【ニューヨークIPS=ダニエル・ルーバン】
ブッシュ前大統領の外交政策は、普遍的優位性と民主主義を目指す米国の原則からの逸脱だったのだろうか。それとも常に存在していた衝動の現れだったのか。イラク戦争は伝統の進歩的国際主義(ウィルソン主義)の発現だったのか背信だったのか。オバマ新大統領が進歩的国際主義に回帰すれば、ブッシュの生み出した混迷を修復できるのだろうか。
新刊書「The Crisis of American Foreign Policy: Wilsonianism in the Twenty-First Century (米国の外交政策の危機:21世紀のウィルソン主義)」(プリンストン、2009年)の中で、4人の米国の政治学者、G.ジョン・アイケンベリー、トマス・ノック、トニー・スミス、アンマリー・スローターがこの問題を論じている。
しかしながらこの本では、ブッシュおよびウィルソンの主張に関してほとんど一致がみられず、過去8年の過ちを繰り返さないための施策についても十分な結論は出ていない。論点は、ウィルソン国際主義のビジョンの根底にあるのは多国籍機関の重視か、あるいは民主主義促進かで、前者であればイラク戦争は否定され、後者なら肯定される。
ウィルソンビジョンが20世紀にどのような意味をもったかについて、アイケンベリーとノックは、冷戦に阻まれ平和な地球社会は実現しなかったことを指摘する。そもそも進歩的国際主義は平等な地球社会を目指しながら、米国の言いなりになる国際機関を頼みの綱としてきた。だがブッシュが国際協調をより重視していればイラク戦争は正当化されたのだろうか。
国務省のスタッフに任命されたばかりのスローターは、進歩的国際主義の枠組みではイラク戦争を正当化できないと主張し、民主主義は武力で押し付けるものではないとしながら、国際社会は支配者の残虐行為から武力で人々を守る責任があるとしている。
一方、スミスはウィルソン主義がイラク戦争の正当化に利用されていると批判する。スローターがブッシュ政権の本質は一国主義とするのに対し、スミスは民主主義の促進と考える。けれどもイラク戦争は当初、理想より威嚇への対応であり、人権より大量破壊兵器、民主主義より国益が問題だった。
おそらく次の戦争の動因は、人道主義ではなく外的脅威への対策として正当化される。必要とされるのは進歩的国際主義の断念だけではなく、米国の国益と米国への脅威の現実的評価となる。イラク戦争の否定が広まる中で、過去の過ちを繰り返さない方法はいまだ不明である。
イラク戦争とウィルソン主義を論じた本について報告する。
翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩