【国連(IPS)=タリフ・ディーン】
国連や反核活動家たちからの警告は、ますます無視できないものになっている。意図的であれ、偶発的であれ、世界はかつてないほど核戦争に近づいている。核保有国と非核保有国との間で起きている現在の争いや言葉のぶつかり合いがなされているロシア対ウクライナ、イスラエル対パレスチナ、北朝鮮対韓国においては、危機をさらに深刻化させている。
また、9月27日のニューヨーク・タイムズの報道によれば、ロシアのプーチン大統領は、核兵器の使用基準を引き下げる計画であり、ウクライナによる通常兵器での攻撃が「わが国の主権に対する重大な脅威」をもたらす場合、核兵器を使用する用意があると述べたという。
この新たな脅威は、先月ワシントンD.C.を訪れたウクライナのゼレンスキー大統領が、長距離ミサイルや、戦闘機および無人機の追加供与を要請したことを受けたものだ。
米国務省の政治軍事局によると、米国は2022年2月24日に「ロシアが計画的で、無差別で残忍なウクライナへの全面侵攻を開始して以来」613億ドル以上、2015年にロシアが最初にウクライナに侵攻して以来約641億ドルの軍事援助を提供してきた。
米国はまた、2021年8月以来53回にわたり、緊急の大統領権限(PDA)を行使し、自国の備蓄から総額約312億ドルの軍事援助をウクライナに提供しており、これらすべてがプーチンからの核の脅威を引き起こしている。
2017年にノーベル平和賞を受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」のメリッサ・パーク事務局長は、現在進行中の戦争に忍び寄る核の脅威は現実のものなのか、それとも純粋なレトリックなのかと問われ、IPSにこう答えた。「現在、冷戦以来最も核戦争のリスクが高まっています。ウクライナと中東の核保有国が関与する2つの大きな戦争があり、ロシアとイスラエルの政治家が核兵器の使用を公然と脅している。」
パーク事務局長は、核保有国間の地政学的緊張が高まっていると述べた。「それは、ウクライナに対する西側の軍事支援をめぐるロシアと米国の間だけでなく、米国が中国を包囲する同盟ネットワークを構築を試みていることや、台湾への支援をめぐる米国と中国の間でも緊張が高まっている。ただし、幸いにも、米国と中国からは、核による明白な脅威は聞こえてこない。」と語った。
「しかし、西側諸国では、評論家や政治家たちの間で、ロシアがまだ核兵器を使用していないからといって、ロシアが核兵使用について本気ではないと主張する危険な傾向がある。恐ろしい現実として、プーチン大統領や、あるいは核保有国のいかなる指導者であっても、いつ核兵器を使用するかどうか、私たちには確かなことはわからないということだ。」とパーク事務局長は語った。
すべての核保有国が支持する抑止ドクトリンは、このような不確実性を生み出だしてしまう。パーク事務局長は、「我々は、何が事態をエスカレートさせ、制御不能に陥らせるかはわからない。」と指摘したうえで、「しかし、そうなった場合に何が起こり得るかはわかっている。核兵器が使用された場合、生存者を助ける能力を持つ国家は存在しません。」と、語った。パーク事務局長は、かつて国連でガザ、コソボ、ニューヨーク、レバノンに勤務し、オーストラリアの国際開発大臣を務め、戦争や兵器で罪のない人々に与える影響を直接目の当たりにしてきた。
アントニオ・グテーレス国連事務総長は、核兵器の全面的廃絶のための国際デーを記念し推進するハイレベル会合で演説し、核兵器は 「二重の狂気 」であると述べた。
最初の狂気とは、一度の攻撃で住民全体、地域社会、都市を一掃できる兵器の存在である。「核兵器が使用されれば、人道的な大惨事、すなわち悪夢が国境を越えて広がり、私たち全員に影響を及ぼすことを私たちは知っている。核兵器がもたらすのは、真の安全や安定ではなく、私たちの存在そのものに対する差し迫った危険と絶え間ない脅威だけなのだ。」二つ目の狂気とは、これらの兵器が人類にもたらす巨大で存亡に関わるリスクにもかかわらず、「10年前と比べ、廃絶することに近づいていない。」とグテーレス国連事務総長は指摘した。
「実際、私たちは完全に間違った方向に向かっている。冷戦の最悪の時代以来、核兵器の恐怖がこれほど暗い影を落としていることはない。」「核による威嚇は最高潮に達している。核兵器使用の脅威さえ聞かれる。新たな軍拡競争の恐れがある。」とグテーレス事務局長は警告した。
一方、通信社の報道によると、ロシアは米国の核態勢の変化と、西側諸国がウクライナの戦争に何十億ドルも投入している動きに反応し、自国の核の「レッドライン」を引き直そうとしている。
先週、ロシアの安全保障理事会でプーチン大統領は、「核保有国によって支援された非核保有国によるロシアへの攻撃は、共同攻撃として扱われるべきである。」と発表した。
国際原子力機関(IAEA)のタリク・ラウフ前検証・安全保障政策部長はIPSの取材に対し、ロシアは事実上、NPT締約国や非核兵器地帯(NWFZ)に対して、従来から定めてきた安全保障の条件を再提示している、と述べた。
これは米国の政策と本質的に類似しており、ロシアは、非核保有国が他の核保有国と共同してロシアを攻撃しない限り、ロシアはNPTまたはNWFZ条約に加盟している非核保有国を核兵器で攻撃したり、攻撃すると脅したりすることはない、という内容である。
「現在、核兵器保有国である、米国、英国、フランスが、ウクライナが国際的に承認されたロシアの領土境界線内を攻撃するのを実質的に支援する代理戦争に突入しているのだから、ロシアがウクライナとそのNATO支援国に対して、ロシアの戦略的軍事基地を標的にしたロシアに対する長距離砲撃がロシアの核攻撃の引き金になり得ると警告したのは驚くべきことではない。」
さらなる質問に対し、パーク事務局長は、核保有国の9カ国(米国、英国、フランス、中国、ロシア、イスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮)すべてが核兵器を近代化し、場合によっては拡大しているとIPSに語った。ICANの調査によれば、これら9か国による昨年の核兵器関連支出が推計914億ドル(約14兆4千億円)に上っており、米国は他のすべての国を合わせたよりも多く費やしている。
これらの国はすべて、抑止ドクトリンを支持しているが、それは核兵器を使用する用意と意思があることを前提としているため、全世界にとって脅威となっている。
つまり、南アジアで核戦争が起きれば、25億人が死亡する世界的な飢饉につながるという調査結果もある。
良いニュースは、大多数の国が核兵器を否定し、核兵器禁止条約(TPNW)を支持していることだ。TPNWは、紛争に覆われた世界において、唯一の光明である。TPNWは2021年に発効し、国際法となった。ほぼ半数の国がこの条約に署名、批准、あるいは加入しており、今後さらに多くの国が批准する予定だ。
「近い将来、世界の半数以上の国がこの条約に署名または批准すると確信している。世界中の市民社会や活動家からの圧力や呼びかけが、TPNWの実現と、より多くの国々の参加を確保する上で重要な役割を果たしてきた。」とパーク事務局長は述べた。
核軍縮において国連が果たした役割について、また国連がさらに何かできることはないかとの質問に対して、パーク事務局長は次のように答えた。
第1回の国連総会で、核兵器の廃絶を呼びかけた。それ以来、核兵器禁止条約やTPNWだけでなく、核拡散防止条約(NPT)や包括的核実験禁止条約(CTBT)など、核兵器に関する主要な多国間条約を各国が交渉する場となっている。
グテーレス事務総長は、核兵器の容認できない危険性と、その廃絶の緊急性を強く訴え、道徳的、政治的に強力なリーダーシップを発揮し続けている。
国連軍縮部(UNODA)も重要な役割を果たしており、国連加盟国によるTPNWへの参加を支援し、促進している。今週の総会ハイレベル会合では、TPNWを正式に批准する国が増えるだろう。
「国連が核兵器廃絶のために力強い声を上げ続けることは不可欠であり、条約を支持するより多くの国が参加できるよう支援し、また、核兵器の使用を支持する核保有国とその同盟国に対して、その義務を果たし、核兵器とそれを支えるインフラを廃絶する必要性を喚起することが必要です。」とパーク事務局長は訴えた。
This article is brought to you by IPS NORAM, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.
INPS Japan/ IPS UN Bureau Report
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