SDGsGoal10(人や国の不平等をなくそう)パキスタンのキリスト教徒 :闘争と差別の影にある少数派

パキスタンのキリスト教徒 :闘争と差別の影にある少数派

【ロンドンINPS Japan/London Post=ラザ・サイード】

アスラム(60歳)は、パンジャブ州の州都ラホールに住むキリスト教徒の衛生職員である。彼はパキスタンの人口の2%にも満たないコミュニティーに属しているが、国内のゴミ収集人や清掃人の80%を占めていると推定されている。この職業は社会的に卑しいものとされ、この仕事に携わるキリスト教徒はしばしば「チュラ」と呼ばれる。このレッテルは社会的認識に根付いているため、より良い仕事に就いているキリスト教徒でさえ、未だに「チュラ」と見られている。

アスラムは正式な教育を受けたことがなく、両親も4人の子供たちもそうだった。これはパキスタンの多くの貧しい家庭に共通する状況で、彼らは生きていくために幼いうちから子供たちを働きに出さねばならない。正義と平和のための国家委員会の報告書によれば、パキスタンのキリスト教徒の識字率は、全国平均の45.56%に対し、僅か34%である。ラホールには、英国統治時代にキリスト教宣教師によって設立された教育機関が数多くあることを考えると、これは驚くべきことである。

これらの教育機関はパキスタン独立後も長年にわたって質の高い教育を提供し、現在もキリスト教コミュニティーによって運営されている。このような教育機関があれば、ラホールのキリスト教徒の識字率も向上しただろうと予想されるが、そうではないようだ。

苦難や差別に直面しているにもかかわらず、アスラムは謙虚で明るい人物だ。人生を前向きにとらえ、自分の仕事に誇りを持っている。アスラムがゴミを集めに家を訪れると、人々は敬意を持って接してくれるという。「コップ一杯の水を頼むと、甘い飲み物をくれるんだ」と彼は笑顔で語った。

しかし、社会におけるキリスト教徒に対する人々の一般的な態度について尋ねると、一転して慎重で深刻な面持ちとなった。アスラムは、国内でキリスト教徒に対する暴力が増加していることは認識しているという。特に今年8月、イスラム教徒の暴徒がキリスト教徒の教会や企業、家を襲撃したジャランワラ事件を懸念していた。暴徒は冒とく疑惑に激怒し、26の教会とキリスト教徒の所有する多くの家屋に放火した。アスラムはこの事件で幸運にも家族に被害はなかったが、暴徒がジャランワラの平和なキリスト教徒社会に与えた破壊と恐怖について語った。

この問題について別の視点を得るために、私は教育を受けたキリスト教徒の青年に取材した。彼は24歳で、医学の学位を取得したばかりで、現在は国際試験の勉強をしている。彼の両親はともに教育を受け、現役で働いている。

職場や社会団体、教育機関などで差別を受けたことがあるかという質問に対して、彼は「そういった場ではあまり差別を受けたことはない。」と答えた。

パキスタンにおけるキリスト教徒の苦悩は何かという質問には、かなり間を置いてから答えた。彼は厳粛な面持ちでパキスタンでキリスト教徒であることは厄介な問題だと続けた。この国ではキリスト教徒は常に誰かを怒らせないように注意する必要があり、宗教的な観点からだけでなく、とかく小さな意見の相違がエスカレートして危険なものになりかねないからだ。彼はまた、誰とも宗教の話をしないようにと両親から忠告を受けていることを打ち明けた。彼は、パキスタンのマイノリティは非常に賢く、誰と何を話すかを注意深く選ばなければならないという意見で、「経済的にも精神的にも満足するには海外に移住するしかない。」と強調した。

次の質問は、国内のキリスト教徒の全体的な地位について満足しているかというものだった。彼は、自分自身は医学生であり、懸命に努力してそこまで来たし、他の人々と同じような機会もあったと語った。彼は、キリスト教徒の現状を他人のせいにはしなかった。彼は、キリスト教コミュニティーの人々が、平等な機会と広大なミッションスクールのネットワークを持っているにもかかわらず、学校に行き学位を取得することに熱心でないことに失望しているようだった。

Map of Pakistan. Wikimedia Commons

この特定のコミュニティーに対する教会襲撃やその他の暴力行為についての質問に入る前に、問題をよりよく理解するために背景を知っておくことは有益だろう。冒涜法はイギリスによって導入され、1860年から存在している。パキスタンはこれらの法律を継承し、1980年から86年にかけて、国を根本的にイスラム化しようとする試みの中で、これらの法律をより厳しくした。預言者ムハンマドを冒涜した場合、死刑または無期懲役に処するという条項が上記の法律に挿入された。

この若い医師は、自分のコミュニティに対する暴力の高まりのせいで、パキスタンではとても安全だとは感じられないと認めた。彼はまた、2015年に彼の親族が爆撃されたユハナバードの教会にいたと語った。彼は、「教会への攻撃について議論したわけではないが、罪のない人々が公正な裁判を受けずに殺されるのは苦痛だ。」と主張した。「誰かがイスラム教に無礼を働けば罰則があるが、誰かが他の宗教に無礼を働いても罰則はない。彼はまた、親しいキリスト教徒の友人が神を冒涜した罪で不当に拘束されたが、幸運にも、彼を保証する教授と一緒にいたため無罪となった出来事についても話してくれた。

その若いキリスト教徒はまた、強制改宗が何度もあり、イスラム教徒になるよう迫られたこともあったが、それを断ったことも明かしてくれた。

キリスト教徒は、家や通りの清掃から新しい世代の教育まで、パキスタンの社会基盤に多くの貢献をしてきた。彼らの奉仕と権利は、社会と国家によって認められ、尊重されるべきである。もし彼らがますます脆弱で不安定になっていると感じるなら、それは緊急に対処すべき深刻な問題の兆候である。(原文へ

INPS Japan

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