【ハバナIPS=パトリシア・グロッグ】
ローマ法王のベネディクト16世が来春にキューバを訪問する計画が進んでいる。これによって、キューバ政府とカトリック教会の関係改善が図られるのではないかと期待されている。
キューバ司教会議(COCC)のホセ・フェリックス・ペレス・リエラ事務次長は、IPSの取材に対して、「喜びと希望に満ち溢れています。ローマ法王のキューバ訪問は、キューバ人の間の一体感を高めるとともに、和解も促進することになるでしょう。」と語った。
また、宗教学が専門のエンリケ・ロペス・オリバ教授は、ラウル・カストロ国家評議会議長とハバナ大司教のハイメ・オルテガ枢機卿が昨年会談したことを踏まえて、「ローマ法王のキューバ訪問は、国家と教会の関係を新たな段階へと進める契機となる可能性があるだけに、大変重要な出来事になるでしょう。」と語った。
キューバ司教会は、今回のローマ法王庁の発表について、「全てのキューバ人の母なるマリア様からの恵みにほかありません。」と歓迎の意を表明している。キューバ国内では、昨年8月から年末までの予定で、「エルコブレ聖母」像(La Virgen de La Caridad del Cobre)の巡回が行われている(キューバ革命後はじめてのこと:IPSJ)。
この聖母像は、普段はキューバの南端の県の一つ、サンティアゴ・デ・クーバ(ハバナの東861キロ)から12キロ郊外の大教会堂(básilica)に安置されている。布衣装を着て幼子を抱えたこの聖母像は、1612年に、島の北岸にあるニペ湾に浮かんでいるところを、インディアンの兄弟フアンとロドリゴ・デ・オヨスと黒人の少年フアン・モレノによって発見された。伝説によると、この聖母像が乗っていた板には「私は、この島の住民を保護するマリア」と刻まれていたという。来年は聖母像発見400周年となり、キューバ人、外国人を問わず多くの巡礼者が聖地エル・コブレを訪問することが見込まれている。
「特に来年は聖年にあたる年ですから、ローマ法皇が巡礼に来訪されるには素晴らしい機会だと思いますし、大変嬉しく思っています。(現在行われている)聖母像の全国巡回はキューバ国内における信徒の信仰心を深める上で重要な役割を果たしていると思いますし、ローマ法王の来訪に向けたよい環境作りができつつあると思います。」とペレス・リエラ司祭は語った。
ベネディクト16世の前の法王であるヨハネ・パウロ2世は、1998年1月にキューバを訪問したことがある。 ヨハネ・パウロ2世は フィデル・カストロ国家評議会議長(当時)と会談し、それまで必ずしも容易ではなかった国家とカトリック教会との間に架け橋を築くことに成功した。
その後カストロ議長は、2006年に体調を崩して現役を退く前に、その前年に法王となっていたベネディクト16世に少なくとも2度にわたって招待状を出していたが、訪問は実現していなかった。
フィデルの後を継いで執政しているラウル・カストロ議長は、オルテガ枢機卿、COCCのディオニシオ・ガルシア総裁と2010年5月に長い会談を行い、カトリック教会と国家の関係改善について話し合っていた。この会談の結果、2003年に一斉検挙され米国の陰謀に加担して国家転覆を図ったとして厳しい判決を受けた(「 黒い春事件」)最後の57人を含む100人以上の政治囚が釈放されている。ちなみに今回釈放された元政治囚の大半はキューバを離れることに同意している。
ラウル・カストロ議長は、キューバ共産党第6回大会への報告の中で、政治犯釈放交渉においてカトリック教会指導部が果たした役割を高く評価するとともに、彼らとの交渉は「相互に尊重し合い、誠実さと、透明性を確保したものであった。」と力説した。またカストロ議長は、「この対話を通じて、私たちはキューバの歴史及び革命プロセスにおいてもっとも重要なレガシー、すなわち『国としてのまとまり』を強化することを選択したのです。」と語った。専門家は、カストロ議長のカトリック教会に対するこうした方針は、今後も引き継がれていくだろうと見ている。
ロペス・オリバ教授は、ローマ法王のキューバ訪問は、オルテガ枢機卿による従来の努力を後押しする効果があると指摘して、「キューバ政府に対する対話者として、カトリック教会内におけるオルテガ枢機卿の地位を固めることになるだろう。」と語った。オルテガ枢機卿は教会法に従って75歳になった際、ハバナ大司教の職を辞したいと願い出たが、バチカン法王庁が慰留した経緯がある。
また、ロペス・オリバ教授は、「オルテガ枢機卿は、キューバ内外の反対勢力からは、『カストロ政権に対して融和的すぎる』として批判の対象となってきました。しかし、ベネディクト16世がキューバを訪問することで、オルテガ枢機卿は教皇の支持を得ていることが内外に示されることになるのです。」と語った。
さらにロペス・オリバ教授は、「ローマ法王のキューバ訪問は、在外のキューバ人カトリック教徒、とりわけ米国在住のキューバ人のキューバ国家に対する態度を変えることになるかもしれません。」と語った。こうした在外キューバカトリック教徒の多くが、来年の聖母像発見400年祭には、エルコブレ大教会堂への巡礼にキューバを訪れると見られている。(原文へ)
翻訳=山口響/IPS Japan浅霧勝浩
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