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米国とサウジアラビア、民生用原子力協力協定に署名―ただし実現には「一つの大きな条件」

【国連本部 IPS=マクシミリアン・マラウィスタ】 7月22日(水)、米国のクリス・ライト・エネルギー長官と、サウジアラビアのアブドルアジーズ・ビン・サルマン・ビン・アブドルアジーズ・エネルギー相(王族)は、民生用原子力協力協定(通称「123協定」)およびそれに付随する二国間保障措置協定に署名した。これは米国エネルギー省およびサウジアラビア・エネルギー省が発表した。|英語版| この協定は米議会による審査に付される予定だが、ドナルド・トランプ大統領は、米国の原子力技術をサウジアラビアに供与する条件として、同国がイスラエルとの国交正常化を実現することを求めている。 しかし、この条件を満たすのは容易ではないとみられる。サウジアラビアの事実上の最高指導者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、「東エルサレムを首都とするパレスチナ国家が樹立されるまではイスラエルとの国交正常化は行わない。」との強硬な立場を繰り返し表明しているからである。 米政府は、この二つの協定について、「核不拡散を含む複数の優先的な経済・戦略目標を推進する、数十年に及ぶ数十億ドル規模のパートナーシップの法的基盤を築くもの」と説明している。協定の有効期間は30年間である。 「123協定」は、1954年米原子力法(Atomic Energy Act)第123条に由来する名称であり、米国と協力相手国との長期的な民生用原子力協力の法的枠組みを定めるものである。 原子炉や核燃料、その他主要な原子力関連機器など、米国由来の原子力資材を相手国へ輸出するためには、この123協定の締結が法的に義務付けられている。 サウジアラビアと米国の今回の原子力協力は、単なるエネルギー協定にとどまらない。それは、同国の石油依存の在り方や、中東における次世代クリーンエネルギー基盤の構築をめぐる地政学的役割を大きく変える可能性を秘めている。 また、原子力発電の導入によって、これまで国内で消費していた石油・天然ガスを輸出へ振り向けられる可能性もある。 2023年、サウジアラビアは石油および石油製品を2,274万4,529テラジュール(TJ)生産し、このうち国内で640万TJを消費した。これは生産量の約28%に相当する。 同年には264万348TJの天然ガスも生産したが、国内で生産した天然ガスはすべて国内で消費された。参考までに、3,600TJは約1テラワット時(TWh)のエネルギーに相当する。 これを原油換算(boe:Barrels of Oil Equivalent)で見ると、サウジアラビアは2023年に約37億2千万バレル相当の石油エネルギーを生産し、そのうち約10億5千万バレル相当を国内で消費した。 つまり、エネルギー量ベースでは、生産された石油・石油製品の約72%が国内で消費されず、輸出やその他の用途に回されていることになる。 サウジアラビアは世界第2位または第3位の原油輸出国であり、世界の石油供給量の約11%を生産している。 国際エネルギー機関(IEA)によると、サウジアラビアの最終エネルギー消費の内訳は、運輸部門が約30%で最も多く、次いで非エネルギー用途が29.7%、産業部門が19.9%、商業・公共サービス部門が11%となっている。 サウジアラビアがどの程度の速度で化石燃料依存から脱却できるかは依然として不透明である。しかし、原子力発電の導入によって国内の石油消費を徐々に削減し、その分を輸出へ回せる可能性がある。 米エネルギー情報局(EIA)によれば、原子炉は、認可や規制当局による承認を取得した後でも、建設完了まで通常5年以上を要する。 サウジアラビア初の原子力発電所は、約140万キロワット(1.4ギガワット)の原子炉2基で構成され、総発電容量は280万キロワット(2.8ギガワット)となる見込みである。 設備利用率を90%と仮定した場合、年間発電量は約221億キロワット時(22.1TWh)となり、サウジアラビアの年間総発電量431.9TWhの約5%を賄う計算になる。 この最初の原子力発電所が国内電力供給に占める割合は約5%にすぎないものの、同国の国家開発戦略「ビジョン2030」の柱の一つである国内炭化水素消費の削減に向けた重要な第一歩となるだろう。 INPS Japan/ IPS...

「危険シーズン」を乗り切るための「セーフティー・チェーン」―偽情報から身を守るには

【ミラノINPS Japan/CitiPlat(気候変動と持続可能な世界のための市民プラットフォーム)編集部】 北北米では今、気候変動の影響が最も深刻になる5月から10月までの「危険シーズン(Danger Season)」が、2026年も本格的に始まっている。この時期には、ソーシャルメディアをはじめとするさまざまなプラットフォームで、偽情報が一段と増えることが予想される。|英語版| だからこそ、私が「セーフティー・チェーン」と呼ぶ一連のつながりを維持することが、これまで以上に重要になる。この連鎖がしっかり機能していれば、気候変動によって深刻化し、私たちの身に迫る可能性のある異常気象や災害を正しく理解し、それに備え、被害を受けた場合にも、できるだけ迅速かつ人道的に復旧するために必要な情報を得ることができる。 しかし残念ながら、トランプ政権、とりわけ行政管理予算局(OMB)のラッセル・ヴォート局長は、予算削減、科学者の解雇、監督の拒否、説明責任の回避、さらには露骨な偽情報の拡散を通じて、このセーフティー・チェーンのほぼすべての環を弱体化させてきた。 気候変動の影響が、反科学的な政権、そして私たちに経済的な打撃を与えるその政策と重なり合うことで、「危険シーズン」は三重に危険な時期となっている。 「セーフティー・チェーン」とは何か 「セーフティー・チェーン」とは、危険シーズンや気候変動によって深刻化する災害から私たちを守る、一連のつながりを指す私の呼び方である。 その出発点となるのは正確なデータである。それによって、明確で理解しやすい気象予報が可能になる。そして、その予報が信頼できる発信者を通じて伝えられることで、人々の理解が深まり、個人や地域社会が適切な備えを行い、必要な場合には効果的に対応し、復旧することができる。 誰がセーフティー・チェーンを壊しているのか トランプ政権は、気候システムを理解するうえで不可欠なデータ収集や研究支援を停止してきた。こうした連邦政府による気候研究への打撃は、結果として気象予報の精度や基盤をも損なう。 さらに事態を悪化させているのが、政権自らが気候科学に関する偽情報を積極的に広め、化石燃料業界が長年用いてきた主張を繰り返していることである。 トランプ大統領自身も、前政権時代にハリケーンの進路予測をめぐる自らの誤りを訂正することを拒み、いわゆる「シャーピーゲート(SharpieGate)」では、政権側に自らの主張を擁護させた。ハリケーンの進路について誤った情報を発信することは、気象予報士を含む科学コミュニケーターが市民に正確な情報を伝える力を損なう。 一方、連邦緊急事態管理庁(FEMA)は、トランプ政権下のこの15カ月間、激しい混乱に見舞われてきた。経験と専門性を備えた指導部が失われ、その後を十分な資質を欠く指導部が担ったことで、人材流出が進み、FEMAの災害対応能力に疑問が投げかけられている。 トランプ大統領は、民主党支持の強い「ブルー・ステート」に対する災害支援を遅らせたり拒否したりしてきたほか、地域社会の防災・減災を支えるFEMAの取り組みを廃止しようともしてきた。その一つが、「強靱なインフラと地域社会の構築(Building Resilient Infrastructure and Communities=BRIC)」プログラムである。 しかし、連邦裁判所が二度にわたり命令を出した結果、国土安全保障省(DHS)はようやく、インフラ投資・雇用法とFEMAの災害救援基金(DRF)の留保分から確保された46億ドルのうち、10億ドルについて資金提供の通知を出した。 FEMAの災害対応資金は、危険シーズンが始まる前から危険なほど低い水準にあったが、議会がDHSの政府機関閉鎖を終結させたことで、切実に必要とされていた追加資金がようやく確保された。 今年の大西洋ハリケーンシーズンは平年よりやや穏やかになると予想されているものの、DRFについては、シーズン途中で議会による追加予算措置が必要になる可能性が高い。 その一方で、FEMA長官代行を務めたキャメロン・ハミルトン氏が、現在、同庁長官候補として再び指名されている。ハミルトン氏は、法律で求められる資格を満たしておらず、ソーシャルメディア上でFEMAに関する誤情報を共有したことも自ら認めている。 トランプ政権による数千人規模の人員削減、不安定な指導体制、資源の削減によって、連邦政府の緊急事態管理能力は弱体化してきた。その結果、FEMAは、頻度と強度を増す異常気象や、気候変動によって深刻化する災害に対応する態勢を十分に整えにくくなっている。 偽情報はどのようにセーフティー・チェーンを壊すのか 気候変動によって深刻化した異常気象や災害が発生する際、化石燃料企業、それと連携する政治勢力、関連するメディアや擁護団体のネットワークは、市民の理解や公的機関への信頼、気候対策や災害対応への支持を損なう偽情報を繰り返し拡散、増幅してきた。 こうした偽情報は、大きく五つの類型に分けることができる。 1.原因の歪曲 例えば、山火事の原因を事実に反して放火だとするソーシャルメディア上の投稿は、正確なデータ、予報、そして状況の理解を結ぶ連鎖を断ち切る。 その結果、人々が危険を過小評価したり、逆に過剰反応したりする可能性がある。 2.責任の所在の歪曲 異常気象や災害を深刻化させる気候変動の役割が認識されなければ、化石燃料業界など、気候変動を主に引き起こしてきた企業に十分な責任を問うことができなくなる。 その結果、責任を負うべき相手を取り違え、問題の根本原因に十分対処できなくなる。 3.信頼への攻撃「政府機関や当局者は何も分かっていない」「政府は私たちのことなど気にかけていない」といった主張は、信頼を築き、人々の適切な備えにつなげる情報伝達を損なう。その結果、人々が警告を無視したり、行動を遅らせたりする恐れがある。例えば、ハリケーンの接近を前に避難を拒むといった事態につながりかねない。その一方で、トランプ政権の下では、政府が実際に何をしているのか、あるいはどのような意図で行動しているのかを見極めること自体が、ますます難しくなっている。 4.誤った安心感を与える情報一方、人々に「危険はない」と思わせるような誤った安心感は、状況の理解と、備えや対応とのつながりを断ち切る。当局やメディアから「緊急事態ではない」と受け取れる情報が発信されれば、人々は避難を遅らせたり、必要な予防措置を取る機会を逃したりする可能性がある。重要なのは、こうした誤った安心感が、必ずしも偽情報やプロパガンダによって生み出されるとは限らないという点である。例えば、危険な熱波のさなかに、人々が浜辺で楽しんでいる映像を流すだけでも、「安全だ」という誤った印象を与えかねない。 5.論点のすり替え「論点のすり替え」とは、悪意ある主体が、災害警報や防災、災害対応を、選挙や移民といった社会的に対立の激しい問題と意図的に結び付け、有害なメッセージを持ち込むことである。その標的となった人々は、避難所や支援サービスの利用を避けたり、公的機関による公式の情報提供を敬遠したりする恐れがある。 私たちに何ができるのか 第一に、ヒポクラテスの誓いにならい、「まず害を与えない」ことを心がけてほしい。特にソーシャルメディアで情報を共有する前には、情報源を確認することが重要である。検索や投稿日時の確認、情報の出所をたどるために利用できるさまざまなツールがある。 「気候偽情報に対抗する行動(Climate Action Against...

イスラエルのスタートアップ、革新技術で世界の水危機に挑む

気候変動、急激な人口増加、都市化、産業の拡大、淡水資源への負荷の増大により、世界では数十億人が水不足に直面している。国連によると、今なお20億人以上が安全に管理された飲料水を安定して利用できず、長期化する干ばつと地下水資源の減少が世界各地の地域社会を脅かし続けている。|英語版|ロシア語| イスラエルほど、この課題を切実に理解している国は少ない。世界有数の乾燥地域に位置する同国は、安定した水供給を確保する方法を数十年にわたり模索してきた。国としての必要性から始まった取り組みは、やがてイスラエル最大の技術的成功の一つへと発展した。科学研究、工学、起業家精神への継続的な投資を通じ、イスラエルは水資源に乏しい国から、世界をリードする水技術イノベーションの拠点の一つへと変貌した。 今日、イスラエルのスタートアップ企業は、政府、自治体、産業界、農家が水をより効率的に管理するための技術を開発している。そのソリューションはイスラエル国外でも採用が広がり、世界各地の持続可能な水管理に貢献している。 先進的な膜技術で海水淡水化を刷新 世界の水安全保障に対するイスラエルの大きな貢献の一つが、海水淡水化と水浄化に用いる膜技術の高度化である。この分野では、VP Membrane Technologiesが技術開発を進めている。 新世代のろ過膜は、従来型のろ過システムより少ないエネルギーで、塩分、細菌、ウイルス、重金属、微細な汚染物質を除去できる。海水淡水化の効率化と低コスト化が進めば、慢性的な水不足に悩む国々は、安全な飲料水の新たな供給源を確保できる。 イスラエルの技術者は、膜の寿命を延ばし、ろ過能力を高め、運用コストを削減するため、性能の向上を続けている。こうした技術革新により、大規模な海水淡水化の採算性は高まりつつある。とりわけ、気候変動による深刻な淡水不足に直面する地域にとって、その意義は大きい。 水道網をスマート化 清潔な水をつくることは、課題の一部にすぎない。世界では、配水網からの漏水によって、処理済みの水が毎日大量に失われている。多くの都市ではインフラの老朽化により、飲料水の20~40%が利用者に届く前に失われている。 イスラエルのスタートアップは、人工知能(AI)、衛星画像、クラウドコンピューティング、高性能センサーを組み合わせ、スマートな水管理システムを構築している。これらの技術は水道網を常時監視し、見えない漏水箇所を特定するとともに、配管の破損を予測し、配水システム全体の水圧を最適化する。 これにより、水道事業者は配管が破裂してから対応するのではなく、問題を早期に発見できるようになった。水の損失と維持管理費を抑えながら、公共水道の安定性を高めることが可能となっている。 より少ない水で農業生産を拡大 農業は今なお世界最大の淡水利用部門であり、世界の水使用量の約70%を占める。気候変動が農業生産への圧力を強めるなか、灌漑効率の向上は不可欠となっている。 イスラエルの技術革新は、近代的な点滴灌漑の発明に始まり、今日のデジタル農業技術に至るまで、長年にわたり精密灌漑と深く結びついてきた。現在、スタートアップ各社は土壌センサー、気象予報、衛星画像、AI、モノのインターネット(IoT)機器を組み合わせ、作物がいつ水を必要とし、どれだけの量を与えるべきかを正確に判断している。 こうしたスマートシステムは、あらかじめ決められた灌漑日程に従うのではなく、変化する環境条件に応じて動的に対応する。その結果、農家は水の使用量、肥料の投入量、エネルギーコストを大幅に削減しながら、収穫量を増やすことができる。 排水を貴重な資源に変える イスラエルのスタートアップが大きく貢献しているもう一つの分野が、排水の再利用である。 イスラエルの技術者は、排水を単なる廃棄物ではなく、新たな水資源と捉えている。新たな処理技術により、自治体や産業施設から出る排水を安全かつ効率的に再生し、農業、製造業、その他の非飲用用途に利用できるようになった。高度な処理システムの中には、間接的な飲用再利用を可能にし、利用可能な淡水資源をさらに広げるものもある。 この手法は、河川、湖沼、帯水層への負担を軽減するだけではない。水を環境に戻すまでに繰り返し利用する「水の循環型経済」への移行も後押しする。 空気から飲料水をつくる イスラエルが生み出した最も革新的な技術の一つが、大気中の湿気から飲料水を直接取り出す大気水生成システムである。 高度な凝縮技術と高効率の冷却システムを用い、大気中の水分を清潔で安全な飲料水に変える。従来型の給水インフラを必要としない点が特徴だ。こうしたシステムは、遠隔地の地域社会、被災地、人道危機の現場、軍事活動、既存の水供給が不安定または利用できない地域で、とりわけ大きな価値を持つ。 気候の変動が激しくなるなか、大気水生成は、脆弱な立場に置かれた人々に飲料水を供給する補完的な手段として、今後さらに重要になる可能性がある。 デジタル技術が水管理を変革 AIは、水循環のあらゆる段階を変えつつある。イスラエルのスタートアップは、貯水池、ポンプ場、処理施設、パイプライン、産業施設に設置された数千のセンサーからデータを集約できるクラウド型デジタルプラットフォームを開発している。これらのプラットフォームは、水質を常時監視し、需要を予測するとともに、ポンプの運転を最適化し、エネルギー消費を抑え、業務効率を高める。 膨大な運用データを実務に生かせる知見へと変えることで、デジタル水管理は、水道事業者による迅速で的確な意思決定を可能にし、重要インフラの強靱性も高めている。 世界に変革をもたらすイスラエルのスタートアップ イスラエルの水技術産業には、水管理のほぼあらゆる分野で事業を展開する数百社の革新的企業が集まっている。 国際的に知られる代表的企業の一つがIDE Technologiesである。同社の海水淡水化・水処理施設は、世界の数百万人に清潔な飲料水を供給している。近代的な点滴灌漑の先駆者であるNetafimは、100カ国を超える国々で、水を節約しながら農業生産性を高める取り組みを支援し続けている。 新興のテクノロジー企業は、デジタル技術によってこうした成果をさらに発展させている。WINT Water IntelligenceはAIを用い、商業ビルや産業施設内の漏水を検知して水使用量を監視する。Utilisは衛星技術を活用し、通常は見つけることができない地下の漏水を特定する。Watergenは、大気中の湿気から飲料水をつくる装置を開発した。Aquarius Spectrumは自治体の水道システムを対象とした音響式漏水検知を手がけ、KandoはAIを排水監視と下水道網の管理に応用している。BlueGreen Water Technologiesは、有害な藻類の異常発生を抑え、淡水の水質を改善する環境配慮型の生物学的ソリューションを開発している。 これらの企業は、イスラエルの起業家精神が工学、環境科学、ロボット工学、AI、デジタル技術を結集し、人類が直面する最も切迫した課題の一つに挑んでいることを示している。 国連の持続可能な開発目標への貢献 イスラエルの水関連スタートアップの取り組みは、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の複数の目標と密接に結びついており、技術革新が世界の持続可能な開発にいかに貢献できるかを示している。 最も直接的に貢献するのが、SDG...

一つの海、五つの国、二つの未来―カスピ海が迎える次なる試練

【アルマトイINPS Japan/The Astana Times=アヤナ・ビルバエワ】 8月12日、「カスピ海の日」が迎えられた。今年は、カスピ海の海洋環境保護に関する地域の主要な協定である「テヘラン条約」が発効してから20周年にあたる。世界最大の閉鎖性水域であるカスピ海では、水位低下とその将来をめぐる環境上の懸念が高まり続けている。|英語版| この節目は、国際イベント「カスピ海アクション・ウィーク2026」の閉幕とも重なった。アクタウで開かれた同イベントには、アゼルバイジャン、イラン、ロシア、トルクメニスタンの代表団に加え、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタンの関係者、ボランティア、環境活動家、科学者、若者らが参加した。 環境文化の発展を目指す「Taza Kazakhstan(タザ・カザフスタン)」構想のもとで開催された1週間のイベントでは、科学的な議論、環境キャンペーン、ボランティア活動、イノベーション事業などを通じ、カスピ海が直面する共通の課題への関心を喚起した。 地域協定から環境保全の実践へ 「カスピ海海洋環境保護枠組条約」、通称「テヘラン条約」は2006年に発効した。カスピ海沿岸5カ国が、汚染防止と生態系保護で協力するための地域的枠組みを構築したものである。 それから20年を経て、カスピ海をめぐる課題は一段と複雑になっている。 当初の環境協力では、汚染対策と海洋生物多様性の保全が大きな焦点となっていた。しかし現在では、カスピ海の長期的な水位低下という新たな問題が、地域の環境政策に加わっている。 環境実務家協会のラウラ・マリコワ会長は最近、カスピ海北部で急速に浅瀬化が進んでいると警告した。マリコワ氏は、一部の懸念について、船舶の航行や貨物輸送を確保するため、ノース・カスピアン・オペレーティング・カンパニー(NCOC)とその請負業者が実施している浚渫作業との関連を指摘した。 「写真や映像を見れば、水がどれほど遠くまで後退したかは明らかだ。カスピ海北部では、驚くほどの速さで浅瀬化が進んでいる」とマリコワ氏は、Kazinformの報道で語った。 カザフスタン生態・天然資源省によると、長期的な水位低下の最大の要因は依然として気候変動である。カスピ海地域では降水量が減少する一方、蒸発量が増えており、気温上昇に対して特に脆弱な状況にある。 気候による圧力と人間活動が重なり合うことで、政策上の課題はいっそう複雑になる。水位が低下すれば、沿岸インフラ、航路、港湾、産業プロジェクトの適応が必要になる一方、経済活動を維持するための取り組みそのものが、すでに変化の途上にある生態系にさらなる負荷をかける可能性もある。 対応の鍵を握る科学 こうした問題の複雑化を背景に、「カスピ海アクション・ウィーク」では科学協力が重視された。 8月6、7両日には国際セミナーと円卓会議が開かれ、カスピ海沿岸諸国の科学者や専門家が、環境モニタリング技術や現在進められている研究について議論した。 これは、地域の環境政策にとって重要な問いを浮き彫りにしている。すなわち、カスピ海流域全体で起きている変化を把握するために、各国が十分に連携したデータと科学的能力を備えているのか、という問題である。 カスピ海は一つにつながった生態系である一方、環境情報やモニタリング制度、政策対応の多くは依然として国ごとに運用されている。 より効果的な協力を実現するには、研究成果を交換するだけでなく、互換性のあるモニタリング制度を構築し、環境リスクについて地域全体でより明確な共通認識を形成することが必要になる可能性がある。 期間中に開催された「One Caspian – One Future(一つのカスピ海、一つの未来)」セッションも、こうした考え方を反映したもので、各国のボランティア団体が集まり、カスピ海を守るための共通の取り組みについて意見を交わした。 環境意識から具体的な解決策へ 今回のイベントでは、政府や専門家レベルの環境議論を、市民参加と結びつけようとする試みもみられた。 8月8日にアクタウで開催された「カスピアン・クリーン・チャレンジ」には、カザフスタンのマンスール・オシュルバエフ生態・天然資源次官も参加し、ボランティアによる大規模な海岸清掃とごみの分別活動が行われた。 新たに開設された「カスピ海地域ボランティア友好並木」では80本を超える樹木が植えられ、参加者は未来の世代に向けたメッセージを収めたタイムカプセルも設置した。 8月9日には、マンギスタウ州のボズジュラ地域でも清掃活動が実施された。 国際ハッカソンでは、カスピ海の生態系保護を目的とするプロジェクトの開発が参加者に呼びかけられたほか、TED形式の公開討論会では、環境ボランティアと専門家がアイデアを交換した。 イベントは8月12日の国際ボランティア・サミット「Caspian...