ニュース|日独交流150周年|日本の運送業界団体、エコプロジェクトのパートナーを求めてドイツへ

|日独交流150周年|日本の運送業界団体、エコプロジェクトのパートナーを求めてドイツへ

【東京IDN=浅霧勝浩】

 日本の運送業界の代表団が、環境に配慮した円滑な物流管理を通じていかに企業の社会的責任(CSR)を果たしていくか、お互いの経験から学び、最良の方策を見出すべく、ドイツの業界団体を訪問した。

ドイツ物流業界の年間総売上高は1500億ユーロ(16兆500億円)で、国内総生産(GDP)の7.5%を占め、成長率6%の有望産業である。

この成長著しい産業は、ドイツの首都圏にあたるベルリンブランデンブルク州で17万人の雇用を生み出しており、これは首都圏総労働人口の9%に相当する。ベルリン‐ブランデンブルク州は、欧州の中央に位置することから東のロシアポーランドにとっての陸上交通のハブであるとともに、西のブリュッセル、南のミラノといった西欧の主要物流拠点にとっても極めて重要な物流中継地である。

こうした背景から、長井純一副会長を団長とする東京都トラック協会の代表団が、ベルリンに本拠を構える「ベルリン・ブランデンブルク交通・物流協会(VVL)」を2011年9月に訪問した。


VVLは、従業員総数12,000人を擁する多くの首都圏物流企業の利益を代表する業界団体で、物流業に従事している或いは就職に関心を持っている若い世代を対象とした教育啓発活動や職業訓練を実施している。

VVL Director-General, Karl-Dieter Martens/ Katsuhiro Asagiri

「当協会の会員企業は、若者たちがテクノロジーに使役されるのではなく、それを手段として使いこなせるよう、ハイテク教育とともに“気づき”や創造力を伸ばす職場環境を提供しています。」と、VVLのカール-ディーター・マルテンス事務総長は、日本からの代表団一行に説明した。

「VVL訪問は、国は違っても同じ物量業界に従事するプロフェッショナル同士の情報交換ができ、極めて有意義でした。」と長井団長は語った。彼が代表取締役を務める長井運送株式会社は、先代が第二次世界大戦後に創立した会社で、「企業の社会的責任(CSR)にコミットしています。」と長井団長は付加えた。

マルテンス事務総長は、長井団長の会社のロゴとなっているカンガルーが象徴する運送会社としての哲学を聞き、深い感銘をうけた。「カンガルーのロゴには、母カンガルーが生れた子供を自らのお腹の袋で大切に守るように、荷主様から委託された荷物を細心の注意を払って運ばせていただいているという感謝の気持ちが込められているのです。」と長井団長は語った。
 
また、マルテンス事務総長は、東京都トラック協会の遠藤啓二環境部長が紹介した「グリーン・エコプロジェクト」に深い関心を抱いた。

グリーン・エコプロジェクトが持つ重要性の背景には、アジア・太平洋地域が、既に世界最大の自動車保有数を擁しており、現在の流れが続けば、近い将来、欧州と北米の合計台数を上回る現実がある。

日本だけでも、1966年の812万台から2009年には7900万台にまで急増している。その内訳は、自家用車54%、軽自動車34%、トラックが8%で、残りがバイクとバスが占めている。

同時に、運送会社の数も伸びている。「現在日本には6万社以上の運送会社があります。この数値は1990年当時と比較すると約50%増えたことになります。」と遠藤部長は語った。

また遠藤部長は日本の運送会社の特徴として、全体の99%が100台以下のトラックしか保有しておらず、全体の76%は20台以下しか保有しない零細企業である点を指摘した。

ディーゼルエンジンに対する環境規制の一環として、日本の「自動車NOx・PM法」では、窒素酸化物(NOx)粒子状物質(PM)を抑制することを目的としている。PMとは、大気中に残存するマイクロメートル単位の固体や液体の浮遊粒子状物質を指し、通常大気汚染物質とみなされている。

このような浮遊粒子状物質の放出を避けるため、2003年以降、製造後9年を経過した大型トラックと、8年を経過した小型トラックは、それまでの総走行距離に関わらず、東京都内ではナンバー登録ができなくなった。

東京都では、より厳しい法令が施行され、製造後7年以上を経過した車両はディーゼル粒子状物質フィルター(DPF)を装着するか、新たに車両を購入するかしかなくなった。規則に違反すれば、罰則が科されることとなる。

「この法律施行後、東京都の全ての観測地点において、大気汚染のレベルが改善されたことが確認されています。東京の大気はきれいになり、空は青くなりました。」と遠藤部長は語った。

しかし中小の運送会社は、きれいな環境と引き換えに大きな代償を払うこととなった。この法制度により、値段の高いディーゼル粒子状物質フィルターを装着するか、新しいトラックを購入するか2者択一の選択を迫られたのである。その結果、東京都トラック協会の会員数は20%も減少した。また、トラックの数も2003年以降、20%以上が減少した。

また、2006年に施行された「改正省エネ法」は、環境保護のためのもう一つのツールであるが、同法は運送会社にCO2排出に関する定期的報告を義務付けている。「しかしながら、運送会社の99%が中小企業であり、こうした零細企業がそのようなデータを集めたり解析したりすることは難しいのが実情です。」と遠藤部長は、語った。

こうした背景から、東京都トラック協会では新たなプロジェクトを立ち上げることとした。

Green Eco Project
Green Eco Project

名付けて「グリーン・エコプロジェクト」である。環境にやさしい運転走行が要のこの試みは、運送会社にとってのCSRを果たすための中心的なプロジェクトとなっている。

ある調査によれば、エコドライブ開始後、窒素酸化物の排出が15%、CO2の排出が20%削減されたという。

グリーン・エコプロジェクトには、4つの重要な側面がある。すなわち、①持続可能性、②コスト削減、③収拾したデータの正確性、そしてなによりも、④ドライバーのやる気を持続する活動であるという側面である。

マルテンス事務総長は、グリーン・エコプロジェクトに参加したメンバーが互いのやる気を高めるために実際に使われているツールが、インターネットをベースとしたものではなく、ポスターやステッカーを使用していると聞いて、驚きを隠さなかった。

グリーン・エコプロジェクトに参加したドライバー達は、給油ごとにチェックリストに自らの手で記入している。なぜなら、こうすることが経済的にも優れたデータ収集の方法だからである。また参加者達は、自らのチェックシートの記録を振り返ることで、省エネと交通事故の減少が目に見えてわかるようになる。

またプロジェクトにはエコドライブ教育が組み込まれている。優良ドライバーは表彰され、やる気を引き出すよう配慮されている。またプロジェクトには上司もドライバーと同等の立場で参加し、1年間に7回のセミナーが提供されている。

Keiji Endo/ photo by Katsuhiro Asagiri

遠藤部長は、「グリーン・エコプロジェクトは大きな成果を挙げています。」と胸を張った。事実、プロジェクトへの参加企業数は増加し続け、2011年7月時点で、530社以上の企業と12,214台以上の車両が参加している。

加えて、燃料消費もこの4年間で減少した。それは、546台の大型タンクローリーに積載できる量に匹敵し、金額に換算すると1,440万ドル(1,000万ユーロ)に相当する。
 
この省エネで、22,888トンのCO2排出削減がなされた。これは杉の植樹に換算すると1,635,000本に相当する。また交通事故も4年間で4割減少している。

「このプロジェクトは、国民経済の面だけでなく、社会全体に対しても大きな成果を上げています。そして次のステップは、各車両タイプ毎に省エネデータベースを構築することです。」と遠藤部長はマルテンス事務総長に語った。

「日本では、デジタルタコグラフドライブレコーダーのように、エコドライブをサポートする多くの先進的な装置があります。」と遠藤部長は言う。

しかし、グリーン・エコプロジェクトの最大の特徴は、巨額の投資も高度な技術も必要としない点にある。必要なのは、「運転管理シート」と呼ばれる1枚の紙と鉛筆だけである。これだけで、環境を守り、燃料コストを削減し、交通事故を減らし、従業員間での意思疎通の円滑化を図れるのである。

遠藤部長は、このプロジェクトを日本全体に広げたいと考えている。また今回のドイツ訪問に際して、「東京都で蓄積してきたグリーン・エコプロジェクトの経験を生かしたいと関心を持つパートナーをドイツに見出だせれば嬉しい。今年は日独交流150周年の記念すべき年。今回の訪問が新たな日独物流業界の交流の契機になればと考えています。」と抱負を語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

グリーン・エコプロジェクトと持続可能な開発目標(SDGs)

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グローバルパスペクティブ誌(2011.9-10号に掲載)

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