【ナイロビIPS=マイナ・ワルル】
世界保健機関(WHO)アフリカ支部とそのパートナーらは2023年、科学誌に25本以上の査読付論文を発表した。研究活動の世界的な不均衡を正し、保健分野の科学研究でアフリカの代表性を高めることが狙いである、と最新の報告書は述べている。
WHOは「感染症・非感染症分野における保健サービスの普遍的利用促進」(UCNクラスター)プログラムを通じて、保健政策の課題や疾患に関する多くの成果を発表した。たとえば、ウガンダやマラウィ、タンザニア、ガーナ、ナイジェリアなどの国々での動物由来感染症のリスクや、アフリカでの疾患の負担を緩和する公共保健のアプローチがテーマだ。
WHOアフリカ支部長のマツィディソ・モエティ博士は、「こうした研究はアフリカに不可欠です。」と語った。
「世界的に見れば、アフリカ地域は疾患の悪影響を最も被っています。貧困によって状況はさらに悪化しますが、コロナ禍以前の10年間は、貧困は減少傾向にありました。しかしコロナ禍だけが理由ではなく、2020年から22年にかけての一連の深刻なショックによって、状況は再び逆転しています」とモエティ博士は語った。
「気候変動、世界的な不安定、経済成長の鈍化、紛争といった大きな脅威があります。このため、私たちWHOアフリカ地域事務局は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジに向けた保健システム強化のアプローチを用いて、『誰一人取り残さない』という2030年アジェンダの中心的な約束に焦点を当てることが、これまで以上に重要になっています。」
4月に公表された『アフリカにおける疾患の根絶:感染症・非感染症対策2023』によると、WHOの科学者らは『社会科学・人文学オープン』誌を含めた評価の高い学術誌に論文を発表し、世界全体で2%と推定されるアフリカからの科学研究発表の底上げに一役買うことができたという。
これらの研究は米国のPublic Library of Science(PLOS)を含めたオープンアクセス誌に投稿され、世界中の科学者や市民が無料でアクセスすることができる。
『ナイジェリア寄生虫学雑誌』のようなアフリカで出版されている科学誌に加えて、地域での出版支援はアフリカの科学向上に役立ち、その延長として世界的な研究の不均衡是正にも資することになろう。
「科学技術の進歩を創造し、獲得し、翻訳し、適用する国の能力は、その国の社会経済的・産業的発展の主要な決定要因である。アフリカの現在および将来の健康上の課題の多くは、効果的な疾病予防とコントロールに向けた集団ベースのアプローチに関する研究を実施し、それを政策と実践に反映させることによってのみ対処できる」と上記報告書は序文で述べている。
「アフリカでは他の地域よりも疾患による社会への影響が大きいが、世界全体の研究に占める割合は、2000年で0.7%、2014年で1.3%、最近でも推定2%にしか過ぎない。これに対して、UCNクラスターとそのパートナーらは、2023年に査読論文25本以上を刊行した。研究活動の世界的な不均衡を正し、アフリカの代表性を高める取組みの一環だ」。
ガーナでは、WHOが皮膚潰瘍の発生について調査する「地域を基盤とした分野横断的研究」を実施した。『PLOS One』誌で発表された知見において、さまざまな皮膚疾患に関する情報を共通の研究プラットフォームで統合する重要性を示した。またタンザニアでは、本土における地域を基盤としたマラリア対策を導出するため医療施設のデータを定期的に集める「時空間モデル」の構築がなされた。
WHOアフリカ支部の言及する論文の一部は、アフリカ大陸におけるエビデンスを基にした臨床的、公共保健的な対応の採用及びその実行を成功させるために実施された「実証研究」の例だ。
その中には、アンゴラにおける「顧みられない熱帯病」(NTDs)、住血吸虫症、土壌伝染蠕虫駆除のための学校ベースの予防化学療法プログラムの影響評価が一例として挙げられる。この例の場合、使用された医薬品はこれら疾患の抑制にほとんど効果がなかった。これらの知見はPLOS Neglected Tropical Diseases誌に掲載されている。
「このことは、地域全体での疾患抑制プログラムの経験を伝え、考慮するにあたって、個人やコミュニティ、環境の要因を包括的に理解する必要性を指し示している。」とこの研究は結論している。
シュプリンガー・ネイチャーの『マラリア・ジャーナル』は、マラリア関連の発熱をしたマラウィの子どもたちの親がどのように治療を求めたかに関するこの研究チームの調査結果を刊行している。研究では、社会経済的な状況があまりよくなく、医療機関から遠い地域に居住する人々に対して、いかに対象を絞った医療的対応ができるかを記述している。
ナイジェリアでは、UCNクラスタープログラムが開発した地域における住血吸虫症データ分析ツールを用いた研究が、戦略的計画策定目的でこのツールが有用であることを強調している。この疾病を抑えるためにアフリカ全体で利用できるツールだ。住血吸虫属が急性及び慢性の寄生虫病の主要な原因となっている。
保健政策・保健システムの研究の目的は、「集団的な保健目標」がいかにして達成しうるかをよりよく理解することにある。このことは、経済学・社会学・人類学・政治学・公共保健学などさまざまな学問分野を通じてなしうる。
こうした学術誌の一つが、エルゼビアの発行する『社会科学・人文学オープン』誌である。アフリカ大陸における感染症蔓延の50年を検討し、協調的な公共保健政策によって蔓延が防げるだけではなく、疾患への備えと予防行動に関する重要な教訓を引き出せる、としている。
きわめて重要なことは、専門家が「知識の翻訳作業」を行っていることだ。すなわち、保健システムを強化し健康を改善する上で、世界及び地域でのイノベーションの利益をもたらすために、さまざまな主体が知識を応用するということだ。
「アフリカに関しては、知識の翻訳作業とは土着化のことである。つまり、地元の観点やアプローチを取り入れ、その政策的な介入の影響に関して社会的、文化的、政治的、環境的、保健システム的な状況の効果を考慮に入れるということだ。」
2023年、UCNクラスターは、アフリカ地域の人口の約44%が罹っていると言われる口腔疾患などについて、世界の知識を翻訳し、土着化させた。
この文書によれば、アフリカは「この30年で世界の中でも最も口腔疾患の増加率が高い」という。実際のところ治療コストは「きわめて低い」。疾患抑制に関する最新情報の共有が必要なゆえんだ。
この報告は、科学研究とは別に、モーリシャスが禁煙対策に関するWHOのパッケージをアフリカで完全実施した初の国になったことを報告し、同時に、WHOアフリカ支部がコートジボワール・ケニア・ジンバブエで乳ガン・頸椎ガンの発見・治療・ケアを支援する取り組みを開始した、としている。
同様に重要なことは、WHOアフリカ支部が、ナイジェリア政府と協力して、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンを定期的なワクチン接種のスケジュールに入れ込んだことだ。700万人以上の女児を対象としており、アフリカでの1回のHPVワクチン接種としては最大の数となる。
2024年1月にこの3年間で住血吸虫症の発症ゼロを記録したアルジェリアでのサクセスストーリーや、アフリカで3番目のマラリア撲滅国と宣言されたカーボベルデも印象的である。(原文へ)
INPS Japan/IPS UN Bureau
This article is brought to you by IPS Noram, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.
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