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岐路に立つアフリカ開発:雇用・公平性・資金調達への緊急対応なければSDGs達成は危ういと報告書が警告

【国連IPS=シェーヤ・コマール】 アフリカは持続可能な開発目標(SDGs)の3分の2以上で前進を見せているものの、「働きがいのある人間らしい雇用」「ジェンダー平等」「社会的保護へのアクセス」などの分野では、2030年目標達成には歩みが遅すぎる―。 これは、国連ハイレベル政治フォーラム(HLPF)のアフリカ・デー・セッションで発表された最新の「アフリカ持続可能な開発報告書(ASDR)」が示した中心的な警告である。 アフリカ連合(AU)の「アジェンダ2063」と国連の「アジェンダ2030」との整合性を追跡する本報告書は、希望と課題の双方を浮き彫りにした。アフリカの開発努力は着実に進展しているが、資金不足やデータ欠如、高い若年失業率やジェンダーによる排除といった構造的障害が依然として勢いを削いでいる。 世界で最も経済成長の速い国々を抱える一方で、大陸は年間最大7620億米ドルの持続可能な開発資金不足に直面している。社会的保護のカバー率は著しく低く、脆弱層のうち何らかのセーフティネットを利用できるのはわずか19%にとどまる。多くのアフリカ諸国では社会的保護への公的投資がGDPの3%未満で、世界平均を大きく下回っている。 「現在の進展ペースでは、2030年までにSDGsを達成するには不十分だ」と報告書は警告し、包摂的成長、地域統合、制度能力構築を大陸全体で加速させる戦略の必要性を訴えている。 健康分野では平均寿命や疾病対策など改善が見られる一方、妊産婦死亡率や医療アクセスの格差は依然深刻である。ジェンダー平等も、法的障壁、高い暴力被害率、無償ケア労働の負担により制約されている。 SDG8(働きがいのある人間らしい雇用と経済成長)については、生産性の低さ、非正規雇用の多さ、若年失業が課題であり、包摂的な雇用創出と経済変革の必要性が指摘されている。観光業など一部分野で回復は見られるが、1人当たりGDP成長率は2021年の2.7%から2023年には0.7%へと低下。教育・雇用・職業訓練のいずれにも属さない若者(NEET)は全体の23%を超え、女性の割合が高い。観光業のGDP寄与率も2023年で6.8%にとどまった。 経済ショック、気候変動、地政学的な不安定さが、雇用創出や持続可能な成長を妨げている。報告書は、データに基づく戦略、革新的な資金調達、統合的政策により開発格差を埋め、世界的・大陸的アジェンダ双方に沿った強靱で公平なシステムを構築する必要性を強調している。 「単に雇用を生み出すだけでは不十分で、安全な労働条件を確保しなければならない」と、アフリカ連合委員会のセルマ・マリカ・ハダディ副委員長は述べた。 国連のアミナ・モハメッド副事務総長は、アフリカ諸国が抱える不均衡な出発点に触れ、「アフリカは意思決定の場にいないことがあまりに多く、その影響を最初に受ける」と指摘。「若者たちは、私たちが与えている以上のものを受けるに値する」と述べ、若年層の教育への包摂的投資の必要性を訴えた。 議論では、技術的・財政的支援の拡充、気候資金の拡大、違法資金流出への対策、社会的・経済的不平等の是正が焦点となった。参加者らは、SDG17(パートナーシップ強化)、包摂的な社会的保護制度、若者や女性が主導するイノベーションを変革の鍵として強調した。 ASDRの発表は、各国戦略を支えるデータ駆動型の知見を提供する重要な節目となった。(原文へ) INPS Japan/IPS UN Bureau Report 関連記事: SDGs達成の鍵:より良いデータがアフリカを発展させる方法 アフリカ南部でも実感されるロシア・ウクライナ戦争の影響 高まる水危機で紛争の危険が高まり、SDGs実現も危ぶまれる

G7が動く―パレスチナ国家承認に向けた西側の外交転換

【国連INPS Japan / ATN=アハメド・ファティ】 フランスとサウジアラビアが共同議長を務めた「二国家解決に関する国連ハイレベル会議」は、例によって慎重な期待と決まり文句から始まった。だが閉幕時には、現代の外交において稀に見る明確な姿勢転換が現れた。長年棚上げにされてきたパレスチナ国家の承認をめぐり、世界の潮流が変化したのである。しかも今回の変化を主導したのはグローバル・サウスではなく、G7の一部加盟国だった。 外交のドミノ効果 始まりはフランスだった。エマニュエル・マクロン大統領は7月24日、フランスが9月の第80回国連総会でパレスチナ国家を正式に承認すると発表した。その5日後、英国のデービッド・ラミー外相は、歴史的なバルフォア宣言を引き合いに出し、「イスラエルがガザでの軍事作戦を停止し、真摯な二国家解決の枠組みに復帰しない限り、英国はパレスチナを国家として承認する」と表明した。彼の発言は重く、明快だった。「ベンヤミン・ネタニヤフ政権の二国家解決拒否は、道徳的にも戦略的にも誤りだ。」 さらに7月30日、カナダのマーク・カーニー首相も9月の承認を約束。条件として、パレスチナ自治政府(PA)の内部改革と、ハマスを除外した2026年の選挙計画の提示を求めた。 わずか1週間のうちに、G7諸国のうちフランス、英国、カナダの3カ国が、長年続いた西側諸国の曖昧な外交姿勢を転換した。G7のほぼ半数がパレスチナ国家の承認に踏み切る動きを見せたことになり、ポルトガルも追随の意向を示している。 亀裂の拡大:イスラエルの孤立が進む 注目すべきは、これらの承認がイスラエルの「敵対国」からではなく、長年の「友好国」からなされた点である。そしてその動機は、イスラエル現政権への失望感にある。 特に欧州でその傾向は顕著だ。イスラエルの強固な支援国だったオランダは、初めてイスラエルを「国家安全保障上のリスク」と見なし、ガザでの人道違反や極右政権を理由に、ベングビル国家安全保障相およびスモトリッチ財務相に対する制裁と渡航禁止措置を導入した。欧州連合(EU)全体での追加制裁も議論されている。 これは単なる評判の失墜ではない。EUや北大西洋条約機構(NATO)といった多国間機構において、制度的な孤立が進んでいるのである。フランス、アイルランド、スペイン、ノルウェー、ポルトガルが主導する「承認の連鎖」に加え、ドイツやベルギーも国民からの圧力を受けている。イスラエルはこれまでにないレベルで西側の支持を失いつつある。 予想外の成果を上げた国際会議 国連総会決議79/81に基づき開催された本会議は、形式的には典型的な国連会議(本会議、情熱的な演説、記念写真)だったが、次のような三つの決定的な成果を生んだ。 1. 西側主要国間の政策整合象徴的な外交儀礼に見えたものが、フランス、英国、カナダによる具体的な政策表明へと変化した。彼らの発表は単なる理念の表明にとどまらず、期限を定めた政治的約束だった。 2. 「エルダーズ」による道徳的訴え国連報道協会(UNCA)主催の記者会見では、メアリー・ロビンソン元アイルランド大統領、フアン・マヌエル・サントス前コロンビア大統領、ゼイド・ラアド・フセイン元国連人権高等弁務官がガザ危機について直接言及。ロビンソン氏は、イスラエル政府が「ジェノサイドを行っている」と糾弾し、B’Tselemとイスラエル人権団体Physicians for Human Rights–Israelの報告を引用。サントス氏は「ハマスという概念の消滅を目指すのは戦略的幻想」と述べ、ゼイド氏は「二国家解決はもはや理論ではなく、正義と人道の表現だ」と訴えた。 3....

アラブの「MAGA」リセット?

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。 【Global Outlook=ラルビ・サディキ】 ドナルド・トランプ米大統領が世界で最も豊かな湾岸3カ国を訪問したことで、アラブのMAGA(Make the Arab world Great Again:アラブ世界を再び偉大に)の展望を再考する必要性が浮き彫りとなった。その狙いはアラブ世界をトランプ的なイメージで変革することではない。つまり、中東における「他者」についての偽りのイデオロギー的言説や、民主主義への責務に対する無関心に基づいたMAGAではない。むしろアラブのMAGAは、過去と未来を共有する共同体という共通の夢への攻撃に反撃するものでなければならない。本稿で詳述するように、アラブの連帯と民主主義の探求という価値を取り戻さなければならない。(日・英)  ガザの悲劇に映し出されたアラブの不安定さ アラブの栄光は遠い歴史の塵の中に永遠に埋もれてしまうのだろうか?現代の4億人のアラブ人は、連帯の希望を抱かなくなったのだろうか?アラブの団結は、超国家主義的な現代では空虚な標語になってしまったのだろうか?答えは見つからないかもしれない。いや、むしろガザがその答えなのである。ソフォクレスやエウリピデスの悲劇の書物の一葉のように、ガザはアラブの傷を再び開いた。18カ月を超えるガザでの破壊と殺戮は、アラブ大衆のパレスチナの不幸な人的状況への感情的な結びつきを強めた。 まさにガザこそ、現代アラブ世界に不安定さの亡霊が取り憑いていることを物語っていると言わざるを得ない。社会経済的な機会や民主的権利の後退において不釣り合いな経験をしていたとしても、アラブ社会はイスラエルがガザに加えた破壊と殺戮の悲劇的な結果を通じて、多様な人間的・文化的・地理的な領域において不安定さを体験している。今日のアラブ人は、ガザが飢えに苦しみ、アラブの安全のための仕組みが整備されていないため、このような不安定さを経験している。ガザの悲劇は、アラブ世界の国家や市民社会が自分たち全体にとっての危険を見落としているように見えるという教訓を示している。 まるでアラブ人が、自分たちの共同体や国家がどのように暴力的に再編されるのかも分からないまま、「格好の標的」の集まりにされてしまったかのようだ。今日はガザとパレスチナ、明日は他のアラブ地域かもしれない。パレスチナ人に対する不正義の表明により、汎アラブ機関の本質と、戦争と平和の時代におけるその有効性について、より広範な議論が喚起される。 アラブの部族やイスラム教の正義と名誉の規範は、共同体の安全に対する集団的責任を守る最低限の道徳的義務という信念に基づいている。これは、イスラム教の教えとアラブの伝統が時空を超えて伝承してきたものである。米国の外交的指導がサウジアラビアのロビー活動を強いることになり、トランプはシリアに対する長年の制裁を解除した。この正しい政策をもってしても、ガザを戦争から解放し、18年にわたるイスラエルによるガザ地区の封鎖から解放することには至らなかった。ガザに関する世論を悩ませている問題の一つは、市民社会や公的機関を含む集団的安全と責任の規範を活用できていないことである。 イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は2024年9月、国連で地図を掲げ、中東における「祝福」と「呪い」という二元的な解釈を示したが、これは力こそが「何」が正しく「誰」が正しいかを決定するという、分割戦略を象徴している。彼の領土構想は、拡張主義的かつ植民地主義的な視点の典型であり、往年の戦略書に書かれた恐怖そのものである。黙示的にも明示的にも、ネタニヤフの地図製作はアイデンティティーを抹消する道具のように見える。この抹消の仕方は、ファノンの「地に呪われたる者」(1961年)にあまりにも明確に描かれている。ネタニヤフによるガザとヨルダン川西岸を除外したアラブ空間の再構築、あるいはヨルダン川から地中海までの領域を覆う大イスラエルの企ては、軽視してはならない。 民主的アラブ連盟なくして連帯なし 偉大な反植民地主義の抵抗と意識の継承者として、アラブ人は、アルジェリアの1962年の革命や英雄オマル・アル=ムフタールの反ベニト・ムッソリーニ抵抗など、自由と平等な人間の尊厳のための歴史的な戦いを見失ってはならない。だからこそ、ガザがその答えなのだ。ガザは、アラブの独立闘争の際に、平等な自由のために団結して立ち上がった人々の、受け継がれた道徳的核心を呼び覚ます。 アラブ人にとっての自由と人間性の道徳を再考し、規範的に望ましい、連帯の集団的構造の目的と戦略を考案することは、共通の脅威(経済的、環境的、文化的、地政学的脅威)を認識し、それに備え、対応する能力の共有を可能にするに違いない。アラブの安全・連帯・安全保障の構造は、既存の資産を守るだけでなく、繁栄と集団的安全という共通の目標を実現する新たな政策と整合させるために、戦略的に再構築し、文明のレパートリーである人的・物的・技術的システムおよび相互関係の枠組みを再設計することに向けられたものでなければならない。 1945年に創設されたアラブ連盟(AL)は、今日では過去の遺物のように見える。イスラエルの空爆作戦の間、ガザに具体的な支援を提供することができなかった。ガザ戦争は、非国家主体がイスラエルと戦う際に用いる、複雑な行為の連鎖を露呈している。これらの行為は、様々な形態の対抗的な政治によって支えられている。アラブ諸国はイスラエルと新たな戦争をするつもりはない。アラブ連盟の1950年「共同防衛・経済協力条約」は、依然として絵に描いた餅にすぎない。 民主的な統治システムが必要である。硬化した組織を活性化するために、アラブ市民は例えば22の加盟国から議員を選出し、アラブ連盟に彼らの意向を反映させることが考えられる。それは、加盟国の機関や市民社会の人々が、アラブ全体の福祉、主権、安全に影響を与える決定に平等に関与するものである。 アラブ人と「富のパラドックス」 アラブの富は、いわば「要塞」を生み出したわけではない。アラブ人は、理論的には世界の多くの大国と競合し、それらを出し抜ける資産を持っているはずだ。アラブ人は、1,300万平方キロメートルを超える面積を有しており、世界で2番目に広い陸地の所有者である。ロシア人だけがより多くの領土(1,700万平方キロメートル超)を有している。強大な欧州連合(EU)は、地球の表面積の450万平方キロメートル弱を占めるにすぎない。しかし、EU諸国の総合力は驚異的である。EUは名目上で優位に立ち、世界第3位の経済規模(それぞれ米国と中国に次ぐ)を誇っている。EUの購買力平価(PPP)は中国や米国と拮抗している。 理論上は、そうすると、アラブ諸国は米国に対し優位に立っている。アラブ諸国の総面積は1,300万平方キロメートルで、米国の1,000万平方キロメートル弱よりも広い。人口統計では、3億5,000万人の米国人に対し、アラブ人は5億人近くいる。しかし、アラブ諸国のGDPを合計しても、米国の28兆米ドルに対して3.5兆米ドルを超えることはない。ドイツの4.5兆米ドルより少ない。この最小限の定量的測定の目的は、アラブ諸国の潜在力に最適化の余地がある力関係を特定することである。この簡単な分析作業では、グローバルな舞台で誰が何をどれだけ得ているのかを比較数値で検証している。この分析作業により、不安定さが原因で、本来持っている文化的・物的資産に比べて、実際には十分に活かされていない、つまり資産を下回る成果にとどまっている様子が描き出されている。 アラブ人を最も脅かしている国、イスラエルが、ガザとヨルダン川西岸、占領下のゴラン高原を除けば、数百万平方キロメートルどころか数千万平方キロメートルの土地に存在し、人口が1,000万人であることを知れば、この不安定さの真実はさらに衝撃的なものとなる。 アラブ人はかつて、「アラビア語を話す土地」という想像から自信と安心感、さらには誇りを得ていた。こうして、故エジプト人作曲家サイード・メカウィの声が1980年代から90年代にかけて高らかに響き渡った。アラビア語圏の何百万もの人々は、彼の歌に合わせて熱狂的に声を上げ、自分たち全員がコーランとイスラム教の言語であるアラビア語を話し、それを息遣いとしているという思いに高揚した。この共有された言語的・宗教的・文明的背景は、間主観性、交差性、多文化的アイデンティティーの主要な源泉である。エジプト、アルジェリア、イラク、クウェート、リビア、モロッコ、シリア、サウジアラビア、イエメンなど、かつて「アラブ国家」という想像に正統性を与えた主要国は、社会統合と正義というアラブの価値観を促進しながら、相互性と互恵性の絆を新たにしなければならない。 アラブのMAGAのリセット? アラブ世界を再び偉大にするためには、排外主義に頼ることなく、共通の未来と野望を既存の資産と現実的に調和させることが必要である。「アラブ版BRICS」も「アラブ版NATO」も見えてこない。ここで疑問が生じる。このような戦略的地域パートナーシップの不在は、アラブ人全体にとって危険なのだろうか?40年後、50年後もアラブ人は依然として地球上の1,300万平方キロメートルの不動産を所有しているのだろうか? シリアが攻撃された場合、イラクは救援に来るのだろうか?モロッコが外部の脅威に直面した場合、リビアは支援を提供するだろうか?スーダンが新たな分裂に直面した場合、エジプトは連帯の手を差し伸べるだろうか?最近の動向を見る限り、そうではないようである。 個々のアラブ諸国の「自国第一」(「チュニジア第一」「シリア第一」「ヨルダン第一」など)という政策は、集団的な安全を高めるための積極的なアラブ諸国間の真のパートナーシップや能力構築と結びつかなければ、暗い展望しかもたらさない。アラブ人は、世界の戦略的舞台で尊敬と影響力を確立するため、グローバルな国家運営の新たな手段を獲得すべく協力する必要がある。 アラブの共同連帯の探求は、単に政治家や国家がそれを追求したり信じたりするのをやめたからといって、消えるものではない。今日のガザは、アラブ人が連帯を生み出し、政治、社会、経済、知識を民主的にリセットすることによって対抗しなければならない、不安定さの真実を示す痛ましい象徴として存在している。 ラルビ・サディキは、日本学術振興会招聘研究員として、千葉大学に在籍している。中東国際問題評議会のノンレジデント・シニアフェローであり、戸田記念国際平和研究所の「民主主義の危機と課題」プログラム中東・北アフリカグループの研究コーディネーターも担当している。また、書籍シリーズ「Routledge Studies in...

|モンゴル|遊牧民を含む公正な移行計画を加速するには

【ウランバートルIPS=アートリー・ダー】 若き気候活動家ゲレルトゥヤ・バヤンムフは、気候活動家としての原点を今も振り返っている。幼少期、彼女はモンゴルとロシアの国境から南へ20kmに位置する祖父母の村を訪れていた。そこでは、遊牧民たちが伝統的なゲルで暮らしながら、太陽光発電によって電力を得ていたのを目にし、喜びを感じたという。 「隣人がソーラーパネルとバッテリーを持っていて、明かりをつけたりテレビを見たりしていました。今では冷蔵庫もあるんです」と彼女は語った。 彼女は、遊牧民たちが自らの生活様式を意識的に選び、気候危機の時代にふさわしい再生可能エネルギーの導入を進めていると感じたという。 「この体験が、私が気候活動家になった理由です」と語った。 だが、彼女の理想とは裏腹に、その太陽光発電システムの実態は異なっていた。 「後に知ったのですが、あのソーラーパネルは、政府が全国の10万世帯の遊牧民に太陽光発電を導入する国家プログラムの一環として、部分的に補助されていたのです。」 彼女が目にした光景は、政府による再生可能エネルギー政策の一部だったのだ。このプログラムは2000年に導入された「10万ゲル太陽光発電プログラム」で、遊牧民の生活様式に合った携帯型太陽光発電システムを提供することを目的としていた。 モンゴルの人口の少なくとも30%は遊牧民である。2000年以前は、多くの遊牧民が電力へのアクセスをほとんど持っていなかった。2005年までに、政府は複数の国際ドナーの支援により、3万世帯以上にこの技術を導入した。 しかし、その全面的な電化の取り組みは、次第に停滞し始めていた。2006年、国会の環境・食料・農業常任委員会による中間監査報告書には厳しい指摘が並んだ。 初期段階では、配布プロセスに管理が及ばず、対象外の住民への配布や発電機の未納、資金の不正使用、契約期間内のローン返済の失敗など、数々の問題が明らかになった。 それでも2006年から2012年の第3フェーズでは、世界銀行など国際的な支援を得てプログラムの実施が拡大された。 「当初は、こんなに早く再生可能エネルギーの移行が始まったことに希望を抱きました。1999年にはすでに始まっていたなんて。でも中間監査報告を読んで、初期段階と同様に運営がずさんだったことを知って失望しました。最後は国際パートナーの支援があって、なんとか完了できたのです。」とゲレルトゥヤは語った。 ゲレルトゥヤは、若者への気候意識の啓発と実践的スキルの普及を目的とするNGO「グリーンドット・クライメート」の共同創設者であり理事でもある。 このNGOのモットーの一つは、「若者と国民の気候変動に対する態度と行動を変える」ことである。過去1年で同団体は50万人以上のモンゴル人に影響を与え、若者たちを主体的な気候活動家へと育ててきた。 「過去1年の間に、私たちは50万人以上のモンゴル国民に働きかけることができました。若者たちによる気候行動は10万件を超え、CO₂は70万㎏、水は25リットル、電力は8万kWh以上の削減につながりました。次の目標は、100万件の行動を達成し、より強固なコミュニティを築くこと、さらに50件以上の協働型気候プロジェクトを立ち上げることです。」と、2023年のOne Young Worldサミットで語った。 現在のエネルギー体制下における遊牧民の状況 モンゴルはエネルギー生産の90%を石炭に依存している。政府は、「国家エネルギー政策2015-2030」に基づき、2030年までに再生可能エネルギーの比率を30%に引き上げることを目指しており、温室効果ガス排出量を22.7%削減することも約束している。しかし、2020年の時点で、エネルギー部門は国内の総排出量の44.78%を占めている。 ゲレルトゥヤの団体は、近年モンゴルのエネルギー体制を継続的に調査している。2024年時点で、モンゴルの電力供給は主にCHP(熱電併給)プラントと、ロシアおよび中国からの電力輸入に依存している。再生可能エネルギーの比率はわずか7%にとどまり、中央エネルギーシステムが国内の電力需要の80%以上を占めている。 「私たちの調査では、約20万世帯が中央電力網の統計に反映されていませんでした。これらは、20年前にソーラーシステムを初めて導入した遊牧民家庭、あるいはその子孫たちと考えられます」 ゲレルトゥヤは、モンゴル統計情報サービスとエネルギー規制委員会の家庭数データを照合し、統計から漏れている世帯数を特定したという。 化石燃料経済への逆行 モンゴルは再生可能エネルギー比率を2030年までに30%にするという目標を掲げているが、現時点でその実現にはほど遠い。 2020年の国別削減目標(NDC)では、「2030年までに温室効果ガス排出量を22.7%削減」とし、条件付き対策(CCSや廃棄物発電など)によっては27.2%、さらに森林吸収などの措置を加えることで44.9%までの削減が可能としている。 「石炭依存経済を脱炭素化する代わりに、モンゴルは炭素吸収や森林吸収といった手法に重点を置くようになっています。つまり、数々の約束や政策、再生可能エネルギー推進の努力にもかかわらず、実際は『現状維持』に終始する恐れがある。これは悪政と停滞、そして悪循環の表れです」と彼女は指摘した。 モンゴルのエネルギー部門への提言 ゲレルトゥヤのNGOは、2025年の「アース・マンス」キャンペーンに積極的に参加し、COP30で提出されるNDC3.0に向けて若者からの提案を募っている。 彼女は、いくつかの提言を共有した: 需要側では、電力網に接続されていない世帯が、安価で高効率となった新しいソーラーシステムに更新・改善する必要がある。 また、2024年の世界銀行『モンゴル国気候・開発報告書』によれば、モンゴルの家庭用電気料金はコスト回収価格よりも40%低く、2022年には補助金がGDPの3.5%に達していた。このため、エネルギー効率の改善や再生可能エネルギー投資が進みにくくなっている。 この状況下では、電力網に接続されている家庭がエネルギー使用に対して適正価格を支払い、再生可能エネルギーの導入を支える仕組みが必要である。また、市民は短期的利益にとらわれず、より良い政策とその実行を求める責任ある投票行動が求められる。 供給側では、現在「エネルギー復興政策」の下で進行中の6件の化石燃料関連プロジェクト(国際的なものも含む)を即時停止すべきである。 次に、老朽化し非効率かつ過剰に補助金に依存した電力インフラを大幅に改善する必要がある。国連開発計画(UNDP)も同様の指摘をしている。 さらに、現在30%にとどまっているエネルギー供給能力の活用率を高めること。インフラの非効率が主因とされている。 加えて、再生可能エネルギーの総容量を現在の5倍に拡大し、需要に対応する必要がある。これは、最大需要時に必要なエネルギー量の15倍を意味する。最終的には、石炭火力を段階的に廃止し、完全に再生可能エネルギーへと移行すべきである。(原文へ) INPS Japan/IPS...