【国連IPS=タリフ・ディーン】
毎年国連広報局(DPI)は、メディアにもっと取り上げてもらいたい世界の10大ニュースを発表する。これは貧困、平和構築、経済開発よりも政治、殺人、セックススキャンダルが優先されていると暗に示唆したものである。
国連が15日に公表したリストは、世界のメディアがわずかしか、あるいはまったく扱うことのなかったさまざまな内容を含み、紛争が継続する地域での亡命希望者と避難民の窮状から地震の救済や戦後の復興にまで及んでいる。
「誰もが知っているとおり、武力衝突や紛争とその脅威が見出しになり、血が流れればトップ記事で、心温まる話はニュースにならない」とシャシ・タルール国連広報担当事務次長は話す。
「長年、読者の関心を引くような側面を指摘し、読むに値し、注目に値し、面白い内容にできるように協力して、開発問題はいい記事になると訴え続けてきた」とタルール事務次長はIPSの取材に応じて語った。
「今後も全力を尽くすつもりだが、読者や視聴者が記者にそうした開発関連記事をもっと見たいと伝えなければ(特に記事を見たときに圧倒的多数が肯定的な反応を示すなど)、メディア側にそうした内容は視聴者が興味を示す素材だと説得するのは難しい」と2004年からこの10大ニュースの発表を始めたタルール事務次長は語る。
なぜ主流のメディアや主要な国際通信社がいまだに政治的問題ばかりに注目し、開発関連問題への注目度は低くなる一方なのか問われ、タルール事務次長は逆に記者に「これはジャーナリストと記者が答えるべき問題だ」と反論した。
タルール事務次長が率いるDPIによると、世界が耳を傾けるべき10大ニュースには、リベリアの戦後復興、正当な亡命希望者が直面する新たな問題、コンゴ民主共和国の来るべき歴史的選挙、ネパールで継続している紛争に巻き込まれる子供たち、戦争で荒廃したソマリアの安定を脅かす干ばつの悪影響などが盛り込まれている。
さらに世界のメディアがあまり取り上げなかったニュースとして選ばれたのは、放置された数百万の難民の窮状、南アジアで起きた地震と津波被害の救援活動の問題、法を破ったとして拘束されている驚くほど多くの子供たち、乏しい水資源をめぐる争いを防いだ協力的な解決策、コートジボワールの和平プロセスを阻む可能性のある新たな武力衝突などである。
スリランカの元新聞記者で、以前駐米大使を務めたアーネスト・コリア氏は「先進国の(あらゆる)メディアは、読者や視聴者が大きな関心を持つという理由で、イラク、イラン、核拡散といった問題に注目する」という。
「こうしたメディアは争いの文化に影響されている」とコリア氏はIPSの取材に応じて語り、「そのためにどんなものでも面白い戦いがニュースになり、戦いが起きる前にニュースになることもある」と語った。
「その結果、3人の同性愛の候補者の争いということで、カリフォルニアの司教選挙の準備運動がニュースの見出しを飾る。話題の3人は皆落選という結末だったのだが」
対照的に、途上国では読者や視聴者の主な関心は開発関連問題にあるとコリア氏は指摘する。けれども公正を期していえば、世界の主要新聞が開発関連問題を扱うときは優れた理解と内容を備えた記事になっているとコリア氏は話す。コリア氏は現在ワシントンで国際的な金融機関のコンサルタントをしている。
これまでに、非同盟通信社連合、ジェミニニュースサービス、デプスニュースなど、途上国に焦点を当てた通信社を設立しようと国際的な努力がなされてきたがうまく進展していない。
政治的に偏り、報道の専門知識が足りなかったのだろうか。あるいは欧米の巨大メディアに対抗するためには資金不足だったのだろうか。
「何よりもこうした通信社は、政府の意向を受け売りする組織になるのではないかという当然の不安があった。というのも政府の資金援助を受けており、関与する政府が発するメッセージについて自由なメディアが正当な疑問を持つときに、歓迎されない自由な通信社に代わるメディアの役割を果たすと思われた」とタルール事務次長はいう。
「もちろん政府の支援にもかかわらず嘆かわしいほどに資金不足で、ニュース市場でも彼らのニュースは信用を勝ち得ることができなかった」
コリア氏は別の見方をする。これまでの努力はすべて、それぞれ事情は異なるが、共通の問題を抱えていたとコリア氏はいう。「途上国のメディアの協力」が得られなかったことである。
「ジェミニとデプスニュースは通信社というより、特集記事を配信していた。ジェミニの特集は十分に専門的な商品であり、創立者のデレク・イングラムは果敢にもその路線の維持に努めたが記事を買ってくれる顧客が足りなかった」とコリア氏は言い添えた。
今年初めに、マレーシアは非同盟運動に加盟する114カ国の議長国の立場から、非同盟ニュースネットワーク(NNN)の創設に乗り出した。
このNNNが現在の問題の解決になるのかと問われると、タルール事務次長は「解決する可能性はある。というのも情報を操作するのではなく開かれた情報交換のモデルに基づいており、各国の通信社の特派員と共にフリーのジャーナリストに投稿を解放していると理解している」と語った。
そうであれば情報を抑圧するのではなく貴重な情報源を増やすネットワークと考えられ、「NNNの実際の活動を楽しみにしている」とタルール氏は話す。
コリア氏は「マレーシアが始めたこのNNNは、経済的支援がしっかり確保され、通信専門機関として運営されれば十分に成功するチャンスはある」とする。
現在途上国の多くは国連の記者団に代表をあまり派遣していない。おそらく第三世界の多くの国、あるいはその通信社には、ニューヨークに正規の特派員を常駐させる余裕がないからだ。
この事態を改善するために国連は何ができるか問われると、タルール事務次長は「残念ながら何もない」と答えた。もし国連が途上国のジャーナリストに何か補助金のようなものを出して経済的負担を軽減しようとすれば「国連は記者団に金で影響を与えようとしていると責められても仕方ない」。
「途上国が認定したジャーナリストが国連に来れば、できる限り便宜を図り支援して、仕事場、交通手段などに関して不利な条件を最小限に抑えて仕事に専念できるようにすることは保証できる。国連に来ている途上国のジャーナリストがその点で不満を持っているとは思わない」と言い添えた。
コリア氏は「国連の支援を求めて問題解決を図るのははっきりいって間違った方法だ」とし、途上国の新聞などの間での協力が問題解決につながるのではないかという。
さらに「途上国のメディアには国連で活躍するインタープレスサービス(IPS)を支援し、時間と空間を共有して協力していくという選択肢もある」と語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan 浅霧勝浩