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デジタル封建主義の時代には、批判的なジャーナリストの声が必要

【ウィーン INPS Japan=オーロラ・ワイス】 メディア・リテラシーとは、読書や数学のように習得できるスキルである。それは、今日の複雑で絶えず変化するメディア状況の中で情報を駆使して批判的な質問を投げかけ、操作されることを避け、安全かつ自信を持ってデジタル空間に参加できる能力を意味する。このトピックに関する教育イニシアチブが教育機関でも始まっている。 2024年5月末、「メディア・リテラシーと民主主義」をテーマに欧州安全保障協力機構(OSCE)の人的次元の補完会議*が開催され、域内各地から200人以上が参加した。この会議は、マルタ(OSCE議長国)、同メディアの自由代表部(RFoM)、同民主制度人権事務所(ODIHR)が共催した。マルタのイアン・ボーシュ議長はこのテーマの重要性を強調し、「情報が迅速かつしばしばチェックされないまま垂れ流される時代において、メディア・リテラシーは単に有益なだけでなく、不可欠なものです。今年は重要な選挙が相次ぐため、メディア・リテラシーの重要性は特に高まっています。情報を批判的に評価する能力を持つ有権者こそが、民主主義の強靭性(レジリエンス)を高め、選挙プロセスへの信頼と信用を高めることができるからです」と語った。 技術の進歩は、さまざまな情報源や公共の言説を豊かにする洗練されたツールへのアクセスを一変させた。一方で、ソーシャルメディアと人工知能(AI)は膨大な機会を提供する一方で、民主的な公開討論を脅かし、民主的プロセスへの信頼を損なうリスクも孕んでいる。 「メディア・リテラシーとは、フェイクニュースを認識することだけではありません。市民が見識と批判的思考を持ってデジタル状況を把握し、情報に基づいて民主的に参画できるようになることです」と、OSCEのテレサ・リベイロ(メディアの自由代表)は語った。 民主的な選挙プロセスにおけるメディア・リテラシーの重要性は、今回の会議の焦点であった。選挙に特化してメディア・リテラシーを高める戦略は、民主的なガバナンスの基盤を強化し、市民が情報に基づいて投票行動を決断できるようにするのに役立つ。 「投票箱の前に立って一票を投じるときほど、あらゆる事実を知ることの重要さを実感する瞬間はありません」とODIHRのマッテオ・メカッチ事務局長は強調した。 メディアの独立性を守りたいなら、ジャーナリストに適切な権利を与えて自身を守れるようにしなければならない。 フェイクニュース、偽情報、プロパガンダが氾濫する中、世間は通常、中立的で客観的かつ批判的なジャーナリズムについて議論している。誰もが「赤裸々な真実」を見たいと思っている。しかし、それが何なのか、そしてジャーナリストが国民に本物のニュースを伝えることができる雰囲気や環境をどのように作ればいいのか、公共放送オーストリア放送協会(ORF)のクラウス・ウンターベルガー博士(公共価値部門ディレクター)が説明してくれた。公共価値コンピテンス・センターの任務は、質の高いメディア討論を積極的に推進し、ORFの公共サービスとしての使命を追及するとともに、メディア・リテラシーや社会・民主主義の発展に資するメディアの役割に貢献することである。 ウンターベルガー博士の最も重要な発言の一つは、「メディアの独立性を守りたいなら、ジャーナリストに適切な権利を与えて自身を守れるようにすることです。」というものであった。 博士によれば、メディア組織が中立かつ客観的なジャーナリズムを維持するにはいくつかの重要な柱があるという。第一に、外部からの運営の監督と情報公開、効果的な規制、義務的な品質保証を通じた検証可能性。第二に、政府や政党、そして何よりもオーナーの利益からの独立性を可能にする持続可能な資金調達。 「第三に、必要に応じて自らの上司からも独立性を守ることができるジャーナリストの権利と義務。最後に重要なのは、『中庭報道』や誤った均衡主義、キャリア主義を超えた批判的なジャーナリズムを追求する勇気、大胆さ、無条件の意志です。」とウンターベルガー博士は語った。 特に技術の進歩がメディア空間の信頼性について大きな問題を引き起こしている。ウンターベルガー博士は、「誤報やフェイクニュース、プロパガンダは、綿密な検証、ダブルチェック/トリプルチェック、ファクトチェック、そしておそらくは適切なAI技術を活用することで見分けることが可能ですが、その際、何よりも疑い、検証し、疑問を呈する批判的ジャーナリズムの原則を通じて行うべきです」と語った。 現在、言論の自由を政治的影響や民間・公共メディアへの干渉からどう守るかについて多くの議論がなされている。私たちはウンターベルガー博士に、「今日のジャーナリズムは、特に新技術の出現によって、過小評価され、低賃金であり、これが質の低下につながっている」という見方について、見解を尋ねた。 「その通りです。欧州全域で、右翼ナショナリストやポピュリストの政府や政党が、特に公共メディアの独立性を危険に晒しています。最新の例では、スロバキアで議会が公共放送局を解散しました。同時に、少数の企業が所有する世界的に有効な技術によって『デジタル封建主義』が出現しており、そのAIは公共の立場からはまったく検証できないものです。この2つの動きは、質の高いジャーナリズムだけでなく、民主主義社会の公共コミュニケーション空間も脅かしています。デジタル市場が少数の寡頭的企業によって支配されており、質の高いジャーナリズムのためのビジネスモデルがまだ存在しないため、その存続が危ぶまれています。また、公共部門で実施されたコスト削減プログラムも、ジャーナリズムの品質に対する重大な脅威をもたらしています」とウンターベルガー博士は指摘した。 女性ジャーナリストへの性別特有の攻撃は増加傾向にある 2023年11月から24年6月までの期間に関する報告の中で、リベイロ氏(メディアの自由代表)は、OSCEの参加国において、「安全保障」対「報道の自由」という誤った二分法が蔓延しつつあり、それに伴う諸問題(①独立したジャーナリズムに対する政治的敵意の急増、②ジャーナリストに対する暴力やオンライン攻撃の増加、③ジャーナリストの監視に利用される技術の利用がテクノロジーの利用が急速に増加している問題等)を取り上げた。 「メディアの持続可能性やジャーナリストに対するオンライン暴力といった懸念は、偽情報や技術の進歩、巨大IT企業による利益追求型ビジネスモデルによって悪化しています。今日の技術は前例のない形で権力を集中させており、ソーシャルメディアのような大規模な言語モデルは、民主的な自由と開放性を悪用するのを容易にしています」とリベイロ代表はデジタル情報環境の混乱を強調した。 パンデミックの最中、多くのジャーナリストが慎重に指示されたプロ・コロナ報道で上司からの圧力に苦しんだ後、現在では、ウクライナ戦争における資金の流れやマネーロンダリング、兵士の行動、武器の密売などを調査することに敢えて挑んだジャーナリストが一部解雇された。こうした欧州のジャーナリストの中には、職を失っただけでなく、国を追放された者もおり、このことは、あらゆるレベルで組織化され、周到に計画された攻撃を受けたことを示している。私たちは、欧州連合(EU)におけるメディアの自由と民主主義を検証するOSCEのサイドイベントで、彼らの衝撃的な体験を聞く機会を得た。他方、ロシアは孤立し、完全なメッセージ統制と偽情報体制を支配している。 特に懸念されるのは、女性ジャーナリストを標的としたオンライン暴力や偽情報の急増であり、これは多様性と民主主義に深刻な影響を及ぼしている。OSCEの調査によると、女性ジャーナリストの約3分の2が仕事中にオンラインで性別に基づく暴力を経験しており、オンラインとオフラインの両方で女性ジャーナリストの安全に対処するための協力が急務である。オンライン上の脅威と性別関連の偽情報が女性ジャーナリストに対するオフラインでの攻撃につながる明確な因果関係を示すOSCEの研究も出ている。 特異な現象として、第三者が攻撃を命じ、刑事訴追を含む免責特権を持つ大使館職員を通じて女性ジャーナリストを標的とする傾向がある。オーストリア外務省と内務省は、こうした自国内で活動する外国諜報員に最高位の外交特権を付与している個人を特別監督する必要がある。こうした外交官の活動は、憲法に違反するだけでなく、外交関係に関するウィーン条約にも違反している。 外的要因に加え、ジャーナリストはメディア内部においても、公共の利益になる情報を提供することとは全く異なる目的を持つ潜入者によって脅かされている。私自身、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)のプロデューサーという立場を悪用し、ジャーナリストに偽情報を与えて信用を失墜させようとする人物に攻撃された経験がある。また、自らをバルカン地域のボスニア人政治専門家と称し、ソーシャルメディアを通じてジャーナリストの信用失墜を意図して妨害活動をしているジャミン・ムジャノヴィッチ氏による攻撃についても言及する価値がある。 オンラインおよびオフラインでの性別に基づく暴力や性別に関連する虚偽情報は、ジャーナリストの福祉と職務遂行能力を危険にさらす。これらの行為は、女性ジャーナリストを自己検閲に走らせたり、キャリアを断念させたりする原因となり、標的とされた人々だけでなく、メディアの自由と多様性全体にも悪影響を及ぼす。このことは、2023年12月に北マケドニアの首都スコピエで開催された第30回OSCE閣僚理事会で採択された「女性ジャーナリストの安全に関する共同声明」でも合意されている。 批判的な声を封殺する慣行は続いており、「好ましくない」とされ非合法化される報道機関が増え、「外国の諜報員」に指定されるジャーナリストが後を絶たない。独立したジャーナリストが単に仕事をしているだけで攻撃され、投獄され、国際情報源がブロックされ、亡命中のジャーナリストが嫌がらせを受けることは、独立したニュースと情報を配信する勇敢な試みに対する個人的なリスクが伴う情報環境の暗い現状を示している。 最近、メディア・リテラシーについて語られるようになったのは良いことだが、ジャーナリストの安全について語るのをやめてはならない。私たちは、職務遂行中に殺害されたメディア関係者の数が過去最多であることを明らかにしているのはそのためだ。 ジャーナリストの生命と自由に対する攻撃は2023年もほぼ記録的な水準で推移し、ジャーナリスト保護委員会(CPJ)は世界中で99人のジャーナリストの死亡を記録し、2015年以来の最高総数となった。CPJはまた、12月1日に発表した年次監獄センサスの中で、320人のジャーナリストが職務のために投獄されたことを記録しており、これは史上最も多かった昨年の360人に迫る勢いである。 イスラエル・ガザ戦争は、2023年10月7日のハマスによるイスラエル襲撃を受けてイスラエルがハマスに宣戦布告して以来、ガザのジャーナリストにかつてない犠牲者を出している。2024年7月1日現在、CPJの予備調査によると、戦争が始まって以来、38,000人以上の死者の中に少なくとも108人のジャーナリストとメディア関係者が含まれている。32人のジャーナリストが負傷、2人のジャーナリストが行方不明、51人が逮捕されたと報告されている。 ロシア・ウクライナ戦争では18人、2014~15年のドンバス戦争では7人、22年のロシアによるウクライナ全面侵攻では10人のジャーナリストやメディア関係者が殺害された。 リベイロ代表は2024年6月13日の報告書で、ギリシャのジャーナリスト、ジョルゴス・カライバズ氏、スロバキアのヤーン・クシアク氏、モンテネグロで20年前に殺害されたドゥシュコ・ヨバノビッチ氏の暗殺について、不処罰の悪循環を断ち切り、完全な説明責任を確保する努力を再開する必要性を強調した。 「セルビアでのジャーナリスト、スラフコ・クルヴィヤの殺害事件での不幸な無罪判決が引き起こした後退についても深く懸念しています。法治社会の真の試金石は、特に自由な報道の価値を守るために危険を冒す人々にどのように正義をもたらすかです。マルタでのジャーナリスト、ダフネ・カルアナ・ガリジア、オランダでのピーター・R・デ・フリースの暗殺事件の司法プロセスも注視し続けます。昨日、オランダの裁判所が調査報道記者デ・フリースの殺害について複数の容疑者を有罪としたことを聞いて安心しました」とリベイロ代表は、2024年6月の報告書で強調した。(原文へ) *OSCE(欧州安全保障協力機構)の人的次元の補完会議は、OSCEの枠組みの中で行われる重要な会議で、人権、民主主義、法の支配といった「人的次元」に関する問題を議論する場である。これらの会議は、OSCE参加国、OSCE機関、国際組織、市民社会、メディア、およびその他の関係者が一堂に会し、これらのテーマに関する進展や課題、政策の実施状況を検討し、改善のための具体的な行動を話し合うためのフォーラムを提供している。 INPS Japan This article is brought to you...

「変革は今始まる」: 英国選挙でスターマー労働党が勝利 ウクライナ支援継続を誓う

【ロンドンINPS Japan/London Post】 英国の総選挙で労働党が地滑り的勝利を収め、14年にわたる保守党支配に終止符を打った。この歴史的勝利は英国政治の転換を告げるもので、サー・キア・スターマー氏が新首相に就任することが決まった。しかし、国内経済問題や生活費危機への新たなアプローチを公約に掲げたにもかかわらず、スターマー政権は、ロシアとの紛争が続くウクライナに対する前政権の強力な軍事・外交支援路線を維持する意向を示している。 労働党は欧州連合(EU)に対してより融和的な姿勢をほのめかす一方、北大西洋条約機構(NATO)やその他の同盟国に対しては、英国がロシアを欧州にとって重大な脅威と見なし続けることを確約している。ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領はこの継続を歓迎し、退任する保守党に感謝の意を表し、次期労働党政権の「選挙での圧勝」を祝福した。 「ウクライナと英国は、これまでも、そしてこれからも、強い絆で結ばれた信頼できる同盟国であり続けるだろう。我々は、生命、自由、ルールに基づく国際秩序という共通の価値観を守り、前進させ続けるだろう。」 61歳の元弁護士で、4年前に労働党の党首に就任したスターマー氏は、バッキンガム宮殿を訪れてチャールズ国王に謁見し、正式に首相としての任期を開始する予定だ。 責任への委任 夜明けに支持者を前に演説したスターマー党首は、このような職務権限に伴う責任を強調した。退任する保守党のリシ・スナク首相は、NATOとウクライナの強固な支持者であり、戦車やストームシャドウ・ミサイルの供与、ウクライナ人パイロットへのF-16訓練など、在任中の「揺るぎない支援」と「共通の成果」に感謝の意を表した。 新外務大臣に就任するデイヴィッド・ラミー氏は、労働党が政権に復帰すれば「進歩的リアリズム」の外交政策がもたらされるだろうと語った。労働党は欧州諸国とのつながりを取り戻し、気候変動に対処し、グローバルサウスとの関わりを深めることを目指している。 国防に関しては、スターマー氏と労働党は、大西洋横断安全保障におけるNATOの役割へのコミットメントを「揺るぎないもの」としている。また、軍事的、財政的、外交的、政治的支援を含むウクライナへの「揺るぎない」支援と、ウクライナのNATO加盟への道を約束した。 外交政策におけるコンセンサス チャタムハウスのU.K.イン・ザ・ワールド・プログラムのディレクター、オリビア・オサリバン氏は、外交政策、特にウクライナに関する労働党と保守党の意外なコンセンサスについて、「労働党の外交政策の立場は、保守党とそれほど異なるものではありません。」と指摘し、ウクライナを支援するという共通のコミットメントを強調した。 エストニアのカラ・カッラス首相は、欧州連合(EU)の外交トップに就任する見込みだが、スターマー氏の勝利を祝福し、共通の安全保障に対する英国のコミットメントを称賛した。「私たちの素晴らしい協力関係は、今後もますます発展していくことでしょう。」と付け加えた。 スターマー新首相は、ゼレンスキー大統領と早い段階で会談する意向を示しており、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を「ウクライナにおける侵略者」と評している。彼は、ウクライナ支援における統一戦線の重要性を強調した。この姿勢は、7月9日〜11日にワシントンで開催されるNATO75周年記念首脳会議と、7月18日にブレナム宮殿で開催される欧州政治共同体首脳会議で試されることになる。 国内の課題 英国の有権者は、新型コロナウィルス感染症のパンデミックとロシアのウクライナ侵攻に続く経済的苦境と停滞からの救済を求めて労働党を支持した。労働党が勝利したことで、下院の過半数獲得に必要な326議席を超え、保守党がさらに多くの議席を失う中、200議席以上を獲得した。 スナク氏は譲位演説で労働党の勝利を認め、スターマー氏に祝辞を述べた。右派ポピュリストの改革党党首ナイジェル・ファラージ氏も初めて議席を獲得し、最近の欧州議会選挙における右派の躍進を反映している。 スターマー新政権は、国内の経済問題に対処する一方で、英国の強い国際姿勢(特にウクライナ支援)を維持するという二重の課題に直面している。今後数週間の新政権の行動は、そのリーダーシップを確固たるものにし、国内と世界の両方の課題に対処する上で極めて重要である。(原文へ) INPS Japan/London Post 関連記事:

気候の崩壊がネパール西部の苦境を拡大

猛暑と干ばつに苦しむネパール西部は深刻な水不足に陥っている 【カイラリNepali Times=ウンナティ・チャウダリー】 ネパール西部の山岳地帯で灌漑が困難なために食料不足が常態化しており、農民らはより耕作が容易な平野部(タライ平原)に移住してきた。 しかし、モンスーンの遅れに伴う今年の灼熱の熱波は、国連の持続可能な開発目標(SDG)の達成に向けたネパールの成果を損なう恐れのある水危機につながった。気候危機は同時に水危機であり、食糧生産、栄養、安全な飲料水の確保に悪影響を及ぼしている。 しかしすべてを気候変動のせいにするわけにはいかない。例えば、以前は稲作の最後の手段として使用されていた井戸は、水位の低下により干上がってしまっている。 高速道路が通過するアッタリヤ市には、かつて深井戸が5つあり、毎日400万リットルの水を市内の5500世帯に供給していた。しかしこの3年間で、そのうち4つが枯渇した。自治体はさらに深さ80メートルの井戸を4つ掘ったが、それでも1年のうち6カ月しか水が得られない状況だった。 インドとの国境に近い人口30万人のダンガディ市では、家庭用井戸が涸れた後、自治体が3つの深井戸を掘ったが、この夏には、その深井戸さえも枯渇してしまった。この状況は近隣の他の町村でも同様である。 専門家らは、タライ地方の水位低下の原因は、ネパールと隣国インドの両方で地下水が過剰に取水されているためと指摘している。インドでは農家が灌漑用ポンプの電力に補助金を受け取っているほか、この地域の産業や農場も、独自の井戸を掘削してかつては豊富だった地下水を利用している。 「冬が終わると、水は枯渇し始めます。そして6月にモンスーンが来るまで、水はまったくありません。」と近くの町クリシュナプルに住むプラム・チャウダリー氏は語った。 実際、水不足にあえぐ町や都市は、貴重な水を求めてますます深く掘削し、地下水の供給量を減らしている。ミランプル町では深さ90メートルの井戸を掘ったが、10日で枯渇してしまった。 ネパールでも隣国インドでも、地下水の過剰採取がタライ平原の水位低下を引き起こしている。 ネパール西部の慢性的な冬の干ばつ、熱波、不規則なモンスーンにつながる気候破壊の影響は、人口増加と家庭・農業利用の増加による地下水の乱開発によって一層深刻な状況に陥っている。 「10年前は20メートルも掘れば一年中水が湧きましたが、今では80メートル掘っても水が出ません。灌漑のための水はおろか、飲み水さえもないのです。」とカイラリ村の農民、カリデヴィ・チャウダリーさんは語った。 水の専門家でトリブバン大学中央環境科学部のスディープ・タクリ教授によると、タライ平原一帯で地下水位が低下した主な原因は、過剰な取水、チュレ川の集水域での掘削、砂の採掘、そして気候変動であることが調査で明らかになっているという。 「私たちは水循環を乱し、気候危機は長引く干ばつと不安定なモンスーンによって問題をより深刻にしています。つまり、自然による地下水の再充填が十分にできなくなっていることを意味します。」 タライ地方の集落が増え、水需要が増えるにつれて、井戸とボーリング井戸の間の距離も縮まっている。実際、カイラリ地区とカンチャンプル地区には140の井戸が掘られており、そのうち水がでたのは91のみであった。 また、地下水資源・灌漑開発課の事務所によると、この2地区では1,001本の深井戸からもポンプで水が取水されている。 タライ地方の地下水は、地方議員らによって交渉材料として利用され、選挙民をなだめるために無計画な井戸の掘削がなされている。 ネパールの州および地方政府は、地下水の最大利用という連邦政府の方針に従い、100のボーリング井戸を掘削する予算で、地下水掘削の補助金に多額の投資を行ってきた。 カンチャンプル地区(カトマンズの西640キロ)のマハカリ灌漑プロジェクトの責任者であるタラ・ダッタ・ジョシ氏は、これらのプロジェクトを通じて抽出された地下水を今後20年間利用することが目的だったが、90のボーリング井戸うち6つは既に枯渇してしまったと語った。 チューブ井戸では地下40メートルまで水を汲み上げることが可能だが、タライ西部の大半の集落ではもはやこの深さで水は見つからない。一方、ボーリング井戸では110メートルまで掘削され、被圧地下水は地下110~400メートルの間で抽出される。 専門家によれば、タライの地下水は、有権者をなだめるために恣意的に掘削する政治家らに、交渉の切り札として利用されているという。ある地域にどれだけのボーリング孔を掘ることができるのか、どれだけの水を採水できるのか、政策だけでなく調査も不足している。 カイラリ村のサンカル・ダッタ・アワスティー氏によると、連邦政府の分権化により、地元の政治家たちは、誰が自分の選挙区により多くの水を供給できるかを競うようになったという。実際、この自治体では、州政府と連邦政府が実施する大規模なプロジェクトに加え、2017年の自治体設立以来、1,200の小規模な地下水プロジェクトが実施されている。 「政治家らは、この無秩序な採掘が将来この地域にどのような悪影響を与えるかよりも、いかにして自身の選挙区内の地下水プロジェクトを繰り返し確保するかに余念がありません。」とアワスティー氏は語った。 カイラリ村で掘削された井戸の1つは、4年前にラメシュ・チャウダリー氏が灌漑用に掘削させたが、運河が完成するまでの2年間で枯渇してしまった。近くのランプール村でも、灌漑用に掘られた深さ200メートルの井戸が涸れた。 「水はどの農家の畑にも届かず、1000万ルピーの無駄遣いです。」とチャウダリー氏は語った。 水専門家のタルカ・ラジ・ジョシ氏は、数十年前は1つのチューブ井戸で村を維持できたが、現在では1つの家庭に3つのチューブ井戸があっても基本的な水需要を満たせていないと指摘した。 「地方、州、連邦政府の水分配計画は、タライ地方の地下水位に大きな影響を与えるでしょう。この危機が将来に何を意味するのかについて誰も考えていません。」とジョシ氏は語った。 子どもたちは汚染された水を飲まざるを得ないため、水不足はSDGsの目標である乳幼児と子どもの死亡率削減におけるネパールの成果を損なう恐れがある。また、灌漑用水の不足により食糧生産が減少するため、栄養状態にも悪影響が出る。これらすべてが、国外移住の傾向に拍車をかけている。 解決策は、チュレの樹木再生による地下水の再充填を可能にし、無秩序な都市化を規制するゾーニング、深い地下水抽出に対する課税、カルナリ川とマハカリ川からの水を導入して供給を補強し、地下水への依存を減らすことである。 水不足がスルケット村の人口流出の原因となっている レクチャ村の住民は水への絶望を示すために、草の籠に入れた水差しを持って自治体の事務所まで行進した。 6月のモンスーン雨の開始が遅れたため、レクチャ村は深刻な水不足に陥った。住民たちはいつものように、地域の水道のそばにある藁籠に水差しを入れて一日を始めた。しかし、住民たちは井戸に水を汲みに行くのではなく、代わりに市役所にデモ行進に出かけた。 村の給水闘争委員会は、区議会議員のタペンドラ・チェトリ氏に率いられ、彼は水を求めて自治体の外で座り込みをせざるを得なかった。 かつてレクチャ村は、肥沃な土壌と豊富な水のために入植者にとって理想的な場所だった。レクチャ村には11の井戸があり、何十年もの間、家族を養うのに十分な水を供給していたが、今ではすべて枯渇してしまった。 「村人たちは今、井戸の底に残ったわずかな水を布で濾過して集めています。この村は渇きで死にそうです。」とチェトリさんは語った。 極度の水不足により住民は村を離れはじめている。レクチャ村には5年前まで115世帯が暮らしていたが、その後35世帯が別の場所に移住した。カギサラ・シャヒさんは、水差しを持って農村自治体本部まで歩いて行った村人の一人だ。他の隣人たちと同じように、彼女もレクチャ村で生きていくのが難しくなってきている。 「私たちの訴えは聞き入れられなかったので、水差しを持ってここまで歩いてきて、指導者に私たちの苦境を訴えました。他のことは何とかやりくりしていますが、とりわけ暑くなってきた今、水がなければ生活を維持するのは不可能です。」とシャヒさんは語った。 村の井戸に水があった頃でさえ、各家庭が水を汲むには何時間も行列に並んだものだ。村の井戸が枯渇した今、他の水源までの道のりはさらに長くなり、この重労働は女性たちにのしかかっている。 「家事をこなしながら、農作物や家畜の世話をし、さらに遠くまで水を汲みに行くには、一日に十分な時間がありません。」と、シャヒさんは語った。 4年前、農村自治体はカルナリ川から村に水を引く計画を立て、1720万ルピーの予算を計上した。しかし、道路へのアクセスが困難だったため、このプロジェクトは頓挫した。 チャウクネ農村自治体のカドカBK議長は、レクチャ村に飲料水を供給するには、自治体のリソースだけでは不十分だと言う。「この村は遠隔地にあるため、連邦政府と州政府の支援が必要なのです。」 一方、村人たちは青い雪解け水を湛えたカルナリ川を見下ろしながら、彼らの畑は干上がり、子供たちは渇きに苦しんでいる。(原文へ) INPS Japan/ Nepali Times This article is brought to...

|上海協力機構首脳会議|専門家らが議長国終えたカザフスタンの成果を振り返る

【アスタナINPS Japan/Atana Times=アセル・サトゥバルディナ】 上海協力機構(SCO)の第24回首脳会議(7月3日・4日)がアスタナで開催される中、専門家たちは現在の地政学的動向におけるこのイベントの重要性と、SCOの議長職を終えたカザフスタンの役割について考察している。 カザフスタンは昨年7月にインドからSCO議長職を引き継いだ。それ以来、同国は、現在10カ国が加盟するSCOの安全保障、安定、発展に取り組むため、さまざまな領域で150を超えるイベントを開催してきた。 2日間にわたった首脳会議では、アスタナ宣言、カザフスタンが提案した「公正な平和、調和、発展のための世界団結構想」、2025年までのSCO開発戦略、2025-27年のテロリズム、分離主義、過激主義に対抗するための協力プログラム、麻薬対策戦略、エネルギー協力開発戦略など、いくつかの重要文書が採択された。 各国首脳を歓迎したカシムジョマルト・トカエフ大統領は、「SCOはすべての加盟国の声を考慮するユニークなプラットフォームである。」と指摘したうえで、「条約基盤は、反麻薬戦略、経済協力戦略実施計画、環境保護協定、エネルギー協力開発戦略を含む60の新たな文書で充実したものとなりました。 SCOのパートナー国際機関の範囲も拡大され、 投資に関する特別作業部会の活動も再開されました。また、 各国通貨による決済への移行プロセスは、前向きな勢いを増しています。」と語った。 カザフスタン戦略研究所のアジア研究部門のバウルジャン・アウケン主任専門家では、「カザフスタンはSCOのすべての分野で利益を得ています。」と語った。 「政治的には、上海協力機構への加盟はカザフスタンに国際政治における発言権を与えています。 地政学的な混乱が続いている現在、多国間フォーマットで外交関係を構築することは、カザフスタンにとって外国投資を確保・誘致する上で特に重要です。」とアウケン主任専門家はアスタナ・タイムズ紙の取材に対して語った。 「また経済的には、貿易関係の強化に寄与しています。政府のデータによると、カザフスタンのSCO加盟国との貿易額は過去5年間で56.5%増加し、660億ドルに達しました。2024年1月から4月の間に、域内の貿易量は191億ドルに達しました。」 「SCOへの加盟のおかげで、カザフスタンの企業は商品を輸出する機会を得ています。 例えば、中国を例にとると、技術の時代において、カザフスタンの市民は中国のオンラインプラットフォームに商品を出品することができます。昨年、大統領の訪問中に、中国の主要なeコマースプラットフォームに我が国のパビリオンが開設されましたが、これはその典型的な事例です。」とアウケン氏は語った。 安全保障の強化は、SCO設立当初からの目的の一つであり、これはテロリズム、過激主義、分離主義という、三つの悪とされる問題に対処することを含む。アスタナ首脳会議で採択された主要な文書の一つは、2025年から27年にかけての「テロリズム、分離主義、過激主義に対抗するための協力プログラム」である。 「今日の首脳会議では、麻薬対策、とりわけ麻薬密売に対抗する戦略が採択されましたが、これは我が国にとっても関連性のある問題です。麻薬の国民への蔓延を防ぐことは特に重要です。」と、アウケン氏は付け加えた。 「SCOは東西の架け橋として重要な役割を担っており、カザフスタンの議長国就任は、地政学及び地経学的な課題に対処する好機を提供している。」とインドの英字ビジネス専門日刊紙『エコノミック・タイムズ』の外交エディター、ディパンジャン・ロイ・チャウドリー氏は語った。 SCOは、東西の架け橋として重要な役割を果たしており、カザフスタンの議長職は地政学的および地経学的な課題に対処する機会を提供すると、インドの英字ビジネス紙The Economic...