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ホルムズ海峡―世界経済のボトルネック
【メルボルンLondon Post=マジット・カーン】
最も狭い地点でも、ホルムズ海峡の幅は英仏海峡をわずかに上回るにすぎない。北にはイランの岩がちな海岸線、南にはオマーンの乾いた海岸が延びる。有史以来の大半の時代、この海峡は単なる通過点にすぎなかった。船舶が別の目的地へ向かう途中で通り過ぎる場所だったのである。だが今日、ここは地球上で最も重要な水路となり、その封鎖は、アナリストらがすでに「1970年代の石油危機以来最大の世界的エネルギー供給混乱」と呼ぶ事態を引き起こしている。
ホルムズ海峡の封鎖は、1970年代以来で最大の原油供給ショックを招き、WTI原油価格は1バレル=100ドルを突破、ブレント原油も112ドルに達した。2026年2月下旬に米国がイランに対する軍事作戦を開始して以降、その影響は驚くべき速さで広がり、湾岸からマニラのガソリンスタンドへ、カタールのLNGターミナルからブリュッセルの企業経営陣にまで及んでいる。
海峡には一方通行の2つの航路が設けられており、1日あたり約2000万バレルの石油が通過する。これは、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、イラク、カタールなどから輸送される、世界の海上石油取引量のおよそ20%に当たる。世界の1日の石油供給の5分の1が、超大型タンカー2列がようやく通れるほどの狭い水路を流れている。この事実は、長年にわたり戦略家たちを不安にさせてきた。かつては理論上の脆弱性にとどまっていたものが、いまや現実の危機となっている。
今回の危機は、何の前触れもなく訪れたわけではない。ワシントン、テルアビブ、テヘランの緊張は長年にわたって高まり続け、2025年6月には12日間に及ぶ空爆の応酬も起きた。ジュネーブでの新たな核交渉が決裂すると、全面戦争への流れを食い止めることは難しくなった。
2026年2月28日、米国はイランを攻撃した。テヘランの対応は即座に示された。3月2日、イスラム革命防衛隊(IRGC)の司令官は国営メディアを通じてホルムズ海峡の封鎖を表明し、通航を試みるあらゆる船舶を攻撃すると警告した。
この宣言は、海運各社の一斉撤退を招いた。マースク、CMA CGM、ハパックロイドなどの大手コンテナ海運会社は、ホルムズ海峡および関連航路の通航停止を決めた。同時に、フーシ派が支配するイエメンは、イスラエルおよび紅海を航行する商船への攻撃再開を表明し、スエズ運河を通る船舶はアフリカ南端の喜望峰経由への迂回を余儀なくされた。その結果、輸送日数は数週間延び、海運コストも上昇している。
3月中旬以降、イランは商船に対して少なくとも21件の攻撃を行ったことが確認されており、タンカーの通航量は当初約70%減少し、最終的にはほぼゼロに近づいた。150隻を超える船舶が湾内の沖合で停泊したまま、乗組員は待機を続け、積み荷は行き場を失っている。3月27日には、IRGCがさらに事態をエスカレートさせ、米国、イスラエル、およびその同盟国の港に「向かう、またはそこから出る」すべての船舶に対し、海峡を閉鎖すると発表した。
その後の価格上昇の速さは驚異的だった。ブレント原油価格は2026年3月8日、4年ぶりに1バレル=100ドルを突破し、ピーク時には126ドルまで上昇した。その上昇ペースは、近年のどの紛争時をも上回った。米政府当局者やウォール街のアナリストたちは、原油価格が前例のない1バレル=200ドルに達する可能性まで検討し始めている。ゴールドマン・サックスは4月のWTI価格を105ドルと予測しており、オプション市場でも、数カ月前なら現実味がないと見られていたシナリオが織り込まれつつある。
しかし、この危機は単なる石油危機ではない。現代世界がこれまで経験したことのない規模の、より広範な商品市場の混乱である。ホルムズ海峡は事実上閉鎖されたままであり、石油やガスだけでなく、アルミニウム、肥料、硫黄、ナフサなどの世界供給にも影響を及ぼしている。
湾岸地域は世界の尿素のほぼ半分、アンモニアの30%を生産しており、世界の肥料輸送の約3分の1がホルムズ海峡を通過している。尿素価格は戦争開始以降50%上昇した。LNG供給の混乱は肥料生産にも打撃を与え、北半球の春の作付け期を脅かすとともに、2026年後半にかけて世界の食料価格を押し上げる可能性がある。
経済モデルが示す影響も深刻だ。2026年第2四半期にホルムズ海峡の閉鎖によって世界の石油供給の約20%が市場から失われた場合、WTI原油の平均価格は1バレル=98ドルまで上昇し、世界の実質GDP成長率は、その四半期だけで年率換算2.9ポイント押し下げられると見込まれている。封鎖が第3四半期まで続けば、影響はさらに深刻化する。
この危機の影響が最も深刻に表れているのはアジアである。2024年には、ホルムズ海峡を通過した原油・コンデンセート輸送量の推計84%がアジア市場向けだった。中国も、自国の石油の3分の1をこの海峡経由で受け取っていた。その依存の代償が、いまアジア全域で現実のものとなっている。
影響は世界中に及んでいるが、とりわけ中東産石油への依存度が極めて高いアジアでは、この戦争が深刻なエネルギー不安を招いている。各国政府は対応に追われているものの、短期的な打開策をほとんど持ち合わせていない。バングラデシュでは、新たに発足した政権が大学を閉鎖し、石油備蓄施設の管理を軍に委ねた。インドでは、燃料価格をめぐる全国的な抗議行動が再燃し始めている。
フィリピンでは、ディーゼル価格がほぼ倍増した。紛争前は1リットルあたり52~53フィリピン・ペソ程度だったが、一部地域ではほぼ100ペソにまで跳ね上がり、物流網と公共交通部門に深刻な打撃を与えている。
台湾は、とりわけ深刻な脆弱性に直面している。世界的な半導体生産拠点である台湾は、ガス供給があと11日分しかないと報告した。世界のテクノロジー供給網を支える半導体工場を抱えるこの島にとって、これは単なるエネルギー危機ではない。現代世界のデジタル基盤そのものを揺るがす脅威である。
LNGへの影響はとりわけ深刻だ。石油には限られてはいるがパイプラインによる代替ルートがある一方、カタールのLNG輸出の約93%、UAEのLNG輸出の96%はホルムズ海峡を通過しており、これは世界のLNG取引量の19%を占める。世界のLNG供給は1日あたり3億立方メートル以上減少する見通しで、これは2021年にノルド・ストリームを通じて輸送された平均ガス量の2倍に相当する。
サウジアラビアとUAEはいずれもホルムズ海峡を迂回するパイプライン網を保有しているが、両国を合わせた迂回能力は日量350万~550万バレルにとどまる。一定の代替にはなるものの、ホルムズ海峡全体の輸送量を埋め合わせるには到底足りない。サウジ当局は原油輸出の一部を紅海沿岸のヤンブー港経由に切り替え、OPECプラスも追加増産を約束したが、規模からみて十分な解決策とは言えない。
イランは独自の代替航路も設けた。ララク島南側の主航路ではなく、同島北側に新たな輸送ルートを設定したのである。ある船舶はこのイラン航路の通航に200万ドルを支払ったと報じられ、その料金は中国元で革命防衛隊に支払われたという。これは異例の展開である。かつて世界が国際公共財の一部とみなしていた水路に、事実上、通行料を強制徴収する新ルートが出現したことになる。
各国は戦略石油備蓄の放出に踏み切り、サウジアラビアとUAEは海峡を迂回するパイプライン経由での原油輸送拡大を急いでいる。米国を含む各国政府も、価格抑制のため、過去最大規模の備蓄原油放出を打ち出した。だが、備蓄は本質的に有限である。石油業界幹部やアナリストたちは、4月中旬までにホルムズ海峡が再開されなければ、供給混乱はさらに深刻化すると警告している。
湾内に足止めされている一隻一隻のタンカーの背後には、極めて複雑な地政学的計算がある。イランは衝動的にホルムズ海峡を封鎖したのではない。イラン指導部が長年、自らの「切り札」と位置づけてきた手段――すなわち、ワシントンやテルアビブに1発のミサイルも撃ち込むことなく、世界のエネルギー市場を麻痺させる能力――を行使しているのである。
ホルムズ海峡の封鎖が過去の石油供給混乱と異なるのは、その影響範囲の広さにある。湾岸地域からの石油輸出が完全に止まれば、世界の石油供給のおよそ20%が市場から消えることになり、その約80%はアジア向けである。
一方、ロシアは思いがけず有利な立場に立っている。この紛争は、原油市場におけるロシアの競争力を実質的に高めている。中東産原油が物流面で混乱に直面するなか、インドと中国はいずれも、ロシア産原油への依存を深める強い誘因を持つことになった。
3月29日には、パキスタンがエジプト、サウジアラビア、トルコとの外交会合を開き、海峡の再開について協議した。これは、この戦争を始めた当事国ではない国々までもが、その経済的打撃の拡大を抑えようと動いていることを示すものだ。米軍は3月19日に海峡再開に向けた作戦を開始したが、3月30日時点でも通航の混乱はなお深刻なままである。
30人を超える石油・ガストレーダー、企業幹部、ブローカー、海運関係者、顧問らとの対話で、繰り返し聞かれたのは、ひとつの認識だった。すなわち、世界はいまだこの事態の深刻さを十分に理解していない、ということである。多くが1970年代の石油危機との類似を指摘し、ホルムズ海峡の封鎖が長引けば、さらに大きな危機を招くと警告した。
ホルムズ海峡は、単なる航路以上の意味を持つ存在であり続けてきた。それは、集中と依存、そして途切れることのない輸送を前提に築かれてきた世界のエネルギー体制を象徴する場所である。その体制はいま、自然災害ではなく、人間の意図的な選択によって壊れつつある。いま世界に問われているのは、単にこの水路をどう再開するかではない。わずか21マイルの係争水域に世界経済の命運を委ねるような仕組みから、何かを学んできたのかどうかである。
イランが海峡で海運を脅かす意思と能力を保ち続ける日々は、世界をより深刻な経済的損害へと近づけていく。時間は刻々と過ぎている。マニラのガソリンスタンドの行列、カシミールの空になったガスボンベ、シカゴの商品先物市場の画面――世界はいま、依存の代償が現実のものとなっていく光景を見つめている。(原文へ)
INPS Japan
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日本とカザフスタンが接近―イラン危機がエネルギーと安全保障の優先課題を再編
イラン情勢の不安定化によって、日本の中東産原油への依存が改めて浮き彫りになるなか、日本はより強靱な供給網、代替的なエネルギールート、そして核軍縮をめぐる協力の強化を求めて、カザフスタンとの関係を深めている。
【東京INPS Japan=浅霧勝浩】
イランを巡る緊張が深まり、世界のエネルギー市場に不透明感が広がるなか、日本は改めて、自国が抱える構造的な弱点に直面している。中東産原油への高い依存である。|英語版|
日本は長年にわたり、戦争や対立、混乱に繰り返し揺さぶられてきた地域から原油を輸入してきた。ホルムズ海峡とその周辺海域の安定が再び脅かされるなか、東京は供給源と輸送ルートの双方を多角化する動きを加速させている。そのなかで、カザフスタンはますます重要な協力相手として浮上している。
もっとも、日本とカザフスタンの関係強化は、石油、ウラン、物流だけにとどまらない。そこには、より深い歴史的・倫理的な次元がある。両国はいずれも核による被害の記憶を抱え、その記憶を対話、協力、そして平和を訴える基盤へと転化しようとしてきた。
日本が中央アジアへの関心を強めたのは、今回のイラン危機が直接のきっかけではない。2025年12月、日本は東京で「中央アジア+日本」首脳会合を開催し、「東京宣言」を採択した。そこでは、重要鉱物の供給網強化と輸送ルートの多角化が戦略的優先課題として打ち出された。
その枠組みは、その後さらに切迫した意味を帯びるようになった。
その重要な要素の一つが、トランス・カスピ海国際輸送回廊、いわゆるミドル・コリドーである。ロシアを経由せずに中央アジアと欧州を結ぶこのルートは、エネルギーや戦略物資の新たな輸送路として注目を集めている。戦争、制裁、海上輸送の混乱、大国間競争の激化といった時代にあって、日本にとってこのような回廊の重要性は一段と高まっている。
その中核に位置するのがカザフスタンである。
日本のエネルギー権益はすでにカスピ海地域に及んでいる。日本企業INPEXは、カザフスタンのカシャガン油田やアゼルバイジャンのACG油田など、主要な地域油田に権益を保有している。これらの油田から産出される原油は、日本にとって中東産原油の代替供給源となり得る。また、カスピ海や地中海を経由するルートを利用すれば、ホルムズ海峡を回避することも可能だが、その分、輸送日数は延び、輸送コストも上昇する。
これは、日本の発想が変わりつつあることを示している。多角化とは、もはや単に新たな供給国を探すことではない。貿易の地理的構造そのものに潜む脆弱性を減らすことでもある。
それでもなお、エネルギーだけでは日本とカザフスタンの関係の特質は説明しきれない。
この関係に独特の深みを与えているのは、核被害という共通の歴史的経験である。カザフスタンは旧ソ連時代、セミパラチンスク核実験場で行われた456回の核実験による深刻な影響を受けた。日本は、戦時下で原子爆弾投下を受けた唯一の国であり、広島と長崎は、核兵器がもたらす壊滅的な人的被害の象徴であり続けている。
両者の歴史は異なる。だが、そこから生まれた倫理的な語彙には通じ合うものがある。
核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)、創価学会インタナショナル(SGI)、広島・長崎の被爆者であるヒバクシャを含む市民社会の担い手たちと協力し、核兵器と核実験がもたらす人道的帰結への関心を喚起してきた。会議、展示会、証言活動を通じて、こうした経験は国際的な議論のなかで可視化され続けている。とりわけ、核をめぐる議論が抑止理論や地政学的対立へと矮小化されがちな時代にあって、その意義は大きい。
ここで重要になるのが、カザフスタン外交における「対話」の側面である。
カザフスタンは、2003年からアスタナで開催してきた世界伝統宗教リーダー会議を通じて、単なる資源供給国や通過国ではなく、政治、宗教、文明の分断を越える対話の結節点として自らを位置づけてきた。この取り組みは、非核化、仲介、共生を柱とする同国の外交的アイデンティティの一部となっている。
日本にとって、これはカザフスタンの重要性にもう一つの層を加えるものである。カザフスタンは石油、ウラン、輸送ルートを持つ国であるだけでなく、自らの苦難の歴史を、平和、信頼、人間の安全保障をめぐる外交へと転化してきた国家でもある。
こうしたアプローチは、複数の危機が重なり合う現代世界の現実と響き合っている。
カザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領が警告しているように、核リスクは再び高まっている。同時に、エネルギー不安、供給網の脆弱性、地政学的分断も深刻化している。これらはもはや別個の政策課題ではない。相互に絡み合う問題となっている。
この文脈のなかで、日本とカザフスタンの関係は、より広い示唆を持つ。
国家間の協力は、経済的・戦略的利益だけによって形づくられる必要はない。そこには、共有された記憶、道義的目的、そして対話への意志も織り込まれ得る。実務面では、それはエネルギーと輸送をめぐる協力である。政治面では、より安定し、多角的な地域秩序への貢献である。人道面では、安全保障を人間的帰結から切り離してはならないという主張をつなぎとめる営みである。
もちろん、この関係が限界や矛盾を免れているわけではない。代替ルートはコストが高い。国家行動はいまなお戦略計算に大きく左右される。対話だけで戦争の圧力を打ち消すこともできない。
それでも、分断、威圧、核不安が広がる国際環境のなかで、日本とカザフスタンの接近は、単なる戦術的な調整以上の意味を持っている。それは、現実主義と責任を結びつけようとする試みでもある。
だからこそ、この関係は注目に値する。
多くの国が、より狭く、より内向きな国益の定義へと後退しつつある時代にあって、日本とカザフスタンは、資源安全保障と外交、記憶と戦略、国家の強靱性と平和への模索を結びつけるパートナーシップを築こうとしている。
INPS Japan
Inter Press Service (IPS), American Television Network(ATN),...
国連報告書、詐欺拠点に人身取引された人々への重大虐待を詳述
【ジュネーブIPS=国連人権高等弁務官事務所】
国連人権高等弁務官事務所が2月23日に公表した報告書は、世界各地の数十カ国から、主に東南アジアに定着した詐欺拠点へ人身取引された数十万人の被害実態を、生存者の証言とともに詳細に記録した。詐欺拠点は東南アジアにとどまらず、さらに広い地域へ拡散しているとしている。
報告書は、拷問やその他の虐待、性的虐待・搾取、強制中絶、食料の剥奪、独房拘禁など、重大な人権侵害を列挙した。生存者はまた、国境当局が勧誘に加担した事例や、警察による脅迫・恐喝についても証言している。
衛星画像と現地報告によれば、詐欺拠点のほぼ4分の3はメコン地域に集中している。活動は太平洋島嶼国の一部や南アジア、湾岸諸国、西アフリカ、米州にも広がっているという。
「詐欺拠点に置かれた人々が受ける扱いは憂慮すべきものだ」と報告書は結論づけた。報告書は、バングラデシュ、中国、インド、ミャンマー、スリランカ、南アフリカ、タイ、ベトナム、ジンバブエ出身の生存者への聞き取りに基づく。生存者は2021年から2025年にかけて、カンボジア、ラオス、ミャンマー、フィリピン、アラブ首長国連邦(UAE)の詐欺拠点へ人身取引された。さらに、警察・国境当局者や市民社会関係者など、実態を把握する立場の関係者にも聞き取りを行った。
被害者は、虚偽の条件で「詐欺の仕事」に誘い込まれた後、なりすまし詐欺、オンライン恐喝、金融詐欺、ロマンス詐欺などのオンライン詐欺を実行するよう強要されたと証言した。
報告書によれば、こうした運営は移転や形態の変更を繰り返すなど拠点は移転し、運営は姿を変えるという。生存者の一部は、500エーカーを超える敷地に要塞化された多層建築が立ち並び、有刺鉄線を張り巡らせた高い塀で囲まれ、武装した制服警備員が巡回する―「自己完結した町」のような巨大複合施設に拘束されていたと語った。
報告書は、スリランカ出身の被害者が「月間ノルマを達成できない者は、水を張った容器に何時間も沈められる『水の牢獄(water prisons)』と呼ばれる罰を受けた」と証言したと紹介している。今回の報告書は、国連人権高等弁務官事務所が2023年に公表した報告書の更新版である。
報告書はさらに、服従を確保するため、他者への重大な虐待を目撃させたり、場合によっては虐待を加えるよう命じたりしたとする証言を紹介した。バングラデシュ出身の被害者は、他の労働者を殴るよう命令されたと証言し、ガーナ出身の被害者は、友人が目の前で殴打されるのを強いられたと語った。
脱出を試みて命を落とした例もある。報告書は、複合施設からの逃走中にバルコニーや屋根から転落した事例を挙げている。
救出の試みが失敗した場合の懲罰も苛烈だったという。ベトナム出身の被害者は、姉の逃走を手助けしようとした妹が殴打され、スタンガンで感電させられ、食料のない部屋に7日間閉じ込められたと証言した。
報告書はまた、加害者が家族にビデオ通話をかけ、虐待の様子を見せつけることで、法外な身代金の支払いを迫った事例も確認したとしている。
被害者の多くは「賃金は支払われた」と述べたが、聞き取り対象者全員が、さまざまな名目で控除が段階的に増やされたと証言し、約束された給与を全額受け取った者はいなかった。タイ出身の被害者は、罰金や暴行、さらにはより過酷な環境の別拠点へ「売られる」ことを避けるため、1日あたり約9,500米ドルという高額な詐欺ノルマを課されたと証言した。
国連人権高等弁務官のフォルカー・テュルク氏は、「虐待の実態は衝撃的で、胸が痛む」と述べた。そのうえで、「本来保障されるべき保護、ケア、リハビリテーション、そして正義と救済への道筋が与えられるどころか、被害者はしばしば疑われ、烙印を押され、さらなる処罰に直面している。」と強調した。
テュルク氏は、対策は人権法と国際基準に基づくべきだとしたうえで、「とりわけ、人身取引対策法制の中で『強制された犯罪行為(forced criminality)』を明確に認識し、人身取引被害者に対する『不処罰原則(non-punishment principle)』を保障することが決定的に重要だ」と述べた。
またテュルク氏は、被害者には「連携の取れた、迅速で、安全かつ効果的な救出作戦」が必要だとし、送還禁止原則(ノン・ルフールマン)の尊重に加え、拷問やトラウマのリハビリテーション、報復や再被害(再度の人身取引)のリスクに対処する支援体制の整備も求めた。
報告書は、行動科学とシステム分析を独自に適用し、なぜ人々が詐欺拠点への詐欺的な勧誘に繰り返し巻き込まれるのかを検討するとともに、人権に根ざした実効的な予防策を提案している。
テュルク氏は、安全な労働移住のルートをより利用しやすくする必要があると述べ、オンライン求人情報の検証や、疑わしい勧誘パターンの把握など、募集過程に対する実効的な監督を求めた。
さらに同氏は、各国政府や関係主体は、被害リスクが高いとみられる人々への働きかけにあたり、生存者主導のグループなど、信頼される地域に根差した主体と連携すべきだとした。啓発活動は、具体的で分かりやすく、信頼できるメディアを通じて提供される必要があるという。
テュルク氏はまた、巨額の利益を生む詐欺産業に深く根付いた腐敗に対し、各国と地域機関が実効的に取り組み、背後で動く犯罪シンジケートを訴追するよう促した。併せて、独立メディア、人権擁護者、市民社会組織が妨害を受けることなく人身取引対策に取り組める環境の重要性も改めて強調した。(原文へ)
INPS Japan/IPS UN Bureau Report
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待つだけではなく、希望を行動へ―緊張に揺れる世界における宗教の役割
宗教はこれまで、暴力や分断を正当化するために利用されてきた側面がある。一方で、対話を促し、紛争解決に向けて社会がより主体的な役割を果たすよう後押しする「平和の力」にもなりうる。
【メキシコシティーINPS Japan=ギレルモ・アラヤ・アラニス】
ロシアとウクライナの紛争に加え、米国、イスラエル、イランを巻き込む戦争が続くなか、世界は核紛争の危険が一段と高まる新たな地球規模対立の時代に入りつつあるように見える。こうした状況を形づくるのは、政治、戦略、経済だけではない。目立ちにくいながらも、なお重要な要素として、宗教とその平和構築における役割がある。|英語版|スペイン語|
かつて、とりわけ中世には、戦争が神の名のもとに正当化されることがあった。しかし今日、宗教は、いっそう世俗化した世界の中で、以前ほど前面に出ることはなくとも、より融和的な役割を果たしている。政治的意思決定が思いやりや他者への敬意から切り離されているかのように映る時代だからこそ、その意味は小さくない。
宗教は時に、攻撃や自衛を正当化する口実として利用されてきた。だが同時に、対話を促し、再軍備が進むなかで、指導者に紛争解決を迫るよう社会を後押しする平和の力にもなりうる。
こうした文脈の中で、政治神学の専門家であり、メキシコ市のイベロアメリカーナ大学教授を務めるホセ・ソルス氏は、世界が冷戦を思わせる緊張状態へと戻りつつあると警鐘を鳴らした。INPS Japanの取材に応じた同氏は、宗教が国際政治に及ぼす影響は弱まっているものの、社会の中での存在感はなお大きく、平和のメッセージはいまも多くの信者に届きうると語った。
「私たちは受け身で待つのではなく、希望を行動へと移さなければなりません。平和を築くことは、私たち自身の務めです。私たちは、ともすれば政治家や外交官のような誰かがそれを担ってくれると考えがちですが、それは誤りです。平和は共生から、人と人との関係から始まります。だからこそ、それは教会の責任でもあるのです。」
平和のための対話を促す重要性
国連によれば、世界人口はすでに80億人を超えている。そのうち、約20億人がイスラム教徒であり、キリスト教徒は約24億人、そのうち14億人がカトリック信徒である。さらに、仏教徒は5億人、ユダヤ教徒は1500万人を超える。こうした数字は、宗教が国際社会においてなお大きな影響力を持っていることを示している。
その影響力は各国の政治や社会のあり方にも表れている。イランは自らをイスラム共和国と位置づけ、イスラエルでは一部の政治運動が宗教シオニズムの影響を受けている。米国でも、大統領就任宣誓の際に聖書の上に手を置く慣行が、いまなお強い象徴性を帯びている。
19世紀後半以降、1893年のシカゴ世界宗教会議に代表される宗教間対話の試みは、主要な宗教伝統の指導者たちを集め、諸民族と諸文化のあいだの相互理解を促しながら、平和的共存の基盤を築いてきた。
カトリック世界でも近年、教皇庁生命アカデミーが「平和のための科学者たち(Scientists for Peace)」という国際的アピールを打ち出し、ドローンや高度化する兵器が戦場に投入される時代にあって、科学技術は戦争ではなく平和と人間の尊厳のために用いられるべきだと訴えている。昨年10月にはローマで、聖エジディオ共同体主催の「平和のための対話と祈りの国際会議」が開かれ、司祭、ラビ、イマーム、僧侶に加え、創価学会インタナショナル(SGI)代表を含む多様な宗教リーダーと市民社会の代表が参加した。恐怖やナショナリズム、戦争が色濃く影を落とす時代にあって、信仰を分断ではなく共生と平和への責任へどう結びつけるかが、あらためて問われた。
核再軍備と新たな課題―人工知能
高まりつつある核の脅威について、ソルス氏は、大量破壊兵器をめぐる再軍備の進行が新たな危険を招いていると警告する。その一つが人工知能(AI)の利用である。AIシステムは自律的に作動するため、事前に組み込まれた条件の枠を超える状況に適切に対応できない恐れがあるという。
「私たちはAIに多くのアルゴリズムを組み込みました。しかし、『注意せよ。この場合には実行してはならない。』という一文を入れ忘れてしまった。そうなれば、人間の関与なしに核戦争が始まる可能性もあるのです。」
ソルス氏はさらに、国際政治の中で帝国主義的な言説が再び力を持ちつつあり、包摂的な視点を押しのけ、武力紛争がもたらす人間の犠牲に目を向けることなく、「強者の論理」を正当化しようとしていると警告した。
「一人の人間の人生を築くには何年もかかります。しかし、それを壊すのは一瞬です。」
通常兵器の軍縮で教会が果たす役割
軍縮を求める宗教的な取り組みは、より身近な地域社会の課題にも向き合っている。そこでは、宗教機関に寄せられる市民の信頼が重要な基盤となっている。
市民社会組織「武力紛争位置・事象データ計画(ACLED)」がメキシコを世界で4番目に危険な国に位置づけるなか、同国のカトリック教会はクラウディア・シェインバウム政権と連携し、「武装解除に賛成、平和に賛成(Sí al desarme, sí a...
