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名前に込められた意味とは? 「ボブ神父」から「教皇レオ14世」へ

新たに選出されたレオ14世教皇は、自身の名の由来となった偉大な先人から力を得て、祖国の人々に対峙できるだろうか? 【Religion News Service=ヴィクター・ガエタン】 米国のカトリック信徒からは「ボブ神父」、ペルーのカトリック信徒からは「パドレ・ロベルト」と呼ばれて親しまれてきたロバート・プレヴォスト枢機卿は、「レオ14世」という名を選ぶことで、近代カトリックの礎を築いたレオ13世教皇(在位:1878~1903年)の系譜に自らを結びつけた。 レオ13世は、カトリック社会教説の父として知られており、1891年に発表された回勅『レールム・ノヴァールム(資本と労働について)』は、労働者の権利と公正な賃金、労働組合の正当性を擁護しつつ、私有財産の重要性も説いた。 また、身長約158cmと小柄ながらも精力的な教皇であり、神学者、霊的指導者、外交官としても数々の貢献を果たした。特に当時の米国によるい勢力拡大に警戒感を抱いていたことでも知られる。 1878年に即位した当時、バチカンはイタリア政府との間で緊張状態にあり、1871年にイタリア軍がローマを占領し教皇領を奪取、ローマをイタリア王国の首都と定めた直後だった。前任者ピウス9世と同様、レオ13世も使徒宮殿に閉じこもり、「自ら望んだ囚人」と称し、バチカンの主権回復を静かに待ち続けた。 行政的負担から解放された教皇は、祈りと執筆に専念できるようになり、25年の治世で実に85本もの回勅を発表。1879年の回勅『アエテルニ・パトリス(キリスト教哲学の復興について)』では、聖トマス・アクィナスの神学と哲学を再評価し、以後トマス主義が現代カトリック思想の中核をなすこととなった。 また、1888年にはブラジル司教団宛に『イン・プリュリミス』を発表し、奴隷制度の全面廃止を強く訴えた。これは教会が公に奴隷制廃止を支持した初の文書であり、同年ブラジルで奴隷制が正式に廃止される契機ともなった。 『レールム・ノヴァールム』は、貧困層への深い共感を示しながらも、社会主義や自由放任資本主義のいずれにも偏らず、正義を求めるカトリック信徒の社会参加を促す内容となっている。これは現在でもラテンアメリカを中心に多くの司教たちによって実践されており、かつてペルーで長年活動したプレヴォスト新教皇の歩みとも重なる。 プレヴォスト神父は1985年から1998年にかけてペルーで宣教活動を行い、経済危機と政治的不安(テロを含む)に直面。2018年に司教として帰任した際には経済は改善していたものの、格差問題は依然深刻だった。 外交面でもレオ13世は注目される。ヴァチカンの外交官養成学校(1701年設立)で訓練を受け、1843~1846年にベルギー公使(教皇大使)を務めた経験がある。領土を失ったバチカンにとって中立性は交渉力の源となり、1885年にはドイツとスペイン間のカロリン諸島領有問題で、オットー・フォン・ビスマルク宰相の要請により仲裁を行った。 1886年には中国(清朝)の光緒帝がバチカンとの直接外交を望んだが、フランスの干渉により実現しなかった。それでも当時の中国の新聞には「教皇は軍も領土も持たない、ダライ・ラマのような存在であり、政治的な罠の恐れなく開かれた外交が可能だ。」との評価が掲載された。 また、1898年のハーグ平和会議にあたっては、ロシア皇帝ニコライ2世もバチカンの仲介を求めた。 米国についてもレオ13世は深く注目していた。米国は1898年の米西戦争により、スペインの植民地支配を打ち破り、カリブ海のプエルトリコ及び太平洋のグアム、フィリピンを獲得し、キューバを保護国とした。この米国の軍事力を背景とした勢力拡大の動きは、カトリック諸国における教会施設や教育機関への直接的圧力となるとともに、反カトリック的性質も帯びていた。 バチカンを訪れた当時のフィリピン民生長官ウィリアム・ハワード・タフト(後の米大統領)との会談で、教皇は修道会の土地を米国に売却するという要求を拒否した。 レオ13世の時代に始まった米国の軍事的覇権に対する警戒心は、今日の教皇にも受け継がれる可能性がある。新教皇レオ14世は、同様の挑戦にどのように向き合うだろうか? 彼は自国アメリカの力に立ち向かう強さと独立心を示せるだろうか? 前任者の足跡を辿るなら、彼には模範がある。 レオ13世はあるミサの最中に衝撃的な幻視を体験し、これに衝き動かされて「聖ミカエルの祈り」を作り、1884年頃から世界中のミサ後に唱えるよう司祭に求めた。この祈りは今でも悪に立ち向かう者たちに推奨されており、世界中で復活の動きを見せている。 聖ミカエルの祈り: 大天使聖ミカエル、戦いにおいて我らを護り、悪魔の凶悪なるはかりごとに勝たしめ給え。天主の彼治め給わんことを伏して願い奉る。ああ天軍の総帥、霊魂をそこなわんとてこの世を徘徊するサタンおよびその他の悪魔を、天主の御力によりて地獄に閉込め給え。アーメン 新教皇レオ14世の選出が発表された5月8日は、聖ミカエルの出現の祝日でもある。 彼は最初の演説でこう語った。「神は私たちを愛しておられる。神はすべての人を愛しておられる。そして悪は決して勝利しない!」 ビクトル・ガエタンは、国際問題を専門とするナショナル・カトリック・レジスターの上級特派員であり、バチカン通信、フォーリン・アフェアーズ誌、アメリカン・スペクテーター誌、ワシントン・エグザミナー誌にも執筆している。北米カトリック・プレス協会は、過去5年間で彼の記事に個人優秀賞を含む4つの最優秀賞を授与している。ガエタン氏はパリのソルボンヌ大学でオスマントルコ帝国とビザンチン帝国研究の学士号を取得し、フレッチャー・スクール・オブ・ロー・アンド・ディプロマシーで修士号を取得、タフツ大学で文学におけるイデオロギーの博士号を取得している。彼の著書『神の外交官:教皇フランシスコ、バチカン外交、そしてアメリカのハルマゲドン』は2021年7月にロウマン&リトルフィールド社から出版された。この記事の内容はRNSの公式見解を反映するものではない。 Original URL: What’s in a name?...

国連海洋会議(UNOC)に向けて、海洋保護の国際的機運が加速

【タンザニア・ダルエスサラームIPS=キジト・マコエ】 フランス・ニースで開催される第3回国連海洋会議(UNOC)に向け、海洋ガバナンスや保全資金、再生的なブルーエコノミー(海洋経済)への転換に向けた機運が高まっている。海洋保護を訴える活動家たちは、「今こそが海洋の未来を左右する分岐点」だと警鐘を鳴らしている。 「海は地球上すべての生命を支えている」と語るのは、『自然と人々のための高い目標連合(HAC)』のシニア・プログラムマネージャー、リタ・エル・ザグルール氏。彼女は、海洋保護が食料安全保障や文化的遺産、経済、そして人々の暮らしの根幹に関わっていると強調する。 OECDの最新データによると、もし「海洋経済」が一国として扱われた場合、2019年には世界第5位の経済規模に相当していたという。海洋は32億人に食料を提供し、世界のGDPに年間2.6兆ドル貢献している。 しかし現在、海洋のうち正式に保護されている区域はわずか8.4%に過ぎない。活動家たちは、この数字を2030年までに少なくとも30%に引き上げる必要があると主張しており、これはグローバル生物多様性枠組みと2023年に合意された公海等生物多様性協定(BBNJ)でも再確認された目標である。 「この条約の議論は8年前から始まっていました。発効には60か国の批准が必要ですが、現在はまだ21か国にとどまっています。UNOCはこの流れを加速させる重要な節目です。」とエル・ザグルール氏は語った。 約束から行動へ――実施への転換が鍵 活動家と政策立案者の双方が「宣言」から「実行」への転換を訴えている。 「2030年まで、もう5年しかありません。もはやレトリック(言葉)だけでは不十分です」とエル・ザグルール氏は警告する。 実際、各地では有効な取り組みが始まっている。エクアドル、コスタリカ、コロンビア、パナマが連携する東部熱帯太平洋海洋回廊(CMAR)では、5つの海洋保護区が接続され、生態系の管理が強化された。マーシャル諸島はスイスよりも広い海域を禁漁区域に指定し、オーストラリアも2024年に国家海域の52%以上を保護区に拡大した。 「所得水準にかかわらず、進展は可能であることをこれらの事例が示しています。ただし、まだまだ不十分です。」と彼女は語る。 海洋保護のための資金――現場に届く資金を 最大の障壁のひとつが資金である。 「海洋保護に取り組む沿岸地域の人々に、直接資金が届く仕組みを整える必要があります」とエル・ザグルール氏。HACでは、2万5000~5万ドルの小規模助成金を迅速に提供する新たな仕組みを導入したが、「これは始まりに過ぎない」と話す。 モナコの「ブルーエコノミー金融フォーラム(BEFF)」を共催するDynamic PlanetのCEO、クリスティン・レクバーガー氏も、海洋保護における民間金融の役割を再考すべきだと強調する。 「これまでのビジネスモデルは、資源の採取と汚染に偏っていました。保護や再生への投資はほとんど行われていません。私たちは海洋再生型経済へとモデルを転換しなければならないのです。」 レクバーガー氏によれば、「30×30目標」を達成するには、今後5年間で19万か所の小規模海洋保護区を、各国の領海内に設置する必要があるという。 「海洋生態系を回復させつつ、経済的なリターンも生むスマートなプログラム、投資商品、スケール可能な取り組みが求められています。これは単なる環境問題ではなく、経済的な好機でもあるのです。」 彼女の主導する「Revive Our Ocean」は、海洋保護が沿岸地域の繁栄につながることを示すため、信頼あるパートナーと協働している。また、ニースで開催予定の「海洋・沿岸レジリエンス・リスク会議」では、市長や知事といった地方のリーダーたちも議論に参加する。 「すでに海岸線を保護し、気候レジリエンスや観光の恩恵を得ている自治体もあります。そうした成功例がさらに広がってほしいと期待しています。」と彼女は語った。 フランスの役割と今後の展望 開催国フランスは、UNOCに向けて強い政治的支持を打ち出している。フランス政府はHACや他の団体と連携し、会議の場で新たな海洋保護区の創設を各国に働きかけている。 「8.4%という現状を、30%に近づけていきたいと考えています。しかし、面積を拡大するだけでなく、その区域が効果的に管理され、包括的かつレジリエント(回復力のある)**ものであることが重要です」とエル・ザグルール氏は述べた。 そして、こう締めくくった。 「各国の閣僚と技術専門家が連携し、さらなる野心的な取り組みを推進できるよう、私たちは協力しなければなりません。今こそ、海洋保護を4倍に拡大し、それを誰一人取り残すことなく実現する時なのです」 太平洋諸国の声と行動 太平洋諸国代表のフィリモン・マノニ氏(Pacific Ocean Commissioner)は、海洋ガバナンスと気候変動へのレジリエンス構築に対するこの地域の揺るぎない姿勢を改めて強調した。小島嶼国が多くを占める太平洋地域だが、SDG14の推進やコミュニティ主導の海洋保全など、海洋保護において世界をリードしてきた。 「この会議は、私たち太平洋諸国にとって極めて重要な機会です。気候変動会議では脇に追いやられがちな海洋と気候の問題を、世界に向けて発信できる数少ない場です」とマノニ氏。 同氏の最重要課題は、BBNJ協定(国家管轄権を超える生物多様性保全に関する条約)の早期批准だ。これにより、法的空白の多い公海における無秩序状態を終わらせることができるとする。 「いま行動を起こさなければ、これまで各国の海域で築いてきた海洋保護の成果が無駄になる可能性があります」と警告するマノニ氏は、海洋プラスチック汚染に対処するための法的拘束力あるグローバル条約の締結や、海洋劣化を助長している国際貿易システムの見直しも訴えた。 「私たち小島嶼開発途上国(SIDS)は、いまもなおプラスチック廃棄物の重荷を背負わされ続けています。」と彼は述べ、抜本的な制度改革の必要性を強調した。 ニースでのUNOCは、今後の海洋保護の行方を占う極めて重要な転換点となるだろう。成功の鍵は、勇ましい声明だけでなく、その後にどれだけ具体的な行動を起こせるかにかかっている。 世界の海と、海に依存して生きる数十億の人々の未来が、今、問われている。(原文へ) INPS Japan/ IPS UN...

|視点|イランと核不拡散体制の未来(ラザ・サイード、フェレイドン)

【ロンドン/テヘランLondon Post=ラザ・サイード・フェレイドン】 2025年、核外交が一層複雑化する中、イランは依然として核不拡散条約(NPT)をめぐる国際的議論の中心にある。かつて多国間主義の勝利と称賛されたNPTは、現在、制度的不平等と地政学的なダブルスタンダードによって存続の危機に直面している。イランの核計画は、西側諸国の長年の監視対象であり、平和的な核エネルギーを求める国家と、核保有国に有利な体制との間の緊張を象徴している。本稿では、NPTを存続させるには、歴史的な不正義を是正し、イランの国際的な査察順守を正当に評価し、非同盟諸国に過度な負担を強いる体制の改革が必要である。 歴史的背景:NPT下でのイランの核の歩み イランが核技術に関与し始めたのは、1950年代の米国主導の「平和のための原子力」計画であった。これは、核拡散防止を条件に、民生用核技術の利用を促進するものであった。イランは1970年にNPTを批准し、国際原子力機関(IAEA)の査察を受け入れ、NPT第4条に基づき、平和的核利用の権利を主張し続けた。しかし、1979年のイスラム革命後、イランの核計画は国際的な対立の火種となった。 2002年にナタンツおよびフォルドウの未申告のウラン濃縮施設が明らかになり、イランが秘密裏に核兵器を開発しているとの疑惑が高まった。しかし、IAEAの査察でも決定的な証拠は得られず、2007年の米国家情報評価(NIE)は、イランが2003年に核兵器開発を中止していたと結論づけている。それにもかかわらず、制裁は強化され、イランの合法的な権利と国際的不信とのギャップが露呈した。 JCPOA:外交の成功とその破綻 2015年に成立した括的共同行動作業計画(JCPOA)は、歴史的な合意であった。イランはウラン濃縮を3.67%に制限し、在庫を98%削減、IAEAによる24時間監視を受け入れた見返りに、経済制裁解除を得た。2018年までに、IAEAは15回にわたってイランの順守を確認していた。 しかし、トランプ政権下で米国が一方的に離脱し、制裁を再開。これによりイランは2000億ドル以上の石油収入を失い、経済は大打撃を受けた。イランがその後、濃縮度60%への引き上げなどの対応を取ったことは挑発とみなされたが、イラン側はNPT第10条に基づき「最高国益が危機にある場合」に合法であると主張している。 2025年:停滞する外交と高まる緊張 2023年、バイデン政権のJCPOA復活の試みは、米国内の反対と、イラン側の制裁解除保証の要求により失敗。2025年現在もイランの核計画はIAEAの査察下にあり、60%濃縮ウラン142kgは、核兵器1発分に必要な250kgには遠く及ばない。 「グランド・バーゲン」の偽善 NPTは、「非核兵器国が核兵器を放棄する代わりに、核兵器国が核軍縮を行う」という約束に基づいていたが、実態はそうなっていない。米・露・中・仏・英の5か国だけで1万2500発以上の核弾頭を保有し、近代化を進めている。一方でイランは、NPT第4条に適合した民生用計画で過剰な監視を受けている。 元イラン核交渉担当のセイエド・ホセイン・ムサヴィアン博士はこう語る:「NPTのダブルスタンダードは正当化できない。イランは合法的な濃縮を行っているのに罰せられ、核兵器国は軍縮義務を無視している。この偽善が不信を生んでいる。」 制裁という武器と人道的代償 米国およびEUの制裁は、核不拡散という名目から「集団的懲罰」に転じている。2025年、イランのインフレ率は約50%、失業率は30%に達し、金融封鎖による医薬品不足は多くの予防可能な死を招いている。このような圧力は、外交を主張するイラン国内の穏健派を弱体化させ、強硬派を利している。 地域の現実:核に囲まれたイラン イランの安全保障環境には、米軍基地、NATO加盟国トルコ、核保有国パキスタン、そして推定90発の核を保有するイスラエルがある。さらに2023年、サウジアラビアは「イランが核兵器を持つなら、我々も追随する」と発言。にもかかわらず、西側諸国はこうした文脈を無視し、イランのみを脅威として描いている。 専門家の見解 ナデル・エンタサール博士(南アラバマ大学)JCPOAは外交の成功例だったが、その崩壊は、より強力な検証制度と各国の誓約順守を保証する新たな枠組みの必要性を示している。 ロバート・リトワク(ウィルソン・センター)軍事的選択肢ではなく、封じ込めと外交による対応を提唱。 トリタ・パルシ博士(クインシー研究所)「JCPOAの崩壊はイランの失敗ではなく、米国のリーダーシップの欠如が原因。信頼回復には、合意の尊重とイランの正当な安全保障への配慮が不可欠。」 ナルゲス・バジョーリ博士(ジョンズ・ホプキンス大学)「制裁はイランの体制を強化し、外交無力論を助長している。NPTは、公平性を軸とした改革が必要だ。」 イランが求める公正な枠組み 1. 平和的核利用の権利60%の濃縮ウランは癌治療など医療用途に用いられる。NPT第4条に準拠しているにもかかわらず、イランは米国の同盟国とは異なる制約を受けている。 2. 安全保障の保証外国の介入やイスラエルの核への懸念を解消するためには、1975年のヘルシンキ合意のような地域安全保障協定が必要。 3. IAEAの脱政治化2020年、故天野之弥前事務局長は、米国の情報機関がイラン査察に強い影響を与えていたと認めた。中立性の回復が不可欠。 2025年に向けた道筋 JCPOAの復活と拘束力のある保証:国連安保理による批准、INSTEX(欧州の対イラン決済手段)を通じた制裁回避などが鍵。 中東非核兵器地帯(NWFZ)の設立:1974年以来の提案。イスラエルの核とアラブ諸国の不安に対応。2024年に国連主導で再活性化したが、米国とイスラエルの抵抗が課題。 核軍縮の世界的促進:TPNW(核兵器禁止条約)は70か国が批准したが、核保有国は参加を拒否。 経済的威圧の終焉:制裁緩和は査察順守とセットで行うべき。EUによる2024年の医薬品・食料人道回廊は重要な先例。 結論:より公平な核秩序へ NPTの未来は、理想と現実のギャップを埋める制度改革にかかっている。イランの経験は、懲罰的な対応、軍縮の偽善、地政学的偏見という制度的欠陥を浮き彫りにしている。トリタ・パルシ博士が述べるように: 「イランは問題そのものではない。NPT体制の欠陥を映す鏡である。」 NPTが存続するには、非核保有国の権利尊重、核軍縮の履行、外交重視の枠組みへの進化が求められる。そうでなければ、NPTは覇権の道具と見なされ、イランのみならず、国際的な核統治の崩壊を招く恐れがある。 参考文献 IAEA(2025)『イランにおける検証と監視報告』 米国家情報長官室(2007)『イラン:核の意図と能力』 セイエド・ホセイン・ムサヴィアン(2024)『NPTのダブルスタンダード』カーネギー財団 トリタ・パルシ(2023)『制裁の影の下での外交』クインシー研究所 ナルゲス・バジョーリ(2024)『核武装地域におけるイランの安全保障ジレンマ』ジョンズ・ホプキンス大学出版 アームズコントロール協会(2025)『世界の核兵器保有国レポート』 This article is produced to...

包括的取引でサウジアラビアへの原子力提供を検討中の米国

【ワシントンDC IPS=イヴァン・エランド】 トランプ政権は現在、サウジアラビアにおける商業用原子力産業の発展、さらにはウラン濃縮の国内実施への道を開く可能性のある取引を模索していると報じられている。 だが、この取引は中止されるべきだ。なぜなら、米国にとっては負担とリスクが増すばかりで、それに見合う見返りはほとんど得られないからである。 2020年から21年初頭にかけて、トランプ政権は「アブラハム合意」に基づき、イスラエルとバーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)、モロッコ、スーダンとの国交正常化を仲介した。しかし、サウジアラビアに対してもイスラエルを主権国家として認め、同様の関係を築くよう働きかけたが、成果は得られなかった。 バイデン政権はこの路線を引き継いだが、2023年のハマスによるイスラエル攻撃とそれに続くガザ戦争を受けて、サウジアラビアを巻き込むのは一層困難となった。民間人の死者の増加と人道危機の拡大により、パレスチナ問題の注目度が上昇し、地域全体でイスラエルに対する反感が高まったためである。 この状況下、サウジアラビアはイスラエルとの国交正常化の前提として、「独立したパレスチナ国家の創設に向けた意味ある措置」を取るよう要求した。2025年の現在に至るまで、サウジ政府はトランプ前大統領による「パレスチナ国家に関する要求を取り下げた」との主張を否定し続けている。 戦争終結への努力が実らない中、第2次トランプ政権は、まず米サウジ間の新たな合意を起点に、イスラエル・サウジ和解への取り組みを再始動しようとしているようだ。これは米国エネルギー省のクリス・ライト長官の発言からも示唆されている。 だが問題は、この「包括的取引」により利益を得るのが関係各国(イスラエルとサウジアラビア)であり、調整役を担う米国だけがコストとリスクを背負うことにある。サウジアラビアは以前から原子力発電の導入を切望しており、イスラエルにとっても、強力なアラブのライバルを封じ込め、新たな反イラン同盟国を得る好機となる(ただしサウジアラビアとイランは近年、一定の融和を模索しているため急ぐ必要があるだろう。) さらにサウジアラビアは、かねてより正式な安全保障条約も求めている。この条約は、米国による防衛を見返りに安価な石油を提供するという、F.D.ルーズベルト大統領とサウジアラビアのイブン・サウード国王との間の非公式な取り決めを、制度化するものである。 しかしながら、米国の国家債務が37兆ドルに上る今、なぜ新たな“扶養国”を引き受け、しかも安全保障の対価を払おうとしない相手に肩入れする必要があるのだろうか(これはトランプ氏が他の同盟国にも頻繁に向ける批判である)。米国はもはやFDRの時代のように石油不足に悩まされておらず、シェールガス革命により再び世界最大の産油国となっている。 サウジアラビアとの正式な安全保障条約は、さらに財政的負担を増やし、米軍を中東に深く関与させ、もしサウジアラビアが近隣国と武力衝突すれば、米兵が戦場に送られるリスクをもたらす。 さらに、サウジアラビアに原子力技術を提供した場合、何が起き得るだろうか? 過去、イスラエル・サウジ合意の交渉が頓挫したのは、サウジアラビアが「商業用原子力プログラムを核兵器開発に転用できないよう制限する措置」に反対したためだった。つまり、イランの核能力に対抗するため、核兵器の開発や他国への技術移転の可能性を残したいという意図がうかがえる。 実際、サウジアラビアは長年、核燃料として輸入する低濃縮ウランではなく、自国でウランを濃縮し、場合によっては核兵器級まで高められる能力を保有したいと望んできた。 米国国内では「サウジアラビアはロシアや中国から技術を得るかもしれない」との懸念もあるが、同国が核拡散防止のためのセーフガードを拒むのであれば、どの国が技術を提供しても結果は変わらない。 したがって、トランプ政権は、イスラエルとサウジアラビアの和解という現時点では見込みの薄い目標のために、こうした取引に応じるべきではない。たしかに、両国の国交正常化は中東にとって望ましいビジョンである(それが単にイラン孤立化の手段でなければ)かもしれないが、その実現のために米国が法外な要求に応じることは、割に合わない。 結局のところ、国交正常化は両国にとって利益のあるものであるべきであり、両国政府の交渉によって達成されるべきだ。米国が過保護に手助けする必要はない。(原文へ) イヴァン・エランド氏は、インディペンデント研究所の上級研究員であり、同研究所「平和と自由センター」の所長。かつてCato研究所の国防政策部門ディレクターを務め、また15年間にわたり米議会で国家安全保障問題に従事していた。近著に『War and the Rogue Presidency: Restoring the...