ニュース欧州には戦略的距離が必要だ──米国への盲目的同調ではなく

欧州には戦略的距離が必要だ──米国への盲目的同調ではなく

【ロンドンLondon Post=シャブナム・デルファニ博士】

スペインのペドロ・サンチェス首相は、「欧州の意思決定に対する米国の覇権を断ち切らなければ、我々は共に燃え尽きることになる」と警告した。これは誇張ではなく、ヨーロッパが自らの独立性を確保しなければ、ワシントンの無謀な外交政策に巻き込まれ、破滅的な結果を招くことになりかねないとの危機感に基づく発言である。現在進行中のイラン・イスラエル間の緊張は、地域戦争に発展する可能性をはらみ、ヨーロッパが米国の中東政策に過度に依存していることの危うさを示している。ヨーロッパがワシントンに過度に歩調を合わせれば、制御も利益も及ばない危機に巻き込まれるおそれがある。これは政治的脆弱性を露呈させ、大陸全体を火の海にしかねない。

イランとイスラエルの対立は、ヨーロッパが米国の政策に従属してきたことの危険性を浮き彫りにする典型的な事例である。ワシントンがイスラエルへの支持を一貫して強める一方で、外交よりも軍事的な手段が優先され、イランはヒズボラやフーシ派といった地域の代理勢力を動員して応じている。これにより、より広範な戦争へと発展する危険が高まっている。ヨーロッパは地理的にも経済的にもこの危機の影響を強く受ける立場にありながら、米国の方針に縛られ、独自の対応が難しい状況にある。

この構図は過去にも見られた。2015年のイラン核合意(JCPOA)を、トランプ政権が一方的に離脱した際、EUはこれを維持しようとしたが成果を上げられなかった。米国の制裁を回避してイランとの貿易を継続するために設立されたINSTEXも、アメリカの圧力に屈し、機能しなかった。現在の情勢下でヨーロッパが同様の受け身の姿勢を続ければ、過去の失敗を、さらに深刻な代償を払って繰り返すことになる。

すでに、米国に追随することによる代償は顕在化している。紅海での攻撃により、重要なエネルギー輸送路が脅かされており、イランを巻き込む広範な戦争が起きれば、ホルムズ海峡を通る石油輸送が遮断され、原油価格は急騰する可能性がある。これによりヨーロッパ経済の不安定化が進むおそれがある。南欧諸国では、ガザやレバノンからの難民流入への備えが求められ、各国の治安機関は、欧州がイスラエルの軍事行動に関与しているとの印象によって、国内の過激化が進む可能性を警告している。

一方で、EU内の分裂が対応を困難にしている。スペイン、アイルランド、ベルギーなどはイスラエルの軍事行動を非難し停戦を求めているが、ドイツなど一部の国は依然としてワシントンの立場を支持している。このような分裂により、ヨーロッパは統一的な外交力を発揮できず、地政学的な傍観者にとどまっている。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領はかねてから「戦略的自律性」の必要性を訴えてきたが、具体的な行動が伴わなければ、その主張は空疎なスローガンに過ぎない。ヨーロッパが真に地政学的な主体を目指すのであれば、ワシントンの軌道から脱却し、自らの利益を基準とした政策を構築する必要がある。

そのためには、米国が対決姿勢を強める場合であってもイランとの外交的対話を継続し、中東地域の安定とエネルギー安全保障の確保を図ることが求められる。また、イスラエルを含むすべての当事者に対して国際人道法の遵守を求めることで、原則に立脚した姿勢を内外に示すべきである。さらに、いくつかの欧州諸国が提案しているように、パレスチナ国家の承認を進めることで、中東における信頼と均衡を回復し、偏向しているとの見方を払拭する必要がある。

これらの措置は、NATOからの離脱や反米姿勢を意味するものではなく、ヨーロッパの経済安定、エネルギー安全保障、そして平和の維持といった基本的利益が、常に米国の政策と一致するとは限らないという現実を踏まえた冷静な判断である。

ヨーロッパはこれまで、イラクやリビアへの米国主導の軍事介入に加わってきたが、こうした関与は地域の不安定化、難民流入、テロの拡大を招く結果となった。そこから得られた教訓は重い。現在の中東情勢では、さらに深刻な危機へと発展する懸念がある。戦火は地域にとどまらず、エネルギー市場の混乱、ヨーロッパ経済の不安定化、社会の分断、さらには域内での暴力の発生につながる恐れもある。

スペインの首相による警告は、今まさに決断の時であることを突きつけている。ヨーロッパは、ワシントン主導の危険な路線に受動的に従い続けるのか、それとも独自の声と価値観、そして平和に向けたビジョンを持つ主権的な主体として歩み出すのか、重大な岐路に立たされている。時間は限られており、燃え広がる危機の炎は、すでにヨーロッパの足元に迫っている。(原文へ

INPS Japan/London Post

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