INPS Japan/ IPS UN Bureau Report|韓国|民主主義は守られた

|韓国|民主主義は守られた

【ロンドンIPS=アンドリュー・ファーミン】

韓国の民主主義は健在である。尹錫悦大統領が戒厳令を敷こうとした際、国民と国会議員が団結してこれを阻止した。そして今、尹大統領はその権力乱用に対して責任を問われるべき立場にある。

プレッシャーを受ける大統領

尹大統領は、2022年3月の大統領選挙で対立候補の李在明氏に0.73ポイントの僅差で勝利し、大統領の座を勝ち取った。これにより韓国の二大政党のうちの一つ、中道右派の「国民の力」党が政治的復活を遂げ、もう一方の政党である「共に民主党」が敗北した。

この選挙戦では、尹大統領が若い男性たちの間で広がっていたフェミニズム運動への反発を利用し、さらにそれを煽る形で支持を集めた。2018年、韓国では著名人のセクハラ疑惑が明るみに出たことを受け、女性たちが声を上げ始め、MeToo運動が広まった。韓国は経済協力開発機構(OECD)における男女平等達成度が最も低い加盟国のひとつであり、女性の政治参加は下から3番目、男女間の賃金格差は最下位である。

女性の権利におけるわずかな前進にも過剰な反発が生じ、男性の権利を守ることを標榜する団体が次々と現れ、そのメンバーたちは、労働市場で差別されていると主張した。尹大統領はこうした層に訴えかけ、女性家族省の廃止を公約に掲げた。出口調査では、若い男性有権者の半数以上が彼を支持していた。

しかし、尹政権下で人権状況は悪化した。ジャーナリストへの嫌がらせや刑事処罰、労働組合事務所への強制捜査や指導者の逮捕、そして抗議活動の禁止といった市民空間の制限が相次いだ。メディアの自由も損なわれ、訴訟や刑事名誉毀損法が萎縮効果をもたらした。

しかし、2924年の国会選挙で与党「国民の力」が大敗を喫したことで、権力のバランスが大きく変化した。共に民主党とその同盟勢力は尹大統領を弾劾するために必要な3分の2の議席を確保するには至らなかったが、結果として、尹大統領は「レームダック」状態の大統領となった。野党が多数を占める議会は、主要な予算案を阻止し、政府高官に対する22件の弾劾動議を提出した。経済問題や汚職疑惑が続く中、尹大統領の人気は急落した。しかし、韓国の指導者にとっては残念ながらこれは目新しいことではない。

ファーストレディの金建希夫人は、贈り物としてディオールのバッグを受け取った疑惑や株価操作に関与した疑惑が浮上した。追い詰められた尹大統領は、驚くべき賭けに出たが、韓国国民に受け入れられるものではなかった。

尹大統領の決断

尹大統領は、12月3日の夜、国家テレビで驚くべき発表を行った。恥ずべきことに、彼は「親北朝鮮反国家勢力」に対抗するためにこの措置が必要だと主張し、彼を糾弾しようとする人々を、国境の向こうの全体主義政権の支持者であると中傷した。尹大統領は、与党「国民の力」の韓東勲代表、「共に民主党」の李在明代表、そして国会の禹元植議長を含む主要な政治家の逮捕を軍に命じた。

戒厳令の宣言により、韓国の大統領には広範な権限が与えられる。軍は令状なしで人々を逮捕し、拘留し、処罰することができ、メディアは厳しく統制され、政治活動はすべて停止され、抗議活動も広範に禁止される。

問題は、尹大統領が明らかに自身の権限を超え、違法行為を行っていたことだった。戒厳令は、侵略や武装反乱など、国家の存亡を脅かす異常な事態にのみ宣言できる。しかし、尹大統領に厳しい目を向ける政治的対立は、この条件には明らかに当てはまらなかった。また、国会は通常通り開かれるはずだったが、尹大統領は軍隊を配備して投票のために集まる議員たちを阻止しようと、国会の閉鎖を試みた。

しかし、尹大統領は、1987年に複数政党制の民主主義が確立される以前の独裁時代に戻ることを拒む多くの人々の決意を軽視していた。韓国国民には、明らかに腐敗した大統領を辞任させたばかりの経験もある。2016か17年にかけての「ろうそく革命」では、大規模な週次抗議活動が朴槿恵大統領への圧力を高め、弾劾と辞任、さらには汚職と権力乱用での収監に至らせた。

国民は国会前に集まり抗議活動を行った。軍が国会の正門を封鎖する中、議員たちはフェンスを乗り越えた。抗議者や国会職員は、重装備の部隊に対して消火器を手に対峙し、議員が投票できるよう国会を囲む人間の鎖を作った。最終的に190人の議員が国会に入り、全会一致で尹大統領の決定を撤回した。

正義を求めて

尹大統領は今、正義の裁きを受けなければならない。抗議者たちは彼に辞任を求め続けており、戒厳令を宣言した決定について刑事捜査も開始された。

最初の弾劾案は、12月7日の投票を阻止するために与党「国民の力」の議員たちが退席するという政治的な駆け引きにより頓挫した。彼らは尹大統領が自発的に辞任することを期待していたようだが、尹大統領は辞任する兆しを一切見せなかった。そして、12月14日に行われた2回目の投票では、12人の与党議員が弾劾案を支持し、弾劾案が可決された。この投票結果に、氷点下の寒さの中、国会の外で集まっていた数万人の抗議者たちから歓喜の声が上がった。

現在、尹大統領は職務停止中であり、韓徳洙首相が暫定大統領を務めている。憲法裁判所は、今後6ヶ月以内に弾劾手続きを行うことになる。世論調査によると、韓国人の大半は弾劾を支持しているものの、尹大統領は依然として自らの行動は必要だったと主張している。

守られた民主主義

韓国の代議制民主主義は、他の国々と同様、欠点がある。有権者は選挙結果に必ずしも満足するとは限らない。大統領が反対勢力の多い国会と協力するのに苦労することもある。しかし、不完全ではあっても、韓国国民は自国の民主主義を大切にしており、権威主義の脅威から民主主義を守る意思を示してきた。そして、もし尹大統領が正義を逃れることがあれば、再び団結して行動を起こすだろう。

幸いにも、尹政権による市民空間への攻撃は、市民社会の動員力や民主主義を守る能力が完全に損なわれる段階には至らなかった。最近の出来事や韓国の不確実な未来を考えると、尹政権によって課された市民空間の制限を速やかに撤回することが一層重要となる。民主主義の後退を防ぎ、それをさらに深めるためには、市民空間を拡大し、市民社会に投資することが不可欠である。(原文へ

アンドリュー・ファーミン氏は、CIVICUSの編集長であり、CIVICUS Lensの共同ディレクターおよびライター、さらに「市民社会の現状報告書(State of Civil Society Report)」の共著者。

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

関連記事:

ロシア、中国、北朝鮮の新たな接近は韓国に核武装を強いるのか?

アジア太平洋からインド太平洋へのシフトは誰のためか?

韓国は米国との同盟について国益を慎重に検討すべき

最新情報

中央アジア地域会議(カザフスタン)

アジア太平洋女性連盟(FAWA)日本大会

2026年NPT運用検討会議第1回準備委員会 

パートナー

client-image
client-image
client-image
client-image
Toda Peace Institute
IPS Logo
The Nepali Times
London Post News
ATN

書籍紹介

client-image
client-image
seijikanojoken