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米中首脳会談後の台湾
この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています
トランプ氏と習近平氏による首脳外交は、台湾海峡に平和をもたらせるのか。
【Global Outlook=ヒュー・マイアル】
2026年9月23日から25日にかけて、中国の習近平国家主席をワシントンに迎えたトランプ米大統領は、習主席との関係について「これほど良好だったことはない」と語った。米大統領が中国にふさわしい敬意を払い、さらには自分を立てる姿勢まで示したことを、習主席は喜ばしく受け止めたに違いない。|英語版|
両国は、「尊重、公平、平等に基づく、建設的、戦略的かつ安定した米中関係」を築くことで合意した。表面上、今回の首脳会談は世界の二大国の関係にとって前向きな節目となり、11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議と12月のG20首脳会議に向けても、好ましい先例となり得るものだった。
しかし、ワシントンでの会談から生まれた具体的な合意は限られていた。貿易戦争の休戦措置が延長され、人工知能(AI)をめぐる対話を行うことで合意した。ジャイアントパンダ2頭がアトランタ動物園に貸与されることにもなった。
おそらく最も重要だったのは、両国軍が「危機に関する意思疎通と危機予防を改善するための覚書を、できるだけ早期に締結する」ことで合意した点だろう。実現すれば、危機の拡大を防ぐ重要な安全装置となる。習主席は、米中関係が「歴史的な節目」を迎えたことを歓迎した。おそらく、両国の相対的な力関係の変化を指していたのだろう。そして、両国は「トゥキディデスの罠」を回避しなければならないと、トランプ大統領に改めて指摘した。
だが、その罠に陥る危険が最も高い台湾問題では、具体的な進展はなかった。中国側が最初に公表した会談概要によると、習主席は台湾問題を取り上げ、米国が「『台湾独立』に反対する正しい立場を堅持し、台湾問題を慎重に扱う」ことに期待を示した。一方、米国側の会談概要には、台湾への言及が一切なかった。
トランプ大統領の台湾に関する発言は、前任者のものとは大きく異なる。バイデン前大統領は、中国が侵攻した場合には台湾を防衛すると4度にわたって述べ、米国の公式の立場を踏み越えた。これに対して、トランプ大統領はこう語っている。
「私は誰かが独立することを望んでいるわけではない。それに、われわれは戦争をするために9500マイルも移動しなければならないという。そんなことは望んでいない」
トランプ氏はまた、400億ドル規模の台湾向け武器売却案件を、有用な交渉材料とみて保留している。
米国の公式政策は、依然として「戦略的曖昧さ」である。米国は台湾の独立を支持せず、台湾の防衛に駆けつけることも保証していない。ただし、台湾関係法は、武器売却を通じて台湾の自衛を支援することを米国に求め、台湾の将来を武力で変えようとするいかなる試みも、米国にとって重大な懸念事項になると定めている。
トランプ政権の公式声明は従来の立場から逸脱していないが、大統領自身は、台湾をめぐる問題に巻き込まれることへの消極的な姿勢を明らかにしている。同政権の2025年国家安全保障戦略は、第一列島線の防衛に言及し、「台湾を奪取しようとする試み、あるいは台湾防衛を不可能にするほど米国側に不利な戦力バランスを生み出そうとする試みを、いずれも阻止できるよう、米国と同盟国の能力を強化する」としている。
では、今回の首脳会談を踏まえ、安心供与と抑止にはどのような展望が開けるのだろうか。昨年、戸田記念国際平和研究所は、中国社会科学院と共同で、台湾問題に関する複数の国際ワークショップを開催した。参加者たちは、台湾有事を回避するため、米国、中国、台湾当局が、抑止を補完する安心供与措置を講じる可能性を検討した。
台湾当局は、トランプ大統領の発言や「米国第一主義」政策によって、抑止力が弱まったのではないかと懸念している。西半球における米国の優位性の主張、同盟国に対する扱い、イランへの攻撃と封鎖、そしてウクライナ支援への消極的な姿勢は、いずれも台湾の人々に安心感を与える先例とはいえない。
紛争が起きた場合、トランプ政権下の米国が台湾の支援に駆けつけるという信頼は、大幅に低下している。トランプ大統領の一貫性を欠く姿勢は、抑止力を損なうだけではない。一貫した安心供与政策を進める可能性も損なっているように見える。
トランプ大統領は、中華民国(台湾)の頼清徳総統の訪米を阻止し、武器供給も保留してきた。しかし、こうした措置には、関係当事者に対し、台湾海峡の緊張を平和的に解決する道を探るよう促す、持続的な外交努力が伴っていない。
一方、米中関係という枠組みの外では、この方向を目指す地域内の取り組みもある。中国当局は、台湾の政治学者リー・ツーザー(Li Ci-ze)氏の論文を歓迎した。同氏は、「一国二制度」の枠組みを中華人民共和国の憲法に明記し、台湾の立法上の自治、司法の独立、市民的自由を保障することを提案している。
国民党(KMT)の鄭麗文主席も、両岸の意思疎通を改善し、関係を制度化することで、北京に対して平和的な将来への信頼できる道筋を示すべきだと主張している。その構想は、「一つの国」という現状を国際社会が認め、中国が台湾の特別な地位を承認することを基盤に、ワシントンと北京の双方との良好な関係を支えるというものだ。
他方、中国政府は、福建省と広東省の地方当局に対し、両岸の発展に向けた取り組みを試行するよう促す一方、より強圧的な介入やグレーゾーン戦術の準備も続けている。
かつては、2027年が台湾有事の起こり得る年と考えられていた。習主席が人民解放軍に対し、その年までに準備を整えるよう求めていたためだ。しかし現在、一部の識者は2028年の方が、その可能性が高いとみている。具体的には、2028年1月の台湾の選挙から、2029年1月の次期米政権発足までの期間である。
頼清徳総統が再選され、民主進歩党(民進党)が立法院で過半数を獲得すれば、習主席は、平和的な統一の選択肢は尽き、武力行使に踏み切るうえで、これ以上好都合な機会はないと判断するかもしれない。それでも、中国と世界経済に及び得る影響を考えれば、慎重であるべき理由はなお十分にある。
一方、2028年1月の選挙で国民党が勝利すれば、中国と台湾の緊張は和らぐ可能性が高く、両岸の貿易と交流は拡大し、中国による侵攻の危険性はごく小さいだろう。
AIを支える先端半導体の98%を製造・輸出する台湾の重要性は、紛争が双方に損失をもたらす可能性と、平和的な解決が双方に利益をもたらす可能性を、いっそう際立たせている。
現状維持は、台湾の人々が望み、多くの識者が支持する選択肢である。しかし、中国政府にとって現状は依然として受け入れ難い。そのため、米中関係が再び悪化し、台湾当局が中国を刺激するような行動を取れば、台湾海峡をめぐる対立が、より広範な紛争の引き金となる危険は残る。
現在の機会を生かし、この危険を回避するための平和的な手段を探ることは、すべての関係当事者の利益にかなう。戸田記念国際平和研究所のこれまでの論考が示してきたように、継続的な安心供与措置を追求することは、その取り組みを前進させるための不可欠な手段であり続ける。
Original URL: Taiwan After the Summit |...
ギリシャで大規模抗議デモ―アテネなど全国50超の都市で教育・医療の充実と生活費高騰対策を要求
【ギリシャ・アテネINPS Japan/London Post=編集部】
ギリシャ全土で10月21日、学生、教員、公務員、年金受給者らが街頭に繰り出し、公教育や公的医療への予算拡充、賃金・年金の引き上げ、生活費高騰への対策を求めて抗議デモを行った。
国営放送ERTによると、首都アテネでは約1万人が国会議事堂に向けて行進した。参加者は横断幕を掲げ、「パン、教育、自由」と声を上げた。中心部のシンタグマ広場では、前夜からテントを張っていた学生たちもデモに加わった。
今回の抗議行動は、大学生や生徒の団体を中心に、教員、大学職員、公務員などの労働組合が協力して組織したもので、年金受給者も参加した。同様の抗議デモは、全国50以上の都市で行われた。
ギリシャの公務員労組連合(ADEDY)は、この日に合わせてストライキを呼びかけるとともに、フランスで並行して展開されている抗議運動への連帯を表明した。
参加した生徒たちも、「ギリシャからフランスまで、公教育と無償教育のために闘おう」「戦争ではなく、学校に予算を」と声を上げた。
デモ参加者が訴えた問題は多岐にわたる。教育費の上昇、学生向け住宅の不足、教育施設の老朽化、公的サービスへの慢性的な予算不足、低い賃金や年金などが主な争点となった。
生徒たちはさらに、過密な教室、教員不足、増大する学業上の負担、自由時間の減少についても懸念を表明した。
今回の抗議行動は、今月、欧州各地で広がっている若者主導のデモの動きとも重なっている。
フランスやアルバニアでは、生活費の上昇や汚職疑惑に対する不満を背景に抗議行動が起き、一部では警察との衝突や大規模な器物損壊に発展した。
一方、ギリシャ警察は、21日にアテネ中心部や首都郊外で行われたデモについて、平和的に実施されたと説明した。
今回の抗議行動は、2027年半ばに予定される選挙を前に、中道右派のキリアコス・ミツォタキス首相とその政権に対する圧力を一段と強めている。ギリシャでは経済の勢いが弱まるなか、国民生活に依然として厳しい状況が続いている。
同国は2009年から2018年にかけて深刻な債務危機に陥り、欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)から総額約2900億ユーロ(約3260億ドル)に上る3度の金融支援を受けた。その見返りとして、政府は大幅な歳出削減を受け入れた。
こうした緊縮財政政策の影響もあり、ギリシャの労働者は欧州でも経済的に厳しい状況に置かれており、賃金の停滞、高い家賃、上昇するエネルギー価格が家計を圧迫している。
平均月給は1500ユーロ(約1685ドル)で、2009年当時の水準にとどまっている。一方、家賃は急騰しており、多くの若者にとって都市部で住居を確保することが難しくなっている。
「ここで暮らしていくのは、本当に大変です。家賃はとても高いのに、部屋は本当に狭いのです。私たちの親にも、こちらでの家賃や電気代、生活費を支払うだけの余裕がありません」
大学生のジョージア・フキドゥさん(21歳)は、ロイター通信にそう語った。
21日の抗議行動では、初等・中等教育の教員たちも、低賃金や教員不足に抗議してストライキを実施した。臨時採用の教員たちは、正規雇用への切り替えや学級規模の縮小を要求した。公務員やその他の労働組合も、全国的な抗議行動に加わった。
一方、ソフィア・ザハラキ教育相は、デモに先立ち、政府として学生たちの要求に耳を傾けていると説明した。
教育相によると、政府は新たな学生寮の建設や既存施設の改修に、7億3300万ユーロ(約8億2300万ドル)以上を投じている。
また、ミツォタキス政権は、イランをめぐる戦争やインフレに伴うエネルギー価格の上昇に対応するため、家計や企業を対象とした補助金などに、約10億ユーロ(約11億2000万ドル)を充てる方針を表明している。
INPS Japan
Original URL: Greece Protests 2026: Thousands...
平和には子どもたちの声が必要だ
【東京IPS=大谷美紀子】
「われら連合国の人民は、われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い……。」国際連合は、この決意のもとに設立された。
子どもたちは人類のほぼ3分の1を占めているにもかかわらず、戦争によって不均衡なほど深刻な影響を受けている。しかし、子どもたちの声が耳を傾けられることはほとんどなく、和平プロセスにも子どもたちが参加する機会は極めて限られている。
マシェル報告書から安保理決議第2427号へ
今から30年前、グラサ・マシェル氏は、画期的な報告書「武力紛争が子どもに及ぼす影響」の中で、すでに国連に対して重要な問題を提起していた。マシェル氏は、「子どもたちを守る最も効果的な方法は、武力紛争の発生を防ぐことである。」と指摘した。
さらに、「すべての人々が、自分たちも意思決定に公平に参加できていると感じられる必要がある。」と述べ、若者たちを単なる犠牲者としてではなく、「解決策を生み出す積極的な参加者」として捉えるべきだと強調した。
子どもの参加の必要性は、2007年に策定された「軍隊または武装集団に関与した子どもに関するパリ原則およびガイドライン」でも強調された。マシェル報告書の当初の版では、子どもの参加について十分な注意が払われていたとはいえない。
しかし、2009年に実施された10年間の取り組みに関する戦略的レビューでは、この問題が重要な課題として取り上げられ、「平和をつくる担い手としての子どもたち」という独立した章が設けられた。
こうした認識の高まりを受け、2018年には国連安全保障理事会が決議第2427号を採択した。同決議は、加盟国と国連システムに対し、「紛争の全過程を通じて、子どもたちの意見が考慮されることを確保する」よう求めている。
さらに、紛争後の復興、再建、平和構築の過程において、子どもたちの意見を考慮しながら、子どもたちの「エンパワーメント(主体的に行動する力を高めること)」を十分に組み込み、優先課題として位置付けるよう求めている。
子どもの参加は権利であり、平和を生み出す力でもある
子どもが自らの意見を表明し、意思決定に参加することは、世界で最も広く批准されている人権条約である1989年の「子どもの権利条約」に基づく権利である。武力紛争に関わる状況を含め、子どもたちに影響を及ぼすすべての事柄について、子どもたちの声に耳を傾け、その意見に適切な重みを与えなければならない。
子どもの参加は、紛争の予防、紛争下での保護、紛争後の回復、社会への再統合、そして被害に対する救済や賠償にとって、極めて重要である。さらに、子どもたちは、分断され、傷ついた地域社会を再び結びつけるうえでも重要な役割を果たすことができる。社会的な結束を促進し、平和を築くための原動力となり得るのである。
子どもたちの参加をさらに強化すべきだという国際的な機運は、着実に高まっている。
国連安全保障理事会では、2018年にコロンビアの元子ども兵士、2020年にはマリ出身の15歳の少女、2023年にはカメルーン出身の18歳の平和構築活動家が、それぞれ自らの経験や考えを述べた。3人に共通していたのは、子どもたち自身が意思決定に参加できるようにすべきだという訴えだった。
2026年は、武力紛争の影響を受ける子どもたちにとって、特に重要な節目の年である。国連総会が「子どもと武力紛争」に関する任務を創設してから、30周年を迎えるためだ。
この節目に、国連人権理事会は、武力紛争の影響を受ける子どもの権利を扱った決議第61/21号を通じて、子どもの参加を求める取り組みの対象範囲をさらに広げた。
同決議は各国に対し、武力紛争の影響を受けた子どもたちが、政策やプログラムの立案、実施、進捗確認、評価に実質的に参加できるよう確保することを求めている。対象となるのは、紛争予防から和平プロセス、紛争後の対応まで、紛争のすべての段階に及ぶ。そこには、子どもの保護、司法へのアクセス、責任追及、被害の救済・賠償、回復なども含まれる。
この決議は、特に大きな意義を持っている。
紛争下にある10カ国から、12歳から17歳までの子ども24人が参加し、決議案の起草を主導した国・地域の一つである欧州連合(EU)との協議の場で、自らの意見を表明したからだ。
子どもたちから寄せられた多くの提言は、実際に決議の内容を形づくるうえで役立った。
この過程は、国際的な子どもの権利ネットワーク「Child Rights Connect」が2026年に公表した会合報告書と、子ども向け解説資料にも記録されている。
「子どもと武力紛争」に関する国連の取り組みは、子どもの権利条約を重要な基盤としている。マシェル報告書も同条約に深く根ざしており、その後、この分野の取り組みは国連総会によって制度化され、安全保障理事会によって強化されてきた。そして今、人権理事会が子どもの権利という観点から、この取り組みを補完する役割を果たすようになっている。
これは、2023年に国連事務総長が発表した指針文書の方向性とも一致する。同文書は、平和と安全保障の分野を含め、国連システム全体の活動に子どもの権利の視点を組み込むよう求めている。
今後に向けた三つの提言
今後の取り組みを前進させるために、私は三つの提言を行いたい。
第一に、国連の各種機関・制度、各国政府、市民社会は、子どもや若者とのパートナーシップを支援・強化し、子どもたちの実質的な参加を現実のものにすべきである。
子どもたちを意見聴取の対象とするだけでなく、政策や平和構築の取り組みを共に進めるパートナーとして位置付けることが重要である。
第二に、2027年2月にフランスが国連児童基金(UNICEF)と共同開催する、パリ原則20周年記念会議に子どもたちを参加させるべきである。
特に、軍隊や武装集団に関与した経験のある子どもたちが、権利の主体であると同時に、社会を変革する担い手として果たし得る役割に光を当てる必要がある。
第三に、世界的な平和構築の制度や議論の場において、子どもたちの参加を積極的に支援すべきである。
その出発点となるのが、2027年6月に開催される年次平和構築週間である。2027年は、国連総会決議第80/269号(2026年)によって宣言された「未来世代のための平和強化の国際の10年(2027~2036年)」が始まる年でもある。子どもたちの声を平和構築の中心に据えることは、この国際的な取り組みを実質的なものにするうえでも不可欠である。
大谷美紀子は、国際人権法の専門家として広く知られる法律家であり、現在、子どもの権利の促進に取り組むジュネーブ拠点の国際NGOネットワーク「Child Rights Connect」の代表を務めている。国連子どもの権利委員会では、2期8年間にわたり委員を務め、そのうち2021年から2023年までは委員長を務めた。
INPS Japan/IPS UN Bureau Report
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核被害の記憶を共同行動へ―カザフスタンと創価学会、宗教間対話で広がる協力
広島・長崎とセミパラチンスクの経験を背景に、SGIはカザフスタン外務省や国連代表部と核兵器廃絶への活動を重ねてきた。その協力は今、世界伝統宗教リーダー会議を支える機関との対話を通じ、青少年平和教育などの新たな取り組みへと広がりつつある。
【アスタナ/東京INPS Japan=浅霧勝浩】
広島と長崎への原爆投下、そしてセミパラチンスクで繰り返された核実験。異なるかたちで核兵器の被害を経験した日本とカザフスタンを結ぶ協力に、宗教間対話を通じた新たな動きが生まれている。
創価学会インタナショナル(SGI)はこれまで、カザフスタン外務省や国連代表部、市民社会の団体と連携し、核兵器の人道的影響を伝える活動や、政府と市民社会が軍縮について議論する機会をつくってきた。|英語版|
その協力をさらに広げる場となっているのが、「世界伝統宗教リーダー会議」である。同会議を支えるカザフスタンの国際宗教間・宗派間対話センター(ICIID)と創価学会は、6月30日に東京で協力覚書を締結。核被害の記憶の継承や青少年平和教育をはじめ、具体的な共同の取り組みに向けた協議を進めている。
「重要なのは、紙の上に新たな計画を作ることではありません。共に取り組み、実際の成果を示せる2つか3つの分野を見いだすことです。」
ICIIDのグルサナ・コジャバイ理事長は、INPS Japanの書面インタビューにこう答えた。
昨年の第8回世界伝統宗教リーダー会議に創価学会代表として参加した長岡良幸渉外局長も、別途寄せた書面回答で、覚書の調印によって「その協力は、新しい段階へと進みました。」と述べている。
双方の回答から浮かび上がるのは、既存の核軍縮協力を足場に、被害者の証言や教育活動を宗教間対話の枠組みでも活用しようとする方向性だ。
核被害の記憶が育んだ協力
カザフスタンにとって、核軍縮は自国の歴史と切り離せない問題である。
旧ソ連は1949年から1989年にかけて、セミパラチンスク核実験場で456回の核実験を実施した。カザフスタンは独立直前の1991年8月に同実験場を閉鎖し、その後、ソ連崩壊に伴って領内に残された核兵器を放棄した。
日本の広島・長崎と、カザフスタンの核実験被害地域では、核兵器が使われた状況も、被害の広がり方も異なる。それでも、人々の健康、暮らし、環境に長く残る被害を次世代へ伝え、同じ苦しみを繰り返させないという課題には共通するものがある。
コジャバイ理事長は、核兵器が抑止や戦略的均衡の観点から語られがちな時代だからこそ、その人道的影響を見失わないことが重要だと強調する。
「これらの歴史は、核兵器が人間にもたらす影響を伝え続けるうえで、両国に特別な責任を与えています」と回答した。
創価学会の代表者が、カザフスタンの招待を受けて世界伝統宗教リーダー会議に参加するようになったのは2018年である。翌2019年には、SGI代表団がセメイと旧セミパラチンスク核実験場を訪問した。
創価学会側は、代表団が現地の実情を目の当たりにした意義を強調し、今後、より多くの人々が訪問を通じて平和と核兵器廃絶への思いを深められる機会を検討したいと述べた。
こうした交流は、被害の記憶を伝える具体的な制作活動にも結びついている。
カザフスタンのNGO「国際安全保障政策センター」(CISP)とSGIの協力で制作・公開された、核実験被害者の証言映像『私は生き抜く~語られざるセミパラチンスク~』である。
創価学会側はこの作品を「2018年以来の交流の中で、NGO団体との協力で作り上げたもの」と説明した。核兵器をめぐる議論に、被害を受けた人々自身の経験を届ける取り組みだ。
外務省・国連代表部との連携を土台に
https://www.youtube.com/watch?v=af74SK5gKSQ
SGIとカザフスタンの協力は、政府関係者と市民社会が接する外交の場でも積み重ねられてきた。
核兵器禁止条約の締約国会議や核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議の準備委員会などに合わせ、SGIはカザフスタン国連代表部とサイドイベントを共催してきた。各国政府や市民社会の代表者が参加し、核兵器廃絶に向けた国際世論の形成に取り組んできたという。
2023年には、SGIがカザフスタン外務省、赤十字国際委員会、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)、CISPなどと協力し、中央アジア5か国の代表者が参加する「核兵器の人道的影響と中央アジア非核兵器地帯」地域会議の開催を支えた。
2025年3月には、カザフスタン国連代表部、CISP、SGIが、核兵器禁止条約関連の会合に合わせて、核実験被害者の証言映像の上映会を国連で共催した。地域社会の苦難を、国際的な政策論議へとつなぐ機会となった。
「重要なのは、こうした取り組みを一時的なものでなく、継続していくことにあると思います」と長岡氏は強調した。
そのうえで、カザフスタンとの交流を深め、「核兵器廃絶への国際世論の形成、市民社会と政府間外交の連携の具体的な事例」をさらに積み重ねたいと述べた。
ICIIDとの覚書は、こうした外務省や国連代表部、NGOとの協力に取って代わるものではない。双方への取材から見えてくるのは、これまでに得られた経験や成果を、宗教間対話を通じた教育・交流の新たな事業にも生かそうとする動きである。
宗教間対話から、青少年平和教育へ
2003年に創設された世界伝統宗教リーダー会議は、異なる信仰の代表者が継続的に交流する場を築いてきた。10月7日にアスタナで開かれた第24回事務局会合では、その信頼関係を何に結びつけるかが繰り返し問われた。
「私たちに与えられた機会は、共に語るだけでなく、共に歩むことです」
アングリカン・コミュニオンのジョー・ベイリー・ウェルズ主教は、参加者にこう呼びかけた。
イスラム長老評議会のムハンマド・アブデルサラム事務総長も、「実行に移されない宣言は、その機能を失ってしまいます」と述べ、責任を明確にし、成果を確かめながら取り組みを進めるよう促した。
コジャバイ理事長は、創価学会との協力について、まず青少年のための平和教育から始めたいと考えている。広島・長崎とセミパラチンスクの経験を、若者の交流、教育プログラム、公開対話などを通じて結びつける構想だ。
創価学会側もまた、創価の教育機関で取り組んできた平和教育や核兵器廃絶教育の経験を踏まえ、カザフスタンとの協力によって青少年向けの教育プログラムを共有する可能性を検討している。
具体的に協議が始まっている事業の一つが、故・池田大作SGI会長の平和への思いを綴った随筆6編を収める書籍のカザフ語訳版である。すでに英語、ロシア語、ウズベク語などの翻訳版があり、カザフ語版は2027年の刊行を予定している。
出版は、協力全体の目的ではなく、青少年に平和への関心を育むための最初の取り組みの一つに位置づけられている。
コジャバイ理事長は、協力をあらかじめ決めた事業の一覧に限定せず、創価学会側の提案も受け止めたいとしている。共同出版や教育資料、文化交流に加え、創価学会の国際的な活動にセンター側が協力することにも意欲を示した。
「私にとって、真のパートナーシップとは、双方向に機能するものです」と述べた。
共通の倫理を、実践へ
協力の対象は、核兵器廃絶と平和教育だけではない。
10月の事務局会合では、気候変動への対応における宗教の役割を示す文書と、宗教分野における人工知能(AI)利用の倫理規範が採択された。
コジャバイ理事長も、宗教指導者、研究者、技術専門家、若者を交え、情報操作、信頼できる宗教情報、人間の責任などを議論する機会を提案している。
気候変動に関する文書には、日本の神社本庁も策定段階で貢献した。日本との交流が、異なる宗教的伝統からの知見を持ち寄る協力へと広がっていることを示している。
ただし、2つの文書はいずれも法的拘束力を持たない。また、証言映像の新たな教育活用や、環境・AI分野の協力には、今後さらに協議を要するものがある。既存の成果と、新たに検討されている事業を区別する必要がある。
今回の会合では、カザフスタンとローマ教皇庁による、治癒困難な病気を抱える子どもの権利に関する憲章の推進も支持された。核兵器、環境、技術、医療という異なる課題を結ぶのは、宗教間の共通理解を、人間の尊厳を守る具体的な協力へと移すという考え方である。
信頼を、実際の成果に変える
会合を主宰したエルラン・カリン副大統領は、採択された決定を実際の行動へ移す必要性を強調し、「平和のためのグローバル運動」の構想案と段階的な実施計画の策定を求めた。2028年の第9回世界伝統宗教リーダー会議に先立ち、2027年に最初の成果を示す方針だ。
コジャバイ理事長は、会議が政府の役割を代替できないことも明言する。
「この会議は軍備管理条約を交渉することはできませんし、政府や外交官、国際的な法的枠組みに取って代わるかのように振る舞うべきでもありません。」
その役割は、核兵器の人道的影響を伝え、若い世代に働きかけ、政治的な対立を超えて対話を維持することにあるという。軍縮の合意そのものを交渉しなくても、それを支える社会的、倫理的、人道的な支持を育むことはできる。
長岡氏とコジャバイ理事長の回答は、この点で重なる。核被害の記憶を継承することを、過去を振り返る行為にとどめず、教育や国際協力を通じて将来の意思決定に生かそうとしているのである。
10月7日の会合後、カトリック系通信社Agenzia Fidesのパオロ・S・アファタート記者は、ウェルズ主教に、スピリチュアル外交が実際に政治へ影響を及ぼしているのかを尋ねた。筆者は、そのやり取りを音声で記録した。
「確かに、影響力はあると思います」と主教は答え、政府レベルでの影響がさらに広がることへの期待を示した。
「こうした関係を築くには、直接顔を合わせることに勝るものはありません」
その信頼関係を何につなげるか。カザフスタンの外交機関や市民社会とSGIが培ってきた協力は、今、ICIIDとの対話を通じて、新たな事業の検討へと進み始めている。
コジャバイ理事長は、今後10年間の成果は、会議の開催回数だけでは測れないと語った。人々が集まった結果、「実際に何が生み出され、実行され、変わったのか」が問われるという。
広島・長崎とセミパラチンスクの記憶を共有する人々にとって、その問いは、宗教間対話の将来だけでなく、核の被害を繰り返さないために今何ができるかという、具体的な責任につながっている。
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