【アブダビIPS=タリフ・ディーン】
ヨルダンのラニア・アル・アブドラ女王は、アブダビで同時開催されたエネルギーと水に関するサミットで演壇に立ち、出席した世界の政財界リーダーに向かって「私は、エネルギー需要の9割以上を輸入に依存している国を代表してここに参りました。」と語りかけた。
アブドラ女王は、「中東アラブ世界は、石油資源に恵まれた地域であるにもかかわらず、明らかに深刻なエネルギー危機に直面しています。」と指摘し、次のような例を挙げた。
「ガザ地区では停電が日常茶飯事であり、イエメンでは街灯の下でしか勉強することができませんが、女子にはそうした選択肢すらありません。スーダンでは、助産婦は出産が日のあるうちに済むことを祈らざるを得ない状況です。またイラクでは、停電があまりにも頻繁に起こるため、バグダッドのアルダキリ病院では、薬を一定温度で保管できなくなり、やむ無く貴重な薬を処分したのです。」
一方でアブドラ女王は、「しかし、トンネルの中にあっても、一条の光を見出すことができます。」と述べ、その根拠として、「持続可能なエネルギー政策を目指すアブダビ首長国の大胆なビジョンが、サミットをホストしたこの国(アラブ首長国連邦:UAE)を変革し、中東全体の励みとなっているのです。」と語った。(基調講演の映像)
1月15日から17日にかけて、「第6回世界未来エネルギーサミット(WFES)」と「第1回国際水サミット(IWS)」が同時開催され、世界の政財界のリーダーやエネルギー・水問題で影響力を持つ専門家ら30,000人以上が参加した。アブドラ女王は、フランスのフランソワ・オランド大統領等とともに、サミットで基調講演者をつとめた一人である。
また両サミットは「アブダビ持続可能性週間」の一環として開催されたもので、いずれも国営の多角的再生可能エネルギー企業「マスダール」が主催した。
マスダール最高経営責任者(CEO)のスルタン・アーメド・アル・ジャベール博士は、各国代表団を前に、「UAE(確定石油埋蔵量で世界5位)の指導者は、水は石油よりも重要だと考えています。」と述べるとともに、「世界の指導者は、水問題とエネルギー問題に対して、同等の関心を払うべきです。」と訴えかけた。
さらにジャベール博士は、「こんにち、私たちが水を取り扱うには、その汲み上げ、処理、輸送に要するエネルギーも必ず考慮せざるを得なくなっています。また同様に、エネルギーを利用するためには、その掘削・生成に要する水を考慮しなければなりません。」と指摘した上で、「もはや私たちは、水とエネルギーの間にある密接な相互依存関係を過小評価できなくなっています。」と語った。
「現在、世界のエネルギー消費の約7%が水のためであり、世界の水の50%がエネルギーのために使用されています。そしてこの相互依存関係は、時間とともに今後益々拡大していくでしょう。」とジャベール博士は付け加えた。
また両サミットは、エネルギーと水関連の有力企業(シエル、カナディアン・ソーラー、スタトイル、スウェーデンエネルギー庁、三菱重工業、アブダビ国営原子力エネルギー公社、エクソンモービルを含む)にとって、自社の製品を展示し世界市場に技術を売り込む絶好の機会でもある。
再生可能エネルギー源の中で、もっとも伸びているものは何かとの質問に対して、インドのバンガロールに本拠を置く「オーブエナジー社」(太陽光発電の大手)のダミアン・ミラー会長は、「パーセントで見れば、これまでのところ、旧来の再生可能エネルギー源とみられている水力発電に比べて、風力発電が新たな再生可能エネルギー源として大きく伸びています。」と語った。
次にこの分野で最も進歩を見せた国はどこかとの質問に対して、ミラー会長は「ドイツです。」と答えた。また、主にマイクロクレジット(小規模融資)を通じて太陽光発電を大幅に普及させた国の一つとして、バングラデシュを挙げた。
ドイツエネルギー機関(DENA)のステファン・コーラー理事長によると、2011年のドイツにおいて、最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合は12.5%、さらに、総電力消費量に占める割合は20.3%であった。ドイツ政府は、総電力消費量に占める再生可能エネルギーの割合を2020年までに35%、さらに2050年までに80%とする目標を掲げている。
トレド大学(米オハイオ州)のナギ・ナガナサン教授(機械工学)によれば、主要な再生可能エネルギー技術(太陽光、風力、バイオ燃料)の中でこの2年間で最も伸びたのは、発電力を大幅に向上させた一方で、発電モジュールの単価引き下げに成功した太陽光発電であるという。
「今では多くの地域において、太陽光発電の方が、従来の発電形式よりも低価格になっています。また風力発電の方が従来の発電形式よりも安く上がる場合も少なくなく、近年風力発電装置の設置が急速に拡大しています。」とナガサナン教授は付け加えた。
また、バイオ燃料の世界においても、リグノセルロース系バイオマスからのバイオ燃料のように、食糧と競合を起こさないバイオ燃料、技術開発が進められている。
同大学のアルヴィン・コンパーン名誉教授(物理学、天文学)は、IPSの取材に対して、「こうしたエネルギー技術の可能性を活用していく上で、今後も地理的・社会的関連が重要な役割を果たしていくだろう。」と指摘した上で、「今後最大の課題は、政府、電力産業、大学が、地球のより美しい自然環境を実現するために、こうした新たな電力源を最大限に生かす政策をいかに協力して策定するかです。」と語った。
風力も太陽光も断続的なものであるため、風力・太陽光発電は、蓄電技術や既存の発電方式と組み合わせることで、最大の能力を発揮する。
コンパーン名誉教授はこの点について、「移動手段の電化がますます進む中、車に搭載したバッテリーをスマートグリッド(多様な発電方法と電力機器を組み合わせて、電力の需給バランスの変化に柔軟に対応できるようにした電力網)に接続するといったことが考えられます。」と語った。
これらのクリーンエネルギー問題は、世界の若い頭脳にとって魅力的な課題である。コンパーン名誉教授は、「今回の『世界未来エネルギーサミット』においてもこうした課題と機会が議論の焦点となるだろう。」と語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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