【ニューヨークIPS=マット・ホーマー】
世界の穀物備蓄量が記録的な少なさになり、食物価格は各地で高騰している。この原因はいったいどこにあるのだろうか。
欧米では工業的農業の手法が定着している。この手法は確かに作物の生産量を増やすことはできるが、その代わりに、アグリビジネスによる独占と環境破壊という問題を引き起こしている。
先日発表された「開発のための農業科学技術国際評価」(IAASTD)の最終報告書では「巨大なアクターが食物の生産・加工・販売に圧倒的な影響を与えている」と評価されている。このために農家と消費者との関係が切れてしまうと同時に、巨大ビジネスが利益を独占する結果となっている。
農業問題の専門家ラージ・パテル氏によると、この20年間で食物生産は毎年平均2%伸びているにもかかわらず、農民の収入は4割減ったという。また、全米農民同盟(NFU)の推計によると、米国の消費者が食物のために支払う1ドルのうち農民や牧畜業者の手に渡るのはわずか20セントである。その他の部分は、加工・流通・小売業者が手にする。
ミズーリ大学のメアリー・ヘンドリクソン氏の研究によれば、米国におけるアグリビジネスの影響力はとみに増している。大豆の粉砕においては上位4社が市場の80%を独占し、小麦製粉では上位4社が60%を独占している。
また、種子供給ではトップ2社が市場の58%を占め、食料小売部門の約半分はわずか5社が抑えている(ウォルマート、クローガー、アルバートソンズ、セイフウェイ、アホルド)。
このような市場の寡占状態は消費者にとって決してよい結果を生まない。競争がなくなって企業が食物価格を不当に釣上げることができるからだ。
消費者だけではなく農民も巨大アグリビジネスに支配されることになる。たとえば、農民は種子や肥料の入手に関して巨大企業に依存せねばならない。種子の知的財産権をこれらの企業が保有している場合、農民は種子を貯蔵しておくことを許されず、翌年新しい種子を買いなおすことを迫られる。
こうしたアグリビジネスの独占体質は、みえない外部環境を破壊することによってしか成立しえない。水資源の浪費、肥料の大量使用による土壌の破壊、モノカルチャーの推進による生物多様性の喪失など、さまざまな問題が発生している。
多くの科学者らは、現在のような手法を採らなくとも、伝統的な農法と近代的な農法を組み合わせることでじゅうぶんな量の食物を確保できると考えている。また、これによって、食物価格も下げられるし、環境への負荷も小さくなる。
まず何よりも、アグリビジネスの影響力を抑えて農民の手に決定権を取り戻すことが必要だ。それが多くの人々の結論である。(原文へ)
翻訳=山口響/IPS Japan浅霧勝浩