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UNHCR:難民条約75周年―難民条約は今なお何百万人もの命綱(エリザベス・タンUNHCR 国際保護・解決局長)

【ジュネーブIPS=エリザベス・タン】 1951年7月28日に署名のために開放された「難民の地位に関する条約(難民条約)」は、今年で75周年を迎えた。現在もなお、この条約は国際難民保護制度の礎であり、人類が採択した国際法上の最も重要な法的文書の一つであり続けている。|英語版| 第二次世界大戦の惨禍を受けて誕生したこの条約は、極めてシンプルでありながら力強い原則を法制化した。それは、迫害や紛争、暴力によって故郷を追われた人々は、安全な場所に避難し、保護を受ける権利を有するという原則である。 戦争や迫害、突発的な社会の混乱は、いかなる国にも起こり得る。難民条約は、この普遍的な現実に基づき、「故郷を追われた人々は保護されなければならない」という理念の上に築かれた。 この75年間、難民条約は、第二次世界大戦後のヨーロッパから、アフリカ各地の独立闘争、インドシナ戦争、ラテンアメリカの軍事独裁政権下での迫害、そして近年のアフガニスタン、シリア、ウクライナ、スーダンに至るまで、紛争や迫害から逃れてきた人々にとって命綱となってきた。 現在、149か国が難民条約、1967年議定書、またはその双方の締約国となっており、この枠組みは国際法の中でも最も広く支持されている制度の一つとなっている。条約と議定書は、「難民」の定義を定めるとともに、難民が有する権利や、各国が保障すべき保護の基準を明確に規定している。 とりわけ重要なのが、「ノン・ルフールマン原則(強制送還の禁止)」である。これは、迫害や拷問、その他重大な危害を受ける恐れのある場所へ人々を送り返してはならないという原則であり、現在では国際慣習法として確立している。そのため、難民条約を批准していない国にも適用される。 また、この条約は「生きた法」として発展を続けてきた点も重要である。各国の実務や裁判所の判例、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の指針を通じて、ジェンダーに基づく迫害や武装勢力による強制徴兵、さらには気候変動の影響が紛争や迫害などと複合的に重なる状況における保護など、現代の新たな課題にも対応できるよう進化してきた。 一方、世界はかつてない規模の危機と不安定化に直面している。赤十字国際委員会(ICRC)によれば、2025年には世界で130件を超える武力紛争が発生し、4,160万人もの難民が故郷を追われたままとなっている。 難民・庇護問題を巡る議論は世界各地で二極化しているものの、庇護制度そのものに対する市民の支持は依然として高い。今年、29か国を対象に実施されたイプソス(Ipsos)の世論調査では、約3分の2の回答者が「戦争や迫害から逃れる人々には避難を求める権利がある」と支持している。 しかしながら、世界の難民保護制度はいま大きな負担に直面している。 難民の約70%は低・中所得国で受け入れられているが、これらの国々の多くは、自国の経済や開発上の課題も抱えている。また、難民の10人に7人は5年以上にわたり故郷を離れた生活を余儀なくされている。 こうした状況から、「難民条約は今日の複雑な人口移動や逼迫した庇護制度には適応できなくなっている。」と主張する声もある。 しかし、私たちはその考えには賛同しない。 難民条約は、国際的な保護を必要とする人とそうでない人を適切に区別するための枠組みを提供すると同時に、誰一人として迫害や拷問、重大な危害の危険がある場所へ送り返されないことを保障する制度である。 公平で効率的な難民認定手続きは、難民を保護するとともに、受入れ地域社会の安心感を高め、庇護制度への信頼を維持する上でも不可欠である。 UNHCRは、各国政府や関係機関との連携をさらに強化し、受入れ能力の不足を補いながら、難民認定が迅速かつ正確に行われるよう全力を尽くす用意がある。 一方で、難民保護を必要としない人に庇護を認めるべきではなく、そのような人々については、安全性と人間の尊厳が確保された形で帰還できるようにすることも、信頼できる庇護制度の重要な要素である。 同時に、国境管理は常に難民保護の原則に基づいて行われなければならない。 私たちは、難民申請へのアクセスを制限する措置、例えば国境での押し戻し(プッシュバック)、領域への入国拒否、強制送還などの実態を深く懸念している。 難民条約は、各国が国境を適切に管理しながら、国際的保護を必要とする人々を確実に保護するための明確な法的枠組みを提供している。 こうした課題は、深刻な資金不足によってさらに悪化している。 2026年6月末時点で、UNHCRの資金充足率はわずか31%にとどまっており、その結果、避難を余儀なくされた人々、とりわけ最も脆弱な人々に提供される不可欠な支援サービスが大きく制約されている。 難民条約75周年を迎えるに当たり、UNHCRは、庇護制度への新たな国際的コミットメント、より強固な国際協力、そして難民と受入れ地域社会への一層の支援を呼びかけている。 2026年を通じて、各国政府、市民社会、難民当事者、民間企業など幅広い関係者が参加する地域・国・世界レベルでの対話を開催し、難民保護を強化し、持続可能な解決策を前進させるための具体的な方策をともに模索していく。 難民条約は75年を経た今日もなお、故郷を追われた人々を守り、本当に保護を必要とする人々に庇護を提供し続けるという、国際社会全体の決意が試される存在なのである。 エリザベス・タンは、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)国際保護・解決局長。 INPS Japan/ IPS UN Bureau Report 関連記事: WHO:移民・難民の健康リスク深刻化 世界の保健体制はなお不十分 移民の国が多数の難民と庇護申請者を強制送還 |シリア難民|子ども達が失っているのは祖国だけではない

髪を切ることは、自由を切り刻むこと―タリバン統治下で揺れるアフガニスタンの理髪師たち

筆者はアフガニスタン在住の女性ジャーナリスト。タリバン政権掌握前にフィンランド政府の支援を受けて報道研修を修了した。安全上の理由から氏名は公表していない。 【カブールIPS=匿名ジャーナリスト】 カブールで理髪店を営むアフメド(仮名)は、かつてスマートフォンの中にさまざまな髪型の写真を保存していた。来店した客に見せて好みのスタイルを選んでもらい、その通りに髪を切っていたのである。若者の中には、自分で見つけた写真を持参する者も少なくなかった。特にイスラム教の祝祭「イード」の前には、店は連日大勢の客であふれていた。|英語版| しかし、そんな光景はもうない。 「以前はイードが近づくと、昼も夜も店で働き、ほとんど家に帰ることがありませんでした。店から客が途切れることもありませんでした。ところが、今では状況がすっかり変わりました。店を開けるのは午前10時か11時ごろで、午後4時か5時には閉めて家に帰ります。ただ時間をつぶし、一日を何とかやり過ごすために仕事へ行っているようなものです。」とアフメドは語る。 アフガニスタン、なかでも首都カブールでは、男性向けのヘアサロンや理髪店は、単に髪やひげを整えるためだけの場所ではなかった。男性や若者たちが集まり、お茶を飲みながら語り合う交流の場でもあった。近年では、SNSや世界的なファッションの流行に影響を受けた、現代的な髪型やひげのスタイルも人気を集めていた。 しかし、2021年8月にタリバンがアフガニスタンの実権を掌握すると、日常生活のさまざまな活動が制限されるようになった。こうした変化は、男性向けヘアサロンや理髪店の営業にも大きな影響を及ぼした。 2021年9月、タリバンは、とりわけカブールなどの都市部で、男性のひげを剃ったり整えたりすることを禁じる方針を打ち出した。そのようなサービスはシャリーア(イスラム法)に反するとされたのである。 新たな規則と監視体制の強化により、理髪師たちは従来のように仕事を続けることができなくなった。サービスの幅は狭まり、常に処罰への不安を抱えながら営業せざるを得なくなった。その影響は、理髪師と客双方の日常生活にすぐに現れた。 アフメドは理髪店の店主であると同時に、4人の子どもを育てる父親でもある。母親と2人の姉妹を含む家族全員が同じ家で暮らしており、この理髪店が一家唯一の収入源だ。 私は目立たないように彼へ取材するため、夫と5歳の息子を連れ、「息子の散髪に来た客」を装ってカブール中心部にある店を訪れた。 アフメドの店に入ると、かつてのヘアサロンの面影はほとんど残っていなかった。髪型やひげのスタイルを紹介する大きなポスターはすべて取り外されていた。今では、そうしたポスターを掲示することが認められていないからだ。店内はすっかり簡素になり、現代的なヘアスタジオというより、昔ながらの小さな理髪店のように見えた。 息子の散髪を終えたアフメドは、ハサミをそっとテーブルに置き、鏡にちらりと目をやった。そして、しばらく間を置いてから、ため息交じりに語った。 「私は18歳のときにこの仕事を始めました。この仕事に情熱を抱いていたのです。それから20年間、理髪師として働いてきました。ほんの5年前、こうした変化が起きる前までは、朝6時半に自転車で家を出て、7時には店を開けていました。そして夜10時まで一日中働き、子どもから大人、お年寄りまで、あらゆる人々の髪を切っていました。お客さんの数は、数え切れないほどでした。」 アフメドの店はカブールのにぎやかな路地にある。以前、この店は単なる散髪屋ではなかった。順番を待つ客同士がお茶を飲みながら、サッカーから政治までさまざまな話題について語り合う、人々の交流の場だった。 当時を思い出しながら、アフメドは笑みを浮かべる。 「これは単なる仕事ではなく、人生そのものでした。毎日たくさんのお客さんが来て、YouTubeやお客さんが持ってくる写真を見ながら新しいスタイルを学びました。同業者との競争もあり、それが仕事への意欲につながっていたんです。」 しかし、その状況は2021年末から2022年初めにかけて一変した。 「勧善懲悪省(徳の推進・悪徳防止省)」、通称「風紀警察」の職員たちが理髪店を頻繁に巡回するようになったのである。 理髪師たちは、客のひげを剃ったり整えたりしてはならないこと、西洋風の髪型も避けるよう命じられ、違反すれば厳しい処分を受けると警告された。 「最初は、ひげを剃ってはいけないという話を耳にしただけでした。しかし、そのうち風紀警察の職員が実際に店を訪れるようになりました。日によっては、2、3人の職員が何時間も店内にとどまり、私が客の髪やひげをどのように整えているのかを監視していました。仕事をしている間も、何をしてよいのか、何をしてはいけないのかを逐一指示されました。」 当初の数カ月間は、こうした措置は一時的なものにすぎないという非公式な噂が広まっていた。多くの理髪師も、長くは続かないだろうと考えていた。しかし、やがて規則が厳格に適用されることが明らかになった。その後、規制は次第に強化され、当局による店舗の巡回も頻繁になっていった。 「正直に言えば、お客さんから頼まれても、新しい髪型を試す勇気はありませんでした。怖かったのです。理髪師仲間の多くが罰金を科され、中には一定期間、店を閉鎖させられた人もいました。」 この5年間、多くの理髪師が罰金や拘束、店舗の一時閉鎖あるいは営業停止など、さまざまな処分を受けてきた。職を変えた人もいれば、国外へ移住した人もいる。 一方で、アフメドのように困難な状況の中でも営業を続ける人もいる。しかし客層は変わり、収入は以前の半分にまで落ち込んだ。 「今ではお客さんとの会話も短くなり、来店する人も少なくなりました。かつて店いっぱいにあふれていた温かく活気ある雰囲気は、もう消えてしまいました。」 こうした状況の中で、理髪という仕事は、多くの理髪師にとってかつてのような創造性ややりがいを感じられる職業ではなくなっている。 「若い人たちは以前ほど身だしなみに気を使わなくなりました。店に来なくなった人も多いですし、来てもごく普通の髪型しか頼みません。実際には、みんな怖がっているんです。 「つい最近も、10代の少年の髪を切っていたところ、風紀警察の職員がやって来ました。私が少年の髪をスタイリングしているのを見ると、大騒ぎを始め、少年の髪を非常に短く切るよう強制しました。さらに、店を閉鎖すると脅されました。長い押し問答の末、最終的には罰金を科されるだけで済み、彼らは立ち去りました。」 アフガニスタンの理髪師たちの経験は、人間の創造性を完全に抑え込むことはできないと物語っている。アフメドのような人々は、困難や恐怖に直面しながらも、決してあきらめてはいない。彼らは、創造性や人とのつながり、そして希望が息づく小さな空間を守り続けている。こうした粘り強さは、地域社会が立ち直り、成長し、再建していく力を備えていることの表れでもある。 先行きは厳しいかもしれない。それでも、抵抗の精神と人間の希望は、変化が訪れ、暮らしと創造性が再び花開く日々が戻ってくる可能性をつなぎ止めている。 INPS Japan/ IPS UN Bureau Report 関連記事: 沈黙か抵抗か―タリバン下で闘う若きアフガン女性テコンドー指導者 才能の浪費:タリバンの制約下で「適応」を迫られるアフガンの高学歴女性たち アルカイダ、タリバン、そしてアフガニスタンの悲劇

気候リスクが多国間主義を進化させている

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています 【Global Outlook=ジャナニ・ヴィヴェカナンダ】 気候外交では、いま新たな潮流が生まれている。大きな影響を及ぼす議論の一部は、もはや正式な国際会議だけで交わされているのではない。公式日程と並行して設けられる、多様な主体による新たな対話の場が、正式な制度がどのような成果を上げられるかを、ますます左右するようになっている。 6月に開催されたロンドン気候行動週間(London Climate Action Week)は、こうした変化を鮮明に示した。それから1か月を経た現在、今後の会議日程を見ても、この流れは一層明らかである。 8月初旬には、関係機関がスリランカのコロンボに集まり、「ベンガル湾・気候・平和・安全保障対話(Bay of Bengal Climate, Peace...

AIはすでに数十億人の現実を書き換え始めている―しかし、その「現実」は女性を正しく映していない

【UNWOMEN/INPS Japan】 133の人工知能(AI)システムを対象とした調査では、44%でジェンダーバイアスが確認され、26%ではジェンダーと人種の双方に関する偏見が認められた。一方、AIが生成した広告やコンテンツを公開前に人間が確認しているマーケティング担当者は、わずか51%にとどまっている。|英語版| 7月6~7日にスイス・ジュネーブで開催される「国連AIガバナンス・グローバル対話(United Nations Global Dialogue on Artificial Intelligence Governance)」、続く7~10日の「AI...