【米ペンシルバニア州ハリスバーグIPS=ジョナサン・グラノフ】
国連総会は全ての加盟国に対して、9月26日に開催予定の「核軍縮に関する国連総会ハイレベル会合」に最も高い政治的レベルで参加するよう招請している。これは核軍縮をテーマにした会合としては、史上初めてのことである。また人類は今日ほど「危機」と「チャンス」が混在する瞬間に立ち会ったことがない。
「危機」というのは以下の構図である。つまり、世界の圧倒的多数の国々が、「核兵器禁止条約」、或いは、国連事務総長が提案している「核廃絶達成のための法的枠組み」に向けた交渉開始を支持しているにもかかわらず、世界の核兵器の95%以上を保有している米国とロシアが、こうした未来に続く合理的な道筋を支持していない現状である。このため、核軍縮に向けた動きは、予備交渉の段階から焦点を欠いてしまい、遅々として進んでいない。
他方、「チャンス」というのは、(米ソが核戦力を競って激しく対立した冷戦時代と異なり)インドとパキスタンを除いて、核兵器保有国の間で実質的な敵対関係が存在していない現状である。
近年、(核軍縮への)期待を呼び起こす美辞麗句や賞賛の声が頻繁に聞かれるようになった。しかし新たな危機が起こるごとに、核軍縮義務への関心が押し流されるという悪循環を繰り返している。その結果、すぐにでも何か実質的な進展がなされなければ、核軍縮に対する不信感が、伝染病のごとく人々の意識に蔓延しかねない危険がすぐそばまで迫っている。
実は多くの国連加盟国がこのことを良く理解している。だからこそ、各国は昨年の第67回国連総会において、「核軍縮に関するハイレベル会合」を今年の第68回総会で招集する決議A/RES/67/39を採択したのである。
中国とインドは、核兵器の普遍的禁止の交渉入り支持を表明しており、パキスタンもそれに続くとしている。一方、フランス、米国、英国、ロシアは、核兵器の法的禁止を交渉する予備的措置を採ることにすら公然と反対している。
これらの核保有国は、まずは、米ロ間で合意した第四次戦略兵器削減条約(新START)プロセスを前進させるとともに、包括的核実験禁止条約や兵器用核分裂性物質生産禁止(カットオフ)条約を発効させるなどの漸進的措置を採ることに、他の課題に優先して集中すべきだと主張している。さらに核兵器保有国の外交官らは、普遍的で非差別的な核兵器の禁止は、こうした漸進的措置の追求から焦点を逸らしその効果を減ずるものだとすら主張している。
しかしこうした核兵器保有国が主張する漸進的アプローチのみを採ることに伴う問題は少なくない。第一に、米国議会上院が近い将来、包括的核実験禁止条約を批准する望みはほとんど皆無に等しい。また、核実験禁止を核軍縮に向けた前進の一環とする考えは米国内では支持されておらず、それを推進する力は弱々しいと言わざるを得ない。
また、核兵器の普遍的禁止を達成することから得られる有益性を実証することなく、米軍に制約をかけるべきだと主張するのは困難だろう。結局、説得力を欠く主張は、たとえ政策に反映されたとしても一貫性のないものになりかねないのである。こうした格好の事例を、新STARTの批准に向けたオバマ政権の政策に見て取ることができる。つまり、一方では(ロシアとの核軍縮を進める)条約を支持しておきながら、他方で核戦力とインフラ「近代化」のために数千億ドルという費用を計上しているのである。
第二に、カットオフ条約の交渉が、コンセンサス原則で機能しているジュネーブ軍縮会議(65か国で構成される多国間交渉をする唯一の常設軍縮会議)で行われている問題である。つまり1か国でも反対すれば、交渉プロセスが常に頓挫するリスクがあるということだ。事実、ジュネーブ軍縮会議では10年以上にわたって議題を設定することすらできていない。この欠陥を利用する加盟国が少なくないことから、ここでの前進はないだろう。
第三に、ロシアと米国の二国間のリーダーシップに期待することは愚かだと言わざるを得ない。核弾頭を通常兵器に置き換え新兵器が旧来からの任務を満たすとされる「通常兵器による迅速なグローバル打撃(CPGS)」構想や、技術的な突破があれば矛にも盾にもなりうる「弾道ミサイル防衛」構想、さらに、ロシアが条約で禁止することを求めている宇宙空間への兵器配備といった、米軍が推進している安全保障上の争点に関して、米ロ間の見解の相違が解消されない限り、ロシアは次の新START交渉には臨まない姿勢を鮮明にしている。
しかしこうした問題は、米軍内に安全保障において米国の支配的な地位を常に確保したいと望む一勢力が存在するため、容易には解決できないだろう。ロシアが脅威を感じている限り、核軍縮で前進は望めそうにない。
しかし一方で、化学兵器禁止条約という普遍的条約を通じてロシアと米国が合意してシリア問題における前進を見、全ての関係国の安全が確保されたという事態は、核兵器禁止への前進にも示唆するところが大きい。核兵器が化学兵器の使用ほど恐ろしいものではなく、より正当なものだなどと主張する者など、きっと誰もいないだろう。
また想像してみてください。もしラテンアメリカ、アフリカ、東南アジア、中央アジア、南太平洋の5つの非核兵器地帯を構成する114か国の首脳らがこぞって「私の国は、非核兵器地帯に位置することで恩恵を享受していますが、依然として核兵器を保有する国家によって脅威を受け続けています。今こそ世界全体を非核兵器地帯とすべきです。」と主張したらどうなるだろうか。
そうすれば、軍縮問題を本来あるべき日の当たる場所へ押し上げるという必要な行為が現実のものとなるだろう。
あるいは想像してみてください。もしこのハイレベル会合の声明で「私たちは、核兵器の脅威が消えるまで、毎年『軍縮に関するハイレベル会合』を開催していく。」と述べたらどうなるだろうか。或いは、もし大多数の国連加盟国の首脳が、「ジュネーブ軍縮会議、あるいは、その他の適切かつ効果的な場において、できる限り早期に」予備交渉を開始することを支持し、「このプロセスへの完全参加を約束する」と述べたらどうなるだろうか。
こうした圧倒的多数の国連加盟国による核軍縮前進を訴える呼びかけは、大きな反響を呼び覚ますことになるだろう。なかでも世論の心情にとりわけ訴えかける声明は以下のようなものであろう。
「私たちみなの生活をより安全にするために必要な、グローバルな公共財が存在する。すなわち、テロやサイバーセキュリティ―、金融市場の安定化、移行期にある国々の平和的な民主化の問題等で世界の国々が協力し合うことは、大きな価値がありきわめて重要なことである。また、文明の生存そのものが、人類が依存している気候や海洋、森林、あらゆる生命システムを保護するという、また別のグローバルな公共財を確保するために、いかに協力していけるかという点にかかっている。」
「私たち人類には、こうした新たな諸課題に取り組んでいくために、自らの生存をかけて、これまでとは異なるダイナミックな方法で協力し合っていく責務がある。これほどまでに、平和と共通目的という精神において相違を解消していくことを強く私たちに求めるものはないだろう。何が共通のもので善であるかを真剣に述べることを考えるならば、核兵器を保有したりその使用の威嚇を行ったりすることが、非合理的で社会を機能不全に陥らせるものであり、すぐにやめなければならないことがわかるだろう。」
「私たちは同じ空気を吸っており、それを協力の精神によって浄化するか、それとも恐怖と脅威によって汚すかは、私たちの行動にかかっている。私たちは、現在および将来の世代のために協力の精神において成功をもたらす決意である。そしてこの精神は、核兵器を今こそ非難し廃棄することを私たちに呼びかけている。」(原文へ)
※ジョナサン・グラノフは、グローバル安全保障研究所所長、ワイドナー大学法学部の客員教授(国際法)
翻訳=IPS Japan
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