【ワシントンDC IPS=ラフル・アナンド、ディア・ヌールエルディン、スン・ゼシー、シン・シンディ・シュー】
強固な経済基盤と健全なマクロ経済政策により、韓国経済はここ数年で複数のショックを乗り越えてきた。しかし、他の主要な先進国と比べて潜在成長率の低下がより速く進行しており、今年の経済成長もやや鈍化すると見られている。
さらに、韓国は世界でも類を見ないスピードで高齢化が進んでおり、労働供給の減少や投資需要の縮小を通じて、成長の鈍化と生活水準の低下をもたらすおそれがある。
最新のIMF第4条協議報告書(Article IV Report)によれば、2050年までに韓国の労働人口は4分の1以上減少し、潜在成長率は年間平均0.67ポイント低下する可能性があるという。

しかし、希望はある。以下のような改革が、高齢化の悪影響を和らげる助けになる。
労働参加率の向上
とくに女性や高齢者の労働参加を拡大することで、労働供給の減少を抑えることができる。他の先進国の経験を踏まえたシナリオでは、高齢者の労働参加率が3ポイント上昇し、女性の参加率の男女差が半減すると仮定している。この場合、2050年までの高齢化の影響のおよそ5分の1を相殺できるとされる。
資源配分の効率化
産業内の企業間で労働力と資本をより生産性の高い企業に移動させる改革により、総体的な生産性の向上が見込まれる。こうした改革には、企業の設立・廃業に関する規制緩和、資金調達の円滑化、歪んだ補助金の撤廃などが含まれる。上位企業と下位企業の生産性格差が縮小する改革シナリオでは、潜在成長率が年間平均0.22ポイント上昇し、高齢化によるマイナスの約3分の1を打ち消せると分析されている。
人工知能(AI)の活用促進
AIのより広範かつ効果的な導入は、潜在成長率を支える要因となる。AIは経済に次の3つの経路を通じて影響を与える:
1.労働の代替:AIが一部の仕事を人間に代わって担い、生産性は向上するが労働需要は減少する
2.労働の補完:AIが一部の業務を補完し、生産性を高めつつ雇用を維持する
3.総合的な生産性向上:AIが全般的な業務効率を引き上げ、労働需要も増加する
IMFが韓国銀行との共同研究として発表した論文「Transforming the Future: The Impact of Artificial Intelligence in Korea」によれば、これら3つのチャンネルすべてでAIの導入が進んだ場合、潜在成長率は年間平均0.44ポイント押し上げられる可能性があるという。

最終的に、労働参加率の上昇、資源配分の効率化、AIの導入促進といった対策を組み合わせれば、高齢化による経済へのマイナス影響を完全に相殺することも可能だ。
改革を加速させることは、早期の成長実現につながるだけでなく、国民の支持を得る上でも効果的であり、将来のショックへの備えにもなる。さらに、政府が高齢化社会への適応に向けた財政的な余地を確保する上でも重要である。(原文へ)
※筆者紹介:ラフル・アナンド氏はIMF韓国担当ミッションチーフ。ディア・ヌールエルディン氏はリサーチ局エコノミスト。スン・ゼシー氏およびシン・シンディ・シュー氏はアジア太平洋局所属のエコノミスト。この記事は、IMFの2024年「韓国国別報告書」および韓国銀行と共同作成された「AIの韓国経済への影響に関する特別報告書」に基づいている。
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