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2030年以降に向けた人権を中心に据えた変革的アジェンダを目指して

【ミュンヘン/ブリュッセルIPS=ガブリエーレ・ケーラー、キャサリン・ムベングエ】 持続可能な開発目標(SDGs)を柱とする「2030アジェンダ」は2030年に期限を迎える。それに続く新たな国際開発アジェンダの正式な政府間交渉は、2027年秋の国連総会で開始される予定である。|英語版| しかし、それに先立ち、新たな開発枠組みに関する議論はすでに各地で始まっている。BRICSやG20、欧州連合(EU)などの多国間協議をはじめ、国連では「未来サミット(Summit of the Future)」、「ドーハ世界社会開発サミット」、『Beyond GDP(GDPを超えて)』報告書などに関連する議論が進められている。また、「ハンブルク・サステナビリティ会議」をはじめとする国際フォーラムでも活発な意見交換が行われている。 さらに、シンクタンクや学術界でも、SDGsへの真のコミットメントをいかに再び呼び起こし、その先の世界をどのように構想すべきかについて、さまざまな提案や議論が進められている。 こうした状況を踏まえれば、「2030年以降」の開発アジェンダが進むべき新たな方向性について、今こそ議論を深める絶好の機会と言えるだろう。 開発アジェンダの発想を転換する必要性 国際社会が「開発アジェンダ」という考え方を初めて打ち出したのは1960年の「国連開発の10年(Development Decade)」であった。それ以来、貧困撲滅のための各種国際目標、ミレニアム開発目標(MDGs)、そして現在の持続可能な開発目標(SDGs)へと、その取り組みは形を変えながら受け継がれてきた。 しかし、そのたびに明らかになる現実は厳しい。掲げられた理想は、せいぜい部分的にしか実現されていないのである。 現在、多くの専門家がSDGsの進捗状況に深い失望を抱いている。多くの目標は達成が大きく遅れ、一部ではむしろ後退さえ見られる。 だからこそ、2030年アジェンダがなぜ期待された成果を上げられなかったのか、その原因を改めて検証する必要がある。 その理由の一つとして挙げられるのは、SDGsが貧困や格差を生み出す構造的な要因について十分な分析を行わず、その問題を避けてきたことである。政治的・経済的な権力構造や不平等な支配関係には、ほとんど踏み込んでいない。 さらに、これまでの開発アジェンダと同様に、SDGsも各国の政治的な「約束」にとどまり、法的拘束力を持たないという問題がある。 SDGsの進捗報告は各国の自主的な取り組みに委ねられており、その内容も個別事例の紹介に終始することが少なくない。そのため、各国政府は表面的にはSDGsに積極的に取り組んでいるように装いながら、実際には必要な改革を回避することも可能となっている。 また国際社会全体としても、低所得国や社会的に排除された人々に不利益をもたらしている世界経済の構造そのものを改革する責任から逃れることができてしまっている。 さらに、これまで繰り返されてきた開発アジェンダから得られるもう一つの重要な教訓は、将来世代の権利や利益が、明確な責任原則として位置づけられてこなかったことである。 子どもや若者は、貧困、不平等、紛争、環境破壊の影響を最も深刻に受ける存在であるにもかかわらず、自らの未来を左右する政策決定に参加する機会は極めて限られている。 したがって、2030年以降の開発アジェンダは、国際的に認められた人権条約上の義務を基盤とするべきである。 そうすることで、現在世代だけでなく将来世代に対する責任についても、定期的な検証と説明責任を制度的に確保できるようになる。 とりわけ、世界のほぼすべての国が批准している「子どもの権利条約(CRC)」は、そのような人権に基づく新しい開発アジェンダを構築するための極めて強固な基盤となり得る。 新たな提案 私たちはここで、2030年以降の開発アジェンダについて、新たなアプローチを提案したい。 それは、次期開発アジェンダを国連人権理事会(Human Rights Council:HRC)の枠組みに位置付けるという考え方である。 新たな開発目標の策定、その政府間交渉、さらには実施後の報告・監視までを、人権理事会が長年にわたり蓄積してきた普遍的・定期的審査(Universal Periodic...

相乗効果を力に、2030年までSDGsへの歩みを止めない(浅井伸行 SGI平和センター環境・人道部長)

【東京INPS Japan=浅井伸之】 SDGsの目標年である2030年まで、残すところあと4年となりました。残念ながら、169のターゲットの多くは、期限までの達成が困難とみられています。さらに憂慮すべきことに、一部の政治指導者はSDGsに否定的な姿勢を示し、これまでの前進に逆行する政策さえ進めています。|英語版| その一方で、私は2026年2月、バンコクの国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)で開催された「アジア太平洋持続可能な開発フォーラム」に参加し、SDGsが今なお多くの政府にとって重要な指針であり続けていることを目の当たりにしました。 このフォーラムは毎年、選定されたSDGsについて各国の進捗を検証し、優れた解決策を共有するとともに、残された課題を明らかにするために開催されています。今年、重点的に取り上げられた目標の一つが、創価学会とSGIが長年にわたり取り組んできた目標11でした。私は、SGIがこの10年にわたり加盟しているSDGs市民社会ネットワークの支援を得て、同フォーラムに参加しました。 フォーラムでは、多くの政府関係者が、それぞれの目標に照らした進捗評価や具体的な取り組みを紹介しました。興味深かったのは、その発言の中で、関連する他の目標にもたびたび言及していたことです。 例えば、ある政府関係者は、目標11に掲げられた公共交通の改善について説明し、それが自動車から排出される温室効果ガスの削減につながり、目標13の達成にも貢献すると強調しました。また、目標5以外の目標を推進する際にも、ジェンダー平等の視点を取り入れていると述べた参加者もいました。 このように、複数の目標を常に念頭に置き、その相互のつながりを意識する姿勢は、SDGsが採択された当初には、それほど一般的ではありませんでした。しかし現在では、他の目標を犠牲にして一つの目標だけを達成することは許されない、という認識が共通理解となっています。これは非常に意義のある前進です。 ちなみに日本政府はこの点を重視し、国際社会において「シナジー・アプローチ」、すなわち相乗効果を重視する手法を推進しています。これと歩調を合わせ、環境省の関連機関である地球環境戦略研究機関(IGES)は、複数のターゲットの達成に同時に寄与する政策と、ターゲット間に対立やトレードオフを生じさせかねない政策の双方を示しています。 ここ数年、開発資金は減少し、複数の国連機関が財政危機に直面しています。この傾向は今後も続くとみられ、資金や援助をいかに効果的かつ効率的に活用するかが、ますます重要になっています。 こうした状況において、メディアプロジェクト「SDGs for...

ロマの人々への特別な配慮なくして、ウクライナ復興の成功はない

【ブラチスラバIPS=エド・ホルト】 ロシアによる全面侵攻が続く中、各国政府、援助機関、NGO、開発銀行、企業の代表らがポーランド・グダニスクに集まり、ウクライナ復興について議論した。すでに数十億ユーロ規模の復興支援が約束されている一方で、その復興をいかに効果的かつ透明性をもって、公平に進めるかという課題は依然として残されている。|英語版| 戦争は、とりわけ社会的に脆弱な立場に置かれてきた人々に深刻な影響を及ぼしている。なかでもロマ(Roma)の人々は、住宅、医療、教育、雇用へのアクセスに以前から多くの障壁を抱えており、復興政策に特別な配慮がなければ、既存の格差がさらに固定化される恐れがあると、ロマ人権団体は警鐘を鳴らしている。 IPSは、ロマ・ヨーロッパ財団(Roma Foundation for Europe)で分析・成果担当副代表を務めるネダ・コルノフスカ(Neda Korunovska)氏に、なぜロマの声を復興計画に反映させることが不可欠なのか話を聞いた。 IPS:戦後のウクライナでは、どの程度の復興が必要になるのでしょうか。どのような復興が求められると考えますか。 コルノフスカ氏(以下NK):考えなければならないのは二つの側面です。 一つは、道路や住宅、インフラなど物理的な復興。もう一つは、社会そのものの再建です。 世界銀行や国連機関、EU、ウクライナ政府は毎年、今後約10年間を見据えた復興ニーズ評価を公表しています。キーウ経済研究所も復興費用を試算していますが、これらはいずれも経済モデルに基づくものです。 しかし、包摂的(インクルーシブ)な社会を築くために何が必要かを数値化することは、はるかに難しい課題です。現在の試算では、そのために必要な資金や政治的意思が十分に考慮されているとは言えません。 私たちの活動を通じて分かっているのは、復興を真に包摂的なものにすることは非常に難しいということです。 ウクライナ社会はもともと様々な分断を抱えていました。そして戦争によって、その分断はさらに深まりました。軍に従軍している人としていない人、国内避難民、国外避難民など、多様な立場の人々が存在しています。社会的結束を再構築する議論では、こうした違いを十分考慮しなければなりません。 さらに、戦争が長期化し続けていることも大きな障害です。新たな被害は今も毎年発生しており、政府の最優先事項は安全保障と防衛です。緊急対応に必要な資金すら毎年不足している状況であり、本格的な復興は極めて複雑なものになっています。 IPS:社会の分断について触れられましたが、戦後復興では「ある集団を他より優先すべきだ」という考え方がすでに存在しているのでしょうか。 NK:公式にはありません。しかし、実際には非公式な形で起きています。 私たちの最近の調査では、住宅被害に対する補償制度などで、その実態を確認しました。 例えば国内避難民(IDP)として登録するには、占領地域や戦闘地域に居住していたことを示す有効な身分証明書が必要です。身分証を持っていなかったり、登録住所が一致しなかったりすると、実際にそこに住んでいても支援を受けられません。行政機関も人手不足のため、結局は「誰を知っているか」という人間関係が大きく影響します。 これはウクライナだけでなく旧ソ連諸国では珍しくありません。病院の予約一つ取るにも、知人のつながりが役立つことがあります。現在のウクライナでも同じです。限られた資源しかないため、誰を優先するかは形式上ではなく、非公式なネットワークによって左右される場合があります。 その結果、社会的なつながり(ソーシャル・キャピタル)が乏しい人々ほど後回しにされてしまうのです。 IPS:ロマの場合、身分証明書を持たない人や土地・住宅の所有を証明できない人も少なくありません。戦後復興から取り残されることを特に懸念していますか。 NK:はい。非常に懸念しています。 戦争中に実施された社会的結束に関する調査でも、ロマとその他の住民との間には依然として大きな格差があることが示されています。唯一改善が見られたのは、ロマと非ロマが共に戦火を経験し、困難を共有した地域だけです。 しかし、それはウクライナ全土には広がっていません。これが私たちにとって大きな懸念です。 IPS:ロマだけでなく、他の少数民族も取り残される可能性がありますか。 NK:あります。ただし、その危険性が最も高いのはロマです。 ウクライナ社会には「ロマはこの国に属していない」「国外へ出ていくべきだ」と考える人が少なくありません。もちろん、ロシア系住民を含め、他の少数民族も戦後には様々な困難に直面するでしょう。 IPS:しかし、その中でもロマが最も深刻な課題を抱えているということですね。 NK:その通りです。教育、就労機会、言語、識字能力、居住地域など、あらゆる面で複合的な不利を抱えています。 農村部や孤立した地域、非公式居住地に暮らす人も多くいます。もちろん地域差はありますが、戦争によってこうした問題はさらに悪化しました。 しかも現在、それらに本格的に取り組もうという能力も政治的意思も十分ではありません。復興ではエネルギー、地雷除去、交通、住宅が優先されます。当然、多数派に関わる課題が優先されるでしょう。だからこそ、少数派であるロマは後回しになってしまうのです。 何世紀にもわたり、多くの人々はロマに対して否定的なイメージを抱いてきました。教師や技術者、電気技師として社会に貢献する存在ではなく、周縁化された集団として見られてきたのです。この固定観念こそが、今日の差別の根底にあります。 IPS:ロマの居住地も戦争で被害を受けています。戦後、補償も受けられず、そのまま放置される危険性がありますか。 NK:残念ながら、その危険性は十分あります。現在の補償制度では、多くのロマが正式な住宅所有者として認められていません。相続手続きが複雑だったり、不動産登記がされていなかったり、税金や行政手数料を支払えなかったりするからです。 彼らは怠けていたわけではありません。限られた収入の中で、書類手続きよりも食料や暖房を優先せざるを得なかったのです。 さらに住宅自体も簡易な材料で建てられている場合が多く、損壊しやすいという問題があります。しかし、こうした脆弱性は現在の補償制度では十分認識されていません。 IPS:では、ロマが復興から取り残されないためには何が必要でしょうか。 NK:私たちはロマの政治参加の拡大を求めています。しかし、それ以上に重要なのは、ロマ自身から直接話を聞き、彼らが直面している障壁を理解し、その知見を復興制度の設計に反映することです。 新しいウクライナは包摂的な国家でなければなりません。その理念を政治指導者自身が明確に示し、優先課題として位置付ける必要があります。 他国の戦後復興では、社会的結束を軽視した結果、さまざまな問題が起きました。戦時には愛国心やナショナリズムが強まります。戦前にロマを襲撃していた一部の準軍事組織のメンバーが、戦争では英雄視されるようになった例もあります。 彼らの価値観は本当に変わったのでしょうか。私は戦後にロマへの大量虐殺が起こると言っているわけではありません。しかし、他国の経験では、戦後には家庭内暴力、女性殺害(フェミサイド)、民族・人種を理由とする暴力が増える傾向があることが分かっています。 一方で、多くのロマも祖国を守るために戦っています。小さな子どもがいる、あるいは識字能力の問題から兵役免除の対象となる人もいますが、それでも多くが志願して祖国防衛に参加しています。 彼らの貢献が、戦後に忘れ去られてはなりません。 コソボでも、ボスニア・ヘルツェゴビナでも、同じことが起きました。 IPS:政府関係者はこうした危険性を理解しているのでしょうか。 NK:率直に言えば、理解しています。ただ、今は戦争を戦いながら国家を維持しなければならないため、優先順位が極めて限られているのです。 IPS:戦後復興については、すでに議論が始まっていますか。 NK:議論そのものは適切な方向に進んでいます。問題は、それを実際の社会政策へどう落とし込むかです。ウクライナは地方分権が進んでいるため、地方自治体ごとの行政能力には大きな差があります。 ロマへの対応も地域によって大きく異なります。政策だけでなく、地方行政がそれを実行できるかどうかが重要です。現状では、例えば非公式住宅について代替的な所有証明を認める制度は整備されていません。 しかも被害があまりにも大きく、予算が不足しているため、行政はまず「手続きが簡単な案件」を優先せざるを得ない状況です。 IPS:最後に、なぜロマを戦後復興に包摂することが、ウクライナ全体にとって重要なのでしょうか。 NK:「国民全体が甚大な被害を受けたのだから、なぜロマだけ特別扱いする必要があるのか」と考える人もいるでしょう。しかし、本当に問うべきなのは、新しいウクライナをどのような国として築くのかということです。 ロマを非公式経済へ追いやり、学校教育から排除してきた構造的な問題を放置することは、ウクライナ自身の利益にもなりません。この戦争で、ウクライナは多くのものを失いました。 だからこそ、これからは国民一人ひとりの力を最大限に生かすことが必要です。 誰もが自分らしく生き、それぞれの能力を経済、政治、文化の発展に生かせる社会を実現すること。それこそが、真の復興なのです。 INPS Japan/IPS UN BUREAU...

キューバ、最後の一手

この駆け引きの本質は、キューバの変革の条件を誰が決めるのかという一点にある。 【メキシコシティーIPS=サンドラ・ヴァイス】 ベルリンの壁が崩壊し、東側共産圏が消滅してから37年。キューバでは社会主義体制の経済改革をめぐる議論が続いてきた。その論点は一貫している。国家による計画経済を縮小し、個人の裁量と責任を拡大すること―言い換えれば、非効率で腐敗した国家官僚機構を立て直すために、市場経済の要素をより積極的に取り入れるという発想である。|英語版| しかし、この間に大きな前進はほとんど見られなかった。自由化や市場開放の時期が訪れても、そのたびに統制強化へと揺り戻しが起きた。党や軍、官僚機構の保守派が何度も改革にブレーキをかけてきたのである。その背景には、改革が所得格差を拡大し、新たな富裕層への反発を生み出したことがある。そして何よりも、権力と統制を失うことへの恐れ、さらには「階級の敵」、すなわちキューバの文脈では米国帝国主義の浸透に対する警戒感があった。 底なしの穴への資金投入 ところが先週、事態は一気に動いた。 燃料不足のため多くの議員がハバナへ移動できず、定足数も十分ではないまま急遽招集された国会は、176項目に及ぶ包括的な改革プログラムを可決した。その内容は極めて広範囲に及び、多くの専門家が「歴史的改革」と評価している。 今回の改革では、社会主義経済の「聖域」とされてきた制度にもメスが入った。 まず、すべての国民を対象とした一律補助金制度は廃止され、今後は社会的弱者への重点的支援へと転換される。これは半世紀以上にわたり、国民がほぼ無料で食料や日用品を受け取ることを可能にしてきた配給制度「リブレタ(Libreta)」の終焉を意味する。近年、この制度は深刻な経済危機によって実質的に機能を失い、名目だけが残る状態となっていた。 もう一つの大きな転換点は地方分権である。 今後、国営企業や地方政府はハバナ中央政府への依存を減らし、人事や賃金を含む経営判断をより自主的に行えるようになる。 この極端な中央集権体制を痛烈に風刺した作品として知られるのが、フアン・カルロス・タビオ監督とトマス・グティエレス・アレア監督による1995年の名作映画『グアンタナメラ』である。同作品では、官僚主義のために遺体を埋葬するだけでも、島の東端サンティアゴ・デ・クーバから西端ハバナまで運ばなければならないという不条理が描かれている。 民間投資と市場開放へ 今回の改革では、国外へ移住したキューバ人(亡命者・移民)による国内への直接投資も認められる。 さらに、これまで協同組合に限られていた農業分野にも民間企業の参入が認められる。 かつて砂糖輸出大国として栄えたキューバ農業は現在、機械や肥料、技術、労働力の不足により壊滅的な状況にある。数百万ヘクタールもの農地が耕作されないまま放置され、食料の大半を輸入に頼っている。 輸入先には中国、トルコ、アラブ諸国が含まれるが、皮肉なことに、経済制裁下にある隣国アメリカからも食料を輸入している。 エネルギー分野でも民間投資が解禁される。また、個人が複数の民間企業を所有することも可能となる。 自由化はこれだけにとどまらない。 政府は貿易、外国投資、国際経済への統合を加速させる方針である。 具体的には、 民間銀行やマイクロファイナンス機関の設立を認可 外貨取引規制の大幅緩和 個人・企業による外貨口座の自由な開設 外国企業が国営人材派遣会社を介さず直接従業員を採用することを許可 外国企業に対する国営企業との合弁義務の撤廃 在外キューバ人による直接投資の解禁 などが盛り込まれた。 これらの措置によって、外国資本と新たな投資を呼び込むことが狙いである。 すでに遅すぎた改革か 実は、これらの改革の多くは何年も前から議論されてきたものだった。 中国やベトナムも長年にわたりキューバ指導部に市場改革を促してきた。歴史的な友好関係や地政学的・イデオロギー的な結び付きはあったものの、成果の見えないキューバ経済へ資金を注ぎ込み続けることに限界を感じていたからである。 15年前、ベネズエラから潤沢な石油供給を受け、米国ではバラク・オバマ政権が対キューバ関係改善を進めていた時期こそ、本来であれば改革を断行する絶好の機会だった。 しかし現在は状況がまったく異なる。 石油禁輸という「ダモクレスの剣」が頭上にぶら下がり、米国による介入の可能性も取り沙汰される中、国庫は空になり、国民からの政治的正統性も大きく失われている。 しかも、この改革が成果を上げるには、米国が制裁を解除し、キューバの世界経済への統合を後押しすることが不可欠である。 だが、現状ではそれは期待できない。 米国は地政学的優位を握っており、それ以上の政治改革を求めている。 マルコ・ルビオ米国務長官は数か月前、「政治改革と指導部交代が必要だ」と公言したが、ハバナ政府はこれを全面的に拒否している。 民主化の可能性 キューバ国会のホセ・ルイス・トレド議長は改革可決に際し、「改革は国家の社会的役割を放棄することを意味しない」と強調した。 一方、ワシントンの反応は冷ややかだった。 米国務省は今回の改革を「規模が小さく、遅すぎる上、表面的な煙幕に過ぎない」と一蹴した。 これは、体制への脅威が生じれば改革をすぐ撤回するという、キューバ政府の従来のやり方だという見方である。 双方の戦略は明確だ。 キューバは時間稼ぎを図り、秋の米中間選挙でトランプ大統領が勢いを失い、対キューバ強硬策への関心も薄れることを期待している。 一方、米国は当面ハバナを圧迫し続け、改革が本当に実行されるのかを見極める構えだ。 水面下での交渉では政治的圧力がさらに強まり、軍事介入という選択肢も完全には消えていない。 結局、このポーカーゲームの争点は一つである。 キューバの変革の条件を誰が決めるのか。 国民なき改革 しかし、この駆け引きの中で最も発言権が小さいのがキューバ国民である。 停電、水不足、食料不足に対する抗議デモは日常化しているが、そのたびに迅速かつ厳しく鎮圧されている。 ベネズエラとは異なり、キューバにはカリスマ的指導者や明確な政治綱領、幅広い支持基盤を持つ組織的野党は存在しない。 この状況は、当面は支配層に有利に働いている。 しかし、それが永続する保証はない。 改革が進み、国家への依存から自立する国民が増えれば、状況は変わる可能性がある。 東欧の民主化移行が示したように、市民社会はもちろん、残念ながら組織犯罪もまた、こうした変革期を巧みに利用する。 その結果として生まれる体制は、長期的混乱かもしれないし、マフィア型寡頭制かもしれない。あるいは民主主義へ向かう可能性もある。 民主化を実現するには、改革プロセスそのもの、とりわけハバナ政権に対し、慎重かつ国際的な支援が必要になる。 現時点でその役割を担いうるのは、メキシコやブラジル、そして国連やバチカンくらいしか考えられない。 欧州の存在感低下 現在のラテンアメリカにもEUにも、この問題を主導できる有効な超国家的枠組みや指導者は存在しない。 むしろEUは、キューバ問題において自ら影響力を失いつつある。 第一に、トランプ政権による制裁の結果、多くの欧州企業はキューバから撤退したが、ブリュッセルは有効な対抗措置を講じなかった。 さらに数日前、欧州議会では右派・保守派が多数を占める中、ミゲル・ディアス=カネル大統領への制裁と、キューバとの協力停止を求める決議が採択された。 これは、トランプ政権の対キューバ政策とほぼ軌を一にするものであり、欧州独自の戦略や利益を守ろうとする発想はほとんど見られなかった。 それは、EUが地政学・地経学の両面で存在感を失いつつあることを示す、また一つの象徴と言えるだろう。 サンドラ・ヴァイスは政治学者、元外交官。現在はフリーランス・ジャーナリストとして、『ディー・ツァイト』『ディー・ヴェルト』などドイツの主要紙に中南米情勢を寄稿している。出典: International Politics and Society(ドイツ・フリードリヒ・エーベルト財団〈Friedrich-Ebert-Stiftung〉Global and European Policy Unit発行)掲載記事。 INPS...