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見えない微生物の力に脚光 ケララ州、枯草菌を「州の微生物」に
【ニューデリーSciDev.Net=ランジット・デブラジ】
インド南部ケララ州が、土壌細菌の一種Bacillus subtilis(枯草菌)を「州の微生物」に指定した。人の健康、農業生産、環境対策などに役立つ有用な微生物として、その可能性に注目が集まっている。
今回の指定は、微生物が持つ力への理解を広げ、持続可能な医療、食料安全保障、環境保護、気候変動への対応に生かすことを目指すものである。こうした取り組みはインドで初めてとされる。
枯草菌は、土壌や発酵食品、人や動物の腸内などに広く存在する細菌で、安全性が高く、長年研究されてきた。厳しい環境でも生き残るための丈夫な芽胞をつくることができ、健康、農業、産業、環境の各分野で活用が期待されている。
健康分野では、腸内環境を整え、免疫機能を助けるプロバイオティクスとして利用が進む。食品分野では、消化を助ける酵素の生成や栄養吸収の向上に役立ち、一部の菌株は、骨を丈夫に保つのに役立つビタミンK2をつくることでも知られている。農業では、植物の成長を促し、病原体を抑え、作物の収量向上を支える。環境分野でも、廃棄物処理や堆肥化、排水処理、化学物質の代替となる物質の生産などへの応用が期待されている。
ケララ州のマイクロバイオーム卓越研究センター所長のサブ・トーマス氏は、SciDev.Netに対し、枯草菌 は人間、植物、動物、水圏、環境の各マイクロバイオームを改善するうえで、安全に多様な役割を果たし得る微生物だと語っている。州政府の指定には、こうした科学的知見を社会に広く伝える狙いがある。あわせて、研究、技術革新、産業振興を後押しする意味合いもある。
実際、枯草菌関連製品の市場は拡大している。インド国内でも、バイオ肥料、生物農薬、養鶏や養殖向けのプロバイオティクス添加剤として利用が広がり、研究機関や新興企業が製品開発と商業化を進めている。
同センターでは、Lactobacillus、Bifidobacterium、各種Bacillus 属細菌、Saccharomyces cerevisiae などの有用微生物についても研究を進めている。人や動物向けのプロバイオティクス、発酵食品、養殖、持続可能な農業、廃棄物管理、汚染浄化など、応用分野は幅広い。スタートアップ支援や人材育成にも力を入れている。
近年、マイクロバイオーム研究は、「人、動物、環境の健康はつながっている」とするワンヘルスの視点から国際的な注目を集めている。ケララ州の研究拠点も、有益な微生物の特定、関連技術の開発、化学物質や抗生物質への依存低減、研究成果の社会実装を進めるとともに、海外機関との連携強化を図っている。
こうした研究は、とりわけ低・中所得国にとって大きな意味を持つ。微生物の力を生かす技術は、腸内環境や栄養状態の改善、安全な発酵食品の普及、土壌の質の向上、化学資材への依存低減に役立つ可能性がある。地域の実情に合わせやすく、費用対効果の高い生物学的手法として、公衆衛生、持続可能な農業、食料安全保障の強化への貢献が期待されている。
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政治・治安危機の深刻化で、イエメンの人道アクセスが崩壊
【国連IPS=オリトロ・カリム】
ここ数週間、イエメンの人道危機は再び悪化の兆しを強めている。食料不安の深刻化に加え、南部を中心とする武装勢力間の衝突が拡大し、国連当局者は「危機が重大な破局点に近づいている」と警告している。暴力の激化は、命を救う人道支援の実施を妨げ、経済・政治の不安定化は保健、給水、教育など必須サービスへのアクセスをさらに侵食している。その結果、数百万人が生存に不可欠な支援を失いかねない局面に直面し、とりわけ子どもへの影響が深刻化している。
治安面では、昨年12月に南部で緊張が急上昇した。報道によれば、UAEの支援を受ける南部暫定評議会(STC)がハドラマウト州(ワーディ・ハドラマウト)やマフラ州へ攻勢を強め、一部地域で主導権を握った。これに対し、サウジアラビアが支援する側は空爆を含む軍事行動で対抗し、南部の拠点都市ムカッラも攻撃対象となったとされる。
その後、短期的な緊張緩和が取り沙汰された局面があっても、人道専門家は、政治・経済の持続的な解決が伴わない限り、治安は極めて脆弱なままだとみる。国連側は、長年の政治的混乱が経済を弱体化させ、通貨安とインフレを通じて食料・燃料価格を押し上げ、公務員の賃金未払いも拡大させてきたと指摘する。
1月14日、国連イエメン担当特使のハンス・グルントベルグ氏は国連安全保障理事会で説明を行い、信頼でき、透明で、包摂的な政治プロセスを確立する緊急性を訴えた。グルントベルグ氏は「南部イエメンでの最近の展開は、この脆い均衡がいかに速やかに崩れ得るかを示している」と述べ、「信頼性ある政治的道筋の中にプロセスを再びしっかりと位置づけ直す」ことが不可欠だと強調した。
さらに同氏は、「イエメンが抱える多様な課題を個別ではなく統合的に扱う包括的アプローチが欠けたままであれば、不安定化の連鎖がこの国の進路における恒常的特徴となりかねない」と警告した。
グルントベルグ氏はまた、イエメンの経済機関、なかでも中央銀行を政治・治安上の対立から守る重要性に言及し、短期の不安定化であっても通貨安を招き、財政赤字を拡大させ、喫緊の経済改革を妨げ得ると指摘した。
イエメン当局によれば、南部暫定評議会(STC)、フーシ運動、サウジ支援の政府勢力の衝突は避難を拡大させ、数千人の民間人が必須サービスへのアクセスを断たれている。1月19日、国連イエメン常駐・人道調整官のジュリアン・ハーネイス副事務総長補は、2026年の人道状況はさらに悪化する見通しで、人道支援を必要とする人は推計2100万人に上ると述べた。これは前年の1950万人から増加する。
このうち1800万人超(人口の約半数)が、2月に深刻な食料不安に直面すると見込まれている。さらに、十分な介入がなければ、数万人が「破局的」水準の飢餓に陥り、飢饉同然の状況に追い込まれかねないと推計されている。
飢餓危機は子どもに最も深刻な影響を及ぼす見通しで、5歳未満の子どもの約半数が急性栄養不良にある。昨年は資金不足が続き、栄養支援の対象とされた800万人の子どものうち、命を救うケアを受けられたのは4分の1にとどまった。補助給食プログラムと外来の治療的栄養プログラムも2500件超が閉鎖に追い込まれた。
「端的に言えば、子どもたちは亡くなっている。状況はさらに悪化する。私が恐れるのは、来年になって死亡と罹患が大幅に増えるまで、この危機が十分に可視化されないことだ」と、ハーネイス氏は述べた。
またイエメン当局は、最近の戦闘により、学校や病院を含む主要な民間インフラが閉鎖されるか、稼働が大きく制限されていると強調した。国連人道問題調整事務所(OCHA)の人道局ディレクター、ラメシュ・ラジャシンガム氏は、ここ数か月で450以上の保健施設が閉鎖され、さらに数千の施設が資金不足に陥る恐れに直面していると指摘した。予防接種キャンペーンも妨げられ、北部では子どもたちへの支援アクセスが著しく困難になっている。このため、麻疹、ジフテリア、コレラ、ポリオなど予防可能な感染症への脆弱性が高まっているという。
ラジャシンガム氏は、暴力の激化により支援活動への制約が強まっているとも警告した。国連によれば、フーシ派の事実上の当局は2021年以降、国連職員73人を恣意的に拘束しており、人道ニーズの約70%が集中する地域での支援活動を妨げている。
「人道機関は、安全かつ効果的に、原則に基づいて活動でき、必要な資源が確保されて初めて機能する。そうしてこそ飢餓を減らし、疾病を防ぎ、命を救うことができる。しかしアクセスが阻まれ、資金が途絶えれば、こうした成果はたちまち失われてしまう」と同氏は述べた。
1月29日、世界食糧計画(WFP)は、北部イエメンで深刻化する活動制限や嫌がらせ、フーシ関係者による職員の恣意的拘束を受け、同地域での活動停止を発表した。国連当局者は記者団に対し、北部に残るWFP職員約365人が、治安悪化と資金難の影響で3月末までに職を失う見通しだと説明した。
2025年、イエメンの国連「人道ニーズ・対応計画」は、必要資金の充足率が25%にとどまり、人道関係者は重要サービスの縮小や、特定の住民層や分野の優先度引き下げ、さらには命を救う活動の停止を余儀なくされた。その結果、数百万人が支援を受けられず、さらなる危機にさらされた。
「厳しい現実として、国連はイエメン国内の(フーシ派)事実上の当局が支配する地域における人道活動を、継続的に見直し、再編せざるを得ない。そこは、国内の人道ニーズの約70%が集中する地域でもある」とラジャシンガム氏は述べた。
同氏はまた、安全保障理事会に対し、拘束されている73人の国連職員の解放に向けて国際社会の圧力を強めるとともに、拡大するニーズに見合った資金拠出を促すよう求めた。(原文へ)
INPS Japan/ IPS UN Bureau Report
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トランプ氏の対イラン戦争が砕いた湾岸の安定神話
米軍依存の限界と新たな安全保障秩序の模索
【ニューヨークIPS=アロン・ベン=メイル】
トランプ大統領による対イラン戦争は、湾岸地域の安全保障環境を根底から揺さぶった。米軍基地は抑止の拠点から攻撃対象へと変わり、経済は深刻な打撃を受け、ドバイやドーハ、リヤドといった都市が「安全なオアシス」であるとの神話も崩れ去った。湾岸諸国の指導者たちはいま、ワシントン依存の代償と、より不安定で脆弱な地域秩序の現実に直面している。
トランプ氏が東地中海と湾岸に大規模な米海空戦力を集結させるなか、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタールなどの湾岸諸国は、自国の領土やエネルギー・インフラが報復の標的となる事態を恐れ、水面下で米国に対し、イランへの全面攻撃を控えるよう求めていた。
しかし、米国とイスラエルによる空爆作戦は、イランの能力を「弱体化させる」という以上に、明確で公に示された政治目標を欠いたまま、2026年2月28日に開始された。この軍事的エスカレーションと戦略目的の乖離こそが、いま湾岸諸国の指導者たちの怒りと、ワシントンへの深い不信の核心にある。
トランプ氏の戦略的誤算
トランプ氏が米・イスラエルによる対イラン共同攻撃に踏み切ったことは、政権の想定を上回る戦略的代償を招いた。エネルギー市場の混乱、海上輸送の停滞、地域の分断の深まり、そして反米感情の拡大である。
たとえイランの軍事能力が大きく損なわれたとしても、この戦争は米国の戦力投射の脆弱性を露呈させ、同盟国を動揺させるとともに、ロシアと中国による湾岸地域への外交的関与を促した。米国が長期的に支払う代償は、戦場での成果以上に、伝統的なアラブ同盟国の間で信頼と影響力を損なったことの大きさによって測られるだろう。
米軍基地は「資産」から「負債」へ
湾岸諸国にとって、カタール、バーレーン、クウェート、UAEに展開する米軍基地は、本来、イランを抑止し、体制の安全を保証する存在だった。ところが戦争の勃発によって、それらは真っ先に攻撃対象となった。イランはこれら施設への攻撃をワシントンに対する報復と位置づけたが、その多くが人口密集地や経済中枢に近接していたため、周辺の民間インフラにも深刻な被害が及んだ。
この経験は、外国軍基地の存在が攻撃を呼び込む一方で、期待された確実な防護はもたらさないという認識を、湾岸各国で強めている。
現実となった悪夢
湾岸諸国の指導者たちは長年、イランとの戦争が自国の安全保障と経済を深刻に損なうと警告してきた。その悪夢はいま現実となった。イランのミサイルや無人機は、石油施設、港湾、発電所、都市部を相次いで攻撃した。
湾岸諸国は、軍事作戦を開始したワシントンと、近隣アラブ諸国への被害を顧みずイランの「無力化」を追求したイスラエルに責任があるとみている。自らの警告は退けられ、その結果として、物理的破壊、経済的後退、輸出の混乱、国内不安の増大という不釣り合いに大きな代償を強いられたとの認識が広がっている。
崩れた「オアシス」神話
ドバイ、ドーハ、リヤドなどが、ビジネス、観光、投資に開かれた安全で安定した拠点であるとのイメージは、ミサイル警報、港湾や空港への攻撃、主要航路の閉鎖によって大きく傷ついた。
信頼を回復するには、目に見える復興に加え、民間防衛体制の強化、防空・ミサイル防衛能力の向上、そして再び突発的な戦争が起きるリスクを抑えるための信頼性ある外交が欠かせない。投資家や観光客が求めているのは、華やかな大型事業ではなく、この地域がイランをめぐる緊張を管理できることを示す確かな証左である。
トランプ氏、イランの報復能力を見誤る
トランプ氏は、圧倒的な軍事力を行使すればイランを短期間で屈服させ、政権交代を促しながら、戦火を域外にとどめられると主張していた。だが実際には、イランが湾岸諸国に広範な報復を加える可能性や、ホルムズ海峡の長期封鎖に踏み切る可能性を過小評価していたとみられる。
革命防衛隊(IRGC)による海峡の事実上の封鎖は、商船への攻撃や威嚇を通じて世界的なエネルギー市場を揺さぶり、米国の戦争計画の前提の脆さを露呈させた。湾岸諸国の指導者たちは、これをワシントンが二次的、三次的な影響を十分に見込んでいなかった証左と受け止めている。
報復を控える計算された判断
大きな被害を受けながらも、湾岸諸国はこれまでのところ、イランへの直接報復を避けている。さらなるエスカレーションは、自国の都市や重要インフラを、より苛烈な攻撃にさらすだけだとみているためだ。
表向きには自制と国際法を強調しているが、実際には、米国主導のこの戦争が終わった後も、地理的に隣接する強大なイランと共存せざるを得ないという現実を認めている。反撃を控えることで、戦後の緊張緩和の余地を残し、恒常的な公開対立に陥るのを避けようとしている。
ワシントンとの安全保障関係の見直し
戦略的な代替肢が限られている以上、湾岸の君主国が米国との関係を断ち切る可能性は高くない。だが今後は、これまで以上に条件付きで、取引色の強い安全保障関係を求めていく公算が大きい。自国防衛に関する米国のより明確な保証、地域ミサイル防衛の一層の統合、そしてイランの報復を招きかねない決定について、より大きな発言権を求めている。
同時に、湾岸諸国は中国、ロシア、欧州、アジアの主要エネルギー輸入国との関係を強化し、米国への排他的依存を緩和しながらも、米国の安全保障の傘そのものは維持しようとしている。
再発防止に向けた選択肢
将来の再燃を防ぐため、湾岸諸国はテヘランとの限定的な対話チャンネルや危機管理ホットラインの整備、中国やインドなど西側以外の国々も含めた海上安全保障枠組みの再構築を模索している。また、エネルギー・インフラや海上輸送路を危機の際にも攻撃対象外とするための新たな交戦ルールや、非公式な合意形成を目指す可能性もある。
国内的には、ミサイル防衛体制の見直し、重要施設の防護強化、ホルムズ海峡への依存を減らす輸出ルートの多様化も検討されている。いずれも万能ではないが、一定のリスク軽減にはつながり得る。
イランとの関係正常化は可能か
湾岸諸国とイランの全面的な関係正常化、さらには相互不可侵協定の可能性まで取り沙汰されている背景には、戦前から慎重な対話と経済的接触が進んでいた現実がある。しかし、それが実際の政策選択肢となるかどうかは、戦争の帰結、イラン国内政治、そして湾岸諸国の脅威認識に左右される。
たとえテヘラン体制が存続しても敵対姿勢を維持するなら、湾岸諸国は、抑止、限定的関与、外部大国との連携を組み合わせた「ヘッジ戦略」へと回帰する可能性が高い。他方で、より現実主義的なイラン指導部が現れれば、制度的な安全保障対話や段階的な信頼醸成措置が現実味を帯びる余地もある。
もはや戦前には戻れない
湾岸諸国が戦前の現状に戻ることはないだろう。今後は、米国のより限定的な安全保障の傘に加え、中国、ロシア、アジアの主要エネルギー輸入国との関係拡大を組み合わせた、より多角的な安全保障構造を模索していくとみられる。この変化は、湾岸安全保障におけるワシントンの中心的地位を徐々に低下させ、米軍の地域展開や、対イランでアラブ諸国が自動的にイスラエルを支持するという前提を揺さぶることになる。
イスラエルにとっては、より慎重でリスク回避的な湾岸諸国の姿勢が、公然たる戦略的連携の余地を狭める可能性がある。米国にとっても、根深い不信が残る以上、将来の危機に際して新たな連携を構築することは、これまで以上に難しくなるだろう。
トランプ氏の対イラン軍事介入は、単独の失策にとどまらない。それは、すでに脆弱化していた国際秩序に対する攻撃の、最新にして最も危険な表れである。自制を捨て、同盟国を脇に追いやり、短期的な政治的利益のために米国の力を用いた結果、米国の信頼性はさらに損なわれ、西側同盟は分断され、ロシアと中国には新たな戦略空間が開かれた。湾岸諸国は、その混乱の新たな犠牲者となったのである。
この戦争の先にあるのは、回復された現状ではない。より断片化し、不安定化した中東である。そのなかでイスラエルと米国は、これまで以上に誤算の許されない状況と、より狭くなった信頼できる協力相手の輪に直面していくことになる。(原文へ)
アロン・ベン=メイア博士は国際関係論の元教授で、最近までニューヨーク大学(NYU)グローバル・アフェアーズ・センターで国際交渉および中東研究を教えていた。
INPS Japan
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カザフスタン、非核化の成功例を国連で示す―なお難題として残る中東
【ニューヨーク国連本部INPS Japan/ATN=アハメド・ファティ】
核の危険性に警鐘を鳴らす声が相次いだ国連会議で、カザフスタンは別のメッセージを示した。中央アジアは核に頼らない道を選び、その選択を守り続けてきた、というものだ。
このメッセージは4月28日、セミパラチンスク(セメイ)条約によって創設された「中央アジア非核兵器地帯」の20周年を記念するサイドイベントで示された。2026年NPT再検討会議の期間中に開かれたこのイベントでは、核リスクが再び高まるなか、非核兵器地帯がいまなお安全保障上の価値を持ち得るのかが検討された。
Open Nuclear Networkのオラミデ・サミュエル氏が司会を務めたこのサイドイベントは、カザフスタン国連常駐代表部、国連軍縮部、国連軍縮研究所(UNIDIR)、核脅威イニシアティブが共催した。会合でより根本的に問われたのは、安全保障環境が厳しさを増す時代に、地域として核を自制する枠組みが持ちこたえられるのか、ということだった。
カザフスタンにとって、その答えはセミパラチンスクから始まる。
カザフスタンのイェルラン・アシクバエフ第一外務副大臣は、この20周年を、中央アジア諸国が核抑止ではなく、透明性、協力、信頼に基づいて安全保障を追求するという「意図的な戦略的選択」を行ったことを改めて示す節目だと位置づけた。同氏は、この非核兵器地帯が、核兵器に頼らない安全保障は「可能であるだけでなく、持続可能でもある」ことを証明してきたと述べた。
セミパラチンスク条約は、ソ連時代の核実験が冷戦終結後も深い傷跡を残した地の名を冠している。カザフスタンにとって、この非核兵器地帯は、その歴史的な傷に向き合う一つの答えでもある。
国連軍縮部で大量破壊兵器部門を統括するクリス・キング氏は、非核兵器地帯を、地域の安全保障、不拡散、核リスク低減を支える「生きた枠組み」と位置づけた。一方で同氏は、その実効性にはなおばらつきがあり、核兵器国が一部の議定書に署名・批准していない例や、安全の保証に留保を付している例もあると警告した。
非核兵器地帯に関する新たな研究をまとめる、国連委嘱の有識者グループ議長で、ブラジルのマリア・セシリア・バルセロス・カヴァルカンテ・ヴィエイラ氏は、国連による最初の本格的な研究から50年が過ぎたとして、新たな評価の必要性を指摘した。問われているのは、より危険な世界において、非核兵器地帯がなお有効性を保ち得るのかという点である。
UNIDIR所長のロビン・ガイス氏は、非核兵器地帯は発展していくことを前提とした枠組みだと述べた。また、中央アジア非核兵器地帯について、安全保障を開発、環境保護、公衆衛生と結びつけた点で、独自の貢献を果たしてきたと指摘した。
核脅威イニシアティブ(Nuclear Threat Initiative: NTI)のマーク・メラメド氏は、非核兵器地帯はNPTの成功例の一つであり続けていると評価する一方、その成果が今後も維持されるとは限らないと警告した。
UNIDIRのサラ・オパトフスキー氏は、既存の非核兵器地帯を地図上で可視化し、比較できるデジタル・プラットフォーム「Nuclear-Weapon-Free Zones Hub」を紹介した。
各国代表も討議に加わった。
2026年NPT再検討会議の中国代表団長である孫暁波氏は、中国政府は地域主導と自由意思に基づく非核兵器地帯を支持しており、核兵器国が参加可能なすべての議定書に署名・批准していると述べた。
キルギスのアイダ・カスマリエワ国連常駐代表は、中央アジア非核兵器地帯条約について、大胆な夢を現実に変えたものだと評価した。セミパラチンスク条約の寄託国として発言した同氏は、5つの核兵器国のうち4か国が、中央アジア諸国に安全の保証を与える議定書を批准済みだとし、残る1か国にも手続きを完了するよう求めた。
2026年NPT再検討会議のロシア代表団長、ミハイル・コンドラテンコフ氏は、ロシア政府が非核兵器地帯を支持していると述べるとともに、核兵器その他の大量破壊兵器のない中東地帯の実現に向けた取り組みにロシアも関与していると説明した。
その後、イベントの焦点は20周年の記念から、その経験を他地域にどう生かすかへと移った。
セミパラチンスク条約の20年にわたる経験から、今後の非核兵器地帯交渉、とりわけ停滞する「大量破壊兵器のない中東地帯」構想に、どのような教訓を生かせるのか。この問いに対し、パネリストたちは単純な答えを示さなかった。
ヴィエイラ氏は、中東は特殊な事例だと指摘した。国連決議と結びついているだけでなく、核兵器に限らず大量破壊兵器全般を対象としているためである。アシクバエフ氏は、カザフスタンの歩みは、セミパラチンスクの悲劇、ネバダ・セミパラチンスク反核運動、1991年の実験場閉鎖、そして不拡散をめぐる地域協力によって形づくられてきたと述べた。
キング氏は、非核兵器地帯はいずれも、それぞれ固有の状況の中から生まれたと指摘した。ラテンアメリカのトラテロルコ条約はキューバ危機後に成立し、南太平洋と中央アジアでは核実験の経験が形成を後押しした。成功した非核兵器地帯は通常、各国が共通の危険や記憶を認識し、それを政策へと転換できるほどの共通理解を持ったときに実現している。
この点は、中東を考えるうえで重要である。同地域には、現在も続く戦争、根深い不信、イスラエルの未申告の核能力、イランの核問題、競合する安全保障ドクトリン、さらに紛争に深く関与する域外大国が存在する。中東で構想されている地帯は、核兵器にとどまらず、すべての大量破壊兵器の廃絶を目指すものであり、その分、複雑さは増している
中央アジアの教訓は重い。しかし、それをそのまま他地域に当てはめることはできない。セミパラチンスクの経験が成果を上げたのは、核被害に対する共通理解を軸に、記憶、政治的意思、地域の主体性が重なり合ったからである。
カザフスタンは、核の自制を築き、維持できることを示した。一方、中東はなお、はるかに難しい試金石であり続けている。人々が同じ危険を共有しながら、互いを信頼していないとき、何が起こるのか―その問いが突きつけられている。(原文へ)
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