Institutional Highlights|視点|ハマスとイスラエルの紛争(ケビン・クレメンツ戸田記念国際平和研究所所長)

|視点|ハマスとイスラエルの紛争(ケビン・クレメンツ戸田記念国際平和研究所所長)

【東京INPS Japan=ケビン・クレメンツ

「真実と平和を愛しなさい」 旧約聖書ゼカリヤ書8章19節

世界と中東はもう暴力的な紛争を必要としていない。この地域は、長年にわたって余りにも多くの暴力を経験してきた。ハマスによる罪のない市民への絶望的な攻撃は、イスラエルの過剰反応を誘発し、とりわけ湾岸諸国やサウジアラビアとのイスラエルの外交交渉を危うくし、イスラエル国内に全般的な不安を生じさせることを意図していた。それはまた、ハマスの軍事力を誇示し、長年にわたる屈辱的なガザ封鎖への復讐を示す目的もあった。イスラエル市民の誘拐は冷酷で残忍なものだったが、イスラエルにおけるパレスチナ人囚人の解放をめぐる交渉の切り札として人質を使う計画の一部だった。(原文へ 

罪のないイスラエル人に対するハマスの暴力のどう猛さは恐ろしいものであり、侵攻から24時間の間に多くの戦争犯罪が行われた。最初の衝撃の後、イスラエル軍の報復は直ちに実行された。

週末10月7日(土)の出来事以来、ガザの内部でも、大規模な人道的大惨事やその他多くの戦争犯罪が発生している。ベンヤミン・ネタニヤフ首相は「復讐」を約束した。彼は、「軍の自制」はないと述べ、新たに樹立された連立政権が、「野獣」や「野蛮人」と彼が呼ぶハマスの戦闘員を粉砕すると述べた。

「われわれは残忍な敵と戦っている。ISIS(イスラム国)よりもひどい敵とだ」と彼は言い、「世界がISISを粉砕し排除したように、われわれはハマスを粉砕し排除する」と付言した。迅速な軍事的対応は理解できるが、イスラエルがガザを「包囲」し、水、エネルギー、電気、食糧の供給を遮断している以上、殺された1,200人のイスラエル人の復讐を果たそうとするために、イスラエルがなにも制約を設けない軍事作戦を展開することは、さらに多くの犠牲者と新たな殉教者を生む可能性が高い。医療・保健施設は手一杯で、物資は不足している。

現在、二つの戦争が行われている。一つは、地上での戦闘である。当初はハマスの抑制のない民兵組織が優勢だったが、今やイスラエルの恐るべき軍事機構が行動を開始し、ハマス支持者ばかりではない230万人のガザ住民に恐るべき結果をもたらしている。そのうち100万人が19歳未満である。イスラエル空軍は、昼夜問わずの空爆で数百発の爆弾をガザに投下している。空、陸、海からの激しい砲撃がパレスチナ居住区を襲い続ける中、ガザ地区では263,000人以上が自宅からの避難を余儀なくされている。これらの避難民が行く場所はない。ガザの封鎖と空爆が始まって以来、2,000人以上のパレスチナ人が殺されている。

エジプトへの出口はなく、もちろんイスラエルへの出口もない。ガザ周辺全域には、戦車や歩兵の数千人のイスラエル軍が展開しており、230万人のパレスチナ人がイスラエルの「復讐」から逃れられない状況にあり、ガザ地区侵攻の可能性が非常に高いと見られる。

二つ目の戦いは、ストーリーの主導権をめぐるものである。イスラエルはすぐに、ハマスの攻撃を9.11アメリカ同時多発テロ事件、真珠湾攻撃、ホロコーストになぞらえ、被害者の立場のストーリーへと移行した。バイデン大統領はハマスの攻撃を「純然たる悪」と呼んだ。これらの対比は全て、迅速で「正当な」軍事行動と「復讐」の記憶を呼び起こすことを意図している。一方、ハマスは、長年の封鎖、抑圧、屈辱によって自らの行動は正当化されると主張している。例えば、ガザはしばしば世界最大の野外刑務所と呼ばれる。世界のメディア(米国主導)は第1の物語を推進し、親パレスチナ諸国や自由なアラブメディアは第2の物語を推進する。しかし、どちらのストーリーも、他方を悪者扱いし、それに対する無制限な流血を正当化するために使うことはできない。

イスラエルによる長年の占領と屈辱にもかかわらず、ハマスがイスラエルの民間人を殺害・誘拐し、イスラエル住民を無差別に恐怖に陥れることによって得るものは何もない。

他方、イスラエルがハマスへの「復讐」を宣言し、民間人を爆撃し、今やガザを封鎖しても何も得られない。

全ての犠牲者は、友人や家族によって悲しまれ、追悼されるだろうし、そうしなければならない。この戦争に勝者はいない。誰にとっても災難である。

国連事務総長はこう述べた。この最近の暴力は、「単独で発生したものではなく」、「56年にわたる占領と政治的終わりが見えない長年の紛争から生じている」。

アントニオ・グテーレス事務総長は、「流血、憎悪、対立の悪循環」に終止符を打つよう訴えた。

イスラエルは、安全保障に対する正当なニーズが具体化されるのを目撃しなければならないし、パレスチナ人は、自らの国家建設が実現されるという明確な展望を目撃しなければならない。パレスチナ人とイスラエル人の合法的な民族的願望を、彼らの安全保障とともに満たす交渉による和平(国連決議、国際法、過去の合意に沿った、2国家間解決という長年のビジョン)だけが、この土地とさらには中東地域の人々に長期的な安定をもたらすことができる。

Kevin P. Clements,Director, Toda Peace Institute
Kevin P. Clements,Director, Toda Peace Institute

その一方で、われわれは目の前で人道的大惨事が繰り広げられているのを目の当たりにしている。双方の暴力に直面して、われわれは黙っているわけにはいかない。パレスチナ紛争に軍事的解決はあり得ないのである。ガザからの脱出を望む人々がそうできるようにする人道的回廊を確保し、国連やその他の人道支援組織が、包囲された住民のニーズに応えて水、エネルギー、食糧、医療物資を搬入できるようにするためには、迅速な交渉が不可欠である。また、(イスラエル軍が侵攻の準備をしているとしても)双方が、長い間に確立されてきた戦争のルールを思い出し、それに従って戦う意思を持っていることも重要である。イスラエルが「無制限に」戦うと企てることは、ハマスがすでに犯している人権侵害に対抗して、さらに多数の人権侵害を引き起こすことになる。

人質の帰還を望み、そのために努力し、停戦と戦争終結のための交渉に向けたトルコと国連の動きの全てを強化しよう。想像力と勇気を持たなければ、パレスチナ人の絶望、屈辱、死、破壊に終わりはない。イスラエル側に想像力と創造性がなければ、真の安全保障はなく、復讐と暴力の連鎖は深まり、常態化するだろう。課題は、ハマスの恐ろしい虐殺への対応を相応かつ抑制的なものにするために、赦しと和解というユダヤ人の豊かな伝統の全てを活用することである。ガザは、イスラエルが復讐に燃える死と破壊に対して責任を負う、もう一つのワルシャワ・ゲットーになる余地はない。

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

INPS Japan

ケビン・クレメンツは戸田記念国際平和研究所の所長。

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