【ワシントンIPS=ミッチェル・プリトニク】
イスラエルのユダヤ人の大多数は、たとえそのために自国の核兵器を放棄するということになっても、核兵器のない中東を支持するだろう。
これは、イスラエルのユダヤ系とパレスチナ系市民を対象に別々に実施した世論調査から明らかになった、最も驚くべき結果である。
12月1日にブルッキングス研究所から発表されたこの世論調査は、メリーランド大学のシブリー・テルハミ教授が11月に実施したもので、質問内容は、「アラブの春」から、米国に対する認識やイスラエル‐パレスチナ紛争の今後への希望など多岐にわたっている。
これによると、ユダヤ系イスラエル人の90%が、「イランは核兵器を開発すると思う」と回答した。もし選択肢が2つしかない(イスラエルとイラン双方が核武装か、核放棄か)ならばどちらを選択するかとの問いに対して、63%が「双方とも核兵器を保有しない方が望ましい」と回答した一方で、「双方が核武装したほうがよい」と回答したのは僅か19%だった。
イランの核関連施設を攻撃するという考えについて、ユダヤ系イスラエル人回答者の43%が「支持する」と回答し、「反対する」と回答した41%を僅かに上回った。一方、アラブ系イスラエル人で攻撃を「支持する」と回答したのは僅か4%で、実に68%が攻撃に「反対する」と回答した。
また今回の世論調査で、ユダヤ系イスラエル人の大半は、「アラブの春」はアラブ世界に民主主義をもたらさず、従ってイスラエルに悪影響を及ぼすだろうと考えていることが明らかになった。
「アラブの春」がイスラエルにどのような影響をもたらすかという質問に対して、「事態は好転するだろう」との回答が僅か15%だったのに対して、「概ね悪影響を及ぼすだろう」との回答が51%にのぼった。一方、21%が「影響はない」と回答している。
しかし、「もし『アラブの春』がアラブ世界に民主化をもたらしたとしたら…」との仮定を付加えた質問に対しては、44%が「事態は好転するだろう」と回答した一方で、22%が「概ね悪影響を及ぼすだろう」と回答した。なお、「影響はない」との回答は28%だった。
イスラエル人コラムニストのナフン・バルネア氏は、テルハミ教授の世論調査の結果について、「イスラエルの人々は、『アラブの春』がイスラエルへの敵意を増幅させるものだと警告する政府発表やメディア報道に接して、恐怖心を抱いているのです。」と指摘した。
イスラエルのパレスチナ市民に対して行われた世論調査の結果は、いくつかの重要な問題について、1年前の結果とは大きな変化を示している。
現在イスラエルの管理下にあるアラブ/パレスチナ人の街を新パレスチナ国家に引き渡すことに賛成するかとの質問に対しては、「認める」との回答が17%にとどまったのに対して、78%が引き渡しを「認めない」と回答した。これは、58%が「認めない」、36%が「認める」と回答した2010年の調査結果と比べると明らかな変化が見てとれる。
また、パレスチナ難民がかつて追われた土地に帰還する権利の問題についても、今回の調査結果から、妥協に向けた明らかな変化が見られた。2010年の調査では、57%のアラブ系イスラエル市民が帰還の権利について「妥協の余地はない」、28%が『重要な問題だが妥協点を模索すべき』、11%が「あまり重要な問題ではない」と回答していた。
しかし今回の調査では、過半数が入替り、57%が妥協することに「賛成」、34%が「反対」、そして「あまり重要でない」との回答は、僅か5%にとどまった。
テルハミ教授は、この問題について、アラブ系イスラエル市民の世論がどうして大きくシフトしたかについては分からないとしつつ、「家族の中に土地を追われ難民となった経験を持つ者がいる家庭では、そうでない家庭と比べて、はるかに強く妥協に反対する傾向が見られた。」とコメントした。
また今回の調査で、イスラエル在住のアラブ系市民の地位に関しては、アラブ系市民とユダヤ系市民で対照的な見方をしていることが明らかになった。双方とも過半数の回答者(アラブ系:52%、ユダヤ系57%)が、「アラブ系市民は、法的にはユダヤ系市民と対等とされているが、構造的、社会的差別が存在する」と考えていたのに対して、36%のアラブ系市民が、実態は「アパルトヘイト下の(白人と黒人の)関係」と同じだと回答している。
ユダヤ系市民でそのような見解を持っていたのは僅か7%で、33%のユダヤ系市民は、アラブ系とユダヤ系市民の関係は平等との見方を示した。なお、アラブ系市民でそのような見解を示したのは3%にすぎない。
また大半のユダヤ系市民は、パレスチナ紛争が近い将来に解決するとは期待していないことが明らかとなった。向こう5年以内に紛争が解決すると回答したユダヤ系市民は僅か6%にとどまっており、49%が「決して解決しない」、42%が「最終的には解決するだろうが5年以上かかる」と回答している。
またユダヤ系市民の間では、イスラエルが「ユダヤ人の国家」として承認されるべきという点で幅広いコンセンサスが存在する。しかしこの点は、パレスチナ暫定自治政府が従来から断固として拒否している点でもある。今回の調査では、ユダヤ系市民の39%が、「ユダヤ人の国家」としての承認を、和平交渉やユダヤ人入植活動停止の前提条件だと回答している。また、40%が「ユダヤ人の国家」としての承認を、パレスチナとの最終和平合意の一部として受け入れると回答している。一方、「ユダヤ人の国家」として承認を要求する考えに賛同しないと回答したユダヤ系市民は僅か17%であった。
しかし「イスラエルを『ユダヤ人並びに全てのイスラエル市民の祖国』と定義することを受け入れるか否か」との質問に対しては、ユダヤ系市民の25%が反対したものの、71%が「受け入れる」と回答した。
またユダヤ人市民の66%が、現政権が1967年当時の国境と合意済の妥協点に沿ってパレスチナ側との包括的な和平を達成すべく、「もっと努力すべき」(その反対意見は31%)と回答している。この結果は、ベンヤミン・ネタニヤフ政権のこの問題に関する対応について、ユダヤ系市民の間で不満が高まっていることを示している。
さらに47%のユダヤ系市民が、イスラエルとパレスチナの「2国共存案(通称2国間解決案)が崩壊したら、「殆ど変化なく現状が続くことになる」と回答した。一方、34%は、「長期にわたる紛争につながるだろう」と回答した。
テルハミ教授は、「アラブ世界では、大半の人々が2国間解決案が崩壊すれば、何年にも亘る激しい紛争がおこると考えている。」と指摘した。
また今回の調査により、イスラエルのアラブ系市民は、「アラブの春」に対する態度や、トルコのエルドアン首相をアラブ世界のニューリーダーのモデルと見ている点で、他のアラブ世界の人々と概ね見解を同じくしていることが明らかとなった。
一方、アラブ系イスラエル人とアラブ諸国のアラブ人の間で、大きく意見が分かれたのが、最近の中東における米国の役割に対する認識である。ここ数カ月で中東地域に最も建設的な役割を果たした国を2つ挙げるよう求める質問に対して、アラブ諸国の回答者の間では、米国は3番目(24%)にランクされたのに対して、アラブ系イスラエル人の間では、米国は1番(45%)にランクされた。
次期大統領選挙が近づく中、バラク・オバマ大統領にとって、ユダヤ系イスラエル人からの支持率が昨年の41%から今回54%に上昇したのは心強いニュースだったかもしれない。しかし、オバマ政権の中東政策に対する評価は、「希望が持てる」という回答が22%だったのに対して「がっかりさせられた」という回答が39%にのぼるなど、概して低いままであった。(原文へ)
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩