兵器の使用に対するタブーを強化するための努力も必要である。包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効や兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉開始・締結は、こうした閾値国の核兵器取得に対する障壁を高めるのに役立つだろう。

第4に、核兵器の保有や使用の威嚇が、必ずしも政治的・軍事的立場を向上させるものではないことを示す学術的な研究を奨励することである。例えば、朝鮮戦争は膠着状態に陥ったし、米国はベトナム戦争で事実上敗北した。一方、ソ連もアフガニスタンで実質的に敗北した。通常戦力から、ほとんどの場合使用に適さない核戦力に資金を流用することは、通常戦力を弱体化し、核兵器を使用する機会を得る前に非核戦力による対決で敗退することになりかねない。現在進行中のウクライナ戦争でも、同じようなことが起こっている。

4. 最終的にはウクライナ戦争がどう終結するかにかかっている。

最後に、現状では結局のところ、ウクライナ戦争がどのように終結するかにかかっている。核兵器使用の威嚇がなされ、実際に使用される懸念が高まったとしても、ロシアが核兵器を使用せずにウクライナ戦争が終結すれば、核のタブーは辛うじて維持され、核兵器は非常に使いにくい、或いは実際は使えない兵器であることが証明されるかもしれない。そうなれば、核兵器保有を検討する国の意欲を削ぐことにもつながるだろう。一方、ロシアが何らかの形で核兵器を使用した場合、長崎への原爆投下以来、76年間維持されてきた核兵器の不使用が破られることになる。しかし、ロシアが実際に核兵器を使用する場合のハードルはかなり高いように思われる。その理由として一つには、ロシアが核兵器を使用した場合、ほぼ全世界から厳しい非難を浴び、プーチン大統領が極悪人として世界史に名を残す危険性がある。また第2に、ウクライナはロシアと国境を接しているため、ウクライナでの核兵器使用はロシアにも放射性降下物や電磁パルスが降り注ぐ波及効果をもたらすことになる。第3に、プーチン大統領は、核兵器発射を実際に命令するためには、主要な政治・軍事当局者の同意を得る必要があり、プーチン側近の崩壊を招く可能性がある。

阿部信泰は、軍縮担当の元国連事務次長(2003年~2006年)、内閣府原子力委員会元委員長(2014年~2017年)。
ハーバード大学ケネディスクールにてベルファー科学国際問題センターの原子管理のプロジェクトで上級研究員(2018年~2019年)、国連軍縮諮問委員(2008年)を務めた。また日本の大使として、ウィーン(1999年~2001年)、リヤド(2001年~2003年)、ベルン(2006年~2008年)に赴任した。

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