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カザフスタン館、来場者100万人を達成 ― 2025年大阪・関西万博

【大阪INPS Japan】 カザフスタン館は、大阪・関西万博の開幕以来、多くの来場者から高い関心を集め、このたび来場者数100万人を突破した。 記念すべき100万人目の来場者となったのは、兵庫県尼崎市在住の長谷川浩介氏。長谷川氏には、20266年にエア・アスタナが開設を予定している日本-カザフスタン間直行便のビジネスクラス往復航空券と、アスタナ市内高級ホテルでの2泊宿泊券が贈られた。 長谷川氏は次のように語った。 「100万人目の来場者になれたことは大変光栄です。館内のモダンなデザインと独創的なコンセプト、革新的なデジタル展示に強い感銘を受けました。デジタル化や経済成長、投資ポテンシャルに関するカザフスタンの成果を学ぶことができ、とても刺激的でした。この経験をきっかけに、ぜひ現地を訪れ、雄大な自然や文化を自分の目で確かめたいと思います。」 また、国際博覧会事務局(BIE)のディミトリ・ケルケンツェス事務局長も公式訪問を行った。同事務局長の来館は、同館の高度な運営体制と充実した展示内容を裏付ける重要な機会となった。 ケルケンツェス事務局長は次のように述べた。 「カザフスタン館は、その高い運営水準と包括的な展示内容、そして綿密に構成されたプレゼンテーションによって深い印象を与えます。持続可能な開発、イノベーション、多様な文化といったテーマが明確かつ一貫性をもって表現されており、現代社会の課題に対するカザフスタンの国際的な視点が際立っています。カザフスタンは、国際博覧会において責任感と成熟した姿勢を示し、万博の基本理念と調和しながら持続可能な未来の実現に貢献しています。同館は来場者の真の関心と敬意を呼び起こし、カザフスタンのさらなる可能性や価値の探求へとつながっています。」 この訪問は、カザフスタンが大阪・関西万博2025に参加する意義を改めて示すものとなった。国際的な舞台を通じ、同国は世界からの信頼を一層強め、未来に向けた新たな展望を開いている。 カザフスタン館は「命をつなぐ(Connecting Lives)」クラスターに属し、シャニラク(遊牧民の住居ユルトの天窓)を象徴としたデザインを採用。最新のデジタル技術と豊かな文化的伝統を融合させている。デジタル化の進展を紹介するだけでなく、環境、観光、イノベーション、グリーンエネルギー、持続可能な開発における同国の可能性を幅広く発信している。体験型展示と充実したコンテンツにより、万博でも有数の来場者数を誇り、日本のメディアからも大きな注目を集めている。 2025年4月13日に開幕した大阪・関西万博は、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、「いのちを救う(Saving Lives)」「いのちに力を与える(Empowering Lives)」「いのちをつなぐ(Connecting Lives)」の3つのサブテーマを軸に展開されている。公益社団法人2025年日本国際博覧会協会によれば、今回の万博には160か国と9つの国際機関が参加しており、2025年10月13日まで開催される。(原文へ) INPS Japan 関連記事: |アスタナ|カザフスタンの未来都市が2026年に日本からの直行便就航で観光客を歓迎 カザフスタン、民族の多様性に宿る団結を祝う 日本の旅行ガイドブック「地球の歩き方」最新号、カザフスタンを特集

AIドローンが変える核兵器の未来

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。The Loop 掲載記事を Creative Commons ライセンスのもとに再掲載 【Global Outlook=エスラ・セリム】 エスラ・セリム氏は、人工知能(AI)を搭載したドローン技術の急速な進展が、核兵器の運搬能力、精密な標的設定、そして抑止力を大幅に強化していると論じている。しかし、自律型ドローンシステムの拡散は、戦略的かつ倫理的に深刻な課題も生み出している。世界の安定を確保するためには、強固な国際的枠組みの構築が不可欠である。 ウクライナ戦争が新技術に与えた影響 2022年2月のロシアによるウクライナ全面侵攻以降、主要国の間で新興技術をめぐる競争は一段と激化した。とりわけ、この紛争はドローン技術への投資を加速させた。米国、中国、ロシア、そして欧州諸国はいずれも、こうした技術を戦略上不可欠なものと見なしている。  先端技術、特に人工知能(AI)は、防衛戦略における重要性を一層増している。こうした依存度の高まりは、武装ドローン分野での軍拡競争を加速させるとの懸念を呼んでいる。AI統合によってドローンの自律性は飛躍的に向上し、精密な任務遂行や高度な作戦運用が可能となっている。 軍事分野において、AIドローンは大きな技術的転換を示している。物流や偵察を強化するだけでなく、核兵器の運搬手段となる可能性すらある。このため各国は、安全保障の強化、抑止力の維持、地政学的影響力の拡大を狙い、先端ドローン技術の開発と取得に注力している。 先端軍事技術を追求する四つの要因 まず、実用主義の観点からすると、外交政策は国際・国内の変化に柔軟に対応し、適応していく。実用主義は現実主義的思考と深く結びつき、具体的成果や実際的な解決策を重視する。そのため各国は、平和と抑止を維持するだけでなく、紛争発生に備える意味でも軍需産業を発展させている。 次に、安全保障上の脅威認識は国際関係に大きな影響を及ぼしている。国家は主に自衛のために経済力や軍事力を構築するが、そうした行動は他国には攻撃的に映り、相互不信や軍拡競争を招きやすい。そのため、強固な軍需産業を維持することは、主権を守り、安全保障を確保し、潜在的な脅威を抑止する上で不可欠となっている。 さらに、強国は常に影響力を拡大する機会を追い求め、とりわけ紛争期にはそれが顕著となる。戦争は先端軍事技術が国家の相対的な力を大きく高める契機となり、戦術的優位や地政学的競争における新たな梃子となりうる。 最後に、AIの急速な進展は新たな戦略的前線を切り開いた。AIは高度な軍事能力をこれまで以上に安価で容易に利用可能にし、各国の軍事的有効性と経済的影響力を大きく高めている。軍事運用に不可欠な要素となったAIは、安全保障戦略を再構築し、平時・戦時を問わず意思決定の迅速化を促す。各国はこの技術革新を取り込むことを迫られ、現代の権力競争は新たな局面を迎えている。 核兵器の運搬と標的設定の強化 ウクライナ戦争が示すように、AI搭載ドローンは現代戦に不可欠な装備となりつつある。高度な情報収集・監視・偵察任務を遂行できるだけでなく、核兵器を運搬する潜在的能力も備えている。軍事運用への統合が進むことで、核兵器の投射能力はより精密かつ効果的に強化される。 AIドローンは、敵のミサイル防衛や防空システムを突破することで、核攻撃を支援する重要な役割を果たす。核弾頭を搭載していなくても、欺瞞や妨害、無力化によって敵の防衛網を撹乱できる。AIを活用して脆弱性を突くことで、核戦力は敵対的環境においても確実かつ効率的に浸透できるようになる。 さらに、AIは標的選定を高度化し、リアルタイムで精緻な情報と敵の弱点分析を提供する。これにより、無差別攻撃に頼らず戦略目標を特定でき、作戦効率が向上するとともに付随的被害を抑制できる。標的精度の向上によって必要な弾頭や運搬手段を削減でき、運用の簡素化や維持費削減にもつながる。 さらに、AI搭載ドローンは核抑止力を大幅に強化する。持続的な監視と即応能力により、脅威を早期に察知し迅速に対応できる体制を整えることで、信頼性の高い第二撃能力を保証し、核保有国間の戦略的安定性を支えている。 ドローン戦時代の戦略的リスク 自律型AIドローンや無人航空機の拡散は、核の標的設定や抑止戦略に深刻な影響を及ぼす可能性がある。これらを核の指揮・管制システムに組み込めば、監視・早期警戒・精密な対兵力攻撃が強化され、核対応力の向上につながるだろう。その一方で、核保有国は戦略ドクトリンや指揮手順、危機管理の在り方を改めて検討せざるを得なくなる。 しかし、同時に核分野特有の戦略的・倫理的課題も浮上する。AIが脅威を誤認したり、敵の意図を誤解した場合、自律性の高いシステムは危機時に核緊張を不必要に高める恐れがある。さらに、透明性を欠いた迅速なAI判断は人間の監督や判断を弱め、核安定性や抑止力の信頼を揺るがす可能性がある。自律型ドローンの核戦力への統合は、通常兵器と核の境界を曖昧にし、核使用の敷居を下げかねない。 運用上の不確実性 AI搭載ドローンの核環境下での運用信頼性は依然として不透明である。電子戦やサイバー攻撃に脆弱であり、特に緊張下では技術的故障が発生する可能性もある。AI生成情報に基づく核判断は、誤ったデータや偏ったアルゴリズム、あるいは拙速な対応によって、事態をさらに悪化させる危険を孕んでいる。 さらに、高度なドローン技術の拡散は、敵対国に高度な対抗手段やより複雑な核能力の開発を促すだろう。これは安定した抑止の強化どころか、不安定な軍拡競争を助長する恐れが強い。そのため、厳格な試験、人間による監督の徹底、そして強固な国際規制が、AIドローンの統合を導くうえで欠かせない。(原文へ) エスラ・セリム氏は、フランスのリール・カトリック大学(ESPOL)の客員講師兼研究員。これまでエクス=アン=プロヴァンス政治学院で教鞭を執り、同校で博士号を取得したほか、米国ワシントンD.C.のジョージ・ワシントン大学で客員研究員も務めた。博士論文では、冷戦後におけるイランの核開発が米国とトルコの関係に与えた影響を分析している。現在は通常兵器や武器貿易を中心に研究を進めており、これまでに核安全保障、大量破壊兵器、武器取引、ミサイルシステムに関する論文を多数発表している。 INPS Japan 関連記事: 核の瀬戸際にある世界:拡散する現代戦とその代償 著名な仏教指導者が核兵器とキラーロボットの禁止を呼び掛ける(池田大作創価学会インタナショナル会長インタビュー) 岐路に立つ 自律型兵器システム:国際的な規制へ緊急の呼びかけ

国連改革に「痛みを伴う人員削減」―帰国強制の恐れも

【国連本部IPS=タリフ・ディーン】 国連加盟193か国で構成される総会は、現在進められている国連機構改革案について最終決定を下すことになる。改革には人員削減、部局の統合や廃止、高コスト地域から低コスト地域への機関移転が含まれる見通しだ。 最大の懸念は、米国の永住権や市民権を持たない数千人規模の職員とその家族が、長年――あるいは数十年――米国で生活してきたにもかかわらず、国連ビザを失って自国に帰らざるを得なくなる恐れである。 国連のステファン・ドゥジャリック報道官は8月25日、事務総長が近く第5委員会に修正予算を提出すると説明した。その上で、今回の改革案に含まれる措置を「痛みを伴う人員削減」と表現した。提案は総会に諮られ、最終的な決定は加盟国に委ねられる。 国連開発計画(UNDP、1994〜96年、1999〜2004年)や国連児童基金(UNICEF、2008〜14年)で勤務した経歴を持つステファニー・ホッジ氏はIPSに対し、「国連における『改革』とは、まるで一律20%の削減を意味するかのようだ。まるでリーダーシップが芝刈り機で測られるようだ」と語った。 「実際に起きるのは、強権的な者や取り巻き、上にへつらい下に威張る生き残りが職を守り、実際に成果を出す技術系職員が真っ先に切られるということです」と彼女は批判する。 ホッジ氏は、職員にとって屈辱はまぎれもない現実だと強調する。かつて自らが働いた国連オフィスの前を、再雇用の約束を信じて何か月も通い続ける人もいる。そして今、米国市民でも永住権保持者でもないニューヨーク在勤の数千人が、解雇通知と国外退去、そして「効率化」の名の下に数十年の奉職を切り捨てられるという、いっそう厳しい運命に直面している。 「皮肉なことに、権利を守るために設立された機関が、いま自らの職員の権利を踏みにじろうとしている。家族は引き裂かれ、生計は奪われ、配慮の責務は放棄される。これは改革ではなく制度的偽善であり、国連が掲げる価値を空洞化させている」と彼女は指摘する。 国連は「誰一人取り残さない」と説く。だがそれは、自らの職員を除外しているようだ、とホッジ氏は皮肉を込めて述べた。彼女は国際的な評価の専門家であり、国連顧問として140か国以上で活動してきた経歴を持つ。 ある元国連職員もIPSにこう語った。「キャリアの途中や子どもの教育の最中に人々の生活を突然断ち切るのは、補償が十分でない限り、ほとんど非人道的です。ですが、国連が実際に何を計画しているのかはまだ分からないのです」。 一方、世界保健機関(WHO)は2026〜27年の予算削減に伴い、ジュネーブ本部で600人の職員削減を見込んでいる。テドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は職員宛ての書簡でこう述べたと、開発系メディア「Devex」が報じている。 「2026〜27年予算は21%削減されました。我々は中核的任務に沿って組織を再編しています。いくつかの活動は終了し、他は縮小され、最も使命に直結する分野は維持されます。本部では最終承認された新体制に基づき、およそ600人の離職が見込まれます」と記した。 国連人口基金(UNFPA)の元事務局次長(プログラム担当)で、パスファインダー・インターナショナル前会長兼CEOのプルニマ・メイン博士はIPSに対し、国連改革は本来、その機能を効率化し目標達成を後押しするものとして歓迎されてきたと語った。 しかし同氏は、今回の改革が主に財政的制約に起因している点に懸念を示す。「組織再編が資金不足に主導される場合、人間的な配慮や国連の広範な目的への影響が犠牲になる危険があります」と指摘した。 最終決定は総会に委ねられるが、現時点で明らかになっているのは、人員削減、部局の統合や廃止、高コスト地域から低コスト地域への移転が含まれるということだ。議論の中では、早期退職制度(双方合意による自発的退職)が検討されており、特に退職を控えた職員には魅力的に映る可能性がある。 しかし、より抜本的な手段は、部局や場合によっては機関そのものの統合・廃止、さらには移転である。これらは大きな後方支援上の課題を伴うが、同時に職員への影響にも十分配慮が必要だ。 特に米国に駐在する非市民・非永住者の職員とその家族にとっては、生活基盤を大きく揺るがすことになる。長年米国に暮らしてきた家庭の生活を壊すだけでなく、健康保険や年金といった不可欠な給付を奪う恐れもある。これらの制度は多くの場合、生活費の高騰を十分に反映していない。 加えて、解雇された職員が移民ステータスを抱えながら新たな雇用を見つけるのは、厳しい労働市場では一層難しい。こうした措置は職員とその家族の生活を損なうだけでなく、国連機関から貴重な技能と経験を失わせ、機敏かつ的確な活動能力を弱める。結果として、これまでの成果や将来の進展が犠牲になりかねない。 今回の削減は国連全体にとって痛みを伴うものだが、最も深刻な打撃を受けるのは職員とその家族である。一方で、国連職員は経済的にも待遇面でも「特権的」とみなされることが多く、職員福祉は軽視されがちだ。 メイン博士は、総会加盟国が選択肢を慎重に吟味し、人的コストと国連の使命達成への影響を併せて考慮することを望むと述べた。 「不安定な世界において、団結し機能する国連がこれまで以上に求められている時期に、大規模な構造改革や人員削減に焦点を当てれば、職員の士気を損ね、国連が築いてきた成果を危うくし、将来に向けた役割すら損なう恐れがあります」と同氏は警告した。(原文へ) INPS Japan/ IPS UN Bureau Report 関連記事: 危機に直面する国連、ニューヨークとジュネーブを離れて低コストの拠点を模索 |視点|またしても国連改革?(パリサ・コホナ元国連条約局長、スリランカ元国連常駐代表) 米国の拠出削減が国連職員に広がる不安とメンタルヘルスへの影響をもたらす

平和の祈りを水面の波紋のように―広島・長崎から80年

【メキシコシティーINPS Japan=ギレルモ・アラヤ・アラニス】 80年前、世界は人類史上最も破壊的な兵器の力を目の当たりにした。広島と長崎は核兵器の標的とされ、人類史の中でも最も暗い章の舞台となった。死者は20万人を超え、その惨禍は世代を超えて響き続けている。だが今なお、80歳を超える被爆者たちが声を上げ続け、核兵器廃絶と平和を訴えている。 メキシコシティ西部にあるメトロポリタン自治大学クアヒマルパ校(UAMクアヒマルパ)では、1945年8月9日の長崎原爆を生き延びた山下泰昭氏が、自らの体験を語るために登壇した。その言葉には歴史を生き抜いた重みがこもっていた。 「皆さん一人ひとりの小さな声を、世界中に広げることができます。その声は水面の波紋のように広がり、やがて核兵器の脅威のない世界で生きられるようになるでしょう。それこそが私たちの願いであり、平和なのです」と山下氏は強調した。 炎に包まれた幼少期の記憶 山下氏の証言は、私たちをあの日の長崎へと引き戻す。わずか6歳のとき、彼は「一度に千本の稲妻が落ちたような閃光」を目にした。それは人間には理解し難い恐怖の始まりだった。爆心地から約2.5キロの自宅は熱線と爆風で倒壊し、家の別の部屋にいた姉はガラス片で頭に大怪我を負った。(化学兵器による攻撃と思い込んでいた)姉はその傷から流れる血は「米軍が日本人に使った危険な油」だと勘違いし、恐怖に震えたという。 街は一瞬にして廃墟と化し、病院も壊滅した。医師や看護師も犠牲となり、助けを求める人々には手立てがなかった。やがて飢えが襲い、家族はわずかな食料を求めて何キロも歩き、農村で残りの財産を物々交換に差し出した。山下氏は、破壊し尽くされた街を歩きながら「現実とも思えぬ惨状」を目に焼き付けたと振り返る。 沈黙から証言へ 長い間、彼は被爆体験を語らなかった。日本では被爆者に対する差別や偏見が根強く、「放射能がうつる」という無理解にさらされたからだ。1960年、山下氏は日本赤十字社の原爆病院で働き、多くの放射線障害患者の看護に携わった。年齢の近い白血病患者のために度々献血したが、その患者は亡くなった。「自分もいつ発病するかわからない」という恐怖が常につきまとったという。 やがて彼は日本を離れ、新しい人生を求めてメキシコに渡る。メキシコ文化に強い憧れを抱いていた山下氏は、1968年のメキシコ五輪で日本選手団の通訳を務め、そのまま移住を決意した。ナワトル語を学び、通訳や翻訳者として働き、市民権も取得した。 1995年、ケレタロで初めて被爆体験を公の場で語ったのをきっかけに、彼は長い沈黙を破り、証言活動を始めた。それは癒やしの道であると同時に、核兵器廃絶を訴える使命でもあった。 学生の応答――漫画と写真で伝える メキシコシティでも、山下氏の証言は若者に深い影響を与えた。UAMクアヒマルパの人文学部の学生、ジェシカ・エスカンドンさんは、被爆の現実を伝えるために、漫画と写真を組み合わせた展示を企画した。 「広島と長崎について調べるうちに、このプロジェクトを始めました。自分の好きな表現を通して、今私たちが直面している現実とつなげなければならないと感じたのです。完成までに2年かかりました」と彼女は語る。 展示「広島と長崎―生存と抵抗の証言」は、写真や漫画のコマ34点で構成され、原爆による人々の苦しみを生々しく描いた。キャンパス内のミゲル・レオン・ポルティーリャ図書館で開かれ、被爆者の傷や、反核運動の始まりを示す肖像も展示された。その中心に置かれたのが、活動家としての山下氏の姿だった。 「被爆者は今や80歳を超えています。これからは若者の責任です。学校教育で表面的に扱うのではなく、決して忘れてはならないこととして意識を高めていく必要があります」とジェシカさんは訴えた。 書籍で残す証言 イベントでは、セルヒオ・エルナンデス博士による著書『ヒバクシャ―山下泰昭の証言』も紹介された。長年にわたり山下氏と交流を続けてきた博士がまとめたもので、長崎での体験、差別との闘い、メキシコ移住、そして被爆証言活動が描かれている。 「短いけれどとても心を打つ本です。特に、彼が受けた差別が衝撃的でした。人々がそれを隠そうとした事実に強い印象を受けました」とジェシカさんは話す。 会場には千羽鶴が色鮮やかに飾られた。平和の象徴であり、反核運動のシンボルでもある。「千羽鶴を折ることは、核兵器を二度と生み出さないという誓いを表す、日本の平和運動の伝統です」とエルナンデス博士は説明した。 世界への警鐘 山下氏は講演で、国際社会に対して強い警告を発した。 「私たちは何年も軍縮のために活動してきましたが、世界は逆方向に進んでいます。核兵器はますます増えています。人類は本当に広島と長崎の悲劇から学んだのでしょうか」と問いかけた。 そして、メキシコのような非核国も安全ではないと指摘する。「私たちは核兵器を持つ国々に囲まれています。平和と核兵器廃絶の運動は、平和国家だけでなく、ロシア、アメリカ、中国、北朝鮮といった核保有国にも強く響かせなければなりません。」 記憶から行動へ 長崎の廃墟からメキシコシティの講義室へ。山下泰昭氏の歩みは、一人の声が世界に波紋を広げ、平和の連鎖を生み出すことを示している。被爆体験、差別との闘い、異国での新しい人生、そして証言者としての使命――そのすべてが、平和は記憶だけでなく行動によって築かれることを物語っている。 彼の「小さな声」が世界を巡り、いつの日か核兵器の脅威なき世界を実現することを願ってやまない。(原文へ) This article is published by INPS Japan in...