【国連IDN=タリフ・ディーン】
ウクライナ戦争は、ロシアと米国の正面衝突ではないかもしれないが、世界の二大軍事・核保有国の重厚な軍事兵器庫の戦いであることは間違いない。
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は3月22日の記者会見で、「この戦争に勝者はいない」と力強く明言した。
「遅かれ早かれ、戦場から和平交渉のテーブルへと移らざるを得ないだろう。これは必然なのだ。問われるべき疑問は、どれほどの人命が、さらに失われなければならないか。どれほどの爆弾が、さらに投下されなければならないか。どれほどの都市が、マリウポリのように破壊されなければならないのか。」
「この戦争に勝者はなく、敗者しかいないと誰もが気づくまでに、どれほどのウクライナ人とロシア人が殺されるのか」とグテーレス事務総長は問いかけた。
しかし、2月24日のロシア軍のウクライナ侵攻以来、配備された驚異的な兵器の数から判断すると、究極の勝者はおそらく世界の武器商人だろう。ウクライナ戦争を背景に、防衛関連株が上昇し続けている。
米国を中心とする西側諸国の兵器システムで武装したウクライナ軍は、これまでのところロシア軍の侵攻を食い止めている。しかし、ロシア軍は3月19日に初めて配備された極超音速ミサイルなど、ウクライナ軍と比較して最も高度な兵器で武装している。
ウクライナ軍を強化しようとしているバイデン政権は、新たに8億ドル相当の追加支援を承認し、軍事支援の総額は20億ドル以上になった。これは、軍事支援と人道支援双方を含む130億ドルに及ぶ高額な支援パッケージの一部である。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を「戦争犯罪人」「凶悪犯」と呼んだジョー・バイデン大統領は、ウクライナ軍が自国民を攻撃してきた(ロシアの)航空機とヘリコプターを阻止して領空を防御できるよう対空ミサイルシステム800台、戦車や装甲車を破壊する対装甲システム9000台、機関銃やグレネードランチャーなどの小型武器7000個、弾薬2000万発を含む新しい安全保障支援策を発表した。
3月19日の記者会見で、米国のアントニー・ブリンケン国務長官は、「我々はまた、ゼレンスキー大統領の要請により、ウクライナの長距離対空システムおよび軍需品の入手を支援している。また、クレバ外相とほぼ毎日連絡を取り合い、ウクライナの最も緊急なニーズに迅速に対応できるよう調整している。」と語った。
また、ブリンケン氏は記者団に対し、「同盟国やパートナーは、独自の重要な安全保障支援物資の輸送を継続して行っている。私は10数カ国に米国製の装備を提供する権限を与え、さらに世界中の数十カ国が独自の安全保障支援を提供している。」また、「国防総省からの支援に加え、外交安全保障局からの1000万ドル相当の装甲車など、米国の他の機関からの支援も送っている。」と語った。
欧州諸国からの武器については、ニューヨーク・タイムズ紙が3月3日付で、「オランダは防空用のロケットランチャー、エストニアはジャベリン対戦車ミサイル、ポーランドとラトビアは地対空ミサイルのスティンガー、チェコはマシンガン、スナイパーライフル、ピストル、弾薬などを送っている。」と報じている。
スウェーデンやフィンランドなど、以前は中立だった国からも武器が送られてきている。また、紛争地に武器を送ることに長い間アレルギーを持っていたドイツも、スティンガー他の携行式防空ミサイルシステムを送っている。
タイムズ紙は、北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)の加盟国を中心に、全部で約20カ国がウクライナに武器を供給していると指摘した。
英国が贈ったのは、スウェーデンのサーブの製品だが、ベルファストの工場で組み立てられている次世代携行式対戦車ミサイル(NLAWs)である。
ニューヨーク・タイムズ紙によると、英国はウクライナに4200台のNLAWを送っている。この兵器は「近接防御型の対戦車兵器としては最高の部類に入る」と評されている。
ウクライナに提供されたこれらの兵器は、ほとんどが軍事・治安支援であり、遅かれ早かれ提供国によって交換されなければならない。
デューク大学サンフォード公共政策大学院のナタリー・J・ゴールドリング客員教授は、IDNの取材に対して、「米国政府は、ロシアとの直接対決に巻き込まれることなくウクライナを防衛しようと、極めて危険な瀬戸際外交を行っている。」と語った。これが悪い方向に向かう可能性はいくらでもある。
「米国政府は、ウクライナの自衛を支援するという宣言した目的が、ロシアのプーチン大統領にそのように評価されると思い込んでいるようだ。それどころか、ロシアは米国やNATOの武器供与を攻撃的な行為とみなしている。防衛的な兵器の移転を行うことは、リスクとして取るに値するかもしれないが、起こりうる結果を考慮し、関連するリスクを減らす努力をすることが重要である。」
例えば、通常兵器に注目が集まっているが、プーチン大統領は、ロシアの核戦力を高度警戒態勢に置くことで、すでに核兵器使用の可能性を紛争に持ち込んでいる。
国連でアクロニム研究所の代表も務めるゴールドリング博士は、「事故や誤算、あるいはプーチン大統領の戦争に『勝ちたい』という欲望から核兵器が使用されるリスクは、受け入れがたいほど高い。」と指摘したうえで、「ロシアの核兵器使用に対する不安と恐怖の現状から学ぶべき。このことは、核軍縮と核兵器禁止条約の完全履行の必要性について、世界の理解を深めるはずだ。核兵器はこの紛争を悪化させ、莫大な人命を失う危険性があるだけで、何の役にも立たない。」と語った。
専門家らはしばしば、攻撃的な兵器と防御的な兵器を区別している。ウクライナ戦争は、戦車と戦うための最良の答えが、しばしば戦車ではないことを示す強力な事例である。ウクライナの場合、ロシアの攻撃から身を守るために、圧倒的に劣勢な状況で、対戦車兵器を効果的に使っている。
「ウクライナ軍の自衛のための武装を支援すべき」という当面の圧力は強烈だ。しかし、より長期的な視野で考えることも忘れてはならない。米国はアフガニスタンでムジャヒディンにスティンガー対空ミサイルを提供したが、その後、その多くの行方を見失ってしまった。ウクライナ軍への武器提供を急ぐあまり、どのような安全策がとられているのか不明だ。誰がこれらの兵器が目的の相手に届くのを確認するのだろうか。ロシア軍の手に渡らないようにするにはどうすればよいのだろうか。」と、ゴールドリング博士は警告した。
「米国の兵器メーカーが、政府が許可するところならどこでも、兵器の販売に積極的に関与し続けるインセンティブが強力である。レイセオン社とロッキード・マーチン社の株価がロシアの侵攻以来急騰しているのは驚くことではない。」とゴールドリング博士は語った。
2月28日付のロンドン・ガーディアン紙は、「ロシアのウクライナ侵攻で防衛・サイバーセキュリティ関連銘柄が上昇」という見出しの記事を掲載した。
レイセオン・テクノロジーズ、ロッキード・マーチン、ノースロップ・グラマンが株式市場で株価を上昇させたと紹介されている。
一方、ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)によると、人口密集地で広範囲に効果を発揮する爆発性兵器を使用することは、不法で、無差別かつ不均衡な攻撃の可能性を高めるという。これらの兵器は破壊半径が大きく、本質的に不正確であり、同時に複数の弾丸を投下する。
「これらの兵器使用がもたらす長期的な影響には、民間の建物や重要なインフラへの被害、医療や教育などのサービスへの干渉、地域住民の移住などが含まれる。」
HRWは、ロシアとウクライナは人口密集地での爆発性兵器の使用を避けるべきであると述べた。
ロシアとウクライナを含むすべての国は、人口密集地での広域効果を持つ爆発性兵器の使用を避けるという約束を含む強力な政治宣言を支持するべきだ。
一方、国連のステファン・ドゥジャリク報道官は3月21日の記者会見で、「2月24日以来、1000万人以上が安全と安心を求めて故郷を追われ、これはウクライナの人口のほぼ4分の1に相当する」と述べた。
この中には、国際移住機関(IOM)によると、国内避難民の男性、女性、子どもが推定650万人、国連難民機関によると、難民としてウクライナから国境を越えて出国した人が350万人近く含まれている。
人道支援組織は人身売買や性的搾取のリスクを懸念しており、IOMは人身売買防止策を拡大し、移動中の難民や「第三国」国民に検証済みの安全な情報を提供している。また、IOMは地域のホットラインを強化し、重要な安全情報やリソース情報を提供することにしている。
世界保健機関(WHO)によると、昨日、ウクライナで医療施設への攻撃に関する6件の追加報告を確認した。3月20日現在、WHOは25日間で52件の医療機関への攻撃を確認している。(原文へ)
INPS Japan
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