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国連のAI決議:野心あるも実効性に欠ける

【ニューヨークATN=アハメド・ファティ】 ニューヨーク、国連本部──国連総会は人工知能(AI)に関する決議(文書A/79/L.118)を採択した。国際社会がAIガバナンスを本格的に検討し始めたことを示す動きとして注目を集めたが、その内容を精査すると、実効性に乏しく、対話や報告を重ねる枠組みを新設するにとどまっている。 この決議は、リスクや機会、影響を評価する40人規模の「人工知能科学パネル」の設立を決め、持続可能な開発目標(SDGs)支援やデジタル格差是正を目的とした「AIガバナンスに関するグローバル対話」を立ち上げた。総会では多くの代表団がこれを歴史的な一歩と評価した。イラク代表は「77カ国グループ+中国」を代表し、AIが教育、医療、デジタル経済を変革する可能性を強調した上で、途上国のニーズに応じた公平で包摂的なガバナンスを求めた。デンマーク代表はEUを代表し、科学的独立性と多様な主体の関与を重視する枠組みを高く評価し、国連の有効性を示す成果だと述べた。 しかし、その意義づけとは裏腹に、この決議は「手続きを優先し、実質を伴わない」という国連加盟国の従来の傾向を映し出している。アントニオ・グテーレス国連事務総長が「国連80周年」の関連報告で任務過多と財政危機を警告したように、国連は実行力や政治的意志を欠いたまま包括的なマンデートを次々と生み出してきた。今回の決議もその例外ではなく、野心的な目標を掲げながらも範囲は限定的で、実効性に欠ける。 最大の問題点は、軍事利用のAIを明示的に対象外とした点である。自律型兵器やAI駆動の監視、アルゴリズムによる戦闘指揮は最も深刻なリスクを伴う領域であるにもかかわらず、国際的な対話から除外された。これは合意形成を優先するための回避に過ぎず、現実の課題への対応を弱めている。 資金面も懸念材料だ。決議は自発的拠出金に依存しており、その多くがAIの影響力を持つ大企業から拠出されることが予想される。手続きが透明に見えても、資金提供は優先順位を左右しがちであり、企業資金が条件なしに提供されることはまれである。「AI格差の是正」をうたってはいるが、実効的な資金や技術移転が伴わなければ、約束は実現しない可能性が高い。途上国にとってこれは抽象的な議論ではなく、デジタル教育の欠如、AI診断機器を持たない医療現場、そして一部の大国と企業が将来のルールを決める中で取り残される経済という現実を意味する。 AI決議は、AIガバナンスの緊急性を認識し、対話の場を提供した点では評価できる。しかし「認識」と「実行」は異なる。加盟国が軍事AIに踏み込み、資金面で裏付けを行い、象徴的な対話にとどまらない実効的な枠組みに移行しない限り、この取り組みがAIの行方を左右することはないだろう。 人工知能の進展は外交の速度を上回っている。国連が「対話」を「統治」と取り違え、任務過多に陥ったこれまでの悪循環を繰り返すならば、主導権を主張する分野で自らの存在意義を失いかねない。選択は明白である──AI決議に実効性を持たせるのか、それとも大国と企業がAIの未来を決定するのを傍観するのか。(原文へ) アハメド・ファティは、国連担当記者であり国際問題アナリスト。著書に『America First, The World Divided: Trump 2.0 Influence』がある。外交、多国間主義、権力、国際政治の動向について執筆している。 INPS Japan/ATN Original...

ツバル国民の3人に1人が新設されたオーストラリア移住の「気候ビザ」に応募

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。この記事は、2025年6月27日に「The Conversation」に初出掲載され、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下で再掲載されたものです。 【Global Outlook=ラルビ・サディキ】 ツバル国民の3人に1人が、新設されたオーストラリア移住の「気候ビザ」に応募している。最終的には全員が応募することになるかもしれない理由を解説する。 わずか4日間でツバル国民の3分の1が、新設されたオーストラリア永住ビザの抽選に応募した。 この世界初のビザは、ツバルの現人口約1万人のうち、毎年最大280人のツバル国民がオーストラリアに永住することを可能にするものだ。このビザは、オーストラリアでの就労、就学、または居住を希望する人であれば誰にでも門戸を開いている。太平洋諸国民を対象とする他のビザ制度と異なり、オーストラリアでの就職先が要件とはされない。(日・英)  ビザ自体は気候変動に言及していないが、ビザの創設を定めた条約は、「気候変動がもたらす存亡の脅威」という状況を背景としている。そのため、このビザが発表されたとき、筆者はこれを気候による移動に関する世界初の2国間協定と表現したのである。 オーストラリア政府も、「気候変動の悪化に伴って尊厳ある移住の道筋を提供する、世界にも類を見ない協定」と呼んでいる。 抽選への応募者の多さに驚く人も多いかもしれない。特に、条約が発表された当初はツバル国内にさまざまな懸念があったからである。それでも、一部のアナリストは、最終的には全てのツバル国民が選択肢を保持するために応募するだろうと予測した。 チャンスをつかむ このビザは、気候変動や災害という状況で人々に移住の機会をもたらすことの重要性を浮き彫りにしている。沿岸部の洪水、嵐による被害、水供給への影響など、海面上昇の危険性は一目瞭然である。しかし、ここにはもっと多くの要因が働いている。 多くの人々、特に若いファミリー層にとって、これはオーストラリアで教育と技能訓練を受けるチャンスと考えることができる。どのような場合に、いつ、どこに移住するかの選択肢を人々に提供することで、人々に力を与え、彼らが自らの人生について十分な情報を得たうえで決断することを可能にする。 ツバル政府にとって、新たなビザ制度は経済へのテコ入れという意味もある。今や移民は、多くの太平洋諸国にとって経済の屋台骨となっている。 移民が母国の家族やコミュニティーを支えるために送る資金は、本国送金として知られている。2023年、本国送金はサモアのGDPの28%、トンガのGDPの42%近くを占めた。これは世界で最も高い水準である。現在、ツバルは3.2%である。 ようやくの実現 気候変動が懸念事項となるかなり前から、ツバルはオーストラリアに対して特別ビザ制度の設置を働きかけていた。人口動態の圧力に加えて、生計機会や教育機会の乏しさから、移住は1980年代と90年代を通して関心を集める政策課題だった。1984年、オーストラリアの対外援助プログラムに関するレビューにおいて、ツバル国民の移民機会を強化することが最も有益な支援のあり方かもしれないと示唆された。 2000年代初めまでに、焦点は気候変動がもたらす存亡の脅威に移っていた。2006年、当時影の内閣で環境相を務めていたアンソニー・アルバニージーが、「Our Drowning Neighbours(溺れる隣人たち)」と題する政策議論文書を発表した。そこでは、オーストラリアが隣国としての対応の一環として太平洋諸国からの移民制度を創設することが提案された。2009年、当時のペニー・ウォン気候変動相の報道官が、一部の太平洋諸国民にとって最終的には永久移住が唯一の選択肢になるかもしれないと述べた。 太平洋におけるオーストラリアおよびニュージーランドへの他の移住制度と合わせると、毎年人口の4%近くが移住することになるかもしれない。ある専門家によれば、これは「並外れて高い水準」である。10年以内に、人口の40%近くが移住を済ませている可能性がある。とはいえ、なかには帰国する人や往来する人もいるかもしれない。 新来者はどのように受け入れられるか? 新しいビザ制度が真に試されるのは、人々がオーストラリアに到着したときにどのように扱われるかであろう。 現地での生活に適応できるよう支援が受けられるのか、あるいは孤独で締め出されたように感じるのか? 仕事や訓練機会を見つけることができるのか、あるいは不安定で不確かな状況に置かれるのか? 文化的つながりを失ったように感じるのか、あるいは拡大するツバル人ディアスポラ社会の中で文化的伝統を維持することができるのか? 健全で文化的に適切な定住サービスを整備することが極めて重要である。理想的にはこれらをツバル人コミュニティーのメンバーと共同で策定し、「継続的対話と信頼を確保するためにツバルの文化と価値観を中心に置く」ことが望ましい。 専門家らは、「ツバル文化に関する専門知識とツバル語の能力を備えた連絡担当官がいれば、到着後のプログラムのような活動を支援することができるだろう」と提案している。 経験から学ぶ また、新来者が経済的・社会的困難を経験するリスクを低減するために、ツバル人のニュージーランド移住からも学ぶべき多くの重要な教訓がある。 制度の継続的な監視と改善もまた鍵となる。これには、ツバル人ディアスポラ、ツバル本国のコミュニティー、オーストラリアのサービス提供者、さらには連邦、州/準州、自治体政府が関与するべきである。 また、移住によって資源への制限から解放され、すでに脆弱化している環礁環境へのストレスが軽減されることから、一部の人々が本国送金と海外の拡大親族ネットワークに支えられてツバルにより長く残留できるようになるかもしれない。 一部の専門家が指摘している通り、海外からの送金は親族が気候変動への脆弱性を低減するために活用することができるだろう。雨水タンクや小型ボートを購入する、あるいはインターネットなどの通信環境を改善するために役立つかもしれない。また、本国送金は、子どもたちの教育水準を高める、あるいは社会資本を増強するサービスに投資した場合も有益である。 大規模な流出を遅らせる 転換点にいつ達するかを知ることは難しい。例えば、ツバルに残る人があまりにも少なければ労働力と技能の不足により開発が制約されるだろうと、一部の人々は警告する。キリバスのテブロロ・シト元大統領はかつて、移住は「両刃の剣」であると筆者に語った。人々が海外で仕事を見つけ、本国に送金できるようになる一方、「地元の経済や整備にも十分な技能人材が必要であり」、そうでなければ逆効果になる。 ビザには年間280人の上限があり、問題が生じれば人数を調整する余地はあるが、転換点までの道のりはまだ遠い。現時点では、新たなビザは気候変動への対処方法に関する選択肢を人々にもたらすセーフティネットを提供している。ビザの抽選は7月18日まで応募可能であり、応募者はさらに増えると思われる。 ジェーン・マックアダムは、豪・ニューサウスウェールズ大学(UNSW Sydney)のカルダー国際難民法センターにおいて、科学教授およびARC 受賞者...

選択は今もなお明白:80周年迎えた国連憲章を再確認する

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。またこの記事は、2025年6月26日にジョーダン・ライアンが国連憲章調印80周年に寄せて語ったものである。 【Global Outlook=ジョーダン・ライアン】 今から80年前、サンフランシスコに世界中の国から代表者が集まった。ある文書に調印するだけではなく、ある約束をするためだった。(原文へ 日・英) 人類の歴史上最も破壊的な戦争の灰燼の中から生まれた国際連合憲章は、後世の人々を戦争の惨禍から守り、全ての人間の尊厳と価値を守り、征服ではなく協調によって平和を築くという誓いを具現化した。 その冒頭の言葉「われら人民」は、各国政府だけでなく全ての人類を指している。それは、より壮大で永続的なものへの転換を示していた。 トルーマン大統領が米国上院で国連憲章を提示した際、「この憲章か、より良い憲章かではなかった。この憲章か、全く憲章なしかの選択だった」と述べたが、今日、われわれは同様の選択を迫られている。 トルーマンによるサンフランシスコ会議閉会の辞は、厳しい真実を突き付けるものだった。「数年前われわれにこの憲章があったなら、そして何よりこれを用いる意志があったなら、死亡した何百万人もの人は現在も生きていただろう。将来、これを用いるというわれわれの意志が揺らぐことがあれば、今生きている何百万人もの人が必ずや死ぬだろう」。そして彼は世界に対し、「ファシズムはムッソリーニとともに完全に死んだわけではない。ヒトラーは破滅した。しかし、彼の無秩序な精神によってばら撒かれた種子は、あまりにも多くの狂信的頭脳の中に深く根を下ろしている」と釘を刺した。 それは1945年のことだ。しかし、その警告は今なお響き渡っている。今日、これらの種子は新たな形を取るようになった。それらは制服を着ているとも限らず、戦場にいるとも限らない。異論を封じ込めるデジタルシステム、遺恨を生む経済的排除、真実よりも権力を重視するイデオロギーといった形である。外面は変わったが、その危険は同じままである。 親しい友人の義父ジョン・ドライアーは、サンフランシスコのその場にいた。代表団としてではなく、会議を実現させるために舞台裏で尽力した若いプロフェッショナルたちの一人としてである。彼は38歳という若さで事務局の次長を務め、本会議の計画、演説の順序管理、会議を円滑に運営するロジスティクス機能などを監督し支援した。 彼は妻への手紙の中で、最終投票について、「議長を務めたハリファックスが起立投票を呼び掛けた。議長が起立し、私が数え、投票結果をアルジャー[・ヒス]に伝えた。国連憲章が全会一致で承認されたことをハリファックスが宣言すると、誰もが立ち上がって拍手し、歓声をあげた。本当に自然発生的で熱狂的な瞬間だった」と描写した。 彼は、会議全体の中で最高の瞬間だったと述べている。それは、この憲章が単に交渉によって取り決められたテキストなどではなく、信じるという賭けであったことをわれわれに思い起こさせる。それは、響き渡る希望だった。 今日、ウクライナ、ガザ地区、スーダン、サヘル地域で戦争が勃発し、イラン空爆が中東における危険で新たなエスカレーションの様相を呈するなか、国際法は組織的に無視され、民間人を標的にしても罰せられることなく、住民全体が保護も発言の場も与えられないままになっている。病院を標的にすることからクラスター爆弾の使用にいたるまで、戦争法への違反が起こっているだけでなく、戦争法そのものが崩れつつある。その一方で大国間の対立が安全保障理事会を麻痺状態に陥らせ、国連憲章の最も基本的な約束は危うい状況にある。 われわれが直面する状況を明確にしてみよう。ロシアによるウクライナ侵攻は、国連憲章に対する直接的な攻撃であり、国連が守るべく設立されたあらゆる原則を侵害する領土侵略戦争である。米国は多国間制度や協定から離脱し、国際協調の基盤そのものを弱体化させている。世界中の権威主義政権がこれらの亀裂に乗じ、権利よりも支配を、自由よりも監視を、真実よりも権力を優先させるという対照的なもう一つの体制を構築しつつある。 このような空白を権威主義的な意図が埋めるに任せてはならない。われわれは、国連憲章のビジョン、完璧な調和のビジョンではなく原則に基づく協調のビジョンを取り戻さなければならない。画一性ではなく、多様性、主権、法の支配の尊重による平和のビジョンである。 それには、武力行使や侵略に対し、明白かつ普遍的に抗議することが含まれる。領土の保全が侵害されるとき、力によって体制が変更されるとき、戦争犯罪が罰せられないとき、構造全体が弱体化する。国連憲章のガードレールは、任意のものではない。それは、われわれと暗い絶望との間に立つ防壁なのだ。 そして、覚えておこう。平和に必要なのは停戦だけではない。トルーマンが同じサンフランシスコ演説で述べた通り、「公正かつ永続的な平和は、外交協定や軍事協力だけでは達成できない」。彼は、経済的な対立と社会的不公正が「戦争の種」をまくことを理解し、「人為的かつ不経済な貿易障壁」を取り除くことを呼び掛けた。平和には、全ての人の公正、尊厳、公平な未来が必要である。それは、事実、透明性、真実を重視する世界の姿勢にかかっている。「諸国家は、自由でありたければ真実を知らなければならない」と、トルーマンは言った。 しかし、私が希望を見いだせるものがある。 力を持つ者が弱体化すると、他の者たちが力をつける。安全保障理事会で国境の防衛を訴えたケニアの勇気ある演説。人道的アクセスをめぐるアイルランドの外交努力。地域の平和構築を推進するガーナとブラジル。これらは、周縁的活動ではない。これらが中心を支えているのである。 世界は、少数の国によるコンセンサスを待っていられない。中堅国家、地域のリーダー国、そして多くの場合サイレント・マジョリティーである国々は、特別な責任を負っている。彼らのリーダーシップ、静かで、忍耐強く、原則に根差したリーダーシップこそ、声高な国々が免責を選ぶような時代に、国際規範がいかに存続するかを示している。 また、そのようなリーダーシップが力を発揮できるようなスペースを守ることも必要である。拒否権による機能麻痺や官僚主義といった欠点があるとはいえ、国連は今なお不可欠である。国連は日々、何百万人もの人々に食糧を提供し、子どもたちにワクチン接種をし、人権を監視し、脆弱な地域で平和を再構築している。 しかし、国連憲章は戦争を終わらせることばかりを意図しているのではなく、それを防止することを意図している。それは、外交に再注力し、市民社会スペースを守り、偽情報に対抗し、国際法が権力者をかばうのではなく弱者を保護するようにするということである。そこがハルトゥームであれ、キーウであれ、ガザであれ、ポルトープランスであれ、「われら人民」との言葉が依然として意味を持つ未来を築くということである。 トルーマンは、国連憲章を合衆国憲法になぞらえ、「最終的あるいは完璧な文書ではない。しかし、時が経つにつれて拡大し、より良くなるものだ」と述べた。それこそが、今日のわれわれの仕事なのである。憲章を拡大し、より良くすること。憲章がわれわれの記憶の中だけでなく、われわれの行動の中に生きるようにすることである。 https://www.youtube.com/watch?v=v6xyT6XUFz0 国連憲章が生き続けられるものとなったのは、その起草者たちが失敗の代償を目の当たりにしたからである。彼らは、死者を葬った。彼らは、協力なくして平和がないことを知っていた。そして、平和なくして未来がないことも。 当時、選択肢は明白だったとトルーマンは言った。それは今もなお変わらず明白である。 平和を選ぼう。国連憲章を選ぼう。憲章に、再び命を吹き込もう。(原文へ) * * * * * 国連憲章80周年を記念して、元国連職員らのネットワーク “Peace Reflection Group”は、国連憲章の創設原理を大切にする姿勢を再確認するよう促す世界的呼びかけを開始した。 呼びかけは、全ての国の人々に対し、平和、尊厳、国際協力という共通の価値を再確認することを求めている。 署名は人類の全ての構成員に開かれており、こちらのリンクから追加することができる: 呼びかけに署名する呼びかけの原文を「フィナンシャル・タイムズ」で読む10以上の言語による全文と署名者リストはこちらから閲覧できる: 呼びかけを読む ジョーダン・ライアンは戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会(TIRAC)メンバーおよびフォルケ・ベルナドッテ・アカデミー(Folke...

オーバーツーリズム:市民社会の動き出し

【ロンドンIPS=アンドリュー・ファーミン】 ヨーロッパや北米は休暇シーズンの真っただ中で、人々はビーチに押し寄せ、都市中心部を埋め尽くしている。旅行・観光産業は巨大なビジネスであり、昨年は世界経済に占める割合が10.9兆米ドル、世界GDPの約10%に達した。 しかし観光地の住民は、その負の側面を肌で感じている。観光客の過剰な集中、地域社会の恒常的な変化、迷惑行為、逼迫する公共サービス、ごみや汚染といった環境負荷、そして高騰する住宅費用である。オーバーツーリズムは、観光産業が住民の生活の質を体系的に損なう状況を指す。各国で住民の抗議が相次ぎ、市民社会の草の根団体が持続可能な観光のあり方を求める動きが広がっている。 住民の抗議 6月、ヨーロッパ各地で連携した抗議行動が行われた。人口160万人のバルセロナには年間3200万人の観光客が訪れる。観光縮小を求める「ネイバーフッド・アセンブリー」は、ホテルの入り口を封鎖し、発煙筒を焚き、水鉄砲を放つ抗議を実施した。ジェノバでは、活動家が大型クルーズ船の模型を旧市街の路地に引き込み、観光船の影響を訴えた。これらの行動は、フランス、イタリア、ポルトガル、スペインの団体が4月に結成した「南欧反観光化ネットワーク」の協議で調整されたものである。 これが初めての抗議ではない。5月にはカナリア諸島で数千人がデモを行い、昨年も複数の都市で抗議が行われた。直近では、パリのモンマルトル地区の住民が、自宅に横断幕を掲げ、地域が観光で変容していることを訴えた。 抗議は街頭にとどまらない。オランダでは「アムステルダム・ハズ・ア・チョイス」という住民団体が市を相手取り法的措置を検討している。2021年、市は住民の請願を受け、宿泊数を年間2000万泊に制限することを決定したが、調査ではこの上限を恒常的に超えていることが示されている。団体は規制の履行を求めて訴訟に踏み切る構えだ。 複数の国で住民が声を上げるのは、同じ問題に直面しているからだ。オーバーツーリズムは地域社会を変貌させ、住民を追いやりつつある。 オーバーツーリズムの影響 観光業は雇用を生むが、多くは低賃金かつ季節労働で、労働権や昇進の機会は限られる。観光の集中する地域では、住民が日常的に利用する店が観光客向けのビジネスに置き換わり、家賃高騰で老舗も淘汰される。 環境への負荷も住民を直撃する。イビサ島の活動家は、水不足で住民に制限が課される一方、ホテルは対象外だと訴える。ビーチや公園といった公共空間は過密化・劣化し、地域社会は舞台セットのように扱われ、帰属意識や地域のアイデンティティが脅かされる。「観光よりも生活を」というスペインの運動がその象徴である。 住宅費高騰は最大の懸念のひとつだ。賃金を上回る勢いで住宅価格や家賃が上昇し、若者は収入の大半を家賃に費やさざるを得ない。観光需要は短期滞在用賃貸を増加させ、恒常的な住宅供給を圧迫している。観光地に住む人々は、自分たちの住居が投資用物件や短期レンタルに変わり、住宅不足と価格高騰を招いているのを目の当たりにしている。 マンションの住人は、短期賃貸化により近隣住民が消え、代わりに観光客の迷惑行為に悩まされる。規制は甘く、大家が法を無視しても摘発は少なく、税の回避も容易だ。スペインには推計6万6000件の違法観光アパートが存在する。 対策の必要性 昨年、バルセロナで観光客に水を浴びせた抗議行動が注目を集めたが、住民の多くは観光客を直接狙っているわけではない。彼らは外国人嫌悪ではなく、観光客と住民の間に公平なバランスを求めているのだ。観光で利益を得る者に、問題解決のための負担を求めているのである。 抗議の成果も出始めている。昨年、スペインの裁判所は規制違反を理由にAIRBNBの物件約5000件の削除を命じた。バルセロナ市長は、短期レンタル物件のライセンス更新を打ち切り、5年以内に全面廃止する計画を発表。ポルトガル政府は新規ライセンス発行を停止し、ギリシャ政府は新規登録を1年間禁止した。それでも多くの国で規制の隙間が残り、政府は市民団体と協力して改善する必要がある。 観光税を導入する自治体も増えている。ベネチアは非住民にピークシーズンの入場料を課し、アテネではパルテノン神殿の入場者に時間指定を導入した。こうした税や料金は単なる収入源ではなく、被害を受ける地域社会を支援するために使われなければならない。 また、当局は観光誘致のマーケティング戦略にも注意を払い、過度な宣伝を避けるべきだ。観光客に与える影響を認識させ、被害を最小限に抑える行動を促すキャンペーンが必要である。 オーバーツーリズムへの抵抗運動は今後さらに拡大し、環境、住宅、労働などの問題を結びつけながら広がっていくだろう。気候変動が資源を一層圧迫するなか、この問題は深刻さを増している。オーバーツーリズムの懸念は、結局のところ経済が大多数の人々の利益のために機能していないという不満の表れでもある。各国政府と国際社会は、経済をより公正で持続可能かつ搾取的でないものにする方法を真剣に模索し、警鐘を鳴らす市民社会の声に耳を傾けなければならない。(原文へ) アンドリュー・ファーミン氏は、CIVICUS編集長であり、「CIVICUSレンズ」共同ディレクター兼ライター、『世界市民社会報告書』共著者。 INPS Japan/IPS UN Bureau Report 関連記事: |アスタナ|カザフスタンの未来都市が2026年に日本からの直行便就航で観光客を歓迎 マスツーリズムがもたらす経済効果と受け入れ側の負荷 |ウクライナ|ソ連時代の核シェルターが観光遺産から人命を救う施設に(ピエールパオロ・ミティカジャーナリスト・写真家)