【ワシントンIPS=ジム・ローブ】
米国の外に住む人々が、米国民がしばしば海外の問題に疎いという疑問について答えを見出そうとするならば、3大テレビネットワーク(ABC、CBS、NBC)が2013年を通して何を報道していたかを見ることから始めたらいいかもしれない。
権威あるティンドール・レポートが発表した最新の報道年次報告によると、ほとんどの米国民にとって国内/国際ニュースの最も重要な情報源となっている3大ネットワークが2013年の間に取り扱ったイブニングニュースで首位を占めたのが、「シリア問題」と「有名人に関する報道」であることが明らかになった。一方、世界の大半の地域で起こった出来事は、ほぼ無視されていた。
海外報道に関してみると、ラテンアメリカ、欧州の大半、サブサハラアフリカ、南アジア(アフガニスタンを除く)、東アジア(中国と米国の地域最重要同盟国日本が対立を深めているにも関わらず)は、ほとんど報道の対象になっていなかった。ティンドール・レポートは、1988年以来、3大ネットワークで平日に放映されるイブニングニュース(夜の30分ニュース番組のうち約22分)の内容を統計にして蓄積している。
同レポートによると、集計対象としている3大ネットワークの国内/国際ニュースの年間合計約15,000分のうち、「シリア紛争と米国の軍事介入の可能性」を論じた報道が519分(全体の3.5%)で、年間で最も報じられたトピックであった。これに、チェチェン生まれの兄弟が昨年4月に3人を殺害した「ボストンマラソン爆破テロ」(432分)、「米連邦予算問題を巡る議論」(405分)、「医療保険制度改革(オバマケア)の欠陥を巡る議論」(338分)が続いた。
また他の国際ニュースとしては、12月の「ネルソン・マンデラ元南アフリカ共和国大統領の死去」(186分)、7月の「エジプトのムハンマド・モルシ大統領の追放とその直後」、「新ローマ教皇フランシス」(157分:ただし、ベネディクト16世前法王の退位と大司教による新教皇選出に関する報道121分は含まない)、「英王室にジョージ王子誕生」(131分)が続いた。
一方、米軍が引き続き関与している「アフガニスタン情勢」に関する報道(121分)は、「英国の新王子」に関する報道時間より10分下回った
ティンドールの創設者で発行人のアンドリュー・ティンドール氏はIPSの取材に対して、「『ローマ法王の交代』、『マンデラ大統領の死』、『ジョージ王子の誕生』にこれほど報道時間が割かれているのは、米国のニュース報道においてセレブリティージャーナリズム(celebrity journalism)が台頭しているからです。例えば、義足をつけた南アの陸上選手で恋人を殺害したと疑われている2流の有名人オスカー・ピストリウス氏に関する報道(51分)が、マンデラ氏が死去する以前の11か月におけるサブサハラアフリカ全体の報道時間の合計を上回っているのもその証左に他なりません。」と語った。
ピュー・リサーチ・センター(米世論調査団体)が発表したピープル&ザ・プレスのための最新調査では、2013年には国民全体の約3分の2がテレビを国内/国際ニュースの主要情報源にしていたという。この人数は新聞を主要情報源としている人々の2倍以上であり、近年伸びてきているインターネットを主要情報源としている人々の数と比較しても約33%上回るものである。
3大ネットワークの平日のイブニングニュースの視聴者数は、約2100万人にのぼる。メディアウォッチャーによると、近年、フォックスニュース、CNN、MSNBCといったケーブルテレビチャンネルの報道が3大ネットワークの報道よりも注目を浴びることがしばしばあるが、視聴者数は3大ネットワークには依然として遥かに及ばないという。
ピュー・リサーチ・センタージャーナリズムプロジェクトの調査分析専門家であるエミリー・グスキン氏は、IPSの取材に対して、「2013年、3大ネットワークの平日のイブニングニュースの視聴者数は、3大ケーブルテレビネットワークがゴールデンタイムに放送した最高視聴率番組の視聴者数の4倍以上にのぼりました。」と語った。
近年の調査結果同様、3大ネットワークは2013年の間も天候、とりわけ異常気象とそれが引き起こす天災関連のトピックに多くの時間を割いている。ただし、これも例年通りの傾向だが、異常気象と気候変動の関連を追及する報道はほとんどなかった。
また同レポートによると、「トルネードの季節」、「厳しい冬の天候」、「旱魃と西部諸州における森林火災」が、放送時間トップ6のうち3つを占めた。3大ネットワークは、「2012年に発生したハリケーン・サンディの影響」と含むこれら4つのトピックに、合計で年間報道時間全体の約6%にあたる900分近くを割いている。
ティンドール氏は「(米国の)テレビニュースジャーナリズムが抱える重大な欠陥は、異常気象に関する出来事が気候変動という包括的な概念と関連付けて伝えられていない点です。こうしたトピックが気候上の問題ではなくあくまでも気象上の問題として伝えられる限り、問題の性質が地球規模ではなく、国内或いは地域に限定した問題として扱われてしまうからです。」と指摘したうえで、「ただしフィリピンに甚大な被害を及ぼした台風30号(ハイヤン)(83分)は例外で、3大ネットワークが2013年中にアジア地域をカバーした最大のトピックでした。」と語った。
それとは対照的に、米国の多くの外交政策アナリストが2013年における最も憂慮すべき課題と指摘した「東シナ海における日中間の緊張の高まり」(米国は日米安保条約に基づき日本の領土を軍事的に保護する義務を負っている)については、年間でわずか8分しか報道されなかった。
なお、他の2つの外交課題「北朝鮮と不安定な金正恩体制」(プロバスケット選手デニス・ロッドマン氏の訪朝を報じた10分を含む87分)、「イランのハッサン・ロウハニ氏の大統領選出と核開発疑惑を巡る交渉」(104分)については比較的多くの報道がなされ、とりわけ「イラン情勢」については、「英国王子の誕生」とほぼ同程度の注目が払われていた。
「リビア」(64分)についても比較的多くの時間が割かれていたが、報道内容を見ると2011年9月に起こった米国大使と3人の大使館員が殺害された事件の責任を巡る国内の議論に終始していた。「ナイジェリアのイスラム系反政府武装組織ボコ・ハラム」や「中央アフリカ共和国における内戦と人道危機」については、全く報道されなかった。
ジョン・ケリー国務長官が「イランとの核交渉」と並んで外交の最優先課題に位置付けた「イスラエルーパレスチナ紛争」に関する放送時間はわずか16分に過ぎなかった。ティンドール氏はこの点について、「パレスチナは、2013年の米国のニュース報道からほぼ姿を消した。」と指摘した。
またティンドール氏は、ラテンアメリカに関する報道がほぼ不在であった理由として、スペイン語によるテレビネットワークが米国で広がってきている背景を指摘するとともに、「ラテンアメリカ関連の報道に関心がある視聴者は、おそらくスペイン語を話せるため、スペイン語テレビネットワークを利用しているのだろう。」と語った。
3大ネットワークが2013年に海外報道或いは米国の外交政策に費やした時間は合計4000分(報道時間全体の27%)で、過去25年の平均値を下回っていた。とりわけ米国の外交政策に関する報道時間は平均値よりさらに50%近く少ない1302分に過ぎなかった。
これについてティンドール氏は、米国の外交政策に関する報道がブッシュ政権(父・子)期に急増した一方で、クリントン及びオバマ政権期に落ち込んだ実例を挙げながら、「概して、外交政策関連の報道は、大統領が好戦的な時期に増える傾向にあります。」と語った。
ただし、米国家安全保障局(NSA)の元契約職員エドワード・スノーデン氏が暴露し米国内外に波紋を引き起こした、「NSAが米国民のメタデータや諸外国のリーダーの私的な通話やメール内容を傍受・収集していた問題」に関する報道時間は合計210分で、最も報道されたトピック第10位にランクインした。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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