【ポートランドIPS=ジョセフ・チャミー】
不安や懸念、警告にもかかわらず、生成系人工知能(GAI)と先進ロボティクスに依存するアンドロイド、すなわちヒューマノイド型ロボットは、人間社会の生活に急速に統合されつつある。この統合は、人類の未来に深刻な課題を突き付けている。
一部からは、GAIとロボットが既存の社会的偏見、ステレオタイプ、女性蔑視、差別を技術の発展過程で埋め込み、強化しているとの懸念も示されている。
近い将来、アンドロイドは労働の在り方や社会的交流、紛争解決、資源管理の方法を変えると予想される。しかし、その使用や人権、雇用、社会関係を保護するための指針、規制、手順はいまだ確立されていない。
成長
自動化の需要拡大、生産コストの低下、企業投資の増加を背景に、アンドロイドの活用は急速に進展している。生成系人工知能の飛躍的進歩が開発を加速させた。
21世紀初頭、世界の人間の人口は約62億人であり、アンドロイドはSF小説や映画の中にしか存在しなかった。2025年には人間人口が約82億人に増加し、アンドロイドの数は約1万体に達したと推計される。
2050年には、人間の世界人口は92億人、アンドロイドは10億体に達すると予測されている(表1)。

少子高齢化と人口減少に直面し、さらに移民受け入れに反対する国が多い中で、多くの政府や産業界、組織がGAIと先進ロボティクスを取り入れる技術に依存しつつある。
アンドロイドの成長を牽引するのは、巨額の投資、生産コストの低下、そして各国の熾烈な市場競争である。教育、娯楽、医療、製造業、家庭など幅広い分野で導入が進んでいる。
反応
人間社会の反応は大きく分かれる。多くの人々はAIを搭載したアンドロイドに複雑な感情を抱きつつも、その進展を「避けられないもの」と受け止めている。
日常的にAI技術を利用しながらも、雇用喪失や失業の拡大、悪用や乱用、監視の侵入、人間的つながりの喪失を恐れる声は根強い。
特に若年層の労働市場でアンドロイドとの競合が激化し、失業の拡大やテクノロジー依存の強化、格差拡大につながる可能性が指摘されている。
また、国ごとにAIへの受容度も異なる。21か国を対象とした調査では、ブラジル、中国、インドなどの途上国では肯定的な見方が多い一方、ドイツ、日本、米国など先進国では「肯定的」と答えたのは40%以下にとどまった(図1)。

さらに、2024年に行われたG7諸国での調査では、80%が「アンドロイドは雇用を奪う」と答え、70%が「社会的交流を支配するようになる」と懸念した。
加えて、60%はアンドロイドが人間に似ることに不快感を示し、その背景には「不気味の谷」効果があるとされる(図2)。

進展
ロボティクスとGAIの進歩により、「ソーシャルボット(Socibot)」と呼ばれるアンドロイドが登場している。これは友人のように寄り添い、対話できる社会的ロボットである。
国際ギャラップ調査では、世界人口の約5分の1が「昨日の大半で孤独を感じた」と回答。WHOによると、孤独や社会的孤立は世界で10億人以上に影響している。
ソーシャルボットは人間の感情を理解し、会話を行い、教育や介護、家庭内での役割を担うことを目指して開発されている。表情や感情表現も進化し、まさに「友人」となる存在へと近づいている。
一方で、軍事用の「ウォーボット(warbot)」も進化している。自律型兵器システムとして開発され、偵察、監視、狙撃探知、爆発物処理に利用されるほか、将来的には敵地で自律的に作戦を遂行する能力が強化されつつある。
完全自律型の「殺人ロボット」はまだ戦場で広く配備されていないが、開発は進んでおり、人間による制御を伴わない攻撃能力の拡大が懸念されている。
懸念
120か国以上と複数の団体(ヒューマン・ライツ・ウォッチや「ストップ・キラーロボット」キャンペーンなど)が、自律的に標的を選択・攻撃する戦闘ロボットの開発・使用に対する国際的禁止を訴えている。
しかし一部の政府はこれに反対し、「兵士の生命を救える」と主張。多くの軍用ロボットは遠隔操作や非武装用途であると説明している。
一方で「ロボフォビア」と呼ばれる不安障害を持つ人々もいる。アンドロイドの存在そのものを脅威や不気味さとして感じる人も少なくない。
また、GAIの発展は膨大な電力需要を伴い、国際エネルギー機関(IEA)は「2030年にはデータセンターの消費電力が日本全体の消費量を超える」と予測している。
利益を得る側は懸念を軽視しつつ、効率向上や労働力補完、生産性向上、ビジネス機会、安全性強化、娯楽、個人支援、友情などの利点を強調している。
ただし一部の専門家は「ヒューマノイド・ハイプ(過剰期待)」を警告し、ロボットが現実世界で必要な技能を習得するには、まだ数十年の研究開発が必要だとみている。
また、「終末論者」と呼ばれる人々は、GAIが人類の知性を超え、シンギュラリティに到達し、人間の制御を逸脱する危険を指摘。人類存続に壊滅的影響を与えかねないと警鐘を鳴らしている。
結論
GAIとロボティクスの進歩は、アンドロイドを社会に導入する流れを加速させている。その台頭は人類の未来に大きな課題をもたらす。
今後5年以内に、アンドロイドが過度に侵入的・破壊的となり、法律、金融、コンサルティングなどの初級職を大量に代替する可能性があると警戒する声もある。
孤独や依存、社会的つながりの喪失に対する懸念も広がる一方で、投資家らは利点を強調し続けている。
安全性、公平性、人権を重視した適切な規制と枠組みがない限り、アンドロイドが人間社会にどのように統合されるのかは不透明である。特に、子どもを含む人々が高度なGAIを備えたヒューマノイドにどう反応するかは未知数である。(原文へ)
ジョセフ・チャミーは国連人口部の元ディレクターであり、人口問題に関する多数の著作を持つコンサルティング人口学者。近著に『Population Levels, Trends, and Differentials』がある。
INPS Japan/IPS UN Bureau Report
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