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中東のエネルギー輸送路の混乱、英国にとっての「ミドル・コリドー」の戦略的重要性を浮き彫りに

【エディンバラINPS Japan/London Post=編集部】 ヘリオット・ワット大学エディンバラ・ビジネススクールは5月27日、「ミドル・コリドー(中央回廊)と英国・中央アジア貿易の未来」と題するウェビナーを開催した。学界、ビジネス界、専門家コミュニティから参加者を迎えた同討論では、英国が中東の先を見据え、南コーカサス、中央アジア、さらに広くユーラシア地域との連携により大きな関心を払うべきかが議論された。これらの地域は、新たに形成されつつある複合的な貿易・エネルギー網を通じて、欧州との結び付きを強めている。|英語版| 世界の液化天然ガスと海上輸送される石油のおよそ5分の1が通過するホルムズ海峡の閉鎖は、世界のエネルギー供給網の脆弱性を改めて浮き彫りにした。米国、イスラエル、イランの対立がいつ、どのように収束するのか見通せないなか、市場は長期的な不安定化に備えている。 同時に、イエメンのフーシ派による脅威が続いていることは、紅海とアデン湾、インド洋を結ぶ海上の要衝バブ・エル・マンデブ海峡の安全にもリスクをもたらしている。さらに、ソマリアを含む「アフリカの角」地域の不安定化も、地域の海上安全保障上のリスクを一段と高めている。 その影響はすでに英国にも及んでいる。エネルギー業界の幹部らは、湾岸地域の緊張が世界市場に波及するなか、7月以降、家計の光熱費が最大209ポンド上昇する可能性があると警告している。燃料価格も急騰しており、対立が激化して以降、英国全土でガソリンは1リットル当たり25ペンス以上、ディーゼルは50ペンス近く上昇した。 この議論の中心にあるのが、正式名称を「カスピ海横断国際輸送ルート(TITR)」というミドル・コリドーである。同ルートは、カザフスタン、アゼルバイジャン、ジョージア、トルコを経由してアジアと欧州を結ぶ貿易の大動脈である。地政学的混乱の影響を受けやすい従来のルートとは異なり、ミドル・コリドーは輸送時間の短縮と比較的高い政治的安定性を兼ね備え、紛争の影響を受ける地域を迂回しながら、東西間の貨物輸送を支えている。 ウェビナーで発言した英王立防衛安全保障研究所(RUSI)金融・安全保障センターのリサーチアナリスト、アルズ・アッバソヴァ氏は次のように述べた。 「ホルムズ海峡危機は、従来型ルートの脆弱性を示す一方で、チョークポイント依存のリスクと、ミドル・コリドーのような代替的・新興ルートにより注目する必要性を改めて浮き彫りにしました。 地政学的分断が進むなか、ミドル・コリドーは貿易、安全保障、影響力が交差する戦略的空間として台頭しています。英国にとって、ミドル・コリドーへのより深い関与は、世界のサプライチェーンが根本的に再編されるなか、連結性を高め、地政学的重要性を増す地域とのパートナーシップを強化する機会となります。 アゼルバイジャンは、ミドル・コリドーを2020年以降の連結性戦略の主要な柱であり、戦略的統合の手段と位置付けています。近隣のミドル・コリドー諸国との二国間の関係固定化の取り決め、インフラ外交、環境配慮型物流への投資を通じて、バクーは新たに形成されつつある連結性の構造の中心的結節点として自らを位置付けています。」 アゼルバイジャンとカザフスタンは、それぞれ南コーカサスと中央アジアにおける英国の関心の最前線に位置している。両国はいずれも英国と戦略的パートナーシップを維持し、主要なエネルギー生産国でもあることから、世界的な不確実性が高まるなかで重要な対話相手となっている。さらに重要なのは、両国が地域の安定、開かれた貿易、ルールに基づく国際秩序という英国の関心をおおむね共有している点である。それは、困難な近隣環境という現実に根差した実務的な見方でもある。 南コーカサスの地政学的展望も、連結性に有利な方向へ変化しつつある可能性がある。アゼルバイジャンとアルメニアの間で持続的な和平合意が成立し、地域関係が改善し、輸送路の再開が実現すれば、東西を結ぶ新たな動脈が生まれ、ミドル・コリドー全体の商業的実現性をさらに高めることになる。 南コーカサスの先にある中央アジア5カ国も、炭化水素資源にとどまらない大きな経済的潜在力を有している。同地域は、大規模な農業生産や畜産に自然条件の面で適しているだけでなく、先端技術に不可欠となりつつある重要鉱物の豊富な埋蔵量も抱えている。同じく重要なのは、中央アジア全体に見られる人的資本の質である。高等教育を受けた労働力が増加しており、その多くは欧米で教育を受けている。これが地域の経済競争力の強化に寄与している。 ミドル・コリドーの地経学的重要性について、ヘリオット・ワット大学エディンバラ・ビジネススクールの持続可能交通学教授、ジョン・イーストン氏は次のように述べた。 「鉄道インフラの整備の進展は、鉄道貨物サービスへの需要に大きな影響を与える可能性があります。今回の講演では、ミドル・コリドーの東側と西側にある鉄道システムの違いに触れ、鉄道利用に対するアプローチの違いが、その実現可能性にどのような影響を及ぼし得るのかを検討します」 ミドル・コリドー沿いの進展は漸進的ではあるが、確実な成果を上げてきた。特に、通関手続き、許認可、輸送規制の調和において前進が見られる。それでもなお、最大の制約はインフラである。これまでの投資は主に鉄道、港湾、トンネルに集中してきたが、今後はカザフスタンやアゼルバイジャンなどの生産国から欧州市場へ石油と天然ガスを輸送するためのパイプライン能力も、議論の重要な一部としなければならない。 経済的意義は大きい。ミドル・コリドーが全面的に稼働すれば、ユーラシア全域の貿易を再形成し、中央アジアと南コーカサスにおける連結性、投資、経済統合を一段と深める可能性がある。世界銀行の試算によれば、貨物輸送時間は最大50%短縮され、同ルートの貿易量は2030年までに3倍に増加する可能性がある。 サプライチェーンと国際貿易への影響について、オークランド大学ビジネススクールのオペレーション・サプライチェーン管理学教授、イスマイル・ギョルゲジ氏は次のように述べた。 「最近の地政学的緊張とサプライチェーンの混乱は、ミドル・コリドーの戦略的重要性を高めています。しかし、この回廊が将来、世界貿易においてどのような役割を果たすかは、インフラや輸送面の連結性だけでなく、地域全体で事業を展開する企業の強靱性、戦略的機動力、制度的準備態勢にも左右されます」 現在、欧州連合(EU)は域外最大の利害関係者であり、地域の連結性強化を目的とした100億ユーロの投資コミットメントがその基盤となっている。一方で、英国の関心も高まり始めている。政策機関やシンクタンクは同ルートの戦略的価値に注目を強めており、インフラ金融、規制基準、輸出金融メカニズムに関する英国の専門性は、同回廊全域での将来的な商業的関与において重要な役割を果たし得ると見られている。 英国がミドル・コリドーへの関与を深めれば、その影響は商業分野にとどまらない。サプライチェーンの強靱性を高め、南コーカサスと中央アジアという、合わせて約1億人規模の市場における英国の地域的プレゼンスを広げ、地政学的リスクが高まる海上輸送ルートへの依存を軽減することにつながる。 討論の司会を務めたヘリオット・ワット大学エディンバラ・ビジネススクールの戦略・国際ビジネス助教、アシルベク・ヌルガブデショフ氏は、次のように述べた。 「ミドル・コリドーは、単なる代替的な貿易ルートではなく、分断が進む世界貿易システムにおける戦略的な多角化メカニズムとして浮上しています。しかし、その長期的成功は、インフラ投資だけでなく、調整、制度的信頼、運用上の信頼性にもかかっています。この文脈において、地域の軸としてのカザフスタンの役割、そしてガバナンス、金融、教育を通じた英国の制度的貢献は、ますます重要になっています。」 INPS Japan 関連記事: 「人類の友愛」は平和を動かせるか 日本とカザフスタンが接近―イラン危機がエネルギーと安全保障の優先課題を再編 ホルムズ海峡―世界経済のボトルネック

次期国連事務総長が重要である理由

国際機関への信頼が低下するなか、国連のリーダーシップをめぐる問題は民主主義そのものと切り離せない 【カトマンズINPS Japan/Nepali Times=アマンダ・スーレック】 次期国連事務総長は、単に複雑な機構を管理するだけの人物ではない。代表性、説明責任、参加という民主主義の根幹をなす原則に支えられた国際システムにおいて、最高行政官であると同時に、道義的支柱としての役割を担わなければならない。国連憲章にはこうした価値が暗黙のうちに織り込まれているが、実際には民主主義そのものが常に優先され、十分に議論されてきたわけではない。だからこそ、事務総長のリーダーシップは今、とりわけ重大な意味を持つ。|ENGLISH| しかし、国連事務局ビル38階への道のりは決して平坦ではない。世界で最も困難な職務の一つとされる国連事務総長の選出は、国連加盟国による一般選挙ではなく、公平とは言い難い外交上の難関である。国連事務総長は、安全保障理事会の勧告に基づいて、総会によって任命される。この仕組みは、中国、フランス、ロシア、英国、米国という常任理事国5か国(P5)に、それぞれの政治的優先事項に基づく絶対的な拒否権を与えている。候補者が民主主義を擁護しようとするなら、民主主義の促進を西側による押しつけ、あるいは主権の侵害とみなす拒否権保有国を遠ざけることなく、それを行わなければならない。民主主義は国連加盟の正式な条件ではないが、多国間主義の正統性と有効性の中核にあるからである。 包摂的な統治、市民社会の参加、説明責任を果たす制度は、民主主義の重要な柱であり、持続可能な平和と開発に不可欠である。それらはまた、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」など、国際的な公約の信頼性を支える基盤でもある。実務的に見れば、民主主義は国連を三つの面で強化する。第一に、各国政府が国民の意思を反映することで正統性を高める。第二に、透明性と監視を通じて説明責任を強化する。第三に、包摂的な制度を可能にすることで、長期的な開発成果をより効果的に実現できるようにする。だが、これらの原則が世界各地で圧力にさらされるなか、国連が集団として行動する能力も弱まりつつある。次期指導者は、国連が掲げる民主主義への志向と、民主主義国、君主制国家、一党支配国家、軍事政権を含む加盟国の現実との隔たりを埋めなければならない。 したがって、事務総長はこの状況のなかで独自の立場に置かれている。その役割は必ずしも政治的に中立なものではない。加盟国の利害の均衡を図りながら、国連システムに刻まれた価値を守ることが求められるからである。この緊張関係のなかでこそ、民主的なリーダーシップが決定的に重要となる。民主主義の原則にコミットする事務総長は、市民社会の声を高め、選挙の公正性と法の支配を守り、人権とより広範な政治参加を訴え、多国間行動に必要な合意形成を損なうことなく、権威主義的な傾向に慎重に歯止めをかけることができる。そのような取り組みを通じて、国連事務総長は、国際協力への信頼回復に貢献し得る。いま、それは喫緊の課題である。 国連総会による事務総長候補者との非公式対話、各候補者のビジョン・ステートメント、履歴書を踏まえると、有力候補たちは、多国間リーダーシップにおける民主主義に対して、それぞれ異なるアプローチを示している。 ミチェル・バチェレ(チリ)は、人権とジェンダー平等の推進に長く携わってきた経験に裏打ちされた、強い規範的志向を持つ。彼女の実績は、民主的価値への明確なコミットメントを示している。一方で、その姿勢は、人権に基づく監視を警戒する国々の反発を招く可能性もある。 ラファエル・マリアーノ・グロッシ(アルゼンチン)は、核外交での経験に形づくられた、より技術的・実務的なアプローチを提示している。これは大国に受け入れられやすく、実務的協力を促進する可能性がある。その一方で、彼のビジョンでは民主主義や人権への明示的な言及は比較的弱く、これらの課題が彼のリーダーシップにおいてどの程度重視されるのかという疑問も残る。 レベカ・グリンスパン(コスタリカ)は、多国間主義への信頼再構築に焦点を当て、統治を経済的包摂と開発に結びつけてきた経歴を持つ。分断が深まる環境において、合意形成を重視する彼女の姿勢は強みとなる。ただし、民主主義が常に明確に前面に打ち出されているわけではない。 マッキー・サル(セネガル)は、グローバル・サウスの公平性と代表性を強調し、最高レベルの政治・外交経験を備えている。しかし、国内における民主的統治の実績には評価が分かれる面がある。そのため、彼のアプローチは制度的な民主改革よりも、開発や構造的不平等の是正を優先するものとなる可能性がある。 同時に、誰が国連を率いるのかという問題は、代表性そのものの問題と切り離せない。次期事務総長に女性を任命することは、単なる象徴的な節目にとどまらず、民主主義の原則を実質的に確認する行為となる。ジェンダー平等は、政治制度が平等な参加、代表、発言権をどの程度保障しているかを示すものであり、機能する民主主義の決定的な特徴である。数十年にわたる公約にもかかわらず、国連ではこれまで女性が事務総長を務めたことがない。この空白を埋めることは、国連が世界に向けて掲げる価値と自らの指導体制を一致させる意思を示す力強いメッセージとなる。また、ジェンダー平等と包摂的統治に関する国連の取り組み、とりわけSDG5に関する活動の信頼性を高めることにもつながる。より広く見れば、それは民主主義が社会のあらゆる層の意味ある参加を必要とし、その原則がグローバルなリーダーシップの最高位にも及ぶべきであることを改めて示すものとなる。 国際民主主義・選挙支援機構(International IDEA)の知見も、民主主義が国連システムにとって周辺的な課題ではなく、その強靱性と存立に不可欠であることを示している。民主的制度は、紛争の可能性を低下させ、平和的な紛争解決を可能にすることにより、平和と安定に直接貢献する。また、世界的に統治への信頼が低下するなかで、制度への信頼を支える役割も果たす。さらに、多様な声が意思決定に反映されることを可能にし、包摂性を確保する。国際的な公約の進捗を検証するために必要な説明責任の仕組みも提供する。おそらく最も重要なのは、国連の場で民主主義を積極的に擁護する加盟国が減少するなか、これらの原則を守る責任が、国連システム内の独立した機関にますます委ねられているという点である。 したがって、次期事務総長の選択は、国連の実務面での有効性だけでなく、その規範的方向性をも左右する。世界外交において民主主義という言葉が影を潜めつつあるいま、多国間主義が、共有された原則を前進させる枠組みではなく、権力の調整に重きを置く、より取引主義的なモデルへと傾いていく現実的なリスクがある。参加、説明責任、包摂、平等を通じて民主主義を擁護することは、任意の政策課題ではない。それは、有効で正統性ある多国間主義が依拠する基盤である。それを欠いても、国連は機能し続けることはできるかもしれない。しかし、世界を導き、その存在意義を保ち続けることは困難になるだろう。 アマンダ・スーレックは、ニューヨークにおける International IDEA の国連リエゾンを務めた。 INPS Japan 関連記事: チリは先に手を引き、モルディブは扉を閉ざした―国連事務総長選が映す静かな淘汰 「フェミニスト国連キャンペーン」、国連事務総長に有言実行を求める 国連、世界で最も多言語化された組織のひとつ

2030年への最後の追い込みを「自然保全への資金動員の転換点」に――第8回GEF総会

【サマルカンド(ウズベキスタン)IPS=セシリア・ラッセル】 「公的予算への圧力が高まり、地政学的緊張が増すなかで、環境資金を任意のものと見なしたくなるかもしれない。しかし、それは誤りである。」地球環境ファシリティ(GEF)のクロード・ガスコン暫定CEO兼議長は、ウズベキスタン・サマルカンドで開催された第8回GEF総会の閉会本会議で、こう訴えた。|ENGLISH| 開発途上国、後発開発途上国、小島嶼開発途上国(SIDS)、そして脆弱で不安定な国々にとって、政府開発援助(ODA)は依然として支援の礎である。 「問われているのは、単なる国際目標の達成ではない。この地球上での生活の質の未来である。子どもたちが、清らかに流れる川、豊かに立つ森林、地域社会を守る海岸線、そしてすべての繁栄を支える自然システムを破壊することなく発展できる経済を受け継げるかどうかが問われている。」 総会議長を務めたアジズ・アブドゥハキモフ・ウズベキスタン大統領環境顧問兼国家生態・気候変動委員会議長は、今回の総会について、50を超えるサイドイベントや二国間会談、非公式協議が行われた極めて生産的な会合だったと評価した。 「GEF理事会は、GEF-9のプログラム方針やGEF-8最後の作業計画を含む重要決定を審議し、改善した。」と同氏は語った。また、統合的なプログラム編成、革新的資金調達、包摂的な参加に強い焦点が当てられたことを歓迎し、GEF-9資金の少なくとも20%を先住民族および地域コミュニティに振り向ける目標にも言及した。 さらにアブドゥハキモフ氏は、ウズベキスタンのシャフカト・ミルジヨエフ大統領が示した、同国が支援受入国から支援供与国へ移行するとの方針について、環境の持続可能性に対する同国の強い意思を示すものだと語った。 「これは、われわれが協力の恩恵を受けるだけでなく、地球環境分野の取り組みに貢献する用意があることを示している」 これに先立つハイレベル・パネル討論では、GEF科学技術諮問委員会(STAP)のロジーナ・ビアバウム議長が、世界のGDPの半分が自然に依存している一方で、生物多様性資金には年間7000億ドルの不足があると指摘した。 一方で同氏は、コンサルティング大手マッキンゼーの分析を引用し、2030年までに地球の陸域と海域の少なくとも30%を効果的に保全する「30by30」目標を実行に移せば、保全と社会経済の両面で大きな成果が得られ、貧困削減にもつながると述べた。 資金調達をめぐる議論は厳しい環境下で行われているが、ロッククリークのシニア・マネージング・ディレクターで、元世界銀行財務総長のケネス・レイ氏は、民間部門が課題解決に貢献できることは明るい材料だと語った。 同氏は、過去15年間の好調な市場環境に支えられ、世界の貯蓄資産は大きく拡大したと説明した。年金基金、政府系ファンド、保険部門の準備金などには数兆ドル規模の資金が存在し、それらを自然への投資に振り向けることは可能だとした一方で、「資産所有者がこの場にいない」と指摘した。 レイ氏は、GEFが中央銀行、国際通貨基金(IMF)、世界銀行、証券規制当局などの主要関係者を招集し、「自然への投資がインフラ投資と同じくらい当たり前になる」環境を整えるべきだと提案した。 世界銀行グループ環境局長のバレリー・ヒッキー氏は、GEFには、民間部門がリスクを管理できるよう、規制環境の整備と政策の予見可能性向上を支援する役割があると述べた。同氏は、譲許的資金と商業資金を過不足なく組み合わせる「ゴルディロックス型」のブレンド・ファイナンスが重要だと指摘した。投資の失敗を一定程度吸収しながらも、商業的収益性と財務的な健全性を確保することで、測定可能な環境成果を伴う民間資本を呼び込むことができるという。 一方で、警鐘も鳴らされた。 英国のレイチェル・カイト気候担当特別代表は、英国が「生態系崩壊に対して極めて脆弱である」とする研究結果を紹介した。 「それは何を意味するのか。英国の家庭が、子どもの健康を守るために必要な食料をスーパーで買い物かごに入れられるかどうかは、コンゴ盆地の健全性と完全に結びついているということだ。もしそこにさらなる脅威が及べば、安全保障や防衛上の影響をもたらすことになる。」 セントクリストファー・ネービスのジョイエル・クラーク持続可能開発・環境・気候行動・地域社会強化担当大臣は、地域社会や先住民族の参画を得るには、人間中心で包摂的かつ経済的に実行可能な解決策が鍵になると述べた。同氏は、ブルーカーボン市場は十分に評価されておらず、その意義も理解されにくいと指摘した。 その一例として、ウミガメを保護するユネスコ世界遺産地域を挙げた。その地域では、漁業コミュニティの食生活にウミガメが含まれていた。そこで観光産業における代替的な雇用機会を提供したところ、地域住民の保護活動への支持を得ることができたという。 閉会本会議でガスコン氏は、環境は「周辺的な課題」ではないと改めて強調した。 「第一に、各国への公的開発援助を守り、強化しなければならない。ODAの継続は、単なる道義的責任ではない。世界の安定、人間の安全保障、そしてすべての国々が共有する未来への投資である」 次に同氏は、各国が自ら求める環境成果と国家政策を整合させる必要があると述べた。 「持続可能性へのコミットメントを掲げながら、生態系の破壊、天然資源の過剰利用、大気・土地・水の汚染をなお促す政策を続けることはできない。」 第三に、GEFは民間資本の力を最大限に引き出し、民間部門を単なる資金源ではなく、地球環境目標のガバナンスと実施を担う真のパートナーにしなければならないとした。 最後に同氏は、環境目標の達成には「内閣全体のコミットメントと社会全体の参加」が必要だと訴えた。 「国家レベルのリーダーシップが必要である一方、地域に根差した主体的な取り組みも必要である。つまり、地域社会、先住民族、女性、若者、市民社会、科学者、地方自治体、農業従事者、労働者、起業家の声に耳を傾け、ともに取り組むということだ。持続的な解決策は押し付けられるものではなく、共につくり上げるものであることを認識しなければならない」 ガスコン氏は最後に、2030年へ向けた最後の追い込みは「単なるカウントダウンであってはならない。それは転換点でなければならない。」と締めくくった。 第8回地球環境ファシリティ(GEF)総会は、2026年6月6日、ウズベキスタン・サマルカンドで最終本会議を開いた。本特集記事はGEFの支援を受けて制作された。編集内容についてはIPSが単独で責任を負い、必ずしもGEFの見解を反映するものではない。 https://www.youtube.com/watch?v=TmElK5Egrls INPS Japan/IPS UN Bureau Report 関連記事: フィリピンの先住民族指導者、古来の知恵を世界の舞台へ インドのLED化が示す、環境対策を支えるブレンデッド・ファイナンスの力 ウズベキスタン―日本:戦略的パートナーシップの境界を広げる

インドのLED化が示す、環境対策を支えるブレンデッド・ファイナンスの力

【インド・ハイデラバードIPS=ステラ・ポール】 ウズベキスタン・サマルカンドで開催される第8回地球環境ファシリティ(GEF)総会を前に、各国政府や開発機関は、急速に拡大する環境対策の資金需要にどう対応するかという、なじみ深い課題に向き合っている。公的予算が逼迫し、生物多様性や気候変動に伴うリスクが高まるなか、注目はブレンデッド・ファイナンスへと集まりつつある。これは、譲許的な公的資金と民間の商業投資を組み合わせ、大規模な資本動員を図る手法である。|ENGLISH| 支持者は、この仕組みによって投資リスクを軽減し、従来なら資金確保が難しかった事業に民間資本を呼び込むことができると主張する。一方、批判的な見方をする人々は、こうした手法がなお公的支援に大きく依存しており、どの地域でも容易に再現できるとは限らないと指摘する。 インドのハイデラバードでは、世界最大級の自治体LED街路灯整備事業が、ブレンデッド・ファイナンスの実効性を示す代表的な事例として注目されている。 街路灯を気候資金へ転換する 急速に拡大し、気候変動の影響を受けやすい大都市ハイデラバードは、気温上昇とエネルギー需要の増大に対応するため、インドの「街路灯国家プログラム」(SLNP)の下で、街路灯を省エネ型のLEDに改修してきた。 この取り組みは、エネルギー効率サービス社(EESL)が国連環境計画(UNEP)およびアジア開発銀行(ADB)と連携し、GEFの支援を受けて実施した、より広範な「エネルギー効率市場の創出と維持」プログラムの一環である。 同プログラムでは、GEFによる無償資金と4億3400万米ドルを超える協調融資を組み合わせ、省エネ技術の大規模導入を進めた。 「環境資金の不足額は、年間で数千億ドル規模に及んでいる。これは、無償資金や政府開発援助(ODA)だけで埋められる規模ではない」と、GEFのプログラム責任者であるフレッド・ボルツ氏は語る。 「健全な地球環境を維持していくには、民間資本の動員が不可欠である。」 ブレンデッド・ファイナンスは、譲許的融資や保証、無償資金支援などを通じて民間投資家のリスクを抑え、収益の見通しが立ちにくい市場でも事業を実現しやすくする仕組みである。公的資金やフィランソロピー資金がリスクの一部を引き受けることで、再生可能エネルギー、生物多様性、持続可能なインフラなど、リスクが高いと見なされがちな分野にも民間資本を呼び込みやすくなる。 ハイデラバードでは、EESLがLED街路灯の設置費用を先行して賄い、その後に得られる電力費の削減分で費用を回収する仕組みを導入した。これにより、大ハイデラバード市公社(GHMC)は多額の初期支出を避けることができた。 初期段階で45万基を超える街路灯が交換され、その後の拡大によって対象地域は市内全域に及んだ。公共照明に伴う電力消費量はおおむね半減し、年間10億ルピー超(約1200万米ドル)の節約を生むとともに、炭素排出量の大幅削減にも寄与した。 節約分が資産となる仕組み 資金調達の仕組みは、「みなし節約」モデルに基づいていた。自治体は初期費用を支払う代わりに、電力費と維持管理費の削減分を検証したうえで、その削減分を返済原資として投資額を段階的に返済していく仕組みである。 支持者は、こうした仕組みによって、予算制約を抱える都市でもインフラの近代化が可能になると評価する。一方で、分析者は、このモデルが正確な削減予測、信頼できる維持管理、そして十分な行政能力に依存していると警告する。 専門家の間では、ブレンデッド・ファイナンスが最も効果を発揮するのは、公的機関が事業の実施と監督に積極的に関与し続ける場合だとの見方が共有されている。 ハイデラバードの事業には、中央監視制御システム(CCMS)が導入された。これにより、当局は電力使用量を把握し、故障を検知し、設備の稼働状況をリアルタイムで監視できるようになった。 このシステムは運用管理を強化するとともに、独立した検証に基づいて支払いを行う成果連動型の資金調達に必要なデータの蓄積にもつながった。 インド・ハイデラバード東部でLED化された街路灯。LED照明は、従来型照明に代わる費用対効果と省エネ性に優れた選択肢であり、設置地域に安心感をもたらしている。 炭素を超えて――気候資金から日常生活へ 住民にとって、LED化の効果は、財務や技術の言葉で語られるものというより、日々の暮らしや安全に対する実感の変化として受け止められることが多い。 カヴィタ・ラマヴァトさん(27)と夫のラヴィ・ラマヴァトさん(35)は最近、幼い2人の子どもを連れて、ハイデラバード東部郊外の急成長地域、ウッパル・バガトに移り住んだ。以前は約4キロ離れたウッパル・カランに住んでいた。家賃は安かったが、インフラは十分に整っていなかった。カヴィタさんは家事労働者として働き、ラヴィさんはオートリキシャの運転手をしている。 家賃はほぼ2倍になったが、街路照明の改善は一家の日常を変えた。 「この地域は以前より活気があり、道路も広く、明るく照らされています」と、カヴィタさんは自宅近くの路地に設置されたLED街路灯を指さしながら語った。「以前は、子どもの塾の送り迎えで一人で歩くのが怖かったのです」 今では、子どもたちは夕方になっても以前より長く外で遊ぶことができ、近隣の商店も遅くまで店を開けているという。ラヴィさんも、自宅前にオートリキシャを停めても、盗難や破損を心配しなくて済むようになったと話す。 都市計画の専門家は、公共照明の改善が、人々の移動、インフォーマルな経済活動、公共空間における安全への認識に影響を及ぼし得ると指摘する。とりわけ、女性や子どもにとって、その意味は大きい。 先週、カヴィタさんは自宅前で小さな果物屋台を始めた。明るくなった通りのおかげで、客足が増える日没後も仕事を続けることができる。 彼女の家族にとって、その恩恵は排出削減量や資金調達の仕組みで測られるものではない。公共空間で以前より安心して働き、少しでも収入を増やせるという、日々の生活の変化として表れている。 地元の街路から世界の金融モデルへ ハイデラバードの経験は、気候変動緩和におけるブレンデッド・ファイナンスの可能性を示しているが、このモデルはエネルギー効率化の分野を超え、より幅広い領域へと広がりつつある。 世界各地では、GEFが支援するブレンデッド・ファイナンス事業が、生物多様性の保全、海洋保護、持続可能なサプライチェーンに投資を呼び込んでいる。これらの事業は、従来は投資を集めにくかった分野において、公的資金がどのように民間資本を引き出し得るかを示している。 例えばブラジルでは、「リビング・アマゾン・メカニズム」が、資本市場を活用した金融手段とフィランソロピー資金を組み合わせ、アマゾン地域の持続可能なサプライチェーンを支えている。この仕組みは、協同組合や地域の生産者を資金につなぐとともに、投資家であり買い手でもある企業ナチュラの参画によってリスクを軽減している。 同様に、IFC・GEF「グリーン・グローバル・サプライチェーン脱炭素化イニシアティブ」のような国際的プラットフォームは、新興市場の製造業者や供給業者に対し、環境目標に連動した長期融資を提供することを目指している。これにより、脱炭素化に向けた大きな障壁である、手頃な資金へのアクセス不足に対応しようとしている。 国家レベルでも、ブレンデッド・ファイナンスは、債務や債券を活用した革新的な金融手法を可能にしている。世界銀行の保証とGEFの譲許的資金によって支援されたセーシェルのブルーボンドは、借入コストを抑えながら海洋保全のために民間資本を調達できることを示した。 ラテンアメリカ・カリブ地域では、米州開発銀行(IDB)とGEFが支援する新たなファシリティが、債務自然保護スワップの拡大にブレンデッド・ファイナンスを活用している。これは、各国がより低いコストで債務を借り換え、その節約分を生物多様性の保全や気候レジリエンスの強化に振り向けることを可能にする仕組みである。 これらのモデルに共通する原則は明確である。公的資本や譲許的資金がリスクを引き受けることで、金融面のリターンだけでは投資を正当化しにくい分野にも、民間投資家が参入しやすくなるという点である。 都市を超えて市場を育てる ハイデラバードの事業は、自治体インフラにとどまらなかった。インドのUJALAイニシアティブを通じて、EESLは需要を集約し、電球を一括調達することで、家庭向けLED照明の普及も進めた。 この手法により、LED電球の価格は大きく下がり、数百万世帯が省エネ型照明を手頃な価格で入手できるようになった。また、電気料金の請求に組み込む形で少額ずつ支払える仕組みも導入された。 公共インフラと家庭需要の双方に取り組むことで、このプログラムは、省エネ技術を導入するだけでなく、長期的に自立して機能する市場をつくることも目指した。 「環境面の成果を大規模に広げる道筋は、ブレンデッド・ファイナンスを通じて開かれる。公的資本は、民間資本が担わない役割を果たす。過大なリスクを引き受け、教訓を持続的な変化へと転換するための厳格な監視に資金を投じるのである。公的資金を排除すれば、成果もまた排除されることになる」と、ボルツ氏は述べた。 ブレンデッド・ファイナンスの試金石 気候資金と生物多様性資金をめぐる国際的な議論が活発化するなか、ハイデラバードは、ブレンデッド・ファイナンスが都市レベルでどのように機能し得るかを示す試金石として、ますます注目されている。 ハイデラバードに拠点を置くコンサルティング会社プロベンチャーのクリーンエネルギー専門家、スリニヴァス・コナ氏はこう語る。「LEDプログラムは、譲許的資金、公的部門による実施、節約分に基づく返済構造が連動することで、自治体による多額の初期支出を伴わずに都市インフラを拡充できることを示した」 同時に、同氏は課題も残ると指摘する。「こうしたモデルを他地域でどこまで容易に再現できるかは明らかではない。特に、歳入基盤が弱く、行政能力も低い小規模都市では難しい可能性がある。」と述べ、一部の設備で維持管理上の問題が報告されていることにも言及した。 それでも、ハイデラバードの経験は、世界的な金融をめぐる議論が、都市の日常生活に目に見える変化としてどのように表れるのかを垣間見せている。 先週、カヴィタ・ラマヴァトさんは、明るいLED街路灯の下、始めたばかりの果物屋台のそばに立ち、夕方の客が通り過ぎるなか、グアバやバナナを並べていた。 果物の販売にはリスクも伴うと、彼女は言う。それでも、その追加収入は、上昇する家賃や子どもの学校関連費を賄う助けになるかもしれない。 カヴィタさんにとって、ブレンデッド・ファイナンスの影響は、投資フローや政策の枠組みで測られるものではない。安全に働ける時間を延ばし、少しでも収入を増やし、子どもたちのためにより安定した未来を思い描けることに、その影響は表れている。 注:第8回地球環境ファシリティ総会は、2026年5月30日から6月6日まで、ウズベキスタン・サマルカンドで開催される。 本特集記事はGEFの支援を受けて掲載された。編集内容についてはIPSが単独で責任を負うものであり、必ずしもGEFの見解を反映するものではない。 INPS Japan/IPS UN Bureau Report 関連記事: 『この気候マーチは、息子の未来のため』 「緑の万里の長城」が2030年への道を切り開く 太陽光で危機をしのぐパキスタン―中東発のエネルギー不安の中で進む「静かなソーラー革命」