【バーリントン(米バーモント州)IDN=アシュリー・スミス】
世界の地殻はつねに変動しているが、このところの2ヶ月間の動きは特に激しい。1月12日、マグニチュード7.0の地震がハイチを襲い、30万人が死亡、150万人が家を失った。2月27日にはチリをマグニチュード8.8の地震が襲い、数百名が死亡、200万人以上が家を追われた。
2つの地震には明確な違いがある。ハイチの地震はマグニチュードが7.0と比較的小さかったにもかかわらず、震源が地表の8マイル下で首都のポルトープランスにも近かったために、被害は甚大になった。他方で、チリの地震はハイチ地震の500倍のエネルギーを持っていたにもかかわらず、震源は人口密集地に遠く地表から22マイル下だったために、比較的少ない被害で済んだ。
しかし、実際のところ、両国の被害の大きさの違いは、地殻や活断層、震源といった自然現象が生み出したものではなく、社会的状況の違いが生み出したものなのだ。
よく知られているようにハイチは世界で最も貧しい国のひとつであり、人口の80%以上が貧困線以下で暮らしている。
このような状況は、おおよそ米国が生み出したものだと言ってよい。米国はハイチに新自由主義的な経済モデルを押し付けて農業を破壊し、首都の人口爆発をもたらした。しかし、活断層の上にあるポルトープランスにはまともな建築規制がなく、今回のような事態を招いてしまったのである。
他方、チリは、1人あたりの年間国内総生産が1万4700ドルに上る、ラテンアメリカでは比較的裕福な国のひとつだ(ちなみに、ハイチは1300ドル)。チリの先進的な耐震基準は、民主主義的なサルバドール・アジェンデ政権時代の1972年に作られていた。
とはいえ、チリでも、アジェンデ政権をクーデターで倒したアウグスト・ピノチェト政権以降の自由主義的経済の流れの中で、利潤獲得に走った建築産業が基準を守らない不動産開発を進めていたため、今回の地震で犠牲になったものが少なくなかった。かつて国家が建設した古い道路や橋は地震で壊れなかったのに、民営化されてからの構築物は実に脆弱だったという。
震災対応の点でも、ハイチとチリでは似通っている部分もある。ハイチで政府が何もできていないのは周知のとおりだが、チリでも、海軍が沿岸部で警告して回らなかったために津波被害を防ぐことができなかったし、家を失った200万人への食料援助は十分行き届いていない。
生活の術を失った人々が「暴徒」と化すと、国際メディアはそのことばかりに焦点をあてるようになり、ハイチでもチリでも軍隊が震災地に派遣されることになった。ハイチには米兵2万人が送られ、チリでは1万4000人の軍隊が動員されて18時間の屋内待機令が出されている。
こうして人々は、実際のところ、自ら助け合って生き延びるしかなくなっている。
「国際社会」からの支援は、実にお粗末なものだ。米国はハイチに1億ドルの支援を約束したが、バラク・オバマ政権は軍事予算に6500億ドルを使っているのである。チリに対しては、欧州委員会が400万ドル、日本が300万ドル、中国が100万ドルを約束したに過ぎない。
ハイチとチリの震災拡大の社会的要因を探る。
INPS Japan