ニュース視点・論点|米国|フクシマが投げかける長い影(ハーベイ・ワッサーマングリーンピースUSA顧問)

|米国|フクシマが投げかける長い影(ハーベイ・ワッサーマングリーンピースUSA顧問)

 【コロンバスIDN=ハーベイ・ワッサーマン】

福島第一原発事故の収束が依然不透明な中、米国では1978年以来初めて、原子力規制委員会(NRC)が原子炉の建設・運転許可を下した。米国では1979年のスリーマイル島原発事故以降、原発の新規建設を凍結してきたが、今回の建設認可はじつに34年ぶりとなる。

福島第一原発では、数千トンにのぼる放射性使用済燃料が未だに危険な状態に置かれており、放射性廃棄物や汚染された水が自然界に流出し続けている。核技術者のアーニー・ガンダーセン氏は、3月11日の大震災・大津波に続いた一連の災害で、同原発の封じ込めキャップが浮き上がってしまい、危険の放射性ガスが噴き出し、水素爆発を誘発した可能性があると発表した。

 米国にも、依然として、[福島第一原子力発電所と同じ]マークI型原子炉が23基存在している。

新たに公開されたNRCの秘密メールは、原発事故直後のNRC内の緊迫した状況を伝えている。東京が避難対象に含まれる可能性や、放射性物質が太平洋を越えてアラスカを汚染する可能性についても言及されていた。

原発推進派は、ジョージア州ボーグルに東芝の子会社「ウェスティングハウス社」製の新型加圧水型軽水炉「AP1000」(1100メガワット)の建設と・運転を許可したNRCの判断を歓迎している。現在ボーグルには2基の原子炉(1号機、2号機)が稼働中で、新規原子炉の建設を主導する電力企業サザン社は、今回建設許可を受けた3号機の2016年後半、4号機の17年後半の運転開始を目指している。

しかし、NRCのグレゴリー・ヤツコ委員長は、5人の委員の中で唯一、建設・運転許可に反対の判断を下した。「福島事故の教訓が原子炉設計にまだ生かされていない」というのが理由である。

一方、建設・運転許可に賛成したNRCの4人の委員は、12月14日に開かれた下院監視・政府改革委員会の公聴会の席で、ヤツコ委員長の「運営手法」を公然と非難していた。しかし今回のボーグル原発を巡る投票結果を見ると、両者の対立の源は、むしろ原子炉の安全性に対する考え方の相違にあるようだ。

今回の建設・運転許可はじつに1978年以来のもので、今回の決定に至るまでに長年の歳月を要した。NRCでは様々な側面が議論されたが、その中にはAP-1000がはたして地震やその他の自然災害に耐えられるかどうかというという指摘も含まれていた。最終計画は未だに完成していない。

ジョージア州に隣接するサウスカロライナ州では、既に原発施設の建設に向けた整地作業が進んでいる。ジョージア州の場合と同様に、サウスカロライナ州の消費者は、好むと好まざるとにかかわらず、原子炉建設の費用を負担させられているのである。新たな原子炉は完成させない方がよいのか、それとも完成させた後に放射能事故に遭遇するのか、納税者は難しい選択を迫られている。

米国の産業界はボーグル原発における原子炉増築許可を「核のルネッサンス」へと続く大きな弾みになるとみている。しかし一方で、日本では全国54基の原発の内、2基(東京電力柏崎刈羽原発6号機、北海道電力泊原発3号機)を除く52基が定期点検等で運転を停止しており、さらに両原発も4月下旬までには停止する予定である。

世界各地で、原発は危機に瀕している。ドイツは、2022年までに全ての原発を停止すると決定した。英国では、米国フロリダ州の場合と同様に、新たな原発計画が法的訴訟に直面している。インドは、2011年、グリーンエネルギーで世界をリードした(前年比52%増、103億ドルを投資)と発表した。一方中国は、福島原発事故を受けて、今後の核エネルギー政策をどうしていくかについて、依然として方向性を明らかにしていない。

そして米国では、ボーグル原発に続くものはなく、既存の原発では、バーモント州のものやニューヨークのインディアン・ポイント原発(NY市から僅か50キロ)などが、政府による非難の対象とされている。また、フロリダのクリスタル・リバー原発は、多額の修理費用に悩んでおり、今後廃炉になる可能性がある。また、カリフォルニア州のサン・オノフレ原発では、配管が破損して汚染水が漏れ出し、放射性物質が大気中に放出したことから緊急停止した。その他にも発電機を動かす蒸気の配管トラブルが全米各地の原発施設で相次いでいる。

他方、日本では、福島第一原発2号機の急激な温度上昇、田坂広志多摩大学教授が内閣官房参与時代に経験した政府の内情の暴露など、問題が終わる気配はない。

田坂教授は、福島第一原発施設の安全に関する政府の保障は、「根拠のない楽観主義に基づくもの」と指摘したうえで、「福島原発危機は依然として解決から程遠い状況にある」と警告した。ジャパンタイムズが2月8日に報じたインタビュー記事によると、田坂教授は、第4号原子炉だけでも、1500本以上の燃料棒が非常に危険なむき出し状態になっていたと証言している。

原因は依然不明だが、原発第2号機が摂氏70度を超える熱を放出し続けている問題について、東京電力は再臨界を抑制するためホウ酸水を注入した。田坂教授らは、これによって放射線物質がますます地下水面と海へ拡散するだろうと警告している。

日本、米国をはじめ世界各地で、福島原発から排出される放射性物質が及ぼす健康被害を巡る熾烈な議論が展開されている中、米国で新型原子炉の建設・運転の認可が下されたという出来事は、将来、20世紀の最も高価な欠陥技術に対する奇妙な判断として振り返られることになるかもしれない。

米国の公共料金納付者や納税者が引き続き費用負担を強いられる状況が続かない限り、米国が国内で原発の新規建設を続けていくことは難しいだろう。そして、福島の事故が最終的な解決に導かれないかぎり、東京、アラスカ、ジョージア等世界中のあらゆる場所が放射能のリスクに直面しているという事態に変わりはない。

※ハーベイ・ワッサーマン氏は、米国のジャーナリスト、グリーンピースUSAの顧問。

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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