【GP国連/IPS Japan】
ナシル・アブドルアジズ・アルナセル国連総会議長は、中東非核地帯創設に向けた会議の開催を全面的に支持している。
「私は引き続き、2012年の中東会議を適切なタイミングで開催することを目指す公式・非公式の努力やイベントに対して、個人的にも、或いは事務所を通じて、可能な限り支援を差し伸べていくつもりです。こうした努力は今後も続けていきます。」と、アルナセル議長は、グローバルパスペクティブス誌による独占取材に応じて語った。
2012年中東会議は、「国際平和を促進する観点から」中東を非核地帯とすることの重要性について幾度となく承認してきた国連総会(193カ国が加盟)にとって、極めて関心が高い問題なのです、とアルナセル議長は指摘する。
また今回の取材では、国連総会が関与してきたその他の活動から、アラブの目覚め、パレスチナの国連加盟申請、ミレニアム開発目標(MDGs)、南南協力と援助効果についての議長の見解を収録した。
カタール出身のアルナセル氏は外交官としての豊富な経験を経て2011年6月22日に国連総会議長に就任した。またアルナセル氏は1988年から2011年の間、カタール政府の国連常駐代表をつとめ、その間、国連総会の「南南協力に関するハイレベル委員会」の委員長、グループ77+中国の議長も歴任した。
アルナセル議長の中東非核地帯会議開催支持の姿勢は、今期総会の重点活動目標として彼自身が選定した4つのテーマ(①紛争の調停と平和的解決、②国連の改革と立て直し、③災害への備えと対応の改善、④持続可能な開発と世界的好況)に基づくものである。
またアルナセル氏は、中東に関するその他のコメントの中で、国際社会には、アラブの目覚めを支援する、「道徳的かつ実質上の義務」があると語っている
インタビューの全文は以下のとおり
1.国連総会議長として、就任からこれまでで最も印象的な出来事についてお話し下さい。
私が議長に就任してからこれまでの時期は、ちょうど国連総会が、民主主義や人権問題に関する積極的な発言を徐々に強めていった時期にあたり、国連のみならず国際社会全体が多忙を極めた時期だったと思います。このことはとりわけ「アラブの目覚め」を経験した国々に当てはまります。国連総会は、アラブ世界の諸政府と民衆が「アラブの目覚め」から恩恵を得られるように、グローバルパートナーシップを通じて必要な支援を行うよう積極的に呼びかけてきました。
また、潘基文国連事務総長とは、密接な協力関係を築いてきました。私たちは、数百万人に及ぶ人々、とりわけ女性と子供が直面している厳しい現状に国連が一体となって支援に取組んでいることを示すために、リビアとソマリアを共同で訪問しました。さらにリビアについて言えば、私は、同国民の国連における正当な代表権を回復させるために、国連総会議長としての権限とリーダーシップを活用して、リビア国民評議会(TNC)を国連総会のリビア政府代表席に招待しました。
もうひとつの印象的な場面は、昨年9月の国連総会一般討議で議長を務めたときのことです。私たちは、パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス大統領が国連加盟を求めるパレスチナの立場を雄弁に語り、割れんばかりの喝さいの中、加盟申請を行うのを目撃しました。間違いなくこの瞬間が、国連議長として私がこれまでに経験したクライマックスだと思います。
また国連総会ではこれまでに、「非伝染性疾患の予防とコントロールについての決議」を採択しています。この国連決議の重要性は、非伝染性疾患(例:糖尿病や心疾患、脳卒中、がん、慢性呼吸器疾患等)が今日では世界最大の死因(2008年現在、世界の死者全体の63%)であり、途上国にも夥しい数の犠牲者を出している現状にあります。ところがこうした疾患の多くは、予防可能なものなのです。つまり、この国連総会決議の狙いは、こうした到底受け入れられない現状に対処していくことにあります。
また私は国連総会の仕事の中でも、とりわけ今期総会の重点活動目標として私自身が選んだ4つのテーマ(①紛争の調停と平和的解決、②国連の改革と立て直し、③災害への備えと対応の改善、④持続可能な開発と世界的好況)に関連して、フィンランド、スイス、日本、韓国を訪問しました。
あと8か月の会期を残す中で、まだまだしなければならないことが山積しています。国連総会の議長は、この世界で最も普遍的でハイレベルなフォーラムを円滑に運営していくために、多国間協議プロセスの複雑さを理解し、大小加盟国が抱える政治的に微妙な問題に配慮しつつ、さらには迷路のように入り組んだ責任を負わなければなりません。ただこうした複雑な内容については、インタビューで概略を語ることは困難だと思います。
2.「アラブの春」が国連、とりわけ国連総会の活動に大きな影響を及ぼすと思いますか?
私はアラブ世界で起こっている動きは、「アラブの春」というよりもむしろ「アラブの目覚め」という表現の方が、これまでの経緯や現在進行中の出来事をずっと前向きに捉えていて適切だと思っています。現在アラブ世界は、中東の歴史上極めて重要な、おそらく脱植民地化の時期よりも重要な時期を迎えているのではないかと考えています。今日、国際社会には、アラブ世界から発せられている平等、社会正義、そしてより良い未来を求める民衆の訴えを支援する、道徳的かつ実質上の義務があります。しかし、ここで指摘しておきたい重要な点は、民主的な変革は、現地で育まれ国民自身が主導権を行使できるような経済的、社会的変革を伴うものであるべきだということです。国連は、このような変革過程を支持する国際社会のコンセンサスを構築し、政治的総意を形成するうえで、中心的な役割を担っているのです。また国連は、こうした国々に対して能力向上の機会を提供することができます。事実、国連は既にチュニジア、エジプト、リビアに専門家を調査派遣し、将来的にホスト国からの要請があれば国連からの支援が可能な開発ニーズの把握に努めています。昨年9月の国連総会一般討議演説を見聞きした人ならばだれでも、世界の指導者の大半が、アラブ世界で進行している自由と民主主義を求める動きを支持しているということを実感しただろうと思います。
3.パレスチナが近い将来、例えばパレスチナ解放機構(PLO)が国連でオブザーバー資格を認められてから40年目となる2014年までに、国連の正規加盟国となる現実的な見込みはあるでしょうか?
そうなってはならないという理由が見出せません。パレスチナの人々は、主権を持った平和を愛する国家として、国連総会を含む、あらゆる国際機関への加盟を求めていく権利があります。私たちは国連総会の場でアッバス大統領が正式にパレスチナの国連加盟を求めた演説に、多くの加盟国や代表団が大いに協力的な反応を示したのを目撃しました。よく知られているように、既に多くの国々がパレスチナを主権国家として承認しています。一方、安全保障理事会傘下の(加盟審査)委員会は同理事会に対して本件に関する報告書を提出しました。今のところ、パレスチナは、次の行動をどうするのかについて明確な発表をおこなっていません。もしパレスチナが、国連総会で現在の「オブザーバー機構」から「オブザーバー国家」への地位格上げを求めた場合、判断はその場に出席している加盟国(193カ国)の多数決投票で決することとなります。パレスチナ政府がどのような決断をするか見守りたいと思います。
4.ミレニアム開発目標(MDG)は2015年までに極度の貧困や飢餓の撲滅を構想したものですが、どうみても今の時点でこの野心的な目標に大きな進展があったとは言えません。さらに国連の報告によると、米国と欧州連合の財政危機は、途上国へと広がる勢いをみせています。状況がさらに悪化するのを回避するために、国連総会は何ができるでしょうか?或いは既に行った対策、予定などをお聞かせください。
MDGsは、国連が確認しているとおり、世界の開発協力における進捗状況を測るうえで大変実用的なベンチマークです。世界のリーダーが2000年にニューヨークに集まりこれらの重要な目標に合意したのは国連総会の場でした。MDGの達成に向けて多くの努力が傾注され、多くの国々が一つ或いはそれ以上の目標について成果を挙げています。もちろん、これらの開発目標を達成するには、我々全てが今よりもはるかに多くのことに取り組まなければならないことは理解しています。
私は、2015年の期限が間近に迫る中、全ての加盟国に対して一層努力を加速するよう強く呼びかけたいと思います。現在世界の経済と金融状況は下降局面にありますが、MDGsの達成に向けて全力で取り組むことは、国際社会全体にとって利益になることだと確信しています。
私はこれからも、各国首脳、閣僚、その他高官とのあらゆる会合の機会を捉えて、今期総会の重点活動目標の一つでもある「持続可能な開発と世界的好況」にむけて一層努力するよう強く訴え続けていきたいと考えています。この観点から、今年6月に開催を予定している「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」は大変重要なイベントとなります。リオ+20はきっと、MDGsの達成に向けた努力を改めて後押しするとともに国連の開発アジェンダを前進させるものになると期待しています。
5.ナセル議長は南南協力の熱心な推進者としても知られていますが、南南協力が、MDGの大失敗を防ぎ、南北協力がこれまで長年にわたってそうであったように、世論を動かし、現場の人々の生活に影響を及ぼすものとなる見込みはあるとお考えでしょうか?
はい。南南協力や三角協力に関する問題について、私は従来から個人的にも深く関心をもって関わってきました。実は光栄にも2009年にケニアのナイロビで「南南協力に関する国連ハイレベル会合」が成功裏に開催されるまでの3年間にわたり、「南南協力に関するハイレベル委員会」の委員長を務めた経験があります。私は、南南協力こそが、今日的な開発問題に対処でき、開発途上地域に持続可能な開発をもたらすことができる真の潜在能力があると堅く信じています。
これまで度々強調してきたように、南南協力は従来の南北協力にとって代わるものではなく、両者は補完的な関係にあるのだということを改めて強調しておきたい。
また、南南協力と三角協力が、今ほど関連した大きな重要性を持って注目されたことはありません。このことは、とりわけ南の主だった国々における経済成功の現状や、これまでに成功した革新的な開発事例の中に、途上国の間で共有、複製され、さらにはスケールアップされたものもあることを考えれば、当然だと思います。
6.「第四回援助効果向上に関するハイレベル・フォーラム. (釜山HLF4)」から南南協力に向かう何か新たな兆候は見られたでしょうか?
私は、先進国と新興国を含む途上国双方の閣僚、政府高官、さらに市民社会組織(CSO)が採択した成果文書「効果的な開発協力に向けた釜山パートナーシップ(釜山宣言)」を歓迎します。この成果文書が、「効果的な開発協力のための、さまざまな供与主体を一つにする新たな包括的グローバルパートナーシップの構築」を掲げたことは重要です。私たちは、開発援助にコミュニティー、市民社会、民間セクター、政府がともに参画し、当該国の開発優先課題や枠組みを踏まえて協力して相乗効果を模索するとき、その開発援助は効果的なものとなるということを常に認識しておかなければなりません。
釜山HLF4が、「南南協力と三角協力への支持を拡大し、途上国のより多様な状況やニーズに適用する」ことに合意したことに、大いに勇気づけられています。このように、国際社会が、南南協力と三角協力がこれまで達成してきた実績や相乗効果が認めて、より積極的に活用することで合意したのは素晴らしいことです。
7.中東非核会議が今年予定通り開催され成果を出すためには、国連総会としてどのような役割が果たせられるとお考えでしょうか?
国連総会は、1978年に開催した第一回国連軍縮特別総会以来、核軍縮を最優先課題の一つと位置付けてきました。これまで国連総会での承認を求めて提出された多くの決議案の中には、国際平和と安全保障を促進する観点から中東非核地帯の創設を目指すことの重要性に明確に言及したものも含まれています。
本年国連総会は、毎年コンセンサスで諮られる「中東非核地帯設置」決議の採択に加えて、中東非核・非大量破壊兵器地帯の創設に関する2012年会議について明確に言及し、同会議の開催を強く支持する内容が含まれた、「中東地域における核拡散のリスク」決議を採択しました。
私は、国連総会第一委員会など様々な機会を通じて、フィンランドのヤッコ・ラーヤバ外務事務次官が国連事務総長によって2012年会議のファシリテーターに任命されたことを歓迎していました。また私は、ヤーラバ氏が2010年核不拡散条約(NPT)運用検討会議の最終合意文章の内容に従って今年中東会議を成功裏に開催できるよう、国連総会として支援していく旨を申し出ています。
また私は、2011年11月に国際原子力機関(IAEA)が主催した「中東非核地帯創設」関連フォーラム(これまでに設立されている他の地域における非核地帯の経験を検証したもの)に、この問題を重視していることを示す観点から、当事務所の上級代表をオブザーバー派遣して参加させました。私は引き続き、2012年の中東会議を適切なタイミングで開催することを目指す公式・非公式の努力やイベントに対して、個人的に或いは事務所を通じて、可能な限り支援を差し伸べていくつもりです。こうした努力は今後も続けていきます。
8.国連総会は、地政学上の変化に対応した再調整が必要だとして長年にわたって安全保障理事会の改革に熱心に取り組んできました。国連創設70周年にあたる2015年までに改革の見込みはあるでしょうか?
安保理改革は、国際平和及び安全保障に関する国連の意思決定のありかたを活性化するうえで最も重要な部分を占めていると考えています。昨年11月に安保理改革に関する政府間会合第8ラウンドの第1回会合が、私が全幅の信頼を置いているザヒール・タニン議長(アフガニスタン国連常駐代表)のリーダーシップのもとで開催されました。こうした交渉は、大幅に遅れている安保理改革を成し遂げることの必要性を加盟国に対して明確に伝えているものと確信しています。私は国連総会の議長として、引き続き全ての加盟国の総意を反映した解決策を支持していきます。今回の会合では新たな展開が見られました。この流れを生かして近く安保理改革に関する会合を開催したいと考えています。(原文へ)
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩