【マナマINPS Japan=浅霧勝浩】
国連「文明の同盟(UNAOC)」のミゲル・アンヘル・モラティノス上級代表は、11月3日の第1回バーレーン対話フォーラムの開会セッションにおいて、「今日の世界は、紛争が多発し、宗教や文化、民族によってアイデンティティを規定された人々が憎悪に苛まれ続ける、かつてないほどの困難に直面しています。社会的、文化的な溝は深まり、部族主義、民族抗争、イスラム恐怖症、反ユダヤ主義、外国人恐怖症、ヘイトスピーチ、超国家主義が横行しているのです。」と語った。
「このようなグローバルな課題に対応するためには、全体的なアプローチが必要です。テロリズムや宗派対立、人種差別的な言説が引き起こす惨劇を食い止めるには、安全保障上の措置だけでは十分ではありません。私たちは、これらの誤ったナラティブに対して、人間の連帯を示し希望を提供する必要があります。」とモラティノス上級代表は述べ、このフォーラムのテーマ「東洋と西洋、人類共存に向けて」のベースとなっている『世界平和と共生のための人類の友愛に関する共同宣言書』は、「暗いトンネルの終わりに輝く一条の光であり、すべての信仰を包含する宗教間対話の青写真に他なりません。」と語った。
この共同宣言書は、カトリック教会教主であるローマ教皇フランシスコとイスラム教スンニ派で最も権威のあるアル・アズハルモスクのグランド・イマームであるアフマド・アル・タイーブ師が2019年2月4日にアラブ首長国連邦のアブダビで署名したものだ。
ローマ教皇フランシスコとタイーブ師の友情が生み出した「人類の友愛」文書の核心は、テロや暴力のために宗教を利用することを非難し、環境保護などの現実的な問題で協力するよう呼びかけている。共同署名式典で2人が頬を寄せ合う写真は、「希望の象徴 」として話題となり、カトリック教会とイスラム世界との関係を大きく前進させたと広く称賛された。さらに、2020年12月に国連総会は、共同宣言書が署名された2月4日を、世界中で平和、調和、異文化間の対話を促進する人々の意識を高め、その努力を認識することに捧げられる日として「人類友愛国際デー」に定めた。
ペルシャ湾に浮かぶ33の島で構成されるバーレーン王国は、外国人労働者が人口の半数を占める多文化・多宗教社会で、国内にはモスクの他、キリスト教の教会、シナゴーグ、ヒンズー教や仏教の寺院が並立している。また政権を担う王室はイスラム教スンニ派だが、国民の約7割がシーア派である。こうした背景から、バーレーン政府は、「共存・寛容・開放」の方針を重視し、宗教・文化間の対話の機会を率先して創出してきた。今回初の開催となったバーレーン対話フォーラムは、この流れを汲み、ハマド・ビン・イーサ・アール・ハリーファ国王が、「人類の友愛」文書に公式に賛同したことにより開催が実現した。
この2日間のフォーラムは、宗教、宗派、思想、文化の指導者間の対話の架け橋となることを目指すバーレーンの熱意のもと、ムスリム長老評議会、イスラム最高評議会、キングハマド平和共存グローバルセンターが主催し、フランシスコ教皇やアフマド・アル・タイーブ師など、世界各国の著名な宗教指導者や学者約200人が出席した。
フォーラムのプログラムは、地球規模の共存と人類の友愛、対話と平和的共存の推進を取り上げ、時代の課題に取り組む宗教指導者や学者の役割を考察するセッションから構成された。
ムスリム長老評議会のシェイク・ハーリド・ビン・ムハンマド・アル・カリファ議長は、古来より文明の十字路としてバーレーン(2つの海の意味)が多様な文明を寛容に受入れてきた社会的な背景と、宗教への寛容に関するバーレーン王国宣言をはじめとする、平和と共生に向けた同国の取組みを紹介したうえで、「地域社会における共存を広め、維持し、定着させるためには、宗教と宗派の特異性を尊重し、信教の自由を認めることが重要である。」と語った。
カリファ議長はまた、「バーレーンは、人口や面積に対するモスクや礼拝所の数の割合が世界一で、誰もが積極的な共存の中で宗教儀式を実践しています。」と指摘したうえで、「バーレーンは、この分野で追随すべきグローバルなモデルとなっている。」と語った。
ヴァルソロメオス1世コンスタンティノープル総主教は、宗教的原理主義が横行している現状に対する正教会の対応として、宗教間対話の重要性を強調し、「宗教間対話への反対は、通常、宗教的多様性に対する恐れと無知または不寛容から来るものです。対照的に、本物の誠実な宗教間対話は、宗教的伝統の間の違いを認識し、民族と文化の間の平和的共存と協力を促進します。これは自らの信仰を否定するのではなく、他者に心を開くという観点から自らのアイデンティティと自意識を適応させ、豊かにしていくことを意味します。また、偏見を癒し、払拭し、相互理解と平和的な紛争解決に貢献することができます。」と語った。
「グローバルな共生と友愛を推進するための経験」と題したセッションでは、ニジェール前大統領でムスリム長老評議会のメンバーであるマハマドゥ・イスフ氏が、貧困、飢餓、気候の問題に加え、政治、経済、安全保障上の紛争や危機という点で、今日の世界情勢は、人々に大きな重圧をもたらしており、平和と安全を実現するために、宗教間の対話を通じた協力、和解、収束が求められていると説明した。
カザフスタンの「ナザルバエフ宗教間・文明間対話発展センター」のブラート・サルセンバエフ所長は、9月14日と15日にローマ教皇フランシスコとアル・タイーブ師をはじめ、バーレーン対話フォーラムの参加者の多くが参加して、首都アスタナで開催した第7回世界伝統宗教指導者会議の成果文書について説明し、同会議は恒久的な宗教間対話のプラットフォームとして、今後も連携を深めていきたいと語った。世界伝統宗教指導者会議は、ソ連時代にカザフスタン東部のセミパラチンスク核実験場で行われた核実験で100万人以上の犠牲者を出した経験から独立後核兵器を放棄し、調和の中で人々が生きる多宗教・多文化社会を目指してきたことを誇るカザフスタンが、9・11同時多発テロ後に世界全体で宗教的対立が起こる中、2003年に開始したイニシアチブである。第7回会議では、成果文書の一部として「人類の友愛」文書が採択された。
「現代の危機―気候変動と世界的食糧危機への宗教リーダーと学術者の役割」と題したセッションでは、創価学会の寺崎広嗣副会長が、環境問題や食料問題等と仏教思想の関係について述べた「仏教の特質は万物に対する慈悲にあり、自らの受けている恩恵を正しく認識し、自らが環境や他の生物のために貢献していくことが、人間としての正しい生き方であると教えている。」という池田大作SGI会長の言葉に言及したうえで、「仏法者の私たちに備わる役割は、一人一人が慈悲の精神を拡大して主体的に問題の対処に望むこと、また、そのような主体者を増やすべく、周囲の人々に働きかけていくことではないかと確信します。」と語った。
寺崎副会長はまた、「困難な問題ほど市民の理解と支持を得る努力なしには前進はなく、問題解決のためには、一人一人が行動に立ち上がる必要がある点を踏まえて、創価学会では、現実は変えられるとの『希望』のメッセージを発信することを心がけ、またそれを実践する青年の姿などにもフォーカスしています。」と語った。さらに、「気候変動による食料問題の解決等は、こうした問題が実際に個人に与えている苦痛という観点から考えていくことがますますます重要であり、そのような視点を社会の中であらゆる機会を通し共有することも重要です。」と指摘した。
翌日サヒール宮殿で行われたフォーラムの閉会式で、アル・タイーブ師は、コーランが説く3つの原則(①人には違いがあること、②信仰の自由があること、③人間関係を成立させる唯一の方法は知己であること)に言及して、「コーランには、人間関係を規定する規則が論理的に列挙されており、再解釈や歪曲の余地はありません。人々の自然な相違は信仰の自由を必要とし、それは人々の間の平和的な関係を必要とするのです。」と語った。
そのうえでアル・タイーブ師は、「このことを、現代の学術プログラムに適応し、宗教哲学の目から見て、人生には異なる信仰、人種、肌の色、言語を持つ人々のための余地があること、そして文化の多様性が文明を豊かにし、今日欠けている平和を確立できることを若者に教え、説いていく必要があります。」と述べ、宗教学者や思想家たちに、宗教的共通点に関するこのような議論の余地のない事実について、若者たちの教育にもっと力を入れるよう呼びかけた。
さらに、「相違点を理解した上で、共通点と一致点に焦点を当てるべきです。私たちは共に、憎しみや挑発、破門といった言葉を追い払い、古今東西のあらゆる形態の、そしてあらゆる負の派生物である紛争を脇に追いやろうではありませんか。」と述べ、スンニ派とシーア派の対話について画期的な呼びかけを行った。
ローマ教皇フランシスコは、「バーレーン」の国名が「二つの海」を意味することに着目しつつ、「東洋と西洋はまるで対立する二つの海のように見えますが、私達はこのフォーラムのタイトル『東洋と西洋、人類共存に向けて』にあるように、対立とは異なる、出会いと対話の針路をとりながら、同じ海を航海するためにここに集っています。」と語った。
教皇はさらに、「世界の各地で破壊的な紛争は続き、誹謗中傷、脅迫、非難の声が上がる中、私たちは今にも崩れそうな均衡状態の中にあります…世界の多くの人が食糧危機や環境問題、パンデミックなどで苦しむ一方で、ごく少数の権力者たちが自分たちの利益を得るための争いに没頭し、『人類の園』は皆に大切にされるどころか、ミサイルや爆弾による『火遊び』の舞台となり、武器が人々に涙と死をもたらし、私たちの『共通の家』を灰と憎しみで覆っています」と指摘したうえで、「こうした荒れる海を前に、神と兄弟たちに信頼を置く私たちは、人類のただ一つの海を無視し、自分の潮流だけを追う『孤立の思想』を退けるためにここに集い、東西の対立の構図を皆の善のために改めながら、劇的に拡大するもう一つの分裂、『世界の南北格差』にも注意を向け続けています。」と語った。
さらに教皇は、「宗教指導者たちの課題は、『互いに関係しながらも分裂している人類』が皆、共に航海できるよう力づけることであります」と述べ、そのために必要なものとして、「祈りの精神」「女性や子供たちの保護も含めた市民の権利・義務と兄弟愛の教育」、そして「戦争や暴力を明確に拒絶し平和のために取り組む行動」を挙げた。(英語版)
INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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