【東京IDN-InDepth News=浅霧勝浩】
もし「核兵器のない世界」を、現実からかけ離れた単なる夢で終わらせないとするならば、核兵器保有国は、来年5月にニューヨークで開催予定の歴史的な核不拡散条約(NPT)運用検討会議において、政治的な意思、リーダーシップ、及び柔軟性を発揮しなければならない。
これは日本の本州北西部に位置する新潟市を舞台に、米国、中国、フランス、ドイツ、日本、中東諸国を含む21カ国から約90人の政府関係者や研究者らが参加して3日間に亘って開催された国連軍縮会議における結論である。国連軍縮会議は、89年以降、毎年日本で開催されており、今回で21回目となる。
この年次会合は、国際社会が直面している差し迫った安全保障問題や軍縮関連の問題について率直な対話や意見交換を行うことができる重要な公開討論の場と考えられている。また会合では、アジア・太平洋地域の国々に関わる軍縮及び核不拡散の問題についても検討がなされている。
今回の軍縮会合は、「新潟から世界へ:核兵器のない世界に向けた新しい決意と行動」をテーマに、国連軍縮部と国連アジア太平洋平和軍縮センターの主催(新潟県、新潟市、外務省の協力)で、9月24日に予定されている国連安全保障理事会首脳級特別会合まで4週間をきるタイミングで開催された。
米国のバラク・オバマ大統領は、同首脳級特別会合において議長を務め、国連における最もデリケートな問題の中から、「核不拡散」と「核軍縮」の問題を取り上げる予定である。
スーザン・バーク米大統領特別代表(核不拡散担当大使)は、初日のセッションにおける講演の中で「核兵器のない世界」実現を目指すオバマ大統領の決意を再確認し、「米国単独では無理だが、(各国を)主導することはできる」と語った。
またバーク大使は、核軍縮に向けた米国の戦略について、「米国は核兵器の備蓄量を削減することで(核兵器が有する)軍事的な役割の比重を低下させていきます。そして他の核兵器保有国に対しても同様の削減策をとるよう要請していきます。」と説明した。
「さらに、米国は現在ロシアと交渉中の第一次戦略兵器削減条約(START1)に替わる新条約には、法的に拘束力のある検証機能を盛り込むことを目指しています。その目的は、新条約を実質的に機能させるものにするためです。」とバーグ大使は付け加えた。
日本政府を代表して歓迎の挨拶に立った浅野勝人官房副長官は、オバマ米大統領が「米国は核兵器のない世界に向けた具体的な措置を取る」と述べた4月のプラハ演説を挙げ、「世界で核軍縮の機運が高まっています。今こそ協調する時です。」と訴えた。
「核兵器のない世界」のビジョンを行動に
ハナロア・ホッペ国連軍縮部長兼軍縮担当上級代表次席は、開会発言の中で、「核兵器のない世界を実現するには、核兵器保有国と非保有国の双方が共に努力していく必要があります。」と語った。
今回の会議では、「核兵器のない世界」のビジョンを具体的な行動に移す方法が模索された。
協議された具体的な行動には、大幅な核兵器保有量削減を目標とした準備的な措置、包括的核実験禁止条約(CTBT)発効に向けた取組みの強化、核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)交渉の推進等が含まれる。
「現存の核兵器が及ぼす脅威や、核兵器の拡散、非国家の所有というリスクは、国際社会の平和と安全にとって最も憂慮すべき課題です。」とホッペ国連軍縮部長は語った。
川口順子元外務大臣は、現在の国際情勢について、「米ロ両国が核兵器削減に向けた交渉を開始するなど、核軍縮を取り巻く最近の情勢は数年前とは対照的なものとなっています。」と指摘した。
「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」の共同議長を務める川口元外相は、核軍縮に向けた取組みのあるべき方向性について、「私たちは核兵器を保有する諸国間の信頼醸成を促進するとともに、法的拘束力を持って検証できる国際ルールを策定し、それぞれの地域が置かれている安全保障環境を反映した議論を展開していく必要があります。」と自らの信念を語った。
2010年5月の核不拡散条約(NPT)運用検討会議で議長を務めるフィリピンのリブラン・カバクチュラン駐アラブ首長国連邦大使は、広島に本拠を持つ日刊紙『中国新聞』の取材に対して、「NPT運用検討会議の成功には、政治的な意志とリーダーシップが必要です。私はその機運が高まっていることを嬉しく思います。」と、NPT運用検討会議の行方について前向きな見通しを示した。
カバクチュラン大使はとりわけ、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を追求するオバマ大統領について「大統領の意欲は、NPT運用検討会議への追い風となっている。」と高く評価した。
また同時に、カバクチュラン大使は、過去のNPT運用検討会議での合意事項が進展していない現状が「締約国の間で不満を招いている」と指摘し、来年の会議ではNPTの3分野(核軍縮、不拡散、原子力の平和利用)全てにおいて議論を進展させる必要性を強調した。
それらの合意事項には、「中東非大量破壊兵器地帯」の創設や、「核兵器保有国による、核兵器廃絶の明確な約束」を含む13項目の核軍縮措置が含まれる。
新潟会議では、来年5月の核不拡散条約(NPT)運用検討会議の展望の他にも、朝鮮半島の非核化から軍縮におけるメディアや市民社会の役割まで、幅広い話題について協議が行われた。
北朝鮮
中国政府代表者は、現在進められている朝鮮半島の非核化に向けた外交努力について言及し、「中国の役割に注目するというよりも、むしろ米国、韓国、日本、中国、ロシア間の共同努力によって(朝鮮半島の非核化を)目指すべきです。」と語った。
「中国はこれまでも、そしてこれからも(半島の非核化という)目標達成に向けた役割を果たしていきます。しかし、他の6カ国協議参加国の重要性や米国との直接対話を望む朝鮮民主主義人民共和国の希望についても十分考慮しなければなりません。」と中国外交部軍備管理軍縮局の江映峰副処長は語った。
朝鮮民主主義人民共和国は北朝鮮の正式名称である。
核拡散防止に取り組むカザフスタンのカナット・B・サウダバエフ国務長官は、基調講演の中で、「核兵器保有国は、核兵器削減に取り組むことによって、核廃絶に向けた取組みの手本を示さなければなりません。」と語った。
サウダバエフ国務長官は、カザフスタンがかつて旧ソビエト連邦の構成国であった過去に言及し、「我が国はソ連時代に繰り返し行われた核実験により深刻な被害を受けました。私たちはその経験から自主的に核廃絶に向けた道を歩き始めたのです。核兵器保有国は、核軍縮に取組むことで、率先して手本を示さなければなりません。」と会場の参加者に訴えた。
核の傘
日本共産党の日刊紙「赤旗」によると、今回の軍縮会議では、「核の傘」の問題についても協議が行われた。日本は、米国の「核の傘」による安全保障上の保護を受けている。
川口元外相は、「北朝鮮の『深刻な脅威』に直面している日韓両国が、自国の安全を不安定化させることなしに、どのように『核の傘』の役割を減らせるだろうか」と発言した。
川口元外相は、核抑止をなくすのに資する条件として、安全保障情勢の好転と核兵器以外の兵器への依存等を挙げ、それらが達成されるまでは「核の傘」が必要であるとの見解を述べた。
ニュージーランドの市民団体の代表からは、「非核保有国に対して核攻撃を行わない」とする「消極的安全保障」に法的拘束力を持たせ、「核の傘」から離脱すべきだとの発言があった。
同代表は参考事例として、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の間でも、ベルギーやイタリアなどの国々が、非核ニュージーランドのように「核の傘」からの離脱を図りつつある現状を指摘した。
今回国連軍縮会議を初めてホストした新潟市は、第二次世界大戦末期、広島、長崎、小倉と並んで米軍による核爆弾投下候補地となっていた都市である。国連軍縮会議はこれまで、京都市で6回、世界初の原爆投下地である広島市で3回、札幌市で3回、長崎市で2回、仙台市、秋田市、金沢市、大阪市、横浜市及びさいたま市で各1回開催されている。
篠田昭新潟市市長は、オバマ大統領が核廃絶を国家目標として宣言した後のタイミングで新潟市が今回の国連軍縮会議の会場となったことに満足の意を表明し、「今この時期に、新潟の地においてこの問題を協議できることは意義深いことです。」と述べた。
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩
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