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民主主義が凍りつくとき、独裁は台頭する

【ウィーンIPS=ロバート・ミシック】 私たちの政治体制は、情熱やイデオロギー、経済的利害がぶつかり合う場であるだけではない。人々や集団がどのように動き、どのように影響し合うかが一定の規則性のもとで積み重なっていく―ゲーム理論にも通じる「相互作用の仕組み」として捉えることもできる。近年、その前提が大きく変わった。社会を支えてきた大きな同質的集団がほどけ、社会は多様な小集団の集合体、言い換えれば多様な少数の集団が並び立つ状態へと分かれてきたのである。 こうした細分化は、人々が組織や集団よりも「個人」として動く傾向が強まる中で、政治を支えてきた強い結びつきを弱め、民主政治の運営を難しくしている。多数決を基本とする国ほど、その影響は政党政治に直撃する。既存政党への不満は、当初は小さくても次第に表面化し、新党の誕生を促す。結果として政党は増え、政治は一層分裂していく。 帰結は明確である。政権形成は困難になり、安定した多数派も築きにくくなる。成立するのは、合意できる範囲を最小限に絞った連立政権になりがちだ。だが、それで政治の成果が改善されるとは限らない。多くの場合、むしろ悪化する。 悪循環 決断力、果断な行動、明確なリーダーシップは、いまや希薄になった。そのことが不満をさらに増幅させ、「政治は結局、何も成し遂げていない」という有権者の感覚を強める。政治が機能しているのかという疑念は自己増殖し、政治家は大胆な決定を下しにくくなる。こうして、決定的な政治が打てない状態が固定化する。 ポピュリストや極右勢力の台頭は、この停滞の結果であると同時に、停滞を加速させる要因でもある。右派の扇動者は不満を煽り、怒りへと転化させ、恐れや憎悪といった負の感情を巧みに利用する。 彼らが力を増すほど、民主政治は動きにくくなる。政治の焦点は急進主義への対処や最悪の事態の回避に偏り、結局は「現状維持に近い」合意しかできない連立づくりに終始しがちになる。 さらに、社会のまとまりが弱まると、急進右派が支持を広げる。その勢いが、さらに社会の分断を深めていく。人々の間に対立や孤立感が広がり、「社会は壊れつつある」という感覚が強まり、悲観が社会全体に広がっていく。 民主主義は自らの脅威を生み出す ある意味で、右派急進主義は、自らが嘆く問題そのものでもある。社会の「分解」や「崩れ」を批判しながら、その分断をいっそう促進してしまうからだ。こうして「強い統治が必要だ」という権威主義的反応を正当化する連鎖が生まれる。権威主義は、さらなる権威主義を呼び込む。 こうした政治の土台――社会の分断が進み、政治が決断しにくくなっている状況――を踏まえ、ドイツの民主主義理論家ファイト・ゼルクは、社会が変わり続ける中で民主主義には慢性的な負担がかかり、いったん崩れたバランスを立て直すのは容易ではないと指摘する。 結論は厳しい。民主主義は外から脅かされるだけでなく、仕組みの内側からも脅威を生み出してしまう、というのである。 さらに厄介なのは、経済と政治を取り巻く国際環境である。グローバル化が進むほど、各国が協調して課題を解く「グローバル・ガバナンス」が不可欠になる。しかし、それは好条件下でも決定と実行に時間を要し、いまは混迷する多国間主義の中で限界が見え始めている。 だからといって、逆方向の「脱グローバル化」――国家主義的な力の政治、関税の応酬、貿易戦争――が解決策になるわけでもない。むしろ販売市場の喪失、サプライチェーンの寸断、成長の鈍化といった新たな問題を生み、産業全体を揺るがしかねない。 欧州に重なる危機 将来の「非常事態」は、すでに遠い話ではない。気候危機は暮らしの土台を脅かすだけでなく、経済にも具体的な影響を及ぼしている。干ばつや洪水で作物が減れば、野菜や果物を中心に物価は上がる。生活費の上昇はすでに現実の問題となっている。 この流れは今後さらに深刻化する可能性が高い。脱炭素などの社会経済の転換が成功したとしても、その費用は莫大だ。保険会社が損害の増加に耐えられなくなる恐れがあり、資産価格が急落する局面もあり得る。最悪の場合、市場が急変し、資産価格が一気に崩れて金融危機へ連鎖する転換点が訪れかねない。 同時に、高齢化が財政を圧迫している。医療や介護のコストは増え続け、欧州の福祉国家は限界に近づいている。政府債務も膨張し、かつてのように「成長で債務を吸収する」ことは容易ではない。成長を引き出す政策は打ちにくく、緊縮策も社会に深刻な痛みをもたらすため、現実的な処方箋になりにくい。 例を挙げよう。ドイツは6年にわたり経済停滞が続き、民間投資も弱い。フランスは財政赤字が5・8%、政府債務はGDP比113%に達し、政権危機が繰り返されている。年金改革と富裕層課税を組み合わせた「公正な転換」は、合意形成ができず前進していない。オーストリアでは財政赤字が6%に達する見通しとなり、左派ケインズ派のマルクス・マルターバウアー財務相が、赤字を2025年までに4・5%へ抑える引き締め策をまとめた。 巨額の資産を持つ層がより多く負担することは、公平の問題であると同時に、財政を持続させるうえでも不可欠だ。だが、踏み込んだ政策を実行できる議会多数派は、ほぼどの国でも成立していない。 人々が求めているのは、枝葉末節の議論ではなく、筋の通った解決策である。危機の全体像は見えているのに、政治が日々の対症療法に追われ、中長期の課題に踏み出せていない―そのギャップが、政治不信と不安を増幅させる。 だからこそ、左派と保守中道は何よりも「共に動ける力」を示さなければならない。かつては民主主義を活性化するため対立を増やすべきだという議論もあった。だが、いま必要なのは、「勝ち負けの対立」ではなく、「問題を前に進める政治」である。 左派は国家財政の限界を直視し、保守は超富裕層にただ乗りを許す顧客政治がもはや成立しないことを認める必要がある。 緊急課題には迅速な対応が欠かせず、そのためには大きなコストを伴う。言葉だけでは通用しない。極右への迎合は打開につながらない。とりわけ保守は、権威主義勢力を「少し過激な保守」と見なす誤りを犯してはならない。 権威主義は「近い存在」ではなく、民主主義の敵である。それを掘り崩す最善の方法は、行動できる政治を実際に示すことだ。(原文へ) ロバート・ミシックは作家、エッセイスト。『ディー・ツァイト』『ディー・ターゲスツァイトゥング』など、ドイツ語圏の多数の新聞・雑誌に寄稿している。 本稿はソーシャル・ヨーロッパとIPSジャーナルの共同掲載。出典:インターナショナル・ポリティクス・アンド・ソサエティ(IPS)、ベルギー・ブリュッセル INPS Japan/IPS UN Bureau Report 関連記事: 「混迷する世界」で民主主義を守るために 外国エージェント法―市民社会を抑圧する新たな権威主義の武器 インドで広がる「民主主義の赤字」

カルナリ水生保護区

ネパール初の「魚のサンクチュアリ」は、地方政府と先住民族コミュニティの主導で始まった 【カイラリ、ネパールNepali Times=シュリスティ・カルキ】 タライ平原のこの一帯では、広いカルナリ川がまるで海のように見える。濃い霧が垂れ込み、対岸はまったく見えない。農民たちは霧の中に溶け込むようにして畑へ向かう。午前中頃になると、弱い日差しが霧を透かし始める。豚は囲いの中でうたた寝し、山羊は寒さをしのぐため黄麻袋で作ったカーディガンを着せられている。鶏は泥だらけの中庭で元気なくついばみ、アヒルが農道をよちよち横切るたびに車は避けて通る。|英語版|ドイツ語|ポルトガル語| この地域の先住民族であるタルーやソナハの人々は、川と暮らしや文化の面で深く結びついている。何世代にもわたり川で漁を続け、魚は誕生、死、結婚といった人生の節目とも結びついてきた。ソナハの人々は、川岸の砂から砂金を採ることも伝統的な生業としてきた。 しかし近年、乱獲や汚染、河川開発などの影響で、カルナリ川の魚は減少している。 先週、スドゥルパシュチム州とルンビニ州を結ぶサッティ橋の近くで霧が晴れ、青緑色のカルナリ川が日光を受けてきらめいた。カイラリ郡ティカプールとバルディア郡ラジャプールから数百人が集まり、「サキ魚類サンクチュアリ」の開所式が行われた。ネパール初の魚類保全の取り組みである。 サンクチュアリの対象は、両自治体にまたがるカルナリ川下流域の約4平方キロ。絶滅危惧種を含む魚類や爬虫類、哺乳類にとって、産卵や稚魚の育成に欠かせない生息地で、生態学的にも重要な区域だ。 この区間では、ガンジスカワイルカ(Platanista gangetica)、魚食性のワニであるガビアル(Gavialis gangeticus)、コツメカワウソ(Lutrogale perspicillata)などの希少種が確認されている。カルナリ川には魚類が197種生息し、そのうち136種がタライ区間で見られるという。 川の水位が下がる時期、礫が広がる川底は魚の産卵場所となる。さらにサッティ橋周辺には三日月湖や川の蛇行によって生まれた湾曲部があり、稚魚の育成場所として機能している。こうした条件が、この区間をサンクチュアリに指定するのに理想的だとされる。 ただし、この保全活動の最大の特徴は、ティカプールとラジャプールの2自治体に加え、タルーやソナハなど地域の先住民族コミュニティが主体となって進めている点にある。 このサンクチュアリは、川の水生生物多様性を支える取り組みであり、World Wildlife Fund(WWF)をはじめ、Dolphin Conservation Centre、Freed...

トランプの圧力が裏目に出始め、欧州は「声」を取り戻した

【ニューヨークATN=アハメド・ファティ】 長年にわたり、欧州は米国にとって従順な同盟国を演じてきた。侮辱をのみ込み、屈辱に耐え、癇癪を「型破りな外交」と言い換えた。戦略は単純だった。打撃を受けても同盟を保ち、嵐が過ぎるのをひたすら待つ—それだけである。 だが、グリーンランドをめぐる一件で、何かが壊れた。 ドナルド・トランプが、米国によるグリーンランド取得という野心を背景に、デンマークへ露骨な圧力をかけ始めたとき、欧州は囁くのをやめ、言い返し始めた。慎重に言葉を選んだ声明でも、外交的な曖昧さでもない。 明確な言葉だった。 主権は売り物ではない。 同盟国は所有物ではない。 欧州は取引材料ではない。 これらの反応は一夜にして生まれたものではない。同盟を「協力関係」ではなく、保護を口実にした取引のように扱う大統領が、長年にわたり積み上げてきた不信と政治的損耗が、ここで噴き出した結果である。 欧州が忘れなかったアフガにスタンでの侮辱 この亀裂が欧州で「感情的」と感じられる理由を理解するには、9・11同時多発テロ後における北大西洋条約機構(NATO)同盟国の犠牲に対し、トランプが繰り返し示してきた軽蔑に目を向ける必要がある。 同時多発テロの後、欧州は逡巡しなかった。NATO史上初めて第5条(締約国であるNATO諸国は「欧州または北米における1カ国またはそれ以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃と見なすことに合意」)を発動し、米国とともにアフガニスタンの作戦に参加した。英国、フランス、ドイツ、デンマーク、オランダ、ポーランド、カナダなどの兵士が現地で戦い、命を落とした。千人を超える同盟国部隊が戦死し、数千人が負傷して帰還した。国内政治が揺れ、社会の分断が深まり、ワシントンへの忠誠の代償を「政治世代」ごと支払った国もある。 それに対するトランプの反応は何だったか。同盟国を「ただ乗り」呼ばわりし、なぜ米国が彼らを守る必要があるのかと公然と疑問を呈し、血と犠牲を防衛費の数字に置き換えた。 それは率直さではない。犠牲への敬意を踏みにじる行為である。 欧州の政策は批判できる。防衛費をめぐる議論も成り立つ。だが同盟国の犠牲を切り捨てるのは、政治の範囲を越え、裏切りとして受け止められた。欧州はまさにそのように聞いたのである。 これはレトリックではない。構造的損傷である トランプがやっていることは、単なる「規範破り」ではない。大西洋同盟の土台そのものを侵食している。 同盟は信頼で成り立つ。抑止は信用で成り立つ。米国大統領が、第5条の適用は条件付きだと公然と示唆し始めた瞬間、この枠組みはただちに弱体化する。敵対国はNATOを打ち破る必要はない。疑念を植え付ければよい。 彼らは疑っている。ロシアはそれを見ている。中国もそれを見ている。西側を見つめる脆弱な国々も、それを見ている。 同時に米国は、「国家安全保障」を名目に欧州の同盟国へ関税を課し、自動車輸出を脅し、貿易を武器化する。グリーンランドをめぐってデンマークに経済的圧力もかける。これはパートナーシップではない。政策を装った強制である。 市場はシグナルを読み取る。投資家はリスクを測る。供給網は不確実性に反応する。そしてシグナルは明白だ。米国は、最も近い同盟国にとってさえ、もはや安定の拠り所ではない。 そして帝国(=トランプ政権)が最も恐れる事態が起きている。欧州が「米国の主導を前提としない世界」へ備え始めたのである。 米国技術への依存を減らす。ドルの代替を探る。防衛の自律性を築く。対中関係でヘッジをかける。戦略的自立を設計する。 トランプはこれを弱さと呼ぶ。だが現実には、信頼できない相手に対する合理的適応である。 誰も口にしたがらない問い なぜトランプは、同盟国に最も苛烈な言葉を浴びせる一方で、強権的指導者には甘いのか。 答えは不快だが、複雑ではない。 彼が尊重するのは同盟ではなく支配である。忠誠ではなく服従である。民主主義は反論する。強権者は賛辞で取り入る。だから前者を攻撃し、後者を懐柔する。 国内政治上の計算もある。欧州を口撃することは、米国内政治ではリスクが小さい。被害者意識を煽り、「米国は搾取されている」という物語を補強し、国内的な代償を払うことなく喝采を集める。 しかし、その国際的帰結は深刻である。 ワシントンと欧州の信頼が裂けるたびに、利益を得るのは米国人ではない。ロシアである。中国である。そして、分断された西側から利益を引き出すあらゆる勢力である。 陰謀を持ち出す必要はない。結果はすでに目の前にある。 グリーンランドが「一線」だった グリーンランドは最初の侮辱ではない。だが、決定打だった。 トランプの対デンマーク姿勢が、言葉の応酬から実際の圧力へと踏み込んだとき、欧州はついに、顔色をうかがう下位パートナーではなく、自尊心を備えた政治主体として応答した。局面が変わったのである。欧州はトランプを「やり過ごす」ことをやめ、「抵抗」へと舵を切った。 丁寧に、ではない。慎重に、でもない。意図的に、である。 骨のない欧州はいじめやすい。だが、尊厳を持つ欧州は、はるかに厄介だ。 清算の刻 帝国が衰退するのは、敵の攻撃によることは少ない。友を疎外するからである。 同盟国を従属者として扱うことで、トランプは米国を強くしているのではない。信頼の輪を狭めているのだ。NATOを揺るがすことで、欧州に「もっと払え」と迫っているのでもない。米国の指導を前提としない世界を、欧州に想像させているのである。 これこそが本当の損害だ。 グリーンランドは領土紛争として記憶されるのではない。象徴的な決裂として記憶されるだろう。欧州が、見て見ぬふりをやめた瞬間。耐え続けることをやめた瞬間。折れることをやめた瞬間。 立ち上がった瞬間である。(原文へ) Original URL:https://www.amerinews.tv/posts/europe-finds-its-voice-as-trump-s-pressure-begins-to-backfire INPS Japan 関連記事: 欧州には戦略的距離が必要だ──米国への盲目的同調ではなく アメリカ・ファーストと多国間主義の狭間で揺れる国家安全保障戦略 |ダボス会議|経済を凌駕する『力の政治』

5年を経て、核兵器禁止条約は世界に何をもたらしたのか

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。 【Global Outlook=スージー・スナイダー】 2021年1月22日、核兵器禁止条約(TPNW)が発効した。同条約には、加入可能な国の過半数が署名・批准または加入しており、核兵器を最も包括的に禁じる条約を支持する「世界多数派」の存在を示している。 重要なのは、TPNWが国際法となって以降、核兵器政策をめぐる国際的な議論に具体的な影響を与えてきた点である。本稿では、この5年間にTPNWが核軍縮に与えた影響を5点に分けて検討する。 第1に、核兵器をめぐる長年の法的空白を明確化し、埋めた。 TPNWは、生物兵器や化学兵器など、すでに禁止されている他の大量破壊兵器と同様に、核兵器を包括的に禁止した。国連総会がTPNW交渉を付託する以前、核兵器の保有、開発、生産、使用といった活動を、世界全体を対象に単一の条約で違法化する枠組みは存在しなかった。 国際人道法と国際人権法に根差すTPNWは、核兵器の開発、実験、生産、製造、備蓄、保有、配備受け入れ(ホスティング)、取得を包括的に禁じている。また、核兵器国が条約に参加する場合についても、二つの道を示している。すなわち、締約国間で合意された計画の下で核兵器を廃棄してから参加する方法と、先に廃棄した上で参加し、国際原子力機関(IAEA)の保障措置協定によって兵器関連活動が残っていないことを担保する方法である。 1968年の核不拡散条約(NPT)は、新たな国による核兵器の製造を禁じる一方で、すべての締約国に対して核兵器の使用や保有を一般的に禁じているわけではない。また、1967年以降に採択されてきた非核兵器地帯条約も、核兵器の禁止を特定の地域内に限っている。TPNWは、こうした法的空白を埋めた。 第2に、核兵器がもたらす破局的な人道・環境被害への認識を広げた。 TPNWは、核兵器が人類の生存、環境、社会経済の発展、世界経済、食料安全保障、そして現在および将来世代の健康と福祉に深刻な脅威をもたらし得るという懸念を、多くの国が強めたことを背景に生まれた。 同条約は、広島・長崎の経験と、核兵器が人びとにもたらす破局的で長期にわたる世代間被害の知見を踏まえ、形成されてきた「核のタブー」を強化した。従来、国際的な議論では前面に出にくかった人道的観点を、核軍縮を前進させる取り組みの中心に据えた点が大きい。さらに、核兵器の使用や実験で被害を受けた人びとと地域に対する被害者支援と環境修復を、締約国の義務として盛り込んだ。TPNWは、「人を守る」ための条約である。 第3に、核による威嚇は容認できないという国際的合意を固めた。 TPNWは、核の威嚇を明示的に禁じた初めての多国間条約である。TPNWが国際法となって以降、核兵器国が核使用を公然と示唆する局面が相次いだが、条約は共同対応を促し、未加盟国にも共有される形で影響が波及した。 たとえばTPNW支持国は、国連総会の「ロシアの侵略」に関する第11回特別緊急会合での共同声明などを通じ、ロシアによる核戦力の即応態勢引き上げの示唆を断固として退けた。こうした取り組みは、核兵器の人道的帰結と、核行動を抑制する国際的枠組みの重要性を浮き彫りにした。とりわけTPNWは、「核兵器の使用または使用の威嚇を明示的に禁じる唯一の条約」である。 また、2022年の第1回TPNW締約国会議の終結に際して採択された「ウィーン宣言」も、「核の威嚇はいかなる形であれ―明示的であれ暗示的であれ、また状況のいかんを問わず―明確に非難する」と断じた。 こうした動きは、その後の核の威嚇に対する国際的な非難にも反映された。バリで開かれたG20首脳会議では、核兵器国を含む首脳が「核兵器の使用の威嚇または使用は容認できない」と確認した。北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長(当時)も「核兵器のいかなる使用も絶対に容認できない」と述べた。習近平国家主席やオラフ・ショルツ首相も、TPNW締約国が先に用いた表現に近い言い回しで、核の威嚇を非難している。 第4に、「核の正義」が複数のフォーラムで議題になった。 TPNWの発効以前、核実験が行われた地域における被害者支援や環境修復を、多国間で集中的に議論する機会は限られていた。 TPNWは、国連総会での行動も促した。2023年にはキリバスとカザフスタンが、被害者支援と環境修復のために、すべての国が協力するよう求める決議を主導した。決議は、能力や資源のある国に対し技術・財政支援の提供を奨励するとともに、核兵器を使用または実験した国に、影響に関する技術的・科学的情報を影響を受けた国と共有するよう求め、被害の是正における特別の責任を認めた。反対はフランス、北朝鮮、ロシア、英国の4か国のみで、賛成は171か国、棄権は6か国だった。 「核の正義」は、従来の核軍縮フォーラム以外でも議論されている。国連人権理事会は2024年、マーシャル諸島の「核の遺産」が人権に与える影響に関する報告書を公表した。同報告書は、米国によるマーシャル諸島での核実験がもたらした人権上の含意を扱う一方で、他地域も含め、核実験が残す長期的な影響と人権侵害にも注意を喚起している。 最後に、核兵器産業からの投資撤退を促した。 核兵器に対する社会的な忌避感が強まるにつれ、企業が核兵器産業に関与することは、商業面でも「評判リスク」を伴う行為になっている。銀行や年金基金など、総資産で少なくとも4兆7000億ドル規模にのぼる金融機関が、核兵器産業に関与する企業への投融資や、そこから利益を得ることを拒んでいる。 TPNWは、核兵器のない世界が遠のいたように見えた時期にあっても、核軍縮が現実の政策課題として前進し得ることを示した。条約は、政府と市民に対し、核兵器のない世界へ向けた前進は可能だという見通しを与えてきた。(原文へ) スージー・スナイダーは、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のプログラム担当ディレクターで、投資撤退(ダイベストメント)キャンペーンや金融セクターとの連携を含む戦略目標の設計・実行を統括している。ICANが2017年にノーベル平和賞を受賞した当時を含め、同団体の代表も務めた。10年以上にわたり、核兵器製造に関与する企業への資金の流れを断つ取り組み「Don’t Bank on the Bomb」を統括してきた。Foreign Policy Interrupted/バード大学フェロー(2020年)。Nuclear Free...

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