【メルボルンLondon Post=マジッド・カーン】
イランとイスラエルの対立は、中東で最も危険かつ複雑な衝突の一つとして燻り続けている。全面的な通常戦争には至っていないものの、両国は秘密工作、サイバー攻撃、ドローン戦、代理勢力の活用、経済制裁、戦略的暗殺といった手段で敵対行為を繰り広げている。この「影の戦争」は、イデオロギー的憎悪と地域覇権争いに加え、列強の戦略的利害や世界の武器産業の影響によって形作られている。
イランの対イスラエル政策は、その革命理念に深く根差し、イスラエル国家を正当でないと見なし、パレスチナの大義を支持する姿勢を貫いている。イランはレバノンのヒズボラ、イラクやシリアの各種民兵組織、ガザの武装勢力などに武器や資金を提供し、地域全体に影響力を拡大してきた。こうした代理戦略により、イランはイスラエルと直接交戦せずにその地域的立場に挑戦している。

一方、イスラエルはイランによる包囲と影響力拡大を存亡の危機と捉え、先制抑止戦略を採用してきた。テヘランの軍事拠点やシリアを経由する補給線を狙った空爆を数百回実施し、ヒズボラへの武器移送を妨害しつつイランの軍事的足場を弱体化させている。サイバー攻撃(有名なStuxnetウイルスによるイラン核施設破壊)やイラン人科学者の暗殺も、イスラエルの封じ込め政策の要となっている。
直接対峙する両国以外にも、より広い関係者がこの衝突から利益を得ている。最たる例が米国と西側同盟国だ。米国はイスラエルとの数十年に及ぶ同盟関係を通じ、高度な兵器、情報、資金援助を継続している。イランの核開発への恐怖は、巨額の防衛予算や軍事援助パッケージを正当化してきた。
軍事支援にとどまらず、イランを地域の脅威と位置づけることで、米国は湾岸地域に軍事プレゼンスを維持しやすくなり、地域安定や対テロの旗印の下で影響力を強化している。NATO同盟国も表向きは外交を支持しつつ、イスラエルとの防衛協力を続け、フランス、英国、ドイツなどは武器協力を維持している。欧州企業も米国防需産業のサプライチェーンを通じて中東の緊張から恩恵を受ける。
同時期、湾岸アラブ諸国では地政学的な再編が進んだ。これまで根強かったイスラエルへの敵対感情は、イランの地域的な影響拡大への懸念を共有する中で、次第に和らいできている。そうした流れの中で、米国が主導したアブラハム合意により、イスラエルとの国交正常化が歴史的に進展した。
これらの新たな関係は象徴的な意味合いだけでなく、防衛や情報分野での実務的な協力にも広がっている。とりわけ、ミサイル防衛やサイバーセキュリティといった分野での連携が強化されている。UAEやサウジアラビアといった国々は、イスラエルとの協力を通じて自国の安全保障体制を強化しつつ、西側諸国との外交における発言力も高めている。

最も一貫して利益を享受しているのは世界の武器メーカーである。米国ではロッキード・マーティン、レイセオン、ノースロップ・グラマンといった大手防衛企業が、中東の不安定を収益増の要因として挙げている。イランのミサイル計画や核開発の脅威は、アイアンドーム、THAAD、パトリオットなどのシステムの配備・販売を正当化する根拠となり、危機の度に株価も上昇する。
この傾向は欧州企業にも及び、特定の部品や技術を中東同盟国に供給して恩恵を得ている。挑発→軍事対応→武器補充という循環が自己増殖的な需要を生み出し、強力なロビー団体やシンクタンクが脅威の物語を絶えず維持している。
サイバー面も新たな収益源となっている。イスラエルのテック企業や米国のサイバーセキュリティ企業は、イランの諜報やサイバー攻撃への防御を担い、市場を拡大している。
もちろん、衝突が純粋に営利目的だけで仕組まれたと断言するのは単純化しすぎだが、確かに一部のアクターは長期化に適応し、そこから利益を得ている。衝突が激化するたび武器販売は急増し、情報協力は深化し、戦略的同盟が再編される。一方、真の外交的解決努力は、平和が実現すると損をする勢力によって脇に追いやられることが多い。

米国と西側同盟国にとっては、防衛契約による経済的利益と同時に、中国やロシアとの地政学的競争を背景に中東で戦略的レバレッジ(影響力)を得る機会となる。湾岸アラブ諸国にとっては、イランへの対抗姿勢が西側との協力を深め、イスラエルとのかつて考えられなかった同盟を可能にする。ここでは軍事調達が単なる防衛手段ではなく、外交政策の重要なツールとなっている。
しかし、外交・軍事活動が目まぐるしく展開される一方、人的・経済的負担は甚大だ。イランでは制裁と防衛支出が経済を圧迫し、国民の不満を高めている。イスラエルでは常在戦場の脅威下で国民が暮らし、経済や国民意識にも軍備体制が影を落としている。地域全体ではシリア、イラク、イエメンの代理戦争が国を不安定化させ、数百万人が避難を余儀なくされている。
勝者は誰かと問われれば、答えははっきりしない。イスラエルは軍事的優位を保ち、精密攻撃やアラブ諸国との外交成果でイランの企図を挫いてきたが、常に非対称的報復の脅威と国際的批判に晒される。イランは広範な代理ネットワークを通じてイスラエルと米国の同盟国に圧力をかける一方、制裁や経済孤立、国内不安という大きな代償を払っている。
実のところ、イランもイスラエルも決定的勝利を収めていない。得るものは戦術的かつ一時的で、失うものは戦略的かつ持続的だ。もっとも顕著な勝者は外部のアクター、武器メーカー、地政学的権力ブローカー、そして衝突を利用して別の思惑を進める諸国家である。地域の人々は不安定と不安全、苦難に耐え続けなければならない。
軍拡の経済的誘因、戦略的ライバル意識、イデオロギーの固定化という根底要因が解決されない限り、イラン・イスラエル間の対立は続くだろう。この問題は地域紛争に見えて、実際には対立を優先させるルールが支配するグローバル化したゲームであり、戦争ビジネスが和平追求を凌駕しているのである。(原文へ)
INPS Japan/London Post
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