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Z世代抗議の余波で問われる「誰がネパール人なのか」
【カトマンズINPS Japan/ Nepali TImes=シュリスティ・カルキ】
先月のZ世代による抗議デモの後、新首相スシラ・カルキが最初の閣僚を選出した際、若者団体は女性、若者、そして多様な民族・社会文化的背景を持つ人々を含め、国の多様性を反映するよう求めた。
カルキが次の閣僚候補を指名するまでにはさらに数週間を要した。そこで保健相として選ばれたのが官僚であり公衆衛生の専門家でもあるサンギータ・ミシュラだった。だが発表直後、ミシュラが自身を「ネパール人だがインド出身」と語った過去の映像が拡散された。
彼女の言葉は事実を述べたものだった。ミシュラは帰化ネパール市民である。しかし、超国家主義的なネット空間では激しい非難が巻き起こった。政府は汚職防止委員会(CIAA)による調査を理由に、彼女の閣僚名簿からの削除を発表した。
就任から1か月が経っても内閣が完成しない中、カルキ首相は若者世代の登用を検討していた。メディアのリークによって候補者の名前が浮上したが、その中の一人がフムラ県リミ渓谷出身の気候活動家で映画監督のタシ・ラゾムだった。
するとたちまち、彼女に対して差別的で排外主義的、さらには女性蔑視的な投稿がソーシャルメディア上に溢れた。「分離主義運動を支持している」「外国勢力のエージェントだ」「市民権が疑わしい」「ネパール人らしく見えない、話し方が違う」——そんな根拠のない中傷が飛び交った。
ヒンドゥー王政の復活を主張する政治家ギャネンドラ・シャヒも、彼女の出自に関して偏見に満ちた発言を行い、炎上に拍車をかけた。
一方、国家人権委員会の元委員モフナ・アンサリはSNSで次のように訴えた。「タシ・ラゾムさんは私たちと同じネパール人だ。自国民のアイデンティティを疑うことこそが、私たち社会の最も醜い側面であり最大の欠点だ。真の愛国心とは多様性を受け入れること。偽りのナショナリズムは終わらなければならない。」
イスラム教徒の人権活動家でもあるアンサリ自身も、ネット上でイスラモフォビア的な誹謗中傷を繰り返し受けてきた人物だ。
これに対し、「先住民Z世代コレクティブ」はラゾムのネパール市民権証明書を公開し、SNSや一部メディアで拡散された虚偽情報を打ち消した。
「ネパール人」とは誰か
ネパール人とは何を意味するのか。どのように見え、どのように話す人を「ネパール人」と呼ぶのか。
ラゾムは『カンティプル』紙のインタビューでこう語った。「私の名前がタシ・パウデルやタシ・タパ、バッタライ、ギミレだったら、こんなことは起きなかったでしょう。彼らは私を“ネパール人らしく見えない”“カースのように話さない”と言いました。なぜならネパール語は私の母語ではないからです。」
これは、ネパール社会が抱える根深い差別意識の象徴である。先住民族であるネパール人たちが、見た目や言葉、出身地や信仰が「標準的なネパール像」と違うというだけで、市民である証明を求められる現実があるのだ。
私たちは、アメリカなどで公職に就いているネパール生まれの帰化市民の成功を誇らしげに称賛する一方で、ネパールに帰化した外国出身者や、国内の少数・被排除集団出身者に対しては、同じ敬意を示そうとしない。彼らが国家のために働くことを当然と考えず、特に女性に対しては二重の偏見が向けられる。
デマと排外主義の連鎖
さらに、黒いTシャツに「TOB」と印字されたバイク集団の映像が拡散し、それが「Tibetan Original Blood(チベット純血)」を意味し、フリーチベット運動と関係しているとする憶測が飛び交った。
その後、こうした噂はデマと憎悪を伴って拡大し、チベット系ネパール人やチベット共同体への排外主義的発言や暴力の呼びかけにまで発展した。
多文化国家の岐路に立つネパール
9月の抗議デモ後、多くの国民は政治と官僚機構から旧来型の政治家が一掃されることを期待していた。だが、その前に私たちはまず、自らの社会に根づく偏見と差別を直視しなければならない。
さもなければ、ネパールの多文化主義は憲法上の理念にすぎず、政治的なポーズにとどまってしまう。
現政権も将来の政権も、完全に「中立」であることなどありえない。誰もが主観や信念、何らかの運動・思想への関与を持っている。だが、その批判が特定の社会的マイノリティや活動家に偏って向けられることは不当である。
政治に関わるには「無色」でなければならないという考えは幻想だ。これからのネパール社会を再構築するためには、民族的・文化的多様性だけでなく、思想や信条の多様性も受け入れ、祝福する必要がある。
同胞に対して陰謀論や差別的な言葉を用い、民族中心主義や排外主義に走ることは、ネパールという国家そのものへの裏切りである。
ネパールの強さは、その多様性にこそある。(原文へ)
INPS Japan/ Nepali Times
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                                    外国エージェント法―市民社会を抑圧する新たな権威主義の武器
【ウルグアイIPS=イネス・M・ポウサデラ】
2023年、ジョージア(グルジア)の首都トビリシの街頭を数千人の市民が埋め尽くした。政府が提案した「外国エージェント法」に抗議するためだった。市民たちは、その法案の本質を理解していた。これは透明性や説明責任のための措置ではなく、異論を封じるためのものだったのだ。政府は一度は撤回を余儀なくされたものの、2024年に名称を変えて再提出し、より大規模な抗議にもかかわらず可決にこぎつけた。この法律によって、ジョージアの欧州連合(EU)加盟への希望は事実上凍結されている。
ジョージアの抑圧的な法律は、CIVICUSの新たな報告書『市民社会の生命線を断つ:外国エージェント法の世界的拡散』が明らかにした、憂慮すべき世界的潮流の一例にすぎない。中米から中央アジア、アフリカからバルカン半島に至るまで、各国政府が市民社会団体や独立メディアを「外国勢力の手先」として扱う立法を相次いで採択している。外国エージェント法は驚異的な速度で拡散しており、市民社会への脅威が高まっている。2020年以降、エルサルバドル、ジョージア、キルギス、ニカラグア、ジンバブエがこの種の法律を制定し、他にも多くの国で同様の法案が検討されている。
ロシアが築いた弾圧モデル
この抑圧の設計図を初めて確立したのはロシアである。2012年、ウラジーミル・プーチン政権は、外国から資金援助を受け、広義の「政治活動」に関与する市民団体に対し、「外国エージェント」として登録することを義務づける法律を導入した。これは「外国スパイ」という烙印を受け入れるか、活動を停止するかという二者択一を突きつけるものだった。ロシア政府はその後も弾圧を拡大し、2016年までに少なくとも30団体が登録を拒否して解散を選んだ。欧州人権裁判所はこの法律を市民的自由の重大な侵害として断罪したが、それでも他国はこれを模倣することをやめなかった。
「透明性」という偽りの名目
これらの法律が「透明性」を促進するという主張は、根本的に欺瞞的である。国際的支援を受ける市民団体は、すでに厳格な説明責任を課されている。一方で、政府自体が外国資金を多額に受け取っても、同等の開示義務を負うことはない。この二重基準こそ、これらの法律の真の目的が透明性ではなく「統制」にあることを示している。実際には、人権擁護、選挙監視、民主主義の強化など、あらゆる公益活動が「政治的」とみなされ得るよう恣意的に定義されている。政府は意図的に定義を曖昧かつ広範にしておくことで、気に入らない組織を狙い撃ちできるようにしているのだ。
市民社会壊滅の現実―ニカラグアの例
その影響は壊滅的である。ニカラグアは、外国エージェント法を市民社会解体の道具として用いた最も極端な事例である。ダニエル・オルテガ大統領は、この法律を含む包括的な弾圧政策によって、約5,600の団体―かつて国内で活動していた組織の約8割―を閉鎖した。治安部隊は停止処分を受けた団体を急襲し、事務所や資産を押収。学者、活動家、ジャーナリストら数千人が国外に追放された。結果、国家が統制する団体だけが残り、独立した声は消え、市民空間は完全に閉ざされた。
キルギスでは、2024年3月に成立した外国エージェント法が即座に萎縮効果をもたらした。多くの団体が活動を縮小し、一部は商業団体として再登録し、また一部は罰則を避けるため自発的に解散した。オープン・ソサエティ財団は長年続けてきた助成業務を停止した。エルサルバドルでは、ナジブ・ブケレ政権が外国助成金に30%の課税を課し、レッテル貼りと登録義務を課すことで、市民団体を閉鎖に追い込んだ。
恐怖と沈黙の制度化
これらの法律は、煩雑な登録制度や過剰な報告義務、頻繁な監査を課すことで、特に小規模団体を閉鎖に追い込む。非遵守には重い罰金、免許剥奪、刑事罰が科されるため、恐怖と自己検閲の空気が蔓延し、多くの団体が自ら解散を選ぶ。さらに、外国資金を制限しながら国内資金源の拡大策を取らないため、団体は国家承認に依存せざるを得なくなり、自立性を失う。加えて「外国の手先」という烙印が押されることで市民の信頼を失い、さらなる弾圧への抵抗力を奪われる。
抵抗と希望の光
それでも希望はある。市民社会は驚異的な回復力を示してきた。街頭行動や司法闘争が法案を阻止したり、撤回に追い込んだりする例もある。2014年にウクライナが同法を撤回したのは、まさに大規模な抗議行動が政治の流れを変えた結果だった。エチオピアは2009年の制限法を2019年に改正し、ハンガリーは2017年の法律を欧州司法裁判所の2020年判決を受け撤廃した。さらに、2025年5月にはボスニア・ヘルツェゴビナ憲法裁判所が、外国エージェント法を結社の自由の侵害として停止した。
国際法上の圧力も重要な役割を果たしている。欧州人権裁判所によるロシア法への断罪は、他国の法的闘争に先例を与えた。しかし、権威主義政権は戦略を変え、新たな制限法を次々と導入している。ハンガリーの2023年「主権保護法」はその典型である。
危機の加速と求められる連帯
2020年以降、この傾向の加速は、世界的な民主主義の後退と軌を一にしている。権威主義的指導者たちは、「外国干渉への懸念」という正当な問題意識を利用し、自らの抑圧を正当化する法的道具へと転化させている。危険は現在の導入国にとどまらない。ブルガリア議会は外国エージェント法案を5度否決したが、極右政党が再提出を続けている。トルコの専制的政府も、2024年に反発を受けて法案を棚上げしたものの、数か月後に修正版を再提出した。
外国エージェント法が「常態化」する前に、国際的な連帯と協調的抵抗が不可欠である。国際裁判所は、緊急性の高い市民社会への脅威に迅速に対応できる仕組みを整える必要がある。民主主義国家は、同様のスティグマ的立法の採用を避け、外国エージェント法を制定した当局者に標的制裁を科し、亡命を余儀なくされた活動家に安全な避難先を提供しなければならない。資金提供者は緊急支援の迅速な仕組みを整え、市民社会は国際的な連帯ネットワークを強化し、抵抗戦略と法の真意を共有する必要がある。
さもなければ、私たちは独立した声が体系的に消されていくのを、ただ傍観することになるだろう。市民社会が自由に存在し、活動する権利は、守られなければならない。(原文へ)
イネス・M・ポウサデラCIVICUSリサーチ・分析部長、同団体「CIVICUSレンズ」共同ディレクター兼ライター、『市民社会の現状報告書』共同執筆者。
INPS Japan/IPS UN Bureau Report
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【マルメIPS=ステファニー・ダウレン】
現在の米国政権による逆行的な抵抗にもかかわらず、世界はグリーンエネルギーの未来へと確実に歩みを進めている。各国政府は化石燃料の段階的廃止を誓い、企業は電気自動車を推進し、金融機関は太陽光や風力、蓄電池分野に数十億ドルを投じている。ついに、化石燃料からクリーンエネルギーへの不可避な転換が現実のものとなりつつある。
しかし、華々しい見出しの裏には、より暗く、不都合な現実が潜んでいる。クリーンエネルギー技術に不可欠とされる「移行期鉱物(トランジション・ミネラル)」の採掘競争が、新たな破壊の波を引き起こしているのだ。
このまま進めば、貧困、不平等、搾取、暴力、環境破壊を固定化し、私たちをさらなる崩壊へと導くだろう。今日の地球危機を生み出した「コスト無視の採掘」モデルに、問題解決を託すこと自体が誤りなのである。
フォレスト&ファイナンス連合の新しい報告書によると、銀行や投資家は環境汚染や人権侵害を繰り返す企業を資金提供で報いている。
2016~2024年に提供された4930億ドルの融資・引受金のうち半分以上、そして保有されている2890億ドルの債券・株式の80%以上が、わずか10社のトランジション・ミネラル採掘企業に集中していた。恩恵を受けた企業には、グレンコア、ヴァーレ、リオ・ティントなどが名を連ねる。
擁護派は「再生可能エネルギーにはトランジション・ミネラルが欠かせない」と主張する。だが、需要削減やリサイクル、再利用よりも採掘拡大を優先した結果、新たな鉱山開発が急速に進んでいる。「グリーン」や「クリーン」と称されるエネルギーの物語は、現実の代償を覆い隠し、化石燃料時代の搾取的モデルを再び正当化しているのだ。
鉱山開発がもたらす被害は深刻だ。ブラジルではヴァーレ社による2度のダム崩壊で数百人が犠牲となり、有害廃棄物が流出して環境を破壊した。にもかかわらず、2019年の2度目の事故後も銀行は同社への融資を拡大した。
インドネシアではハリタ・グループのニッケル精錬施設が石炭火力で稼働し、温室効果ガス排出の増加と公衆衛生の悪化を招いている。オビ島の地域住民は、発がん性廃棄物による飲料水汚染に苦しんでいる。最近の調査では、ハリタ社の幹部がこの汚染を10年以上にわたり把握しながら隠蔽していたことが判明した。金融機関はその間も同社の事業拡張と2023年の株式上場を支援していた。
これらは単なる不祥事ではなく、企業が責任を免れ、金融機関が何度も利益を命より優先する仕組みの表れである。実際、トランジション・ミネラル鉱山の約70%が先住民または地域共同体の土地と重なり、70%超がすでに気候ストレスにさらされた生物多様性の高い地域に位置している。
一方、裕福な国々は高級市場向け電気自動車の生産のためにより多くの鉱物を求めているが、アフリカでは6億人、アジアでは1億5000万人がいまだに電力を利用できないままである。
これが「公正なエネルギー移行」の設計図とは言えない。むしろそれは、新たな搾取のフロンティアであり、富裕層のテスラを走らせる一方で、労働者は搾取され、河川は汚染され、地域社会は追われている。気候危機への対処どころか、破壊を容認する現状を改めるために、いまこそ抜本的な改革が求められている。
私たちは、鉱物の調達、資金の流れ、統治のあり方そのものを変えなければならない。銀行や投資家は、先住民の自由で事前かつ十分な合意(FPIC)を尊重し、人権擁護者を保護し、被害を受けた地域社会への救済を確保すべきである。
また、森林破壊ゼロの拘束力ある基準、有害廃棄物の厳格な管理、深海採掘など高リスク行為の禁止を通じて自然を守らなければならない。さらに、資金提供の透明性を高め、企業グループ全体に環境・社会・ガバナンス(ESG)方針を徹底させ、苦情処理メカニズムの実効性を確保すべきである。
気候目標に沿った金融を実現するためには、石炭火力精錬所への依存を終わらせ、有害な慣行を段階的に廃止し、鉱山企業に実行可能な移行計画を求めなければならない。
政府もまた、鉱物需要の公平な削減、富裕国での過剰消費の抑制、そしていまだ電力から取り残された何十億人へのアクセス確保を可能にする強力な規制を打ち出すべきである。国連が策定中の「重要鉱物に関する原則」など国際的枠組みも、より強化され、実施されなければならない。
私たちはまだ「公正なエネルギー移行」を選ぶことができる。人々と生態系への敬意に基づき、公平なクリーン電力へのアクセスを実現する移行である。公正な移行には、公正な金融が不可欠だ。資本は搾取ではなく、公平性、説明責任、持続可能性へと流れなければならない。そのような転換こそが、排出量の削減にとどまらず、今日の危機を生み出した搾取的モデルからの決別を意味する。
これが「公正なエネルギー移行」の設計図とは言えない。むしろそれは、新たな搾取のフロンティアであり、富裕層のテスラを走らせるために、労働者は搾取され、河川は汚染され、地域社会は追われている。気候危機への対処どころか、破壊を容認する現状を正すために、いまこそ抜本的な改革が求められている。(原文へ)
ステファニー・ダウレン氏は、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(フォレスト&ファイナンス連合の一員)の森林キャンペーナー。
INPS Japan
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|視点|気候変動とホモサピエンスの限界、そしてバイオマス・ショア構想(倉橋みどり東京大学大学院農学生命科特任准教授)
                    
                                    ウズベキスタンにおける貧困削減と新たな社会保護モデルの形成
【INPS Japan/ ロンドンポスト】
2017年以降、シャフカト・ミルジヨーエフ大統領のもとで、ウズベキスタンは経済の自由化と社会福祉の強化を両立させる大胆な改革に踏み出した。これらの改革は2023年の新憲法に盛り込まれ、同国を「社会国家」と明確に位置づけたうえで、雇用の確保と貧困削減を国家の責務として定めている。さらに、国家戦略「ウズベキスタン–2030」では、2026年までに貧困率を半減させるという目標が掲げられた。こうした政策転換によって、経済成長と包摂的社会保護を両輪とする新たな国家モデルが形づくられつつある。
社会保護機構の整備と成果
2023年までに新設された国家社会保護庁(NASP)と地域コミュニティの「インソン(Inson)」サービスセンターは、約230万世帯の困窮家庭を支援しており、2017年比で約4倍に増加した。年金や障害者給付などの基礎的支援も拡充され、実質的に約1.5倍へと引き上げられている。
地域ごとのインソンセンターは「ワンストップ型」窓口として機能し、住民が社会給付や行政サービスを申請する際の支援を提供している。個々のケースに応じた支援と情報提供を行うことで、従来の縦割り型行政から、利用者中心の統合的支援体制へと転換した。また、障害者や高齢者を対象にした「支援を必要とする人々の全国登録簿」が創設され、2023年時点で約1万7,800件のケースが登録されている。各ケースは四半期ごとに見直され、必要に応じて支援内容が調整される。こうしたデジタルツールと組織改革により、ウズベキスタンは従来の断片的な福祉制度から脱却し、近代的かつ統合的な社会保護システムを構築した。
国際支援と制度拡充
世界銀行はこの改革を積極的に支援しており、2018〜2021年に約21億ドルの政策支援融資を実施した。2024年半ばには、脆弱層の社会ケアを改善するための「INSONプロジェクト」に1億ドルの追加融資を承認し、50以上の地域社会型福祉センターを新設、約5万人(高齢者、障害者、児童)へのサービス提供を目指している。
2024年11月1日に開始された「貧困から繁栄へ(From Poverty to Prosperity)」プログラムの下で、家庭は以下7分野の支援を受けている。
1.安定した雇用と収入増加の確保2.教育および職業訓練へのアクセス3.国家保証による医療サービスへのアクセス4.社会サービスへのアクセス5.住宅環境の改善6.国家によるマハッラ(地域共同体)インフラ整備7.行政担当者との直接対話と関与
これまでに60万世帯以上が130万件の雇用・収入支援型サービスを受け、さらに220万件以上の医療サービスを享受しており、労働市場への持続的な参加を促している。
社会ケアサービスの拡充と民間活用
継続的な介護が必要な個人を対象に、民間事業者による新たなサービス提供モデルが導入された。これには家事支援、訪問介護、医療・社会リハビリテーション、個別介助などが含まれる。現在、全介護対象者の約76%にあたる1万3,800人が民間セクターのサービスを利用している。
大統領令は、2030年までに年間300万人以上が社会サービスを受ける体制を整備し、非政府セクターの提供比率を30%にまで高めることを目指している。これは、社会的連帯経済の理念に沿った取り組みである。
国家社会保護庁による改革の三原則
1.アクセシビリティ(Accessibility)
「貧困から繁栄へ」プログラムの一環として「全国貧困家庭登録簿」が設立され、家庭の識別と登録はマハッラ(地域共同体)レベルで行われている。現在、約66万7,000世帯(約280万人)が登録されており、各家庭の生活実態と貧困削減の可能性を包括的に把握できるようになった。
2.効果性(Effectiveness)
本年度最初の9か月間で、登録世帯の1人当たり平均月収は17万4,000スム(約14米ドル)から33万8,000スム(約27米ドル)へとほぼ倍増した。また、これまで収入のなかった7万3,000世帯が正式な賃金所得を得るようになった。同期間に15万世帯が貧困を脱し、そのうち約7割(10万5,000世帯)は主に雇用所得の増加によるものである。
3.持続可能性(Sustainability)
支援の的確化を図るため、家庭は以下の3カテゴリーに分類されている。
赤(Red):障害者を抱える世帯、稼ぎ手を失った家庭、ひとり親家庭黄(Yellow):就労可能だが安定収入や職業スキルを欠く家庭緑(Green):貧困を脱したが再転落のリスクがある家庭
この分類に基づき、「赤」家庭には優先的な福祉支援を、「黄」家庭には職業訓練と雇用促進を、「緑」家庭には再貧困防止策を適用している。
ケア経済と人材活性化
国家社会保護庁は「ケア経済(care economy)」の発展を重点課題とし、障害児向けのデイケアサービスや高齢者のための「アクティブライフへの一歩」プログラムを導入した。これにより、介護に従事していた家族が労働市場へ復帰できるよう支援している。
人的資本への投資
低所得家庭の子どもに対しては、教育・育成にかかる費用の最大90%を国家が補助している。2025年には12万5,000人の貧困家庭の子どもが優先的に就学前教育を受けることができた。これは社会保護制度が間接的に貧困削減へ貢献している好例である。
住民の声
タシュケント州ブカ地区「エズグリク」マハッラの住民オリマ・アルマトワ・コラベコヴナさんは、次のように語った。「夫は鉱山コンビナートで40年働きましたが、病気で続けられなくなりました。私は家族を支えるためにどんな仕事でもしました。医者が夫の心臓にステントを入れるよう勧めたとき、私は『私のことより家族を助けてください。私はもう67歳です。自分の人生に悔いはありません。どうか家族を助けてください。』と頼みました。それから間もなく、大統領の決定に基づく支援が届いたのです。その時の喜びは言葉にできませんでした。『本当に、私の扉を開けてくれる人がいたのだ』と感じました。支援を受けて、私たちはキュウリやトマトを植えました。すぐに収入が入り、これまでに三度も利益を得ました。大統領には心から感謝しています。たった一家庭を養うことさえ難しいのに、彼は何百万もの家庭を支えているのです。困っている人々にとって、この支援は力を与え、喜びをもたらし、前進する勇気をくれます。その影響の大きさは計り知れません。」
結論
国家社会保護庁によるプログラムは、単なる物質的支援を超え、収入創出、雇用促進、人的資本育成のための環境を整えるものである。これにより、ウズベキスタンの持続的な経済成長と社会的安定に直接的な貢献を果たしている。(原文へ)
INPS Japan/London Post:
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