【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ】
ジュネーブ軍縮会議(CD)は、わずか数か国の強国の既得権益のためにただのおしゃべりの場と化してしまった。これらの国の同意がなければ、核兵器廃絶は言うに及ばず、真の核軍縮は現実のものとして見えてこない。
ドイツのヘルムート・ホフマン大使が、すべての核兵器国を含めた[CD参加国の]64か国に対して、核兵器を世界からなくすためにCDを大いに利用しようと熱意をもって呼びかけたのは、こういう背景があってのことである。ドイツは、8月20日からCD議長国をフランスから引き継いた。
ホフマン大使は、CDが核軍縮・不拡散問題に関する新協定を交渉する唯一の常設多国間機関であるべきかという(近年慣例となってきた)論争を行うだけでは実りがない、という的確な指摘を行っている。
ホフマン大使は、「国連ラジオ」の取材に応じて、「私は、CDがその能力を積極的に利用する、すなわち、その任務を果たすような場であれば、議長として我々の作業を司ることを光栄だと感じることができるだろうと申し上げておきたい。しかし残念ながら、我々が皆わかっているように、CDはこの10年以上、多くの理由によってそのような状態ではありませんでした。」と語った。
また、ベルリンではドイツ外務省が、議長国期間の4週間(8月20日~9月14日)を、「CDの作業に新しい命を吹き込むこと、とりわけ、核分裂性物質の生産と移転を禁止する条約(FMCT)の交渉を速やかに開始する可能性を探ることに使いたい」との意向を明らかにしている。
FMCTは、核兵器あるいはその他の爆発装置のために核分裂性物質をさらに生産することを禁止する国際条約の提案である。しかし交渉は未だに開始されておらず、条文の中身は定義されていない。
世界の二大核兵器国である米国とロシアは、核分裂性物質の定義で意見を異にしている。米国は、核分裂性物質には高濃縮ウランとプルトニウムを含み、Pu-238の割合が80%を超すプルトニウムを含まないとしている。
他方、ロシアの提案では、核分裂性物質とは、兵器級のウラン(U-235の割合が90%以上)と、プルトニウム(Pu-239の割合が90%以上)に限られる。
しかし、どちらの提案でも、民生用や軍艦の原子炉など、非兵器用途で核分裂性物質を生産することは禁止されないことになっている。
したがって、CDで近年新しい条約交渉を始めることができなかったのは驚きに値しない。この一つの理由は、CDの決定は多数決方式ではなく全会一致方式によるためである。各参加国に拒否権があるため、CDの活動は1996年以来機能不全に陥っている。
結果として、4つの主要課題(FMCT、宇宙空間における軍拡競争の防止、核軍縮、非核兵器国に対する消極的安全保証)には大きな進展がみられていない。
CD議長国フランスのジャン=ユーグ・サイモン=ミシェル大使が、CDが作業計画に関する意見の一致に到ることができなかったことを遺憾に思うとの見解を表明したのは、これを念頭に置いてのことである。しかし一方で、テーマ別討議においては、多くの参加国が「相互作用的なやり方で」見解を表明した点も、大使は付加えた。
ジュネーブ軍縮会議は、1979年、軍縮に関する国連の中心的な常設機関として創設された。10か国軍縮委員会(1960年~61)、18か国軍縮委員会(1962~68)、軍縮委員会会議(1969~78)など、ジュネーブにあった交渉枠組みを引き継いだ。
CDは、軍縮・軍備管理・不拡散問題を取り扱う世界で唯一の多国間交渉枠組みであり、年間に24週間開催され、会期は3回に分かれている(加盟国がアルファベット順に4週間交代で議長国を務める:IPSJ)。ドイツが議長国となるのは10年ぶりのことで、2012年の第3会期(7月30日~9月14日)の最後の議長国を務めることになっている。
ドイツ外務省筋は、「我が国は、軍縮と軍備管理を積極的に進めてきた。パートナーとともに、CDの行き詰まりを打開すべく、さまざまな取り組みを行ってきた。最近では、オランダと共同で、FMCTに関する技術的準備作業に関するイベントを開催した。」と述べている。
「ギド・ヴェスターヴェレ外相は、核軍縮の必要性を繰り返し指摘し、核分裂性物質生産禁止条約を主唱してきた。この点で、ジュネーブでの協議は重要な役割を果たしている。
「ドイツを含む10か国で構成される『軍縮・不拡散友のグループ』は、ジュネーブ軍縮会議の再活性化と核分裂性物質生産禁止条約の交渉開始を繰り返し呼び掛けてきた。しかし、今日に到るまで、一部のCD参加国の妨害的な態度により、この取り組みは功を奏していない。」
行き詰まる交渉
会議の参加者は、何が問題なのかをよくわかっている。しかし、既得権益が交渉を妨げてきた。
CDの今会期では、放射性物質兵器など、新しいタイプの大量破壊兵器やそうした兵器の新しいシステムに関する、国連軍縮研究所(UNIDIR)の準備した背景説明資料を討論の素材としてきた。
この問題は1969年にマルタによって初めて国連総会に提起され、CDはその後、レーザー技術の軍事的応用の可能性の持つ意味について検討することを任務としてきた。
1975年、当時のソビエト連邦が、新型大量破壊兵器・新システムの開発と製造を禁止する国際協定案を国連総会に提出した。
しかし、西側諸国は、特定の大量破壊兵器の禁止に賛同しながらも、将来開発される兵器を特定せずに禁止する包括条約を締結することには反対した。1980年代、放射性物質兵器に関する付属機関がいくつかの作業文書を検討したが、コンセンサスは得られなかった。
議長職を終えるフランスのサイモン=ミシェル大使が指摘したように、1993年以来、付属機関は設置されていない。2002年、ドイツは、新しい脅威という文脈において、この問題を再検討する討議文書を提出した。しかし、その後も、討論はまとまっていない。
包括的プログラム
またサイモン=ミシェル大使は、1980年以降CDの議題であり続けながら、1989年以降は付属機関を要するような問題ではないと見なされてきた、軍縮に関する包括的プログラムの歴史についても概略を述べている。
核軍縮を、放射性物質兵器や生物兵器、化学兵器のような他の分野における軍縮の進展と同時並行的に行うべきものとすべきかどうかということについて、各国の意見は割れている。核軍縮は、他の分野における交渉を前提とすべきではないとの意見の国もある。
CDの文書によれば、一部の国は、大量破壊兵器が非国家主体やテロリストの手に渡ることで破滅的な危険がもたらされることを今会期において強調し、ある(匿名の)国は、大量破壊兵器と同じように、安定と安全保障を脅かす能力を持つ新型の情報通信技術に焦点を当てている。
核不拡散条約(NPT)未加盟で核兵器国であるインドは、核軍縮だけではなく、国際の平和と安全を維持するのに重要なその他の兵器および兵器システムも併せて検討する「包括的軍縮プログラム」を志向している。こうしたプログラムの原則は、普遍的に適用可能かつ関連性を持つものでなければならず、この点において、CDは世界で唯一の多国間軍縮枠組みとして主導的な役割を果たすだろうというのがインドの立場である。
しかし、南アジアの核兵器国でライバル関係にあるインドとパキスタンは、コンセンサスを獲得するという点では、激しく対立している。
フランスは、効果的な国際的管理の下での全面的かつ完全な軍縮はCDの究極目標であり、国連総会がしばしば用いてきた議題であると論じている。核兵器不拡散条約は、フランスがとくに重要だと見なしたものである。
しかし、フランスの代表は、CDの今会期において、核軍縮は、放射性物質兵器や生物兵器、化学兵器などの他の分野における並行的な軍縮や、戦略的文脈の全体的な相互依存関係を抜きにして考えられるものではないと主張した。
また同フランス代表は、「我が国は、30年以上に亘って、人道的な軍縮―人間に特定の害を与えるような兵器の生産を防止あるいは中止することを目的とした条約―に向けた取り組みを行ってきた。フランスはまた、『弾道ミサイルの拡散に立ち向かうためのハーグ行動規範(HCOC)』の普遍化を呼び掛け、弾道ミサイルの透明化を促進する上でのこの規範の重要性を強調してきた。」と付加えた。
翻訳=IPS Japan
関連記事:
弾道ミサイルの拡散に立ち向かうためのハーグ行動規範(HCOC)
|イラク|子ども達は実験用マウスだったのか