【ワシントンIPS=ジム・ローブ】
権威あるティンドール・レポートが発表した最新の報道年次報告によると、米兵20万人強が関係する2つの戦争およびグローバル経済危機にも拘わらず、米3大テレビ局による2008年外国関連ニュースは最低を記録した。
大統領選および石油高騰、その後の金融危機の国内影響報道に押され、米市民の殆どが国内/国際ニュースの第1情報源としている3大ネットワークの夜30分のニュース番組が取り上げた国際/海外問題は、同報告が始まった1988年以来最も少なかった。
ティンドールの創設者で発行人のアンドリュー・ティンドール氏は、IPSに対し「2008年は国内ニュースにとって特別な年であったので、1年後には、国内ニュースが比較的少なければ外国報道がもり返すのか、あるいは2008年の傾向が大手メディアの真の転換期であったのかを検証する」としている。
「大きな選挙がなく、経済問題も解決されれば国際ニュースは復活するだろう。あるいは、世界のニュースに関心のある人は、インターネットを更に活用することになるかも知れない。そしてテレビ・ネットワークは‘国際問題に関心のある個人はどうぞインターネットへ’と言うかも知れない」と同氏は語る。
約2,300万人の米国居住者は、平日夜の3大ネットワーク・ニュース番組を22分見ている。CNN、フォックス・ニューズ、MSNBCを含むケーブル・ニュースを見ている視聴者の数は大幅に増加しているが、ネットワーク・ニュースの視聴者は依然10倍に上る。
ピュー・リサーチ・センターが先月発表したピープル&ザ・プレスのための最新調査では、2008年には約70パーセントの人がテレビを国内/国際ニュースの主要情報源にしていたという。また、インターネットが、国内/国際ニュースの主要情報源として、特に若者の情報源として日刊紙を上回ったという。
ABC、CBS、NBCの3大ネットワークは国内/国際ニュースに年間合計約15,000分を、あるいは夜の30分ニュース番組のうち約22分を費やしている。
同報告書によれば、2008年に最も多く取り上げられた話題は大統領選で、放送時間は約3,700分。少なくとも1988年後のどの大統領選よりも多く報道された。
住宅市場低迷、ガソリン価格高騰から9月中旬の金融危機とその後の救済策といった経済関連報道は約2,800分と過去21年間で最も多く、1990年および2001年の2回の不況時と比べ放送時間は約1,000分多かった。
ティンドール氏によれば、国際関係報道は約1,900分で、共和党議会がビル・クリントン大統領の国際課題、特に国連および他の多国参加フォーラムへのコミットメント抑制に成功した1990年代中頃のレベルに近かったという。
同氏は、「9・11後に皆が、国内問題に没頭する余り90年代にグローバルな展望を持たなかったことは大きな誤りだったと言った。ネットワーク・メディアは、世界、特にイスラム世界の報道に大きな努力を払ったが、それは、2001年以来最低の国際報道となった昨年のレベルにまで落ち込んでしまった」と語る。
3大ネットワークの2008年報道トップ20では、未だ13万人を超える米兵が派遣されているイラク戦争が放送時間244分で、海外トピックの第1位。オバマ次期大統領、ジョン・マケイン氏、ヒラリー・クリントン氏の選挙戦、金融安定化策、石油/ガソリン価格、株の暴落に次いで7位にランクされた。
しかし、244分は、合計約1,200分の2007年イラク戦争報道と比べればほんの僅かである。7月に発表された特別報告書の中で、ティンドール氏は当時のイラク米司令官デイビッド・ペトレイアス大将が議会公聴会において「拡大」戦略を首尾よく擁護してから2007年9月までのイラク報道急減を追った。
2003年から2007年末まで、3大ネットワークは同戦争を毎週平均31分放送したが、昨年は平均僅か6分となった。ニューヨーク・タイムズは先週、3大ネットワークはバグダッドへの正規雇用特派員派遣を停止した旨明らかにした。実際、昨年の244分ののうちイラクからの中継は僅か88分であった。
海外トッピック第2位、全体第9位は、放送時間236分の北京オリンピックであった。しかし放送のほとんどは米国選手のメダル獲得に集中していた。更に、そのスポーツ部局が米国への独占放送権を所有していたNBCの北京放送は他の2社を大幅に上回っていた。
同報告書のトップ20にランクされていた他の外国トピックはアフガン戦争で、放送時間126分、第17位。米国を襲った竜巻の報道と同位であった。2008年は、米国およびNATOの7年に及ぶ戦闘の最悪の年であった。そして、米政府が今後約6か月間で兵士35,000人を派遣し約6万人とすれば、同戦争は2009年の海外トピック第1位となろう。
他の海外トピックには、オリンピック直前の中国四川大地震(119分。うち94分は中国からの報道)、先月のムンバイ同時多発テロ(70分。うち40分はインドからの報告)、ミャンマーのサイクロン・ナルギス(65分)、ロシア・グルジア紛争(53分。うち44分は外国通信)、イスラエル・パレスチナ紛争(47分)、ジンバブエ情勢(47分。うち26分は市域からの報道)などが含まれる。
フォーリン・ポリシー・マガジンの編集者モーゼス・ナイムはネットワークの国際報道激減を憂慮している。「国際的性質の金融危機に直面している時に、この国が2つの戦争を行っているとは、また国民の運命が米国の国境を越えて起こる事柄にこれまでになく深く関係している時にネットワークが外国報道の削減を決定するとは、皮肉かつ矛盾している」と同氏は語る。
ナイム氏は、過去2年間急激に発行部数、広告収入が減っている新聞は、海外支局を閉鎖していると指摘する。(しかし)「これは国民にとっては残念なことだが、我々のような雑誌には良いことだ」という。
実際、ピューのジャーナリスム向上プロジェクト(Project for Excellence in Journalism)が7月に発表した報告書によれば、米新聞の2/3が海外ニュースの報道紙面を縮小したという。(原文へ)
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩
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