【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ】
ロシアのウクライナに対する全面的な軍事侵攻は3年目に突入した。ウラジーミル・プーチン大統領は核兵器使用の恫喝をしている。米国の元大統領で次期大統領選での共和党候補でもあるドナルド・トランプ氏はさらに威嚇を強め、防衛予算の対GDP比2%という目標を達成できない北大西洋条約機構(NATO)加盟国に侵攻するようプーチン大統領に促しているかにすら見える。
核戦争の真の危機が迫り、長年にわたる「核のタブー」が打ち破られてしまった。全世界的な大惨事につながりかねない核紛争のリスクは大きく高まっている。現在、ロシア・米国・中国・フランス・英国・パキスタン・インド・イスラエル・北朝鮮の9カ国が核兵器を保有している。
これらの国は合計でおよそ1万3000発の核兵器を保有していると推定されており、そのうち9400発が実戦使用可能な状態にある。冷戦期の約7万発に比べれば大幅削減ではあるが、今後10年で核兵器数は増加することが見込まれ、その能力も大幅に向上することになろう。そのほとんどが、1945年8月に日本の広島に投下された核兵器よりも強力である。
その他32カ国も問題の一部である。そのうち5カ国が他国の核兵器の配備を認め、残り27カ国が核兵器使用を是認している。核兵器はたった1発でも数十万人を死に至らしめ、人間や環境に永続的かつ壊滅的な効果を与えうる。ニューヨークで1発の核兵器を爆発させただけでも58万3160人が死亡すると推定されているのである。
にもかかわらず、核による恫喝は止んでいない。ドイツの元駐米大使で安全保障の専門家であるウォルフガング・イシンジャー氏は「仮にトランプ大統領がNATOや米国の核の傘に対する疑念を表明したり、あるいは、我々の頭越しにロシアのプーチン大統領と取り決めを結んだりして、ウクライナや欧州の安全を損なうようなことになったらどうだろうか」と問う。「多くの警告があるにも関わらず、我々欧州人には『プランB』がない。」
抑止
ドイツ外務省は「NATOの核抑止は信頼性のあるものでなくてはならない。」と主張している。「国際的な規則を基にした秩序に挑戦する国々が核兵器を保有している一方でNATOは核兵器を持っていないという世界は安全ではない。ドイツ政府がF-35を調達する決定を下したのはこのためである。現在の航空機のF-35への更新はNATOによる核共有の枠組みの下で行われる。」
それぞれ290発、225発の核兵器を保有しているフランスや英国と異なり、ドイツは自前の核兵器を持たない。しかし、トルコやイタリア、ベルギー、オランダと並んで、ドイツは米国の核兵器の自国内配備を認めている。ドイツ空軍は「B61」核爆弾のおよそ15発使用の任務を割り当てられており、この爆弾は同国ラインラント-ウェストファリア州のブッヒェル空軍基地に配備されている。
2017年にノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のメリッサ・パーク事務局長は「核保有国が核兵器と誤った抑止ドクトリンに固執し続ける限り、遅かれ早かれ核兵器は使用される可能性がある。手遅れになる前に核兵器を廃絶すべきだ」と語った。
パーク事務局長は、昨年11月27日から12月1日にかけてニューヨークの国連本部で開催された第2回核兵器禁止条約締約国会合で科学者や国際赤十字委員会、ICANが合意した宣言について指摘した。宣言は「核兵器が人間に与える帰結とリスクに関する新たな科学的知見に焦点をあて、その理解を促進し、核抑止が本来的にもつリスクと想定をこれと並べてみることによって、核抑止の基盤となっている安全保障パラダイムに挑戦することが必要だ。」と述べている。
核兵器禁止条約はとりわけ、核兵器の展開や保有、移転、貯蔵、配備を禁止している。ドイツ外務省は「こうした広範な禁止事項によって、核禁条約とNATO同盟国が負っている義務との間には衝突が生じる。核共有がいい例だ。このためにドイツも他のNATO諸国も条約に参加せずにいる。」との見解だ。
ICANはすべての核保有国に対して、緊張を緩和し、核抑止という危険なドクトリンから離脱する緊急の措置を採るべきだと訴えている。「核軍縮はロシア・ウクライナ間での交渉を通じた和平の本質的な要素のひとつだ。多国間核軍縮は、他の核保有国がロシアのような道を歩み核兵器を使用してしまうことを防ぐ唯一の方法だ。これが、戦争犯罪を犯し民間人を恐怖に陥れることへの防護壁となる。核禁条約への参加は、核抑止論を非正当化し核兵器を廃絶するための重要な一歩になる。」
強さを増す核兵器禁止条約
第2回締約国会合は、条約が力強さを増していることを示した。複数のオブザーバー国が条約に近々参加する意志を表明し、これによって、条約に署名、批准、あるいは加入した国の数は、国連の全加盟国193の半数以上に達することだろう。
ドイツもまた、条約締約国と同じく、核軍縮が停滞していることに懸念を持っている。オーストラリアやベルギー、ノルウェーと同様にドイツも締約国会合に[オブザーバーとして]参加した。
「ドイツ政府は、現在の安全保障環境の下でいかにして核軍縮に進展をもたらしうるかについて、核兵器禁止条約締約国との対話を続ける所存だ」とドイツ外務省は述べている。
創価学会インタナショナルの寺崎広嗣平和運動局長は、「核禁条約締約国は過去2年間、あらゆる核の恫喝に反対し核抑止という誤った考え方に抵抗する中心的な役割を果たしてきた。」と語った。
2021年の第1回会合で締約国は「明示的なものであれ暗黙のものであれ、そして状況がどのようなものであれ、あらゆる核の恫喝」に我々は反対すると明確に述べた。ニューヨークでの第2回会合では「核兵器が人間に与える帰結とリスクに関するあらたな科学的知見に焦点をあて、その理解を促進し、核抑止が本来的にもつリスクと想定をこれと並べてみることによって、核抑止の基盤となっている安全保障パラダイムに挑戦すること」に合意した。
寺崎氏はまた、「宗教団体が手を取り合って、国連や国際社会、市民社会の草の根の意識喚起活動において、一般市民の人命が奪われる事態に、一刻も早く終止符を打つための道を見出す。人間性の名において、壊滅的な非人道的な結末を回避し、人々が集い互いを理解して、苦しんでいる人々を誰も取り残さないようにし、誰もが自分らしく輝いて、多様な生を享受できる世界をつくることが必要だ。」と語った。
ICANがオランダ最大の平和団体「PAX」と共同で行った新たな調査は、核兵器製造企業からの投資引揚げが重要だと強調している。紛争によって世界的な核軍拡競争が加速し、核保有9カ国の2022年の核兵器関連支出は計829億ドルにも達している。結果として核兵器産業は、核戦争に対する世界の心配をよそに、恥も外聞もなく核兵器から利益を得ている。
ウクライナ紛争とそれに伴う核の緊張の高まりによって、核兵器製造企業の利益は急増し、保有株・債券で157億ドル増、融資と証券引受業務で571億ドル増となっている。
調査報告書は、核兵器製造に関わる24企業と実質的な金融・投資関係にある287の金融機関を特定している。
この287の投資機関のうち、核兵器禁止条約締約国に本拠を置く企業は3社しかない。うち、1事例においては、報告書では親会社の関連と記述されているものの、条約締約国外に拠点を置く子会社によるものであった。債券・株で4770億ドルが保有され、融資と証券引受で3430億ドルが[核兵器製造企業に]供与されている。(原文へ)
INPS Japan
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