【国連/メキシコシティーIPS=J.トレブリン、E.ゴドイ】
2年前、アシュカン・デランヴァール氏はイラン当局に逮捕され、劣悪な環境に2週間収監された後、10か月の禁固刑を言い渡された。
彼の罪は何だったのだろうか?学生ブロガーでコンピューター技術者のデランヴァール氏は、当局のインターネット監視フィルターを潜り抜けるソフトウェアを「人々に提供しその使い方を指導した罪」で有罪判決を受けたのである。
デランヴァール氏は最終的にイラン国外に逃亡することに成功し、現在ドイツに亡命申請を出している。デランヴァール氏は、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが把握している、イランのサイバー犯罪法(2009年施行)の下で裁かれ、有罪判決を受けた最初の人物である。
「ブロガーは、他者に知らせることを自分の義務だと考えます。しかしイラン当局は、日常生活や政治動向の分析に加えて、当局が検閲で阻止したニュースまで伝えようとする彼らの存在を、脅威と捉えているのです。」とデランヴァール氏はアムネスティーに対して語った。
「国際報道自由デー」にあたる5月3日、人権擁護活動家らは、「ジャーナリストやサイバー活動家は、報道の自由を憲法で保障していない国や(保障していても)政府があえて無視する国々において、近年ますます迫害に晒されるようになっている。」と述べている。
2011年はこれまでで最悪の年
アムネスティ・インターナショナルによると、今やオンラインで当局を非難することは極めて危険な行為となっており、多くの国において2011年はオンライン活動家にとって最悪の年となった。
ソーシャルメディアは、「アラブの春」の際にみられたように、今や当局に対する抗議運動を組織できる有効なツールとしての確固たる地位を獲得した。これに伴い、ツイッターやフェイスブックといったソーシャルネットワークを駆使する市民「ネチズン」も、ジャーナリストと同様の危険に晒されるようになっている。
「2012年の初頭以来、5日に1名のペースでジャーナリストが殺害されています。またその他にも、世界各地で121人のネチズン並びに161人のジャーナリストが、彼らの権利と義務を遂行したことが原因で投獄されています。」と、国境なき記者団のデルフィン・ハルガンドワシントン所長は、5月3日に開催された「国際報道自由デー」記念レセプションで語った。
一方ニューヨークに本拠を構える「ジャーナリスト保護委員会」は、さらに大きな数値を挙げている。同団体によると、2011年に収監さえたジャーナリストの総数はその前年実績を2割を上回る179人で、1990年以来最悪の数字となった。
強まる当局によるインターネット規制
中国から、シリア、キューバ、アゼルバイジャンに至る多くの国々では、政府当局が検索エンジンを検閲し、法外なインターネット接続料金を課し、フェイスブックやツイッターのパスワードを入手するために活動家を拷問し、オンラインにおける言論を制限・管理する法律を議会で通過させている。
こうした当局による締め付けは「アラブの春」の際、エジプトで典型的に見られた。当時、ホスニ・ムバラク政権は、インターネットのみならず携帯通信網も封鎖したのである。
ウィドニー・ブラウン国際法・政策上級部長は、プレスリリースの中で、「デジタル空間が一般に普及したことにより、活動家らは、互いに支え合いながら、世界の人権、自由と正義のために闘えるようになりました。」「政府当局がオンラインジャーナリストや活動家への攻撃を加えているのは、こうした勇気ある個人がインターネットを駆使していかに効果的に当局に挑戦を仕掛けてこられるかを理解しているからなのです。」と語った。
しかしジャーナリスト、ブロガー、活動家らは当局のインターネット規制の網を潜り抜け、世界の何百万人もの人々に自らの主張を訴える新たな方法を見つけ出している。
いくつかの国々では、活動家らは自らのアイデンティティを保護するため、投獄されたり殺害された仲間のツィッターやフェイスブックアカウントを使用して活動を続けている。
世界的な傾向
独裁傾向が強い旧ソ連構成諸国では、今年になって既に、独裁権力の強化、反体制派の弾圧、言論の封殺、デモの鎮圧が発生している。
2011年末の大統領選挙が大きな批判をあつめたベラルーシでは、数名の著名な反体制派活動家とNGO団体の指導者が逮捕・拘禁されている。
ハンガリーは2011年に厳格なメディア規制法を国会で成立させたことから、欧州加盟諸国より厳しい非難に晒されている。
ラテンアメリカでは、ホンジュラスとメキシコがジャーナリストにとって最も危険な国である。
2012年上旬、ホンジュラスの人権活動家でジャーナリストのディナ・メッサー氏は、彼女に対する性的暴行を示唆する脅迫を繰り返し受けている。4月6日、メッサー氏は子どもと近所を散歩していたところ、2人の男が自分の写真をとっていることに気付いた。
4月28日、ジャーナリストのレッジーナ・マルチネス氏の遺体がメキシコ、ベラクルス市の自宅で発見された。レッジーナは、政治雑誌「プロセッソ」の記者で、それまで30年以上に亘って、メキシコの治安問題、麻薬取引、不正・腐敗に関する報道を続けてきた。地元当局は、この殺人事件を捜査すると明言した。
「メキシコでは、ニューメディアの使用が益々浸透してきましたが、一方で昨年の状況を見る限り、ジャーナリストらは、数年前には想像もできなかったような攻撃に晒されるようになっています。」と、ニューヨークを拠点にしているNGO「フリーダムハウス」のカリン・ドイチュ・カーレカー(報道の自由担当)ディレクターは語った。
人権保護団体によると、メキシコでは2000年以来、少なくとも65人のジャーナリストが殺害されており、行方不明者も少なくとも10人に及んでいる。
「国際報道の自由デー」の前夜、2人の報道写真家のバラバラ遺体がメキシコ東部のベラクルス州で発見された。
「メキシコでは近年報道の自由は後退を余儀なくされてきており、深く憂慮しています。なかでも深刻なのは、殺人事件が起きても捜査されないことが少なくないため、罪を犯しても罰せられないという事態がまかり通っていることです。」とドイチュ・カーレカー氏は語った。
メキシコ上院は、脅迫されているジャーナリストと人権活動家を保護する新たな法律を承認した。しかし、状況は引き続き深刻なままである。
「ジャーナリストを脅迫したり殺害しても罰せられないままになっている事例があまりにも多すぎます。国連は、各地で頻発するジャーナリストに対する襲撃事件について、全ての加盟国に対して、法的枠組みを強化するとともに、そうした事件を捜査するよう、一層働きかけを強める所存です。」と5月3日に国連本部で開催された「国際報道の自由デー」記念レセプションに出席した潘基文事務総長は語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩
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