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|東京会議2012|ISAF以降のアフガニスタンに注目が集まる

【東京IDN=浅霧勝浩】

日本は米国に続いて世界第2位のアフガニスタン支援国である。2002年1月に「東京会議」が開催されてから2011年末までに、日本はアフガニスタン支援のために33億ドルを投じてきた。援助分野は、民主化に向けた政治プロセスから、インフラ整備、農業・産業育成、ベーシックヒューマンニーズ、さらには30年余りに及ぶ内戦で深刻なダメージを受けてきたアフガン文化の復興支援まで多岐にわたっている。

アフガニスタンに駐留している10万人規模の国際治安支援部隊(ISAF)が2014年末までに撤退するのを前にその後のアフガン支援を協議するために開かれた「アフガニスタンに関する東京会合」(東京会議2012)では、日本の玄葉光一郎外相が、2012年からの5年間で経済社会開発や安全保障能力向上に最大30億ドル(開発支援22億ドル、治安支援8億ドル)を支援すると表明した。

 玄葉外相は、アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領ら80の国と国際機関の代表を前に、日本はアフガニスタンの開発戦略を踏まえ、3つの柱を重視して経済社会開発分野の支援を行うと語った。

それらの柱とは、アフガニスタンの人口の約8割が従事する農業分野への支援、インフラ整備、人づくりである。玄葉外相は、こうした分野への支援を通じ、日本政府は2017年以降も引き続きアフガニスタン主導の国造りに相応の貢献を行っていく意向を表明した。

また、アフガニスタンと周辺諸国との地域協力を更に強固なものとするために、周辺諸国(中央アジア、パキスタン)に対し、総額約10億ドル規模の事業を行うとともに、これら事業を通じて、中央アジアからパキスタンのカラチまで至る、アフガニスタンを縦断する回廊の整備を支援する意向を表明した。
 国際社会が今から2015年までの5年間にアフガニスタンの経済開発支援に総額160億ドル(1兆2800億円)ものコミットをした意義は、極めて大きい。この支援は、アフガン政府が従来から開発努力の妨げとなってきた腐敗・汚職などのガバナンス問題に取り組み、国際社会はその進捗状況をモニターするという新たな条件に同意したことを受けて、正式にコミットされたものである(「相互責任に関する東京フレームワーク」)。

世界銀行は、アフガニスタンの移行期間の最初の3年間において、現在の国民総生産(GDP)170億ドルの減少を防ぐために、非安全保障部門で33~39億ドルの予算が必要だとみている。

この開発支援は、今年5月にシカゴで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で、アフガニスタン国軍に(ISAF撤退後の)2015年から17年までで41億ドルを提供することが発表されたことに続くものである。

国連食糧農業機関(FAO)が指摘しているとおり、30年に亘る戦争、社会不安に加えて、度重なる自然災害に見舞われてきたアフガニスタンは、膨大な復興ニーズを抱えている。近年ある程度の成長・前進が見られるものの、依然として、数百万人ものアフガニスタン人が朽ちかけたインフラや環境被害に晒されている厳しい状況下で、極貧の生活を余儀なくされている。この岩だらけの陸封国は、未だに全人口の半数以上が最低生活線(貧困ライン)を下回る、世界最貧国の一つなのである。

「2007-08国家リスク脆弱性評価(NRVA)」によれば、アフガン人口のおよそ3分の1にあたる740万人が日々の食事にすら困り、全人口の37%にあたる850万人が必要な食料確保の境界線上にあるという。さらに、毎年40万人が、干ばつや洪水、地震などの度重なる自然災害による甚大な被害に晒されている。

安全・安定に向けた支援

こうした状況を背景に、国連の潘基文事務総長は、「私たちは全員、アフガニスタンの人々と力を合わせて、安全、安定、そして繁栄を求め続けなければなりません。アフガニスタンが国内の平穏を取り戻せば、自分自身、そして子どもたちの生活を改善するという国民の希望にきっと応えられることでしょう。」と述べ、国際社会に対して引き続きアフガニスタンへの関与と支援を継続するよう呼びかけた。

また潘事務総長は、「そして、アフガニスタンが遠くも近くも、近隣諸国との友好関係を保てれば、地域、そして国際の平和と安全に大きく貢献することでしょう。」と、会議参加に語りかけた。「東京会議2012」は、この3カ月の間に開催されたアフガニスタンに関する一連の国際会合(シカゴ会合、カブール会合に続く)の3つ目となるものである。

さらに潘事務総長は、「私たちはアフガニスタンの歴史上、極めて重要な時期を迎えています。アフガニスタンの様々な制度や機構の確立を可能にした援助への依存から脱却し、機能する主権国家として国民や国際的パートナーとの関係を正常化するための移行期にあるからです。」と語った。

「しかし、はっきりさせておく必要があります。移行は単に短期的な対応を意味するものではありません。アフガニスタンの人々に、よりよい未来が訪れるという長期的見通しを与え、アフガニスタンが見放されるのではないかという不安を和らげるべきです。」

「国際社会は、アフガニスタンが約束したガバナンスの遂行と責任に関し、深刻な懸念を持っています。この問題には、アフガン国民の利益となるように、また、ドナーの信頼を維持できるような形で取り組まなければなりません。また、アフガニスタンの制度や機構が生まれて間もないことも十分に認識せねばなりません。」と潘事務総長は語った。

潘事務総長は、国際ドナーとアフガニスタンのパートナーシップ原則について定めた「相互責任に関する東京フレームワーク」によって、アフガニスタンと国際ドナーが相互に行った約束がモニタリングされ、実行されるという信頼感が生まれる仕組みが作られたことを歓迎した。

「ドナーは、アフガニスタン国内の当事者意識と能力を実質的に高めるような形で、予測可能な援助を提供するという約束を果たすべきです。その一方で、ボン、カブール、そしてロンドンでの誓約に沿い、国民によりよく奉仕するという義務を果たす主たる責任が、アフガニスタン自身にあることは言うまでもありません。」と潘事務総長は語った。

また潘事務総長は、「今後に向けて、国連が達成できること、そして達成できないことにつき、相応な期待を持とうではありませんか。」と述べ、国連として引き続き長期的な観点からアフガニスタンへの関与を続けていく意向を表明した。

「移行が進むにつれて生じかねない空白をアフガニスタンが埋めるための支援を提供すべく、国連は主な関係者との密接な協力により、そして私たちの限られた資源が許す範囲内で、全力を尽くしていきます。そのためには『変革の10年(2015年~25年)』全体を通じ、アフガニスタンの経済・社会開発、その制度的能力育成、基本的なサービスと社会的保護、そして雇用、司法、法の支配に対する強力な援助を提供しなければなりません。」と潘事務総長は語った。

約束

アナリストによると、「東京会議2012」で出された「東京宣言」において、アフガニスタン政府は重要な公約を掲げている。同宣言は、16項目からなり、策定にあたった外交官は、カルザイ大統領が残り任期の2年の間に取り組むべき「相互のコミットメント」を記載している。

たとえば、2014年に大統領選、2015年に議会選を行うこと、金融市場への規制を強化すること、蔓延る汚職に対処することなどである。中には、女性への暴力を違法化する法律を実施する時期や、2013年上旬までの次期選挙実施に向けたタイムフレームの設定など、特定の期限を設けている項目もある。

東京宣言の記載内容は多くの点で曖昧なままであるが、策定にあたった外交官は、アフガニスタン政府による公約の順守状況を定期的に外部からモニタリングする仕組みを組み込むことに成功している。この仕組みによると、少なくとも年に1回支援国の代表(高級事務レベル会合と閣僚級会合を交互に開催:IPSJ)が集まり、アフガニスタン政府による取り組みの進捗状況を吟味することになっている。また、第1回閣僚級フォローアップ会合をアフガニスタン政府と英国が2014年のアフガニスタン大統領選挙以降に共催し、資金援助のあり方に関する評価を行うことになっている。国際ドナーは、このように具体的な期限を設けることで、アフガニスタン政府が公約を遵守していくことを期待している。

一方、会議に出席したドイツのギド・ヴェスターヴェレ外相は、アフガニスタンの汚職と腐敗の現状に言及して、「私たちは欧州の基準についてではなく、(欧州とは異なるアフガニスタンの)状況を僅かながらでも良くするために話し合っているのです。」と述べ、アフガニスタン支援の今後に過度な期待を抱くのは禁物との警鐘をならした。

しかし状況を僅かながらよくするという試みでさえ、骨が折れる取り組みということになるかもしれない。アフガニスタンが直面している深刻な現状は、7月14日に発生した、アフガニスタンの著名な政治家の娘のための結婚披露宴が自爆テロの標的となり、少なくとも22人の死者と40名を超える負傷者がでた事件にもよく表れている。

アフガニスタンでは国内情勢改善への道のりは依然として遠い。「東京会議2012」からわずか1週間後、国連のジェンダー平等担当部門(UNウィメン)のミシェル・バチェレ事務局長は、アフガニスタンでの女性に対する「激しい虐待と陰惨な暴行」を非難するコメントを出している。バチェレ事務局長が言及した事件には、アフガニスタンの地方警官に性的暴行と拷問を受けた少女ラル・ビビの事件と、公開処刑された少女ナジバの事件が含まれている。

「アフガニスタン政府が(ISAF撤退後の)移行期に向けて歩みを進め、国際社会がアフガニスタンにおける役割を再定義しようとしている中で、こうした事件は、同国における女性や少女の人権が、緊急かつ継続的に保護される必要があることを、改めて国際社会に着目させるものです。」とバチェレ事務局長は語った。

米国のヒラリー・クリントン国務長官は、国際社会とアフガニスタンが連携して取り組んでいく必要性を強調して、「アフガニスタンはこれまで国際社会の支援を得て、実質的な成長・前進を遂げてきました…しかし今日、私たちはこの変革の10年を通じて成果を挙げられるよう、4者間(何よりもまずアフガン政府と国民、国際社会、アフガニスタン近隣諸国、民間セクター)の確固たる協力関係を確保しなければなりません。この協力関係は、説明責任に裏打ちされたものでなければなりません。全ての当事者が各々の責任を果たしていくことが重要なのです。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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