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去るも残るも苦渋

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。 【Global Outlook=ジョン・R・キャンベル】 太平洋島嶼国および地域(PICTs)は、気候変動の最前線にいると広く描写され、 従って気候変動の影響に極めて脆弱であると見なされてきた。しかし、気候変動によってPICTsが直面している状況を詳細に調査すると、状況はそれほど単純ではないことが分かる。確かにPICTsは、海面上昇(海岸浸食や浸水を伴う)、熱帯低気圧の強度増大、気温上昇、サンゴ礁の劣化、海洋酸性化の影響、極端な降雨現象とそれに伴う洪水の程度と頻度の増大、それとは逆に干ばつの増加と深刻化、疾病媒介生物の変化といった、気候変動の物理的影響に極めてさらされやすいと思われる。これらは、太平洋諸島民の極めて深刻な懸念となっている。(日・英) その結果、気候変動によって太平洋諸国は存亡の危機にあると言われ、住民は故郷を捨て、「より安全な」場所に移住せざるを得なくなるかもしれないとされてきた。しかし、このナラティブには異論がある。特に環礁島の人々について、国際メディアや外部の観測者によって描かれた強制移住のシナリオには拒絶反応がある。自分たちの島が居住不可能になるという予測に抵抗する太平洋諸島民が増えている。彼らは、何が自分たちの故郷を居住可能にするかは自分たちが知っており、西洋人の科学者たちにそれを教えてもらう必要はないという、全くもって当然の事実を指摘している。そのような科学者の大部分は、土地(そして、そこにいる全ての生き物と無生物)と人間がまごうことなく一体のものとして結び付いているという太平洋諸島民の関係性の存在論をほとんど理解していない。ヴァヌア(vanua)、ウェヌア(whenua)、フェヌア(fenua)、フォヌア(fonua)、ホヌア(honua)といった言葉(オーストロネシア祖語の「バヌア(*banua)」から派生した語)は、特にポリネシアにおいてこの絶対的な結び付きを表しているが、太平洋の他の多くの場所においてもこの関係性はほぼ同じである。故郷の土地に背を向けることはこの結び付きを断つことであり、彼らが慣習的に所有してきた土地がもたらす居住性の関係的要素は、他のいかなる場所ももたらすことができないだろう。気候変動の影響がひどくなって土地が物質的な生命維持基盤を提供できなくなったとしたら、その土地で死ぬ覚悟はできていると、太平洋の人々が口にするのは珍しいことではない。 精神的な観点から、太平洋の人々は、自分たちがこれほどまでに深く愛し、自分たちの一部となっている場所からなぜ去らなければいけないのかと問うている。確かに、太平洋の人々は盛んに移住し、アオテアロア・ニュージーランド、オーストラリア、米国に住む大勢のディアスポラがいる。しかし、移住の重要な基盤は、帰るべき「バヌア」がいつもそこにあると知っていることである。もはやそうではなくなったとき、移住は、はるかに問題の多い選択肢となる。 太平洋の気候移民あるいは気候難民というナラティブに関するもう一つの重要な問題は、第一に気候変動に対処できない人々の問題、第二に移住先国の人口に脅威をもたらすかもしれないという、社会構造への影響である。アオテアロア・ニュージーランドでは人口の8%が太平洋の民族集団に属しており、この国が気候移民の移住先となるのは自然な帰結である。しかし、太平洋の人々に対する社会全体の、そして個人レベルでの人種差別は、国に対する彼らの経済的、社会的、文化的貢献にもかかわらず、依然として深刻である。 気候変動による移民や難民という概念に伴う難しさの一部は、太平洋諸島とその住民に関連付けられる脆弱性という図式である。実際には、異常気象などの環境変動性が非常に高く、島での生活という限られた制約にも関わらず、伝統的に太平洋の人々は驚くほどレジリエントだった。植民地化政策とキリスト教の宣教活動によって、レジリエンスを弱体化させるプロセスが始まったが、資本主義の導入、より近年ではその現代版である新自由主義とグローバリゼーションが、それまで持続可能な社会経済システムに寄与してきた経済的、社会的、文化的実践にさらなる影響を及ぼしたのである。 気候変動は、太平洋諸島のコミュニティーに困難をもたらしつつあり、今後も続くだろう。以前なら、彼らはそれに十分対処できていたかもしれない。実際、相当の困難にも彼らは対処し続けることができるだろう。彼らは、大きな気候危機(存亡の危機と言う者もいる)に直面しているが、彼らはその原因をほとんど作っていない。彼らの温室効果ガス(GHG)排出量はごくわずかであり、1人当たりで考えればさらに少ない。そこにPICTsのジレンマがある。開発への野心は、気候変動が島の生態系に及ぼした影響に妨げられる恐れがある。努力のほとんどは、環境劣化に直面して、経済的、社会的、文化的な現状を維持するために注がれることになるだろう。一部の国の政府は、国民が危険を逃れて移住する良い機会を模索している。COPのような国際フォーラムに出席した際には、彼らは、気候変動によって直面している存亡の危機を強調している。資金提供者にとっては、気候変動による移住は現地での適応策よりも安上がりである。しかし、太平洋の人々が望まないのなら、なぜ移住しなければならないのだろうか? そのため、太平洋島嶼国の政府は、自分たちを見舞っている危機が存亡にかかわるものであることに強く抗議すると同時に、自分たちの土地で暮らす権利があるはずだという要求を改めて主張している。彼らの世界観においては、土地は人間の一部であり、人間は土地の一部なのだ。 来るCOP28では、これまでよりはるかに有意義な温室効果ガス排出量削減策を講じるとともに、PICTsが現地での有効な適応策を策定して、故郷に留まりたいと願う人が安心して留まることができるようにするため、財政支援を行うことが重要である。そうでなければ、ほとんど何も変わらないだろう。また1年が過ぎ、COPが終わり、温室効果ガス排出量を削減する意志は低調なままで、島嶼国の損失と損害を補償しようという気持ちは生まれないだろう。 ジョン・R・キャンベルはニュージーランド在住。気候変動への適応と災害リスク軽減に関わる人間的側面(環境移住を含む)について研究している。 INPS Japan 関連記事: |ツバル|気候変動の最前線で多くの問題に直面 |視点|「人類が直面している安保上の問題は気候変動と重度の病気:世界の指導者たちよ、立ち上がれ」(ジョサイア・V・バイニマラマ フィジー共和国首相) 労働移住と気候正義?

世界の女性の10人に1人が極貧状態にある

【ニューヨークIDN=J.ナストラニス】 コミュニティに甚大な圧力をかける複数の危機に直面する世界において、ジェンダー平等の達成はこれまで以上に不可欠である。生活のあらゆる場面で女性と女児の権利を確保することが、豊かで公正な経済と健全な地球を次世代に残す唯一の方法だ。 ジェンダー平等と女性のエンパワーメントを専門とする国連機関であるUN Womenによると、2030年までにジェンダー平等を達成するための重要な課題の一つは、憂慮すべき資金不足である。 国際女性デーに際し、UN Womenは、経済成長を加速させ、より豊かで公平な社会を構築する最善の方法として、「女性への投資、進歩の加速」を世界に呼びかけた。 戦争や危機がジェンダー平等への数十年にわたる投資の成果を侵食している今、これは特に緊急の課題である。中東からハイチ、スーダン、ミャンマー、ウクライナ、アフガニスタン、そしてその他の地域に至るまで、女性は自分たちが引き起こしたのではない紛争によって最も高い代償を払っている。平和の必要性はかつてないほど切迫している。 気候変動は根強い貧困格差を加速させている。希少な資源をめぐる競争が激化するにつれ、生活は脅かされ、社会は二極化し、女性の負担はますます重くなる: 世界の女性の10人に1人が極度の貧困状態にある。 紛争地域で暮らす女性と女児の数は2017年から倍増し、現在では6億1400万人以上の女性と女児が紛争地域で暮らしている。紛争地域では、女性が極度の貧困の中で暮らす可能性が7.7倍高い。 気候変動により、2030年までに飢餓に苦しむ女性と女児は2億3600万人増加すると言われており、これは男性(1億3100万人)の2倍である。 働き盛りの年齢で労働力となっている女性は、男性の90%に対し、61%に過ぎない。 ジェンダー平等の配当を逃す 「男女平等の配当を逃し続けるわけにはいかない。政府が教育と家族計画、公正で平等な賃金、社会的給付の拡充を優先すれば、1億人以上の女性と女児が貧困から抜け出すことができます。」とUN Womenは指摘している。 デイケアや高齢者ケアなどのケアサービスに投資すれば、2035年までに約3億人の雇用を創出できる。ジェンダーの雇用格差を解消すれば、すべての地域で一人当たりの国内総生産を20%押し上げることができる。 現在の現実は、これにはほど遠い。ジェンダー平等に特化したプログラムは、政府開発援助のわずか4%に過ぎない。ジェンダー平等と女性のエンパワーメントを達成するためには、開発途上国で年間3600億米ドルの追加予算が必要である。例えば、これは2022年に世界で軍事費に使われる2兆2000億米ドルの5分の1以下である。 「投資が必要な分野は明確であり、理解されている。何よりもまず、平和への投資が必要です。それ以上に必要な投資としては、女性と女児の権利を向上させる法律と政策、ジェンダー平等の障壁となる社会規範の変革、土地、財産、医療、教育、ディーセント・ワークへの女性のアクセスの保証、あらゆるレベルにおける女性グループのネットワークへの資金援助などがある。" UN Womenはまた、2024年3月11日にニューヨークで始まる女性の地位委員会において、ジェンダー平等に関する公約を資源でバックアップするよう加盟国に呼びかけている。「世界の指導者たちは、ジェンダー平等、女性のエンパワーメント、女性組織に資金を提供する極めて重要な必要性を反映した、具体的かつ進歩的な合意結論を策定するこの機会を手にしている。彼らは、平等、私たちの地球、そして持続可能な開発目標のために、この機会をつかまなければなりません。」とUN Womenは宣言している。(原文へ) INPS Japan 関連記事: 平和に貢献する女性への支援の遅さ |エチオピア|「紛争に絡んだ性暴力に国際司法裁判所の裁きを」と訴え |国連|紛争地の性暴力に対処するため「女性保護アドバイザー」を派遣へ

アジアにおける女性器切除は、依然として無視されている問題である

【クアラルンプールIPS=ナウミ・ナズ・チョードリー】        アフリカでは、女性器切除(FGM/C)の廃止に向けて大きな前進があった。残念ながら、アジアでは同じことは言えず、少なくとも10カ国でFGM/Cが行われているが、この地域の各国政府は効果的な行動を起こしていない。女性の権利団体は、各国に対し、FGMを犯罪化するために必要な法律を導入すること、この慣習の範囲と性質に関する国内データを提供すること、そしてこの地域で無視されているこの問題に取り組む努力に十分な資金を提供することを求めている。 アジア各国政府にFGM/Cの犯罪化を求める声 FGM/Cは主にアフリカで起こるという誤解が広く残っており、アジアにおけるFGM/Cの認知度の低さが不作為の一因となっている。 近年、国連は国際人権条約機関やその他の人権メカニズムを通じて、インド、スリランカ、シンガポール、モルディブなどのアジア諸国に対し、FGM/Cに対処し、禁止するための具体的な法律を制定するよう勧告を行っている。しかし、アジアのどこにもFGM/Cを禁止する法律はない。 第7回アジア太平洋人口会議(APPC)では、7つの女性権利団体が、FGM/Cに対するゼロ・トレランス・アプローチの導入について、地域政府に共同提言を行った。 APPCは、アジア太平洋地域の人口と開発に関する重要な問題を議論するため、10年ごとに開催される地域レビュー・メカニズムである。2023年11月15~17日にタイの国連会議センターで開催され、女性の権利活動家たちは、サイドイベント「アジア太平洋地域における公正で持続可能な開発を達成するための基盤としての権利に基づくアプローチ」を招集し、参加者はFGM/Cを含む女性と女児に影響を与える有害な慣行について議論した。 議員たちは、確固とした法的・政策的措置を講じるよう助言され、提言は「市民社会の行動呼びかけ」と「若者の行動呼びかけ」の中で取り上げられた。 FGM/Cは世界的な問題である FGM/Cは、医学的な理由以外で女性器の一部または全部を切除したり、女性器を傷つけたりする有害な行為である。 国際的に女性と女児の人権に対する重大な侵害と認識されているFGM/Cは、女性と女児の性欲をコントロールし、抑制する目的で行われる。感染症や激しい痛み、精神的トラウマ、性的機能障害、生殖に関する健康問題、出産合併症、場合によっては死亡など、生涯にわたってさまざまな身体的・心理的問題を引き起こす可能性がある。 世界保健機関(WHO)の対話型データツールによると、27カ国においてFGM/Cによって引き起こされた問題を抱える女性の医療にかかる経済的コストは、年間14億米ドルに上ることが明らかになった。WHOはまた、もしFGM/Cが廃止されれば、2050年までに医療費の60%以上が節約できると推定している。 FGM/Cは世界的な問題である。世界中でFGM/Cを受けている女性と女児の数は、公式には2億人以上と推定されている。しかし、実際の規模ははるかに大きい。学会やメディアの報告、市民社会団体が収集した非公式データ、生存者へのインタビューに基づく逸話的研究によると、FGM/Cは南極大陸を除くすべての大陸で見られることが明らかになっている。 アジア各国政府はFGM/Cに関するデータ提供を アジアで国レベルのFGM/C関連のデータを共有しているのはインドネシアとモルディブだけで、他のアジア諸国からは公式データは提供されていない。しかし、学術研究と生存者の証言は、ブルネイ、インド、マレーシア、パキスタン、フィリピン、シンガポール、スリランカ、タイでFGMが行われていることを強く示している。 正確で包括的な国内FGM/Cデータ収集は、女性と女児がどのように直接影響を受け、危険にさらされているかを理解するために不可欠である。また、どのようなコミュニティが関与しているのか、どのようなFGM/Cが行われているのか、健康、人権、身体の自律性にどのような影響があるのか、といった重要な洞察も得られる。 FGM/Cに関するデータは、適切な支援を計画し、その効果を測定するために利用することができる。さらに、信頼できる統計は、資金を集め、政府やその他の義務者に説明責任を果たさせるための鍵となる。 データの欠如は、政府が不作為の根拠を主張する機会を与えることになる。例えばインドでは、2023年の国会でのFGM/Cに関する質問に対し、女性・児童開発省は、国内にはFGM/Cの事例がいくつかあるかもしれないが、「その一般的な存在を立証する信頼できるデータはない 。」と指摘した。 FGM/Cをなくすためのコミュニティ活動への投資 他の地域とは異なり、アジアのほとんどの地域では、FGM/Cに関する地域社会の教育や啓発のための大規模な政府プログラムはほとんどない。予防や草の根活動の支援に向けられる資源はほとんどなく、地元の団体が資金を確保するのも難しい。 FGM/Cをなくすためのアジア・ネットワークが主導するような集団行動は、必要なスポットライトを当て、女性と女児を支援し、国内および国境を越えた協力体制を活性化する上で、非常に貴重な役割を果たしている。 FGM/Cの根絶は、加害者を罰し、生存者のニーズを満たす法律と政策に支えられた、FGM/Cの有害な影響に関する地域社会の積極的な関与によってのみ可能となる。これを達成するために、アジアの各国政府は、市民社会組織、影響を受ける地域社会、生存者と連携して、FGM/Cをよりよく理解し、効果的な政策を策定し、実施し、社会的、法的、教育的、保健的サービスの提供に投資する必要がある。 FGM/C撤廃に向けた世界的コミットメント 国連は2月6日を「女性器切除を許さない国際デー」と定めた。私たちがFGM/Cをなくすためにどこまで進んでいるかは、FGM/Cをなくすために各国が交わした国際的な約束がどの程度履行されているかによって測られる。 各国がしっかりとした措置をとるために、さまざまな国際人権メカニズムが整備されてきた。持続可能な開発目標5.3や、女性差別撤廃条約(CEDAW)や子どもの権利条約(CRC)といった女性と女児の権利に関する国際人権条約は、FGM/Cを明確に禁止し、対策を講じるよう各国に求めている。 国際人口開発会議(ICPD PoA)の行動計画などの国際文書は、各国にFGM/Cの根絶を促し、そのための措置を盛り込んでいる。推奨事項には、「......村や宗教の指導者を含む強力な地域社会への働きかけプログラム、少女や女性の健康への影響に関する教育とカウンセリング、切断を受けた少女や女性の適切な治療とリハビリテーション」(ICPD PoA 7.40)が含まれる。 アジアにおけるFGM/Cの終結は優先されなければならない。 1994年に国際人口開発会議(ICPD)が初めて開催されてから、2024年で30年を迎える。この記念すべき年は、女性と女児のセクシュアル/リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康と権利)を世界的に推進するという分野において、重要な節目となる。FGM/Cの終結はその重要な要素であり、そのための世界的な公約を効果的に実施するためには、世界的な取り組みがアジアを優先的に重視しなければならない。 アジア諸国が現在の課題を解決するために立ち上がらない限り、アジアにおけるFGM/Cを最終的に終わらせるための立法措置の導入と効果的な実施を提唱する上で、行動を促し、政策を立案・実施し、政府やその他の義務者に責任を負わせることは困難だろう。(原文へ) INPS Japan/IPS UN Bureau 関連記事: 「アフリカの角」地域で未曽有の干ばつ |視点|全ての少女に学籍を認めることが児童婚に歯止めをかける一つの方法(アグネス・オジャンボ『人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ』研究員) |カメルーン|娘を「守る」ために胸にアイロンをかける?

ヤンゴン、分裂するミャンマーにおける軍政バブル

【ヤンゴンIPS=ウィリアム・ウェブ】 約100年前、ラングーンに降り立った若きチリの詩人は、この街を「血と夢と金の街」「澱んだ通り」と描写した。当時大英帝国が統治していたビルマの首都とその主要港は、アジア旅行の中継地点として必見の場所だった。 1927年にパブロ・ネルーダが詠んだこの詩は、今日でも真実味を帯びている。現在はヤンゴンと呼ばれる500万を超えるこの都市には、快楽主義的な部分とディストピア的な部分、そして、3年前に権力を掌握した軍事政権の煽動と息苦しさの両方が混在している。 現実には、ミャンマーはもはや地図上以外にはまとまった国として存在していない。軍事政権を支持する勢力と反政府勢力が複雑に入り乱れる極めて残忍な紛争が3年間続いているが、ヤンゴンは依然として重要な商業の中心地であり、全国的な分断が止まらない中で比較的平穏ではあるが、深い悩みを抱えたバブルを経験している。 2021年2月にそれまでに2度選挙で選出されたアウン・サン・スー・チー政権をクーデターで打倒した国軍は、ミャンマーの大部分に対する支配力を失いつつある。主に中国とロシアによって武装された軍事政権側は、ミャンマーの中心地で、史上初めて圧倒的多数で国軍の将軍らに反旗を翻した国民を恐怖に陥れるために、航空優勢と大砲を駆使した弾圧を行っている。 しかし、戦闘はまだヤンゴンにまで及んでいない。ここでは軍が外貨を獲得しようと、外国人に観光ビザや商用ビザを発行している。 ヤンゴンのもう一つの 「現実」は、世界最貧国の一つにランクされているにもかかわらず、実際には100年前に詩人ネルーダが描いた血と金に溢れているということだ。特にメタンフェタミン、ケタミン、アヘン/ヘロインといった麻薬の生産と取引が拡大し、中国やタイとの国境沿いには人身売買の犠牲者が集まる広大なカジノ、売春宿、詐欺拠点があり、そこから数十億ドルが流れている。 軍事政権がこれらすべてを直接支配しているわけではないが、民兵、犯罪組織、一部の民族武装グループと同様、大きなシェアを占めている。 ヤンゴンに新たにオープンしたナイトクラブの外には、きらびやかな白いベントレーが停まっている。ここに足しげく通っている顧客は、西側諸国による制裁にもかかわらず、あるいは制裁のおかげで商売が繁盛しているヤンゴンのエリート「取り巻き」たちだ。豪華なバーの店内では、スマートな服装、なかには派手な服装をした若者たちが、高価な洋酒やトリュフ風味のフライドポテトを注文している。 ある慈善団体の職員は、「ここは狂気が支配しています。近くを歩くとロールスロイスやフェラーリ、ブガッティといった高級車が駐車しています。そのような仰々しい富が溢れている一方で、看護師一人を探すのにも苦労しています。」と語った。 別の場所では、ビルマのテクノロックのブーンブーンという音と、ナイトクラブ「レビテート」のストロボライトが、踊り狂う大衆の間の会話をかき消している。ある常連が言うように、ここでは「エクスタシー、ケタミン、コカインの選択肢」がある。壁には、「FUCK THEM WE SLAY(やつらをやっつけろ)」というネオンサインがぼんやりと光っていた。 さらに視線を移すと、ヤンゴンでおなじみの野外の「ビアステーション」も繁盛している。抵抗勢力の支持者たちは、国軍の地場複合企業(コングロマリット)が所有するかつての人気ブランド、ミャンマー・ビールのボイコットという立場をとっているが、より高価な代替品も存在する。 そして、物乞いの数も増えている。特に子どもたちは、渋滞をすり抜けて、開いた車の窓から手を突っ込んだり、陸橋の日陰で母親と身を寄せ合ったりしている。 国軍によるクーデターから3周年となる2月1日、抵抗勢力は「沈黙のストライキ」を呼びかけ、平和的な抗議のために路上から離れるよう促した。ヤンゴンでは、昨年よりも参加者は減少している。 「人々は疲れて果てていて、ただ自分たちの生活を続けたいだけなのです。」と、ある長年のオブザーバーはコメントした。 これが核心だ。日常は続いているが、それはビルマ人の軍事政権への反発が弱まったことを意味しない。2021年に軍が街頭デモを大量逮捕と実弾で鎮圧したときのように、アウン・サン・スー・チー女史は獄中から抜け出せず、来年80歳を迎えるが、依然として人気は高い。 しかし、あるビジネスマンが言ったように、「今、事態は崩壊しつつあり、軍政権は行き詰まっているという強い感覚がある」としても、人々は軍の崩壊が間近に迫っているという野党の宣言に対する信頼を失いつつあるようだ。 ヤンゴンの住民の中には、遠く離れた地方で若いレジスタンスらが戦死し、紛争地域の一般市民が村や学校、寺院で爆撃を受けている一方で、自分たちは比較的裕福に暮らしているという罪悪感に嫌気がさしている者もいる。 多くの人々が国外に脱出しようとしている。合法的にパスポートを取得したり、危険を冒してジャングルを抜けてタイに向かったり、少数民族として迫害されているイスラム教徒のロヒンギャのように海路で密航したりしている。ヤンゴンでは日本語を勉強するのが突然流行りだした。 昼間のヤンゴンの街は、ほとんどの場所に軍隊が駐留することもなく、ごく普通に見えるが、夜になると一変する。私服警察が身分証明書の提示を要求し、携帯電話を調べる。不審な銀行への支払いは、おそらく野党へのものだろうが、逮捕や賄賂要求の対象となる。 クーデター後のパンデミック封鎖で経営が破綻したイェさんは、多くの人がそうであったように、しばらく休学させていた子供たちを公立学校に戻した。しかし子供たちは母親とは長い間会えないだろう。なぜなら母親は介護福祉士として海外に出稼ぎに出ているからだ。 多くの家族と同様、イェさん一家は生活費、特に食費の高騰に頭を悩ませている。毎日の停電は、予定されていることもあるが、そうでないことも多く、モンスーン前の猛暑のなかでの生活はほとんど耐え難い。人々は巨大なディーゼル発電機で動くショッピングモールの冷房の効いた涼しさに引き寄せられる。 それでもヤンゴンの活気は抑えがたい。アーティストたちは再び展覧会を開催している(物議を醸すようなテーマは避けている)。チャイナタウンは旧正月を前に買い物客で賑わい、幸運と繁栄、そして権力の象徴であるドラゴンが街を彩っている。(原文へ) ウィリアム・ウェッブは、50年前からアジアに魅せられた旅行作家である。 INPS Japan/IPS UN Bureau 関連記事: |ミャンマー|「都市部の貧困率が3倍に」とUNDPが警告 ミャンマー、「保護する責任」の履行を世界に訴える |ロヒンギャ難民|危機のさなかの危機

去るも残るも苦渋