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|視点|炎から救われて―2025年の世界(ファルハナ・ハク・ラーマンIPS副総裁兼北米エグゼクティブ・ディレクター)
【トロントIPS=ファルハナ・ハク・ラーマン】
例年の「年末総括」記事は、この1年に起きた世界的災害や危機を重たい調子で振り返り、IPSのパートナーや寄稿者の取り組みを紹介したうえで、最後はやや明るい結びで締めくくられるのが通例である。だが今回は、比喩にもなる個人的な出来事から始めたい。
11月20日、ブラジル・ベレンで開かれていた国連気候会議COP30では、化石燃料ロビーに翻弄されながら各国代表が最終文書をめぐって駆け引きを続け、会期延長も避けられない様相を呈していた。そのさなか、会場のコンベンションセンターで火災が発生した。場内は炎と混乱に包まれ、緊張が走った。
数千人が出口を求めて動くなか、若いバングラデシュ人外交官が私に気づいた。彼は我先にと人波に加わるのではなく、混み合う群衆の間を縫って私を安全な場所へと導いてくれた。危機の瞬間、人は思いがけない形で助け合える。そのことを示してくれたアミヌル・イスラム・ジサンに感謝したい。
幸い死者は出なかった。協議は再開され、締約国会議(COP)のプロセスも、気候危機の抑制に向けた小さな前進と解釈し得る最終文書の採択という形で、ひとまず持ちこたえた。もっとも、危機の主因である化石燃料についての言及は、なお婉曲な表現にとどまった。
COPの存続は盤石ではなかった。ドナルド・トランプ大統領が米国の不参加を指示し、9月の国連総会演説で気候変動を「史上最大のペテン」と切り捨てたためである。
だがベレンへの不参加は、国際的地位という点で、むしろ米国自身により大きな損失をもたらした。トランプがヨハネスブルグで並行開催されていたG20協議も回避したことで、米国の評判はさらに傷ついた。その「傷口に塩を塗る」形となったのが、G20議長国のシリル・ラマポーザ大統領の落ち着いたリーダーシップである。米国の反対をよそに、気候危機を含む世界的課題に取り組む宣言の採択へと議論を導いた。
振り返れば、この1週間が「米国の時代」に静かに終止符を打ったのかもしれない。予測不能、混乱、暴力、そして制度化された残酷さ―それらは、2025年に一段と進んだ単独主義と保護主義への劇的な転回を告げる兆候である。
10月11日に米国仲介のイスラエルとハマスの「停戦」が始まって以降、子どもを含む数百人のパレスチナ人が殺害された。ロシアによるウクライナの民間人を標的とした空爆も続き、就任初日に戦争を終わらせられると豪語したトランプの、場当たり的な終戦工作をあざ笑うかのように、被害を積み重ねている。
トランプが1月に命じた米国援助の大幅削減は、「世界的な人道的大惨事を助長した」と、国連人権理事会が7月31日の声明で指摘した。貧困、食料、人権に関する2人の独立専門家の見解を引用し、理事会はこう述べた。「援助削減に起因する死者は、すでに35万人以上と推計され、そのうち20万人以上が子どもである。」
西スーダンの紛争で飢饉は拡大し、資金不足は南スーダン向けの重要な国連支援の削減にもつながった。ミャンマーでは「忘れられた内戦」が続くなか、国連世界食糧計画(WFP)は資金不足を理由に、100万人以上への救命支援を打ち切った。
市民社会の国際ネットワークCIVICUSは、紛争、気候危機、民主主義の後退といった複合危機が、国家が解決できない、あるいは解決しようとしない問題に対応するための国際機関の能力を超えつつあると警告する。米国が国際機関から距離を置く動きは、国際協力の危機をさらに深刻化させかねない。
しかし、CIVICUSの「2025年版 市民社会の現状報告書」が示すように、市民社会は国連を「人々を中心に据える」ことで立て直すための構想を持っている。COP30では、オープン・ソサエティ財団のビナイフェル・ノウロジー総裁がこの方向性に賛同し、先住民やアフロ系コミュニティの声を可視化し、人権を気候行動の中核に据え直したとして、ブラジルの民主的リーダーシップを評価した。
急速に揺れ動く世界秩序のなかで、ノウロジーは、尊厳と公正、そして地球の保護に根ざした新たな発想とビジョンを携え、グローバル・サウスが前面に出つつあるとみる。
COP30でまとまった合意のなかで、最も重要なのは「公正な移行メカニズム(Just Transition Mechanism)」だろう。世界のグリーン経済への移行を公平に進め、労働者、女性、先住民を含むすべての人々の権利を守ることを目的とする。
太平洋共同体(SPC)の気候変動・持続可能性ディレクター、コーラル・パシシはCOP30で、気候変動の影響が急速に深まる島嶼国にとって事態がいかに危機的であるか、そしてベレンで実質的な前進がいかに切実に求められていたかを強調した。損失と損害(Loss and Damage)への先進国の資金支援を強化する必要性も訴えた。
南アジアやアフリカで政権を揺さぶったZ世代のデモも、より公正な将来像を掲げて存在感を強めている。抗議の矛先は、既得権化したエリート層における縁故主義と腐敗である。昨年バングラデシュでは、デモ隊が銃弾にさらされた。9月に政権が退陣に追い込まれたネパールでも、タンザニアでも、同様の暴力が報告され、タンザニアでは数百人が殺害されたとも伝えられた。今年はインドネシア、フィリピン、モロッコでも、Z世代の抗議が政治情勢を揺らした。
スウェーデンの研究者ヤン・ルンディウスはIPSにこう記した。「これらの抗議行動は、個別の出来事が引き金となったとしても、根底には深刻な富の格差、蔓延する縁故主義、際限のない腐敗という、長年にわたり共有されてきた不満があった。とりわけ若者は、富裕で信用を失った政治エリートを支える権力世襲の有力者に抗議したのである。」
紛争と気候災害が重なれば、子どもの教育には長期的に深刻な影響が及び得る。IPSが支援する「Education Cannot Wait(ECW)」や「学校の安全に関する宣言(Safe Schools...
2025年を振り返って
「エベレストの国」として知られるネパールは、2025年、若者主導の政権転覆と結び付けて語られるようになった。
【カトマンズNepali Times=ソニア・アワレ】
年初は大きな出来事もなく始まったが、年末は騒乱と先行きの不確実性の中で幕を閉じた。ただし緊張は、年初から水面下でくすぶっていた。
2月、ネパールはマネーロンダリング対策の不備を理由に、金融活動作業部会(FATF)の「グレーリスト」に入った。米国国際開発庁(USAID)の停止で、保健、気候、栄養分野の多くの事業が止まった。混乱のさなか、5月にはインドとパキスタンが戦争に突入した。全面的な核戦争には至らなかったものの、この衝突を経てドナルド・トランプ大統領とナレンドラ・モディ首相の関係は決定的に悪化した。
3月28日、カトマンズでは、債務不履行で知られるドゥルガ・プラサイが率いた親王政集会が開かれ、機動隊によって解散させられた。支持者が放火と略奪に走り、テレビ記者を含む2人が死亡した。年後半の混乱を予告する出来事だった。
モンスーンは例年通りの被害をもたらした。今回はボテ・コシ川で国境を越える氷河湖決壊洪水が発生し、中国との主要貿易ルートが押し流された。気候リスクを改めて突きつける出来事となった。
8月、カトマンズの政界・メディア関係者の間では、K・P・オリ首相がインド政府から公式招待を得られるかどうかが取り沙汰されていた。招待が実現しないと、オリは9月3日、北京で開かれた戦勝記念パレードに出席するという物議を醸す訪中を強行した。第二次世界大戦における日本の敗戦80周年を掲げる式典である。
会場にはウラジーミル・プーチン大統領、習近平主席、金正恩第総書記が居並んだ。だがオリは帰国から6日後、首相の座を追われた。抗議者が首相公邸に火を放つ直前、オリはネパール軍のヘリコプターで救出された。
この年を通じ、UML(ネパール共産党・統一マルクス・レーニン主義)とNC(ネパール会議派)の連立は、言論の自由を狭める法案を相次いで準備していた。印刷・出版法の改正、ソーシャルメディア法案、対諜報法案、さらに社会福祉評議会(Social Welfare Council)の改組である。導火線に火をつけたのは、9月5日に26のソーシャルメディア・プラットフォームを禁止した措置だった。
インドネシアで起きた若者主導の反汚職抗議に触発され、ネパールのGenZ(Z世代)が動いた。社会政治の空気は乾き切っており、殺害事件への怒りが抗議の拡大を促した。
GenZが9月8日、汚職と悪政に抗議する集会を呼びかけたとき、事態が制御不能に陥るとは(若い抗議者自身も含め)誰も想像していなかった。8日、武装警察部隊(APF)の発砲により、デモ参加者19人が死亡した。
流血はソーシャルメディアで無検閲のまま拡散された。翌日、衝撃が癒えぬ若者たちのさなかで、さまざまな不満を抱えた人々が放火と略奪に走り、標的は住宅、官公庁、学校、事業所に及んだ。9日午後10時にネパール軍が外出禁止令を出すころには、多くが焼け落ちていた。
その後、GenZはスシラ・カルキを首相に選出したが、彼女に不満を抱く強硬な一派もいる。混乱に拍車をかけているのが、打倒されたUMLとNCの指導者たちである。彼らは失脚を受け入れられず、下院(代議院)の復活を狙う。オリはUMLの党首に再選され、退く気配はない。かつての連立相手であるシェール・バハドゥル・デウバにも踏みとどまるよう働きかけている。
ただ、両党には選挙に踏み切る以外の選択肢がない。にもかかわらず、長年の失政に対する民衆の怒りに向き合うための党改革は十分に進んでいない。
3月の選挙実施は不透明とみられていたが、ラーム・チャンドラ・パウデル大統領が今週、UML、NC、NCPの各党を招集し、カルキとの初会合を開いたことで情勢が動いた。RSPもカトマンズ市長バレン・シャーとの協議に乗り出し、総選挙はにわかに現実味を帯びてきた。結果がどうであれ、2026年は既成政党の優位が新たな勢力に挑まれ、ネパール政治の進路を変える年となるだろう。
それが透明性、民主主義、説明責任という新たな政治文化につながるのか。あるいは大衆迎合と権威主義へ傾斜するのか。その兆しが見え始めるのが2026年である。(原文へ)
ソニア・アワレ(ネパリ・タイムズ編集者/保健・科学・環境担当):気候危機、防災、開発、公衆衛生を長年取材し、それらの政治・経済的な相互連関を追ってきた。公衆衛生を学び、香港大学でジャーナリズムの修士号を取得。
INPS Japan
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アジア太平洋地域、新たな災害リスク時代への備え
【バンコクIPS=UNESCAP】
サイクロン「ディトワ」と「セニヤール」は、例外的な事象ではなく、災害リスクの地形(リスクスケープ)が変化しつつあることを示している。両者はいずれも、これまでの歴史的なパターンを破った。ディトワは、スリランカ沿岸を異例なほど南下した後、ベンガル湾へとループし、24時間で375ミリを超える豪雨をもたらして地滑りを引き起こした。
一方、セニヤールは、マラッカ海峡で観測された史上2例目のサイクロンで、赤道付近で発達した後にスマトラ島上空に停滞し、アチェ州および北スマトラ州の洪水被害を深刻化させた。
拡大する人的・経済的被害
国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の報告書『アジア太平洋災害報告書2025:上昇する熱、拡大するリスク』によると、アジア太平洋地域は、海洋熱波や海面水温の上昇により極端気象が激化し、連鎖的なリスクが拡大する時代に突入している。
これまで比較的低リスクとされてきたスリランカ中部丘陵地帯やタイ南部沿岸も、いまや気候リスクのホットスポットとなった。
同報告書は、南アジアおよび南西アジア地域だけでも、洪水による年間平均損失額が、歴史的な470億ドルから570億ドルに増加する可能性があると予測している。
インドネシア、マレーシア、フィリピン、スリランカ、タイ、ベトナムでは、2025年11月下旬の一連の暴風雨により、1,600人以上が死亡、数百人が行方不明となり、1,000万人を超える人々が影響を受けた。
広範な洪水と地滑りは120万人を避難に追い込み、基幹サービスを寸断し、多くの地域社会を孤立させた。必要とされる対応規模の大きさと、今後見込まれる深刻な経済的影響を浮き彫りにしている。
備えの価値
早期警報の改善により、過去数十年と比べて犠牲者数は減少している。しかし、今回の災害は、被害そのものがより破壊的になっている現実を示した。
影響ベースの予測によって大規模な避難が促され、地域訓練により多くの家族が安全を確保できたのは事実である。それでもなお、数千人が取り残された。
警報は発せられたが、現場での実施が不明確で、避難路がすでに冠水している例もあった。公式システムが機能しない場面では、ソーシャルメディアが命綱となった。
傾向は明らかである。信頼と訓練を伴わなければ、技術だけでは命は救えない。警報は、人々が「何をすべきか」を理解し、行動に移せるときに初めて機能する。
ESCAPの「津波・災害・気候レジリエンス多国間信託基金」は、備えへの投資が何倍もの成果をもたらすことを示している。2025~26年の提案募集は、次の暴風期が到来する前に、沿岸レジリエンスの強化、科学技術の統合、地域主導の行動を制度に組み込む機会を各国に提供している。
学ぶべき教訓
・信頼される地域ネットワークと、十分に整備された地域主導の備えが、警報を意味あるものにする
早期警報には限界がある。多くの地域で警報が発出され、ホットラインも開設されたが、急激な増水により家族は取り残され、救助隊やボランティアに頼らざるを得なかった。これらの事例は、情報があっても、移動制約や家庭ごとの備えの格差が行動を妨げることを示している。
2004年のインド洋大津波後に推進された地域主導の取り組みは、地域知と定期的な訓練が意思決定を改善することを実証してきた。20年を経たいま、社会的結束はレジリエンスの指標となっている。
例えば、7万6,000人のボランティアを擁するバングラデシュのサイクロン備えプログラムは、戸別訪問による警報伝達と避難誘導によって、サイクロンによる死者数を大幅に減少させてきた。
・リスクを考慮しない都市成長は、災害被害を増幅させる
ディトワとセニヤールは、リスクを織り込まない急速な都市化が被害を拡大させる現実を露呈した。コロンボでは湿地の40%が消失し、ハートヤイでは排水能力が限界を超えた。
スマトラ島で大きな被害を受けた町の多くは、既知の地滑り危険区域に位置しており、病院や交通網、地域経済に深刻な混乱をもたらした。
自然の緩衝帯が失われると、かつてはゆっくり排水されていた雨水が、数時間で都市を水没させる。都市のレジリエンスは、湿地の保全、ゾーニングの徹底、排水・治水インフラへの投資など、開発計画にリスクを組み込めるかどうかにかかっている。
インフラは量だけでなく、極端事象に耐えうる設計が不可欠である。自然システムを守り、レジリエンスを計画に組み込む都市こそが、将来の暴風に耐え、経済活動を守ることができる。
・地域連帯と共有解決策は命を救う
アジア太平洋地域は、暴風がモンスーン災害を増幅させ、地滑りへと連鎖し、脆弱なインフラによって被害が拡大する複合リスクに直面している。地域協力はもはや選択肢ではなく、世界で最も災害の影響を受ける地域におけるレジリエンスの基盤である。
2025年11月には、インドネシア、スリランカ、タイなど8か国が「国際災害チャーター(宇宙・大規模災害)」を発動し、緊急対応計画のための迅速な衛星画像提供が行われた。共有システムの有効性が実証された。
地域全体で洪水が拡大するなか、ESCAP防災委員会の参加国は、国境を越える災害に対応するため、地域早期警報システムと予測行動へのコミットメントを再確認した。
アジア太平洋地域のレジリエンスは、人と備えの文化への投資、地域連帯、極端事象を前提とした都市計画、自然緩衝帯の保全、そして最終段階の行動指針をすべての世帯に届けることにかかっている。
高まり続けるリスクを管理できる世代と社会を築くことこそ、安全な未来への最も賢明な投資である。(原文へ)
INPS Japan/IPS/ESCAP
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NFUは維持、核戦力は拡大―中国の核ドクトリンが軍縮と戦略的安定に与える影響
【シンガポールLondon Post=アダム・ハンコック】
中国の核姿勢は、長らく「抑制」によって特徴づけられてきた。核戦力は比較的小規模に抑えられ、宣言政策としても防御的抑止を強調してきた。1964年の初の核実験以来、中国は「先制不使用(NFU)」を掲げ、いかなる状況下でも核攻撃を先に開始しないと約束している。さらに、非核兵器国および非核兵器地帯に対しては、核兵器を使用せず、また使用を威嚇しないという無条件の保証も示してきた。|トルコ語版|英語|
これは核拡散防止条約(NPT)上の5核兵器国(=P5)の中でも中国の特徴の一つであり、中国は自らを「最小限抑止」の担い手として位置づけてきた。すなわち、確実な報復を可能にする必要最小限の戦力にとどめ、米国やロシアといった超大国との軍拡競争を避けるという立場である。
こうした基本姿勢は、2025年後半に入っても維持されている。中国は核兵器のNFU(先制不使用)を明確に再確認しており、2025年11月の軍備管理・軍縮・不拡散に関する白書でも、NFUを自衛的核戦略の中核に据え、国家安全保障における核兵器の役割を抑制するための基盤と位置づけた。外務省声明や安保理常任理事国(P5)の対話の場でも同趣旨が繰り返され、中国は核保有国間の相互NFU合意を、リスク低減に向けた実務的措置として提案している。
その一方で、欧米では危機時の「例外」をめぐる憶測が根強い。核関連施設・資産に対する通常攻撃や、台湾をめぐる緊張が高まる局面で、NFUが実質的に曖昧化するのではないか、という見方である。もっとも、中国が公式に政策転換を示した事実はない。中国はNFUを、ドクトリンであると同時に外交的シグナルとして位置づけ、自らを「責任ある行為者」として演出しつつ、他国のより攻勢的な核姿勢を批判する論拠としている。
しかし、こうした宣言上の継続性は、中国の核戦力が急速に近代化され、規模も拡大している現実と鋭く対照をなす。規模と速度の両面で、これは中国の核戦力史上、最も顕著な拡充だ。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)や『Bulletin of the Atomic Scientists』、米国防総省などの推計はおおむね一致しており、2025年半ば時点の運用可能な核弾頭数は約600発と見積もられている。これは前年の約500発から増加し、2020年の水準の2倍超に当たる。今後は2030年までに1,000発超、2035年までに1,500発に達する可能性も指摘され、近年は年間約100発のペースで核弾頭数が増えているとされる。
こうした拡大は、陸・海・空にまたがる「核の三本柱(核トライアド)」の整備を伴っている。主な動きとしては、複数弾頭(MIRV)搭載能力を持つDF-41大陸間弾道ミサイル(ICBM)、射程が5,400海里を超えるとされるJL-3潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、空中発射弾道ミサイルを運用できるH-6N爆撃機の整備などが挙げられる。中国は複数のサイロ群で、新たなICBMサイロを数百基規模で建設しており、2025年初頭までに約350基が完成、または完成間近とされる。地点によっては、100発を超えるミサイルが装填されたとの報道もある。DF-17やDF-27に搭載されるとされる極超音速滑空体(HGV)は、ミサイル防衛の突破能力を高める。さらに、早期警戒システムへの投資は、警報即応発射(launch-on-warning)を含む、より高い警戒態勢への移行を示唆している。
中国は、こうした能力整備を防御的措置として正当化している。とりわけ、米国の弾道ミサイル防衛、精密通常攻撃能力、そして中国の第二撃能力(報復能力)を損ない得る地域同盟の強化を、主要な外部脅威として挙げる。中国側は、核戦力は安全保障に必要な「最小限の水準」にとどまり、米国・ロシアの備蓄と比べればはるかに小さいと主張する。狙いは同等性の追求や核戦争遂行ではなく、抑止の生存性(サバイバビリティ)の確保にある、という説明である。
ただし、拡大の規模と近代化の進展は、NFUへの厳格な依拠が将来どこまで維持されるのか、という新たな問いも生む。長期化する紛争の局面で、より柔軟な選択肢を可能にしているのではないか、という指摘が出るゆえである。
この二面性は、国際的な核不拡散・軍縮の枠組みへの関与にも表れている。中国は1992年のNPT加盟以降、不拡散・軍縮・平和利用という条約の三本柱を支持しつつ、「段階的(step-by-step)」な軍縮を主張してきた。中国の立場は、世界の核弾頭の9割超を保有する米国とロシアが、まず深い削減に主たる責任を負うべきだ、という点にある。中国はNPT運用検討会議や安保理常任理事国(P5)の協議には参加する一方、戦力規模の格差が縮小しない限り、米国・ロシア・中国の三国間軍備管理交渉には応じない姿勢を維持している。
核兵器禁止条約(TPNW)についても、中国は他の核保有国と同様に参加していない。TPNWは2017年に採択され、2021年に発効した。中国は、人道的目的や長期的な核廃絶のビジョンには理解を示す一方、同条約は安全保障の現実から乖離し、核兵器国の関与を欠いたまま進められてきたうえ、NPT体制を損なうおそれがあると主張している。中国は交渉に加わらず、関連する国連決議にも反対し、安定を損なわない漸進的かつ包摂的な措置を優先している。
こうした動向は、戦略的安定に重大な影響を及ぼす。とりわけ競争が激化する東アジアでは、その影響が大きい。中国の能力増強は、米中対立、インドの近代化、北朝鮮の挑発、日本・韓国の同盟強化と重なり合う。台湾や南シナ海をめぐる危機では、高度な通常戦力と核戦力の統合が進むほど、エスカレーションの閾値が曖昧になり、誤算のリスクが高まる。米国や同盟国側のミサイル防衛の進展は、中国にさらなる戦力の多様化と拡充を促し、安全保障のジレンマを増幅させる可能性がある。
視野を世界に広げれば、中国の動きは、長らく米露中心の二極構造を前提としてきた軍備管理の枠組みを揺さぶっている。核戦力の拡大は、多極的な軍拡競争を誘発する可能性があるほか、NPTにおける軍縮義務への信頼を弱め、交渉を一層複雑にしかねない。中国は核戦力の詳細をほとんど公表していないため、透明性の不足は誤認や過剰反応を招きやすい。
他方で、機会もある。NFUが維持されるなら、リスク低減のモデルとなり得る。また、中国が多国間枠組みを重視する立場は、相互主義的な措置と組み合わされるなら、核保有国と非核兵器国の溝を埋める足がかりとなり得る。
結論として、中国の核ドクトリンは、歴史的な抑制と、緊張が高まる安全保障環境への適応との間で均衡を取ろうとしている。NFUと最小限抑止は、2025年の再確認を含め、宣言上は維持されている。しかし同時に、前例のない近代化と核戦力の拡大は、「核は先に使わない」と言いながらも、万一攻撃を受けた場合に確実に報復できる体制をより強固にしようとする動きである。中国は、米国のミサイル防衛や精密通常攻撃によって自国の第二撃能力(報復能力)が損なわれることを脆弱性として意識し、核弾頭数の増加、配備の分散・地下化、陸海空への多様化、突破力の向上、早期警戒の整備などを通じて「やり返せる力」を厚くしていると説明してきた。世界の軍縮にとって、これは逆説的な構図だ。拡充は軍縮の勢いを削ぐ一方で、中国の立場は、依然として米国とロシアが主たる責任を負うべきだという論点をかえって際立たせるためである。
安定を維持するには、包摂的な対話と実務的措置が不可欠である。P5の枠組み強化、危機管理のホットライン整備、透明性と予測可能性を高める信頼醸成、そして将来的な多国間軍備管理への道筋づくりが求められる。こうした努力が欠ければ、軍事力の高度化が協力よりも対立を強め、すでに不安定な世界で核の危険が高まるおそれがある。2025年の終わりにあたり、国際社会は、対話の場と危機管理の仕組みを整え、透明性を高める信頼醸成を優先することで、中国の台頭が世界の不安定化ではなく、安定と平和につながるよう導く必要がある。(原文へ)
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