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米国の拠出削減が国連職員に広がる不安とメンタルヘルスへの影響をもたらす
【国連IPS=タリフ・ディーン】
トランプ政権による国連への度重なる威嚇的な発言や、複数の国連機関からの脱退、さらには財政的な拠出削減によって、多くの職員の間に将来への不安が広がっている。その影響はメンタルヘルスにも及んでいる。
「国連の資金難は、人員削減や給与の引き下げにつながるのか?」「昇進や昇給の凍結があるのか?」「米国籍を持たない職員は永住権を失い、退職後に家族と共に母国に戻らなければならないのか?」
こうした疑問が職員の間で飛び交う中、国連の人道支援機関である人道問題調整事務所(OCHA)は、主に米国からの拠出削減による資金不足のため、約20%の人員削減と複数国での活動縮小を計画している。
OCHAに限らず、世界食糧計画(WFP)、国連児童基金(UNICEF)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)も、米国からの支援減により、事務所の閉鎖、スタッフ削減、プログラム終了などの措置を余儀なくされている。
先週、ニューヨーク国連職員組合(UNSU)は職員に対してメモを発行し、「現在の財政状況が引き起こす重大な懸念と不透明感」を認めた上で、次のように呼びかけた。
「この不確かな時期において、メンタルヘルスとウェルビーイングの優先は不可欠です。職員組合では、今後に備えるための実践的なヒントや対処法を提供する『メンタルヘルス・セッション』を準備中です」
UNSUのナルダ・キュピドール会長のメモでは、「公平で公正な待遇を求めて、組合は今後も揺るぎなく職員の権利を守る」と誓っている。
ウィーンで開催された職員管理委員会(SMC)
4月7日から12日にかけてウィーンで開催された職員管理委員会(SMC)は、職員の福祉や勤務条件に大きな影響を与える課題に焦点を当てた。
議題の中心は以下の三点だった:
国連80(UN80)イニシアチブ
財政危機
人員削減政策
これらは密接に関連し合い、職員への影響が深刻であるため、数日にわたり集中的に協議された。
アントニオ・グテーレス事務総長は、「UN80イニシアチブ」タスクフォースに対し、以下の提案を速やかに策定するよう要請している:
業務の効率化と改善策の特定
加盟国から与えられた任務の実施状況の見直し
国連システム全体の計画的な再編と資源の合理化
職員の精神的健康に対する懸念の高まり
国連人口基金(UNFPA)の元副事務局長で、パスファインダー・インターナショナルの元CEOを務めたプルニマ・マネ博士は、IPSの取材に次のように語った:
「米国による国連機関からの脱退や財政的削減は、加盟国にとっても、職員にとっても、非常に懸念される問題です。それは、精神的健康に影響を与え、困難な業務に最善を尽くす能力を低下させてしまいます。」
世界が多くの混乱に直面している今、国連には大きな期待が寄せられているが、資金削減はその対応能力を著しく損なうと彼女は指摘する。
「その中で、職員の福祉に取り組む国連関連団体が、メンタルヘルスの重要性に注目していることは安心材料です。」とマネ博士は評価する。
また、SMC XIIIが4月上旬に開かれたこと、そこでも財政危機と人員削減が大きなテーマとして取り上げられたことにも言及し、「不透明さが状況を一層困難にしている。」と強調した。
「米国が国連を投資に値しないと見なしたままで、方針に変更がなければ、行動面での麻痺が深刻化し、職員の精神的健康や職務遂行能力に大きな代償をもたらすでしょう」とマネ博士は警鐘を鳴らす。
財政危機と米国の滞納金
2024年時点で、国連事務局には世界467拠点に35,000人以上の職員が在籍し、その国籍は190カ国以上に及ぶ。国連ファミリーは、約100の機関、基金、プログラムから構成されている。
しかし、財政危機は加盟国による分担金の未納や遅延も一因だ。2025年4月30日時点で、分担金を全額納付した加盟国は193カ国中わずか101カ国にとどまる。
国連のステファン・ドゥジャリク報道官は4月28日、「削減にもさまざまな種類があるが、最も深刻なのは人道・開発パートナーに対するものです。資金が途絶えれば、そのプログラムは即座に停止せざるを得ません。」と語った。
グテーレス事務総長も、「現在は流動性危機に直面しており、委託された資金を最大限責任ある方法で管理している。」と述べている。
米国は最大の滞納国
現在、最大の滞納国は米国であり、通常予算の22%、PKO予算の27%を負担する最大拠出国でもある。
米国が国連に滞納している金額は、通常予算で15億ドル。PKO予算や国際法廷への分担を含めると、その総額は28億ドルに上る。
2025年の通常予算は37億1,737万9,600ドルで、2024年の36億ドルから約1,300万ドル増加している。米国に次ぐ第2の拠出国は中国で、通常予算の18.7%を負担している。
主要な拠出国は以下の通り:
米国
中国
日本
ドイツ
フランス
英国
イタリア
カナダ
ブラジル
ロシア
UN80イニシアチブと職員参加
UNSUは、UN80イニシアチブが職員の勤務条件に大きな変化をもたらす可能性があると指摘している。
「変化の全容はまだ不明だが、共通制度の中で起きている同様の課題に関する報道が続く中で、職員にとってストレスや不安の要因となっている」と職員組合は述べている。
UN80イニシアチブでは、職員からの意見を受け付ける「提案箱」も設置されており、5月1日までに提案の提出が求められている。
「現場で日々働いている皆さんからこそ、有効な解決策が生まれると私たちは信じています。ぜひUN80だけでなく、職員組合にも提案をお寄せください」とメモは呼びかけている。
提案は以下のメールアドレスで受け付けている:newyorkstaffunion@un.org
UNSUは、「効率と改善」「任務の履行」「プログラムの再編成」という三つの柱における意思決定に職員が幅広く関与する重要性を、再度強調している。(原文へ)
INPS Japan/IPS UN Bureau Report
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この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。
【Global Outlook=ケヴィン・P・クレメンツ】
ホワイトハウスで行われたドナルド・トランプ、J・D・バンス、ウォロディミル・ゼレンスキーの会談は外交的な大失敗に終わり、主役たちの本性をあらわにした。会談は首脳レベルの政治的大喧嘩となり、多くの人はそれを、ホワイトハウスが米国の政治的協力関係を大幅に変更する口実を作るための不意打ち攻撃と捉えた。このような転換は、当然視されてきた長年の伝統ある同盟関係を弱体化させ、戦後のリベラルな国際秩序の土台を揺るがしている。それは法の支配を侵害し、われわれがルールに基づく国際協調と考えていたものに異議を唱えるものである。国連の役割、より広くは多国間主義の役割に対し、大きな疑問符を突き付けている。ニュージーランドのような小さな国が依存するこのような協調関係が損なわれたことで、19世紀さながらのなりふり構わぬ力に基づくナショナリズムが再び声高に主張されるようになった。(日・英)
特に米国民にとって、事態をさらに悪化させているのは、連邦政府の空洞化、大統領府への異常なまでの権力集中、生気のない骨抜きにされた共和党、分裂し麻痺した民主党、そして、2世紀以上にわたって米国を支えてきた法の支配とチェック・アンド・バランスの原理に対する日々の攻撃である。
それに加えて、そして恐らく米国の同盟国にとって極めて憂慮すべきことに、政権は明白な反ロシア的見解からロシアとの関係密接化へと突然大きく舵を切るとともに、伝統的な西側の友好国や同盟国と意図的に距離を置くようになった。大統領がウクライナに関連してロシア寄りのレトリックを用いたことを皮切りに、米国はウクライナのエネルギー供給網に対する支援を打ち切り、ウクライナに関する重要な国連決議においてロシア、北朝鮮、ベラルーシと手を組んだ。ロシアに対する国際的制裁にもかかわらず、トランプ大統領はロシアのG7復帰を提唱し、サウジアラビアでウクライナに関する米国・ロシア間の交渉を推進した。ホワイトハウスは数回にわたってプーチンに電話をかけたが、政府関係者はこれらの話し合いの内容を知らされていない。当初のウクライナへの軍事支援停止は、ゼレンスキーが停戦協定に署名した際に撤回されたものの、トランプが強制力を用いてロシアに味方する用意があることは明白だった。
戦争の終結を直接模索し、主要当事者に働きかけることの価値を認めることは重要だが、この戦争に真の安定した終結をもたらすためのトランプの手腕あるいは能力に対する信頼は、現在のやり方ではほとんど得られない。
特に、トランプは、外国代理人登録法に基づく外国代理人に対する主要な執行措置を廃止した。米国の選挙における外国の介入を取り締まる対策本部を解散した。司法省の制裁逃れ摘発ユニットや合衆国国際開発庁(USAID)を、最近では「ボイス・オブ・アメリカ」を閉鎖した。関税に関する常軌を逸した決定は言うまでもなく、これらの大統領令はいずれも、トランプ政権下の米国の外交政策が「アメリカ・ファースト」のみならず、トランプの極めて特異で利己的な利益追求の足かせとなる厄介な同盟の排除も基本方針としていることを示している。そしてこれまでのところ、トランプがウラジーミル・プーチンや他の独裁者に熱をあげるのを止めるものはない。
こういったこと全てが、ニュージーランドのような小規模国にとって、さらにはタスマン海を挟んだより大きな隣国にとっても、深刻な課題をもたらしている。パートナーシップで最も権力を持つメンバーが国連と民主主義の中核的価値を弱体化させている場合、もはや同盟の確実性はない。また、トランプがファイブ・アイズの解体を要求しており、ハッキングやロシア人への最高機密情報の海外漏洩を防ぐ基本的なサイバーセキュリティ対策を廃止してしまった状況で、保証されたインテリジェンス・セキュリティーはない。ウクライナ支援のために「有志連合」案が浮上しても、トランプ大統領はこれを気にかけることもなく、またウクライナ紛争の解決に向けてより公平なアプローチを取ろうという気にもなっていない。サウジアラビアがお膳立てした2国間の話し合いは、協調的な問題解決のための安全な環境を整えるというより、不利な条件を受け入れるようウクライナに圧力をかけることが目的だったようだ。
これがニュージーランドに意味するもの
では、これによってニュージーランドはどうなるのか? 政権も野党も、この不確実な状況において防衛費を増額し、和平が訪れたら多国間の平和維持作戦に参加する準備をするようプレッシャーをかけられている。筆者の感じるところでは、トランプがもたらした外交政策のカオスはニュージーランドにとって、米国が権威主義寄りの政治体制に傾きつつある現状を踏まえて、われわれが米国とどこまで密接に連携することを望むかを深く考える機会である。
筆者は、今こそニュージーランドが冷戦時代の古い米国主導の同盟から距離を置き、どの国となぜパートナーを組むべきかについて批判的に考察するチャンスであると考える。第1に、世界平和度指数(GPI)のスコアが高い同志国との関係を深めるべきだと筆者は考える。2024年のGPIランキングを見ると、アイスランド、アイルランド、オーストリア、ニュージーランド、シンガポール、スイス、ポルトガル、デンマーク、スロベニア、マレーシア、カナダが最も平和度の高い国々であり、イエメン、スーダン、南スーダン、アフガニスタン、ウクライナ、コンゴ、ロシア、シリア、イスラエル、マリが最も平和度の低い国々である。現在暴力的紛争に巻き込まれている国々より、予測可能で信頼できる確実な協調的関与の基盤を構築したいのであれば、まずは上位10カ国に働きかけるのが良いだろう。
第2に、われわれと同じ民主主義的価値観や人権と法の支配に対する信念を持つ同志国の間で世界的議論を行い、時代遅れの冷戦構造のみに依存しない国際協力と集団安全保障の新たなビジョンにおいて、われわれはどのような未来を実現したいか、軍はどのような役割を果たすかを話し合う必要がある。
現状を維持し続けることができないのは明白である。トランプ政権がいずれは心を入れ替えるだろうと信じるふりをするならば、決して事を荒立てず、あるいは王様が服を着ていないことを指摘しないならば、われわれはトランプの有害なナルシシズムを助長し続けることになる。賢明な行動の道筋は、ワシントンから流れ出るカオスと不確実性に連帯して立ち向かうことができるよう、有志・同志国の戦略的連合を結成することである。ニュージーランドは民主主義のパートナーと協力し、多国間体制を回復するとともに、全ての人の平和と安全保障を促進するルールに基づく国際秩序の尊重を改めて築くために、積極的な策を講じなければならない。
ケビン・P・クレメンツは、戸田記念国際平和研究所所長である。ニュージーランド在住。
INPS Japan
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インド、世界初の微小粒子状物質(PM)排出取引市場を先導
【ニューデリーSciDev.Net=ランジット・デブラジ】
インドで試験的に導入された、人体に有害な微小粒子状物質(PM)排出の取引市場が、産業由来の大気汚染を削減し、コスト低減にもつながったことが明らかになった。研究者らは、この仕組みを他の低・中所得国にも拡大することを目指している。
「キャップ・アンド・トレード(総量規制と排出権取引)」方式と呼ばれるこの制度の成果は、経済学専門誌『The Quarterly Journal of Economics』2024年5月号に発表された。論文では、PM2.5(粒径2.5マイクロメートル以下の粒子で肺にまで達する)の排出を、インド西部の石炭火力発電所約300カ所以上でリアルタイムに追跡しながら運用した結果が報告されている。
研究共著者であり、イェール大学経済成長センターのローニー・パンデ教授によると、この制度が導入されたインドの産業都市スーラトでは、PM排出量が20~30%削減され、参加事業所はすべて環境基準を満たした。
対象となった318の発電所のうち、62カ所が無作為に選ばれ、総量規制の対象とされた。それぞれの事業所には、排出可能な微粒子の上限が割り当てられ、上限を下回った場合は、排出超過した他の事業所に排出枠を売ることができる。これにより、排出削減に経済的なインセンティブが生まれる仕組みだ。
一方、残りの発電所は従来の罰則型規制(罰金など)に基づいて運用される対照群となった。
キャップ・アンド・トレード制度は、排出全体に上限を設けたうえで、事業者同士が排出枠を売買できる市場を構築する。一方でカーボンオフセット制度は、排出削減プロジェクトへの投資を通じて自らの排出を相殺するものであり、通常は自主的な取り組みとして実施される。キャップ・アンド・トレードは政府の規制の下に運用される点で異なる。
この研究によれば、スーラトの排出取引制度に参加した発電所では、従来の罰則型規制と比べて排出削減コストが11%低下した。また、真の経済的恩恵は、大気汚染の減少による死亡率改善という形でも現れている。
汚染の影響、設備投資、死亡回避による社会的利益などを考慮した費用対効果分析では、この市場制度のコストパフォーマンスは、従来方式に比べて少なくとも25倍に達することが示された。
PM2.5による汚染はインドにおける深刻な公衆衛生問題である。スイスの大気質調査機関IQ Airが2024年3月に発表した報告によれば、PM2.5による世界で最も汚染された都市20のうち11都市がインドに存在する。
今回のグジャラート州の制度は、世界で初めてPM排出を対象とした排出取引市場であり、インドとしてもあらゆる汚染物質を対象とした初の市場制度である。同制度は、グジャラート州汚染管理委員会がシカゴ大学エネルギー政策研究所(EPIC)と共同でパイロット開発した。委員会は、一定の期間内に地域全体で許容されるPM排出量の上限を設定した。
「この研究は、政府の行政能力が限定的な状況においても、遵守型市場制度が実行可能であり、従来型の規制手法より優れる可能性があることを示しました」とパンデ氏は語る。
デリーのエネルギー・環境・水協議会(CEEW)のカールティク・ガネーサン上級研究員は、この研究の理論的根拠は有効であるとしながらも、「制度の効果が実感できるようになるには、職員の広範な研修と投資が必要」だと述べた。「この制度がインド全体で効果を示すまでには数年かかる可能性があります」とも付け加えた。
グジャラート州政府は現在、同様のPM排出取引制度を州内の別の工業都市アーメダバードに導入しており、隣接するマハーラーシュトラ州では二酸化硫黄(SO₂)を対象とした排出取引市場の開発が進められている。
本研究の共著者であるシカゴ大学のマイケル・グリーンストーン経済学教授は、「スーラトでの成功により、経済成長と環境の質のバランスを目指す他国政府からの関心が高まっている」と話す。
「現在、インド国内の他州や海外の政府とも連携し、こうした汚染取引市場のスケールアップに取り組んでいます」
一方、インド政府は、全国カーボン市場(Indian Carbon Market)に向けたオフセットメカニズムの整備を進めており、再生可能エネルギー、グリーン水素、産業エネルギー効率、埋立地のメタン回収、マングローブ植林といった分野を、カーボンクレジット創出の対象として特定している。
また、インド環境省は、アルミニウム製錬やセメント製造などの高汚染産業に対し、温室効果ガス排出原単位目標の達成を促すため、炭素クレジット取引制度の導入にも着手している。(原文へ)
INPS Japan
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米国の再編計画、世銀・IMF・国連機関に影響も
【国連IPS=タリフ・ディーン】
米国国務省は、自国の政策を大幅に再編する中で、国内132の事務所を廃止し、約700人の連邦職員を解雇、さらに海外の外交拠点を縮小する計画を打ち出した。
提案されている変更には、国連およびその関連機関への資金の一部打ち切り、32か国が加盟する軍事同盟・北大西洋条約機構(NATO)への予算削減、さらに世界銀行(WB)や国際通貨基金(IMF)を含む20の国際機関の再構築が含まれる。
こうした動きは、ちょうどワシントンDCを本拠とする世銀とIMFの年次春季会合(4月21日~26日)が開催される中で表面化した。米財務長官スコット・ベセント氏は、両機関に対して「大規模な抜本改革」が必要だと発言した。
ニューヨーク・タイムズ(4月24日付)によると、ベセント氏の発言は「トランプ政権が米国を世銀とIMFの両方から完全に脱退させるのではないかという懸念が高まる中で行われた」としている。
しかしベセント氏はサイドイベントで「脱退する意図はなく、むしろ米国の指導力を拡大したい」と述べた。
彼はIMFが気候変動、ジェンダー、社会問題に「過剰な時間と資源」を費やしていることを批判し、「これらの問題はIMFの本来の任務ではない」と語った。
一方、4月22日にはマルコ・ルビオ国務長官が、現在の国務省は「肥大化し、官僚的で、新たな大国間競争の時代における外交任務を果たせていない」と批判した。
「過去15年で国務省の規模と費用はかつてないほど膨らんだが、納税者が得たのは非効率で効果の薄い外交だった。現在の官僚制度は、アメリカの国益よりも過激な政治思想に従属している。」と彼は断じた。
国務省によれば、こうした変更は今後数か月かけて段階的に実施される予定である。
ニューヨーク大学のグローバルアフェアーズセンターで国際関係学を教えていたアロン・ベン=ミール博士は、国務省や主要な国際機関への予算を50%削減するというホワイトハウスの提案は、短期的にも長期的にも重大な悪影響を及ぼす可能性があると警鐘を鳴らす。
「確かに国際機関の定期的な見直しは、運営の効率化や不要な支出の削減には必要だ。しかし、こうした重要な組織を精査もせずに一括で予算カットするのは、視野の狭い極めて危険な行為だ」と彼は言う。
「とはいえ、これは驚くべきことではない。トランプ氏は暴走しており、それを止める“大人”がいない。こうした無謀な行動は、米国の国際的地位と国益を大きく損なうことになる。」
この提案が国連に与える影響について問われた国連報道官ステファン・ドゥジャリック氏は、4月23日の会見で「国際機関局が存続するとは聞いているが、それが我々にどう影響するかは、まだ当局とのやり取りはない。」と語った。
現在、米国は国連の通常予算に対して約15億ドルの未払いがあり、平和維持予算や国際法廷関連費用を含めると総額28億ドルにもなる。
ホワイトハウスは既に国連人権理事会、世界保健機関(WHO)、気候変動枠組条約から脱退し、ユネスコや国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)からの脱退も示唆している。ただし、**国際原子力機関(IAEA)と国際民間航空機関(ICAO)**への資金提供は継続される見込み。
また、国務省から漏洩したメモには、「最近のミッション失敗」を理由に国連の平和維持活動への資金を全面的に打ち切るとの方針も記されているが、詳細は示されていない。
CNNの4月17日報道によれば、海外の大使館や領事館約30か所を閉鎖する計画も進行中である。内部文書では、大使館10か所、領事館17か所の閉鎖が提案されており、その多くは欧州とアフリカ、さらにアジアやカリブ地域にも及ぶ。
対象には、マルタ、ルクセンブルク、レソト、コンゴ共和国、中央アフリカ共和国、南スーダンの大使館、そしてフランスに5か所、ドイツに2か所、ボスニア・ヘルツェゴビナに2か所、英国、南アフリカ、韓国にそれぞれ1か所の領事館が含まれている。
これらの任務は、近隣諸国の在外公館でカバーされる見通しだ。
国務省報道官タミー・ブルース氏は、内部文書や国務省の削減計画に関するコメントを避け、「予算計画はホワイトハウスと大統領の裁量であり、議会提出までは予断を許さない」と述べた。
「報道の多くは、どこから漏れたか分からない文書に基づいた早計または誤情報です」とブルース氏は語った。
ベン=ミール博士は、今回の米国の方針が欧州諸国との信頼関係を損ない、米国の影響力低下を招くと分析する。
「こうした撤退は、特にアフリカやアジアで中国の地政学的優位を助長することにもつながる」
また、文化交流プログラムの大幅な削減も、長期的な国際パートナーシップを築く上での大きな損失だと指摘する。
「NATO加盟国は資金の穴埋めに難色を示す可能性が高く、防衛費を巡る対立が生じ、NATOの近代化計画や危機対応能力が損なわれる恐れがある」
もし実際にこれらの削減が実施されれば、NATOは独自の安全保障枠組みの模索に動き出す可能性があり、大西洋を挟んだ結束が崩れ、米国の影響力は一層低下するという。
また、現地職員(在外公館スタッフの3分の2を占める)の解雇によって、感染症や紛争といった突発的事態への対応力が著しく損なわれる。
「国連およびその機関への資金削減は、即座に資金不足を招き、人道支援や医療プログラムに深刻な影響を及ぼすだろう。USAID予算の過去の削減でも同様の事態が起きた。」
WHO、UNICEF、UNRWAなどの重要機関は、予防接種、食料支援、災害救援活動の停止を余儀なくされる。
この空白を中国やロシアが埋めようと動けば、人権や気候変動に関する国際的規範が改変されかねない。
さらに、レバノン、南スーダン、コンゴ民主共和国、キプロス、コソボ、ハイチなどでの国連平和維持活動の撤退も現実味を帯びており、不安定化や武力衝突の再発を招く恐れがある。平和維持は歴史的に費用対効果の高い手段であり、その代替はより高コストな軍事介入を必要とする可能性がある。
「今回の提案は極めて無責任であり、長期的・短期的に深刻な影響を及ぼす。米国の危機対応能力を損ない、世界的なリーダーシップを低下させ、結果的にロシアや中国といった対抗勢力に主導権を譲ることになるだろう」
最後にベン=ミール博士は、「共和党が多数を占める米国議会がこの“非常識な削減案”を否決することを期待する。さもなければ、米国は国際的に孤立し、その地位と影響力を長期にわたり失うことになる」と強く警告した。
INPS Japan/IPS UN Bureau Report
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