【プノンペンIPS=アンドリュー・ネット】
カンボジアでは繊維産業における労働搾取工場撲滅運動が展開されてきた。しかし米国の景気後退で、他に類を見ないこの実験的試みの先行きが危ぶまれている。
カンボジアの繊維産業は、70%を米国に輸出している。また繊維産業の輸出は、カンボジアの総輸出高のおよそ80%を占める。産業の雇用数も多く、総人口1300万人のこの国で、100万人が直接・間接的に繊維産業に依存しているとする推定もある。
「組織的に労働搾取工場の撲滅に取り組む唯一の国として、その成否は重要」と話すのは、プノンペンに本拠を置く作家Rachel Louis Snyderさんである。
Snyderさんは最近米国で著書『Fugitive Denim: A Moving Story of People and Pants in the Borderless World of Global Trade』を刊行した。カンボジアの章では、カンボジアの対米繊維輸出の割当を労働搾取工場の撲滅に関連づけた貿易協定がカンボジア政府とクリントン政権の間で締結された背景を取り上げている。
協定により、カンボジアは、労働法の改正、労働組合結成の容認、国際労働機関(ILO)による工場監視受け入れとその結果の公表が義務付けられた。
Snyderさんによれば「これによりカンボジアは大きな実験場となった。うまくいくかどうか大きな疑問だったが、成功した。産業は成長し、労働・社会保障条件は大幅に改善した」
この貿易協定は、カンボジアが世界貿易機関(WTO)に加盟した2005年1月に失効したが、米政権は、一定のカテゴリーにおいて中国が一定量以上の繊維製品を輸出できないように一連の暫定的割当を設定した。
しかし、カンボジアの繊維産業保護のこうした施策も2008年末に終了する予定である。国際基準から見ればまだ未熟なカンボジアの繊維産業が、労働・社会保障条件がカンボジアほど良好ではない中国やベトナムなどの有力産業に圧倒されるのではないかとの危惧が生じている。
「世界的景気後退の可能性が懸念される時期に、これらの施策が終了される。消費者がより安い衣類を求めるようになるのに。経済的圧力が強まれば、まず労働法と社会保障条件に手がつけられる。カンボジアにとって正念場となる。この素晴らしい実験を失う危機にある」とSnyderさんは述べている。
カンボジアの労働搾取防止の試みを巡る動向を報告する。
INPS Japan 浅霧勝浩