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ニュース米核予算を削減する「正気」の試み(エドワード・J・マーキー米国下院議員)

米核予算を削減する「正気」の試み(エドワード・J・マーキー米国下院議員)

【ベルリンIDN=ジャムシェド・バルアー】

Senator Edward Markey/ Wikimedia Commons
Senator Edward Markey/ Wikimedia Commons

もしあなたが「正気」(sane)であれば、それは、あなたが精神的に健全であるということだ。米国のエドワード・J・マーキー下院議員が、2012年「核支出へのより賢明なアプローチ」(Smarter Approach to Nuclear Expenditure=SANE)法案を提出し、「sane」という単語に新しい次元が付け加わることになった。この法案は、今後10年間で、時代遅れになった核兵器予算1000億ドルを削減しようというものである。

核不拡散・軍縮議員連盟」(PNND)の共同代表であるマーキー議員は、2月8日、米国の核戦力における無駄な支出をカットするこの法案を34人の共同提出者とともに下院に提出した。

下院エネルギー・商務委員会の理事であり、「超党派不拡散タスクフォース」の創設者でもあるマーキー議員は、次のように述べている。「財政赤字削減取り決めを通じて義務化された自動的な国防予算削減を共和党が拒む中、米国の核兵器予算が無駄な支出ばかりになっていることは、正気の沙汰ではありません。」

 「はるか過去の冷戦期の敵と戦うために新しい核兵器と運搬システムに多額の投資をする一方で、21世紀の安全保障上の必要性が無視されているのは、正気とは思えない。しかも、多くの米国民が頼っている、メディケアやメディケイド、その他の社会保障プログラムの予算も削られようとしている。SANE法案は、今後10年にわたって、時代遅れかつ無駄な核兵器関連予算を削減し、長期的な意味での経済的安全保障、国家安全保障を強化するものです。」

2012年SANE法案には、特に次のような内容が盛り込まれている。

・作戦活動に従事する核潜水艦を12隻から8隻へ減らすことで、30億ドル削減。
・新しい核潜水艦の購入を遅らせて、170億ドル削減。
・大陸間弾道ミサイル(ICBM)の数を減らして、60億ドル削減。
・長距離爆撃機の核攻撃能力を終了させ、170億ドル削減。
・新型長距離爆撃機の開発を遅延させ、180億ドル削減。
・新規の無駄な核兵器施設の建設を中止して、150億ドル削減。

この内容は、核予算から年200億ドル(10年間で2000億ドル)を削減して、社会保障や経済のための重要施策に資金を振り向けるよう、財政赤字削減両院合同特別委員会(Budget Super Committee)にマーキー他65人の議員が行った要請(2011年10月)を法案化したものである。

「SANE法案は、あくまでその時の提案の半分を削減するよう求めたものに過ぎませんが、現在の核政策・ドクトリンに影響を与えることなく、核予算のどこをどう削ればよいかを具体的に示しています。今後、米国が他国との軍縮交渉に成功すれば、さらに予算は削れることになります。」と語るのはPNNDのグローバル・コーディネーターを務めるアラン・ウェア氏である。PNNDは、世界80ヶ国以上、800人の議員から成るネットワークで、核拡散を防止し核軍縮を達成することを使命としている。

プラウシェア財団のジョセフ・シリンシオーネ代表は、「今日の脅威に対処するために我々の核戦力を再編成する試みは、相当後手に回っていいます。現在の核兵器体系は冷戦期のもので、現在および将来の問題から必要な資源と関心を逸らしてします。SANE法案は、わが国がより賢明な国家安全保障戦略に向かうことができるよう、米議会のリーダーシップを求めるものです。法案を提出したマーキー議員らは、賢明にも、支出を抑えつつ安全も確保するように、いかにして核戦力を近代化するかという議論を活性化しようとしているのです。」と語った。

プラウシェア財団は、サンフランシスコ在住の慈善家、芸術家、活動家であるサリー・リリエンソール氏(1919~2006)が1981年に設立した団体で、彼女の指導の下、積極的に助成活動を行い、その規模を遥かに上回る働きをしてきた。

連邦立法に関するフレンズ委員会」の立法問題担当デイビッド・カルプ氏は、「非道徳的で米国が必要としておらず、国を安全にも貢献しない現在の核戦力を維持し続けるために多額の資金を投入することをやめる必要があったのに、我々は長い間、行動してきませんでした」と語った。

また、政府監視プロジェクト(POGO)のダニエル・ブライアン代表は、「POGOの提案の多くが法案に盛り込まれて、非常に嬉しく思っています。我々はこの提案に超党派的な支持が集まることを望んでいます。というのも、財政赤字削減には超党派的合意がありませんし、この法案は、支出をより賢明なものにし、冷戦期の古い戦略を終了させるよい出発点になると考えているからです。」「この重要な問題に、マーキー議員らがリーダーシップをとってくださったことに感謝しています。」と語った。

POGOは無党派の独立系監視機関で、汚職、違法行為、利益相反などの調査を行い、より効率的で応答的、オープンで倫理的な連邦政府をつくることを目標としている。1981年に創設された当時は「軍事調達に関するプロジェクト」と呼ばれており、コーヒーメーカーに7600ドル、ハンマーに436ドルといった、明らかに過剰な軍事支出を暴露する作業から始めた。そして1990年にPOGOは、冷戦の最盛期に国防予算を凍結することに成功するなど軍事支出改革の分野で得た多くの成果を背景に、連邦政府全体の無駄や詐取、権限の濫用へと監視対象を拡大することを決めた。

SANE法案は次のようなグループによって支持されている。進歩派連邦議員連盟、宗派横断核軍縮委員会バプティスト連合、ブレザレン教会、グローバルな解決を求める市民の会、核戦争防止コロラド連合、平和・正義を求めるカンバーランド郡民の会、ワシントンDC緑の党、フランシスコ・アクション・ネットワーク、核政策フレンズ委員会、ジョージアWAND、グローバル・グリーンUSA(グリーンクロス・インターナショナル米国支部)。

他にも、次のような団体が支持している。グローバル安全保障研究所(GSI)、超党派安全保障グループ、核政策に関する法律家委員会(LCNP)、ロスアラモス研究グループ、キリスト教会全米評議会、キリスト教団環境・経済責任ネットワーク、核時代平和財団、ニューメキシコ核監視の会(NWNM)、オークリッジ環境平和連合、ピースアクション、社会的責任を果たすための医師団(PSR)、プラウシェア財団、政府監視プロジェクト(POGO)、ロッキー山脈平和正義センター、トライバリーケアーズ、新しい道を求める女性運動。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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