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一つの海、五つの国、二つの未来―カスピ海が迎える次なる試練

【アルマトイINPS Japan/The Astana Times=アヤナ・ビルバエワ】 8月12日、「カスピ海の日」が迎えられた。今年は、カスピ海の海洋環境保護に関する地域の主要な協定である「テヘラン条約」が発効してから20周年にあたる。世界最大の閉鎖性水域であるカスピ海では、水位低下とその将来をめぐる環境上の懸念が高まり続けている。|英語版| この節目は、国際イベント「カスピ海アクション・ウィーク2026」の閉幕とも重なった。アクタウで開かれた同イベントには、アゼルバイジャン、イラン、ロシア、トルクメニスタンの代表団に加え、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタンの関係者、ボランティア、環境活動家、科学者、若者らが参加した。 環境文化の発展を目指す「Taza Kazakhstan(タザ・カザフスタン)」構想のもとで開催された1週間のイベントでは、科学的な議論、環境キャンペーン、ボランティア活動、イノベーション事業などを通じ、カスピ海が直面する共通の課題への関心を喚起した。 地域協定から環境保全の実践へ 「カスピ海海洋環境保護枠組条約」、通称「テヘラン条約」は2006年に発効した。カスピ海沿岸5カ国が、汚染防止と生態系保護で協力するための地域的枠組みを構築したものである。 それから20年を経て、カスピ海をめぐる課題は一段と複雑になっている。 当初の環境協力では、汚染対策と海洋生物多様性の保全が大きな焦点となっていた。しかし現在では、カスピ海の長期的な水位低下という新たな問題が、地域の環境政策に加わっている。 環境実務家協会のラウラ・マリコワ会長は最近、カスピ海北部で急速に浅瀬化が進んでいると警告した。マリコワ氏は、一部の懸念について、船舶の航行や貨物輸送を確保するため、ノース・カスピアン・オペレーティング・カンパニー(NCOC)とその請負業者が実施している浚渫作業との関連を指摘した。 「写真や映像を見れば、水がどれほど遠くまで後退したかは明らかだ。カスピ海北部では、驚くほどの速さで浅瀬化が進んでいる」とマリコワ氏は、Kazinformの報道で語った。 カザフスタン生態・天然資源省によると、長期的な水位低下の最大の要因は依然として気候変動である。カスピ海地域では降水量が減少する一方、蒸発量が増えており、気温上昇に対して特に脆弱な状況にある。 気候による圧力と人間活動が重なり合うことで、政策上の課題はいっそう複雑になる。水位が低下すれば、沿岸インフラ、航路、港湾、産業プロジェクトの適応が必要になる一方、経済活動を維持するための取り組みそのものが、すでに変化の途上にある生態系にさらなる負荷をかける可能性もある。 対応の鍵を握る科学 こうした問題の複雑化を背景に、「カスピ海アクション・ウィーク」では科学協力が重視された。 8月6、7両日には国際セミナーと円卓会議が開かれ、カスピ海沿岸諸国の科学者や専門家が、環境モニタリング技術や現在進められている研究について議論した。 これは、地域の環境政策にとって重要な問いを浮き彫りにしている。すなわち、カスピ海流域全体で起きている変化を把握するために、各国が十分に連携したデータと科学的能力を備えているのか、という問題である。 カスピ海は一つにつながった生態系である一方、環境情報やモニタリング制度、政策対応の多くは依然として国ごとに運用されている。 より効果的な協力を実現するには、研究成果を交換するだけでなく、互換性のあるモニタリング制度を構築し、環境リスクについて地域全体でより明確な共通認識を形成することが必要になる可能性がある。 期間中に開催された「One Caspian – One Future(一つのカスピ海、一つの未来)」セッションも、こうした考え方を反映したもので、各国のボランティア団体が集まり、カスピ海を守るための共通の取り組みについて意見を交わした。 環境意識から具体的な解決策へ 今回のイベントでは、政府や専門家レベルの環境議論を、市民参加と結びつけようとする試みもみられた。 8月8日にアクタウで開催された「カスピアン・クリーン・チャレンジ」には、カザフスタンのマンスール・オシュルバエフ生態・天然資源次官も参加し、ボランティアによる大規模な海岸清掃とごみの分別活動が行われた。 新たに開設された「カスピ海地域ボランティア友好並木」では80本を超える樹木が植えられ、参加者は未来の世代に向けたメッセージを収めたタイムカプセルも設置した。 8月9日には、マンギスタウ州のボズジュラ地域でも清掃活動が実施された。 国際ハッカソンでは、カスピ海の生態系保護を目的とするプロジェクトの開発が参加者に呼びかけられたほか、TED形式の公開討論会では、環境ボランティアと専門家がアイデアを交換した。 イベントは8月12日の国際ボランティア・サミット「Caspian...

ネパールは食料安全保障を「国家安全保障」の問題として直ちに位置づけよ

【カトマンズNepali Times=シュリスティ・カルキ】 気候危機がもたらす異常気象、世界的なサプライチェーンの混乱、そして国内の不適切な行政運営が重なり、ネパールの食料安全保障を脅かす「パーフェクトストーム」が生じている。水・エネルギー・食料の密接な結びつきが、今年ほど鮮明に表れたことはない。ネパールの農地の60%以上が雨水に依存しているうえ、毎年繰り返される肥料不足は西アジアでの戦争によってさらに深刻化している。一方、農村からの人口流出により、耕作放棄地も増えている。|英語版| 先週6月29日の「田植えの日」は、例年に比べて静かなものとなった。泥の中でふざけ合う恒例の光景はほとんど見られず、田植え自体もあまり進まなかった。平年より雨の多いプレモンスーン期に多くの農家が早めに田植えを始めたものの、肝心の本格的なモンスーンの到来は2週間遅れた。 不規則なモンスーンは、ネパール各地で毎年のように繰り返される問題となっている。雨を待ち続けることを諦め、仕事を求めて移住した農家も少なくない。 降雨不足により、コメの収穫量は2023/24年度の600万トンから、2024/25年度には570万トンへ減少した。スーパー・エルニーニョを追跡する気象モデルは深刻な干ばつを予測しており、肥料不足も重なることで、穀物の収穫量はさらに落ち込むとみられている。 ネパール開発研究所で生計・食料安全保障を担当する専門家、クリシュナ・パハリ氏は、次のように説明する。 「ネパールのコメをはじめとする主食の生産は、気候変動による衝撃に左右されています。今年はエルニーニョ現象の影響で、降雨量が平年を下回ると予想されています」 国際栄養会議に出席するため滞在しているローマから『ネパリ・タイムズ』の取材に応じたパハリ氏は、さらにこう語った。 「気候危機に加え、西アジアでの紛争が燃料と肥料の不足を引き起こしています。こうした問題が続けば、ネパールの食料安全保障は一層悪化するでしょう」 かつてネパールは食料の純輸出国だったが、それは遠い過去の話となった。農業が抱える構造的問題の多くは気候危機以前から存在していたが、不安定なモンスーンと灌漑設備の不足が、状況をさらに深刻なものにしている。昨年、ネパールは600億ルピー相当、100万トン以上の穀物を輸入した。 カトマンズの総合開発研究所で食料安全保障とガバナンスを研究するヤムナ・ガレ氏は、次のように指摘する。 「ネパールは気候危機から深刻な影響を受けています。しかし、気候変動に起因する災害が頻発し、農業資源や森林資源が失われた際の、確固たる復旧計画がありません」 「気候変動に対応し、栄養価にも優れた種子や品種を開発するための資源配分も不十分です。その結果、私たちは輸入や援助に依存せざるを得なくなっています」 ネパールでは国民の60%が農業に従事し、農業は国内総生産(GDP)の4分の1を占めている。しかし、農村部の若者は大量に流出しており、農村に残る人々も換金作物に見合った価格を得られずにいる。 6月中旬、韓国政府は韓国国際協力団(KOICA)を通じ、タライ地域における気候変動に強いコメ生産と食料安全保障を促進する6年間の事業に、1,200万ドルの無償資金協力を行うと表明した。 専門家によると、灌漑を整備すれば、ネパールの農業生産性を最大30%向上させることができる。しかし、大規模な灌漑事業は、汚職や不適切な管理のため数十年にわたって停滞している。 生産性の向上は優先課題だが、まず、生産された農産物を守り、無駄なく利用する必要がある。収穫後の損失率は、穀物では15%、野菜や果物では40~50%にも達する。野生動物による農地への侵入も、収穫前の作物に被害を与え、農村からの人口流出をさらに加速させている。 パハリ氏は、「収穫後の損失を減らすことは、人々が利用できる食料を増やすことを意味します。そのためには、コールドチェーンや貯蔵施設を拡充し、穀物貯蔵用サイロを改良する必要があります」と指摘する。 食料を長期保存できるよう、加工方法を多様化することも重要だ。果物は乾燥させたり、ジャムに加工したりできる。また学校給食では、子どもたちの好みに合わせてレシピや献立を工夫することも可能である。 「飢餓をゼロに」 ネパールはこれまで、子どもの発育阻害や消耗症の削減で一定の成果を上げてきた。しかし近年の開発援助の撤退によって、その成果が損なわれ、持続可能な開発目標(SDGs)が掲げる「2030年までに飢餓をゼロにする」との約束の実現も難しくなっている。 先月、ヘレン・ケラー・インターナショナルの支援を受け、ネパール全土の5歳未満児100万人を対象に実施された調査の結果が公表された。それによると、米国国際開発庁(USAID)が資金を拠出していた食料・栄養プログラムの打ち切りにより、子どもの栄養不良が増加している。 急性栄養不良の割合は2025年の6.6%から今年は7.8%に上昇し、マデシ州では全国で最も高い12.3%に達した。 パハリ氏は、次のように語る。 「私たちは、2030年までに『飢餓をゼロに』という目標を達成できる軌道には乗っていません。世帯当たりの平均食料消費量が改善しているのは、海外からの送金と社会保障制度のおかげです」 こうした状況を踏まえれば、国民独立党(RSP)政権が、食料生産の拡大と子どもの飢餓の削減に向けて何をしてきたのかが問われる。 スワルニム・ワグレ財務相は5月の予算演説で、農業部門の再生を「最優先課題」と位置づけた。しかし、農業に配分された470億ルピーは国家予算全体の3%にも満たず、過去9年間で最低の水準である。 その半分以上は化学肥料の輸入に充てられる。それでも、コメの作付け時期になると、毎年のように尿素肥料が不足する。 一部の専門家は、商業的農業の促進と中間層の所得向上を重視するワグレ財務相の方針について、農村部に雇用を創出し、バリューチェーン全体の生産性を高める可能性があると評価する。一方、貧しい農家が取り残されるとの批判もある。 パハリ氏は、次のように話す。 「今回の予算は、ネパールの中間所得層を動かすことに重点を置いています。それには一定の合理性がありますが、ネパールの農家の大半は小規模農家です。この層の問題に取り組まない限り、国全体の生産量を増やすことはできません」 ガレ氏は、他の多くの問題と同様、解決の鍵は政治的な優先順位と政策の実行にあると考えている。 「政策は政治そのものです。新たな政策と予算規模が示しているのは、この政権が農業を優先課題としていないということです。その影響を最も強く受けるのは、社会的に疎外され、排除されてきた人々です」 州政府の農業予算は、中央政府よりは幾分充実している。世帯の食料不安が最も深刻なカルナリ州は、予算の21%以上を農業に充てた。一方、急性栄養不良率が高いルンビニ州とマデシ州は、予算の4%以上を農業に配分している。 ガレ氏は今月初め、アーメダバードで開催された世界銀行の地域政策対話において、「南アジアの食料の未来を共につくるための地域協力と政策行動」をテーマとするパネル討論の司会を務めた。 この会合には南アジア各国から専門家、イノベーター、民間企業の関係者らが参加したが、他国とは対照的に、ネパール政府の代表者は姿を見せなかった。「国内問題の解決」を優先する新政権にとって、こうした招待を辞退することは既に常態化している。 出席者からは、ネパールの新指導部が参加しなかったことについて、奨励策、生産、市場をバリューチェーン全体で結び付け、農業のパラダイム転換を促す貴重な機会を逃したとの声も上がった。 興味深いことに、クリシュナ・パハリ氏とヤムナ・ガレ氏は、共に同じ言葉で結論を語った。 「食料安全保障は、国家安全保障です」 シュリスティ・カルキ氏は『ネパリ・タイムズ』の特派員。2020年にインターンとして同紙に加わり、カトマンズ大学芸術学部を卒業後、正式に編集部の一員となった。政治、時事問題、芸術、文化などを取材している。 This article is brought to you by Nepali Times,...

『ザ・グラブ』気候危機への人類の対応、その最も暗い側面を暴く衝撃のドキュメンタリー

【ミラノINPS Japan/CitiPlat=アルベルト・スクラヴェラーノ】 この映画が浮き彫りにするのは、現在進行する気候危機をめぐる最も不穏な側面の一つである。その手法と目的から見れば、英米圏における優れた調査報道の伝統を受け継ぐ作品と位置づけることができる。比較するなら、マイケル・ムーアのドキュメンタリー作品を思い浮かべるとよいだろう。|英語版| 米国の映画監督ガブリエラ・カウパースウェイトは、2022年のドキュメンタリー映画『ザ・グラブ(The Grab)』によって国際的な注目を集めた。同作は同年9月のトロント国際映画祭でプレミア上映された後、2024年春から世界各地の劇場やVOD(ビデオ・オン・デマンド)で本格的に公開された。 物語の中心にあるのは、米国の非営利報道機関「センター・フォー・インベスティゲーティブ・リポーティング(Center for Investigative Reporting)」の記者たちによる調査活動である。 彼らは世界各地を飛び回り、「カネの流れを追う」ことで、民間企業や国家などさまざまな主体が、食料や水をはじめとする生命維持に不可欠な資源の支配権をめぐって競争を繰り広げている実態を丹念に記録していく。その目的は、気候変動によって将来、生態系が崩壊する事態に陥った場合に備え、あらかじめ優位な立場を確保しておくことにある。 https://www.youtube.com/watch?v=LauTXElpikc こうした国家・非国家主体そのものは、決して目新しい存在ではない。しかし、彼らが実際に何をしているのかについては、大多数の人々がほとんど知らないのではないだろうか。映画はその実態を詳細に描き、軍事機密の壁に阻まれない限り、入手可能な情報をカウパースウェイト監督と制作チームが徹底して掘り起こしていく。 例えば、米国の民間軍事会社ブラックウォーターが、アフリカで土地を取得し、資源供給網における戦略的な足場を築こうとする動きが紹介される。 また、一見すると信じ難いような事例も登場する。プーチン政権下のロシアが、米国からカウボーイを招き、寒冷地で牧畜に従事させているというのである。その背景には、将来、気候危機によって農業が深刻な打撃を受ける一方、現在は乾燥しているロシアの辺境地域の一部が、逆に農業生産に適した土地へと変わる可能性があるとの見通しがある。 中国共産党からサウジアラビアの民間ファンド、米国政府からロシア政権に至るまで、それぞれの主体が利用可能な資源を最大限に確保し、将来の水と食料の供給拠点を支配しようと、それぞれの思惑に基づいて動いている姿が描き出される。 ここに巨大な陰謀や秘密計画があるわけではない。描かれているのは、近い将来に地球の生態系が崩壊する可能性をすでに現実のものとして受け止め、その状況を自らに有利な形で利用し、力を最大化すると同時に潜在的な競争相手を弱体化させようとする国際的な主体の姿である。 真に不気味なのは、こうした構図の中に、気候変動を食い止めるための国際協調という発想がほとんど見当たらないことである。世界の人々の幸福や人権は考慮の外に置かれ、気候危機そのものが、もはや避けられない既定の現実として扱われている。 『ザ・グラブ』は、映画的な体験というより、むしろ生々しい事実とデータを積み重ねた作品である。アル・ゴア元米副大統領が前面に立った『不都合な真実(An Inconvenient Truth)』のような「一人舞台」ではなく、他の気候変動ドキュメンタリーにしばしば見られる、強い活動家色を打ち出した作品とも異なる。 むしろ、その冷徹なアプローチこそが、この作品をより強烈で、同時により悲痛なものにしている。 世界では、市民から政府関係者に至るまで、何百万人もの人々が日々、気候危機を食い止めようと努力している。それにもかかわらず、なぜ危機はますます深刻になっているように見えるのだろうか。 『ザ・グラブ』は、この問いに一つの重い答えを提示する。 世界のエリート層や経済・軍事大国の一部は、そもそも気候変動を解決することに関心を持ってこなかった。それどころか、生態系が崩壊した後の世界を生き残るための準備を、すでに進めているというのである。 映画が明確に示しているのは、私たちが次世代により良い世界を残そうとするなら、大気中のCO2(二酸化炭素)排出や海洋を汚染するプラスチックと同様に、こうした主体の存在そのものもまた、問題を構成する重要な一因であると認識しなければならない、ということである。 Original URL:...

記録的熱波が欧州を襲う―気候変動への適応策は待ったなし

【シドニー IPS=キャサリン・ウィルソン】 西ヨーロッパが観測史上最悪となる6月の熱波に見舞われる中、世界で最も急速に気温上昇が進む地域となった欧州では、気候変動への適応策を急ぐ必要性がこれまでになく高まっている。今年5月には、例年であれば真夏の7月中旬まで見られなかったような高温が早くも観測され始めた。その影響は、人々の健康や社会的不平等の拡大という形で既に現れている。専門家は、気候変動による極端気象が今後さらに深刻化することへの警鐘は極めて明確だと指摘している。|英語版| 欧州コペルニクス気候変動サービス(C3S)の上級研究員ジュリアン・ニコラ氏はIPSの取材に対し、「5月から6月にかけて西ヨーロッパを襲った熱波は、その強さと発生時期の早さという点で極めて異例だった。」と語った。 一方で、「今回の熱波を引き起こした気象パターン―地域を覆う持続的な高気圧と、北アフリカから西ヨーロッパへ流れ込む高温の空気―は、これまで欧州で発生した多くの熱波でも確認されてきたものです。また研究では、欧州では他の大陸地域と比べて夏季の熱波の発生回数が特に急増していることも示されています。」と説明した。 欧州コペルニクス気候変動サービスによると、2026年6月18日から30日にかけての熱波では、1991~2020年の平均と比較して欧州各地で気温が大きく上昇した。 世界気象機関(WMO)によれば、6月下旬にはドイツ東部で41.7度、オーストリア・ウィーンで40度、フランス西部では43.8度という記録的な高温が観測された。 これまで最も深刻な影響を受けてきたのは西ヨーロッパだが、現在では熱波は中欧から東欧にも広がっている。 ウクライナの南、西側でハンガリーと接するルーマニアでは、7月初旬に35~40度を超える猛暑が続いたと、ルーマニア赤十字社・災害対応責任者のダニエル・モドアカ氏(ブカレスト)はIPSに語った。 フランスとスペインでは、相次ぐ熱波によって山火事が激化し、30万人以上が避難を余儀なくされている。 フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、この火災危機を「第二次世界大戦後で最悪の森林火災危機」と表現している。 この記録的な夏は、1980年代以降、欧州の気温上昇が世界平均の約2倍というペースで進んでいることと一致している。 欧州環境機関(EEA)は、「欧州では2020年以降、史上最悪級の熱波が相次いで発生しており、その結果、広範囲に及び数年間続く『メガ干ばつ』のリスクが高まっている」と警告している。 ルーマニアでは極端な高温に対する「赤色警報」が発令され、ブカレスト第4区では赤十字ボランティアが飲料水を配布し、市民の健康と安全を支援した。 しかし、欧州が直面しているのは熱波だけではない。 近年は異常降雨も頻発しており、2024年後半にはスペイン・バレンシアで大規模な豪雨災害が発生した。 この洪水では200人以上が死亡し、土砂崩れや住宅、電力、交通、道路インフラに甚大な被害が生じた。同年にはオーストリア、ポーランド、チェコ、ルーマニアでも深刻な洪水が発生している。 夏本番を迎えた現在、人々は健康と生活への直接的な脅威に直面している。 モドアカ氏は、「ブカレストでは、極端な暑さ、高密度な都市構造、夜間でも気温が下がらない状況が重なり、高齢者や慢性疾患を抱える人々、経済的に困難な家庭への影響が一層深刻化しています」と語る。 ルーマニアでは、電気料金の支払いが困難な世帯が17.7%に上り、自宅を十分に冷房できないことが大きな課題となっている。 こうした中、ルーマニア赤十字社は飲料水の配布や血圧測定などの健康チェックに加え、高温によって症状が悪化する持病を持つ人々への支援を実施している。 さらに、「長期間の熱波に最もさらされるホームレスへの支援や、冷房設備や医療サービスへのアクセスが限られる農村部の世帯への支援も行っています」とモドアカ氏は説明した。 高温が長期間続き、夜間も気温が十分に下がらない状態では、人間の身体は持続的なストレスにさらされる。 その結果、熱疲労や熱中症、心血管疾患など既存の病気の悪化を招き、最悪の場合は命を落とす危険性も高まる。 保健当局によると、今年の熱波では欧州で1億5,000万人以上が影響を受け、6月下旬だけでも約1万人の超過死亡が発生した。 世界保健機関(WHO)は、この20年間で欧州の熱関連死亡率は30%増加し、現在では年間約17万5,000人が暑さに関連して命を落としていると推計している。 65歳以上では、2000~2004年と2017~2021年を比較すると熱関連死亡率は85%も増加した。 都市部では、コンクリートやアスファルトが熱を蓄積する「都市ヒートアイランド現象」によって状況はさらに深刻化し、医療・人道支援体制が限界に近づいている。 パリでは病院や救急搬送体制に大きな負荷がかかり、フランス赤十字社は24時間利用できる緊急クーリングシェルターを設置し、食事や飲料水、宿泊場所、社会的支援を提供している。 気候変動の長期的影響については、学術誌『Global Environmental Change』に掲載された最新研究でも明らかになった。 ドイツの研究チームは、欧州の深刻な熱波が所得格差を拡大させ、とりわけ低所得世帯に大きな打撃を与えた結果、2004年から2022年までの間に平均560万人が新たに貧困リスクに陥ったと報告している。 先月、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)の気候政策上級担当官メアリー・フリール氏は、「極端な暑さは今や現代を代表する人道危機の一つであり、人々、組織、そして政府が一致して対応すべき重大な公衆衛生上の脅威である」と訴えた。 このメッセージは、7月にWHO欧州地域事務局長ハンス・クルーゲ氏も改めて強調した。 同氏は、多くの欧州諸国が将来の熱波による健康被害に十分備えられておらず、医療施設の耐暑化も不十分だと指摘している。 WHOは、「熱波は病院の許容量を超える患者を生み出すだけでなく、高温に対応できる設計になっていない病院では、建物自体が過熱し、電力供給や冷却設備、さらにはコンピューターなどの情報システムが停止する危険がある」と警告している。 気候変動に適応するための課題として、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、資源不足、専用財源の不足、民間企業や市民の参加不足を挙げている。 一方で、欧州連合(EU)は2050年までの温室効果ガス排出実質ゼロ(ネットゼロ)の達成を掲げ、積極的な気候政策を推進している。 2019年に開始された「欧州グリーンディール」は、エネルギー、交通、産業、インフラをクリーンエネルギーへ転換するための包括的な戦略である。 また、コペルニクス気候変動サービスによると、2025年には欧州で発電された電力の46.4%が再生可能エネルギーによるものとなった。 しかし、今回の欧州の危機は欧州だけの問題ではない。 世界の平均気温は現在、産業革命以前と比べて約1.4度上昇しており、このままの傾向が続けば、気候変動対策の重要な目標である1.5度の上昇限界は2030年代を待たず、今世紀末ではなくこの10年の終わりまでに突破される可能性がある。 ニコラ氏はIPSに対し、「1.5度をわずかでも超えるたびに、生態系、水資源、食料安全保障、インフラ、経済へのリスクはさらに高まり、気候システムの一部が取り返しのつかない『ティッピング・ポイント(臨界点)』に達する可能性も増していく」と警鐘を鳴らした。 INPS Japan/ IPS UN Bureau...