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干ばつが奪う子ども時代―北部ケニアの気候ショックがSDGsを試す
【ケニア・マンデラIPS=ロバート・キベット】
夜明け前の毎朝、10歳のアミナ・アダンは学校ではなく、マンデラ県ラフム郊外の干上がりつつある水場(ウォーターパン)へ向かう。クラスメートがノートを開くころ、アミナは体の半分ほどもある黄色い水用ポリタンクを運んでいる。
母親のファトゥマ・アダンは語る。いまの選択は「教育か家事か」ではない。「水か、生き延びるか。」だ。
「水がなければ食べ物もない。学校にも行けない。子どもが手伝わなければ、その日を乗り切れない。」
アミナの姿は、ケニアの乾燥・半乾燥地域(ASAL地域)に広がる危機の縮図である。長期化する干ばつが、貧困削減、食料安全保障、保健、教育―持続可能な開発目標(SDGs)の中核をなす成果を後退させている。
干ばつが制度の限界を超えて押し広げる
ケニア国家干ばつ管理局(NDMA)によれば、マンデラは依然として「危機段階(alarm phase)」にある。降雨不足が繰り返され、2025年10~12月の短雨期(ショートレイン)の降水量は長期平均の30~60%にとどまった。水場は干上がり、牧草地は荒廃し、牧畜に依存する世帯は食料と収入の柱を急速に失いつつある。
食料・栄養安全保障に関する全国評価では、乾燥・半乾燥地域(ASAL)各県で215万人以上が緊急の人道支援を必要としており、6~59か月児の80万人超が急性栄養不良の治療を要するとされる。マンデラの保健当局は、家計の食料備蓄が尽き、家畜の乳生産も落ち込むなか、外来治療プログラム(OTP)への受診者が増えていると報告する。
危機はケニアにとどまらない。アフリカの角地域全体で、国連は、ケニア、ソマリア、エチオピアの約2400万人が、長年続く干ばつと気候ショックの結果、深刻な水不足に直面していると推計する。ユニセフは、干ばつに伴う避難によって域内の子ども270万人がすでに学校に通えなくなっており、状況が続けばさらに400万人が影響を受ける恐れがあると警告する。
「こうした気候ショックは、もはや一度きりの緊急事態ではない」とマンデラ県の教育担当者は語る。「慢性的な問題となり、子どもが成長し、学び、健やかに生きられるかどうかを左右している」。
教育が途切れ、未来が先延ばしにされる
マンデラ北部では、学校が危機の最前線に立たされている。教員たちは、教室の児童が減っていく様子を語る。牧草と水を求めて家族が移動し、子どもも連れていくためだ。移動しない世帯の子どもも、空腹と疲労のなかで集中できない。
マンデラ県の教育当局者アブディカディル・アダン・アリオによれば、干ばつの影響が強い学校では出席率が急落している。とりわけ女児が不利になる。水汲みや家事の負担が、まず女児にのしかかるからである。
開発の専門家は、影響は短期の学習遅れにとどまらないとみる。教育の中断は人的資本を弱め、長期的な経済生産性を損ない、将来の気候ショックへの適応力も低下させる。これはSDG4(質の高い教育)とSDG1(貧困をなくそう)への直接的な後退である。
「年々、子どもが学校を欠席するようになれば、被害は世代を超えて固定化する」と、北部ケニアで活動する人道教育の専門家アリ・アブディ博士は警鐘を鳴らす。
保健と栄養にかかる負荷
保健医療関係者は、干ばつが子どもを中心に、飢えと病気が重なって重篤化する危険な循環を加速させていると指摘する。水不足が深まるほど衛生状態は悪化し、下痢性疾患のリスクが高まる。栄養不良の子どもは感染症でいっそう体力を奪われやすい。
マンデラの遠隔地では、移動診療所が運営され、医療チームが栄養不良のスクリーニングを行い、治療食を配布し、重症例は安定化治療施設(センター)へ紹介している。多くは県政府と人道支援機関の連携によるものだ。
「早期発見は命を救っている」と、巡回プログラムに関わる栄養担当者は語る。「しかし患者数は増え続け、家族が支援にたどり着くまでの移動距離も長くなっている」。
生存戦略の破綻が招く保護リスク
干ばつで生計が崩れると、家庭は有害な対処手段に追い込まれる。人道支援機関は、児童労働や早婚、ジェンダーに基づく暴力(GBV)のリスクが高まっていると報告する。とりわけ社会的セーフティネットが弱い遠隔地の集落で影響が深刻だ。
女児は特に影響を受けやすい。資源が乏しくなると、まず教育が犠牲になることが多い。
「干ばつは、食べ物や水だけを奪うのではない。」とマンデラの地域リーダーは語る。「子どもから安全と尊厳をも奪っていく。」
効果が出ていること―子ども中心の統合的解決策
危機の規模は大きい。だが、マンデラ県を含むASAL(乾燥・半乾燥)各県では、統合的な支援が、子どもに及ぶ最悪の影響を和らげ、SDGsの後退を防ぎ得ることを示す報告もある。
こうした圧力は、SDG3(すべての人に健康と福祉を)とSDG2(飢餓をゼロに)を脅かす。両分野は、気候の極端化が強まる以前には、緩やかながら改善が見られていた。
県政府とユニセフ、セーブ・ザ・チルドレンなどが支える移動式の保健・栄養クリニックは、遊牧や避難によって固定の医療制度から外れがちな家族にも届いている。栄養スクリーニング、予防接種、母子保健を一体で提供し、固定施設までの長距離移動を減らす。
ワールド・ビジョンなどの支援を受けて政府機関が実施する現金給付は、世帯が切迫した優先順位に応じて、食料や水、医療に支出できるようにする。研究では、現金支援が有害な対処行動を抑えるうえで有効で、危機のさなかでも子どもを学校にとどめる助けになり得ることが示されている。
また、給水車などによる水の搬送・配給、ボーリング井戸の修復、干ばつに強い水インフラへの投資は、深刻地域でのアクセスを安定させている。費用はかさむが、専門家は、SDG6(安全な水とトイレを世界中に)を守り、人道危機の反復を防ぐうえで不可欠だと指摘する。
住民主体の取り組みも成果を上げている。訓練を受けたボランティアが家庭単位で栄養スクリーニングを行い、リスクのある子どもを早期に把握して、状況が悪化する前に支援へつなげている。
「介入は組み合わせてこそ最も機能する」と、人道プログラムの担当者は言う。「保健だけでは足りない。水、食料、所得、保護が一体で動かなければならない」。
規模拡大と持続可能性という課題
こうしたプログラムは命を救っているが、欠落もある。資金サイクルは短く、対応は予防よりも後追いになりがちだ。地方当局は、干ばつに強い生計――干ばつ耐性作物の導入、家畜保険、代替収入源など――を拡大することが、悪循環を断つ鍵だと訴える。
開発アナリストは、持続的投資がなければ、干ばつは複数のSDGsにわたる成果を侵食し続け、長期的にはより高コストな緊急対応を繰り返すだけになると警告する。
「問題は、干ばつが戻ってくるかどうかではない」と、政府間開発機構(IGAD)の気候専門家ユーニス・コエチは語る。「戻ってきたとき、子どもを守るために制度が十分に強いかどうかである」。
分岐点に立つ子ども時代
ラフムに戻ると、ファトゥマ・アダンは、状況が改善すれば娘が通学を再開できることを願っている。だが、いまは生き延びることが優先だ。
「アミナには学んでほしい」と彼女は言う。「でもまず、生きなければならない」。
アフリカの角で気候ショックが強まるなか、影響は計り知れない。調整された長期的な対応がなければ、干ばつは水や食料だけでなく、子ども時代そのものを奪い続け、SDGsに向けた国際社会の取り組みを後退させかねない。(原文へ)
INPS Japan/IPS UN Bureau Report
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気候変動、害虫、汚染がインド全土の作物損失を加速
【ニューデリー/SciDev.Net=ランジット・デブラジ】
昨年、ケララ州の稲の収穫期を、季節外れの雨が直撃した。雨天では収穫機が動かない。ところが、収穫した籾(もみ)を一時的に保管したり、水分を飛ばして乾燥させたりする施設が十分にない地域では、刈り取った米も稲わらも、露天に置けば短期間で傷む。結果として、食べる米だけでなく、家畜の飼料になる稲わらまで失われたという。地元の非営利団体タナール・トラストが伝えている。
打撃は減収だけではない。収穫の遅れや腐敗、雨水やカビによる汚染で品質が落ちれば、販売価格は下がり、収入も減る。場合によっては、食用に適さない作物になってしまう。
「作物損失は一律ではない。誰が、どの段階で、どのような損失を背負っているのかを丁寧に捉えることが、小規模・零細農家の生計を支える、公正で持続可能な農業の出発点になる。」カビタ・ミシュラ(農業研究機関CABIのジェンダー・包摂専門家)
こうした損失は、インド各地でいまや珍しくない。気候の振れ幅が大きくなり、害虫の動きも変わり、土壌や水を含む環境ストレスが、農業の前提そのものを揺さぶっているからだ。タナール・トラスト代表のウシャ・スーラパニはSciDev.Netに対し、「稲の収穫期に降る季節外れの雨は、もはや“例外”ではなくなった。雨が降れば機械収穫はできず、収穫を遅らせざるを得ない。その分、損失は膨らむ。」と語る。
しかも、豪雨や洪水は全体像の一部にすぎない。人の手による土地の劣化(過度な耕作や森林減少、土壌流出などにより、土の力が落ちること)が収量低下に拍車をかけ、気候条件の変化に押される形で、害虫や外来種は分布を広げ続けている。
果物と野菜の生産で世界最大級を誇り、米と小麦でも主要な生産国・輸出国であるインドにとって、作物損失は食料と経済の両面に直結する課題だ。国連食糧農業機関(FAO)によれば、害虫や病害によって世界の作物は毎年最大40%が失われる。インド国内に限っても、政府推計は約30%に達する。
損失を押し上げる要因は害虫や病害だけではない。極端気象と土地劣化が重なり、南アジアはとりわけ影響が大きい地域の一つだと、最近のFAO報告書は指摘する。同報告書は、世界で17億人が、土地劣化によって作物の収量が落ちている地域に暮らし、食料安全保障(安定して食料を確保できる状態)と生態系の健全性が同時に脅かされていると推計している。
真菌毒(マイコトキシン)
畑で目に見える被害の背後で、研究者がもう一つの重大リスクとして挙げるのが「汚染」だ。インドのウッタル・プラデシュ州でタタ・コーネル研究所が行った調査では、米、小麦、トウモロコシ、ソルガムなどの主食に、アフラトキシン(カビが産生する毒性物質で、マイコトキシンの一種)が高い濃度で検出された。健康被害の懸念に加え、汚染された穀物は売り物になりにくく、農家の所得にも響く。
同研究所アソシエイト・ディレクターのバスカル・ミトラは、作物損失の議論で見落とされがちな側面だと強調する。「マイコトキシンは、がんの原因として知られている。公衆衛生と、農家の所得損失という二つの観点から考えなければならない。」ミトラはSciDev.Netにこう語った。
一方で、FAO報告書には希望もある。AI(人工知能)やリモートセンシング(衛星などで地表を観測する技術)、ドローンがリスク情報をリアルタイムで提供し、早期警戒と先回りの対応を地域で強めつつある。輪作(作物を年ごとに替える)や被覆作物(地表を覆って土を守る作物)による土壌保全、総合的病害虫管理(IPM=農薬だけに頼らず、栽培法や天敵利用などを組み合わせて害虫・病害を抑える手法)といった、農家が培ってきた方法も、こうした技術で補強され始めている。
ただし、損失の影響は一様ではない。研究者によれば、女性、男性、若手農家は、担う役割や資源へのアクセス、意思決定権の差によって、直面するリスクも取り得る対策も変わる。この違いを踏まえなければ、地域の「レジリエンス」(危機に耐え、回復する力)は組み立てられないという。
農家の声を聞く
農業研究機関CABI(SciDev.Netの母体)の南アジア地域ディレクター、ビノード・パンディットは、インド中央稲研究所とCABIの「世界の作物損失の負担(GBCL)」プログラムが2025年9月から11月にかけて実施したワークショップで、次のように訴えた。「ジェンダーの視点から作物損失を理解することは、強靱な農業と包摂的なプログラム・政策の確かな土台になる。作物損失と食料不安に対処するため、研究と普及の現場は、ジェンダー中立の枠組みから、ジェンダーを意図的に組み込む行動へ転換する必要がある。」
ワークショップには科学者、普及指導員、農家が参加し、害虫、病害、気候ショックが地域ごとに作物へ及ぼす影響を検討した。焦点は、農家の経験に耳を傾け、損失の測り方そのものを見直すことにあったという。
CABIのカビタ・ミシュラはSciDev.Netに対し、「ワークショップは、オディシャ州で農家や普及指導員の声を聞き、害虫、病害、気候ショックに彼らがどう対処してきたかを学ぶ場だった」と説明した。「作物損失の影響が誰に、どのように及ぶのかを捉えれば、小規模・零細農家の生計に資する、より公正で持続可能な農業システムを築ける。」
マッピングとモデリング
ミシュラによれば、GBCLが進めるデータ収集、地図化、モデリングは、国内から大陸規模まで、作物損失のパターン理解を押し広げている。大規模な現地観測に、既発表の圃場試験データや科学文献を重ね、さらに自動テキストマイニング(文献から情報を機械的に抽出する手法)も組み合わせる。
衛星画像などのリモートセンシング技術は、極端気象の影響の監視や、害虫・病害の圧力の検出に用いられる。機械学習モデルは複数の衛星データを統合し、作物ストレスの初期兆候や、病害虫が広がりそうな兆しを捉えようとしている。
インドではすでに、インド宇宙研究機関(ISRO)のResourcesat計画の衛星データを使い、稲と小麦の生育を監視し、雑草の発生やストレスの兆候を地図化している。CABIのプロジェクトも、国内外の衛星データを活用し、害虫・病害の脅威を予測するモデルの精度向上を進め、早期発見と管理を支援している。
それでも、現場の声は冷静だ。技術だけでは増大する気候圧力を相殺できない。ケララ州では季節外れの雨が繰り返し農家を襲う。「雨が降ると、収穫した籾を保管するインフラも乾燥施設もなく、作物が腐ってしまう。」スーラパニは、タナール・トラストとしてこう語る。「家畜の飼料に使う稲わらでさえ、カビを防いで保存できない。」
気候の極端化は換金作物にも及ぶ。スーラパニによれば、カルダモン農家は昨年の干ばつで収穫を失い、植え替えを迫られた。費用は農家にとって破滅的だという。
オゾン被害
もう一つの新たな脅威が、地表付近のオゾン濃度の上昇である。オゾンは大気汚染物質の一種で、植物の組織を傷つけ、登熟(葉から穀粒へ栄養が移る重要な段階)を妨げる。その結果、収量と品質の両方が落ちる。
地表オゾンが稲作に与える影響を研究してきたインド工科大学のジャヤナラヤナン・クッティプラスは、オゾン被害による米生産の損失だけで、インドは年に30億米ドル超を失っていると推計する。対策として、汚染排出の削減に加え、高いオゾン濃度に耐える品種の開発を挙げる。
中国や東アジアでも、オゾンは大きな減収をもたらし、巨額の経済損失につながると推定されている。ある研究は、中国でオゾン汚染により、小麦で33%、米で23%の収量損失が生じると推計した。
一方、オゾンは本来有害な汚染物質であるものの、CABIは制御された条件下で、害虫・病害対策の抗菌剤として活用できないかも探っている。
アジア太平洋地域では、いもち病(稲の主要病害)やトビイロウンカ(稲の害虫)などが主食作物への脅威であり続ける。これらはリモートセンシングデータと機械学習モデルを組み合わせることで追跡が可能になりつつあり、より早い警戒と、より狙いを定めた対応につながる可能性がある。
研究者と政策担当者に突きつけられている課題は、損失を減らすことだけではない。損失をより正確に測り、「いつ、どこで、どのように」作物が失われ、「誰が」そのコストを負担しているのかを可視化することが、気候変動下で実効性と包摂性を備えた対策を設計するうえで欠かせないとの認識が強まっている。(原文へ)
本記事は「世界の作物損失の負担(GBCL)」の支援のもと、SciDev.Netのグローバル・デスクが制作した。
INPS Japan
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NATO危機、EU停滞―いまこそ欧州は自立を
この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。
【Global Outlook=ハーバート・ウルフ】
両組織は自己刷新し、米国の影響力から脱却しなければならない。
北大西洋条約機構(NATO)の危機は、ドナルド・トランプ政権の破壊的な政策から始まったわけではない。トランプがグリーンランドの併合に言及したのは、国際社会での正当性が揺らいでいる米国の強硬な対外政策が、さらに極端な方向へ進んだ最新の例にすぎない。もっとも、関心の中心を欧州から他地域へ移す動きは、歴代政権にも見られた。バラク・オバマ政権の「アジア重視(Pivot to Asia)」や、ジョージ・W・ブッシュ政権のイラク戦争をめぐるNATO内の対立は、そうした亀裂を示している。こうしたシグナルは欧州にも確かに届いていた。だがこの数十年、米国依存から脱するための有効な措置を取ろうとする本気で取り組む姿勢と足並みは、欧州側で十分に醸成されなかった。
トランプが軍事支出を国内総生産(GDP)の5%に引き上げるよう求めた時点で、欧州にとってそれは真剣に考え直すきっかけになるはずだった。NATOの欧州側における防衛上の弱点を冷静に見れば、問題が資金不足ではないことは明らかである。NATOによれば、欧州の加盟国は過去10年間で総額約3兆5000億ドルを軍事費として支出してきた。決して少ない額ではない。問題は、その資源が各国本位の発想のまま個別に使われ、説得力のある共通戦略を欠いている点にある。その結果、同じような装備を各国が別々に購入する無駄が生じ、各国の軍需産業だけが潤う構図となっている。
欧州各国政府は、自らの強みを見極め結束した対応を模索するよりも、トランプの要求に従ってきた。トランプ政権の支持をつなぎとめ、ウクライナ支援を継続させるため、欧州のNATO加盟国は、防衛費を大幅に拡大する長期目標を確認し、各国が段階的な増額計画を検討する姿勢を示した。また、その過程で米国製兵器の調達拡大が見込まれるとの見方も広がっている。NATOのマルク・ルッテ事務総長を先頭に、米国にに追従する欧州の列はますます長くなっている。
しかし今、トランプがグリーンランドの併合に言及し、同盟国に対する露骨な敵対姿勢を示したことで、「米国のこの“パートナー”には頼れない」という現実が、ようやく欧州にも突きつけられたのではないか。欧州は、カリブ海での砲艦外交、他国への威嚇、勢力圏の追求、植民地主義的な野心といった米国の行動から、明確に距離を置くべきである。
欧州の独立を実現するため、欧州が自前で防衛を担う枠組みの構築に踏み出す時だ。この同盟は、米国・中国・ロシアがさまざまな形で培ってきた大国同士の勢力争いに引きずられるべきではない。予測不能なトランプが次にどんな判断ミスをするかを待つのではなく、欧州は自らの力で安全保障を担う体制、つまり自立した戦略を築く必要がある。、欧州の自立、すなわち米国に頼り切らず自分たちで決める力が不可欠である。それはトランプ政権に対してもロシアに対しても、欧州の発言力が増す。これは新しい発想ではない。1978年にはすでに欧州議会が、EU域内で防衛協力を強化すべきだとする最初の報告書を公表している。
軍事専門家はしばしば、「米国抜きでは欧州はロシアに軍事的に劣る」と強調する。確かに、防空、偵察・衛星能力、サイバー防衛など、いくつかの分野には不足がある。だが、欧州をロシア軍に比べて過小評価するのは誤りだ。全面侵攻から4年以上が経過したウクライナ戦争で、ロシア軍は軍事的に大きな成功を収めたとは言い難い。ウクライナのインフラを徹底的に破壊し、大量の兵力を投入して、ようやく限定的な領土拡大を得たにすぎない。結束し機能する欧州防衛同盟に対し、ロシア軍が優位に立てるとは考えにくい。決定的なのは欧州の団結である。
しかし、欧州の利益を守るためでもあるウクライナ支援においてさえ、欧州は一枚岩ではない。ロシア国境から遠い国ほど「欧州の価値」を掲げつつも、防衛への関与には消極的になりやすい。
各国が個別に軍事費を投じ続け、その結果として無駄を生むのではなく、一貫した欧州の防衛構想が必要である。「戦争に勝てる力」といった言い回しは、防衛に本当に必要な課題から目をそらしやすい。米国の態度変化は、欧州が自立した防衛体制へ本気で転換するほどの衝撃だったのだろうか。ウクライナ戦争後に「時代の転換(Zeitenwende)」とまで言われたにもかかわらず、欧州が本当に変わったのかには疑問が残る。
EUは「力の言語(=軍事力や威圧で物事を動かすやり方)」を学ぶべきか
EUの経済成長は長らく力強さを欠き、停滞が続いている。依存関係はむしろ深まっている。先端技術は米国に、重要鉱物は中国に、化石燃料は専制的な体制の国々に頼る。欧州は内向きの思考から抜け出せていない。欧州中央銀行(ECB)総裁を務めたマリオ・ドラギも、EUの競争力不足と生産性の低さを弱点として指摘した。だが、米中と経済・軍事の主導権争いを演じ合うことは、本当にEUにとって現実的な戦略なのか。欧州は、この地政学競争で「米中に次ぐ“第3の柱”」になるべきなのか。
欧州が「軍事力や威圧で物事を動かすやり方」を学ぶ必要はない(そうすべきだという主張が強まっているとしても)。まして軍事力の言語など不要である。世界政治に、力で押し切る威圧的な主体がもう一つ増える必要はない。求められるのは謙虚さであり、第三極として地政学競争に参加しようとする野心ではなく、別の経済モデルである。EUは、市場万能主義を強め帝国主義的色彩を帯びつつある米国と、権威主義的な中国のどちらかを選ぶ必要もなければ、両超大国に追いつこうとする必要もない。
もちろん、保護主義的な関税を掲げる米国の経済政策は無視できない。同様に、必要とあれば重要なサプライチェーンさえ攪乱して世界的影響力を得ようとする中国の政策も、各国に影響を及ぼす。研究が示すとおり、覇権国は経済力を使った圧力を自国の利益のために用いたくなる。トランプはその熱心な推進者であり、中国もまた躊躇しない。依存する国々は、条約を結んだとしても、こうした圧力を完全に無力化することはできない。だからこそ、勢力圏争いに加わり「力の言語」で対抗するのではなく、貿易手段など欧州の強みを賢く用いるべきである。欧州は無力ではない。
カナダのマーク・カーニー首相がダボスで述べたように、欧州が「中堅国(ミドルパワー)」としての立場を目指して何が悪いのか。中堅国は、対等な立場で他の中堅国―とりわけグローバル・サウスの国々―と協力することで、現下の環境でも主体的に行動し、自らの利益を追求できる。重要なのは自由貿易だけではない。各国が一方的に不利にならない、公正な貿易である。
外部の大国への依存を減らすには、欧州は産業の形を作り替え、再生可能エネルギーの比率を高めるべきだ。域内市場の強化も必要である。自らの価値を守るのであれば、強固な福祉国家(かつての北欧諸国のような)を築くことが極めて重要だ。これこそが、大国の影響を抑え、大国に左右されない政治判断を維持し、右派的潮流(=排外主義・権威主義の広がり)から民主主義を守るための最良の土台となる。
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ヘルベルト・ヴルフは国際関係論の教授であり、ボン国際紛争研究センター(BICC)の元所長である。現在は同センターのシニアフェローを務めるほか、ドイツのデュイスブルク/エッセン大学・開発と平和研究所の上級客員研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・平和紛争研究国立センターの研究アフィリエイトも務めている。また、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の科学評議会メンバーでもある。
Original URL: https://toda.org/global-outlook/2026/nato-is-falling-apart-the-eu-is-faltering-good.html
INPS Japan
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|カザフスタン|2026年の中央アジア非核兵器地帯条約の議長国に就任
【アルマトイThe Astana Times=アヤナ・ビルバエワ】
カザフスタンは、中央アジア非核兵器地帯条約(Central Asian Nuclear-Weapon-Free Zone=CANWFZ)の2026年議長国に正式に就任した。条約加盟国による年次協議会合を受けたものだ。
会合にはカザフスタン外務省の代表が参加し、各参加国が2025年に実施した活動を検証するとともに、翌年の計画を取りまとめた。
議論はまた、国連の枠組みにおける中央アジア諸国の調整強化にも焦点を当てた。外務省報道局が1月30日に伝えた。
新たな議長国となったカザフスタンは、今年が2006年に署名された「セメイ(セミパラチンスク)条約」の署名20周年に当たることを指摘した。カザフ代表団は、核軍縮・不拡散に関する国際フォーラムでの連携強化の重要性を強調し、核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議や、核兵器禁止条約(TPNW)に関連する取り組みへの関与を挙げた。
中央アジア各国の外務省は、条約の節目を記念する行事を年内を通じて開催する見通しである。
セメイ(セミパラチンスク)条約は、2006年9月8日、当時セミパラチンスクと呼ばれたカザフスタン東部のセメイ市で、カザフスタン、キルギス共和国、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの5カ国が署名した。5カ国すべてが批准した後、2009年3月21日に発効した。
同条約は、非核兵器地帯条約の中でも独自性が高いとされる。核兵器実験や軍事目的のウラン採掘が行われてきた地域において、北半球で初めての非核兵器地帯を創設したためだ。さらに、この非核兵器地帯は2つの核兵器国(=ロシアと中国)と最長の陸上国境を共有しており、世界の不拡散努力における戦略的・象徴的意義を際立たせている。(原文へ)
INPS Japan
Original URL: Kazakhstan...
