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|2026年国際女性デー|今年の国際女性デーは、次期国連事務総長に女性を選出するよう訴えている
2026年国際女性デー―今年の国際女性デーは、次期国連事務総長に女性を選出するよう訴えている
【ニューヨークIPS=アンワルル・K・チョウドリー】
今年の国際女性デー(IWD)を迎えるにあたり、国際社会はなお続く混乱、紛争、そして地球の未来に対する不確実性のただ中にある。こうした時代だからこそ、女性の平等とエンパワーメントは、女性だけに関わる課題ではなく、人類全体、すなわち私たちすべてに関わる問題であることを、改めて思い起こさせられる。この極めて重要な点は、私たち一人ひとりが深く胸に刻まなければならない。
・今年の国際女性デー(3月8日)は、国連が次期事務総長として女性を選出することが期待され、またそうあるべき年であるという意味で、特別なものとなった。
・ここで強調しておきたい受け入れがたい現実がある。国連は創設から80年を経たいまなお、一度も女性の事務総長を選出していないのである。80年、9人の男性、そして女性は一人もいない。何という恥ずべきことか、何という情けない現実か。
平等をあらゆる演壇で語る機関が、その頂点において不平等を体現し続けてよいのだろうか。国連の唱える平等の信頼性は、自らを鏡に映したときの姿にかかっている。
・今日の世界における厳然たる否定しがたい現実は、家父長制と女性蔑視がいまなお、平等と平和と正義の世界を目指す人類の願いを遠ざける災厄としてはびこっていることである。世界のどの国も、女性と少女の完全な法的平等を達成していない。
・世界の多くの地域で、女性の権利とジェンダー平等のために何十年にもわたる運動の末に勝ち取られてきた成果を切り崩そうとする新たな動きが見られている。
・女性団体、フェミニスト活動家、そして女性の人権擁護者たちは、差別と不正義に立ち向かう勇気ある声であり続けている。人間の尊厳と人類の進歩を前に進めるうえで、彼女たちの役割は不可欠である。
・私はこれまでの仕事を通じて世界各地を訪れてきたが、そのたびに、平和で包摂的かつ強靱な社会を形づくるうえで、女性のリーダーシップと参加がもたらす変革の力を目の当たりにしてきた。
私たちは常に心に留めておくべきである。平和がなければ開発は不可能であり、開発がなければ平和も実現できない。しかし、女性なくしては、そのいずれも考えられないのである。
2026年の国際女性デーのテーマ「すべての女性と少女のために―権利、正義、行動」は、時宜を得た力強いものである。それは、進歩のためには権利の承認だけでは不十分であり、現実の中で正義と平等を実現するための断固たる行動が必要であることを思い起こさせる。
改めて強調したい。フェミニズムとは、包摂的で、あらゆる可能性を生かし、誰一人取り残さない、賢明な政策のことである。
私はフェミニストであることを誇りに思う。私たちは皆、そうあるべきだ。それこそが、私たちの地球を、すべての人にとってより良い場所にしていく道なのである。
https://www.youtube.com/watch?v=Y3KTwgrS1tU
また、この3月8日にあたり、2000年のこの日、私が安全保障理事会議長として、安保理全体による画期的な声明の取りまとめを主導したことを想起したい。それは、同年10月31日にナミビア議長国の下でコンセンサス採択された国連安保理決議1325への道を開く、概念的・政治的な突破口となった。
この国際女性デーにあたり、ジェンダー平等の世界を築くという私たちの決意を新たにしよう。私たち一人ひとりの行動、対話、そして意識の持ち方が、より大きな社会を変えていくことができる。(原文へ)
共に変化を実現しよう!!!
アンワルル・K・チョウドリー大使は、元国連事務次長・上級代表。2000年3月の国連安全保障理事会議長として、国連安保理決議1325の発端を築いた人物であり、「平和の文化のためのグローバル運動(GMCoP)」創設者でもある。
INPS Japan/IPS UN Bureau Report
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【国連IPS=タリフ・ディーン】
米国が、国連の条約や国際協定を含む66の国連関連組織から一斉に離脱したことを踏まえると、予測不能なトランプ政権が、将来、国連そのものからも脱退し、1947年の国連・米国本部協定にもかかわらず、国連事務局をニューヨークから追い出す決断に踏み切る可能性はあるのだろうか。
66組織からの離脱に加え、米国は国連人権理事会、WHO(世界保健機関)、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)、UNESCO(国連教育科学文化機関)からも離脱した。さらに、正式には脱退していない国連機関に対しても、資金拠出の大幅削減を課している。
では、厳しい批判にさらされている国連は、そう遠くない将来、同じ運命をたどるのだろうか。そうした見方を強めているのが、トランプ大統領と米政府高官による国連への強硬な姿勢である。
国連問題の研究と執筆で知られるスティーブン・ズーンズ博士(サンフランシスコ大学政治学教授)はIPSの取材に対し、国連に最も敵対的だった米大統領でさえ、ロナルド・レーガンやジョージ・W・ブッシュの時代を含め、米国の利益を前進させるうえで国連が果たす重要性を認識していたと語った。特定の事例で法原則に反する行動を取ることがあっても、国連システム全体を維持する意義は理解されていた、という。
同様に米国は、いくつかの政策や、場合によっては組織の使命そのものに同意できない場合であっても、影響力を行使するために、さまざまな国連機関に参加してきたと、ズーンズ氏は指摘する。
しかし同氏は、「トランプ政権は、第二次世界大戦後に築かれた国際法秩序そのものを拒否しているように見える。とりわけベネズエラ攻撃以降の発言は、19世紀の帝国的特権への回帰であり、現代国際法の否定に映る。」と語った。
その結果として、「トランプ氏が実際に米国を国連から脱退させ、国連をニューヨークから追い出す可能性はあり得る。」とズーンズ氏は語った。
トランプ氏は昨年9月の国連総会演説で、「国連の目的は何なのか。潜在力にまったく見合っていない」と発言した。さらに、国連を時代遅れで非効率な組織だと切り捨て、「私は7つの戦争を終わらせ、各国の指導者と直接対処してきた。合意の最終化を手伝うと、国連から電話がかかってきたことは一度もない。」と誇示した。
シートン・ホール大学外交・国際関係大学院のマーティン・S・エドワーズ准学部長(学務・学生担当)はIPSの取材に対し、こうした発言は「非効率の削減」や「多様性との闘い」を掲げながら、トランプ支持層に訴える刺激的な言葉で包まれた「疑わしい言説」だと述べた。
またエドワーズ氏は、外交問題を利用して、なお成果を示せていない国内政策から有権者の関心をそらす狙いもあると指摘した。実際、具体的なフォローアップ文書が国連事務総長のもとに届いていないことが、それを裏づけているという。大統領が最大限の要求を掲げる一方、最終的に得られる成果は限られる――そうしたパターンの繰り返しに当てはまる、と述べた。
ただし問題はそれにとどまらない。エドワーズ氏は、次の二点で深刻だと語る。① この方針は、米国の国連における影響力を高めるどころか、むしろ削り続ける。安定した外交関係は信頼性に基づくが、米国はその蓄えを浪費しており、空白には他国が入り込む。② これは有権者向けのSNS投稿としては響くかもしれないが、実務上は理にかなわない。ホワイトハウスが求めているのは、国連運営のあらゆる項目に対する「項目別拒否権(line-item veto:予算の個別項目ごとに拒否できる権限)」だ。しかし分担金はアラカルト・メニューではない、と同氏は述べた。
さらに、市民社会組織の世界連合CIVICUSの事務局長マンディープ・S・ティワナ氏はIPSの取材に対し、トランプ政権による国際機関からの離脱・後退は、第二次世界大戦の惨禍を乗り越えるため国連創設の枠組みを構想し、米国にニューディール政策をもたらしたフランクリン・D・ルーズベルト大統領の遺産への攻撃だと語った。
「影響を受けた国際機関の多くは、米国人の血と汗と涙によって築かれてきた。そこからの撤退は、彼らの犠牲への侮辱であり、平和、人権、気候変動、持続可能な開発をめぐる数十年の多国間協力を後退させる。」とティワナ氏は述べた。
一方、国連への攻撃は止む気配がない。
米国の国連大使マイク・ウォルツ氏は、ブライトバート・ニュースのインタビューで「国連の支出の約4分の1は米国が負担している。」と述べた。「資金は有効に使われているのか。いまはノーだ。本来の目的ではなく、いわゆる“woke”(進歩派的と批判される多様性・社会正義の政策を指す俗語)的なプロジェクトに使われている。国連が本来やるべきこと、トランプ大統領が求めること、私が求めること――平和に焦点を当てることだ」
歴史的に米国は国連最大の資金拠出国であり、通常予算の約22%、PKO(国連平和維持活動)予算では最大約28%を負担してきた。
それでも皮肉なことに、米国は最大の滞納国でもある。国連総会の第5委員会(行政・予算)によれば、加盟国が未払いとしている義務的分担金は、現行予算期間の総額35億ドルのうち18億7000万ドルに上る。
ニューヨーク選出で、かつて国連大使候補にも挙がったエリーズ・ステファニク前下院共和党会議議長は、「国連について米国人が見ているのは、腐敗し、機能不全で、麻痺した組織であり、憲章にうたわれた平和・安全保障・国際協力という創設原則よりも、官僚主義、手続き、外交上の体裁に縛られている」と述べた。
また国連への間接的な批判として、マルコ・ルビオ国務長官はこう述べた。「私たちが『国際システム』と呼ぶものは、透明性に欠ける国際機関が数百も乱立し、権限が重複し、活動も重複している。成果は乏しく、財務と倫理のガバナンスも不十分だ。」
ルビオ長官は、かつて有用な機能を果たした機関でさえ、非効率な官僚機構となり、政治化した活動の舞台となり、あるいは米国の国益に反する道具になってきたと述べた。さらに、「これらの機関は結果を出さないだけではない。問題に対処しようとする者の行動を妨げている。国際官僚機構に白紙小切手を切り続ける時代は終わった。」と宣言した。(原文へ)
INPS Japan/IPS UN Bureau Report
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【ロンドンIPS=アンドリュー・ファーミン】
衛星画像は、北ダルフール州エル・ファシールで遺体が山のように積み上げられ、集団埋葬や火葬を待っている様子を捉えている。即応支援部隊(RSF)の民兵は、自らの犯罪の規模を隠そうとしているという。RSFが11月にエル・ファシールを制圧して以降、市内では最大15万人の住民が行方不明のままだ。最も控えめな推計でも、6万人が死亡したとされる。アラブ系民兵であるRSFは、非アラブ系住民を都市から排除し、民族浄化を進めたとされる。今回の虐殺は、2023年4月に軍指導者同士の権力闘争をきっかけに始まった、RSFとスーダン国軍(SAF)の戦争における、最新の凄惨な局面である。
残虐行為は双方が行ってきた。処刑、超法規的殺害、性暴力などが報告されている。正確な数字の把握は難しいが、少なくとも15万人が殺害されたとの推計もある。国内避難民は約900万人に達し、さらに約400万人が国境を越えて逃れた。およそ2500万人が飢饉の危機に直面している。
市民社会や人道支援関係者は可能な限り対応しているが、支援に携わる人々自身も危険にさらされている。殺害や暴力、誘拐、拘束の脅威が常につきまとう。非常命令は、市民社会組織に官僚的な制約を課し、支援活動を妨げるだけでなく、集会・表現・移動の自由も制限している。部隊が支援物資の搬入を阻む例もある。
紛争の報道もまた、困難で危険を伴う。放送局や印刷設備などのメディアインフラの多くが破壊され、多くの新聞が発行停止に追い込まれた。さらに双方が記者を標的にしているため、多くが国外へ逃れざるを得なくなっている。大規模な偽情報キャンペーンも、現地の実態を見えにくくしている。その危険を象徴するのが、ザムザム避難民キャンプの報道官モハメド・ハミス・ドゥーダである。国際メディアに状況を伝えるためエル・ファシールに残っていたが、RSFが侵攻した際に行方を捜され、殺害された。
世界は目を背ける
スーダンは「忘れられた戦争」と呼ばれることがある。だが、より正確には、世界がそれを「無視することを選んでいる」と言うべきだ。そして、その状況は、いくつかの有力国にとって都合がよい。
アラブ首長国連邦(UAE)は、RSFの最大の支援国だと指摘されている。UAEは関与を否定し続けているが、UAEで製造された、あるいは同盟国からUAEに供給されたとみられる武器が、RSF支配から奪還された現場で見つかったと報じられている。こうした支援がなければ、RSFはすでに戦況で不利に追い込まれていた可能性がある。
近年、UAEは複数のアフリカ諸国で影響力の拡大を図ってきた。アフリカ各地で港湾整備を進め、紅海に面するスーダン沿岸にも港を建設する計画があるとされる。スーダンでは大規模な農業投資を行い、同国で採掘される金の多くがUAEに流れているとも報じられている。UAEは、人的犠牲の大きさにかかわらず、RSFが実権を握ることが影響力の確保と利益の維持につながると判断しているように見える。
これに対し、スーダン政府はロシアとの関係強化に動いている。スーダンがロシアに恒久的な紅海海軍基地の整備を認める可能性があるとも伝えられている。
UAEが国際的な圧力をほとんど受けないのは、英国や米国などUAEと緊密な西側諸国が、同国の役割を過小評価しているためだと指摘されている。英国政府は、供与した武器がRSFに移転されていることを認識しながら、UAEへの武器供給を続けているとされる。さらに内部告発者は、UAEを守るために、スーダンでジェノサイドが起きる可能性に関する警告がリスク評価から削除されたと主張している。欧州連合(EU)と英国は、エル・ファシールでの虐殺を受けてRSF幹部4人に制裁を科した。米国も追加制裁を検討していると報じられているが、措置はUAE政府の関係者には及んでいない。
英国がスーダン案件を主導する常任理事国である国連安全保障理事会も、機能不全が続いている。ロシアは、英国が提出する決議案については拒否権を行使すると示唆している。こうした中、英国は6月、非常任理事国として参加するアフリカ諸国から「主導役を引き継ぐ」との申し出を受けながら、これを拒否した。交渉の余地を広げ得た提案だったとみられる。
地域で影響力を持つ国としては、エジプトがスーダン政府を強く支持し、サウジアラビアも一定の支援姿勢を示している。エジプト、サウジ、UAE、米国は「クアッド」と呼ばれる枠組みで協議を行っている。利害は競合するが、9月には一時、希望が見えた。クアッドが「3カ月の人道停戦」と、その後の「9カ月での文民統治への移行」を含む計画を仲介したためである。双方は計画を受け入れたものの、RSFが戦闘を継続したため、スーダン政府は提案を拒否するに至った。
圧力と責任追及
戦闘停止が実現するかどうかは、米国の外交姿勢に左右される可能性がある。ドナルド・トランプ大統領は最近、紛争への関心を強めたように見える。11月にサウジの実力者ムハンマド・ビン・サルマン皇太子がホワイトハウスを訪問したことが、その背景にあるのかもしれない。
トランプ氏は、ノーベル平和賞を強く意識し、別の紛争を終結させたとアピールしたいのだろう。しかし、米政府がUAEに圧力をかける意思を示さない限り、進展は見込みにくい。圧力の手段としては、トランプ氏が他国との交渉で用いてきた関税がある。実際、現政権はUAEに対し、最も低い税率である10%の関税を適用しており、UAEに対して強い圧力をかけていないことを示している。
活動家たちは、紛争におけるUAEの役割により多くの注目を集めようとしている。分かりやすい焦点の一つがバスケットボールだ。米プロバスケットボール協会(NBA)はUAEと大規模で拡大傾向にあるスポンサー契約を結んでいる。活動家側は、こうした提携がUAEによる「スポーツウォッシング(スポーツを通じたイメージ向上)」の一部になっているとして、NBAに提携終了を求めている。この働きかけが、米国の政策課題の中でスーダンの優先度を引き上げる一助となる可能性がある。
国際社会には殺害を止める力がある。しかし、そのためにはまず、UAEと西側同盟国が結果として暴力を可能にしているという側面を認めなければならない。スーダン国内外の当事者は、狭い自己利益の計算を脇に置く必要がある。UAEとその同盟国、そしてクアッドの他の国々には、実効性のある停戦を仲介するため、より強い圧力をかけることが求められる。停戦を和平への第一歩と位置づけ、交戦当事者に対する影響力を用いて、合意を確実に履行させるべきである。(原文へ)
アンドリュー・ファーミンは、CIVICUSの編集主幹であり、CIVICUS Lensの共同ディレクター兼ライター、「State of Civil Society Report」の共同著者である。For interviews or more...
武装解除なき「戦後」:シリアのクルド勢力と、戦後政治の破綻
【ロンドンLondon Post=シャブナム・デルファニ】
クルド勢力ダマスカスの新たな統治当局と周辺諸国の関係をめぐっても、調整や接近の動きがみられる。こうした変化は、シリアの最も暴力的な局面が終わったかのような印象を強めている。
しかし、その見方は重要な現実を覆い隠す。シリアの内戦は一部地域では軍事的に区切りがついたとしても、政治的には決着していない。
この政治的な行き詰まりが最もはっきり表れているのが、シリア北部と北東部である。そこではクルド人主導の部隊が今も武装を維持し、戦闘態勢を解いていない。地域の政治的な位置づけも、依然として決まっていないままだ。
クルド人勢力が武装を続けているのは、特別な例外でも、理念の問題でもない。外国勢力の思惑がぶつかり合い、難しい政治的妥協が先送りされてきた結果として生まれた「戦後の不安定な状況」の当然の帰結である。
クルド人問題は、将来のシリアが話し合いによって多様な勢力を取り込む国になるのか、それとも力によって再び中央政府の支配下にまとめられるのかを占う重要な試金石となっている。同時にそれは、中東で外部勢力が進めてきた「安定化」がどこまで機能するのかという限界を示す事例でもある。
シリア戦争におけるクルド人の役割:周縁から中心へ
2011年以前、シリアのクルド人は政治の中心から外されていた。文化的な権利は十分に認められず、人によっては市民権すら与えられないなど、国の制度に実質的に参加できない状況に置かれていた。ところが、反政府蜂起と内戦によって各地で政府の支配が弱まると、この状況は一変する。クルド人地域には自ら統治を担う余地が生まれたが、それは同時に大きな危険も伴うものだった。
2012年、政府の統治がクルド人多数地域で後退すると、クルド側は空白を埋めるため素早く動いた。地域評議会や治安部隊がつくられ、やがて行政の仕組みも整えられていった。これは独立を目指す動きというより、地域社会が混乱の中で生き残るための統治体制づくりだった。さらに2013年以降、いわゆる「イスラム国(IS)」が急速に勢力を広げると、クルド側の支配はより強固になった。クルド民兵が、過激派勢力の進撃を地上で食い止められる数少ない勢力となったためである。
米国が主導した対IS作戦によって、クルド勢力(主にシリア民主軍=SDF)は、単なる地域の武装勢力から、作戦に欠かせない協力相手へと位置づけが変わった。クルドの戦闘員は地上戦の中心を担い、多くの犠牲を払いながら、シリア東部の広い地域で治安維持と支配の確保を担った。
しかし、この協力関係はあくまで軍事的な目的に限られていた。米国政府は当初から、クルド側の政治的な要求を支持することは避け、協力はIS掃討という対テロ作戦に限定されると強調していた。この線引きが、のちに大きな意味を持つことになる。
「ポストIS」シリア:政治移行の欠落
2019年、いわゆる「イスラム国(IS)」の領土支配は軍事的に崩壊した。これは戦争の大きな節目となったが、その一方で、戦後の政治体制をどう築くのかという計画がほとんど存在しないことも明らかになった。クルド側には、自分たちが戦いで果たした役割が、将来の政治的な発言力につながるとの期待があった。正式な約束があったわけではないが、多くの関係者がそう受け止めていた。
しかし、IS掃討作戦の終結とともに、国際社会の関与は急速に縮小した。クルド主導の行政は国際的な承認を得られないまま地域統治を続け、安全の保証がないまま国境の防衛も担うことになった。その結果、次第に不利な立場でダマスカスの中央政府との交渉に臨まざるを得なくなった。自治は実際には存在していても、法律上の裏付けはない。制度ではなく、武力によって維持されている「武装した自治」の状態である。
こうした状況は本質的に不安定である。短期的には武力が外部からの排除を抑えるが、長い目で見れば、かえってさらなる圧力を招きやすい。クルド側は分権的な枠組みの中でシリア国家の一部にとどまると繰り返し主張しているが、それでも分離独立を目指しているとの疑いを向けられやすい状況が続いている。
米国:戦術的協力と戦略的後退
政策面で、この帰結を形づくった最大の要因の一つが米国である。米国のシリア関与は、作戦効率の追求と戦略的ミニマリズムによって特徴づけられた。主要目的―ISの領土支配の破壊―は比較的低コストで達成した。しかし、避けたのは、シリアの「戦後政治の設計」というより複雑な課題だった。
とりわけ2019年以降、米国がシリアへの関与を段階的に縮小したことは、味方にも敵対勢力にもはっきりしたメッセージとなった。クルド勢力は、米軍の駐留が無条件のものではなく、状況次第でいつでも撤退し得ると理解した。
一方、トルコは、米国が強く反対しない姿勢を、自国の安全保障上の優先事項を事実上認めたものと受け止めた。またダマスカス政府とそれを支える国々は、譲歩しなくても、時間をかけて圧力を強めればクルド自治を弱体化させられると判断した。
こうした動きは、米国の中東政策が、紛争そのものを解決するよりも、危機を管理し拡大を防ぐことを優先してきた傾向を示している。シリアでも、ISの再興を防ぐための最小限の軍事的関与は続けながら、トルコとの対立や複雑な政治交渉への深い関与は避けるという姿勢が取られてきた。
その戦略コストは大きい。地域の協力相手に対する信頼性を損ない、シリアの長期的な帰結に対する米国の影響力も弱めた。
トルコと「クルド問題の地域化」
クルドの将来を最も大きく左右してきたのはトルコである。アンカラの対シリア・クルド政策は、国内のクルド問題と切り離せない。トルコ政府は、国境の南側にどのような形であれクルドの自治が成立すれば、たとえ穏健で調整的な政治路線であっても、自国の安全保障への直接の脅威とみなしてきた。
こうした認識が、北部シリアへの繰り返しの軍事介入につながった。その結果、支配地域は細かく分断され、住民の移動や住民構成の変化が起き、クルド側の行政運営も継続しにくくなった。これらの作戦は「対テロ」として正当化されてきたが、実際にはクルドの政治的な選択肢を狭め、自治の拡大に歯止めをかける効果を持った。
こうしてクルド問題は、シリア国内の統治課題にとどまらず、国境をまたぐ安全保障問題へと広がった。トルコの強い反対が外交的な解決の余地を狭め、クルド側にとって武装を維持することが、生き残るための現実的な選択肢になっている。
イスラエル、イラン、そしてシリア分断の構図
イスラエルは、クルド勢力とシリア中央政府との対立に直接関わっているわけではない。しかし、イスラエルが続けてきたイラン関連勢力への攻撃は、シリア政府が国内の統治を再びまとめ直す力を弱め、国内の分断状態を長引かせる結果をもたらしてきた。イスラエルにとって、シリアが分裂した状態にあることは、イランの地域での影響力を抑え、国境周辺での脅威を減らすことにもつながる。
イランの影響が及びにくいクルド支配地域は、この状況と結果的にかみ合う面がある。ただし、これはあくまで状況によるもので、シリア全体の長期的な安定には結びつきにくい。
一方、イランはクルド自治の広がりに強い警戒感を抱いている。自治が定着すれば、自らの影響力が制限されるだけでなく、シリア国内での物資や人員の移動にも支障が出る恐れがあるためだ。その結果、イスラエルがイランの影響力を抑えようとする動きと、イランがシリアでの立場を維持しようとする動きがぶつかり合い、包括的な政治解決は進まず、対立が続く状況が生まれている。
クルド統治:成果と限界
厳しい状況に置かれながらも、シリア北東部のクルド主導の行政は、国内の他の地域と比べて一定の成果を上げてきた。比較的安定した治安を保ち、多くの避難民を受け入れて管理し、宗派対立による暴力も抑えてきた。国家の制度が崩れた地域が多い戦後のシリアにおいて、こうした成果は決して小さくない。
しかし一方で、外部の支援への依存、経済的な孤立、そして法的な地位がはっきりしないことが、この統治体制の将来を不安定なものにしている。国際的な正式承認もなく、シリア国家の制度の中に組み込まれてもいないため、行政の基盤は脆いままだ。武力による抑止は制度の弱さを一時的に補うことはできても、政治的な正当性の代わりにはならない。
崩壊のリスク
クルド側の統治が崩れても、そこにシリア中央政府の実効支配がすぐ戻るとは限らない。むしろ、地域ごとに支配勢力が入り乱れ、武装勢力同士の争いが起き、治安の空白が生まれる可能性が高い。こうした状況は過去にも、過激派が勢力を立て直し、混乱が国境を越えて広がる土壌になってきた。
地域の安全を考えると、力ずくで再統合しても得られる利益より、統治の崩壊による混乱の方が大きくなる恐れがある。それでも現実的な解決策がないまま、このリスクは放置されたままである。
政策の含意:米国と欧州に突きつけられた課題
米国にとってクルド問題は、今の状況をそのまま管理し続けるのか、それとも将来を見据えて関与の仕方を見直すのかという選択を迫る課題である。安定につなげるには、シリアの主権を前提に、地方の自治をどこまで認めるのかという方針をはっきりさせ、クルド側とシリア中央政府双方と外交的な対話を進めることが欠かせない。
また米国は、トルコに対して今も一定の影響力を持っている。安全保障面での協力を通じて、シリアでの軍事行動を抑えるよう働きかけることができれば、停滞している交渉を再び動かすきっかけになる可能性がある。
欧州連合(EU)も、人道支援にとどまらず、政治面での関与を強める必要がある。EUは復興支援や関係正常化をめぐる議論で資金面の影響力を持っており、その支援を、多様な勢力が共存できる統治の仕組みづくりと結びつけることができる。欧州外交には、地域の安全保障対立から比較的距離を置きやすい立場を生かし、仲介役として動ける余地もある。
結論:武装による安定は、平和ではない
シリアでクルドの武装勢力が残っているのは、反抗心の表れではない。政治の場から十分に受け入れられてこなかったことの結果である。それは、戦場での勝ち負けを優先し、政治的な決着を先送りしてきた「戦後」のあり方を映している。
クルドの自治が正式に認められず、いつでも覆され得る不安定な状態のままである限り、武力はクルド側にとって最も重要なよりどころであり続ける。シリアの長期的な安定は、力で領土を取り戻すことではなく、地域ごとの統治の形を交渉によって国家の仕組みに組み込み、共存できる形に整えることにかかっている。
クルド問題は、シリアの将来を左右する重要な課題である。話し合いによる共存の道を選ぶのか、それとも力による統制に戻るのかが問われている。この問いに答えが出ない限り、武装は解かれず、シリアの平和は未完成のまま続く。(原文へ)
INPS Japan
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