私たちキューバ人は、世界中を襲っている「経済危機」という言葉を聴いても、おそらくもっとも小さな恐れしか抱かない人々であろう。というのも、ポストソ連期の1990年代、私たちは長期にわたるモノ不足と貧困に悩まされたからだ。それは、婉曲的に、「平和な時代の特別期」と呼ばれている。私たちは、食料や電気、交通手段、住宅、医療、衣服などあらゆるものがない時代を生き抜くすべを学んできた。
停電が毎日のように起こり、主要な移動手段が自転車であった90年代、キューバではあるジョークがはやっていた。それは、「キューバ人にはたった3つの悩みしかない。それは、朝食、昼食、夕食だ」。
世界的な経済危機の中で、昨年来の食料価格、燃料価格の上昇にキューバ政府が対処しなければならな
かったのは事実だ。しかし、私たちが長く苦難のときを経験してきたことを考えれば、現在の危機はそれほどキューバの現状と関係がないのである。問題は、キューバにおける生産性の低さの方だ。
その意味で、キューバは、G7やG20よりも、あるいは、資本主義的な金融・経済システムの改編よりも、キューバ政府自身が2年前に開始した社会的・経済的改編の方に希望を持っている。
とりわけワシントンからもたらされた最近の変化は、キューバへの渡航や送金への制限が緩和されたことだ。いまだ禁輸の解除まではいっていないが、キューバ人に希望を与えている。
1980年以降に生まれた世代は、生まれて以降ずっと、物資不足の中を生きてきた。彼らの中には、国外に逃げたり、暴力に走ったりする者も少なくなかった。世界的な経済危機は私たちを縮みあがらせるものではないけれど、90年代以降の状況は、私たちの社会に消えない影響を残し続けているのである。(原文へ)
翻訳=山口響/IPS Japan浅霧勝浩