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トカエフ大統領、国連総会で安保理の緊急改革を訴える
【アスタナINPS/アスタナタイムズ=アッセル・サツバルディナ】
カシム・ジョマルト・トカエフ大統領は9月19日、第78回国連総会の一般討論で演説を行い、国際法を強化し、国連安全保障理事会の包括的な改革を緊急に行うことの重要性を強調した。
大統領は演説の中で、国連憲章に謳われている国際法の基本原則が相次いで侵食されていることから、世界の平和と安全に対する脅威が増大していることを強調した。
大統領はまた、世界は紛争や対話の欠如など多面的な課題に直面しており、そのすべてが国連創設の基盤となった原則と価値への新たなコミットメントを必要としていると強調した。そしてなかでも最も破壊的な課題は、核兵器使用の脅威だと指摘した。
また、中国、フランス、ロシア、英国、米国の5常任理事国が拒否権を持つ国連安全保障理事会を改革する必要性を指摘した。国連改革を支持する国々は、以前から15カ国からなる国連安保理事会における代表権を改革するよう求めてきた。
「安全保障理事会の包括的な改革なくして、これらの諸課題に取り組むことはできないだろう。これは、人類の大多数の利益を合致させる、現代における緊急の課題です。」とトカエフ大統領は述べ、中堅国やすべての発展途上国の声を国連安保理の場に一層反映させることの重要性を強調した。
大統領はまた、「行き詰まりから脱することができないように見える国連安保理委をより開かれたものに改革し、カザフスタンを含む他の国々が平和と安全の維持においてより大きな役割を果たす機会を与えるべきです。」と語った。
南アフリカ共和国のシリル・ラマポーザ大統領とトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領も、同様の改革を求めた。
カザフスタンの極めて重要な役割
「一言で言えば、カザフスタンは平和を愛する国であり、自国の国益を追求すると同時に、懸案となっている国際問題の平和的解決策を絶えず模索しています。」とトカエフ大統領は語った。
その顕著なイニシアチブの一つが、アジア地域における平和、安定、協力の促進を目的とした多国間フォーラムであるアジア協力信頼醸成措置会議(CICA)である。1992年に設立され、現在28カ国が加盟している。
昨年10月にアスタナで開催された第6回CICA首脳会議でキックオフされたCICAの本格的な組織化は、「アジア大陸における調停と平和構築」に貢献することにつながるだろう。
トカエフ大統領は、上海協力機構(SCO)の議長国として、「公正な平和と調和のための世界統一イニシアチブ」を提唱した。同大統領は、新しい安全保障パラダイム、公正な経済環境、クリーンな地球という3つの重要分野からなるイニシアチブに参加するよう、世界の指導者らに呼びかけた。そして、「グローバルサウスとグローバルノースの間の開かれた対話こそが、その中心的な柱です。」と語った。
大統領はまた、ソビエト連邦下で460回近い核実験を経験し、独立後にソ連から継承した当時世界第4位の規模の核兵器を自主的に放棄した国として、カザフスタンの核兵器禁止条約(TPNW)への「継続的なコミットメント」を再確認した。
「核兵器のない世界への道を歩む核保有国間の相互信頼と協力のみが、世界の安定を生み出すことができる。…私たちは、軍縮・不拡散の分野における新たなメカニズムの構築を支持します。2045年までに核兵器を完全に放棄するための戦略的計画は、この世代の指導者たちにとって、世界の安全保障に対する最も重要な貢献となりうるでしょう。」とトカエフ大統領は語った。
しかし、平和の追求は、軍縮や正式な合意にとどまらない。諸宗教間の対話は、「平和の文化」を育む上で極めて重要である。
トカエフ大統領は、最近見られた聖典に対する冒涜行為について懸念を表明した。「イスラム教やその他の宗教に対する冒涜行為は、自由、言論の自由、民主主義の表現として受け入れることはできない。コーランを含むすべての聖典は、破壊行為から法的に保護されるべきです。」と指摘した。
大統領はまた、国連事務総長と国連総会議長に対し、生物学的安全性に関する国際機関の設立プロセスを開始するよう求めた。この構想は、国際社会が新型コロナウィルスのパンデミックで苦しんでいた最中の2020年9月の国連総会演説で初めて提案したものだ。
この特別な多国間機関は、1972年の生物兵器禁止条約に基づき、国連安全保障理事会に対して説明責任を負うものと期待されている。
トカエフ大統領はまた、アルマトイに中央アジアとアフガニスタンを管轄する国連SDGs地域センターを設立するというカザフスタンのイニシアチブを改めて表明した。トカエフ大統領は、中央アジアが「結束し独立した」国際社会の一部として重要性を増していることについて述べ、地域アジェンダにはアフガニスタンも含まれ、同国が安定し繁栄する国家となり、信頼できる貿易パートナーとなるべきだと強調した。
食料安全保障
国際社会はより良い世界規模の食料安全保障システムを必要としている。トカエフ大統領は、昨年、世界人口の10%近くが飢餓に直面したというデータに言及した。
「食料の生産量や輸出入量など、食料安全保障に関する自主的な情報交換を強化しなければなりません。また、食糧危機に対応するための国際社会からの資金について、透明性のある追跡体制を確保しなければなりません。」とトカエフ大統領は語った。
大統領はさらに、カザフスタンが地域の食料供給ハブとして機能する可能性を示唆し、同国はこの目的のために必要な資源、インフラ、ロジスティクスがすべて整っていると語った。カザフスタンは、穀物の中でもとりわけ小麦と大麦の世界最大の生産国のひとつである。
「カザフスタンはすでに、アジアと欧州を結ぶ陸路輸送の80%近くを担っています。カスピ海横断国際輸送ルート、いわゆる中東回廊は、東西間の連携を大幅に強化することが可能となります。このルートは、重要な市場間の貿易のペースを上げ、海上ルートでの輸送に必要な時間をほぼ半分に短縮することができます。」とトカエフ大統領は語った。
https://www.youtube.com/watch?v=6tQvn11QHRg
気候変動への取り組みには適切な資金が不足している
トカエフ大統領は、カザフスタンで「公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)」を立ち上げ、開発途上国の気候変動に対処するための公平な資金を確保することを提案した。
JETPは、先進国と開発途上国間の国主導のパートナーシップであり、公平で包括的な方法でクリーンエネルギー経済への移行を加速させることを目的としている。JETPは、途上国が石炭火力発電所を廃止し、再生可能エネルギーを開発し、移行によって影響を受ける労働者や地域社会に新たな経済機会を創出することを支援するよう設計されている。
「石炭から徐々に、持続可能で、社会的責任のある形でシフトしていくことは、世界の気候変動目標にとって大きな恩恵となるでしょう。アルマトイに中央アジア気候変動・グリーンエネルギープロジェクト事務所を開設するカザフスタンのイニシアチブは、この問題をリードすることができます。」とトカエフ大統領は語った。
JETPはグラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)で初めて発表され、南アフリカ共和国はフランス、ドイツ、英国、米国、欧州連合から85億ドルの融資を約束された。
2026年にカザフスタンが国連主催で開催する地域気候サミットでは、これらの課題にスポットが当てられる。
来年、カザフスタンは、1993年に始まった中央アジア諸国の共同イニシアチブである「アラル海を救うための国際基金(IFAS)」の議長国にも就任する。トカエフ大統領は、ニューヨーク訪問の2日前、9月15日に関係国首脳らとドゥシャンベで会談し、IFASにおける地域協力の強化について話し合った。
「私たちは、かつて地球上で4番目に大きな湖であったアラル海周辺の環境がさらに悪化し周辺住民の生活に悪影響を及ぼす事態を防ぐ努力を今後も続けていきます。」とトカエフ大統領は付け加えた。(原文へ)
INPS Japan
この記事は、Astana Timesに初出掲載されたものです。
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以下は今年の「核実験に反対する国際デー(8月29日)」に合わせて中央アジアのカザフスタン共和国で開催された「核兵器の人道的影響と中央アジア非核兵器地帯」地域会議(同国外務省、赤十字国際委員会、同国NGOの国際安全保障政策センター、核兵器廃絶国際キャンペーンと創価学会インタナショナルが共催)の開会式で共催団体を代表して行ったスピーチ内容である。
【アスタナINPS Japan=寺崎広嗣】
尊敬する皆様、おはようございます。創価学会インターナショナル(SGI)の寺崎広嗣と申します。本日、アスタナにおけるこの重要な会議に参加させて頂き光栄に存じています。カザフスタンのウマロフ第一外務副大臣、ICRCのミロセビック代表をはじめ、各国外交団の皆様、共催団体の皆様に心より感謝申し上げます。
創価学会という日本語は、価値創造の団体という意味です。私達は仏法が説く生命の尊厳観を基調に、啓発活動、草の根活動、国連でのアドボカシー活動を通じて平和の文化を推進していますが、特に、核兵器のない世界を目指す取り組みは、戦後一貫した主要な活動であります。中央アジアにおいては、キリギス、タジキスタン、ウズベキスタン各国とは、これまで文化・教育を通した交流を重ねてまいりました。今日の会議を通して、5ヵ国すべての皆様との対話が一段と広がりいくことを願っています。
https://www.youtube.com/watch?v=YywmF8o6wi8&t=1217s
先月ウィーンで行われた第11回NPT再検討会議に向けた第1回準備委員会では、在ウィーン国際機関カザフスタン政府代表部、ならびに国際安全保障政策センターとともに、核実験の人道的影響をテーマにサイドイベントを開催させていただきました。会場には50名を超える方々にお越しいただき、この問題における関心の高さがうかがえました。
サイドイベントでは、本日もご講演を頂くドミトリー・ベセロフ氏にご自身の核実験被害についてお話頂きました。核兵器が長期にわたり、どれほど甚大な被害をもたらすのか、会場に集った多くの参加者とともに息をのむような思いでお話を伺いました。核兵器の問題を政治的、抽象的な議論で終始していては、その本質が見えなくなります。被爆また核実験被害等の実相を常に忘れることなく、人類の平和にとって、無差別に大量の殺戮・破壊を行う核兵器が本当に必要なものなのか、と問い続けなければなりません。結論は出ているのです。TPNWもNPTも「核兵器のない世界をめざす」という目標は共有されているのです。その意味で、私達は今後とも一貫して市民社会の立場で軍縮教育の取り組みを世界に広げていきたいと考えています。
核兵器を「非人道的兵器」として、その開発、保有、使用あるいは使用の威嚇を含むあらゆる活動を例外なく禁止したのが核兵器禁止条約です。「核兵器禁止条約の条文は、言い換えるならば地球全体を非核兵器地帯とする内容が規定されている」と言えます。その意味では、中央アジア非核地帯条約が批准されている中央アジアは核兵器禁止条約の理念をすでに実行されていると言えます。
本日の会議では、各国の代表の皆様と中央アジア地域の課題や現状について率直に話し合い、核軍縮また核兵器の非人道性について議論を深めていきたい。そして、核兵器禁止条約の持つ重要な価値について共有できることを強く願っております。核兵器の使用リスクが高まる中、世界を核軍縮、核廃絶の方向へ転換させるべく、有意義な議論を重ねて参りたいと存じます。(英文へ)
有り難うございました。
https://www.youtube.com/watch?v=AgYGJhdH4R8
https://www.youtube.com/watch?v=V7RRKf16Njs
INPS Japan
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|視点|国際的軍備管理体制の崩壊(セルジオ・ドゥアルテ科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議議長、元国連軍縮問題上級代表)
【ニューヨークIDN=セルジオ・ドゥアルテ】
核兵器が国際的な場面に登場したのは、国際連合憲章の署名から21日後のことである。そのため、国連憲章は核兵器について触れていない。
それにも関わらず、広島・長崎への原爆投下が世界にもたらした衝撃と恐怖ゆえに、国連総会は1946年1月に採択した創設後初の決議で、原子兵器を国家の戦力から廃棄する提案をさせる目的で委員会を立ち上げることになった。その年の後半、同総会は、核兵器や、大量破壊に応用できるその他の兵器を禁止・廃絶する喫緊の必要があることを認めた。
これが77年前の出来事である。決議第1号で創設された委員会はすぐに解散となり、関心は廃絶から核分野における「部分的措置」へと移った。この措置によって、さらなる進展への基礎が提供されるはずであった。その数十年の間に、核兵器の拡散を防止することを目的とした多国間協定が採択され、核兵器を制限する措置が合意された。
化学兵器と生物兵器という2種類の大量破壊兵器は、多国間条約によって禁止されている。 しかし、核兵器は依然として人類を悩ませている。実際、核兵器を保有する9カ国は、その速度、射程距離、破壊力を高める新技術を取り入れることで、核兵器の改良に余念がない。「技術的拡散」とでも呼ぶべき状況だ。
一国単独での決定、あるいは二国間協定によって、冷戦最盛期に存在した途方もない量の核兵器を削減することに成功した。しかし、それだけの削減があっても、依然として世界には推定1万3000発以上の核兵器が存在している。現在、米国・ロシア間の核兵器制限協定のほとんどが失効したか、放置されている。唯一残っているのは、2010年に締結された新戦略兵器削減条約(新START)であるが、ロシアが一方的に効力停止にしている。
現在、この二国間にも、またどの核兵器国に関しても、合意された核兵器制限協定というものはない。核兵器とその運搬手段の廃絶は、核兵器保有国にとっては、せいぜい遠い目標にすぎない。
2008年に採択された国連安全保障理事会決議1887は、大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散は国際の平和及び安全への脅威であることを再確認した。誰も否定しえない内容ではあるが、核兵器の存在そのものが、世界の安全への重大な脅威であることにほとんどの人が同意するのではないか。
多国間条約によって核兵器が廃棄・解体された例はない。対照的に、南極条約(1961年)、宇宙条約(1967年)、海底条約(1972年)は、核兵器が存在しない場所での核兵器を禁止した。ラテンアメリカとカリブ海諸国は、自国の領土でそのような兵器を禁止する条約を交渉することに成功した。この先駆的な取り組みは、後に113カ国が他の4つの地域(南太平洋、東南アジア、中央アジア、アフリカ大陸)とモンゴルで非核兵器地帯が創設される成果へと繋がった。
1960年代、2つの核大国は条約案の主な内容を協議し、18カ国軍縮委員会(ENDC)に提示した。委員会では最終合意に至らなかったが、国連総会がそれを採択し、核不拡散条約(NPT)となった。条約は1970年に発効した。
その後約20年ほどで多くの国々が当初の留保を撤回して、1990年代末までには大多数の国々がNPTに加入した。NPTは「不拡散体制の要」とみなされている。NPTを批准していない国は4カ国しかなく、その内、インド・パキスタン・イスラエルは核兵器国である。
NPTは、非核兵器国による核兵器取得・開発の予防に力を発揮してきた。一部の非核兵器国が条約上の義務に実際に従わなかったり、その疑いを持たれたりしたこともあったが、そうしたケースのほとんどが、国連安保理による制裁を含めた政治的・経済的圧力と外交手段の組み合わせによって解決されてきた。
しかし、NPT締約国の間には依然として深い見解の相違がある。非核保有国の多くは、核保有国がNPT第6条を履行し、核兵器廃絶に向けて断固とした行動をとることに関心がないと見ている。不満は何度も噴出し、核不拡散と軍備管理の枠組みを崩壊させる恐れもある。
10度のNPT再検討会議のうち6回までも、最終文書の採択に合意できなかった。直近の2回、2015年と2022年の会議でもそうであった。この状況は核不拡散体制の権威と信頼性にとってはマイナスであり、次の2026年再検討会議にも暗い影を投げかけている。
この冷徹な現実に、さらに不安をあおるような要素が折り重なる。あらゆる状況での核爆発実験を禁じる包括的核実験禁止条約(CTBT)は、条約14条で言及された44カ国のうち8カ国が未署名あるいは未批准であるために、まだ発効していない。署名・批准に向けた国内手続きを完了させる動きがこの8カ国内部には乏しく、この条約が意図した普遍的な禁止措置の有効性に対する信頼を低下させている。
別の不安要素は、第1回国連軍縮特別総会が権限を委託した多国間機関が依然として役割を果たせていないという点だ。1990年半ば以降、国連や軍縮委員会、国連総会第一委員会の場において、多国間で実質的な合意はなされていない。さらに、1990年代以降、ジュネーブ軍縮会議は作業内容にすら合意できていない。
国際連合憲章に基づき、過去78年にわたって構築されてきた国際安全保障システムは、世界の多くの地域で紛争予防に失敗してきた。侵略と平和の侵害は、特に発展途上地域において死と破壊を引き起こし続け、巨大な人道危機と大規模な人口移動を引き起こし、先進国における排外主義的反応を助長し、不平等を拡大させている。
安全保障理事会は、国際の平和と安全の維持に第一義的な責任を負っているが、常任理事国の特殊利害が絡む状況においては行動することができず、その結果、常任理事国が同意しないいかなる措置からも、そのような国々を事実上遠ざけてきた。実際、安保理の構成は、今日の世界の地政学的現実と1945年以降の安全保障に関する認識の変化をもはや反映していない。 国連安保理の改革は待ったなしである。
主要な核保有国の間でも、また地域的なライバルの間でも、繰り返される緊張が安定と国際の平和と安全の維持を脅かしている。核保有国は、必要と思われる状況下で核兵器を使用することを想定した軍事ドクトリンを堅持している。 つい最近まで、これらの国は、第二次世界大戦後欧州で戦争が起こらなかったのは核兵器の存在によるものだと主張していた。
ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、このような主張はもはや維持できなくなった。片方が核保有国である2つの欧州の国が交戦状態にあり、3つの核保有国に加えて「核同盟」である北大西洋条約機構(NATO)もこれに関与している。核兵器使用の恫喝が交戦当初からなされており、その問題を過小化すべきではない。
もし核紛争が勃発すれば、軍備管理、核不拡散、軍縮に関する国際的な制度全体が存続できなくなり、国際連合憲章が確立した秩序そのものが危うくなる可能性がある。
2010年NPT再検討会議以来の重要な動きは、多くの国々が、あらゆる核兵器使用がもたらす壊滅的な帰結について真剣に考える必要性を多くの国が強調し始めたことだ。2012年と14年の国際会議は、核兵器に伴った人道的な危機とリスクについて討論し、核兵器使用が人間にもたらす影響に効果的に対処できる国や集団は存在しないとの結論が導かれた。
これらの会議ではまた、かつての想定よりもこうしたリスクははるかに大きく広範なものであり、こうしたリスクに対抗することが、核軍縮や不拡散に関連した世界的な取り組みの中心に据えられるべきだとの結論が導かれた。
現在までのところ、こうした取り組みの最も重要な成果は、核兵器禁止条約(TPNW)の交渉と採択である。TPNWは、核軍縮に関する効果的な措置について交渉を進めるよう各締約国に求めるNPT第6条の規定に直接由来するものだ。。
これこそ、まさに実行されたことである。この条約は、世界規模で核兵器を禁止することを目的とした、法的拘束力のある最初の国際法である。 TPNWは、核兵器の使用や使用の威嚇を禁止するだけでなく、核兵器の開発、生産、移転、保有、備蓄、第三国への配備も禁止している。
TPNWはまた、核兵器の使用や核実験の被害者に対する支援義務や、その結果汚染された地域における環境破壊の修復措置(第6条)、さらにそのための国際協力(第7条)についても定めている。大多数の非核保有国、理想的にはすべての非核保有国が、TPNWを遵守することによって、核兵器拒否を明確に示すことが不可欠である。今のところ、この条約には95カ国が署名し、そのうち68カ国がすでに批准している。
核軍縮に関する国際的な制度や協定の枠組みが危機に瀕していることは、条約がすべての当事者の利益になると認識される限り、条約が効果的で永続的なものであることを明らかにしている。信頼と信用は、国家間あるいは国家グループ間の協定を成功させるために不可欠な要素である。
軍縮枠組みのさらなる崩壊は、すべての国の安全を脅かすものであり、国際社会全体の正当な利益を考慮した協力と交渉によって阻止されなければならない。真の安全保障は、人類文明の破壊という脅威の上に成り立つものではない。(原文へ)
INPS Japan
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アジア太平洋からインド太平洋へのシフトは誰のためか?
この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。
この記事は、2023年4月25日に「ハンギョレ」に初出掲載され、許可を得て再掲載したものです。
“アジア太平洋の時代は終わり、インド太平洋の新時代が始まった”
【Global Outlook=文正仁】
韓国や米国のみならず欧州で開かれる国際会議でも、このような発言がよく聞かれるようになった。インド太平洋という地政学的概念が、アジア太平洋という地理的概念に取って代わりつつある。
アジア太平洋秩序は本当に終わりを迎えたのだろうか? 私は同意する気になれない。
地域秩序の劇的な変化は、大国間の大規模な戦争やこれらの国における革命のような内政変化の結果として生じる。最もよく知られた例として、ナポレオン戦争後のウィーン体制、第一次世界大戦後の国際連盟、第二次世界大戦後の米ソの冷戦対立、そしてソ連崩壊がもたらしたポスト冷戦秩序などがある。(日・英)
筆者が極めて特異と感じるのは、従来のアジア太平洋秩序がいまだ健在であるにもかかわらず、日本の安倍晋三首相が最初に提唱し、米国のドナルド・トランプ、ジョー・バイデン両大統領が練り上げたインド太平洋戦略と、それがもたらした地域における新秩序が、これほど短期間で支配的パラダイムとして浮上したことである。
1990年代初めに冷戦が終焉を迎えたとき、米国が主導する一極体制のもとで地域再編成が起こった。まず、EUが独立した経済圏の形成に動いた。後れを取ることを恐れた米国は、カナダとメキシコを加えて北米自由貿易協定を締結し、さらに、日本とオーストラリアが音頭を取ったアジア太平洋経済協力(APEC)会議においても積極的な役割を果たした。
それが、アジア太平洋の時代の幕開けである。
ポスト冷戦時代のアジア太平洋秩序は、いくつかの点で前向きなものだった。
アジア、北南米、環太平洋の21カ国からなるAPECは、開かれた地域主義と自由貿易の最たる例となった。先進国と途上国の意見の相違など多くの課題は確かにあったものの、この枠組みからさまざまな2国間自由貿易協定のほか、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定、ASEAN自由貿易地域(AFTA)といった多国間協定が生まれた。
さらに、アジア欧州会合(ASEM)の発足はアジアと欧州の結び付きを生み出し、地域的な自由貿易秩序の基礎としての役割を果たした。毎年開催されるAPECサミットは、政治や安全保障について首脳レベルで協議するフォーラムとなった。また、ASEANは、中国とロシアを含むアジア太平洋地域の安全保障協議を主導し、多国間レベルでの安全保障協力の新たな可能性を切り開いた。
政治体制や価値観が多様に異なるにもかかわらず、地域の交流と協力がより活発になり、ある程度の戦略的コンセンサスの形成をもたらした。1990年代以降にアジア太平洋地域が享受してきた平和と繁栄は、大陸国と海洋国の両方にまたがるこの地域秩序のたまものと言っても過言ではない。
インド太平洋戦略はインド洋と太平洋を「自由で開かれた」(米国の表現)あるいは「平和で繁栄した」(韓国の表現)ものにすることを目指し、協力の原則(韓国の表現)と同様、包摂、信頼、互恵を表現しているものの、その戦略にはアジア太平洋秩序との重大な違いがある。
インド太平洋戦略の構成グループと見なし得る日米韓の3カ国軍事協力、さらには4カ国戦略対話、AUKUS、NATOの勢力拡大を見れば一目瞭然である。
インド太平洋戦略は本質的に、太平洋、インド洋、大西洋を結び付けようという米国の伝統的海洋戦略を具現化した最新の策であり、また、現状を変更して影響力を広げようとする中国の試みを封じ込めるための地政学的な一手でもある。そのため、この戦略は集団的自衛権と排他的同盟に重点を置いている。
そのような戦略を正当化する理由として、「価値観外交」の「我ら対彼ら」というロジックが用いられる。中国、ロシア、北朝鮮のような専制主義国家の枢軸に対抗するために、民主主義国家が集まって連合を組むというわけである。
経済分野では、この戦略はインド太平洋経済枠組み(IPEF)の閉鎖的な地域主義によって特徴付けられる。米国は友好国や同盟国に対し、貿易および技術分野における中国とのデカップリングを強く求めている。リショアリング、ニアショアリング、フレンド・ショアリングといった言葉が示すように、インド太平洋におけるこの戦略の最終目標は、中国の排除である。
国際通貨基金による最近の報告書は、この種の地政学的および地経学的な再編成はグローバル経済に致命的な害を及ぼすだろうと警告している。
インド太平洋戦略は、中国の台頭を実存的脅威と見なす米国と日本の立場から見れば非常に道理にかなったものかもしれないが、彼らの意見や利益は、地域の他の国々のそれとは大きく異なるかもしれない。
そういった国々が二つの秩序のうちどちらかを選ぶことを余儀なくされた結果、深刻な巻き添え被害が生じ得ることを考えると、なおさらである。
さらに、アジア太平洋秩序は今なお非常に有益であり、それを葬り去ることは到底できない。
しかし残念なことに、ほとんどの国はインド太平洋への移行を無批判に受け入れており、学識者や政策決定者の間でこの移行の適切性に関する中身のある議論は全くなされていない。
アジア太平洋秩序とインド太平洋秩序が共存する、さらには共栄する道は本当にないのだろうか? インド太平洋戦略に加わることによる地域のコストと利益を、誰かが算出するべきではないだろうか? 韓国のような半島国家の場合、大陸を捨てて海洋戦略と運命を共にすることが現実に望ましいことだろうか?
韓国は長年にわたり、アジア太平洋秩序による恩恵を最も受けてきた国である。今こそ、活発な議論と討論を通して韓国自身の答えを見いだすべきである。
文正仁(ムン・ジョンイン)は、韓国・延世大学名誉教授。これまで文在寅大統領の統一・外交・国家安全保障問題特別顧問を務めた(2017~2021年)。 核不拡散・軍縮のためのアジア太平洋リーダーシップネットワーク(APLN)副会長、英文季刊誌「グローバル・アジア」編集長も務める。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーでもある。
INPS Japan
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