【IDN東京=石田尊昭】
昨年10月の解散・総選挙から今日にいたるまで、野党の「迷走」が止まらない。
民進党時代、安保法制に先陣を切って反対していた某議員は、同法に肯定的な希望の党に嬉々として移り当選を果たした。しかし、選挙期間中からその後にかけて、希望の党が失速するやいなや、再び安保法制には反対だと言い出した。
その言動があまりにも露骨だったため、今でも彼に対する批判の声は多い。しかし、某議員だけの問題ではない。あの解散時、同じような動機(すなわち自己保身)で動いた候補者の数は、少なくとも一ケタではないはずだ。さらにそれは民進党に限ったものでもなかった。
安保法制の是非はともかく、こうした自己保身で政党や政策を変える政治家に、多くの有権者が失望や怒りを覚えたことだろう。今となっては、個々の政治家よりも、野党全体に対する不信や失望が強まっているように思える。
この1月に行われたNHKの世論調査では、政党支持率が自民党38.1%に対し、野党では最も高い立憲民主党で9.2%、次の共産党が3.6%だ。民進党、希望の党、日本維新の会はいずれも1%程度しかない。時事通信でも、自民28.1%に対し、立民が6.2%、共産が2%で、民進・希望・維新はいずれも1%を切っている。野党全体を合わせても、自民党の半分もしくはそれ以下という状況だ。
政党政治における「一強多弱」は、国民にとって望ましい姿とはいえないだろう。一強状態では緊張感が薄れ、政治運営も政策も緩慢になる可能性が高い。また、反対勢力を気にする必要がないため、誤った方向へ独善的に突き進む可能性もある。
憲政の父・尾崎行雄は、善政を敷くためには与野党が互いに睨み合い、いつでも政権交代可能な緊張状態にあることが重要だと言う。政権担当能力を持った、より良い対案を示せる野党が存在し、政権・与党に緊張感を与えながら互いに競い合うことで、より良い政治・政策が実現されるというわけだ。
前述の安保法制を取りまとめた、現・自民党副総裁の高村正彦氏は、近著『国家の矛盾』の中で民主党政権の誕生と凋落に触れ、「今度は5年10年は国民が納得するような提案を出して、政権を取ってもらいたい・・・自民党が困るくらいの野党が出たほうが、日本の政治のためになる・・・」と述べている。これは「一強多弱」の余裕から出た皮肉ではない。国家国民のためには与野党の健全な対峙が必要であるという、政党政治家としての矜持である。
野党を育てるのは、われわれ有権者の責務でもある。そのためには、政党を構成する議員一人一人の資質を厳しく見定め、声を上げていくことが不可欠だ。
以下は、日本で最初の国会が開催される前年に、尾崎行雄が記した「国会議員の資格十カ条」である。もちろん野党のみを念頭に置いたものではないが、健全な野党を育む一助として、多くの有権者に常に見つめ直してほしい内容である。
「国会議員に重要な資格中、最も重要なるものの十カ条」
(一)国会議員は広く内外の形勢を明らかにし、当世の事務に通ずるを要す。
これは政府の法律によって設定することの出来ない資格で、それは財産年齢などより重要である。
(二)国会議員は道徳堅固なるを要す。
これ自体に誰もが同意するが、世の人は金科玉条を軽率に看過するので、却って実行されないものである。実行こそ重要なことだと注意すべきである。
(三)国会議員は公共心に富むを要す。
これを如何に養成することが出来るかは容易ではないが、しかし、公共心の有無、厚薄が常に国家の盛衰興亡の原因となっていることから、この公共心の価値を知るべきである。
(四)国会議員は権勢に屈せざるの勇気あるを要す。
我が国では多年にわたり官吏を威張らした為、とかく官吏は人民を侮り、人民は官吏を畏れる傾向がある。
(五)国会議員は名利心の薄きを要す。
権勢に屈しない勇気があって、名利心薄くなければ毀誉の為に屈し、利害の為に迷うの憂いがある。
(六)国会議員は自説を固守するの貞操あるを要す。
間違った主義を持つと、全く無主義よりは優るとは、西哲の金言である。無主義の変改ほど無益なものはない。
(七)国会議員は独立の見識あるを要す。
独立した見識なく、恰も楊柳の風に靡くが如く誘わるるまま西に行き、東に赴く者多ければ、一定不変の進路を取ることも出来ない。
(八)国会議員は思慮周密なるを要す。
政令が度々変化して、朝令暮改が多いのは弊害が大きい。
(九)国会議員は穏当着実なるを要す。
過激の言論、痛快の挙動は避ける必要がある。過激粗暴の人は深く時勢民情を洞察することが出来ない。
(十)国会議員は多少の弁舌あるを要す。
充分に其の思想を説明するの弁舌を有しながら、みだりにこれを使用せざる人物を選ぶべし。
INPS Japan
*石田尊昭氏は、尾崎行雄記念財団事務局長、INPS Japan理事、「一冊の会」理事、国連女性機関「UN Women さくら」理事。