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グローバル・サウスの指導者たちが国際協力の新たな設計図を描く
【タイ・バンコクIPS=ベン・フィリップス】
国際協力を支えてきた従来の資金供給システムが突然崩壊した影響は甚大であり、世界各地に被害の連鎖をもたらした。その結果、世界はさまざまな危機に対してこれまで以上に脆弱になり、それに対応する力も低下している。その破綻の爪痕は誰の目にも明らかだ。問題は、次に何をすべきかである。|ENGLISH|
こうした損害に警鐘を鳴らすグローバル・ノースの一部の論者は、壊された国際協力の仕組みを元に戻すべきだと主張している。
しかし、それは実現しないだろう。
国際協力の資金危機は、単なる財源不足ではなく、そのモデルへの支持が揺らぎ、さらにそのモデルが体現していた父権主義的な援助観への支持も失われていたことの表れだったからである。
旧来の仕組みがこれほど急速に崩壊したのは、その構造自体がもともと不安定だったからにほかならない。
一方、グローバル・ノースでは、「現実主義者」を自称する別の論者たちが、今後の国際協力について、展望に乏しい二つの案を提示している。
しかし、そのどちらも明るい未来を描くものとは言い難い。
一つ目は、共有すべき世界的課題に投入できる資金が今後も減少し続けることを前提に、「より少ない資源でより多くを実現する(Do more with less)」という発想である。
だが、この考え方は失敗するだろう。
実際には、パンデミック、エネルギー不安、自然災害など、地球規模の脅威に対する共同対応に十分な資源を投入できなくなるからである。
その結果は、人類の存続そのものを脅かしかねないほど危険であり、共有された脅威に早い段階で対処する場合に比べ、すべての国に桁違いのコストを強いることになる。
もう一つの考え方は、これまで政府間で担ってきた責任を民間部門に委ねるというものである。
しかし、このアプローチも失敗するだろう。
世界共通の脅威に対応するための資金が決定的に不足するだけでなく、極端な格差をさらに加速させ、説明責任と権力を寡頭支配に明け渡す結果になりかねない。
こうした三つの実行不可能な発想―
旧来の秩序を復活させようとし続けること。
衰退を管理しながら受け入れること。
民間部門に責任を委ねること。
―が、現在のグローバル・ノースにおける国際協力論の大半を占めている。
しかし幸いなことに、グローバル・サウスの多くの政府は、共有された地球規模課題のための新たな資金調達の仕組みづくりに着実に取り組んでいる。
「世界公共投資」連合の誕生
セネガルとコロンビアの外相が共同議長を務める「世界公共投資(Global Public Investment)政府連合」には、すでに30か国以上が参加している。
その目的は、現在の世界的な転換期を、新たな国際協力体制を築く契機へと変えることである。
ウルグアイ国際協力庁のマルティン・クラビホ長官は、こう語る。
「私たちの課題は共通であり、リスクも共通です。そして、それに対する解決策も、ますます共有されるべきものになっています。」
「今必要なのは、協力の考え方そのものを進化させることです。各国が能力に応じて貢献し、必要に応じて恩恵を受け、資源の使い道について対等な立場で意思決定に参加する枠組みへ移行しなければなりません。」
コロンビア外相であり、同連合の共同議長を務めるロサ・ヨランダ・ビジャビセンシオ・マピ氏は、次のように述べる。
「世界公共投資は、各国政府が協力して地球規模の課題や危機を乗り越えるための、21世紀型の最も理にかなった答えです。」
「公共資金を大幅に拡充することが不可欠です。そして、その資金は、より代表性が高く、より効果的な仕組みの下で運営されなければなりません。」
また、セネガル外相で共同議長のシェイク・ニアン氏は、こう強調する。
「私たちは、従来の『援助する国』『援助される国』という発想を超え、対等で包摂的なパートナーシップへ移行しようとしています。」
「開発段階に関係なく、すべての国には貢献できることがあり、同時に正当な要求もあります。」
「国家、地域、世界が抱える課題を解決するために、慈善だけに頼ることはできません。また、民間企業だけが私たちを救ってくれると期待することもできません。必要なのは、より多く、そしてより質の高い公共資金です。」
2030年へ向けたロードマップ
この連合は、2025年7月、第4回開発資金国際会議で発足した。
同年9月には、国連総会の機会に第1回会合を開催した。
2026年には、3月にボゴタ、5月にナイロビで会合を開き、9月にはニューヨークで再び会合を開く予定である。
グローバル・サウスを基盤としながらも、グローバル・ノース諸国にも参加を呼びかけている。
ガーナの外相サミュエル・オクゼト・アブラクワ氏は、次のように語る。
「私たちが求めているのは慈善ではありません。求めているのは対等なパートナーシップです。」
レソト外相リンフォ・タウ氏も、こう述べる。
「これからの国際協力は、責任の共有と共通の利益をよりよく反映した仕組みへと進化しなければなりません。」
市民社会とも連携
各国政府は、市民社会とも密接に連携している。
クラブ・デ・マドリード(Club de Madrid)の事務局長、マリア・エレナ・アグエロ氏は次のように評価する。
「ここに結集している指導者たちは、多国間主義を再生し、つくり直そうとする先駆者です。」
「彼らがともに築こうとしている仕組みは、前世紀から引き継がれてきた手法よりもはるかに公平なものになるでしょう。すべての国が発言権を持ち、当事者として関与できるからです。」
「それはまた、世界中の人々の暮らしを改善するうえで、はるかに効果的な国際協力にもつながるでしょう。」
「危機の管理」ではなく「転換」を
参加国の指導者たちは、現在の混乱を単に和らげるだけでは不十分だと強調している。
彼らは、従来の手法はもはや戻ることはなく、戻るべきでもないと明確に認識している。
その代わりに目指しているのは、危機を突破口へと変え、相互依存が深まる世界にふさわしい国際金融の仕組みを、各国が対等な立場で再設計することである。
ケニア外務省のコリル・シンゴエイ筆頭次官は、次のように述べる。
「今日の世界の現実により即した、より包摂的で、より代表性が高く、より適切に機能する新たな国際金融アーキテクチャーが、緊急に必要とされています。」
また、パナマ外相のハビエル・エドゥアルド・マルティネス=アチャ・バスケス氏は、こう問いかける。
「私たちは、危機を管理した世代として記憶されたいのでしょうか。それとも、国際協力の流れを変えた世代として記憶されたいのでしょうか。」
「世界公共投資は、国際協力を変革するだけでなく、人類の未来そのものを変える力を持っています。」
各国の指導者たちは、2030年までに国際協力を変革するためのロードマップも策定している。
セントルシア外相のアルバ・バプティスト氏は、次のように述べた。
「適切なモデルを提示するために、長年にわたり多大な知的努力が積み重ねられてきました。」
そして最後に、こう締めくくった。
「今、私たちはそれを実行に移す責務を負っています。」
ベン・フィリップス氏は、『How...
忘れられた牛疫根絶の偉業―その教訓を生かさない代償
【ブリュッセル(ベルギー)IPS=アルミン・ヴィースラー】
家畜の感染症は、もはや農家や獣医師だけの問題ではない。その影響は、私たちの日々の家計にも及んでいる。近年の鳥インフルエンザの流行では、世界の卵価格が60%以上も高騰した。南アフリカでは、口蹄疫の発生によって牛肉価格が34%上昇した。これらは単なる価格変動ではない。予防が十分に機能しなかったとき、その代償を支払うのは、消費者である家族、農家、そして食料システム全体であることを示している。|英語版|
ちょうど15年前の今日、世界は別の道があることを証明した。2011年6月28日、国連(UN)は「牛疫(リンダーペスト)」の根絶を正式に宣言した。牛疫は、人類史上、地球上から完全に根絶された唯一の家畜感染症である。
何世紀にもわたり、このウイルスは数百万頭もの家畜を死に至らしめ、牧畜を壊滅させ、世界各地で飢饉を引き起こしてきた。
この根絶事業が成功したのは、科学、物流、そして政治的な意思が一体となったからである。世界規模の予防戦略は、継続的な監視体制、国際的な連携、そして冷蔵設備がなくても熱帯の遠隔地まで届けられる耐熱性ワクチンによって支えられた。その結果、人類を長年苦しめてきた脅威は、まず予防可能な病気となり、最終的には歴史上の病気となった。
この成功から得られる教訓は、科学的なものだけではない。経済的な教訓でもある。
国連食糧農業機関(FAO)の推計によれば、牛疫対策に要した費用は約6億1千万ドルだった一方、アフリカだけでも年間約10億ドルの経済効果をもたらした。つまり、予防は家畜を守っただけでなく、人々の生計を支え、食料安全保障を強化し、その投資額をはるかに上回る利益を生み出したのである。
しかし、この15年間、世界はその教訓を十分に、あるいは一貫して生かしてきたとは言い難い。
感染症が発生すると、依然として殺処分、家畜の移動制限、貿易停止といった緊急対応に頼るケースが多い。一方で、監視体制の強化、バイオセキュリティ対策、ワクチン接種、国際協力といった予防的な手段は、迅速に活用されているとは言えない。
現在問題となっているランピースキン病(牛伝染性皮膚病)は、その典型例である。診断技術やバイオセキュリティ対策、そして有効なワクチンは既に存在しているにもかかわらず、多くの国では、それらを十分な速度で活用できず、感染拡大や被害の抑制に苦慮している。
その背景には構造的な問題がある。国際貿易ルールがもたらす経済的リスクへの懸念が、必要な対策であっても各国の意思決定を難しくしているのだ。
各国は、「家畜と農家を守るか、それとも輸出市場へのアクセスを守るか」という、ほとんど不可能な選択を迫られる。その結果、世界の家畜衛生体制は、常に後手に回る「事後対応型」のままとなっている。
その間にも感染症は拡大を続けている。
昨年には、ランピースキン病や小反芻獣疫(PPR)が初めて新たな地域へ広がり、貿易に混乱をもたらし、農村社会に打撃を与え、食料安全保障を脅かした。
家畜を食料や収入、生計の糧としている世界10億人以上の人々にとって、これらは決して遠い国の出来事ではない。生活や地域経済に直接影響を及ぼす深刻な問題なのである。
だからこそ、牛疫根絶15周年は単なる回顧の日であってはならない。
予防は、次の危機が起きてから即興的に行うものではなく、危機が起きる前から計画されて初めて機能する―そのことを改めて思い起こす機会であるべきだ。
各国の備えはもちろん重要だが、感染症は国境を越えて広がる。どの国も単独で家畜衛生上の脅威を完全に制御することはできない。
そのためには、監視体制を強化し、ワクチン接種を後押しする制度を整え、予防を妨げている貿易や政策上の障壁を取り除くための国際協力が不可欠である。
こうした課題に取り組む上で、世界動物保健機関(WOAH)の「PREVENTフォーラム」のような取り組みは重要な役割を果たし得る。各国政府、国際機関、民間企業が協力し、個々の国だけでは解決できない障壁を取り除くための場となるからである。
しかし、協力は議論だけで終わってはならない。
監視体制や診断能力への投資拡大、ワクチン接種の活用や国際的な承認制度の明確化、感染症発生時にこれらの手段へ迅速にアクセスできる体制づくりなど、具体的な制度改革につながる必要がある。
目指すべきなのは、危機への対応能力を高めることだけではない。危機そのものを未然に防ぐことである。
この3年間だけを見ても、鳥インフルエンザ、ブルータングウイルス感染症、口蹄疫、ニューカッスル病などが世界各地で相次いで発生している。
次に世界へ大きな衝撃を与える家畜感染症が何になるのか、そしてどこで発生するのか、私たちにはまだ分からない。
しかし、牛疫の根絶は、科学、政治的意思、そして国際協調が結集すれば、世界は行動できることを証明した。
問われているのは、予防が可能かどうかではない。
次の危機が訪れる前に、それを最優先課題として取り組む意思が、私たちにあるのかどうかなのである。
アルミン・ヴィースラー博士は、HealthforAnimals(ヘルス・フォー・アニマルズ)会長。
INPS Japan
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人類共通のグローバル・フィールド―持続可能な開発目標(SDGs)を達成するためのゲーム
日々、もう一つのゲームが繰り広げられている。その勝利は一国だけのものではなく、人類全体のものだ。このゲームの目標は、より公正で、健やかで、公平かつ持続可能な社会を築くことである。
【メキシコシティーIPS=ギレルモ・アヤラ・アラニス】
サッカーは、世界で最も多くの人々に観戦されているスポーツである。35億人を超える人々を魅了する世界最大のスポーツであり、国境や文化、言語の壁を越えて人々を結ぶ共通言語でもある。2026年には、カナダ、メキシコ、米国の北米3カ国でFIFAワールドカップが共同開催され、スタジアムの内外で数百万人の人々を魅了した。|スペイン語版|英語版|
サッカーのピッチでは、対戦する二つのチームが、戦略、規律、チームワークを駆使して勝利を目指す。最終的に勝敗を決めるのはスコアである。
しかし、日々繰り広げられているもう一つのゲームがある。そのフィールドは私たちの地球であり、勝利を手にするのは一国ではなく、人類全体だ。このゲームが目指すゴールは、より公正で公平な、人々が健やかに暮らせる持続可能な社会を築くことである。
こうした発想を出発点として、国連メキシコ事務所はメキシコ市政府と協力し、ワールドカップの熱気と持続可能な開発目標(SDGs)を結び付けるイベント「アルデア・グローバル2026」を開催した。
会場では、30カ国以上が料理や民族衣装、観光資源、伝統、香りなどを通じて、それぞれの文化を紹介した。さらに、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連食糧農業機関(FAO)、国連女性機関(UN Women)、国連教育科学文化機関(UNESCO)、国連児童基金(UNICEF)をはじめとする15の国連機関・基金・計画が、会期中に訪れた300万人近い来場者に向けて、さまざまな催しを行った。
これらの催しの中には、SDGsに着想を得たものもあった。その一つが、参加型壁画「未来へのゴール」である。ここでは数千人の来場者が、SDGsへの支持を表すメッセージを書き込んだほか、国連の「フットボール・フォー・ザ・ゴールズ」プログラムの一環として、平和と平等への願いを込めた象徴的なペナルティーキックに挑戦した。
「フットボール・フォー・ザ・ゴールズ」は、サッカーが持つ世界的な影響力を活用し、サッカーに関わる幅広い人々の参加を促すとともに、SDGs達成に向けた協働を広げる取り組みである。
子どもの人身取引と搾取にレッドカード――SDGs 8・5・16
人身取引の被害者である可能性のある人に気づき、疑わしい状況を通報することは、その人が搾取され続けるのを防ぐことにつながる。
国連薬物犯罪事務所(UNODC)メキシコ事務所のフェルナンダ・ルイス氏は、人身取引は通報されないケースが多く、その被害は特に子どもや青少年に及んでいると指摘した。
ルイス氏はまた、人身取引との闘いにおいて、市民は誰でも、その防止に向けて声を上げ、行動する担い手になれると強調した。そうした市民一人ひとりの行動は、ジェンダー平等(SDG 5)を促進するとともに、平和と公正が行き渡り、強固な制度が機能する社会(SDG 16)を築くことにもつながる。
ルイス氏は、メキシコはその地理的条件から、人身取引の送出国であると同時に、通過国、目的国にもなっていると説明した。主な搾取の形態は、性的搾取と強制労働である。
このため、人身取引が疑われる兆候を市民に周知することが、対策の一つとなっている。例えば、本人が自分の身分証明書を管理できない、おびえた様子を見せている、別の人物が本人に代わって意思決定している、あるいは旅行中に通常とは異なる不自然な状況が見られる、といった場合である。
「伝えたいのは、私たちも『ボールを次につなぐ』ことができるということです。市民である私たちには、何が犯罪に当たるのか正確には分からないかもしれません。それでも、不審な状況に気づき、その情報を専門機関につなぐことはできます」とルイス氏は語った。
UNODCの『人身取引に関する世界報告書2024』によれば、確認された被害者の大半を女性と少女が占めている。
沈黙の敵、高血圧――SDG 3
自分の血圧を把握することは、いわば試合開始のホイッスルが鳴る前に勝利を手にするようなものだ。
汎米保健機構(PAHO)は「アルデア・グローバル2026」に参加し、慢性疾患の予防に焦点を当てた取り組みを展開した。
PAHOのコンサルタント、アリエド・ベンコモ氏は、高血圧が心血管疾患や脳血管疾患の主要な危険因子の一つであると説明した。また、「すべての人に健康と福祉を」を掲げるSDG 3は、疾病の早期発症を防ぐことも目指していると指摘した。
来場者の血圧を測りながら、ベンコモ氏は次のように語った。
「高血圧は、自覚症状がほとんどない『沈黙の病気』です。早期に発見できれば、その診断は一つの贈り物といえます。それによって、質の高い生活を送れる年月を自分自身に贈ることができるからです」
リカルド・ペレス・オソリオ氏は、「アルデア・グローバル2026」で行われた血圧測定などの活動は、健康管理と予防に対する意識を高めるうえで重要だと語った。
「私は高血圧なので、自分の状態を確かめたくて測ってもらいました。でも、きちんと管理できていますし、毎日自分で血圧を測っています」
公式データによると、メキシコでは人口の70%が過体重で、国民の3人に1人近くが肥満に該当する。肥満は主に、糖尿病や高血圧を含む心血管疾患、骨や筋肉の障害、特定の種類のがんなどと関連している。
また、大勢の人々が集まる会場とメキシコ市の夏特有の暑さを踏まえ、SDG 3を推進する取り組みでは、水分補給の重要性も繰り返し強調された。
ベンコモ氏は次のように注意を促した。
「熱中症や脱水症状には十分に警戒することが重要です。特に高齢者と5歳未満の子どもには注意が必要です。成人であっても危険があることを、私たちは過小評価しがちです。また、子どもが脱水状態に陥りつつあることに気づかず、見過ごしてしまう場合もあります。子どもの脱水症状は命に関わるおそれがあり、熱中症は死に至ることもあります」
サッカーは多様性への理解も育む
文化交流は、世界を見る視野を広げる機会となった。
メキシコで暮らし始めて3年になるブラジル出身のファビオ・ガルシア氏は、異なる文化に触れることは、特に若い世代にとって有益だと強調した。
「私たちは非常に多様な世界に生きています。他の文化について少しでも多く知ることで、物事をより広い視野から捉えられるようになり、偏見にとらわれにくくなります」
一方、コロンビアのカリから8人の家族とともにメキシコ市を訪れ、スタジアムで母国代表の試合を観戦したラウル・ガジェゴ氏は、イベントに集まったさまざまな国の人々との間に生まれた親しみや一体感を楽しんだ。中でも最も心に残ったのは、人々の温かいもてなしだったという。
このゲームは、90分を迎えて試合終了のホイッスルが鳴っても終わらない。平等、健康、平和、そして持続可能な開発の実現に向けた一つひとつの行動が、人類全体のスコアを着実に押し上げていく。
「アルデア・グローバル2026」は、サッカーが人権を守り、国際協力を促す架け橋にもなり得ることを示した。
持続可能な開発目標というフィールドに、対戦相手はいない。私たちは皆、同じチームの一員だからだ。そして、私たちが勝ち取るべき唯一の栄冠は、より良い世界の実現なのである。
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SGIが声明を発表 「戦闘を自動化する兵器の早期規制を」
【東京INPS Japan=SGI】
近年、各地で起きている紛争を契機として新興技術を利用した兵器の開発や導入が進んでいる。このうち、今後の紛争を根源から変質させかねない恐れがある兵器として国際社会で懸念が高まっているのが、AI(人工知能)などを用いた自律型兵器システム(AWS)である。|英語版|
この“人間の介在なしに標的を特定し武力を行使する兵器”の問題を巡り、SGI(創価学会インタナショナル)が「戦闘を自動化する兵器の早期規制を」と題する声明を発表した。 この声明は、世界の各地域(アジア太平洋、ヨーロッパ、アフリカ、北米、中南米)で平和運動を進める国々のリーダーなどで構成される「SGI声明委員会」が中心となってまとめたもの。地球的な課題をテーマにしたSGIの声明として、昨年1月(核兵器)、昨年11月(気候危機)に続くものである。 声明ではまず、自律型兵器システムに対し、国際的な規制と禁止を求める国が着実に広がってきたことに言及。 本年11月の特定通常兵器使用禁止制限条約の運用検討会議に向けて、さらに建設的な議論を進め、自律型兵器システムの国際的な規制の早期確立――特に人間を標的にした自律型兵器システムを禁止することを呼びかけている。 その上で、これまで池田大作先生がSGI会長として発表してきた平和提言における洞察を通しながら、こうした兵器にひそむ重大な非人道性の問題について指摘。自律型兵器システムの規制と禁止を求める「ストップ・キラーロボット」の連合体に加わる市民社会の団体や宗教者などと力を合わせて、条約の締結に向けたうねりを高めていくことを表明している。 「生命の尊厳」を根源から突き崩す非人道的な対人兵器の禁止が急務
「われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救う。」 多くの国の民衆の尊い生命を奪った第2次世界大戦の痛切な反省に立って、国連憲章の前文に、この“人類共通の誓い”が刻まれてから、先月で81周年を迎えた。 国連の創設以来、東西冷戦という長らく続いた世界の分断をはじめ、度重なる危機に直面する中でも、国際社会では紛争解決や平和構築への努力が重ねられ、さまざまな軍縮条約の締結も、市民社会の力強い後押しを得ながら、一歩一歩、前進をみてきた。 しかし今、その長年にわたる国際社会の努力の積み重ねを、根底から突き崩しかねない状況が生じている。 ここ数年、ウクライナをはじめ、中東やアフリカなど各地で紛争や軍事力の行使が次々と広がる中、赤十字国際委員会などが警鐘を鳴らすように、「国際人道法の基本原則が、常態的に、そして意図的に侵害されている現状」が続いているからだ。 その結果、子どもや女性、高齢者や病気を患っている人々を含む、大勢の一般市民が犠牲となる被害が繰り返されている。 加えて憂慮されるのは、こうした現在の紛争を契機として、AI(人工知能)をはじめとする新興技術を用いた兵器の開発や導入が急速に進んでいることである。 “ドローンや高度な兵器の使用によって悪化した残虐な戦争のパターン”と赤十字国際委員会が警告するこの状況は、紛争が長期化するスーダンでもみられ、一般市民が容赦ない攻撃にさらされてきた。こうした危険で非人道的な傾向が今後も続くことになれば、武力行使の敷居が著しく低くなり、多くの人々の生命と尊厳を脅かす悲劇がさらに世界で広がりかねない。 そこで私たちSGIが今回の声明で呼びかけたいのは、AIなどを用いた自律型兵器システム(AWS)の国際的な規制の早期確立――とりわけ、人間を標的にした“対人兵器”としての自律型兵器システムの全面禁止である。
国連憲章採択の舞台となった米・サンフランシスコ市内の建物を1993年3月に訪れ、「国連貢献・国際文化交流推進賞」の授賞式で謝辞を述べる池田先生。日本の軍国主義と戦い抜き、国連憲章採択の1週間後(1945年7月3日)に出獄した創価学会第2代会長の戸田先生の信念は、国連憲章と同じく「戦争の流転の歴史を、根源的に転換せんとする熱願」に基づくものだったと強調した
条約の交渉開始を求める国々が拡大
自律型兵器システムとは、一般に“人間の介在なしに標的を特定し、武力を行使する兵器システム”と定義されるものである。 今、その開発が各国で歯止めのないまま進んでいるだけでなく、試験的な配備や使用が一部で現実化しつつあることに、国際社会で懸念が高まっているのだ。 このうち、極めて殺傷能力が高いものは「自律型致死兵器システム(LAWS)」と呼ばれる。このLAWSの問題や自律型兵器システムの規制に関する国際的な議論が、本年11月の特定通常兵器使用禁止制限条約の運用検討会議に向けて、大詰めを迎えようとしている。 昨年9月の政府専門家会合で、LAWSを規制する条約などの法的文書の交渉を進める用意があることを表明した共同声明を42カ国が支持したのに続き、本年3月の政府専門家会合ではその支持が70カ国に広がった。 これまでも、国連のグテーレス事務総長と赤十字国際委員会のスポリアリッチ総裁が共同で、自律型兵器システムに対する明確な禁止と制限を定めた新たな法的拘束力のある文書の交渉開始を呼びかけてきた。 また本年5月には、ローマ・カトリック教会の教皇であるレオ14世が、“AIの時代における人間の人格の保護”をテーマにした回勅を発表する中で、AIと連携した兵器の使用に対し強い警告を発し、次のように訴えた。 ――AIは、紛争に内在する非人間性を取り除くものではない。むしろ、紛争をより迅速に引き起こし、より非人間的なものにし、暴力に訴えるハードルを下げ、防衛を脅威の予測へと変容させ、その結果、犠牲者を単なるデータへと還元してしまう。このようにしてAIは、私たちに“暴力は避けられないものであり、あとはそれをいかに最適化するかだけが問題だ”という考えを刷り込んでいくことになる――と。
SGIが他の団体と共催した、自律型兵器システムの問題への理解を深める展示。顔認証技術に関する問題を巡るコーナーも(2023年10月、ニューヨークで)©Alexander Bitar
私たちSGIは、これらの呼びかけや問題提起に深く賛同する。なぜなら、私たちが信奉する仏法の中核をなす「生命の尊厳」の思想と深く響き合うものだからであり、人間の生命や尊厳に深刻な影響を及ぼす問題を巡る重大な決定や判断を、AIに委ねることはあってはならないと考えるからである。 これまでSGIは、自律型兵器システムの規制と禁止を求める市民社会の連合体「ストップ・キラーロボット」のキャンペーンに2018年から参画し、国際人道法上の問題点を浮き彫りにした映画「インモラル・コード」の上映を行うなど、草の根レベルでの意識啓発を進めてきた。 また、世界教会協議会などと「宗教間共同声明」を2021年に発表し、“人類共通の価値を守るためには、LAWSの運用を断固拒否しなければならない”と主張してきたほか、さまざまな国際会議でSGIとして声明を発表する中で、人間をデータとして扱い、非人間化する自律型兵器システムの危険性を訴え続けてきた。
自律型兵器システムが及ぼす影響とその規制と禁止を訴える映画「インモラル・コード」の発表会(2022年5月、イギリスのロンドン市内で)
良心の呵責や逡巡の余地もない攻撃
振り返れば、特定通常兵器使用禁止制限条約の枠組みにおいてLAWSの規制を巡る初めての非公式会合が行われた2014年に、SGI会長の池田大作先生が、平和学者のケビン・クレメンツ博士との対談(『平和の世紀へ 民衆の挑戦』潮出版社)で、次のような警鐘を鳴らしていたことが思い起こされる。
「ひとたび戦闘開始の命令を下せば、人間の意思が介在する余地もなく――したがって良心の呵責も逡巡さえも一切生じることなく――自動的に攻撃を続ける殺人ロボット兵器は、人道的観点からもきわめて重大な問題をはらんでいます。 これらの兵器や核兵器の保有を正当化してしまう論理の奥底にあるのは、いったん相手を敵とみなせば、戦闘員・非戦闘員の区別なく徹底的に殲滅するという『究極の排除』の思想ではないでしょうか」と。
この危機意識に基づいて池田先生は、そのような兵器の開発と配備を禁止する枠組みづくりを早急に進めることを提唱したのである。 当時はまだ、AIなどを用いた自律型兵器システムは“未来の兵器”として捉えられ、規制の緊急性に対する国際的な認識はなかなか広がらなかったが、現在においては“今そこにある危機”となっている。 これまでのLAWSの規制を巡る政府専門家会合でも、兵器の運用に対して「人間による有意の制御」を求める声が高まっており、本年3月の会合では、それをさらに厳格化するものとして、兵器を配備する際の状況や環境に加えて国際人道法の条項の文脈を踏まえた「コンテクストに応じた適切な人間の判断と制御」を基本原則にする必要があるとの認識も広がってきた。 つまり、攻撃に関する決定を機械だけに委ねてはならず、法的な責任を負うことを含めて、人間が兵器の開発や運用のプロセスに関与することが欠かせないとの認識である。 こうした中、3月の会合で赤十字国際委員会が、国際人道法の遵守を確実にするため、「人間を標的にした自律型兵器システムの禁止」を定めた条項を合意に盛り込むことを提案した。 市民社会の連合体である「ストップ・キラーロボット」も、この提案を支持しており、人類が“自動化された殺戮”へと危険な形で進み続けることを防ぐために、各国政府に対し、法的および倫理的なルールを整備するよう呼びかけている。 私たちSGIも、その主張に深く同意する。国際的な規制の中核をなすものとして、「人間を標的にした自律型兵器システムの禁止」を実現することを、強く求めるものである。 次回の政府専門家会合は、8月31日から9月4日に開催される予定となっている。70カ国が支持する共同声明を土台としながら、この最終会合で建設的な議論を重ね、11月の運用検討会議に提出する報告書で、「人間を標的にした自律型兵器システムの禁止」を盛り込んだ条約の交渉開始の方針を明確に打ち出すことを呼びかけたい。
“他者を害しない”との誓いが悲劇の拡大を止める原動力に
LAWSに対する池田先生の洞察
かつて池田先生は2019年の平和提言で、自律型致死兵器システム(LAWS)にひそむ問題の本質を浮き彫りにするような洞察を次のように示していた。
「もし、LAWSが規制されないまま、実際に使用される事態が起きた時、紛争の性格は根源から変わってしまうに違いありません。 そこでは、すでにドローン兵器の場合にみられるような、攻撃をする側と攻撃される側の人間が同じ空間にいないという“物理的な断絶性”に加えて、実際の戦闘行為が攻撃を意図した人間と完全に切り離されるという“倫理的な断絶性”が生じるからです」
その上で池田先生は、ドイツのヴァイツゼッカー元大統領が第2次世界大戦中に敵部隊と遭遇した時の出来事を回想しながら述べていた、「戦線の両側では、自分の命を気遣い、したがって互いにとてもよく似た心配をしている人間同士が対峙していた」との言葉と対比させつつ、LAWSのような兵器が紛争を根源的に変質させる恐れについて二つの面から問題提起を行っていた。
このような兵器が用いられた場合、敵味方に分かれた相手に対する複雑な思いや、人間性の重みを感じて、一時的であれ、戦闘行為を踏みとどまることはあり得るのか――と。 また、LAWSによる戦闘が行われた後に、従来の紛争でみられたような、自身が関わった行為に対する“深い悔恨”や、戦争に対する“やりきれない思い”、そして、次の世代のために平和な関係を築き直したいと切実に願う“一人の人間としての決意”が入る余地は、そこにあるのだろうか――と。
私たちSGIはこうした池田先生の洞察を基盤にして、「人間による有意の制御」を欠いた自律型兵器システムにひそむ重大な非人道性の問題を踏まえながら、自律型兵器システムに対する規制と禁止を訴え続けてきた。
1991年6月、統一ドイツのヴァイツゼッカー初代大統領と会談する池田先生。同年1月から2月にかけて起きた湾岸戦争を踏まえて、大統領は「将来に向かって我々が真剣に考えるべき問題は“(国連に)どのような機構があるか”よりもむしろ“何が安全を脅かすか”です」と指摘。“武力による平和”からの脱却を一貫して訴えてきた池田先生は、大統領の問題提起に賛意を示した(ボン市内の大統領官邸で)
人命の軽視や多大な犠牲を招く危険
この非人道性の問題に関して、これまでの国際会議の議論では、こうした兵器が“民間人に対する攻撃と無差別的な効果をもたらす兵器を禁じる国際人道法を脅かすこと”や、“攻撃をする側の犠牲を抑える自律型兵器システムの導入が、軍事力の行使に対する敷居を著しく下げることにつながること”への懸念が、繰り返し指摘されてきた。 私たちSGIは、この国際人道法上の懸念に加えて、仏法者としての立場から「生命の尊厳」の思想に基づき、“自律型兵器システムによって、攻撃される側の人間は単なるデータとして扱われ、その「デジタル技術による人間性の抹殺」が、人命を奪うことや多大な犠牲が生じることへの軽視につながり、「生命の尊厳」を根源から突き崩していく”という事態に対する警鐘を鳴らしてきた。 それ以外にも、自律型兵器システムにひそむ危険性として、不正確な情報や解釈などをもとに「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる現象をしばしば起こすという問題や、何をどのように学習して判断を導き出したのかという過程が不明瞭である「ブラックボックス」といった問題があることが指摘されてきた。 そうした誤認識や予期しない誤作動が引き起こす被害や、説明責任を背負うことができない自律型兵器システムによる攻撃で、一人一人の人間にとって“かけがえのない存在”である家族や友人の命が奪われる悲劇が広がりかねないのである。 このような点に加えて、SGIがこれまでの会議で人権の視点に照らして特に注意を喚起してきたのが、AIのアルゴリズムは、民族や人種などに対する社会の偏見を反映するだけでなく、増幅させる危険性があるという点だ。 特に、人間を特定のカテゴリーに分けて特徴や傾向などの人物像を推論し、“その集団に属する人々が、将来、どのような行動をとるか”を一方的に決めつけてしまう「固有の犯罪性」という予見に基づいて、自律型兵器システムによる攻撃の標的にされる恐れがあるのだ。
オーストリア政府の主催で2024年4月にウィーンで行われた国際会議「岐路に立つ人類――自律型兵器システムと規制の課題」。市民社会による意見表明の場も設けられ、SGIの代表が“人間の生命に関わる意思決定を、AIなどに委ねることは看過できない”と主張した
人類の精神遺産が国際人道法の礎
こうした非人道性の観点とともに、私たちSGIが今回の声明を通じて、強く警鐘を鳴らしたいのが、国際的な規制が設けられないまま、自律型兵器システムの使用が紛争において主流となった場合、“紛争を止める力が一人一人の人間から根源的に奪われてしまう危険性”についてである。 各地の紛争で一般市民への被害が拡大し、非人道的な攻撃が多発する中、国際人道法をはじめ国際法を取り巻く状況への憂慮が、かつてないほど高まっている。 今後、一般市民を巻き込むような攻撃が、自律型兵器システムの野放図な使用によって紛争で半ば自動化されるようになった場合、紛争の性格は根源的に変質することになり、国際法を支える基盤となってきた“人間の良心”が歯止めとなる余地は完全に失われてしまう。 2年前(2024年5月)、スイスにある赤十字国際委員会の本部で、国際人道法の中核をなすジュネーブ諸条約の75周年を記念し、“人類共通の遺産”としての国際人道法の意義を巡るシンポジウムが行われた。 この“人類共通の遺産”という表現が象徴するように、歴史を通じてさまざまな宗教、伝統、文化が、戦時中に人道を維持するための規範を形づくる礎となってきた側面がある。 「戦争における人間性の保護」という理念は、国際法の普遍的な規範となる以前から育まれてきたものにほかならず、この規範を揺るがないものにするために、私たちは人類の精神的遺産として受け継がれてきた思想や精神に改めて目を向けることが重要となろう。
昨年10月、イタリアのローマで行われた宗教間の国際会議。世界50カ国から集ったキリスト教、イスラム、仏教、ユダヤ教、ヒンズー教などの関係者と共に、創価学会の代表も参加。分科会では、核兵器や難民問題のほか、AIに関する問題も討議された
仏教の説話が示す平和回復への教訓
仏教においても、戦争と平和に関する教訓が、さまざまな形で説かれている。 例えば、「刀兵劫」と呼ばれる“武器の時代”を巡る次のような説話がある。 ――ある国の王が、人々の幸福を大切にする旧来の法を踏襲しなくなったことをきっかけに社会で人心が乱れた。その中で「猟師が鹿の群れを見たときのように、人々は出会えばいつも殺したい」と思うような状態に陥り、“武器の時代”に突入した結果、人間の寿命が著しく短くなった。 しかし、人々が次々と傷つけ合う極限の状況下にあっても、「おまえが私を傷つけないなら、私もおまえを傷つけない」と声を発して、暴力の連鎖に自らの身を投じることから踏みとどまろうとする人々もいた。 そして、生き残った者同士が出会った時には、「おまえは生きていたのか。おまえは生きていたのか」と、他人であってもまるで家族であるかのように喜び合った。そうした行いが模範となって、次第に慈しみの心が社会に取り戻され、国は平和を取り戻し、人間の寿命も再び延びるようになった――との教えが説かれている(長阿含経)。 翻って現代、自律型兵器システムの使用が紛争で主流化し、人々の命を奪う殺戮行為が自動化するようになってしまえば、他者を害しないという“人間の切なる思いから発する誓い”の重みも、根底から意味を失いかねないのではないだろうか。 安全保障はどの国にとっても重要だとしても、“世界の民衆の生存の権利”を根源的に脅かす新たな兵器に対しては明確な一線を引く必要があると、私たちは強く訴えたいのである。
市民社会の連帯で条約締結のうねりを!
“眼差しの転換”で破壊と分断を防止
自律型兵器システムの規制に消極的な国の間では、“攻撃の精度を上げることで市民の犠牲を抑えることができる”との主張がある。しかし、他の国々が兵器の開発や導入を進めるようになり、紛争の勃発を機にそれが自国の人々に向けられた場合にも、使用を容認できる兵器と言い切れるのだろうか。 軍縮の問題とは分野は異なるが、池田先生が2015年の平和提言で人権問題を巡って次の洞察を通し、“眼差しの転換”を呼びかけたことがあった。
「そもそも、差別に基づく暴力や人権抑圧が、自分や家族に向けられることは、誰もが到底受け入れられないもののはずです。 しかしそれが、異なる民族や集団に向けられた時、バイアス(偏向)がかかり、“彼らが悪いのだからやむを得ない”といった判断に傾く場合が少なくない」 「だからこそ、相手の立場を互いに理解する努力が、ますます重要になってきています。 その努力を欠いてしまえば、緊張が高まった場合などに、自分たちにとっての『平和』や『正義』が、他の人々の生命と尊厳を脅かす“刃”となる事態が生じかねません」と。
思うに、自律型兵器システムの規制と禁止を巡る各国の討議を建設的なものにするためには、こうした“眼差しの転換”による問題の問い直しの作業が大切になるのではないだろうか。 私たちSGIは、軍縮や人権をはじめとする地球的な課題を巡って、「宗教間対話」や「文明間対話」に積極的に取り組むとともに、民衆レベルでの文化交流や教育交流に一貫して力を入れてきた。世界平和への道を開き、地球的な問題の解決に取り組む連帯の裾野を広げるためには、国家の枠組みを超えた対話や交流を通じた“眼差しの転換”が欠かせないと考えてきたからにほかならない。 本来、平和に関わる問題も、人権の問題と同様に、誰もが等しく守られることを眼目として取り組まねばならない。人類の行く末を「破壊」や「分断」に向かわせないために強く求められるものも、その一点にあろう。 私たちSGIは、自律型兵器システムの規制と禁止を求める国々や赤十字国際委員会をはじめ、「ストップ・キラーロボット」の連合体に加わる多くの市民社会の団体や宗教者などと力を合わせるとともに、次代を担う青年世代を中心にグローバルな民衆の連帯を広げながら、条約の締結に向けたうねりを力強く高めていく決意である。 *** *** ***
<語句解説>特定通常兵器使用禁止制限条約 非人道的な効果を有する特定の通常兵器の使用禁止や制限に関する条約で、1980年に採択され、83年に発効。基本的な事項を定めた条約と、焼夷兵器や失明をもたらすレーザー兵器など個別の通常兵器について規制する五つの付属議定書から成る。 ストップ・キラーロボット 2012年の設立以来、自律型兵器システムの規制と禁止を求める運動を推進。その取り組みには、75カ国以上で活動する300を超える団体が参画している。 ジュネーブ諸条約 1949年にジュネーブで採択された、戦時における文民の保護などを定めた四つの条約の総称。77年に採択された同条約に関する二つの追加議定書によって補完されている。 アルゴリズム 一定のルールに基づいて判断や結論を導く計算や処理の手順。
<引用文献>
ヴァイツゼッカー元大統領の言葉は、『ヴァイツゼッカー回想録』(永井清彦訳、岩波書店)。 仏教の説話は、『現代語訳「阿含経典」――長阿含経』第2巻(平河出版社)収録の「転輪聖王修行経」(辛嶋静志訳)を引用・参照。
INPS Japan
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