【ジュネーブ/ソウルIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は7月28日、北朝鮮で脱北に失敗した女性に対する拷問、性的虐待が横行していると告発する報告書「北朝鮮で収監されている女性に対する人権侵害:私は今も苦しんでいる…(I still feel the pain…)」を発表した。
報告書は、北朝鮮から逃れたあと2009年から19年にかけて本国に連れ戻され、その後再び脱出することができた女性100人余りに対して北朝鮮国内での状況について聞き取り調査を行ったものである。女性らは北朝鮮の拘禁施設に収容された際に、個別・集団で受けた様々な虐待について証言した。
報告書はまた、北朝鮮が建国から75年を経過した現在も閉鎖社会のままである点を指摘した。北朝鮮では当局による公式な許可なして国外に出ることは、国内法の規定で犯罪とされており、違反者は危険な逃避行中に虐待や逮捕、強制送還されるリスクが高い。
2014年には北朝鮮における人権に関する国連調査委員会が、同国に強制送還された北朝鮮国民に対する当局による人権侵害が、組織的かつ広範囲に横行しており、人道に対する罪に該当すると非難している。
ミシェル・バチェレ国連高等弁務官は、「生きていくために北朝鮮を逃れたにもかかわらず、強制送還され処罰された女性たちの証言を読んで心が痛みます。これらの女性たちは、しばしば搾取や人身売買の犠牲となっており、本来ならば保護されてしかるべき人々です。ましてや、犯罪者として収監されてさらなる人権侵害に晒されるべきではありません。彼女たちには、真相が解明され、正義がなされ、補償が支払われる権利があります。」と語った。
北朝鮮政府は国民の海外渡航を禁止しているが、仕事や新天地を求めて脱北という危険に満ちた選択する女性が後を絶たない。
しかし脱北者はしばしば逃避行中に、人身売買業者の手に落ち、奴隷労働や性的搾取、中には結婚を強制されるケースも報告されている。
女性たちは北朝鮮に強制送還されると、今度は北朝鮮当局に拘束され、国際的な手続き基準を満たしていない裁判審理を経るか、或いは、しばしば裁判さえ開かれないまま、懲役刑に処せられている。
今回の報告書により、北朝鮮当局に引き渡された脱北者のなかでも、とりわけ「裏切り者」の烙印を押された人々(韓国への亡命を試みたり、キリスト教団体へのコンタクトをとったりした人物がたびたび対象となる)が組織的に罰せられ、様々な人権侵害を受けていることが明らかになった。
中国に脱北して強制送還されたある女性は、帰国後に目の当たりにした恐ろしい経験について証言している。
「私は予備調査官に警棒で殴られたり蹴られたりしました。とりわけ国家保衛省での扱いは過酷なものでした。もし中国滞在中に韓国系の教会を訪れていたことが判明すると、それはすなわち死を意味しました。そこで私は中国滞在中の足跡について極力語らないように努めたため、結果的に激しく殴打されることになったのです。虐待の勢いはあばら骨が折れるほどで、今でも痛みが癒えていません。」と、この女性は語った。
またこの女性は、混雑し不衛生な環境のなかで男性警備員に常に監視される拘禁所の非人道的な実態について語った。
収容者らは、衛生状態が悪く、日光もほとんど当たらない空間に押し込められ、十分な食料も与えられず、女性に必要な生理品や衛生施設へのアクセスも拒否された。そのため、だれもが栄養失調に陥り、中には生理不順に苛まれる収容者もいた。
「私が収監されている間、5、6人が死亡し、そのほとんどが栄養失調によるものでした。」と、別の女性が国連人権委のスタッフに語った。
収監された女性たちは、割り当てられた重労働のノルマを達成できなかったなど様々な理由で、常に殴られるか拷問を受けていた。
聞き取り調査に応じた女性たちは、拘禁施設において全裸で身体検査を強制されたことや、看守による性的暴行を経験したり目撃したりしたこと、さらには、看守らが、妊婦を対象に虐待や重労働を課して堕胎に追い込んだ事例について証言した。
報告書の執筆者らは、「彼女たちの証言内容は、国際人道法が求める順守義務に北朝鮮が違反していることを示している。」と語った。
バチェレ人権高等弁務官は、「これらの証言は、北朝鮮では人権侵害が横行している事実を改めて示しており、このような犯罪に対して十分な説明責任を果たすための道筋を模索し続ける必要があります。国連人権局は、罪に対して責任を追及するプロセスを明らかにするために、今後も可能な限りこの種の証言を集めてまいります。」と語った。
報告書は、結論部分で、各国政府に対して、国内の監獄制度を国際規範・基準に合わせるよう呼びかける一連の勧告を行っている。
また報告書の勧告の中には、すべての市民が北朝鮮に自由に出入国でき、同国へ帰還したいかなる者も、収監されたりその他の処罰に問われたりしない基本的権利を保障するよう求めたものがある。
また報告書は、各国政府に対して、北朝鮮市民が本国送還された場合に深刻な人権侵害に直面すると信じるに足る十分な事由がある場合は、強制送還しないよう強く訴えている。各国政府はまた、人道に対する罪やその他の国際犯罪が北朝鮮でこれまで行われてきたか、或いは現在横行しているかについて調査するいかなるプロセスも支援するよう要請された。(原文へ)
INPS Japan
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