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アフリカの水は未来そのものだ――誰がそれを統治するのか

【国連IPS=クリスティーナ・ドゥアルテ】 アフリカには、世界の再生可能淡水資源の9%、未開発の水力発電潜在力600ギガワット超、そして世界の未耕作の耕作可能地の60~65%が存在する。|ENGLISH| その労働力は地球上で最も若い。消費市場は2050年までに25億人規模に達する。これらを合わせれば、今後数十年、世界の水・エネルギー・食料システムが必要とするあらゆる生産要素がそろっていることになる。 これは欠乏の大陸ではない。戦略的豊かさを備えた大陸である。アフリカ連合(AU)が2026年のテーマを水と衛生に据えたことは、アフリカの指導者たちが、この豊かさをそれにふさわしく統治する用意があることを示している。 豊かさが適切に統治されるとはどういうことか、考えてみたい。グランド・インガ・ダムだけでも、中国の三峡ダムの2倍の発電量を生み出し、中部、南部、西部アフリカの産業に電力を供給できる可能性がある。レソト高地水プロジェクトは、アフリカ自身が手がける国境を越えた水インフラが大規模に機能し、主要な都市経済に供給できることをすでに証明している。 サブサハラ・アフリカの耕作可能地に占める管理灌漑の割合は3.7%にすぎず、開発途上地域で最も低い。この割合を今後10年で10%に引き上げるだけでも、食料安全保障は大きく変わり、農業バリューチェーン全体で数百万人規模の雇用が生まれ、降雨変動に対する大陸の脆弱性も低下するだろう。 こうした投資はいずれも、アフリカの技術的能力の射程内にある。工学的知見はすでにある。水はある。土地はある。労働力もある。 問われているのはガバナンスである。この点について、アフリカは自らに率直でなければならない。現在主流となっているアプローチは、この機会の規模に見合っていない。各国政府やドナーは、水を道路、港湾、送電網と同等の生産的インフラとして扱うのではなく、掘削井戸や簡易トイレを案件ごとに管理する社会サービス提供の課題として扱ってきた。 維持管理予算を伴わずに設置された手押しポンプは、開発ではない。衛生システムにつながらない穴式トイレの建設も、開発ではない。こうした介入は、成果管理の枠組み上は進捗として記録されるかもしれない。しかし、経済を変革するものではない。それらは資産ではなく、消耗品である。 この不均衡を示す証拠は明白である。安全に管理された飲料水を利用できるアフリカの人々は、人口の半数にも満たず、41%にとどまる。小学校就学年齢の子ども2300万人が、空腹のまま授業を受けている。約4億2900万人のアフリカ人が極度の貧困の中で暮らしており、この数は2030年にも4億人を上回ると予測されている。 これらの数字が示しているのは、資源に乏しい大陸の姿ではない。水を戦略ではなく慈善として扱うガバナンスモデルであり、限られた資本を消費しながら持続的なシステムを生み出さない「建設し、放置し、再建する」という循環である。 アフリカはこの循環を断ち切ることができる。私は、その軌道を変えるために3つの転換を提案したい。 第一に、「戦略的資産管理」を大陸規模の基本方針として採用することである。 ダム、灌漑網、都市部の処理施設、国境を越える水システムは、50年から100年の寿命を持つ資産である。これらに必要なのは、5年単位のプロジェクト期間ではなく、持続的な制度的管理である。計画から維持管理、更新に至る全ライフサイクルを通じて、あらゆる段階に気候適応を組み込みながら統治しなければならない。 アフリカ各国政府が水システムを国家インフラとして、すなわち引き渡して終わる一時的な事業ではなく、維持すべき恒久的な資産として扱うとき、「建設し、放置し、再建する」というパターンは終わる。 第二に、大陸規模の灌漑拡大に着手することである。 南アジアでは耕作可能地の41%が灌漑されている。サブサハラ・アフリカでは3.7%にすぎない。今後10年でこの差の一部を埋めるだけでも、雇用を生み出し、農業バリューチェーンを構築し、食料主権を強化し、輸入食料への依存を減らすことができる。水があっても灌漑がなければ何も育たない。土地があっても水がなければ誰も養えない。管理された灌漑こそ、賦存資源を経済価値へと転換する最短の道である。 第三に、共有流域に対して、実効性ある協調的ガバナンスを構築することである。 アフリカの地表水の90%は、少なくとも1つの国境を越えて流れている。ナイル川、ニジェール川、コンゴ川、ザンベジ川。これらは地域的なシステムであり、地域的なガバナンスを必要としている。アフリカには、すでに機能しているモデルがある。セネガル川流域開発機構は、4カ国にまたがる越境システムを半世紀にわたって管理してきた。課題は、協調的ガバナンスを例外ではなく標準にすることである。それは外交上の礼儀としてではなく、地域の安定と統合に向けた戦略的要件として位置づけられなければならない。 こうした転換に資金を投じるには、アフリカ自身が自らの資源をもって主導しなければならない。AUハイレベル・パネルおよびアフリカ開発銀行によれば、水安全保障の格差を埋めるには、年間500億~640億ドルが必要とされる。主たる資金基盤は国内になければならない。料金体系を段階的に改革し、維持管理予算を守り、漏出を止め、水への投資を道路や送電網と同じ真剣さで扱うべきである。 アフリカはまた、統合的な水投資に向けて、これまで慢性的に活用しきれてこなかった国際気候資金を動員しなければならない。さらに、アフリカ各国政府は、義務的な水影響評価なしに外国資本による土地取引の承認を検討すべきではない。アフリカ各国政府は、土地管理と土地ガバナンスを、水ガバナンスと一体的に扱う必要がある。外国にリースされたアフリカの農地で栽培され、輸出される作物はすべて、大陸外への「仮想水」の移転である。その水は価格付けされず、勘定に入れられず、統治されてこなかった。土地と水は切り離せない。一方を手放すことは、他方を手放すことに等しい。 今後数十年のうちに、世界はアフリカの水と土地を開発するだろう。その過程はすでに始まっている。自国の水と食料の制約に直面する豊かな国々は、アフリカの豊かさが意味する現実的な計算を理解し、それに応じた布石を打っている。唯一の問いは、この開発がアフリカ自身の条件で進むのか、それとも他者の条件で進むのかである。 最後に、厳しい現実を述べておきたい。持続可能な開発目標(SDGs)は、2030年までにアフリカで達成されることはないだろう。率直であるなら、そう言わなければならない。しかし、アフリカの指導者たちがいま、水を本来あるべきものとして統治することを選ぶなら、2030年以後の世代は異なる未来を受け継ぐことができる。すなわち、水を経済変革の原動力、平和の基盤、そして大陸が子どもたちのために託された最も重要な資産として扱う未来である。 アフリカの水は、アフリカの未来である。問われているのは、アフリカがそれを統治するのか、それとも他者によって統治されるのかということである。 クリスティーナ・ドゥアルテは、国連アフリカ担当特別顧問室の事務次長である。 INPS Japan/ IPS UN Bureau Report 関連記事: ESDが変える学び―サブサハラ・アフリカのSDG4への挑戦 |トーゴ|森林の再生を通して女性の所得機会向上に資する画期的なプロジェクトが始まる |タンザニア|味とインパクトで勝負し、茶貿易を変革する

中東のエネルギー輸送路の混乱、英国にとっての「ミドル・コリドー」の戦略的重要性を浮き彫りに

【エディンバラINPS Japan/London Post=編集部】 ヘリオット・ワット大学エディンバラ・ビジネススクールは5月27日、「ミドル・コリドー(中央回廊)と英国・中央アジア貿易の未来」と題するウェビナーを開催した。学界、ビジネス界、専門家コミュニティから参加者を迎えた同討論では、英国が中東の先を見据え、南コーカサス、中央アジア、さらに広くユーラシア地域との連携により大きな関心を払うべきかが議論された。これらの地域は、新たに形成されつつある複合的な貿易・エネルギー網を通じて、欧州との結び付きを強めている。|英語版| 世界の液化天然ガスと海上輸送される石油のおよそ5分の1が通過するホルムズ海峡の閉鎖は、世界のエネルギー供給網の脆弱性を改めて浮き彫りにした。米国、イスラエル、イランの対立がいつ、どのように収束するのか見通せないなか、市場は長期的な不安定化に備えている。 同時に、イエメンのフーシ派による脅威が続いていることは、紅海とアデン湾、インド洋を結ぶ海上の要衝バブ・エル・マンデブ海峡の安全にもリスクをもたらしている。さらに、ソマリアを含む「アフリカの角」地域の不安定化も、地域の海上安全保障上のリスクを一段と高めている。 その影響はすでに英国にも及んでいる。エネルギー業界の幹部らは、湾岸地域の緊張が世界市場に波及するなか、7月以降、家計の光熱費が最大209ポンド上昇する可能性があると警告している。燃料価格も急騰しており、対立が激化して以降、英国全土でガソリンは1リットル当たり25ペンス以上、ディーゼルは50ペンス近く上昇した。 この議論の中心にあるのが、正式名称を「カスピ海横断国際輸送ルート(TITR)」というミドル・コリドーである。同ルートは、カザフスタン、アゼルバイジャン、ジョージア、トルコを経由してアジアと欧州を結ぶ貿易の大動脈である。地政学的混乱の影響を受けやすい従来のルートとは異なり、ミドル・コリドーは輸送時間の短縮と比較的高い政治的安定性を兼ね備え、紛争の影響を受ける地域を迂回しながら、東西間の貨物輸送を支えている。 ウェビナーで発言した英王立防衛安全保障研究所(RUSI)金融・安全保障センターのリサーチアナリスト、アルズ・アッバソヴァ氏は次のように述べた。 「ホルムズ海峡危機は、従来型ルートの脆弱性を示す一方で、チョークポイント依存のリスクと、ミドル・コリドーのような代替的・新興ルートにより注目する必要性を改めて浮き彫りにしました。 地政学的分断が進むなか、ミドル・コリドーは貿易、安全保障、影響力が交差する戦略的空間として台頭しています。英国にとって、ミドル・コリドーへのより深い関与は、世界のサプライチェーンが根本的に再編されるなか、連結性を高め、地政学的重要性を増す地域とのパートナーシップを強化する機会となります。 アゼルバイジャンは、ミドル・コリドーを2020年以降の連結性戦略の主要な柱であり、戦略的統合の手段と位置付けています。近隣のミドル・コリドー諸国との二国間の関係固定化の取り決め、インフラ外交、環境配慮型物流への投資を通じて、バクーは新たに形成されつつある連結性の構造の中心的結節点として自らを位置付けています。」 アゼルバイジャンとカザフスタンは、それぞれ南コーカサスと中央アジアにおける英国の関心の最前線に位置している。両国はいずれも英国と戦略的パートナーシップを維持し、主要なエネルギー生産国でもあることから、世界的な不確実性が高まるなかで重要な対話相手となっている。さらに重要なのは、両国が地域の安定、開かれた貿易、ルールに基づく国際秩序という英国の関心をおおむね共有している点である。それは、困難な近隣環境という現実に根差した実務的な見方でもある。 南コーカサスの地政学的展望も、連結性に有利な方向へ変化しつつある可能性がある。アゼルバイジャンとアルメニアの間で持続的な和平合意が成立し、地域関係が改善し、輸送路の再開が実現すれば、東西を結ぶ新たな動脈が生まれ、ミドル・コリドー全体の商業的実現性をさらに高めることになる。 南コーカサスの先にある中央アジア5カ国も、炭化水素資源にとどまらない大きな経済的潜在力を有している。同地域は、大規模な農業生産や畜産に自然条件の面で適しているだけでなく、先端技術に不可欠となりつつある重要鉱物の豊富な埋蔵量も抱えている。同じく重要なのは、中央アジア全体に見られる人的資本の質である。高等教育を受けた労働力が増加しており、その多くは欧米で教育を受けている。これが地域の経済競争力の強化に寄与している。 ミドル・コリドーの地経学的重要性について、ヘリオット・ワット大学エディンバラ・ビジネススクールの持続可能交通学教授、ジョン・イーストン氏は次のように述べた。 「鉄道インフラの整備の進展は、鉄道貨物サービスへの需要に大きな影響を与える可能性があります。今回の講演では、ミドル・コリドーの東側と西側にある鉄道システムの違いに触れ、鉄道利用に対するアプローチの違いが、その実現可能性にどのような影響を及ぼし得るのかを検討します」 ミドル・コリドー沿いの進展は漸進的ではあるが、確実な成果を上げてきた。特に、通関手続き、許認可、輸送規制の調和において前進が見られる。それでもなお、最大の制約はインフラである。これまでの投資は主に鉄道、港湾、トンネルに集中してきたが、今後はカザフスタンやアゼルバイジャンなどの生産国から欧州市場へ石油と天然ガスを輸送するためのパイプライン能力も、議論の重要な一部としなければならない。 経済的意義は大きい。ミドル・コリドーが全面的に稼働すれば、ユーラシア全域の貿易を再形成し、中央アジアと南コーカサスにおける連結性、投資、経済統合を一段と深める可能性がある。世界銀行の試算によれば、貨物輸送時間は最大50%短縮され、同ルートの貿易量は2030年までに3倍に増加する可能性がある。 サプライチェーンと国際貿易への影響について、オークランド大学ビジネススクールのオペレーション・サプライチェーン管理学教授、イスマイル・ギョルゲジ氏は次のように述べた。 「最近の地政学的緊張とサプライチェーンの混乱は、ミドル・コリドーの戦略的重要性を高めています。しかし、この回廊が将来、世界貿易においてどのような役割を果たすかは、インフラや輸送面の連結性だけでなく、地域全体で事業を展開する企業の強靱性、戦略的機動力、制度的準備態勢にも左右されます」 現在、欧州連合(EU)は域外最大の利害関係者であり、地域の連結性強化を目的とした100億ユーロの投資コミットメントがその基盤となっている。一方で、英国の関心も高まり始めている。政策機関やシンクタンクは同ルートの戦略的価値に注目を強めており、インフラ金融、規制基準、輸出金融メカニズムに関する英国の専門性は、同回廊全域での将来的な商業的関与において重要な役割を果たし得ると見られている。 英国がミドル・コリドーへの関与を深めれば、その影響は商業分野にとどまらない。サプライチェーンの強靱性を高め、南コーカサスと中央アジアという、合わせて約1億人規模の市場における英国の地域的プレゼンスを広げ、地政学的リスクが高まる海上輸送ルートへの依存を軽減することにつながる。 討論の司会を務めたヘリオット・ワット大学エディンバラ・ビジネススクールの戦略・国際ビジネス助教、アシルベク・ヌルガブデショフ氏は、次のように述べた。 「ミドル・コリドーは、単なる代替的な貿易ルートではなく、分断が進む世界貿易システムにおける戦略的な多角化メカニズムとして浮上しています。しかし、その長期的成功は、インフラ投資だけでなく、調整、制度的信頼、運用上の信頼性にもかかっています。この文脈において、地域の軸としてのカザフスタンの役割、そしてガバナンス、金融、教育を通じた英国の制度的貢献は、ますます重要になっています。」 INPS Japan 関連記事: 「人類の友愛」は平和を動かせるか 日本とカザフスタンが接近―イラン危機がエネルギーと安全保障の優先課題を再編 ホルムズ海峡―世界経済のボトルネック

次期国連事務総長が重要である理由

国際機関への信頼が低下するなか、国連のリーダーシップをめぐる問題は民主主義そのものと切り離せない 【カトマンズINPS Japan/Nepali Times=アマンダ・スーレック】 次期国連事務総長は、単に複雑な機構を管理するだけの人物ではない。代表性、説明責任、参加という民主主義の根幹をなす原則に支えられた国際システムにおいて、最高行政官であると同時に、道義的支柱としての役割を担わなければならない。国連憲章にはこうした価値が暗黙のうちに織り込まれているが、実際には民主主義そのものが常に優先され、十分に議論されてきたわけではない。だからこそ、事務総長のリーダーシップは今、とりわけ重大な意味を持つ。|ENGLISH| しかし、国連事務局ビル38階への道のりは決して平坦ではない。世界で最も困難な職務の一つとされる国連事務総長の選出は、国連加盟国による一般選挙ではなく、公平とは言い難い外交上の難関である。国連事務総長は、安全保障理事会の勧告に基づいて、総会によって任命される。この仕組みは、中国、フランス、ロシア、英国、米国という常任理事国5か国(P5)に、それぞれの政治的優先事項に基づく絶対的な拒否権を与えている。候補者が民主主義を擁護しようとするなら、民主主義の促進を西側による押しつけ、あるいは主権の侵害とみなす拒否権保有国を遠ざけることなく、それを行わなければならない。民主主義は国連加盟の正式な条件ではないが、多国間主義の正統性と有効性の中核にあるからである。 包摂的な統治、市民社会の参加、説明責任を果たす制度は、民主主義の重要な柱であり、持続可能な平和と開発に不可欠である。それらはまた、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」など、国際的な公約の信頼性を支える基盤でもある。実務的に見れば、民主主義は国連を三つの面で強化する。第一に、各国政府が国民の意思を反映することで正統性を高める。第二に、透明性と監視を通じて説明責任を強化する。第三に、包摂的な制度を可能にすることで、長期的な開発成果をより効果的に実現できるようにする。だが、これらの原則が世界各地で圧力にさらされるなか、国連が集団として行動する能力も弱まりつつある。次期指導者は、国連が掲げる民主主義への志向と、民主主義国、君主制国家、一党支配国家、軍事政権を含む加盟国の現実との隔たりを埋めなければならない。 したがって、事務総長はこの状況のなかで独自の立場に置かれている。その役割は必ずしも政治的に中立なものではない。加盟国の利害の均衡を図りながら、国連システムに刻まれた価値を守ることが求められるからである。この緊張関係のなかでこそ、民主的なリーダーシップが決定的に重要となる。民主主義の原則にコミットする事務総長は、市民社会の声を高め、選挙の公正性と法の支配を守り、人権とより広範な政治参加を訴え、多国間行動に必要な合意形成を損なうことなく、権威主義的な傾向に慎重に歯止めをかけることができる。そのような取り組みを通じて、国連事務総長は、国際協力への信頼回復に貢献し得る。いま、それは喫緊の課題である。 国連総会による事務総長候補者との非公式対話、各候補者のビジョン・ステートメント、履歴書を踏まえると、有力候補たちは、多国間リーダーシップにおける民主主義に対して、それぞれ異なるアプローチを示している。 ミチェル・バチェレ(チリ)は、人権とジェンダー平等の推進に長く携わってきた経験に裏打ちされた、強い規範的志向を持つ。彼女の実績は、民主的価値への明確なコミットメントを示している。一方で、その姿勢は、人権に基づく監視を警戒する国々の反発を招く可能性もある。 ラファエル・マリアーノ・グロッシ(アルゼンチン)は、核外交での経験に形づくられた、より技術的・実務的なアプローチを提示している。これは大国に受け入れられやすく、実務的協力を促進する可能性がある。その一方で、彼のビジョンでは民主主義や人権への明示的な言及は比較的弱く、これらの課題が彼のリーダーシップにおいてどの程度重視されるのかという疑問も残る。 レベカ・グリンスパン(コスタリカ)は、多国間主義への信頼再構築に焦点を当て、統治を経済的包摂と開発に結びつけてきた経歴を持つ。分断が深まる環境において、合意形成を重視する彼女の姿勢は強みとなる。ただし、民主主義が常に明確に前面に打ち出されているわけではない。 マッキー・サル(セネガル)は、グローバル・サウスの公平性と代表性を強調し、最高レベルの政治・外交経験を備えている。しかし、国内における民主的統治の実績には評価が分かれる面がある。そのため、彼のアプローチは制度的な民主改革よりも、開発や構造的不平等の是正を優先するものとなる可能性がある。 同時に、誰が国連を率いるのかという問題は、代表性そのものの問題と切り離せない。次期事務総長に女性を任命することは、単なる象徴的な節目にとどまらず、民主主義の原則を実質的に確認する行為となる。ジェンダー平等は、政治制度が平等な参加、代表、発言権をどの程度保障しているかを示すものであり、機能する民主主義の決定的な特徴である。数十年にわたる公約にもかかわらず、国連ではこれまで女性が事務総長を務めたことがない。この空白を埋めることは、国連が世界に向けて掲げる価値と自らの指導体制を一致させる意思を示す力強いメッセージとなる。また、ジェンダー平等と包摂的統治に関する国連の取り組み、とりわけSDG5に関する活動の信頼性を高めることにもつながる。より広く見れば、それは民主主義が社会のあらゆる層の意味ある参加を必要とし、その原則がグローバルなリーダーシップの最高位にも及ぶべきであることを改めて示すものとなる。 国際民主主義・選挙支援機構(International IDEA)の知見も、民主主義が国連システムにとって周辺的な課題ではなく、その強靱性と存立に不可欠であることを示している。民主的制度は、紛争の可能性を低下させ、平和的な紛争解決を可能にすることにより、平和と安定に直接貢献する。また、世界的に統治への信頼が低下するなかで、制度への信頼を支える役割も果たす。さらに、多様な声が意思決定に反映されることを可能にし、包摂性を確保する。国際的な公約の進捗を検証するために必要な説明責任の仕組みも提供する。おそらく最も重要なのは、国連の場で民主主義を積極的に擁護する加盟国が減少するなか、これらの原則を守る責任が、国連システム内の独立した機関にますます委ねられているという点である。 したがって、次期事務総長の選択は、国連の実務面での有効性だけでなく、その規範的方向性をも左右する。世界外交において民主主義という言葉が影を潜めつつあるいま、多国間主義が、共有された原則を前進させる枠組みではなく、権力の調整に重きを置く、より取引主義的なモデルへと傾いていく現実的なリスクがある。参加、説明責任、包摂、平等を通じて民主主義を擁護することは、任意の政策課題ではない。それは、有効で正統性ある多国間主義が依拠する基盤である。それを欠いても、国連は機能し続けることはできるかもしれない。しかし、世界を導き、その存在意義を保ち続けることは困難になるだろう。 アマンダ・スーレックは、ニューヨークにおける International IDEA の国連リエゾンを務めた。 INPS Japan 関連記事: チリは先に手を引き、モルディブは扉を閉ざした―国連事務総長選が映す静かな淘汰 「フェミニスト国連キャンペーン」、国連事務総長に有言実行を求める 国連、世界で最も多言語化された組織のひとつ

2030年への最後の追い込みを「自然保全への資金動員の転換点」に――第8回GEF総会

【サマルカンド(ウズベキスタン)IPS=セシリア・ラッセル】 「公的予算への圧力が高まり、地政学的緊張が増すなかで、環境資金を任意のものと見なしたくなるかもしれない。しかし、それは誤りである。」地球環境ファシリティ(GEF)のクロード・ガスコン暫定CEO兼議長は、ウズベキスタン・サマルカンドで開催された第8回GEF総会の閉会本会議で、こう訴えた。|ENGLISH| 開発途上国、後発開発途上国、小島嶼開発途上国(SIDS)、そして脆弱で不安定な国々にとって、政府開発援助(ODA)は依然として支援の礎である。 「問われているのは、単なる国際目標の達成ではない。この地球上での生活の質の未来である。子どもたちが、清らかに流れる川、豊かに立つ森林、地域社会を守る海岸線、そしてすべての繁栄を支える自然システムを破壊することなく発展できる経済を受け継げるかどうかが問われている。」 総会議長を務めたアジズ・アブドゥハキモフ・ウズベキスタン大統領環境顧問兼国家生態・気候変動委員会議長は、今回の総会について、50を超えるサイドイベントや二国間会談、非公式協議が行われた極めて生産的な会合だったと評価した。 「GEF理事会は、GEF-9のプログラム方針やGEF-8最後の作業計画を含む重要決定を審議し、改善した。」と同氏は語った。また、統合的なプログラム編成、革新的資金調達、包摂的な参加に強い焦点が当てられたことを歓迎し、GEF-9資金の少なくとも20%を先住民族および地域コミュニティに振り向ける目標にも言及した。 さらにアブドゥハキモフ氏は、ウズベキスタンのシャフカト・ミルジヨエフ大統領が示した、同国が支援受入国から支援供与国へ移行するとの方針について、環境の持続可能性に対する同国の強い意思を示すものだと語った。 「これは、われわれが協力の恩恵を受けるだけでなく、地球環境分野の取り組みに貢献する用意があることを示している」 これに先立つハイレベル・パネル討論では、GEF科学技術諮問委員会(STAP)のロジーナ・ビアバウム議長が、世界のGDPの半分が自然に依存している一方で、生物多様性資金には年間7000億ドルの不足があると指摘した。 一方で同氏は、コンサルティング大手マッキンゼーの分析を引用し、2030年までに地球の陸域と海域の少なくとも30%を効果的に保全する「30by30」目標を実行に移せば、保全と社会経済の両面で大きな成果が得られ、貧困削減にもつながると述べた。 資金調達をめぐる議論は厳しい環境下で行われているが、ロッククリークのシニア・マネージング・ディレクターで、元世界銀行財務総長のケネス・レイ氏は、民間部門が課題解決に貢献できることは明るい材料だと語った。 同氏は、過去15年間の好調な市場環境に支えられ、世界の貯蓄資産は大きく拡大したと説明した。年金基金、政府系ファンド、保険部門の準備金などには数兆ドル規模の資金が存在し、それらを自然への投資に振り向けることは可能だとした一方で、「資産所有者がこの場にいない」と指摘した。 レイ氏は、GEFが中央銀行、国際通貨基金(IMF)、世界銀行、証券規制当局などの主要関係者を招集し、「自然への投資がインフラ投資と同じくらい当たり前になる」環境を整えるべきだと提案した。 世界銀行グループ環境局長のバレリー・ヒッキー氏は、GEFには、民間部門がリスクを管理できるよう、規制環境の整備と政策の予見可能性向上を支援する役割があると述べた。同氏は、譲許的資金と商業資金を過不足なく組み合わせる「ゴルディロックス型」のブレンド・ファイナンスが重要だと指摘した。投資の失敗を一定程度吸収しながらも、商業的収益性と財務的な健全性を確保することで、測定可能な環境成果を伴う民間資本を呼び込むことができるという。 一方で、警鐘も鳴らされた。 英国のレイチェル・カイト気候担当特別代表は、英国が「生態系崩壊に対して極めて脆弱である」とする研究結果を紹介した。 「それは何を意味するのか。英国の家庭が、子どもの健康を守るために必要な食料をスーパーで買い物かごに入れられるかどうかは、コンゴ盆地の健全性と完全に結びついているということだ。もしそこにさらなる脅威が及べば、安全保障や防衛上の影響をもたらすことになる。」 セントクリストファー・ネービスのジョイエル・クラーク持続可能開発・環境・気候行動・地域社会強化担当大臣は、地域社会や先住民族の参画を得るには、人間中心で包摂的かつ経済的に実行可能な解決策が鍵になると述べた。同氏は、ブルーカーボン市場は十分に評価されておらず、その意義も理解されにくいと指摘した。 その一例として、ウミガメを保護するユネスコ世界遺産地域を挙げた。その地域では、漁業コミュニティの食生活にウミガメが含まれていた。そこで観光産業における代替的な雇用機会を提供したところ、地域住民の保護活動への支持を得ることができたという。 閉会本会議でガスコン氏は、環境は「周辺的な課題」ではないと改めて強調した。 「第一に、各国への公的開発援助を守り、強化しなければならない。ODAの継続は、単なる道義的責任ではない。世界の安定、人間の安全保障、そしてすべての国々が共有する未来への投資である」 次に同氏は、各国が自ら求める環境成果と国家政策を整合させる必要があると述べた。 「持続可能性へのコミットメントを掲げながら、生態系の破壊、天然資源の過剰利用、大気・土地・水の汚染をなお促す政策を続けることはできない。」 第三に、GEFは民間資本の力を最大限に引き出し、民間部門を単なる資金源ではなく、地球環境目標のガバナンスと実施を担う真のパートナーにしなければならないとした。 最後に同氏は、環境目標の達成には「内閣全体のコミットメントと社会全体の参加」が必要だと訴えた。 「国家レベルのリーダーシップが必要である一方、地域に根差した主体的な取り組みも必要である。つまり、地域社会、先住民族、女性、若者、市民社会、科学者、地方自治体、農業従事者、労働者、起業家の声に耳を傾け、ともに取り組むということだ。持続的な解決策は押し付けられるものではなく、共につくり上げるものであることを認識しなければならない」 ガスコン氏は最後に、2030年へ向けた最後の追い込みは「単なるカウントダウンであってはならない。それは転換点でなければならない。」と締めくくった。 第8回地球環境ファシリティ(GEF)総会は、2026年6月6日、ウズベキスタン・サマルカンドで最終本会議を開いた。本特集記事はGEFの支援を受けて制作された。編集内容についてはIPSが単独で責任を負い、必ずしもGEFの見解を反映するものではない。 https://www.youtube.com/watch?v=TmElK5Egrls INPS Japan/IPS UN Bureau Report 関連記事: フィリピンの先住民族指導者、古来の知恵を世界の舞台へ インドのLED化が示す、環境対策を支えるブレンデッド・ファイナンスの力 ウズベキスタン―日本:戦略的パートナーシップの境界を広げる