【国連IPS=マンディープ・ダリワル、國井 修】
世界の保健が大きな変革期を迎える中、連帯はかつてないほど重要性を増している。他国が約束から後退する一方で、日本は人間の尊厳と安全を優先する共有の未来に向け、揺るぎない投資を続けている。
日本は第9回アフリカ開発会議(TICAD)でこのビジョンを改めて確認し、アフリカ主導の開発を掲げる同会議において、若者の雇用とデジタル変革を議題の中心に据えている。こうした優先事項に沿って、国際協力機構(JICA)はアフリカにおけるインフラ、教育、イノベーション支援のため1億6000万ドルの債券発行を発表した。特筆すべきは、この取り組みが日本企業や金融機関に対し、アフリカ諸国とのパートナーシップや投資を呼びかけ、相互利益を追求している点である。
日本のグローバルヘルス分野におけるリーダーシップは、長年にわたり「共有する責任」と「連帯」の強い意識に支えられてきた。豊かな国々は、日本にならいパートナーシップを構築し、実証済みのイノベーションを拡大し、アフリカの持続可能な成長を後押しすべきである。
アフリカ主導の保健主権と日本の支援
このアプローチは、現地生産、デジタルヘルスの革新、気候に強い保健システムの構築といった分野で特に変革的効果をもたらし得る。これらの分野では、すでにアフリカ発の解決策が台頭しつつある。
ガーナのジョン・マハマ元大統領が主催した「アフリカ保健主権サミット」で採択された「アクラ・コンパクト」は、自国民の健康を決定する権限と主導権をアフリカ諸国自身が有することを確認している。
日本は10年以上にわたり、国連開発計画(UNDP)と連携し、保健技術の開発・提供を支援する「アクセス・デリバリー・パートナーシップ(ADP)」や「グローバルヘルス技術振興基金(GHIT)」を後押ししてきた。GHITは研究開発を促進し、UNDP主導のADPは各国や地域社会と協力して完成した医薬品や診断薬を導入・普及させる役割を担っている。
小児住血吸虫症治療薬の成功例
最近の成果の一つが、寄生虫による感染症「住血吸虫症」に対する新しい小児用治療薬の開発と普及である。同疾患は熱帯地域を中心に5000万人の就学前児童に影響し、貧血や発育不全、認知発達の遅れを引き起こす。
6歳以下の子どもでも小さな錠剤で治療可能となった。GHITと、ドイツ製薬大手メルクが主導する「小児プラジカンテル・コンソーシアム」が協力し、ケニアの製薬会社ユニバーサル・コーポレーション社(UCL)へ技術移転を実現。UCLは現地生産を開始し、地域社会に持続可能な治療薬供給を保障する体制を整えた。

アフリカで進む現地生産とデジタル変革
この現地生産へのシフトはアフリカ各地で加速している。セネガルからルワンダに至るまで、多くの国が診断薬やワクチン、医薬品の地域製造拠点となりつつある。
2024年にはダカールのパスツール研究所が新しい診断薬製造施設を開設。2023年にはルワンダがバイオエヌテックと提携し、アフリカ初となる可能性のあるmRNAワクチン製造施設を開設した。
同時にデジタル技術やAIもアフリカの医療システムの未来を形づくっている。6月にはAU加盟50カ国が、アフリカ疾病予防管理センターやWHOなどが共同開発したデジタル・マイクロプランニングツールを承認し、オンコセルカ症やデング熱といった顧みられない熱帯病の根絶加速に活用している。
こうしたツールの普及は、感染症流行への備えを強化し、災害時には封じ込めと大流行の分かれ目となり得る。アフリカのデジタル経済は2035年までに7120億ドル規模に成長すると予測されており、投資家にとっても強い誘因となっている。
日本の先行的取り組みと気候変動対応
日本はすでに先を行っている。近年、日本はガーナと協力し、同国4つの主要入国地点にモバイル検査室を設置してパンデミック対策能力を強化した。
さらに本年初めには、日本とコートジボワールが共同で、UNDPの「timbuktoo」イニシアチブを支援すると発表。これはアフリカの若手起業家を対象に、保健分野を含むスタートアップの育成を後押しする取り組みである。
また、気候変動の影響を最も強く受ける国々では、保健システムを強靭化する革新的なアプローチが試みられている。アフリカの主導的取り組み「アフリカ適応加速プログラム」は、すでに150億ドル以上を動員し、気候ショックへの備えを強化している。
UNDPや各国政府が連携した「Solar for Health」や「Smart Health Systems」といった共同プロジェクトでは、14カ国1000の医療施設に安定した電力を供給。これによりワクチンや薬剤の保存、照明確保が可能となっている。
共有の未来のために
気候変動の影響が保健システムに加速的に及ぶ中、こうしたプログラムを持続的に拡大していくことが不可欠である。投資の優先順位もそれに合わせて変わるべきだ。
日本が先導する今、他国も持続可能で公平、包摂的かつ相互利益に資する取り組みに資金を投じるべきである。それは単なる賢明な政策ではなく、私たちの未来を共有するための不可欠な課題である。(原文へ)
本記事は当初『日本経済新聞アジア版(Nikkei Asia)』に掲載されたものです。出典:UNDP
マンディープ・ダリワル(UNDP HIV・保健グループ ディレクター)、國井 修(グローバルヘルス技術振興基金 CEO・事務局長)
INPS Japan/IPS UN Bureau Report
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