ニュースモンロー・ドクトリンの復活?

モンロー・ドクトリンの復活?

【Global Outlook/London Post= ハーバードウルフ

就任の2週間前、次期米国大統領ドナルド・トランプ氏が、世界中を驚かせるようなトランプ氏らしい混乱した記者会見で、今後の準備すべき事態を示唆した。

就任までの期間は穏やかどころか波乱に満ちたものとなっている。その発言内容は劇的で、時には恐ろしいと感じられるほどだ。トランプ氏は、退任間近のカナダのジャスティン・トルドー首相を揶揄して「知事」と呼び、カナダが米国の51番目の州になるのは素晴らしいことだと述べた。また、デンマークからグリーンランドを買収し、必要であれば経済的圧力や軍事力を用いてパナマ運河を米国の支配下に置く意向を示した。さらに北大西洋条約機構(NATO)加盟国に対し、国内総生産(GDP)の5%を軍事費に充てるよう要求した。一部の政治家や安全保障の専門家、メディアは、その資金で何を賄うのかを問うことなく、この要求に反応している。せいぜい「そんな巨額の資金をどうやって調達するのか」という懸念が出る程度だ。

トランプ氏が強硬に表明した領土的要求は、モンロー・ドクトリンを彷彿とさせる。1823年、当時のジェームズ・モンロー大統領は、議会への年次演説で米国の外交政策の基本原則を述べた。19世紀には、主にラテンアメリカにおける欧州の影響力を抑えることを目的としていた。このドクトリンの核心は、「西半球」(北アメリカ、南アメリカ、中米)で支配的な役割を果たすという主張だった。それが善意の覇権であろうと、必要なら軍事介入によるものであろうとだ。このドクトリンは20世紀初頭に再解釈され、米国の領土拡張主義を正当化した。当初は欧州の介入を防ぐことが目的だったが、1904年とお05年に行われたセオドア・ルーズベルトによる改正では、米国の介入を正当化しました。その結果、ラテンアメリカは米国の「裏庭」と見なされ、米国はこの地域で何十回も軍事力を行使し、政府を転覆させ、都合の良い指導者を任命することを厭わなかった。

今、トランプ氏はこのドクトリンに名指しはしないものの、露骨にその内容を取り上げているのだ。

19世紀の砲艦外交に逆戻りする世界?

西側諸国がしばしば言及する「ルールに基づく国際秩序」は、もはや過去のものなのだろうか?トランプ氏はためらうことなく「力の論理」に依拠している。彼は法律の力に無関心であるどころか、司法や法の支配に嫌悪感を抱いている。米国大統領として、数々の訴訟で証明されるように米国の司法を悪者扱いするだけでなく、国際法にもまったく関心がないように見える。

トランプ氏がその発言をどれほど真剣に考えているのか、 米国が同盟国や友邦としてどの程度信頼できるのかは、推測の域を出ない。いずれにせよ、トランプは1期目の大統領任期中には主に国内向けだった「MAGAプロジェクト(アメリカを再び偉大に)」を、力ずくで推し進め、国際的な対立も辞さない構えのようだった。

トランプ氏の発言の真剣さを解釈するには、少なくとも4つの視点がある。おそらく、これら4つの要素がすべて絡み合っていると考えられる。

まず第1に、トランプ氏の発言とその政治は、彼のナルシシズムとエゴに常に特徴づけられている。選挙後2回目の記者会見で、トランプ氏は世界中の注目を集めた。カナダ、パナマ、グリーンランド、デンマークの政府が彼の荒唐無稽な領土的要求に対して明確に拒絶する反応を示した。さらに、中国、日本、韓国など世界中でその発言に困惑の声が上がった。しかし、まさにこの注目がトランプを喜ばせるのだ。同時に彼の息子がトランプ専用機でグリーンランドに到着し、その写真が世界中に広がることで、トランプは自分が権力の中心であると感じることができる。したがって、メキシコ湾も「アメリカ湾」に改名すべきだと提案。「なんて素晴らしい名前だ」と彼は語っている。

第2の解釈は、トランプの予測不可能で混乱した政治を指摘するものだ。トランプは劇的な措置を発表するのが得意だ。「米国とメキシコの国境に壁を建設し、費用はメキシコが負担する」と主張した。しかし壁は完成せず、メキシコも費用を負担しなかった。それでもトランプは露骨な脅迫やばかげた主張を続けるのをやめない。記者会見では「海中の風力発電が原因で鯨が狂い死ぬ」と発言。さらに、一部の地域ではシャワーや蛇口から「ポタポタと水滴が出るだけだ」と主張し、それはバイデン大統領の責任だと語った。このような繰り返される嘘、事実の否定、ばかげた主張、突拍子もない因果関係の主張、混乱したスピーチは、新たに就任する大統領の政策の核心的要素だ。したがって、これらは真剣に受け止めるべきだろう。

皮肉や風刺にとどまらない現実

第3に、脅迫や威嚇は、すでにトランプの第1期政権中からその政治手法の一部だった。貿易関税は中国だけでなく、同盟国や隣国に対しても脅しとして利用された。必要であれば、米軍はパナマ運河を支配下に置くために介入する可能性がある。それが米国の安全保障のために必要だと主張されている。欧州のNATO加盟国が支払いを止めるのであれば、ロシアの侵略者に任せるだけだというのだ。このような政策はしばしば結果を生みだすことになる。例えば、欧州で国防費に必要なGDP比率についての議論が進んだことが挙げられる。また、韓国では、米国がもはや保護機能を提供しない場合、さらにトランプ氏が金正恩(「リトル・ロケットマン」)と取引する可能性がある場合、どのように対応すべきかについて議論が行われている。中東では、ハマスがすべての人質を解放しなければ「地獄を味わう」ことになると脅されている。

第4に、この記者会見における粗雑なアイデアの寄せ集めの中で、最も恐ろしいのは帝国主義的な願望リストだった。記者会見中、記者たちが次期大統領に対して、もしパナマが運河を放棄しなければ(明らかに国際条約に違反して)、またはグリーンランドに対しても、実際に軍事力を行使するのかどうかを問いただした際、その答えは明白だった。「それを排除することはできない。我々の経済的安全保障のために必要だ―パナマ運河は軍事のために建設されたものだ」と述べた。軍事行使を排除するのかという再質問に対しても、同様に明確に「その約束はできない」と答えた。これは帝国主義的なレトリックだ。これは小さな隣国に対する砲艦外交である。これは強権政治である。これは国際法を無視する言語であり、ウラジーミル・プーチン氏で見られるものと同じである。そしてそれが「米国を再び偉大に(MAGA)」という理念の名の下で行われているのだ。

2025年1月4日、ニューヨーク・タイムズは記者会見を受けて次のように結論づけた。「19世紀末の米西戦争を主導し、フィリピン、グアム、プエルトリコを米国の支配下に置いたウィリアム・マッキンリー大統領の時代以来、米国の大統領当選者がこれほどあからさまに武力行使による領土拡大を脅迫したことはなかった。」

この混乱したアイデアと新植民地主義的脅威が実現すれば、現在の国際秩序は大きく揺らぐだろう。第1期政権時には、一部の顧問が明らかに危険で違法な行動を阻止したが、今回トランプは自らの意図に忠実な顧問たちで周囲を固めているように見えることが非常に懸念される。

ハーバート・ウルフ(Herbert Wulf)は国際関係の教授であり、ボン国際紛争研究センター(BICC)の元所長です。現在はBICCのシニアフェローであり、ドイツ・デュースブルクエッセン大学平和開発研究所の上級研究員、およびニュージーランド・オタゴ大学国際平和紛争研究センターの研究アフィリエイトを務めている。また、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の科学評議会のメンバーでもある。

注:この記事は戸田平和研究所(Toda Peace Institute)によって発行されたものであり、許可を得て原文から再掲載されています。
出典: https://toda.org/global-outlook/2025/back-to-the-monroe-doctrine.html

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