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ウクライナ、戦禍で妊産婦死亡が急増
【ブラチスラバIPS=エド・ホルト】
「妊婦の命が危険にさらされる緊急帝王切開だった。明かりは懐中電灯だけで、水もない。爆発音が途切れない中で手術をした。」こう語るのは、ウクライナ東部ハルキウ州立臨床病院の産科部長、オレクサンドル・ジェレズニャコフ医師である。|英語版|ロシア語|
同医師は、ロシアによる全面侵攻開始以来、自身が関わった医療行為の中でも「最も困難なものの一つ」だったと振り返る。だが、ロシア軍の砲撃にさらされる前線の都市で、極限状況下の医療に携わったのは一度にとどまらない。むしろ彼と同僚にとって、そうした現場は日常になりつつあるという。
「前線の都市にいる以上、これがいまの現実だ。警報は鳴りやまず、爆発音もほぼ毎日のように聞こえる。だから私たちは、ほとんど毎日こうして働いている」と、同医師はIPSの取材に語った。「命を救うため、未来を救うために、やるべきことをやるだけだ。そういう瞬間に考えるのは、命を救うことだけである。命は常に勝たねばならない。だから私たちは、この条件の下でも働くのだ。」
ジェレズニャコフ医師の勤務先も、ウクライナ各地の多くの医療施設と同様、戦争開始以来、繰り返し攻撃を受けて損傷してきた。世界保健機関(WHO)は、2022年2月24日の全面侵攻開始以降、医療への攻撃を記録・検証しており、その件数は公表時点によって数千件規模に上る。
この中には母子保健施設への攻撃も含まれる。影響は深刻で、最近公表されたデータは、妊産婦の健康に重大な悪影響が及んでいることを示した。
国連人口基金(UNFPA)が2025年12月10日に公表した分析によれば、紛争の長期化に伴い、ウクライナでは妊娠中または出産時に死亡するリスクが急増している。病院への反復的な攻撃と基礎サービスの崩壊により、女性はより危険な条件での出産を余儀なくされている。医療従事者は、暴力、慢性的ストレス、避難・移動、産科医療の広範な混乱が重なり、妊娠合併症の増加と、防ぎ得た死の増加を招いていると警告する。
同機関が国家統計を分析したところ、妊産婦死亡率は2023年から2024年にかけて約37%増加した。全国データがそろっている最新年は2024年である。妊産婦死亡率は出生10万件当たり、2023年の18・9人から2024年には25・9人へ上昇した。UNFPAは、その大半が予防可能な死亡であり、医療体制が極限の負荷の下でかろうじて機能している現実を映し出していると指摘する。
重篤な妊娠・出産関連合併症も増えている。最も危険な産科救急の一つである子宮破裂は44%増加した。妊娠高血圧症候群は12%超増え、重度の産後出血も約9%増加した(いずれも2023年から2024年)。受診までの遅れ、ストレス、避難、紹介ルートの寸断などが主な要因とされる。
前線地域の状況はとりわけ深刻である。UNFPAによれば、ヘルソンでは早産が全国平均のほぼ2倍に達し、死産率も国内最高水準にある。背景にはストレス、不安定な治安、医療へのアクセス困難があり、これらが早産や前期破水を引き起こし得るとしている。
医療体制への負荷を示すもう一つの指標が帝王切開率である。全国では28%を超え、WHOが示す推奨範囲(10~15%)をすでに上回る。前線地域では欧州でも高水準にあり、ヘルソンは46%、オデーサ、ザポリージャ、ハルキウは各32%に達する。UNFPA関係者によれば、これらの高率は、比較的安全な短い時間帯に合わせて分娩を計画せざるを得ない現実を反映している。同時に、外科的介入を要する妊娠合併症の増加を示す場合もある。
UNFPAウクライナ事務所の広報部長、アイザック・ハースキン氏はIPSの取材に対して、こう語った。「医療、とりわけ産科・新生児施設への攻撃は、妊産婦の健康に明確で深刻な結果をもたらしている。ウクライナは、妊婦、新生児、そして彼らを支える医療従事者のリスクを鋭く高める条件の下で、また一つ冬を迎えることになる。」
12月初旬には、UNFPAが支援するヘルソンの産科病院が砲撃を受けた。攻撃の最中、病院スタッフは分娩中の女性と新生児を、防護された地下の産科病棟へ移した。これは、激しい戦闘下で母子を守るため、政府がUNFPAなどの支援を得て整備してきた施設の一つである。
攻撃で全員が生存し、砲撃の最中に地下で女児が誕生した。だがハースキン氏は、これを「妊娠と出産がいま、どのような条件で行われているかを示す痛烈な例である。どの女性も、どの医療従事者も、本来直面すべきではない条件だ。」と語った。
ウクライナの戦争がもたらす破壊は、妊産婦医療にとどまらず、より広い生殖医療にも影響を及ぼしている。IPSは、ウクライナの女性たちから、妊産婦医療へ安全にアクセスできるか不安であることに加え、乳児を育てる環境への懸念から妊娠を避けている、という声を聞いた。
米国の人権団体「フィジシャンズ・フォー・ヒューマン・ライツ(PHR)」で国際アドボカシーを担当し、ウクライナ・プログラム調整官を務めるウリヤナ・ポルタヴェツ氏はIPSの取材に対して、「紛争の影響を受ける地域の女性には固有のリプロダクティブ・ニーズがある。しかし、産科病院が繰り返し爆撃され、エネルギー基盤が標的となって病院機能が制限され、妊婦が設備の整わない避難用シェルターに追い込まれる状況では、それに応えるのは非常に難しい。妊娠を考える女性は、病院が安全か、医療サービスにアクセスできるか、そして出産後、電気・暖房・水のない環境で子どもの世話ができるか―そうした要因を踏まえて判断せざるを得ない。」と語った。
ジェレズニャコフ医師も「こうした傾向は観察されている。」と付け加えた。「女性は、砲撃下での出産で自分と胎児の命を恐れるだけではない。住まいの安全、仕事、子育てに必要な日常の条件が失われた、不確かな将来も恐れている。理不尽な戦時下では、それは合理的な恐怖である。出生率が急落している理由の一つだ。」
一方で、戦争の影響は、女性が妊娠しにくくなる形でも現れているという。「慢性的ストレスや不安、睡眠障害は、コルチゾールの上昇を通じてホルモンバランスを崩し、生殖機能に直接影響する。持続的なストレスは、視床下部―下垂体―卵巣系の機能不全などホルモン異常を引き起こし得る。結果として、二次性不妊や早発卵巣不全、子宮内膜症の増加につながる。若年女性で、更年期様の状態が増えていることもすでに見られる。」と同医師は語った。
こうした「妊娠しにくさ」と妊産婦の健康への脅威は、ウクライナが人口危機に直面するさなかに進んでいる。UNFPAによれば、ロシアがクリミアを違法に併合し、ウクライナ東部の分離主義武装勢力への支援を強めた2014年以降、ウクライナは避難・移動、死亡、国外流出などを通じて推計1000万人の人口を失った。出生率も落ち込み、女性1人が生涯に産む子どもの数(合計特殊出生率)は1人未満と、世界でも最低水準の一つになっている。
UNFPAは、妊産婦死亡の増加、合併症の増加、出産の安全性をめぐる広範な不安が悪循環となり、家族や地域社会、国家の復興に長期的な影響を及ぼし得ると警告する。
「これは人道危機であるだけでなく、敵対行為が終わった後もはるかに長く尾を引く人口危機でもある。妊産婦の健康を守ることは、ウクライナの長期的な復興と将来の安定に欠かせない。」とハースキン氏は語った。
実際、医療施設が広範に破壊された近年の他の紛争では、戦争が終わった後も長く、妊産婦医療や生殖医療への影響が続くことが示されている。損壊した施設の再建が進みにくいことに加え、避難・移動の継続や医療人材の不足が、女性が必要なサービスにアクセスする上での障壁となる。
「たとえばシリアを例に挙げたい。医療システムの再建は進み、施設の復旧もあって状況は改善している。だが、戦前の水準に戻るには数十年を要する。そして妊産婦医療は、紛争中も紛争後も優先順位が下がりやすい。資源は救急や外傷医療に向かいがちだ。シリアの女性は、今後も長い年月にわたり妊産婦医療へのアクセスに苦しむだろう。」国際人権団体に所属し、戦地医療に詳しい専門家は、安全上の理由から匿名を条件に、IPSに対してこう語った。
ジェレズニャコフ医師は、ウクライナの人口危機がさらに悪化することは避けられないと認める。「見通しとしては、さらに悪くなる。妊産婦医療システムの破壊は、戦争がすでに生み出している問題―女性と子どもの国外流出、命の損失、経済不安、心理的圧力―を一段と深刻化させる。」と語った。
ただし、いまからでも母子医療を改善する手だてはあるという。具体的には、プライマリ・ケアの強化、医療情報のデジタル化(電子カルテを含む医療情報システム)の改善、予防への投資、メンタルヘルス支援、医療提供体制の環境整備、法規制の整備、生殖医療に関する啓発を通じた死亡と障害の低減などが挙げられる。
また、比較的安全な地域に、国際パートナー(UNFPAやWHOなど)の支援を受けた「医療ハブ」を設け、サービス提供を確保する形で国際協力を発展させることも有効だとする。
「敵対行為が続く中であっても、私たちはシステムを適応させるために働くことができるし、そうしなければならない。」と同医師は語った。
そして同医師は、何が起ころうとも医療スタッフは仕事を止めないと誓った。砲弾が降り注ぐ中、懐中電灯の明かりだけを頼りに行った緊急帝王切開を思い起こしながら、「このような条件の下で子どもが生まれることは、いつも奇跡だ。それは、あらゆる困難を超えて働き続ける強い動機になる。」と語った。(原文へ)
INPS Japan/IPS UN Bureau Report
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新START失効、米ロ核戦力に半世紀ぶり『上限なき時代』到来
米国とロシアの核軍縮条約「新戦略兵器削減条約(New START)」が2月5日をもって失効し、歴史的な時代が幕を閉じた。その一方で、今後の行方をめぐる憶測が広がっている。
【国連IPS=タリフ・ディーン】
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、「2月5日は国際平和と安全保障にとって重大な節目だった」と述べた。事務総長はさらに、半世紀以上ぶりに、「世界の核兵器の圧倒的多数を保有するロシアと米国の戦略核戦力に、法的拘束力のある上限が存在しない世界に直面している」と指摘した。|英文版|イタリア語|
一方、米国のドナルド・トランプ大統領は先月、条約失効についてニューヨーク・タイムズ紙に対し、「失効するなら、それまでのことだ」と皮肉を込めて語り、同条約を「ひどい交渉の産物だ」と非難した。
トランプ大統領はさらに、「もっと良い合意をする」と述べ、世界で最も急速に核戦力を拡大している国の一つである中国に加え、「他の国々」も将来の条約に加えるべきだと主張した。しかし同紙によれば、中国側は「関心がないことを明確にしている」という。
現在、核兵器国は9か国で、米国、英国、ロシア、フランス、中国(いずれも安保理常任理事国)のほか、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮が含まれる。
これら9カ国が保有する核弾頭は推計で約1万2100~1万2500発。ロシアと米国で全体の約9割を占める一方、9カ国すべてが核戦力の近代化を進めている。
グローバル・セキュリティ・インスティテュート(Global Security Institute)代表のジョナサン・グラノフ氏はIPSの取材に対し、START条約は公式・非公式を問わず、少なくとも1年間は延長すべきだと述べた。では、それは米政権が望む、中国を含む新条約を得るのと同程度に望ましいのか。答えは「ノー」だ。さらに、核兵器の普遍的廃絶に向けた交渉を求めた国際司法裁判所(ICJ)の全会一致の判断に従うこと、あるいは核拡散防止条約(NPT)第6条に体現された核軍縮の約束を履行することと比べても、同様に「ノー」である。
それでもグラノフ氏は、何もしないという選択は、「いま容易に取れる、脅威を減らすための控えめな措置」を、より良い道があるという理由だけで取らない、と主張していることに等しいと論じた。控えめでも前向きな一歩は、他の望ましい形で前進することの妨げにはならない。
新STARTを完全に失効させることは、米ロ両国が合理的な抑制を欠いたまま、先制使用も可能な数千発規模の核兵器を保持し続ける姿勢を世界に示すことになる――すなわち、人類を絶滅の危険にさらす力を管理できない主体として、自らの外交的無力さを露呈するに等しい、とグラノフ氏は警告した。条約延長が不可能だとする主張も説得力を欠く、と指摘する。
グラノフ氏によれば、米国側の第一の論拠は、「中国を抑制の枠組みに加えるには新たな条約が必要だ」という点にある。しかし、交渉を進める間、両国大統領の合意や大統領令などにより条約を1年間延長するという暫定措置は、中国を含む新条約の締結を妨げるものではない、と語った。
さらにグラノフ氏は、軍拡競争を正当化する議論は、「より精度が高く、実戦使用を想定した、より強力な核兵器」を増やすことの危険性を十分に考慮していないと指摘した。
グテーレス事務総長は、数十年にわたる成果の解体は、これ以上ないほど悪いタイミングで起きたとし、核兵器が使用されるリスクは「数十年で最も高い」と強調した。また事務総長は、「不確実性が広がるこの時代であっても、私たちは希望を見いださなければならない。これは、急速に変化する安全保障環境に適合した軍備管理体制を再構築する機会でもある。」と語った。
また、米ロ両大統領が核軍拡競争のもたらす不安定化と、それを防ぐ必要性を認識していると表明している点について「歓迎する」と語った。
さらにグテーレス事務総長は、「世界はいま、ロシア連邦と米国が言葉を行動に移すことを注視している。私は両国に対し、遅滞なく交渉の席に戻り、検証可能な上限を回復し、リスクを低減させ、共通の安全保障を強化する後継枠組みに合意するよう強く求める。」と語った。
事務総長はその上で、「不確実性が広がるこの時代であっても、私たちは希望を見いださなければならない。これは、急速に変化する安全保障環境に適合した軍備管理体制を再構築する機会でもある」と述べた。
また、米ロ両大統領が核軍拡競争のもたらす不安定化と、それを防ぐ必要性を認識していると表明している点について「歓迎する」と語った。
さらに事務総長は、「世界はいま、ロシア連邦と米国が言葉を行動に移すことを注視している。私は両国に対し、遅滞なく交渉の席に戻り、検証可能な上限を回復し、リスクを低減させ、共通の安全保障を強化する後継枠組みに合意するよう強く求める」と述べた。
こうした懸念があったからこそ、原子力科学者会報(Bulletin of the Atomic Scientists)は2026年1月27日、「終末時計(Doomsday Clock)」を「真夜中まで残り85秒」に再設定した、という。
PNND共同代表のマーキー上院議員は昨年、米上院に対し、ポストSTARTの新たな合意をロシアおよび中国と交渉するよう政府に促す法案の草案を提出した。複数の上院議員が支持し、下院にも対応法案がある。しかし、トランプ政権には届いていないようだ、とPNNDは述べている。
さらにグラノフ氏はIPSに対し、科学的データは、米ロ間の全面核戦争が人類を絶滅させ得ることを明確に示していると語った。加えて、世界の核戦力の「2%にも満たない」規模の限定的な核兵器の応酬であっても、約500万トンのすすが成層圏に放出され、数十億人が死亡し、現代文明が壊滅的打撃を受ける可能性があるという。
「現実主義(リアリズム)に立てば、抑止のために、敵対国の核戦力を“複製”する必要はない」と同氏は言う。「現実主義はまた、中国が現在の約600発を持つことと、米ロ並みに配備核を1400発超へ増やすこと、あるいは前回の軍拡競争の頂点で米ロがそれぞれ3万発を保有していたことの間に、意味のある差はほとんどないことも示している」という。
「グラノフ氏は「世界の核戦力のごく一部が使われるだけでも、地球規模の破局は避けられない。正気の人間なら、誰にとっても受け入れがたい結末であることは明らかだ」と述べた。
さらに同氏は、相互確証破壊(MAD:Mutually...
トランプ政権特使、米国の強力な保証支持を表明 英仏は部隊派遣を確約
【パリLondon Postチーム】
英国とフランスの軍は、ロシアとの停戦と和平合意が成立した場合、ウクライナ領内に部隊を展開する見通しとなった。英首相官邸(ダウニング街)は、パリで行われた高官級協議後、両国が**「和平合意が成立した場合の展開に関する意思表明(Declaration of Intent)」**に署名したと発表した。
英首相官邸によると、英キア・スターマー首相は、フランスのエマニュエル・マクロン大統領、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と並んで記者会見し、和平合意が成立した後、ウクライナ各地に「軍事ハブ(拠点)」を設ける計画を明らかにした。署名した意思表明は、英仏両軍がウクライナで活動し、同国の領空や海域の安全確保、ウクライナ軍の再建支援に当たるための法的枠組み整備に道を開くとしている。
英首相官邸の声明は、「停戦後、英国とフランスは、部隊展開を円滑にするためウクライナ各地に『軍事ハブ』を設置し、兵器や装備のための防護施設を建設して、ウクライナの防衛能力を強化する」と説明した。意思表明には、将来の侵略を抑止する多国籍部隊の構想も盛り込まれたほか、英国が米国主導の停戦監視・検証メカニズムに参加することも含まれている。
スターマー氏は、和平の実現にはロシアのウラジーミル・プーチン大統領が妥協に応じる意思を示す必要があると強調し、現時点でプーチン氏は交渉に前向きな姿勢を示していないとの認識を示した。その上で「追加制裁として、戦争資金源となっている石油タンカーや、いわゆる影の船団(シャドー・フリート)の運航事業者に対する制裁なども含め、ロシアへの圧力を維持する」と語った。
マクロン氏は、この合意が「強力な安全保障上の保証」を与えるものだと説明。ゼレンスキー氏は、恒久的な和平に向けた具体的な一歩だと評価した。
米国の関与も注目された。ドナルド・トランプ大統領の特使スティーブ・ウィトコフ氏と助言者ジャレッド・クシュナー氏が会合に同席した。ウィトコフ氏は、トランプ氏が安全保障上の保証を「強く支持している」と述べ、これらは「追加攻撃を抑止し、必要なら防衛するために設計されている。これほど強力なものは、誰も見たことがないほどだ」と語った。
クシュナー氏は、これらの手続きが「力による平和」を促進し、再び紛争が起きる可能性を低くすると述べ、意思表明を包括的な和平合意に向けた「大きな節目」だと位置づけた。
今回の発表は、ロシアによるウクライナへの攻撃が続く中で行われた。関係国で構成する「有志連合(Coalition of the Willing)」による外交努力の緊急性が改めて浮き彫りになっている。
INPS Japan/ London...
干ばつが奪う子ども時代―北部ケニアの気候ショックがSDGsを試す
【ケニア・マンデラIPS=ロバート・キベット】
夜明け前の毎朝、10歳のアミナ・アダンは学校ではなく、マンデラ県ラフム郊外の干上がりつつある水場(ウォーターパン)へ向かう。クラスメートがノートを開くころ、アミナは体の半分ほどもある黄色い水用ポリタンクを運んでいる。
母親のファトゥマ・アダンは語る。いまの選択は「教育か家事か」ではない。「水か、生き延びるか。」だ。
「水がなければ食べ物もない。学校にも行けない。子どもが手伝わなければ、その日を乗り切れない。」
アミナの姿は、ケニアの乾燥・半乾燥地域(ASAL地域)に広がる危機の縮図である。長期化する干ばつが、貧困削減、食料安全保障、保健、教育―持続可能な開発目標(SDGs)の中核をなす成果を後退させている。
干ばつが制度の限界を超えて押し広げる
ケニア国家干ばつ管理局(NDMA)によれば、マンデラは依然として「危機段階(alarm phase)」にある。降雨不足が繰り返され、2025年10~12月の短雨期(ショートレイン)の降水量は長期平均の30~60%にとどまった。水場は干上がり、牧草地は荒廃し、牧畜に依存する世帯は食料と収入の柱を急速に失いつつある。
食料・栄養安全保障に関する全国評価では、乾燥・半乾燥地域(ASAL)各県で215万人以上が緊急の人道支援を必要としており、6~59か月児の80万人超が急性栄養不良の治療を要するとされる。マンデラの保健当局は、家計の食料備蓄が尽き、家畜の乳生産も落ち込むなか、外来治療プログラム(OTP)への受診者が増えていると報告する。
危機はケニアにとどまらない。アフリカの角地域全体で、国連は、ケニア、ソマリア、エチオピアの約2400万人が、長年続く干ばつと気候ショックの結果、深刻な水不足に直面していると推計する。ユニセフは、干ばつに伴う避難によって域内の子ども270万人がすでに学校に通えなくなっており、状況が続けばさらに400万人が影響を受ける恐れがあると警告する。
「こうした気候ショックは、もはや一度きりの緊急事態ではない」とマンデラ県の教育担当者は語る。「慢性的な問題となり、子どもが成長し、学び、健やかに生きられるかどうかを左右している」。
教育が途切れ、未来が先延ばしにされる
マンデラ北部では、学校が危機の最前線に立たされている。教員たちは、教室の児童が減っていく様子を語る。牧草と水を求めて家族が移動し、子どもも連れていくためだ。移動しない世帯の子どもも、空腹と疲労のなかで集中できない。
マンデラ県の教育当局者アブディカディル・アダン・アリオによれば、干ばつの影響が強い学校では出席率が急落している。とりわけ女児が不利になる。水汲みや家事の負担が、まず女児にのしかかるからである。
開発の専門家は、影響は短期の学習遅れにとどまらないとみる。教育の中断は人的資本を弱め、長期的な経済生産性を損ない、将来の気候ショックへの適応力も低下させる。これはSDG4(質の高い教育)とSDG1(貧困をなくそう)への直接的な後退である。
「年々、子どもが学校を欠席するようになれば、被害は世代を超えて固定化する」と、北部ケニアで活動する人道教育の専門家アリ・アブディ博士は警鐘を鳴らす。
保健と栄養にかかる負荷
保健医療関係者は、干ばつが子どもを中心に、飢えと病気が重なって重篤化する危険な循環を加速させていると指摘する。水不足が深まるほど衛生状態は悪化し、下痢性疾患のリスクが高まる。栄養不良の子どもは感染症でいっそう体力を奪われやすい。
マンデラの遠隔地では、移動診療所が運営され、医療チームが栄養不良のスクリーニングを行い、治療食を配布し、重症例は安定化治療施設(センター)へ紹介している。多くは県政府と人道支援機関の連携によるものだ。
「早期発見は命を救っている」と、巡回プログラムに関わる栄養担当者は語る。「しかし患者数は増え続け、家族が支援にたどり着くまでの移動距離も長くなっている」。
生存戦略の破綻が招く保護リスク
干ばつで生計が崩れると、家庭は有害な対処手段に追い込まれる。人道支援機関は、児童労働や早婚、ジェンダーに基づく暴力(GBV)のリスクが高まっていると報告する。とりわけ社会的セーフティネットが弱い遠隔地の集落で影響が深刻だ。
女児は特に影響を受けやすい。資源が乏しくなると、まず教育が犠牲になることが多い。
「干ばつは、食べ物や水だけを奪うのではない。」とマンデラの地域リーダーは語る。「子どもから安全と尊厳をも奪っていく。」
効果が出ていること―子ども中心の統合的解決策
危機の規模は大きい。だが、マンデラ県を含むASAL(乾燥・半乾燥)各県では、統合的な支援が、子どもに及ぶ最悪の影響を和らげ、SDGsの後退を防ぎ得ることを示す報告もある。
こうした圧力は、SDG3(すべての人に健康と福祉を)とSDG2(飢餓をゼロに)を脅かす。両分野は、気候の極端化が強まる以前には、緩やかながら改善が見られていた。
県政府とユニセフ、セーブ・ザ・チルドレンなどが支える移動式の保健・栄養クリニックは、遊牧や避難によって固定の医療制度から外れがちな家族にも届いている。栄養スクリーニング、予防接種、母子保健を一体で提供し、固定施設までの長距離移動を減らす。
ワールド・ビジョンなどの支援を受けて政府機関が実施する現金給付は、世帯が切迫した優先順位に応じて、食料や水、医療に支出できるようにする。研究では、現金支援が有害な対処行動を抑えるうえで有効で、危機のさなかでも子どもを学校にとどめる助けになり得ることが示されている。
また、給水車などによる水の搬送・配給、ボーリング井戸の修復、干ばつに強い水インフラへの投資は、深刻地域でのアクセスを安定させている。費用はかさむが、専門家は、SDG6(安全な水とトイレを世界中に)を守り、人道危機の反復を防ぐうえで不可欠だと指摘する。
住民主体の取り組みも成果を上げている。訓練を受けたボランティアが家庭単位で栄養スクリーニングを行い、リスクのある子どもを早期に把握して、状況が悪化する前に支援へつなげている。
「介入は組み合わせてこそ最も機能する」と、人道プログラムの担当者は言う。「保健だけでは足りない。水、食料、所得、保護が一体で動かなければならない」。
規模拡大と持続可能性という課題
こうしたプログラムは命を救っているが、欠落もある。資金サイクルは短く、対応は予防よりも後追いになりがちだ。地方当局は、干ばつに強い生計――干ばつ耐性作物の導入、家畜保険、代替収入源など――を拡大することが、悪循環を断つ鍵だと訴える。
開発アナリストは、持続的投資がなければ、干ばつは複数のSDGsにわたる成果を侵食し続け、長期的にはより高コストな緊急対応を繰り返すだけになると警告する。
「問題は、干ばつが戻ってくるかどうかではない」と、政府間開発機構(IGAD)の気候専門家ユーニス・コエチは語る。「戻ってきたとき、子どもを守るために制度が十分に強いかどうかである」。
分岐点に立つ子ども時代
ラフムに戻ると、ファトゥマ・アダンは、状況が改善すれば娘が通学を再開できることを願っている。だが、いまは生き延びることが優先だ。
「アミナには学んでほしい」と彼女は言う。「でもまず、生きなければならない」。
アフリカの角で気候ショックが強まるなか、影響は計り知れない。調整された長期的な対応がなければ、干ばつは水や食料だけでなく、子ども時代そのものを奪い続け、SDGsに向けた国際社会の取り組みを後退させかねない。(原文へ)
INPS Japan/IPS UN Bureau Report
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