【シンガポールIPS=プリメ・サルミエント】
シンガポール在住のフィリピン、インドネシア、スリランカ出身の家庭内労働者150,000人以上が持つ一番の問題は、この豊かな都市で月に200ドルから300ドルという適正な賃金を受取っても、帰国して生活する十分な資金を貯蓄出来ないことだ。
家庭内労働者が、虐待的な雇用主の元で働かなければならない事件は国際的に大きく報道されているが、実際はこの問題の方が大きい。
2001年に国連女性開発基金(UNIFEM)が実施した調査によると、シンガポール在住の出稼ぎ労働者の目的は、国へ帰る資金を貯めることと手に職を付けることだった。
UNIFEMシンガポール代表のサレーマ・イスマエール氏によると、家庭内労働者は収入のほとんどを祖国の家族に仕送りしてしまい、将来のために蓄える分さえ残さないのだそうだ。一方、支援を受ける家族は、そのお金でビジネスを始めたり土地を購入したりせずに散財してしまうという。
「家庭内労働者はたくさん稼ぐので、家族を支えなければと罪悪感を抱く」とイスマエール氏は言う。出稼ぎ労働者への金銭教育が重要だ。「金銭が管理できれば、人生も管理できる。」
2005年、アジア開発銀行(AsDB)が発行した出稼ぎ送金に関する調査でも、金銭教育を出稼ぎ労働者の状況改善手段の1つとしている。
「出稼ぎ労働者は、自分の時間もなく、自分の一般的な権利や選択肢も(仕送りに関する物を含めて)知らない。教育を受ければ、情報に基づいた社会的、経済的決断が可能だ」とアジア開発銀行は述べている。
2006年UNIFEMは、家庭内労働者向けの金銭教育を専門で行うシンガポール唯一の組織として創設されたAidhaに、16,000シンガポールドル(約10,000米ドル)の活動開始資金を提供した。
創設者であり代表を務めるサラ・マブリナック氏は、起業家精神や金銭管理の教育をすれば、労働者が帰国後に生計を立てる助けとなると言う。
Aidhaは会計、起業家精神、効果的なコミュニケーションスキル、コンピューター操作、時間管理、自尊心の向上などのワークショップを行っている。ボランティアが教える各コースに生徒はわずか25シンガポールドル(16米ドル)で参加出来る。
マブリナック氏は、経済金融危機で皆が仕事の心配をしている今こそ金銭教育が重要だと考える。家庭内労働者はたいてい一家の稼ぎ手となっているので、金銭管理を学んで家族を危機にさらさない様にしなければならない。
しかし、ワークショップに参加するより学んだことを実践する方が大事、とマブリナック氏は言う。「行動を変えなければならないので大変だ。預金口座を実際に作って、管理しなければならない。」
Aidhaは、友人と作る金銭教育のクラブ、「財務羅針盤投資クラブ」に入ることを積極的に勧めている。メンバーは週に1度人生設計の指導員と会い、貯蓄目標と優先順位に関して話合い、目標達成のための毎月の貯金額を計算し、目標実現に必要な予算を貯める。
出稼ぎ労働者が抱える問題を教育で改善するシンガポールでの取組みについて報告する。(原文へ)
翻訳/サマリ=IPS Japan 浅霧勝浩