【ホーチミンシティIDN=ル・タン・ビン】
ベトナム南部のメコンデルタは長年にわたって米の穀倉地帯であり、今日では2000万人以上の食料源となっている。しかし、気候変動による干ばつや河川水の塩分濃度上昇が、食糧安全保障を脅かしている。
メコン川は中国に源を発し、中国、ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムのアジア6カ国を流れて東シナ海に注ぐ。今日、主要な米輸出国であるベトナムは、主にメコン川に依存して稲作を行っている。
しかし、現在では、中国やラオス、カンボジアに建設された多くのダムが上流からの水の流れを妨げるようになっている。さらに海面上昇による塩水の浸入に、エルニーニョ現象も加わって、耕作用水の大幅な損失をもたらしている。
この10年で、メコンデルタ地域では2016年と20年の2回、大きな干ばつを経験した。昨年にも水不足があり、メコンデルタの農民の生活や生産、ベトナム経済全体に大きな悪影響を及ぼしている。
水文気象学局がベンチェ省で開いた、ベトナム南部における洪水や干ばつ、塩水浸入に関する会議で提示された情報によると、2023年9月、カンボジアのトンレサップ湖の水量が徐々に上昇して15年レベルに回復したが、それでも長年の平均より約1メートル低い。
トンレサップ湖はメコン川の水によって形成された湖で、1年の半分は田んぼとして利用されている。メコン川の逆流によってこれが可能になっている。トンレサップ湖の水かさは10月半ばまでは徐々に回復してきていたが、それ以降は再び減少している。
2023年9月、トンレサップ湖の水量は近年の平均の3割少ない。今年末までには、水かさは平均よりも1.3~1.6メートル程度低くなってしまうとみられる。上流のカンボジアから下流域とメコンデルタ地域への乾季における流量は、平均よりも20~25%少なくなるとみられる。
エルニーニョは4月か5月まで続く見通し
加えて、2016年と同じく、「強力」~「きわめて強力」の強度を持ったエルニーニョ現象が今年4月か5月まで続くとみられている。乾季までの平均気温は、例年の0.5~2度と例年より高い。メコンデルタの雨季は早く終わり(11月中旬以前)、年間の総雨量は例年よりも少なくなっている。
計算によると、今年の乾季中における川の塩分はこのところの平均よりも高く、2022年の同時期に比べて高くなっているという。とりわけ、今年3月における支流のティエン川、ハウ川における塩分量は、このところの平均よりも1リットル当たり3~5度高くなりそうだ。
ベンチェ省農業農村開発局のブイ・バン・タン副局長は昨年9月、塩水の浸入で2カ月間は地元に影響が出るだろうと語っていた。例年、塩水の浸入は年間3カ月ほど起こっているが、ひどい年には半年も続くこともある。
2019~20年の乾季には、干ばつと塩水の浸入が例年より早く起こった。浸透度も高く長期化したため、冬春期収穫のコメが5000ヘクタール以上、果樹が2万7000ヘクタール以上、水産養殖2000ヘクタール以上が被害に遭い、総被害額は1兆6000億ドン(1億3590万米ドル)を超えた。
タン副局長は、深刻な塩害が発生した際の水文気象学的レポートを早期に発表し、特に、いつ、どこで、人々が確保できる淡水があるのかについて発表するよう勧告している。警告を強化し、被害を抑えるために、地元は技術、設備、自動塩分濃度、水位監視システムで支援されなければならない。
管理部門や専門家は以前、水量が少なく雨季が早く終了し、エルニーニョ現象が長く続いた2016年の乾季には、15年と同じく、メコンデルタには厳しい干ばつの可能性があると述べていた。
この7年前の乾季には、干ばつの長期化によって60万人が飲み水不足に陥り、16万ヘクタールの土地が塩化し、5兆5000億ドン(2億2660万米ドル)の被害があった。
2023~24年の冬春期のコメの収穫では、メコンデルタ地域の147万ヘクタールの田で1060万トンの収穫があると予測されている。これは、面積で150万ヘクタール分、収量で1100万トンだった昨年よりも少ない。
農業農村開発省では、カマウ半島における10万8000ヘクタール分のエビやコメの生産が水不足の影響を受けると予測している。2015~16年乾季の塩水浸入の際には、ロンアン、ティエンザン、ベンチェ、チャーヴィン、ソクチャンの各省で、約6万ヘクタールの冬春期収穫のコメと4万3000ヘクタールの果樹で水不足が生じた。
ベトナム農業農村開発省は、干ばつと塩化が農業生産に与える悪影響を農民が乗り越える支援を行うために、多くの短期・長期的な提案を行っている。
たとえば、日常生活と生産用に淡水貯蔵施設を作ること、塩水の浸入を防ぐために河口に塩水防止施設を建設することなどである。
ティエンザン省農業農村開発局のトラン・ホアン・ナット・ナム副局長は、同省は干ばつや塩水浸入の防止作業を積極的に行っていくと語った。
西部の果樹栽培地域の塩害防止を確実にするため、ティエン川を結ぶ6つの暗渠を建設した。「東部では、ゴコン緩衝地帯によって、塩水の分離や排水などの塩化防止策を講ずることとしている。」とナム副局長は語った。
加えて、ティアンザン省は、(チャウタン地区にある)ティエン川から420メートルに位置するヌグエン・タン・タン運河に塩水浸入防止排水溝の完成を急いでいる。2022年11月半ばに始まった事業には5180億ドン(2130万米ドル)が投資されている。完成時には、塩化防止と淡水の提供・灌漑によって、ティエンザン省とロンアン省の110万人の生活と12万8000ヘクタールの農地に奉仕することになっている。
「南部灌漑利用社」メコンデルタ支局長のル・トゥ・ドゥ氏は、「支局では(キエンザン省)カイロン-カイベ下水道の内外で塩化の状況をモニターしている。」と語った。
これは、3兆3000億ドン(1億3590万米ドル)を投じたメコンデルタ地域では最大の灌漑事業であり、メコンデルタのカマウ半島の40万ヘクタール近い土地の水を管理するものだ。事業期間に突貫工事で建設された。
コロナ禍の2年間で、塩水浸入の任務は達成された。「ベトナム政府とメコンデルタ地域の人々の努力によってすべての資源を動員することで、私たちは困難を克服し、豊作を達成するでしょう。」とトゥ・ドゥ支局長は語った。(原文へ)
INPS Japan
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