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|視点|近隣の核兵器(クンダ・ディキシットNepali Times社主)

水をめぐる戦争が、南アジアに予想より早く到来した 【カトマンズNepali Times=クンダ・ディクシット】 インドとパキスタンは、英領インドから両国が分離独立した際に引き離された双子のような存在だ。独立以来、両国の間には緊張が常に漂い、過去80年の間に少なくとも4回、全面衝突へと発展している。 4月22日にカシミールで発生したテロ攻撃では、インド人観光客25人とネパール人1人が犠牲となり、核兵器を保有するこの両国の緊張はさらに高まっている。インド政府は、この攻撃の責任をパキスタンにあるとして非難し、ナレンドラ・モディ首相は軍に「行動の自由」を与えた。一方のパキスタンは、インドによる軍事攻撃の「確かな情報がある」とし、「全面的な対応」― これは核による報復を意味する暗号 ― を行うと警告している。 隣国のネパールにとって、このパハルガムでの攻撃による自国民の犠牲は、アフガニスタンからイラク、ウクライナからイスラエルに至るまで、世界各地の紛争でネパール人が巻き込まれている現実を改めて突きつけられる出来事となった。1999年にインドとパキスタンがカルギルで大規模衝突を起こした際には、インド軍に所属していたネパール人兵士22人が戦死している。 ネパールの周辺3カ国(中国、インド、パキスタン)はいずれも核兵器を保有しており、相互関係も良好とは言えない。中国がパキスタンに武器やミサイル技術などを提供している現状では、この三角関係が火種となり、地域的な大規模衝突が起きる恐れもある。 ラトガース大学の研究によれば、たとえインドとパキスタンの間で1週間にわたる戦術核戦争が起きただけでも、大気中に放出された煙や塵が太陽光を遮り、世界の食料供給システムが崩壊する(核の冬)という。さらに、放射性降下物は偏西風に乗ってヒマラヤへと達し、アジアの主要河川の源となる氷河を汚染する恐れもある。 すでに気候変動によって「アジアの高地」では氷河が縮小し、乾季の水量が減少するとの警鐘が鳴らされていた。専門家たちは、水が次なる戦略的資源になり、アジアの次の戦争は水をめぐるものになると警告していた。 その「水戦争」は、すでに始まっている。インドは、今回のカシミール攻撃への報復として、1960年に世界銀行の仲介で締結された「インダス水協定」を停止した。この協定は、過去3回の印パ戦争を乗り越えて維持されてきたものだ。協定では、インダス川の東の支流(ビアス川、ラビ川、スートレジ川)をインド、西の支流(インダス川、チェナブ川、ジェラム川)をパキスタンが管理することとなっている。 パキスタンは年間流量の約70%を保障され、インドも灌漑や水力発電目的に「合理的な量」を使用できるとされた。しかし、インドは協定の停止を宣言した数日後には、チェナブ川の流れをパキスタン側へ止め、ジェラム川でも同様の措置をとる準備を進めているとされる。 両国の軍事的な威嚇は激しさを増している。インド空軍は、作戦準備態勢を示すため、ウッタル・プラデシュ州の高速道路にラファール、Su-30、ジャガー戦闘機を着陸させる演習を実施した。これに対しパキスタンは、核弾頭を搭載可能な射程450kmのアブダリ弾道ミサイルを試射した。 こうした中、ナショナリズムの高まりと、双方の戦争煽動により、インド政府やパキスタン軍は国民の期待に応えるために「何かをしなければならない」圧力にさらされている。だが、たとえ小規模な攻撃や砲撃、領土侵犯であっても、事態は瞬く間に制御不能に陥る恐れがある。 パキスタンは、パハルガーム襲撃への報復をインドが行うと見ており、「壊滅的結果」を伴う核抑止力をちらつかせて警告している。2019年にも、カシミールでインド軍が襲撃されたことをきっかけに、両国は核戦争寸前まで行ったが、米国主導の迅速な仲裁により事態は沈静化した。 今回は、米ドナルド・トランプ政権が内政に気を取られ、以前ほど積極的に関与していない。パキスタンはテロ攻撃への関与を否定し、インドによる報復を止めるようワシントンに要請している。インドとパキスタンは相互の航空機の上空通過を停止し、一部の国際便はパキスタン上空の飛行を回避している。 米国、中国、国連、欧州連合(EU)などは双方に自制を求めている。イランはインド、パキスタンの両国と良好な関係にあることから、外相を派遣し、報復合戦に突入しないよう促している。イラン自身も、イスラエルやイエメン、シリアにおける緊張で、核を巡る火種を抱えているからだ。 インドとパキスタンは、ともに失業、貧困、環境問題という共通の課題を抱えている。どちらの国にも、無意味な戦争をする余裕はない。そして、我々近隣国にも、それを望む者はいない。(原文へ) This article is brought to...

ロシア正教指導者のローマとの外交がウクライナ戦争の犠牲に

【RNS=ヴィクター・ガエタン】 外交が再び脚光を浴びている。少なくとも、ロシア・ウクライナ戦争の終結に向けた交渉の機運が再燃している今、戦場での犠牲者が増え続ける一方で、外交の場でも犠牲が生まれている。その一人が、ロシア正教会の対外教会関係局を率い、事実上の「外務大臣」として活躍したヒラリオン府主教(イラリオン・アルフェーエフ)だ。宗教がしばしば戦争の道具として用いられているこの戦争において、彼のキャリアもまた犠牲となった。 2009年から2022年まで、ヒラリオンの役割には、カトリック教会との和解の推進が含まれていた。彼の主導のもと、ロシア正教会とカトリック教会は関係を深め、ヒラリオン自身もベネディクト16世およびフランシスコ両教皇と親しい関係を築いた。 しかし戦争が始まると、ヒラリオンは職を失い、侵攻開始から4か月後に突然ブダペストへ左遷される。その後2023年12月にはさらに辺境のチェコの保養地に司祭として送られ、再び事実上の降格となった。 バチカンのキリスト教一致推進省の関係者によると、ヒラリオンの不在を悼む声は大きく、正教会との建設的な対話は戦争以降、著しく縮小しているという。 筆者が今年初め、ハンガリーでヒラリオンに会った際、彼は2009年に始まったロシアとバチカンの歴史的関係改善を振り返った。同年1月にはアレクセイ2世の後を継いでキリルが総主教に就任。カトリックに懐疑的だった前任者とは対照的に、キリルの登場は西方教会との協調に向けた好機と受け止められた。当時42歳でウィーンとオーストリアの主教だったヒラリオンは、キリルの後任として対外関係部門を担うことになった。 同年12月には、ロシアとバチカンが正式な外交関係樹立に合意。2010年5月には、キリル主催・ヒラリオン演出によるベネディクト16世の誕生日と即位5周年を祝うコンサートがバチカンで開かれた。教皇は「ヒラリオン府主教に心から感謝する」と述べ、彼の芸術的才能を称賛した。 ヒラリオンによると、「神学への情熱、音楽への情熱という共通点から、私たちはすぐに親しい友人となった」という。彼はベネディクトの著作『ナザレのイエス』三部作に触発されて、自身の六巻本『イエス・キリスト:その生涯と教え』を執筆。ベネディクトからは「非常に重要な業績」と高く評価された。 フランシスコ教皇とは、就任翌日に初対面。アルゼンチン出身で東西教会対話に疎いかと思ったが、教皇はすでに多くを理解していたと振り返る。 2016年2月、歴史的な両教会指導者の初会談がキューバ・ハバナで実現する。1997年にヨハネ・パウロ2世とアレクセイ総主教の会談が直前で中止となった過去を意識し、ヒラリオンは文書作成に細心の注意を払った。 「会談は単なる教会指導者同士の会談ではなく、カリスマや人間性を持つ二人の個人の出会いだった」と彼は語る。 その後、イタリア・バーリの聖ニコラウス大聖堂から聖人の遺物(肋骨の一部)をロシアに一時移送する交渉も主導。「キリル総主教は『頭を頼め』と言ったが、教皇は笑って『バーリ市民に言ったら私の首が飛ぶ!』と返した」というエピソードもある。 2014年以降ウクライナ情勢は悪化していたが、2021年末までは関係は維持され、ヒラリオンは再度の教皇・総主教会談を打診するためバチカンを訪問した。フランシスコに贈られたのは、教皇の著書『祈り──新たな命の息吹』のロシア語版(キリルの序文付き)だった。 だが、2022年2月の戦争勃発を境に断絶が訪れる。ヒラリオンは戦争の人道的犠牲を強調する一方、キリル総主教は国家方針に忠実な姿勢を示した。オーストリアのTV番組では「対話しなければ、紛争は世界規模のものになる」と警鐘を鳴らしていた。 その年6月7日、ロシア正教会の聖シノドはヒラリオンを突然解任し、信徒約3,000人のハンガリーの小教区へ異動させた。理由の説明はなかった。 ハンガリーではハンガリー国籍のパスポートを使い、国際的なネットワークを維持。2023年4月にはフランシスコ教皇と再会。「政治的な話は一切なかった。ただの旧友としての再会だった」と語った。教皇も、「彼を尊敬している」とメディアに語った。 その後、ブダペスト教区の21歳のロシア系日本人助祭ジョージ・スズキが突然失踪。彼の「母親」(実は祖母)が沖縄から40万ユーロ近い治療費を求めてきたという。金庫からも現金や貴重品が消失していた。スズキの指紋とDNAが発見され、ハンガリー警察が逮捕状を出すも、日本は引き渡しを拒否。さらに反プーチン系メディアが、スズキによる性的嫌がらせの告発を報じたが、ロシアの専門家は音声・映像が偽造されたと断定。 ヒラリオンは「事実は一つだけ。彼は盗人だった。それ以外は彼の中傷だ」とだけコメントした。 教区の司祭たちは彼を擁護したが、ヒラリオンは最終的にチェコ・カルロヴィ・ヴァリの教会へ移され、主教の職を退いた。 ロシア通信RIAノーボスチに最近語ったところによると、「過去1年は非常に困難だった。私の奉仕の機会を奪おうとするあらゆる試みがあった。中傷、脅迫、捏造された証拠……だが教会が私を守ってくれた。今も奉仕を続けられることに感謝している」という。 それでもヒラリオンは定期的にモスクワに戻り、2024年2月1日にはキリル総主教の就任17周年記念ミサを共に司式した。フランシスコ教皇の最晩年まで連絡を取り合っていたという。(原文へ) ※この記事の筆者ヴィクター・ガエタンは『God’s Diplomats: Pope Francis, Vatican Diplomacy, and America’s Armageddon』著者であり、『Foreign...

核保有国が対峙する南アジアの緊張:拒絶された仲介と国際秩序の試練

【国連ATN=アハメド・ファティ】 2025年4月22日にインド支配下のカシミールで発生したテロ攻撃により数十人が死亡し、地域全体の紛争再燃への懸念が再び高まっている。これにより、インドとパキスタンの間のかろうじて保たれていた平和が再び緊張の瀬戸際に立たされている。非難の応酬、軍事的シグナル、外交的な膠着、そして国際社会の不安が、攻撃以降の日々を支配している。だが今回、緊張緩和への道筋はこれまで以上に見えづらく、各国の対応は硬直化し、リスクはかつてなく高まっている。 両国は国連で全く異なる戦略を取っている。パキスタンのアシム・イフティカール国連常駐代表は、5月2日(金)に記者会見を開き、パキスタン政府の立場を表明し、国際社会に即時の対応を求めた。彼はテロ行為を非難すると同時に、インドによるカシミールでの「抑圧的政策」が事態を悪化させていると糾弾し、国際社会がこの問題に沈黙を保てば、さらなる不安定化を招くと警鐘を鳴らした。 イフティカール大使は、ATNの取材(24:05)に対し、アントニオ・グテーレス国連事務総長がシャバズ・シャリフ首相と電話会談を行ったことに言及し、仲介および予防外交に向けた国連の申し出を歓迎したと述べた。彼はまた、事務総長を現地に招待したとし、冷え切った外交関係の中では珍しい前向きな対応を示した。「パキスタンは、特にカシミールのような長年の紛争において、国連の役割が世界の平和と安全の維持に不可欠だと考えています。」とイフティカール大使は語った。 しかし、パキスタンの核政策、特に先制使用に関する直接的な質問(51:42)には応じず、「我々の立場は一貫しており、情報は公にされています。」と述べるにとどまり、エスカレーションか抑制かについての明確な姿勢を避けた。この不透明さは不安を和らげるどころか、むしろ悪化させている。とりわけ、翌日にパキスタンが行った弾道ミサイル発射実験が、インド側から「極めて挑発的」と受け止められている点は深刻だ。 その後、ステファン・ドゥジャリック国連報道官は、パキスタンが事務総長の仲介提案を受け入れた一方で、インドはこれを拒否したことを確認した。グテーレス事務総長は、インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相とは会談したものの、ナレンドラ・モディ首相とは接触しておらず、インドが国際的関与から慎重に距離を置いている姿勢が際立った。インドの公式立場は依然として、「カシミール問題は第三者を介さず、シムラ協定(1972年)に基づき二国間で解決すべきだ」というものである。 このような姿勢はインドの歴史的外交方針と一致するものの、国際的な立場との矛盾を浮き彫りにする。国連安全保障理事会の常任理事国入りを目指すインドが、その制度の根幹である事務総長の仲介を拒否することは、自己矛盾に他ならないのではないか。 パキスタンのミサイル実験は、武力誇示であれ抑止であれ、国家主義の熱狂とメディアが煽る憤りに満ちたこの危機を一層深刻なものとしている。パキスタン側は「定例の演習」であり事前に計画されていたと説明しているが、インド国防当局はこれを「意図的な挑発」と非難している。意図の差はあれ、時機の一致が危険性を増している。 本質的な脅威は「誤算」にある。両国とも核兵器を保有し、迅速な対応を前提とする指揮系統を有しているため、誤認や過剰反応による暴発の余地は極めて狭い。これは単なる国境紛争ではなく、歴史的な傷、地域的野心、そして20億人近い人口を抱える2つの重武装国家による潜在的な全面対立なのだ。 にもかかわらず、国際社会の反応は鈍い。他地域の戦争に注意が向いている現在、西側諸国は一般的な自制を呼びかけるにとどまっている。パキスタンの同盟国である中国は対話を促しているが、国連による対応には賛同していない。ロシアも慎重な立場を取っている。米国は、インドの立場と歩調を合わせる形で「二国間の対話」を支持しているが、特定の仲介提案を支持する発言はしていない。 こうした外交的膠着は、より根本的な問題―すなわち、多国間主義の衰退を浮き彫りにしている。本来、このような紛争を防止するために創設された国連が、各国による権限否定と利害対立によって徐々に周縁化されているのだ。 もし国際社会が安定化の役割を果たせなければ、その影響は南アジアにとどまらないだろう。地域の混乱はエネルギー回廊を脅かし、世界的なサプライチェーンに衝撃を与え、他の地政学的な火種を悪化させかねない。今日の世界は、かつてないほど密接に結びついている。 今必要とされるのは、象徴的な外交を超えた行動である。安全保障理事会は単なる関心表明にとどまらず、実際に動くべきだ。事務総長も反発に屈せず関与を継続すべきだ。そしてインドとパキスタンには、友好国であれ敵対国であれ、「核時代における対立の代償は計り知れない」ことを明確に伝えなければならない。 外交に残された時間は、あまりにも少ない。(原文へ) INPS Japan/American Television Network Original Link: https://www.amerinews.tv/posts/india-and-pakistan-un-mediation-rebuffed-as-nuclear-neighbors-square-off 関連記事: 核軍縮の現状維持は許されない、人類は大きなリスクにさらされている 国連は80年の歴史で最大の危機に直面しているのか? 「印パ間の核戦争が世界的大惨事を引きおこす」と新研究が警告

男性支配の鉱業で平等を掘り起こす タンザニアの女性鉱山労働者たち

【ダルエスサラームIPS=キジト・マコエ】 タンザニアの灼熱の太陽の下、ネエマ・ムシは汗をぬぐいながら、つるはしを地面に振り下ろす。その衝撃で舞い上がる埃が彼女の破れた服をさらに汚していくが、気にする様子はない。過去8年間、彼女の人生はこの繰り返しだった──掘って、ふるいにかけて、金を探し続ける。男性が支配するゲイタの鉱山で、それは過酷で障害だらけの労働だ。 「いつか自分の鉱区を持ちたい」と彼女は語る。「でもこの業界では、女性は土地の所有の場面ではいつも無視されるのよ。」 幾年も懸命に働いてきたにもかかわらず、ムシのような女性たちは生存のぎりぎりのところで踏ん張っている。 ある晩、何時間も岩を砕いたあと、小さな金のきらめきを見つけた。しかし、それをポケットに入れる間もなく、男性の鉱夫が近づいてきた。 「ここは俺の場所だ」と彼は唸るように言い、ムシの手から金を奪い取った。ムシは拳を握りしめるが、反撃することはできなかった──最初から自分のために作られていない制度の中では。 かつて彼女は、自分の名義で鉱区の登録を試みた。しかし地元役所の職員は顔を上げることもなく言った。「夫の許可が必要です」──だがムシには夫はいない。養うべき子どもが3人いるだけだった。職員は肩をすくめて言った。「じゃあ、男性パートナーを見つけなさい」と、彼女を追い返した。 女性鉱山労働者の協同組合「ウモジャ・ワ・ワナワケ・ワチンバジ(Umoja wa Wanawake Wachimbaji)」に加入する以前、ムシは子どもたちの学費さえ支払えなかった。今では、子どもたちは清潔な制服で学校へ通い、その笑い声が彼女の希望となっている。 男性優位の構造を打ち砕く タンザニアはアフリカ第4位の金産出国で、鉱業はGDPの約1割を占めている。推定で100万〜200万人が小規模採掘(ASM)に従事しており、そのうちの約3分の1は女性だ。しかし、その数にもかかわらず、女性鉱夫たちは土地所有の制限、資金不足、差別に直面している。 長年、ムシは正式な鉱区を持たず、男性鉱夫が捨てた金を含む岩石をふるいにかけることで生計を立ててきた。鉱業免許も土地もない彼女は、仲買人に低価格で金を売らざるを得なかった。 「自分の鉱区を持っていなければ、彼らの言いなりになるしかない」と彼女は言う。「いつ追い出されてもおかしくない」 タンザニアの鉱業法は技術的には女性にも免許取得を認めているが、実際にはほとんど取得できない。手続きは煩雑で、費用も高額だからだ。 「鉱業用地のほとんどは男性か大企業に割り当てられています。」と語るのは、鉱業活動家であるアルファ・ンタヨンバ氏(人口開発イニシアチブ事務局長)。「女性は借りた土地で働くか、他人の鉱区で労働者として働くしかないのです。」 さらに、資金調達の壁も大きい。鉱業には設備投資が必要だが、銀行は女性鉱夫を「リスクが高い」とみなして融資を拒み、危険で安価な労働から抜け出せない構造が続く。 雨がぱらつく中、十数人の女性たちが重い鉱石の袋を頭に載せて歩いている。多くはシングルマザーだ。 「女性たちは鎖の一番下で働いています。」とンタヨンバ氏は言う。「岩を砕き、水銀に汚染された水で鉱石を洗い、最も過酷で最も搾取されやすい仕事をしているのです。」 性的搾取とハラスメント 多くの女性鉱夫は日常的に搾取にさらされている。性的嫌がらせや、仕事と引き換えの性行為の強要も珍しくない。金の処理現場で働く女性たちは、鉱区主や仲買人に依存しており、弱い立場に置かれている。 「鉱石を得るために、搾取的な関係に入らざるを得ない女性もいます。」とンタヨンバ氏。「性的な便宜が、事実上の“取引コスト”になっているのです。」 報復や職を失うことへの恐れから、被害を訴える女性は少ない。法的支援や相談窓口も乏しい。 「関係を拒否したことで職を追われた女性たちを知っています」と彼は話す。「制度がそもそも女性に不利で、法的保護の弱さがさらにそれを悪化させています。」 健康リスクと水銀被曝 採掘現場では、健康被害も深刻だ。多くの女性は保護具なしで水銀を使って金を分離しており、神経障害や先天性異常のリスクにさらされている。 「水銀の危険性を知らない女性が大半です」とンタヨンバ氏。「素手で混ぜ、有毒な蒸気を吸い込み、自身や子どもたちの健康を損なっています」 彼の団体は、女性の権利保護や安全な採掘技術の普及、経済機会の提供に向けて活動を続けている。 「政府は女性鉱山労働者を業界の重要な担い手として認めるべきです。」と彼は訴える。「労働の正式化、安全教育、土地所有の法的権利の保証が必要です。」 しかし、進展は遅い。 「女性たちは尊厳ある労働、公正な報酬、搾取からの保護を受けるべきです。」とンタヨンバ氏は強調する。「業界は彼女たちの苦しみの上に成り立ってはならないのです。」 岩を砕き、壁を破る ムシたちは、協同組合「ウモジャ・ワ・ワナワケ・ワチンバジ」を立ち上げ、資源を持ち寄って鉱業ライセンス取得に挑んだ。これは、SDG目標8「働きがいも経済成長も」の理念にも合致し、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントの実現に不可欠だ。 タンザニア女性鉱山労働者協会(TAWOMA)や政府の女性起業支援プログラムの支援を受け、小さな鉱区を取得し、設備投資も進めた。 「ここに私たちの居場所があることを証明しなければなりませんでした。」と、創設メンバーのアンナ・ムブワンボは語る。「長い間、女性は単なる“お手伝い”としてしか扱われてこなかった。」 ムシにとって、この協同組合は人生を変えた。「以前は学費も払えなかったけれど、今は貯金もできて、拡大する夢を持てるようになった。」と彼女は語る。 政府系のタンザニア鉱業公社(STAMICO)も、小規模鉱夫に対する安全で効率的な技術研修を行っている。女性たちが中間搾取を受けずに公正価格で金を売れるよう、政府は金の買取センターも設置した。 国際的にも、鉱業におけるジェンダー包摂への関心が高まっている。世界銀行は業界の女性参入を後押しし、資源透明性イニシアチブ(EITI)も女性鉱夫の権利強化を求める政策を提言している。 1997年から女性鉱山労働者の権利擁護を続けるTAWOMAも、今なお声を上げ続けている。 「私たちは、女性が鉱山を所有し、事業を運営し、意思決定の場に立つ未来を目指しています」と会長は語る。 未来を切り拓くために 自らの鉱区の縁に立ち、ムシは仲間たちが土地を耕す様子を見つめる。それは大規模な男性主導の鉱区と比べれば小さいが、彼女にとっては希望そのものだ。 「娘たちには、女性でも何でもできると伝えたい。」と彼女は言う。「働けるし、所有できるし、成功できる。」 彼女はつるはしをもう一度強く振り下ろす。舞い上がる埃の中、その一撃は、女性がただ生き延びるだけでなく、鉱業で栄える未来への一歩となるのだ。(原文へ) This article is brought to...